マリーは身をよじらせたりしていたのだが、掴んでいる手はビクともしない。しかも、ブンブン振り回されて気持ちも悪くなってきた。だが、それでも3人を入れた白い球をしっかりと手にしたまま絶対に手放さなかった。
やがて、全身を締め上げていた圧力から解放されると、ドスンッ!と何か固いものの上に降ろされ、いや、落とされた。
「いったぁい・・・」
尻を擦ろうと伸ばした手からそっと白い球を降ろし、そのままゆっくりと立ち上がる。今までマリーを捕まえていた張本人だろうか。恐ろしく巨大な何かが床の先に移動していく姿が見えた。
「お・・・んなの、子?」
ズッドォォォォンッ!!!
桁外れの地響きと同時に、床の上にあった何か大きなものがズズンッ!ズズンッ!と揺れる。
マリー達の目の前には、マリーでさえ見上げなければならないほど巨大な少女の上半身が聳えていた。見た目は人間そのものでマリーと同年代に見える。
「もうっ、来るなら来るって言ってよね!何にも用意してないじゃんっ!」
間違いなく人違いだ。しかも、相手は人違いだということに全く気付いていない。
「だいたいさぁ10年以上もほっといて、それでも友達?」
マリーの目の前に人差し指が伸ばされたかと思うと、ドスゥッ!とつつかれたマリーが盛大に尻餅をついた。力勝負だったら全然敵わないのは明らかだ。
「え?いや・・・あの・・・」
マリーが何かを言うよりも早く、その少女が言葉を発した。
「それよりなんで人間なんか持ってきたの?こんなにちっちゃいんじゃおもちゃにもなんないし。」
極太の人差し指が唸りを上げて3人が入った白い球に近づいてくる。その幅だけでちょっとした街ならすっぽりと収まってしまう指先にほんの少し触れられただけで、3人はあっさりと消し去られてしまうだろう。
「だっ!ダメですぅっ!!!」
マリーは慌てて起き上がるとその人差し指にしがみ付いた。あっけに取られる超巨大少女だが、その時何かを感じたらしい。他の指が動き出し、マリーの巨体をいとも簡単に掌中に納めると、はるか上空に連れ去っていってしまった。

「あんた、誰?」
マリーを鷲掴みにして目の前まで上げた少女も、掴んでいる小さな女の子が自分が待っていた相手ではないことに気づいたようだ。
「あう・・・あたしは・・・うぐっ・・・」
少女の怒気とともに襲い掛かった握力はマリーの全身を締め上げるのには充分過ぎた。身体じゅうの骨がバラバラになりそうな痛みに声も上げられない。しかも、向こうはまだほんの少ししか力を入れていないことが表情からもよくわかる。
「人間みたいだけど、ここまで大きな人間は見たことが無いし・・・まあいいわ。あなた、誰?どこから来たの?」
マリーを握っていた手を緩め、少女から見れば小さな女の子を掌の上に横たえてそのままテーブルに肘を突く。それだけで、リサ、リナ、レンの3人は超巨大地震に襲われて球の中でのた打ち回ってしまう。
「マ、マリー・・・です。人間界から、来ました。」
何とか息を整えて答えるマリー。
「ふーん、マリーちゃんかぁ。どっかで聞いたことがある名前だなぁ・・・あたしはミラ。この魔界の主、魔王様よ。」
この子が魔王?これが私が倒そうとする相手?無理、ムリ、むり・・・ぜったいに無理!こんなこと今までに味わったことが無いのだ。マリーの心の中は恐怖と絶望でいっぱいいっぱいになっていた。
「で?魔界に何しに来たの?」
いきなりの直球だ。まさか、人間界で悪さをした魔族を案内役にして魔王を退治しに来たなんて・・・ぜったいに言えない。言った瞬間にミンチボールにされてしまう。
しかし、マリーはレンほどは機転が利かなかった。
「あの・・・人間界が魔族に襲われて、捕まえた魔族に聞いたら魔王様の命令でやったって聞いて・・・その・・・」
「直談判でもしに来たの?」
「へ?あっ、そう!そうです。魔王様に人間界を襲うのをやめて欲しいってお願いに・・・」
おっ、いいぞっ!ナイスな方向転換だ。遠くで3人がほっと胸をなでおろす。
「ヤダって言ったら?」
ミラは悪戯っぽい笑顔をマリーに向けていた。
「え?そ、そんな・・・みんな迷惑してるんです。やめてください!」
マリーが強気になった。でも、立場が変わったとは思えないのだが・・・
「じゃあ、腕ずくで止めてみたら?人間界にいた魔族、たぶん下級か中級だと思うけど、やっつけたんでしょ?」
「お願い・・・もう止めて・・・」
「あれ?勝てないと思って泣き落としなの?ん?」
ミラがいきなり手を近づけて、泣きじゃくっているマリーの匂いを嗅ぎはじめたのだ。
クンクン、やっぱりこの子の匂い、あの人に似てる。ってことは・・・でも、そんなわけ無いか。あの種族はあの人以外は誰もいないはずだし。ミラの思考がグルグルと回転を始め、記憶が過去に飛び、この匂いに一致する人物を思い出そうとしていた。
あ・・・ひとりいる。でも、まさかこの子が?ミラの背筋に少しだけ寒いものが走った。

ほぼ同時刻、ガイモンの家の中。ガイモンっていうのは、そう、マリーの母のエミリアと一緒に冒険した仲間で、引退してからはレンを1年預かって育てたあの商人のおっさんだ。
そのガイモンが、テーブルに座って酒を飲みながら誰かと話をしている。と言っても相手の姿は見えていない。
「マリーが魔界に乗り込んだのか?」
『ええ、レン君も他のお友達も一緒みたいよ。』
「大丈夫なのか?」
『そうねぇ、ミラちゃんは私の怖さを知ってるから、マリーの正体に気付けば大丈夫だと思うけど。』
「気付かなかったら?」
『みんなで仲良くペッチャンコか消炭かしら。』
女性の声が悪戯っぽく笑っている。
「実の娘なのによく平気でそんなことが言えるな。」
『神族にとっては肉体はただの入れ物だしね。でも、マリーはハーフだから一緒に精神体も滅んじゃうかしら。』
「あのなぁ、それにレンは人間だぞ。レンが死んだら誰がマリーの暴走を止めるんだ?俺でも無理だ。」
『まあ、実の父親のくせに無責任ね。じゃあちょっと様子を見てくるわ。』
ガイモンはエミリアの気配が無くなると、フッとため息をつき酒瓶に手を伸ばそうとした。
『そうだ、忘れてた。』
「のぅわっ!」掴みそこなった酒瓶がテーブルの上をくるくる回る。
『ミラちゃんってかなりおしゃべりだから、もう隠し通せないと思うわよ。じゃあね。』
そうか、ばれるか。。。ガイモンは今度は大きくため息をついて、酒瓶を鷲掴みにして中身を一息に飲み干した。

「ねえ、ちょっとお話しない?」
ミラは掌の上で泣きじゃくる小さな女の子に話しかけてみた。マリーも顔を上げて巨大な少女の顔をまじまじと見つめる。
姿かたちは人間そっくりの途方も無く巨大な魔族の少女。顔を見る限りマリーと同じか少し年下に見える。それより、何で話をする必要があるのだろう?
「いいですけど・・・私のお願いは聞いてもらえるんですか?」
涙をぬぐってマリーは哀願する。
「内容によってはね。考えないでもないわ。それより、あなた、本当に人間族なの?」
「はい。生まれた時から巨人族より大きかったけど、母からは『あなたはれっきとした人間よ』と言われました。」
シメた!母親の話をそっちからしてくれた。これで全部明らかになる。そう思うと、ミラの口許が少し緩んだ。
「ふーん、そのお母さんの名前、なんていうの?」
「え?エミリアって言いました。もう、だいぶ前に亡くなりましたが。」
やっぱりこの子はエミリアちゃんの娘だ。酷いことをする前に気がついてよかった。ミラの表情が少し揺るんだ表情に変わる。
「そうなんだ。だからマリーちゃんからはエミリアちゃんに似た匂いがするんだね。」
「母を・・・ご存知なんですか?」
「うん。大切な友達だもん!それより私、マリーちゃんに会ったことあるんだよ。まだマリーちゃんが赤ちゃんの頃、エミリアちゃんが連れてきたの。」
「でも、私が赤ちゃんって、貴女も・・・」
赤ちゃんじゃないの?と言いたくなる。が、その質問も必要ないほど明瞭な答えが返ってきた。
「あたしはその頃も今もあんまり変わってないよ。魔族は人間族より肉体の成長が遅いから。っていうかエミリアちゃん、死んでないけど。」
「そ・・・そんなこと!」
え?何?その爆弾発言!だって、全く動かなくなって息もしなくなった母の身体に抱きついて三日三晩泣き続けたんだよ。その後埋めようとしたらサラサラとした砂になっちゃったんだよ。
「ひょっとしてエミリアちゃんから何にも聞いてないの?」
「あの・・・どういう、ことでしょうか?」
エミリアは精神生命体で、人間族や魔族からは「神族」と呼ばれる存在なのだ。寿命は人間族や魔族より遥かに長い。が、実体が無いので無尽蔵に増え続けることも無い。ミラの知る限り神族はエミリアだけである。
「でも、母にはちゃんとした身体がありました。」
「それはね。人間族の身体を借りていたのよ。人間族の男に一目惚れして、その男が魔族に、あ、あたしじゃないわよ。魔族に襲われた時に、たまたま近くにいた瀕死の人間族の女の子の身体を借りて助けたんだって。宿主の子の生命力が尽きちゃったからそのままずっとその身体のままでいたはずだけど、エミリアちゃんの力に身体が耐えられなくなったみたいで、肉体が滅んじゃったんだって。マリーちゃんを連れてきたのはその身体が滅ぶ何年か前だよ。」
あまりにも沢山の今まで知らなかった情報が入りすぎて、マリーの頭はパンク寸前になっている。それでも、最低限の疑問は出てきたようだ。
「じゃあ、わたし、人間じゃないんですか?」
再びマリーの両目に涙が浮かぶ。人間じゃなければ何?もう何がなんだかわからない。ミラもそんなマリーの感情の高ぶりに気付いたようだ。
「でも、あなたの身体はオリジナルよ。エミリアちゃんは実体が無い存在の悲しさを自分の子供には味合わせたくないって言ってたもん。」
「じゃ、じゃあ、母は、生きてるんですか?」
「精神体だけだけどね。近くにいれば気配は感じるし声も聞こえるはずよ。」
そうなんだ、母は生きてるんだ。でも、神族ってことは私もそうなの?いずれはこの身体を離れて精神だけになるの?そしたら、レンさんとは?・・・
まだマリーは混乱の中にいた。

「それでさぁ、マリーちゃん。あたしと友達にならない?」
「へ?」
多少は呆けたが、それもすぐに持ち直した。これはチャンスだ。と気がついたのだ。
「だったら、人間界を襲わないって約束してくれますか?」
ところがミラからの返答は意外だった。
「ああ、あれ?あたしそんなこと言ってないよ。だって、エミリアちゃんとの約束で人間界には手を出さないって決めてたもん。」
「へ?」
「あたしの言うこと聞かなかったバカが勝手にやったことでしょ?セバスチャン!」
そう言って、右手の人差し指を真上に伸ばすと、いつの間にか指先に何かが乗っている。それは身長2000mほどの絵に描いたような執事だ。名前もベタな執事の名前だし。
「ちょっと人間界に行って、どこのバカが言うこと聞かなかったか調べてきてくれる?」
「かしこまりました。魔王様。」
セバスチャンは恭しく一礼すると、その場から掻き消えてしまった。
え?いや、身長2000mもの巨大な魔族が人間界に現れたら大パニックなんですけど・・・そう言いかけたマリーを先取りするようにミラが口を開く。
「セバスチャンは上級魔族の中でも一番のスピードを誇るの。あたしでも捕まえるのに苦労するくらいね。それに隠密行動は大得意だから。人間界に行っても、ちょっと風が吹いてきたなって人間が思ってる間に仕事を済ませてきちゃうわよ。」
はぁ、そうなんですか。でも、上級ってあんなに大きいんだ。ミラさんに比べれば虫けらみたいに見えるけど・・・
「で?友達になってくれるのかな?」
その時だ。レンの声がマリーの中に入ってきた。
「マリー、魔族を簡単に信用しちゃダメだ。少し冷静に考えたほうがいい。」
『わかりました。でも、まずここから出ることを考えないと・・・』
「ふーん、逃げ出す相談してるんだ。」
「えっ?なんで?」
「その心で相手に伝える力って、高位の魔族も持ってるんだよね。それに、人間の男が言ってたこともばっちり聞こえちゃってるんだ。」
見上げるとミラの表情が明らかに今までとは違っていた。怒らせた?いや、そうに違いない。ミラが人差し指だけを伸ばして、レン達のほうに向かって腕を伸ばしたその時だった。
「待ってっ!お願いっ!」
無意識だった。マリーは渾身の力のファイアボールを、あろうことかミラの顔面めがけて投げつけてしまったのだ。咄嗟のこととはいえもう後には引けない。
倒せないまでもひるんだ隙に何とか逃げ出せるかもしれない。そう思ったのだが・・・
「それがマリーちゃんの答えなんだ。エミリアちゃんの娘でも許せないなぁ・・・」
いつの間にかミラの腕が顔の前まで戻り、親指と人差し指の間でマリーのフルパワーのファイアボールが空中で静止していた。
「魔法力も強いみたいだけど、これじゃあせいぜい上級魔族止まりだね。」
残酷な笑みを浮かべながら指の間を広げるミラ。それに呼応してマリーのファイアボールがどんどんと大きくなっていく。
「本気出すまでも無いから、10倍返しくらいにしといてあげるね。」
マリーは恐怖で両膝がガクガクと震え、がっくりと座り込んでしまった。力の差があり過ぎる。自分は無理でもあの3人だけは・・・そう思ったマリーの耳にミラの意地悪な声が聞こえてきた。
「別によけてもいいよぉ。でも、マリーちゃんがよけたら後ろの3人、黒焦げになっちゃうね。」
ハッとして振り返るマリーのすぐ後ろに白い球が鎮座している。いつの間に?まさかこの子が風の魔法で移動させたの?マリーの瞳に怒りがこみ上げてきた。
「どっちにしろ、あたしを怒らせた罰を受けてもらわないと、ね。」
ミラは、残酷な笑顔のまま指を少し動かすと、直径5kmはある火球がマリーめがけて一直線に飛んでいく。うつむいたまま立ち上がり、仁王立ちになるマリー。結果がどうあれ逃げるつもりは全く無い。
数瞬の後、マリーの巨体は紅蓮の炎に包まれた。

「フン、人間なんかに肩入れするから。」
ミラは、マリーの肉体は黒焦げになるが精神体が滅ぶことは無いだろうことを見越して攻撃したのだ。他の人間のことなど知ったことではない。別に精神体だけでも友達になれるし、殺したわけではないので後でエミリアにばれてもそんなにひどく怒られないだろう。そういう打算もあった。だって魔族だから。
だが、辺りを燃やし尽くして消えかかった炎の中にあったのは黒焦げの肉体ではなく、健在なマリーの姿だったのだ。しかも、3人の人間の気配もまだ残っている。
「う・・・そ・・・」
茫然自失のミラに、さらに追い討ちをかける台詞がマリーから発せられる。
「ミラちゃん、ちょっとやりすぎじゃないの?」
「え?そ、その言い方・・・エミリア・・・ちゃん?」
「お仕置きが必要なようね。」
マリーの身体がフイッと消えたかと思うと、途方も無い揺れが建物全体に襲い掛かり、天井付近がバリバリと崩れ落ちてくる。右往左往するミラが人質にしようと人間が入った白い球を捜したがどこにも無い。とにかく逃げよう!そう思った時には、手遅れだった。ぽっかりと空いた天井の上からミラでさえ震え上がるような巨大なマリーの顔が覗き込んでいたのだ。
マリーの肉体はミラの100倍にまで巨大化していた。もし、マリーがこのサイズで地球に現れたら、直径60cmのバランスボールに乗っているように見えるだろう。それほど圧倒的な大きさだった。
レンたちは、マリーが目の前に上げた人差し指の上に乗せられていた。だが、そこはとても指先とは信じられないほど広大な大地だった。幅100kmにもおよぶ広大な指先は指紋のそれぞれが標高1000m級の山々になっているのだ。指先で軽くなぞっただけで、いくつもの国々が瞬時に消滅してしまうほど巨大なのだ。
そして、見下ろした先では、左手の指先にまるで虫のようにつままれたあの魔王の姿が見えていた。
「あなたがレン君ね。はじめまして。」
姿はマリーだが、間違いなく別人だ。恐らくマリーの母、エミリアがマリーの身体に入ったのだろう。
「あ、はい。あの・・・見えるんですか?」
「ええ、大丈夫よ。それと、後ろで震えてる巨人族の女の子もね。」
レンの背後では、彼の100倍の巨躯を震わせて抱き合っているリサとリナの姉妹の姿。慣れの問題だな。レンは独語した。
「まずはこっちの用を先に済ませちゃいましょう。ね、ミラちゃん。」
ずいっとマリーの左手が急上昇する。もう、魔王の面影は見る影も無く、そこにはただただ半べそでひたすら謝っている女の子の姿があるだけだ。
「ごっ、ごめんなさ~いっ。もうしません!ぜったいにしないから、許して~・・・」
「だって、ミラちゃん、あの子が私の娘だってわかっててしたんでしょ?」
「だ、だって、魔族は信用できないとか・・・ひどいじゃんっ!」
「あら~、『魔族が人間をだましたりたぶらかしたりするのは当たり前よ』って威張ってたのは誰だったっけ?信用出来ないって、誉め言葉なんじゃないの?」
「え~っ!?それはっ・・・でも、だって・・・寂しかったんだも~ん!エミリアちゃんだっていけないんだよっ!何年もほっといたじゃんっ!」
なるほど~、この魔王は『かまってちゃん』なのか。だから、友達になれないと思って激高したんだな。レンは妙に納得してしまった。
結局ミラへのお仕置きはデコピンの刑だった。と言っても幅100kmの超特大デコピンの破壊力は凄まじく、身長250kmを超えるミラを軽々と数千kmも吹っ飛ばしてしまったのだから。

ボロボロになったミラの部屋、お尻をさすりながら椅子に座るミラ、いや、あのデコピン食らって痛いだけってどんだけ頑丈なんだかと思ってしまう。そして、そのミラより一回りほど大きなマリーが隣に座る。身長は300kmはあるだろうか。胸の大きさは・・・いや、やめて置こう。冗談でも指でつつかれた瞬間にシミになってしまう。
「つまり、マリーの力はエミリアさんが制限していたというわけですか?」
テーブル上のレンが口を開いた。エミリアは既にマリーの身体を離れている。
『そう、正確に言えば私の力を分けてるだけだけどね。』
「ううっ・・・エミリアちゃんのフルパワーになんか勝てるわけ無いじゃん・・・」
ミラはまだ涙目のままだ。
『今回は、このやんちゃな魔王さんが調子に乗らないように、もう少し私の力を与えたから、大丈夫でしょ?』
つまり、これが今のマリーのフルパワーで、全ての力が与えられたらさっきのようになってしまうと・・・
『でもマリーの身体は凄いのね。人間の身体だったらとっくに耐えかねてるもの。それがあれだけになってもまだ余裕だものね。ちょっとだけ本気を出したくなっちゃった。』
あれでまだ本気じゃなかったんですか?エミリアさん。マリーを除く全員の背筋に寒いものが走った。
『普通の人間族だったら、せいぜい1000倍の大きさだから、やっぱりマリーの身体は神族の精神力を受け入れられるだけのものを持っているようね。』
言われたマリーは少し俯いたままだ。
「ママ、なんで・・・」
『色々とごめんなさいね。レン君ていう素敵なパートナーがいるから大丈夫だと思ったのよ。これからはちゃんと会いに来るから。ミラちゃんのところにもね。』
マリーは優しく頭を撫でられたような気がした。

その時だった。どこからとも無く風が吹いてきて、何かの気配が・・・
「あ、セバスチャンっ!だめっ!」
咄嗟にミラが叫ぶ。魔王城の異変に気がついてセバスチャンが飛び込んできたのだ。目に涙を溜めている魔王様。そして、巨大化しているさっきの人間の女。この女、魔王様に何をした?と勘違いしても当然のシチュエーションである。
魔界一のスピードでマリーめがけて突っ込んでくるセバスチャンを止められるものは誰もいない。両手に火球を作り出し、目にも止まらぬ速さでマリーの両目にその火球を叩きつけようとしたその瞬間だった。
「グェッ・・・」
目の前まで上げたマリーの親指と人差し指の間には、あの上級魔族の執事が挟まれていた。
全員が、特にミラが目を丸くしたのも無理は無い。あのスピードについていけるって・・・
「勘違いしないでください。誰もミラさんをいじめてなんかいません。」
冷たい視線で、指先に摘んだ虫けらのような魔族を見下ろすマリー。あと少しだけ力を入れれば簡単に潰れそうだ。
「マ、マリーちゃん。セバスチャンを殺さないで・・・」
哀願するミラ。元々殺すつもりは無かったので、そのままミラに手渡した。ミラは掌の上でぐったりしているセバスチャンに囁きかける。
「もう、マリーちゃんには絶対勝てないわよ。エミリアちゃんのせいであたしより強くなっちゃったんだから。」
『あら、私のせいって人聞き悪いわね~。お仕置きが足りなかったかしら?』
その声を聞いて、セバスチャンも全身を硬直させる。どうやらエミリアの恐ろしさを身をもって知っているようだった。

エミリアから色々と話を聞いておなかいっぱいのご一同である。
成長期は、実際にエミリアが人間の少女の身体にいたときに起きたもので、縮小化の抑えが効かなくなってしまったのだという。恐らく人間の成長期にあたるのでは?とレンが言ったのだが、周りの全てが食べ物に見えてしまう理由は誰にもわからなかった。
そうか、だから離れて欲しいってマリーは言ったんだ。レンはやっと成長期に離れなければならない理由に納得した。
もうひとつ大切な話をされた。元々神族は一子相伝で、先代が滅ぶと同時に次世代が誕生し、全ての能力を受け継ぐのが常らしい。つまり、今の状態、神族がふたり存在する状態は特異とも言える。これはエミリアが「肉体を持った子を」と望んだ結果ではあるのだが。
そんなわけで、エミリアが完全に消え去ると同時に、マリーは初めて神族としての力を手にするわけである。だが、マリーの肉体がいつまでもつのかは誰にもわからない。人間と同程度の寿命なのかそれとももっと短いのか長いのか。それにその時マリーの精神体はどうなってしまうのか。全て初めてだからだ。
『じゃあ、私はそろそろ行くね。また会いに来るからね!』
「あ、大事なこと聞いてないじゃん!」
リサがハッと気付いた時には、エミリアの気配は消え去っていた。
「何ですか?」
知りたいことは大体教えてもらったはず、とマリーは思っていたのだ。
「結局、マリーのお父さんって、誰?」
マリーが両手で口を押さえる。そうだ。それこそ一番大事なことかもしれないのだ。人間の男ということは人間界にいるはずなのだ。よし、今度は忘れずに聞こうと思ったその時、
「あたし、知ってるよ。」
平然とミラが口を開いた。全員の視線がミラに集中する。
「えっとね、人間の格闘家の、ちがった、今は商人だったかな?名前は・・・確か、ガイ・・・なんだっけ・・・」
「ガイモン!?」
マリーとレンから同時に出た名前は同じだった。それはそうだろう。エミリアと関係があり、元格闘家で今は商人。しかもガイで始まる男は間違いなくひとりしかいない。
唖然とするマリーの表情を見て、ミラは怪訝な表情になる。
「え?あたし、なんか変なこと言った?」
レンはというと、心の中で、『あんのクソじじぃ、全部知ってたんじゃねえか!』と思っていた。

ガイモンのことは、「この騒動が終わった後でゆっくりとお話を聞きましょう」というマリーの提案でひとまず終わりにする。ほぼ間違いなく責められるんだろうなぁ、しかも尋常じゃない責め方で。とレンは思っていたが。
セバスチャンも回復してきたので、元々の騒動の報告を聞くことにする。実はマリーに摘まれた時、腰骨を思い切り砕かれていたのだ。
黒幕の正体はドベルグという上級魔族だった。魔界でもたびたび問題を起こす厄介者のようで、ミラはその名を聞いた時に思い切り眉間に皺を寄せたほどだ。
それが何人かの中級下級魔族を引き連れて、まずある国の重臣を誑かして王族を追放し、次に隣国に攻め込んだ次第だという。だが、謎の女巨人にそれを阻まれ、今度は自らが出馬するために準備を整えているということだった。
「謎の女巨人って・・・」
「あんたのことだよっ!」
マリーがボケでリサがツッコミですか。他方ではもう少しまともな会話をしているようだ。
「あたしの命令を無視したんだから、上級でも死刑でいいわよね。セバスチャン。」
「はい。ご随意に。」
そういうわけでドベルグとかいう上級魔族を退治することが満場一致で決まった。

ズシーン!ズシーン!ズッシィィーーーンッ!
魔界の中を盛大な地響きを立ててふたつの超特大の影が突き進んでいく。マリーとミラである。足元の魔族やモンスターは、30~40kmはある途方も無く巨大な足から逃げることなど出来るはずも無く、数百~数千匹の単位で次々に踏み潰されていく。
「別に中級下級はいくら殺しても代わりはいくらでもいるから。」
というミラのお言葉に甘えて、マリーも足元など全く気にしていないのだ。
だが、これが人間界だったらと思うとぞっとしてしまう。普通に歩くだけでいくつもの国を次々に消滅させてしまうだろう。
「マリーさん?この大きさのまま行くの?」
レンでなくても聞かずにはいられない。
『そうですね。どうしましょうか?』
『魔の森を出たら小さくなればいいじゃん。ほんっとに人間って面倒だよねぇ。』
『それより、何でミラさんも一緒に来るんですか?私だけでも大丈夫だと・・・』
『他の魔族への見せしめ。あたしに逆らったらどうなるか、ちゃんとしないとまた誰かが人間界にちょっかい出しちゃうよ。だからマリーちゃんは見てるだけね。』
『はい・・・だそうです。レンさん。』
「何の関係も無い人間を殺さなければそれでいいよ。」
レンは自分に言い聞かせるようにそう答えた。

このサイズだと魔の森もあっという間である。マリーとミラは、一気に100分の1ほどに小さくなると、またゆっくりと歩き出した。100分の1といっても3000mと2500mの大巨人が並んで歩く姿は圧巻そのものだ。
「人間を踏まなきゃいいんでしょ?」
マリーと同じくミラの感覚もかなり鋭いようだ。ある時は足を踏み下ろそうとして一旦停止し少し離れた場所を踏みつけたので、何だろうと思ってみると、小さな集落が最初に踏もうとしていた場所にあったほどだ。
ほどなくして空中に身長200mほどのセバスチャンが現れ、ミラの耳元で何かをそっと囁くと、また忽然と姿を消した。
怪訝に思ったリサが尋ねる。リサもリナもミラの存在にかなり慣れたようだ。しかも、今ではマリーの方がミラより強いという安心感もあるのだろう。
「どうしたの?ってか、何で彼まで小さくなってるの?」
「ああ、あれ?ご主人様より大きい姿ではいたくないんだって。ほんとにあたしには忠実なんだ。」
なるほどね。忠義を示すひとつの形というわけか。
「それよりあのバカ、懲りずにまたあんたたちの国を襲うみたいよ。今度はあのバカが先頭に立ってるって。」
あのバカとは上級魔族、ドベルグのことであるのは明らかだ。それを聞いてリサとリナは平常心ではいられなくなる。
「大丈夫よ。あたしがすぐに片づけてあげるから。マリーちゃん、元の大きさに戻れる場所、探しといてね。」
「え?あ、はい。」
「それとあんた。ドベルグの正体を知ってて付き従う人間も、殺しちゃだめなの?」
次の質問をレンに浴びせかける。レンも困ってしまった。同じ人間である。でも、魔族の下僕になることを選んだ悪人を赦していいものか。大きな掌の上からマリーの顔を見上げてみたが、マリーもまた黙っていた。
結局、魔族に付き従う人間をどうするかは決めないまま、マリー達一行はリサとリナの国に近づいて行った。

山の向こうに何か大きな影が動いているのが見えた。頭から2本の角を生やした異形の者、ベタな魔族そのものである。身長は2000mちょっとで今のマリーやミラよりは小さいが、その風貌は絵にかいたような魔王そのものだ。
その魔族が、両手を腰に当てて、足元の小さな街を見下ろしている。街の中からはいくつもの火が上がり、逃げ回る住民に人間の姿をした者たちが襲い掛かっていた。
「ひ・・・どい・・・」
ズズンッ!
マリーは近づいていくと、掌から3人を降ろして魔族の前に立ちはだかった。
「やめなさいっ!」
魔族が顔を上げると、自分よりも巨大な人間の女が立っていることに気が付いた。
「なんだ?お前、ああ、お前か。先発隊を壊滅させたっていう巨人女は。しかし、報告よりずいぶんと小さいが・・・そうか、力を使い果たしたのか。間抜けな奴め。」
ククッと魔族が悍ましい笑みを浮かべる。
「これ以上酷いことはやめなさいと言ってるんです。そこの人間もです。」
街を襲っていた人間たちもマリーの巨体を見上げて戸惑っている。「おい、ドベルグ様よりでかいぞ」「大丈夫、ドベルグ様は魔王だぞ。負けるわけねえだろう。」などなどの声が耳に入る。
もう彼らに人間としての心は残っていないのだろうか。ならば遠慮してやる必要は無いのかもしれない。マリーはそう思い始めていた。
「フン、お前がどれだけ強いか知らんが、俺様を止められるかな?」
魔族が片足を振り上げ、街の中に踏み下ろそうとしていた。マリーも一瞬のスキを突かれ対応できない。だが、その足は、ついに街をその下に踏みつけることは出来なかった。

「ぐぎゃぁっ・・・」
ドベルグは全身を強靭な力で挟まれていた。次いで急上昇を始める。街の中にいた人間たちは何が起こったのか全く分からなかった。対象があまりにも巨大すぎたのだ。
「こんにちは、魔王ドベルグ様」
桁外れの大音量がはるか上空から轟き渡る。これがあのドベルグ様をあっさりと連れ去ったものの正体なのか?街の中の全員が硬直する。
ドベルグもその声に聞き覚えがあった。
「ま、まさか・・・そんなこと、あり得・・・」
そこで絶句してしまう。くるっとドベルグの身体が反転し、目の前に現れたのはそのあり得ない者、本物の魔王の残酷な笑顔だったのだ。
「ずいぶん偉くなったのね。あんたが魔王ならあたしは大魔王かしらね。」
ミラの指に挟まれたドベルグの身体がミシミシと音を立て、所々の肉が潰れていく。どんな障壁もこの本物の魔王、ミラ様の前には無力なのだ。
「も、もうしわけ・・・」
「あ~、ダメダメ。あたしの言うことを聞かなかったんだから、あんたは死刑。それも全上級魔族の前で公開処刑ね。」
実は少し離れた場所で、セバスチャンがこの光景を精神波で映像として全ての上級魔族に送っているのだ。上級魔族の中でもトップクラスの実力者であるドベルグも、ミラの前では無力なのだということを改めて知らしめるようだ。
「それでさ、死に方くらいは選ばせてあげるわ。このまますり潰されたい?それとも、生きたまま灰になる?」
観念したのか、ドベルグはがっくりと首を項垂れた。だがそれは演技で、ミラの指の圧力が少し緩んだ時を見逃さず、するりと指先から抜け出し、全速で逃げ出そうとした。
ゴンッ!鈍い音がして、ドベルグはフラフラとミラの広大な掌に舞い落ちていく。表情はまるで何が起きたかわかっていないようだ。
「ほんっとバカね。魔族同士でそんな演技に引っかかるわけないでしょ?それに、予め張ってた物理障壁に気が付かないなんて間抜けもいいとこ。」
ミラは薄笑いを浮かべながら、ドベルグの脚に指を近づけていった。
ボギゴギッ!メギャッ!「グッギャァッ・・・」
響き渡る破壊音と絶叫に誰もが耳を塞いでいたが、ミラは平然としている。
「なぶり殺しの刑ね。」
次に爪を立てて片腕を切り裂くと、その場で灰にしてしまった。
「肉片残すと復活しちゃうもんね。あんたは。」
ドベルグの特性を熟知した上でそうしているのだ。一部の魔族は身体の一部でも残っていれば復活できるものもいるらしい。レンとマリーが感心している間も、ミラの殺戮ショーは続いていく。
マリーなどはミラの恐ろしさを体感しただけに、流石に身震いがしたようだ。
ドベルグのもう片方の腕も消え去り、グシャグシャに潰された下半身も腰から千切られて灰になっていた。もう、流石に青色吐息だ。
「最後に、何か言いたいことある?」
流石に今度こそ観念したようだ。それとも、もう言葉を発する気力もないのかもしれない。
どっちでもいいやという顔で、ミラはドベルグの上半身を爪の上に乗せて真上に弾き飛ばした。一瞬で肉体が潰れ、辺りに吹き飛ばされる。そして、次の瞬間にはその肉片がかけらも残さずに灰になって空高く舞い散っていった。

「終わったよ~。」
ミラは小さくなってマリーの横に並んで街を見下ろしていた。
マリーが思わずドキッとしたのも無理はない。セバスチャンが余計な気を利かせて100km以上上空の殺戮ショーを、この場の全員に映像精神波として送り込んでいたのだ。
「あ・・・の・・・何で灰になっちゃったんですか?」
確かに炎は上がっていないのにドベルグの身体はいきなり灰になっていたのだ。その答えはいつの間にか小さくなってミラの眼前に浮遊していたセバスチャンがしてくれた。
「ミラ様は瞬時に高温を発生させ、一瞬で燃焼しつくすお力をお持ちなのです。ですので、炎が出る前に既に燃え尽きてしまっているのです。」
はぁ、そんな魔法があるんですか。ってか、本当に私ってミラさんより強くなったの?マリーは少し不安になった。
「で?こいつら、どうするの?」
ミラが少しだけドヤ顔で、街の中を指さす。そこには、打算だけでドベルグに従ってきた冒険者たち。彼らは、自分たちが魔王だと思って付き従っていた魔族が、本物の魔王になす術もなく嬲り殺しにされた一部始終を見ていたわけである。当然のことながら自分たちも無事ではすまないと思い始めていた。
街の中はパニック状態だった。住民を人質に取る冒険者たち。必死に抵抗する住民たち。それを見下ろしているマリーも困ってしまう。何の罪もない人たちはなるべく巻き添えにしたくないのだ。
「ミラさん、あの魔族に従った人だけ分けられますか?」
もうひとりの巨人の少女の答えは、少なくとも街の住人はほっと胸を撫で下ろすことになった。
「簡単だよ。あいつの匂いが少しでもついてる人間を集めればいいんでしょ。マリーちゃん、手出して」
マリーが掌を差し出すと、ミラは両手を前に出して集中し始めた。すると、ひとりふたりと宙に浮かんでいく人間が現れる。その数はどんどん増えていき、千人は下らない数の人間がふわふわと浮きながらマリーの掌の上に集められていった。もちろん、街の住人はひとりもいない。ミラの嗅覚はそれほど鋭いのだ。
「で?こいつらどうすんの?」
マリーがミラの質問に答える前に、足元からリサの声が聞こえてきた。なんでも、知っている顔がマリーの掌に向かっていく者の中にあったらしい。
マリーがしゃがんで、人間が山盛りになった掌をリサの前に差し出した。全員が固まって打ち震えているのがわかる。人間からは、この超巨人よりは小さいが、自分たちより遥かに強大な巨人が誰を探しているのかが気になって仕方が無い。
「あ、いた。」
集団に手を伸ばしてひとりの男を摘んで掌に落とすリサ。
「知り合い・・・ですか?」
「やっぱり、あんた・・・近衛師団長・・・」
隣国に何回か行った時に、案内役などを務めてくれた者だった。あんなに紳士的だったのに何故・・・リサの思いは複雑だ。向こうも気づいたようだ。リサの顔を見て地獄に仏というような顔をしていた。
「リサ様、お願いです。お助け下さい。」
「なんで魔族になんか・・・国王様と王妃様はどちらに?追放されたんでしょ?」
その質問を聞いた瞬間、近衛師団長は俯いたまま押し黙ってしまう。
「どうしたの?お迎えしてあなたたちの国を元に戻さなきゃ・・・」
「しょ・・・けい・・・」
長い沈黙がリサを襲う。処刑されたってどういう。だって、国王夫妻は追放されたとあの魔族の執事が言ってたじゃない。
「追放する道中で、私たちが・・・処刑、しま・・・した。」
「な、なんでそんなこと?」
「あの、魔族の命令で・・・仕方なく・・・」
今度は少しの沈黙の後、リサは男をじっと見つめてようやく口を開いた。
「あの世で・・・国王ご夫妻にちゃんとお詫びしなさい。」
ゆっくりと閉じる手の中で小さな果実が潰れる感触が伝わって来たが、しばらくの間リサは拳を握り続けていた。

結局、魔族に加担した冒険者たちは、首都に残っていた冒険者たちを含めてすべてリサとリナの国に連行することになった。また、首都に残っていた中級下級の魔族たちは、ミラの手で、いや指で一掃された。
「ねぇ、マリーちゃん。」
魔界に戻ろうとしたミラが一度だけ振り返る。
「やっぱ、あたしとは友達になれない?」
少しだけ恥ずかしそうにモジモジしているミラ。
「あら、私はお友達だと思ってますけど。」
「え?ほんとっ!?」
ずっど~んっ!!!
身長2500mのミラが3000mのマリーにいきなり抱き付いたので、マリーはその場に倒れこんでしまった。
「約束だよっ!約束だからねっ!またうちにも遊びに来てねっ!」
大地に開けた大穴も、寸前のところで巨尻の直撃を逃れたが青ざめているリサとリナとレンの存在も全く無視して、マリーの身体をぐいぐいと押し付ける。これ以上レンたちに近づかないように、マリーは必死に身体をよじっている。
「は、はいっ、あのっ、私からも、お願いがっ・・・」
「なぁに?」
「レンさん達は私の大切な友達です。だから・・・」
「もう、仕方ないなぁ。じゃあ、あんたたちとも友達になってあげるよ。」
超上から目線での物言いだ。特にリサがムッとしたが、リナが慌てて止めに入る。
「おねえちゃん、魔王に勝てるわけないでしょ?」
そうだった。こう見えてもミラは魔界最強の魔王様なのだ。
「そうだよぉ、でも小指で戦ってあげよっか?それでもハンデになんないかもねぇ。」
「そんなことしたら絶交しますよ。」
「え~っ!?わかった。絶対しないから。ねっ。」
マリーもミラノ扱い方を心得始めたようで、魔界最大最強の少女もマリーにはもういろんな意味で敵わなくなってきていた。だが、本人はあまり気にしていないのは態度から明白だ。
「じゃあ、まったね~っ!ちゃんと遊びに来てよ~っ!」ミラはスキップで巨大地震を引き起こしながら魔界へと帰って行った。