俺は今、二人の山のように巨大な女の子たちに見下ろされている。
何故、こんなことになったのか。


  *


俺は営業で外回りをしていた。
この季節の外回りはつらい。レーザーのような太陽の光もサウナのような気温も、きっちり着込んだスーツには大敵でしかないからだ。
すでに俺はスーツの上着を左小脇に抱え、右手に持ったハンカチで汗を拭きながら歩いている状態である。ここいらの住宅地にはコンビニや喫茶店なんて気の利いたものは無く、木陰のある公園も無い。
せめて駅前まで行ければ…。

などということを考えながら歩いていた時、ふと、一人の女の子とすれ違った。
短い黒髪の女の子。元気ハツラツと言った言葉が似合いそうな感じだった。
顔もなかなかのスペックで、すれ違ったときツイ目で追いかけてしまったほどだ。

(かわいい子だったな…)

そう思いながら視線を前に戻し歩き続けようとしたとき、フラ…ッと意識が遠くなった。


  *


気が付いたらとてつもなく巨大な部屋の中にいて、俺は二人の山のように巨大な女の子たちに見下ろされていた。
どうやら俺は部屋の中の床の上にいて、この二人の巨大な女の子は床の上に座っている状態のようだ。
それなのに二人は山を見上げなければならないように巨大だった。

ふと、その巨大な女の子の片方が、さきほど町ですれ違った女の子であることに気づく。
巨大になっても、そのかわいらしさはかわらない。

いったい何が起きているのか状況はまったく呑み込めない。
わかっているのは、俺の周囲には俺と同じように彼女たちを見上げる人が何人かいて、みな同じように状況を理解できていないということだ。
俺たちは今、床に座る二人の巨大な女の子たちの間に立っている。
前後から挟み込む山のように巨大な存在は、その場から動くことをできなくさせていた。
ふたつのかわいらしくも巨大な顔が見下ろしてくることの凄まじい威圧感に、体は硬直したように固まっていた。

 ハル 「これって本物の人間ですよね?」

二人の巨大な女の子の片方、長いツインテールの女の子が口を開いた。
その声のあまりの大きさに、俺たちはみな耳をふさいで悲鳴を上げた。

 アスカ 「そだよ。ここに来るまでに捕まえてきちゃった」

あの時俺がすれ違った髪の短い女の子が言った。
巨大な声は聴きとるのがつらかったが、その言葉から、俺は彼女の手によってここに連れてこられたのだと知る。

 ハル 「もう使っても大丈夫なんですか?」
 アスカ 「もちろん。縮めるときに加工しておいたからちゃんと使えるよ」

短髪の女の子があっけらかんと吐き出した巨大な声の内容は信じがたかったが、その言葉を信用するならば俺たちはどうやら小さくされてしまったらしい。
そんなことがあり得るのか、という疑問は、すでに自分が身を以って体験しているこの現実が解決してくれた。
いったいどうやって、なんてことを考えるのは後回しだ。今はとにかく、この信じがたい状況をどうにかして打破することだろう。
しかし、いったいどうやって…。

 ハル 「ふふ、じゃあ早速始めちゃいますね」

巨大な声が轟き、その声のした方を見上げると、ツインテールの少女が、俺たちを見下ろしてニヤリと妖艶な笑みを浮かべるのを見た。
ゾクリと底冷えするような迫力の笑みだった。
まるで俺たちを、人間と思っていないような…。

とそのとき、そのツインテールの少女が、床の上の俺たちに向かって手を伸ばしてきた。
家さえも鷲掴みにできるような巨大な手が俺たちに迫ってくる。ゆっくりに見えたその動作も、俺たちにとってはあまりに早く、逃げる間もなく一人がその巨大な指に摘ままれて宙にさらわれて行ってしまった。
その指は太さだけでも摘ままれた人の身長ほどもある。あんなものに挟まれてしまったら自力で逃げ出すのは不可能だ。

ふと、今人を摘まみ上げたツインテールの少女が正座していた足を崩しひざを立てて右足を床におろした。


  ずっしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!!


瞬間、俺たちのいる床の上が激しく揺れ動き、俺たちは全員床の上に投げ出された。
まるで地震である。
揺れが収まったあと、地面に這い蹲っていた俺が痛む体を動かして顔を向けた先には、とてつもなく巨大な素足が踏み下ろされていた。
先ほど手が家をわしづかみできる大きさであったように、その足は家を踏み潰すことの出来てしまう大きさだった。俺たちの方を向いているあの巨大な足の指だけでも俺たちの身長ほどの太さがあるだろう。親指に至ってはそれ以上だ。
足だけでここまで大きいのか。改めて、彼女たちの大きさを感じる。

そのツインテールの少女は今、つまみ上げた人を目の前で観察しながらクスクスと笑っている。

 ハル 「それじゃあお願いしますね」

そう言った。
その後、人を摘まんだ指が再び床に降りてくる。
そのまま人を解放するのかと思いきやそうではなく、その人を摘まんだ指は床を踏みしめている巨大な足に近づいていき、摘まんでいた人を足の指の間に押し込んでしまった。
親指と人差し指の間に人を入れた後、手はその人を置き去りにして去ってしまう。
指の間に挟まれてしまった人は、正面からはまったく見えなくなってしまっていた。巨大すぎる足の指の間にその人の体は完全に埋まってしまっているようだ。

と思っていたら再び手がこちらにやってきて、また別の人を摘まみ上げていき、別の足の指の間に挟み込んだ。
少女の行為に気づいた人々が逃げ回ろうとする間に指はそんな人々を次々と捕らえ同じように指の間に入れていく。
結局、最初に挟まれた人を含め4人の人間がその巨大な足の指の間に挟まれてしまった。

 ハル 「次は左足ね」

巨大なツインテールの少女の巨大な言葉通り、今度は巨大な左脚が動き出し、右足と同じように膝を立てて床にズシンの踏み下ろされた。
その衝撃で人々はまた床の上に転がり込むことになる。
そうやって動きの止まった人々を、巨大な手があっという間に摘まみ上げていき、左足の指の間に押し込んでいく。
俺もその中の一人だった。
転倒したところを巨大な手の指に摘まみ上げられた俺は身動きもできない凄い力に挟まれたまま目も回るような超高速で移動させられたあと足の指の間に押し込まれた。巨大すぎてすぐにわからなかったが、おそらく人差し指と中指の間に挟まれている。
まさに俺の身長ほどもある指が俺の体を左右からぎっちりと挟み込んできた。身動きが取れない。締め付けてくる巨大な足指の凄まじい力に思わず顔が苦痛にゆがむ。

同時に凄まじい悪臭が鼻に飛び込んできた。
思い切り吸い込んでしまった瞬間、殺虫剤でも吹き込まれたのかという強烈な刺激がして鼻に激痛が走った。
強烈な酸味の刺激臭。あまりにも凶悪なそれがこの巨大な少女の足の臭いだと気づくのにそう時間はかからなかった。

俺を含め8人がこの巨大な少女の足の指の間に挟まれてしまった。
両膝を立てた少女はまるで体育座りみたいな格好になっている。俺が巨大な足指による締め付けと足臭に苦しみながらなんとか背後の上空を見上げると、そこにはこの巨大な脚の両膝の上に両手を乗せて、その上に顎を置いてニヤニヤと笑いながらこちらを見下ろしてくる巨大な顔が見えた。


なんとか足指に挟まれることを免れた数人は悲鳴を上げながら逃亡を開始したのだが、

 アスカ 「よっと」


  ずっどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!


もう一人の、あの短髪の巨大少女が、このツインテールの巨大少女を挟むように、両脚を左右にハの字に投げ出したせいでそれはかなわなかった。
全長70~80mほどはあろうかと言う、まるでビルのように巨大な脚が人々の行く手を遮った。
正面をツインテールの少女の巨大な足に、左右を短髪の少女の巨大な脚に、そして背後を短髪の少女の巨大な体にふさがれ、人々は全方位を巨大な少女の体で囲まれて完全に逃げ場を失った。
短髪の少女ははしたなくも大開脚しているせいでミニスカートの中のパンツが股間の前の人々から丸見えの状態だったがまるで気にしていないようだ。人々も、そんな少女を見ても変な気を起こす余裕などなかった。

小さくされ攫われてきた人々は、二人の少女の体の間に完全に閉じ込められた。
その圧倒的な巨大さと力強さを前に、わずかな隙間を見つけて逃げ出そうとする人は一人もいなかった。


突然、俺たちを挟む巨大な足が急上昇した。
一瞬、強烈なGが体にかかる。と思ったら今度は急降下した。と思ったらまた急上昇する。
ツインテールの巨大少女が、かかとを着けたままつま先だけを持ち上げ上下させているのだ。左右の足のつま先を交互に上下させパタパタと動かしている。
たったそれだけのことなのに、指の間に挟まれた俺たちには絶叫マシーン以上の凄まじい動きだった。体が高速で上下に10m近くも反復する。
体がガックンガックンと揺さぶられる。脳みそがシェイクされる。上下の感覚がわからなくなってくる。
臭いも伴って凄い吐き気がしてきた。しかしこんな揺れの中では、胃の中のものをこみあげようとする食道の動きすら機能しない。

 ハル 「臭いってどのくらいでなくなるんですか?」

俺たちを激しく揺さぶる少女ののほほんとした声が轟いた。
俺たちにとっては今までに経験したどんな大地震よりも激しい揺れを引き起こしているのに、当人にとっては顔色を変えるほどのことでもないらしい。

 アスカ 「あっという間だよー。臭いをギュンギュン吸収するようにいじっておいたから、だいたい1分くらいでとりおわるかな。あと小人が必死になるほど吸臭力が強くなるよ」
 ハル 「そうなんですか。じゃあたっぷりとイジメてあげるといいんですね」

ツインテールの少女の楽しそうな声が聞こえ、俺は全身の血の気が引いた。
足が高速の上下運動を止める。
直後、

  ギュウ…ッ!

俺たちを挟み込む巨大な足の指が動き、間の俺たちをさらに強く締め付け始めた。
少女が足の指を握り込んだのだろう。足の指の間からほとんど顔しか出せていない俺たちは、今にも押し潰されんばかりの凶悪な圧力に晒され悲鳴を上げた。
巨大すぎる足の指は肌色の大木だ。表面は硬いようで柔らかい。ミッチリと包み込まれてしまった俺たちは指一本動かせないほど窮屈な地獄の中にいた。
ギュウウ…。指がさらに締め上げてくる。俺と同じく指の間に挟まれる他の人の断末魔のような悲鳴が聞こえてきた。

 「ぐああああああああああ!!」
 「いやあああああああああ!!」

体を潰れるほど圧迫されて、酸素を悲鳴にされて吐き出させられているのだ。体の中のすべてのものを絞り出されそうな圧力である。

そんな俺たちの悲鳴を聞いて、まだ床の上にいる無事な人々は体を震え上がらせていた。

 ハル 「あははは。みんなかわいい声で鳴くんですねー。もっと聞かせてくれてもいいんですよ」

少女の声が轟くと同時、俺たちを足の指で締め付けたまま、つまさきが再び上下に動き始めた。強力な圧力に強力なGが加わった。左右からの圧力と上下の強力なGが、俺たちをこれでもかと痛めつける。
更に今度は横の動きも加わった。かかとを軸に、浮かせたつま先を左右に振り始めたのだ。ぶんぶんとうねりを上げて左右に高速で動く巨大なつま先に囚われている俺たちの首はガックンガックンと揺さぶられ、今にもポキッと折れてしまいそうだ。

 ハル 「へへ、えい」

ズドン! 凄まじい衝撃に俺たちの全身に激痛が走る。
横に振られていた足が何かに勢いよくぶつかったらしい。衝突の際の衝撃は自動車に激突されたようにすさまじかった。
何が起きたのかと思えば、少女が左右のつま先同士をぶつけ合ったのだ。

  ズドン!  ズドン!

何度もぶつけられ合うつま先。そのつま先の足の指に囚われる俺たちにとっては何度も何度も衝突する車の中にシートベルトで括りつけられているようなものだった。
これまでの強力なGや圧力とは違い、衝撃は体に直接のダメージとなる。つま先同士がぶつけられ合うたびに全身の骨が砕かれそうなほどの衝撃が来る。
と思えば今度は足の指をグニグニと動かして間に挟む俺たちの体をひねり始めた。こすれ合う足指の間でゴミのように丸められながら弄ばれる俺たち。たかが足の指が、俺たちにとってはこの上ない拷問器具だった。



暴力的に暴れる巨大な足の指の間で、ひとり、またひとりと悲鳴を途切れさせていく。
俺ももう限界だった。
そのとき、

 ハル 「もう動かなくなっちゃった。つまらないの」

そう言った巨大少女が、俺たちを捕らえていた足の指をグバッと開いた。
間に挟まれていた俺たちは突然あの万力のような指の檻から解放され、ドサドサと床の上に落下する。
しこたま体を打ち付けた俺は苦痛に顔を歪めたが、それ以上の苦痛の中から解放されたことから比べれば些細なことだった。

 アスカ 「あはは。そりゃハルちゃんが本気で遊んじゃったら小人なんか何秒ももたないでしょ。まだ動くだけマシじゃない」
 ハル 「それはそうですけど…」

二人の笑い声が間に囚われる俺たちを腹の底からビリビリと揺さぶる。
これまで床の上からハルの足を見上げていた人々は、その指の間から落下してきた、ピクピクと痙攣する人々を見てまた悲鳴を上げていた。

 アスカ 「そうそう、この子たちは吸臭性だけじゃなくて吸水性も強くしてあるから、汗なんかも凄く吸い取ってくれるよ」
 ハル 「あ。それはいいですねー。じゃあ早速試しちゃいましょう」

そう言ったツインテールの少女が手を伸ばしてくることに、気を失っていた人々を見て恐々としていた人々はすぐに反応することができなかった。
巨大な手が自分たちの頭上を埋め尽くすほどに接近してようやく自分たちの危機に気づいた人々は逃げる間も悲鳴を上げる間もなくまとめて摘まみ上げられ攫われていった。

3人ほどまとめて指に摘まんで持ち上げられていた。
巨大な指の面積と力は大の大人を数人摘まんでも余裕の大きさがある。

右手に人々を摘まんだツインテールの少女は左手でワイシャツのボタンを上からいくつか外すと、そこに右手を差し入れた。
右手はすぐに出てくる。しかしその指先にたった今まで摘ままれていた人々の姿はなかった。

 ハル 「脇の下に置いてきちゃいました。この季節って脇の下もかなり蒸れるんですよね」
 アスカ 「あーわかるわかる。Tシャツとか汗吸って色変わっちゃうと最悪で」

二人の巨人は再びおしゃべりを始めた。
楽しそうに笑うあの少女の脇の下に囚われの身となった人々は熱く蒸れて凶悪な湿度の肉の間に挟み込まれているに違いない。
ただでさえ蒸し暑いのに、そこにこの少女の体温と汗が加わるのだから最悪だ。溺れてしまうほどの凄まじい湿度だろう。

 ハル 「ん…もう、くすぐったいなー」

言いながら少女が左腕を動かし脇の下をこすった。
それだけの仕草でも、間の人々にとっては自分たちを挟み込む肉の壁がズリズリとこすれあう天変地異にも似た状況だっただろう。
きっと今の動作だけで、彼らは屈服させられてしまったはずだ。



「う、うわあああああああああああああああああ!!」

ここで、これまで震えながらもその場にとどまっていた、まだ無事な4人が、とうとう恐怖に耐えかねて逃げ出し始めた。
すでに前後左右を巨大少女たちの体で封鎖され逃げ道なんてないことはわかっているはずなのに、それでも逃げ出さすにいられなかったのだろう。

 アスカ 「あらら。走り出しちゃった」

短髪の巨人は、自身が大きく開いた脚の間で逃げ回り始めた人々を見下ろしてのほほんと言った。

 ハル 「小人って無駄なことしますよねー」

ツインテールの巨人はそんな彼らを見下ろし嘲るように笑った。

 アスカ 「ホントだよねー。あ、ハルちゃん、残りの小人も使っちゃっていいよ」
 ハル 「へ? アスカさんはいいんですか?」
 アスカ 「いいよいいよ。たっぷりイジメてあげて」
 ハル 「あはは、ハイわかりました♪」

悲鳴を上げて逃げ回る人々を、手を伸ばし愉しそうに追いかける少女。
彼らの背後から家さえも握りつぶすことの出来る巨大な手がゆっくりと追いかけ迫っていく。ことさらゆっくりと追いかけまわす巨大な手は、手が間近に迫ったことに恐怖した人々の悲鳴がより大きくなることを楽しむように、彼らの背後から頭上にゆっくりと忍び寄り、自身の作り出す黒い影で彼らを包み込み、彼らの悲鳴が最高潮に達したところで、その巨大な指でつまんで上空へと連れ去って行った。
一人ずつ、丁寧に嬲りながら。
ときに逃げる人の先に手のひらをドンと置いて進行方向をふさぎ、ときに逃げる人のそばに人差し指を突き立て彼を囲うようにぐるぐると円を描く。巨大な指が自分の周囲を高速で円を描くことに恐怖し発狂したかのような叫び声をあげたところでチョイと摘まみ上げられた。

4人全員掴まって手のひらに乗せられたとき、彼らは全員憔悴しきっていた。

 ハル 「さぁ、何して遊びましょうか♪」

手のひらの上から見上げる巨人の少女の顔は、床の上から見上げた時よりもはるかに巨大だった。
にんまりと妖艶に笑う口。見下ろしてくる目には嗜虐的な光が灯り、人間を見る目つきではなかった。
まるでおもちゃで遊ぶかのような…。

「ひ、ひぎゃああああああああああああああああああああああああ」

頭上からもうひとつの巨大な手がゆっくりと迫ってくる様に、彼らは断末魔のような悲鳴を上げた。






彼らがツインテールの巨人の手のひらの上で悲鳴を上げているとき、俺は床の上に這い蹲っていた。
先に彼女の足の指から落下して気絶した人の山の中にだ。
気絶したフリをしてなんとか機を見てこの場を脱出しようと思ったが、全方位を彼女たちの巨大な脚に囲まれている状況は変わらず、絶望的だった。
今の床の上には、意識のある人間は俺だけのようだ。無意味かも知れないが誰かと協力できたなら、と思っていたが、どうやらそれさえも不可能らしい。

とにかく何かをなんとかしなければ、と思い痛む体を少し動かした時だ。

 アスカ 「ん? 動いた?」

短髪の巨人が、こちらを見た。
驚愕した。ほんの少し、腕を動かしただけで察知されてしまうのか。いったいどんな視力だというのか。

直後、周囲が暗くなる。巨大な手が、俺の頭上に迫ってきていた。
俺は巨大な指にあっさりと摘まみ上げられ、上空に連れ去られてしまう。

 アスカ 「みんな気絶しちゃってたかと思ったけど、結構タフなのもいるんだね」

俺を目の前に摘まみ上げ、短髪の巨人が呟く。
最初、ミテクレはかわいいと思ったあの少女の顔は、今は視界に納まりきらないほど巨大になって目の前に存在している。
ぱちくりと瞬きをするその目だけで俺よりもデカい。俺のことをジッと見つめてくる綺麗だが巨大な目の威圧感に、俺はその目から目を離すことができなかった。

と、思っていたら突如俺を摘まんでいた指が離された。
俺の体が、自由落下を開始する。
あまりの唐突さに悲鳴を上げるのすら忘れてしまった。
巨大な顔が、急速に遠ざかっていく。

俺はそこに落下していた。
薄暗い隙間の奥。落下の途中左右の壁に体を何度もぶつけたが、やわらかな壁のおかげで痛みは無かった。
急激に湿度が上がる。
いったいここは…。

そのとき、俺の落下した隙間にあの短髪の少女の声が響き渡った。

 アスカ 「折角だしあたしもやっとこっかな。胸の谷間って結構汗かいちゃうんだよねー。よろしくねー小人クン」

壁の間とあって反響しまくりよく聞き取れなかったが、胸の谷間という単語だけははっきりと聞き取れた。
つまり言葉のとおり、俺は今、あの短髪の少女の胸の谷間にいるのか。ならば俺を左右からたっぷりと押してくるこれは乳房か。薄暗く全容は掴めないが、どう見ても普通の家屋より大きい。
あの短髪の少女は服の首元の生地を引っ張って俺を服の中に放り込んだのだ。そして胸板を転がり落ちた俺は胸の谷間に落ちていき、その乳房と乳房の間に飛び込んで挟まってしまった。
窮屈ではないがとてつもない弾力とハリのある乳房に挟まった下半身は、どうやっても抜けそうにない。
首元を開いていた指も抜かれ、俺の周囲はほぼ完全な暗闇となった。暗闇の中にひとり取り残された。蒸し暑く湿度が高い。だけでなく、少女の服の中とあってその匂いも濃密だ。蒸し暑さも相まって頭がクラクラしてくる。少女の香りと汗の香りと石鹸の香りが入り交じるカオスの世界に、たった独りだった。
耳をすませばこの少女の心臓の音であろうドックンドックンという重低音が聞こえてくる。あのときかわいいと思った少女。今俺はその少女の胸の谷間、心臓の音が聞こえるくらい近いところにいる。

突如、俺の下半身が挟まっていた巨大な乳房が動き出し、俺は全身が肉の間に挟まれてしまった。
全身を包む乳房の圧力が強くなったり弱くなったりする。

 アスカ 「男の人だったしサービスサービス。たっぷり堪能してね」

言いながらアスカは服の上から乳房を掴みズリズリとこすらせていた。
乳房の間に感じる小さな存在へのもてなしだった。

乳房の圧力。それは窮屈でもあったが同時に甘美でもあった。
汗をかいてぬるぬる滑る乳房の表面。その間に挟まれる俺はまるで全身を愛撫されているかのような状態だった。
心地よい窮屈。
その心地よさと、少女の香りとに頭をやられ、俺は意識を失っていってしまった。


  *


「……はッ」

ハッと目を覚ますと、俺は公園のベンチにもたれかかっていた。大きな木の影になる涼しげな場所にあるベンチだ。
あたりを見回すといたって普通の公園。どこにも変な様子はない。巨大な部屋の中ではなかった。
自分の体を確かめる。異常も何もない。痛みも何もない。
そしてあの、二人の巨大な少女もいない。

「……夢…だったのか…」

今でも脳裏に鮮明に蘇るあの二人の巨人。
とてつもなく異常で濃密な時間を過ごしていたはずだ。
それらは皆、この夏の日差しが見せる白昼夢だったのだろうか。

ふと腕時計に視線を落とすと時間はそれほど経っていないようだった。
首をかしげながらも立ち上がった俺は営業の続きのために公園を後にした。






そんな男性を木陰から見つめる二人。

 ハル 「いいんですか? 記憶とか消さないでそのまま帰しちゃって」
 アスカ 「いいよ、結構いい思いしてくれたみたいだしあたしも楽しかったし。今度はシュウに汗吸ってもらおうかなー」
 ハル 「あ、ずるいですよ!」
 アスカ 「あははは、まぁまぁ。…ところで、そっちの方はどう?」

アスカはハルの履く靴に視線を落とした。

 ハル 「んーあんまり動いてくれないですね。もうぐったりしちゃってるみたいです」

同じく自分の靴に視線を落としたハルは右足のつま先を左右に振ってみた。

 アスカ 「まーそうだよね。ハルちゃんの足の指に挟まれたまま靴下と靴に包まれてすっごい蒸し暑いのに、ウチからここまで歩いてきたんだから。足の指の間に挟まれてる小人からしたら、ハルちゃんがただ歩くだけでもとんでもない天変地異だよね」
 ハル 「そうですよね」

笑いながらハルはつま先で地面をトントンと鳴らした。

ハルの両足の指の間にはあの男性以外の小人が囚われていた。一つの指の股に数人まとめて挟み込んでいる状態だ。単純な指の間というだけでも窮屈なのにその足を黒いニーソックスで包まれてしまい、さらには靴も履かれて、足の指の間の気温と蒸し暑さは最強になる。
その上ハルが歩くということは彼らを幽閉する足も動くという事。100分の1サイズの小人になっている彼らにとっては、ハルのただの歩行もとんでもない大災害だった。
ハルが時速4kmで歩くと指の間の彼らにとっては時速400kmもの速度になる。しかも速度は一定ではなく、凄まじい衝撃とともに地面におろされた足はほんの一瞬停止する。そしてまたすぐ前方に飛び出す。これを延々と繰り返すのだ。
足が地面を踏みしめた際の衝撃は、つま先に囚われる彼らにとっては車に乗ったまま高台から落下するような衝撃だろう。超高速からの急落下・急停止、そしてロケットのような超加速で前方に飛び出す。
ハルの歩行。ハルが歩くただそれだけで、その靴の中に閉じ込められている人々にとっては絶叫マシーン顔負けの凄まじい拷問なのだ。

 ハル 「小人の消臭効果ってどのくらい続くんですか?」
 アスカ 「大体3日くらいかな。長くても一週間くらい」
 ハル 「そうなんですか。じゃあ効果が切れるまでにたっぷりと使い潰してあげないと」

自分の靴を見下ろしてハルはクスクスと笑った。
外からではわからないが、今ハルは足の指を動かして指の間の人々をこねくり回している。凄まじく窮屈で蒸し暑い空間で超巨大な足の指が狂ったように大暴れする中で、囚われの人々は悲鳴を上げ泣き叫んでいることだろう。そう考えるとより一層イジメたくなってしまう。

 アスカ 「さて、折角だしどっか寄って行かない? なんか喉乾いちゃった」
 ハル 「あ。なら駅前の新しいケーキ屋さんに行きませんか?」

そう言いながら二人は公園を後にした。
ハルが歩き続ける間、その靴の中では人々が喉が避けんばかりに叫び続けていたが、その声はハルを含めた誰の耳にも届かなかった。







 アスカ 「というわけで今回の『消臭シリーズ』はおしまい。ホントは他に『消臭学園(1/1000)』とか『消臭都市(1/1000)』とか『消臭世界(1/1000000)』とかやりたかったんだけどね」
 ハル 「なんでやらないんですか?」
 アスカ 「ネタ切れとやる気切れ。Dishonored楽しいです」
 ハル 「えぇ…」
 アスカ 「残りのネタは来年に持ち越し。またハルちゃんの臭いに頑張ってもらうから」
 ハル 「わ、わたしそんなに臭いませんからね!」

という二人の会話形式のいい訳でした。
また次回。