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※ 本シリーズには、サイズフェチ界隈に関する
多くのパロディや小ネタが仕込まれています。
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【星立巨人王学院】
【その1】
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【プロローグ】
抜けるような青空に昇った太陽が、町を照らす。
流れる雲は地球の画家が見れば唸るほど美しく、近隣いちばんの霊験あらたかな神社から見下ろす景観は、どの星よりも綺麗――
という売り文句で分譲中の、よく言えば幻想的、悪く言えば片田舎っぽい大型惑星。
中心地とは名ばかりの住宅街には、近辺では最も大きな建物、病院が併設されていた。
「…………」
ピッ…ピッ…ピッ…
患者に接続された計器から定期的に流れる音が、他の音のない静かな部屋に流れる。
ベッドの隣の椅子に座った少女は、黙って患者の顔を見つめた。
白い肌。
青く長い髪。
白雪姫のように眠る彼女の顔は、少女にとって見飽きたほどウンザリする顔だった。
新聞の一面を飾る写真。学院のあちこちに飾られた写真。テレビや雑誌や広告や――自宅の写真立てにも。
「…………」
「……あのぅ。ベレッタちゃん……?」
病室の入り口で、沈痛な面持ちでうつむいていた親友がおそるおそる声をかけた。
ベレッタ、と呼ばれた少女は身じろぎもしない。
「…………」
「そろそろ出ないとぉ……その、女医さんも検診しないとって言ってたし……」
ガタッと椅子を鳴らしてベレッタが立ち上がり、彼女はビクッとすくみあがった。
患者を振り向くこともなく、ベレッタはさっさと親友の横を通り抜けて病室を出て行く。置いていかれそうになった二人目の少女は慌てて、眠り続ける患者におじぎをして病室を飛び出した。
「ベレッタちゃん、待ってよぉ」
「……ねえ、フジノ。院長先生、なんて言ってたかしら?」
「へ? ……あー」
口数の少ないベレッタの質問に、フジノは少し考えてから、ポンと拍手を打った。
「たしかぁ、体に外傷はなくて、原因が解らないって……」
「当然よ。……『あいつ』は、将来有望な巨大化能力者なんだから、並みの通り魔に負けるわけない」
廊下で心配そうに立っていた女医を無視して突っ切り、慌ててそちらにもおじぎをするフジノを置いて病院を出て行く。
太陽の陽射しに、まぶしそうに片手で光をさえぎって目を細めたベレッタは、空を見上げたまま、追いついてきたフジノに言った。
「……フジノ。あたし、決めたわ」
「ふぇ?」
「あたしは『あいつ』を倒したやつを倒す」
ベレッタの言葉に、フジノはとっさに「危ないよ!」と叫んだが、すぐに別の驚きで彼女を見た。
「でも意外だねぇ。ベレッタちゃん、お姉さんのこと大嫌いだと思ってたのに」
「……カン違いすんじゃないわよ」
じろっと怖い目で睨まれて、フジノはビクッとした。
「あたしが、その通り魔に勝てば……あたしが『あいつ』より強いことが証明されるじゃない」
「……あぅ。そーゆー意味かぁ」
「あたしは本気よ、フジノ。
絶対に、『あいつ』を負かした通り魔を踏み潰して、『あいつ』よりも強くなってやるわ!」
ベレッタは吼えるように叫び、フジノは何か言いたげに手を伸ばしたが、肩をすくめただけだった。
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【第一話】
【おちこぼれの巨大娘】
――星立巨人王学院。
他の星では危険を伴う、巨大化・縮小能力者の育成に特化した専門機関。
その歴史は古く、かつて「巨人のちからは欲しい。けど自分の町は壊されたくない」と思った王様達が、
ちょっとぐらい暴れられてもあんまり害がない、田舎の惑星に学校を造った……
という黒歴史が、脈々とウワサされている。
巨大化能力を持つ者、縮小能力を持つ者の全てが対象となるが、入学は強制ではなく自由。
ベレッタとフジノも、いちおう、この学院の高等部二年生だった。
「――能力には、大きく分けると、ふたつあります」
ここは、初歩的な講義を行う中等部一年生の教室。
今は『科学』の時間だった。
教壇に立つ美少女が、少女というには落ち着き払った声音でささやいた。
正確には彼女は『教壇に座って』おり、行儀が悪いはずが謎のプレッシャーを放っている。
一部の生徒から『女王様』と呼ばれる理由はこのあたりにあった。
「巨大化能力と、縮小能力。……ここからさらに、対象が『自分』であるか、『他者』であるかで分化します」
美少女は、教室の奥の席で居眠りしていた男子生徒に視線を飛ばした。
「そこのあなた。こちらに来なさい」
「へ……え、えぇ!?」
「科学だとか化学の授業は、だいたい実験をやるものでしょう?」
呼ばれた男子生徒の目が、売られる子牛みたいになったが、美少女は構わず微笑む。
妖艶に。
「さぁ、早く」
「うぅ……」
とぼとぼと教壇の前まで来た男子は、黒板の前に置かれた何かの装置に近づいた。
美少女はポケットからボタンつきリモコンを取り出し、手元でもてあそぶ。
「さらに、皆さんの能力はそれぞれ『方法』が違っています。時間制限つきで発動できる能力……特定の条件を引き金に発動してしまう体質……もとから巨大だったり小さい種族」
「あ、あの、先生っ――」
「特殊なところでは、特定の道具を使用するエキスパートもいます」
ポチッとボタンを押す。
装置からまばゆい光が放たれ、男子生徒の姿が瞬く間に縮んで消えた。
美少女は教壇を降りると、足元を逃げ惑う小さな男子生徒のすぐ隣に足を踏み下ろす。あきらかに楽しんでいる様子で何歩かなぶった後、彼女はそれをつまみあげた。
「道具を使う方法は一見便利ですが、過信してはいけません。道具を手放すことがないように」
そう言うと、美少女は手のひらに乗せた男子に吐息を吹きかけて手のひらから追い出した。
ふぅっと吹き飛ばされた男子生徒は、前列に座っていた女子生徒の口に飛び込む。
「あ、飲んじゃった」
ごくんとのどを鳴らしてしまった女子生徒がつぶやく。
昼休み目前でエモノを待ち構える胃袋に対して、縮小された男子生徒が抗うすべはないが、美少女はスルーしていた。
「中には、他と違って無制限ともいえる能力――『感情や意志』を引き金にする場合もあります」
教壇に腰を下ろした美少女は、少し残念そうな顔をして、教室のドアを見た。
「……このタイプは、感情次第で高い能力を引き出せますが、その逆も然りです。高等部の、あの子も――」
その時、昼休みを知らせるチャイムが鳴った。
「あら、残念です。続きは、次の科学の授業にしましょう」
一瞬浮かべていた表情はすぐに笑みに戻り、美少女は授業終了を明言した。
「――ふぁぁ。おはよう、フジノ」
「うん、おはよぉ。……よく寝てたねぇ」
高等部の教室。
ベレッタを揺り起こしたフジノは、恨みがましげに目を細めた。
ふああ、とあくびをかましたベレッタは、席を立つ。
「……フジノ。行くわよ」
「え!? ちょ、ちょっと待ってよぉ!」
さっさとどこかに向かおうとするベレッタに、今まさに楽しみにしていたお弁当を出そうとしていたフジノは慌てた。
基本身長でも、基本胸囲でも、ベレッタの方がフジノよりも小さい。しかし主導権はベレッタにあった。
「もー! 通り魔をやっつけるって言うから、まじめになるのかなーって思ったのに!」
「……ねえ、フジノ。この学院でいちばん強いやつって誰かしら」
「へ? なんで?」
「…………」
口をつぐむベレッタだが、フジノは慣れた様子で会話を続行する。
「そーだなー。保健室の先生が怒らせると怖いってのは有名だけどぉ」
「ふーん。じゃ、そこに行くわよ」
「あ、でもでも、先生達はみんな忙しいから、いつも持ち場にいるわけじゃ……というか、どうして強い人を探すの?」
「……『あいつ』が、ただの通り魔に負けるわけないからよ」
フジノの目が点になった。
「……や、あのね、ベレッタちゃん。わたしは『強そうな人』を言っただけで……通り魔なんてする人じゃないよ?」
「他に『強いやつ』に心当たりがあるの?」
「たくさんいるから選べない……」
くるっときびすを返して保健室に向かおうとするベレッタ。
フジノはとっさに彼女のツインテールをつかんだ。
「だ、だめだってばぁ!」
「あだっ!? い、痛い痛い! 放しなさい!」
「信じてぇ、ベレッタちゃん! あの先生は悪いことしないもん!」
うるうると潤んだ瞳で見つめてくるフジノ。ドジでよく転ぶ彼女のことだから、保健室にもよく顔を出しているのだろう。
ベレッタは不服そうに口ごもったが、結局ため息をもらした。
「……わかったから放しなさい」
「信じてくれるベレッタちゃん大好き♪」
ぎゅー、と小柄なベレッタを抱き締めるフジノ。
たわわに実ったおっぱいが、ベレッタの鉄板胸に押し当てられる。
「……個人的に、まずはあんたを踏み潰したくなってきたわ。けっ」
「や、やさぐれてるよ、ベレッタちゃん! 不良になっちゃうよぉ!」
「どうせあたしはデキの悪い不良品よ」
ツンとそっぽを向いて、フジノを押しのける。
むくむくと大きくなったベレッタの体は、いつもの二倍近いサイズになっていた。
廊下を歩いていたこびとの男子生徒を、文字どおり蹴散らしてずんずん歩く。
「ほら! 邪魔よ、あんた達! 踏み潰されたくなきゃ退きなさい!」
「あ、あのー、どこ行くの?」
「購買部!」
無気力、気まぐれ、怒りっぽい。
組分けで顔を合わせてから1年と2ケ月、2年生になるまでにフジノが分析したベレッタの性格の三大構成要素だ。
いつもはフジノのお弁当を分けてもらって済ましていたが、今日は購買に行くらしい。
フジノは肩をすくめた。
「……そっか、知らないんだねぇ。ベレッタちゃん」
お昼休みの購買部が、どんな修羅場かを――。
星の半分近い敷地を持つ、桁外れに巨大な学院。
必須となる巨大な校舎の内外を、人間サイズでも通れる廊下や通路が入り組んでいるため、構造はかなり迷路じみている。
屋上やグラウンドから遠くに見ることができる美しい霊峰には、山と同じく巨大な身長計が添えてあり、この星を象徴する名物となっていた。
そんな学院で、『購買部』はかなり頑丈なシェルター並みの強度を誇り、さらにグラウンドの隅に設置されていた。
買いに来た生徒達が何をしても、本体の校舎が破壊されないように――。
校舎の天井や床が抜けるのは日常茶飯事だが、さすがに平日12:20になるたびに校舎を破壊されては堪らない。
そして、今日もまた。
「うおおおお! 肉! 肉ぅぅ!」
「ぎゃあああああああ」
「突撃ィィィィイイイイイイイイ!!」
「ひとつくれ!」
「もういいから出してー!!」
巨大化する少女やら美少年やら、相手を縮小するアイテムが飛び交い、押し合う生徒達の悲鳴と怒号が混ざり合って阿鼻叫喚の地獄を作り出す。
中には、どさくさに紛れて他の生徒を捕まえて丸呑みにしている女子高生もいたり、文字どおりの修羅場である。
基本姿勢が無気力のベレッタとしては、彼らがそこまで駆り立てられる意味が解らない。
「なん…なのよ…」
「――全く、飢えた時代でもあるまいにパンひとつで嘆かわしい……いい加減にせんか、貴様ら!」
ボーゼンとするベレッタを一歩でまたぎ越した生徒指導部の先生が突撃し、暴れる生徒をつまんでは投げ、つまんでは投げ……
……そんな喧騒の20分。
嵐が過ぎ去るのを待っていたかのように、フジノが追いついてきた。
「じゃ、行こっか?」
「……そ、そうね」
気を取り直したベレッタは、グラウンドを横切って購買部に向かった。
シェルターみたいな購買部は踏まれたらしく足跡がついていたが、見事に残っていた。
奥の方で、食料を詰めた箱やらを台車で押して走り回っていたひとりが、ベレッタ達に気がついて駆けてくる。
ちなみに購買部で作業しているメイド達は、みんなそっくりの顔をしていた。
「いらっしゃいませですの。ソラツオーベル裏商会にようこそですの!」
「……何かある?」
「へ? ……な、何かと言われると困りますの」
売り子のメイドは、おろおろと後ろを振り向く。
気づいた他のメイド達も集まってきたが、お互いに「ですの」とか「ですの」とか言い合っているばかりで結論が出ない。どうやら容姿だけでなく、頭の中身もそっくりらしかった。
一方、ベレッタの方もフジノに小突かれていた。
「ベレッタちゃん、いきなり『何か』って言われても店員さん困っちゃうよ……」
「……どう言えばいいのよ」
「食べたいもの言えばいいんじゃないかなぁ」
「…………」
空腹ではあるが、特に好物のないベレッタにはよく解らない。
店頭に並んだケースに、まばらに残った食べ物。
ハンバーガーやら、切ったピザやらだったが、いちばん近くに、焼きそばパンがひとつ残っていた。
「……これでいいか」
手近にあったというだけの理由で手を伸ばした時――
「待ちたまえ! そこな少女!」
妙に芝居がかった、というか、時代がかった少女の声がした。
振り向くと、いかにも良家の子女といった様子の黒髪ロングが、後ろに神官みたいなのを従えていた。
「……何か用?」
「ひとに名を尋ねる時は自分から名乗りたまえ!」
「いや、名前は聞いてないわよ」
「私の名はソレイユ! 私と君の仲だ、ソレイユさんと呼んでくれていいぞ!」
ベレッタの反論をものともせずに、黒髪少女は勢いをつけてベレッタを――否、焼きそばパンを指差した。
「時に少女! 古来より続く伝統美は知っているかね!?」
「……は?」
「学生達は、焼きそばパンをめぐって争いあう……そんな美学があるのさ!」
うっとりしたソレイユは、めらめら燃えながらベレッタを見すえた。
「というわけで! その焼きそばパンをめぐり、激しく拳を交えようじゃないか! そして友達になろう!」
「……いや、欲しいならあげるわよ」
「べつに焼きそばパンはどうでもいい!」
ソレイユにきっぱり言われて、野次馬のように身を乗り出していたメイド達が「ですのー!」とショックを受けた。が、それこそ本当にどうでもいい。
「……面倒なやつ。戻るわよ、フジノ」
「えええ!? 戻ってもお弁当を食べる時間ないよぉ、ここで買おうよぉ」
「戻るまでに歩きながら食べるわけ?」
「――ほほう。逃げるのかい?」
ソレイユの言葉に、ぴくっとベレッタの肩が動いた。
「……逃げる?」
「ああ、そのとおりだ。伝統美から逃げること、これすなわち、焼きそばパンに対する冒涜!」
「…………」
アツく宣言するソレイユに、ベレッタは向き直る。
それまでずっと彼女の後ろに控えて黙っていた神官ふうの少女が、ソレイユの耳元でぽつぽつとささやいた。
「……熱く……なりすぎないで……」
「うむ、考慮する。では始めよう!」
忠告に対してあっさり返答したソレイユ。
その体が、ベレッタの見ている前でぐんぐん大きくなっていった。
身長17メートル近くになった巨大な黒髪少女が、両手を腰にあててベレッタとフジノを見下ろす。
「ふふふ……ただでさえ可愛い君だが、人形のようだともっと可愛いな」
ズズン、と校庭にうつぶせになると、ふたりの頭をつんつんとつっつく。フジノは「あぅあぅ」言っていたが、ベレッタはされるがままだ。
「…………」
「さぁ、君の番だ、可愛い少女」
「…………」
ベレッタは、ふー、とため息をついた。
「ん? どうかしたのかい?」
「ベレッタちゃん?」
「…………なんか、やる気が出ない」
ぼそっとベレッタが言った途端、ソレイユの笑顔が引きつった。
慌てて前に出るフジノ。
「ぴ、ピンチヒッター、フジノぉ! 行きますっ!」
制服のポケットから引っ張り出した小粒チーズを、ばくっと口に放り込む。
途端に、フジノの体が大きくなり始めた。
伸縮性があるとはいえ、フジノは巨大化と同時に胸が大きくなる性質もあるらしく、制服が胸に引っ張られておへそが丸見えになっていく。
あっという間に、ベレッタが視界の下に離れていった。
その身長、16メートル。
「乳製品さえあればぁ、私は負けないもん!」
ふんっと不慣れな戦闘ポーズを取るフジノ。
同時に、膨張した胸が、大きく上下左右に弾む。
立ち上がり、彼女と向き直ったソレイユは、何か思い当たったように「ああ」とつぶやいた。
「乳製品系アイテムを使って巨大化……そうか、君がウワサのフジノ君か?」
「だ、だったら、なに?」
「君のウワサはよく聞いていてね……例えば!」
ソレイユは、フジノに体当たりするように押し倒した。
ずずんっとグラウンドが少し揺れるが、ソレイユは構わず、フジノに体を重ねていく。
ふたりの豊満な胸が、ゆっくり近づく。
いつの間にか、そこにはベレッタが置かれていた。ソレイユが人形のようにわしづかみにして、フジノのまるまると膨張した胸の上に置いたのだ。
「ふぇぇ、ベレッタちゃんが私のおっぱいに……!」
「な、何する気よ……!」
「ちょっと興味があってね……それに、これがこの学院のやり方じゃないか」
頬を少し紅くしたソレイユは、フジノの上に体を下ろした。
「相手に勝つこと! ……巨大化能力は、あくまで手段さ」
「むぎゅッ」
推定Eカップのソレイユと、推定Hカップのフジノに挟まれて、両者のバスト間でベレッタは押し潰されていく。
「あぁっ、ベレッタちゃん!」
抵抗しようとするフジノを押さえつけて、ソレイユは体を前後させる。
ずりずりと胸同士がこすれあい、間に入ったベレッタが異物となって刺激を与える。
ベレッタ自身も抵抗しようとしたが、10倍の背丈を持つ巨人達には抗えない。
「あっ……あん……」
フジノの口から、心地よさそうな声が漏れた。
「ウワサどおりだね。感度がよすぎるのか」
「う、うぅ……だめぇ、気持ちいいよぉ……」
「巨大化しても、自分より遥かに小さいこびとに触れられただけで興奮してしまうとか……たしかに、巨人としてはオチコボレ扱いされてしまうのも仕方ないか?」
ソレイユは強引に体を沈み込ませ、ベレッタを互いの胸でサンドイッチにした。身動きが一切とれなくなり、抵抗を感じなくなる。
押さえつけたフジノの唇に吸い付き、脚を絡ませた。
「ふふ……私も少し、興奮してきたよ……!」
頬をほてらせたソレイユの体が、またもや巨大化を始める。
フジノの視界までもが、ソレイユの胸に遮られるようになっていく。うつぶせになった彼女の胸の下で、フジノは押し潰されていた。
「おっと、このままだと窒息させてしまうな」
ズズンと立ち上がったソレイユは、人形サイズのフジノをわしづかみにして持ち上げた。
「うぅっ……」
「ふふふ。今、アイテムの効果が切れたら、私の完全勝利だろうね」
フジノは気丈にもソレイユを睨みつけたが、指でぐりぐりと乱暴に胸をもまれると、意思とは無関係に快感を与えられてぐったりしてしまう。
「はぅっ……あん……♪」
「ところで、さっきの少女はどこに行ったのかな? 100倍程度なら見失うはずないんだが――」
「……調子こいてんじゃないわよ……チビ女」
声は、遥か上空から聞こえた。
「へ?」
ソレイユが思わず背後の頭上を振り向くと――
柱のように大きな細足と、その上で風にはためくミニスカートが見えた。
さらに上からは、怒りに顔を引きつらせたツインテールの美少女が見下ろしている。
「こっちがおとなしくしてりゃ、調子に乗って……あたしは今、意味もなく目立つことは避けたいのよ!」
「な、なんだって……だから戦いを避けごふっ!!」
ズシンッと、ベレッタの靴がソレイユを踏んづけた。
ソレイユの20倍近く、170メートル近い巨人のソレイユも、ベレッタから見れば8センチ程度のこびとである。
靴の下でぐりぐり踏みにじられて、校庭にめり込んでいく。
「当然でしょ! こっちはどうしても通り魔をぶち倒したいのに、先生達にバレたら面倒じゃない!」
「……ベレッタちゃん、さっき保健室に殴り込もうとしてたよね……」
「それはそれ! まずはアリバイを聞こうと思っただけよ!」
フジノの声を敏感に聞き分けたベレッタが、ズドン! とソレイユをちからいっぱい踏みつけた。
「ぐぇっ……!」
思わずフジノをぶん投げてしまうソレイユ。
「ひょええええええ!?」
「……あ……」
10倍サイズのまま宙を舞ったフジノは、それまで状況を静観していた神官服の少女に向かっておしりから突っ込んでいく。
ごしゃあああああ!
「あたたたたた……」
「……大丈夫?」
「あ、はーい……って、いつの間に!?」
神官服の少女は、フジノのおっぱいの上に、ちょこんと乗っかっていた。
「……私はいい。問題はあちら」
少女が指差した方向では、今まさにベレッタと同じく巨大化したソレイユが、ベレッタと睨み合っているところだった。
「ふふふ……そうだ、それでいい! ついに本気になったか、少女よ!」
「……ったく、めんどくさい! もういっぺん泥まみれにしてやるわ!!」
ベレッタとソレイユの双方が、意識を巨大化することに集中しようとした時――
ずずんっ、と地響きがした。
3000メートル超の巨人でさえ、一瞬、宙に浮くほどの破壊力――。
ソラツオーベル裏商会のメイド達がそそくさとシャッターを閉めて防御する中、4人の女生徒はおそるおそる頭上を見上げる。
さんさんと照りつける、お昼過ぎの太陽の下――
帽子に十字架の模様をつけた美女が、にっこり笑って立っていた。
「――皆さん。とっくに午後の授業は始まっているはずですが?」
ただし、目は笑ってない。昼休み終了のチャイムから、すでに30分が経過しようとしていた。
フジノが「ほぇぇ」とつぶやく。
「やっぱり大きいなぁ……保健室のエリザ先生」
「こいつが!?」
ベレッタがうっかり「こいつ」呼ばわりしてしまった途端、エリザ先生の額に、ぴきっと青筋が走った。
「あ……」
「これは……」
「ふぇぇぇぇ……」
ベレッタ、ソレイユ、フジノの顔が青ざめる。
「……校舎に戻りなさ――いっ!!!!」
雷鳴のように轟き渡った声が、グラウンド全体を直撃した。
「……あ、あれが教師の本気……なんておそろしい」
「それは、ベレッタちゃんが怒らせたりするから……」
ベレッタとフジノは、音の衝撃でダメージを受けた耳の治療を終えて、保健室を出た。
巨大化しているエリザ先生は声だけで相手を圧倒するほどの巨大さだが、同時に治療能力も突出している。もう痛みはなかった。なぜか焼きそばパンが軽くトラウマになっていたが。
「だいたい、あいつが絡んできたのがそもそもの原因――」
「そこな少女!」
いきなり、先に治療されて出て行ったはずのソレイユが駆けてきた。
後ろには、神官服の少女を引き連れている。
「…………ケガ、平気みたいね」
「あの先生に治せないケガはないよぉ」
フジノが信頼しきった笑顔を浮かべる。
その瞬間、ソレイユが叫んだ。
「うんうん! 信じる心は美しいッ!」
「!!」
ベレッタとフジノが慌てて保健室を振り返るが、エリザ先生が顔を出す様子はない。しかし「廊下では静かに」と張り紙がされている以上、注意しに出て来る可能性は否定できない。
「く、くぅっ……このあたしが、ここまでプレッシャーを感じるですって……?」
「ふふふ! そうだ! それでこそ、友というものだ!」
「あんたじゃないわよ!」
今にも巨大化しそうになるほどイライラしていたベレッタだったが、ふと気がつく。
「……友? って言った?」
「いかにも! ……恩師の治療を受けながら、ずっと考えていた。君との勝負は、まだついていない!」
「永遠につかなくていいわ」
「そこでだ! 君を、私の好敵手(とも)と認めようというわけだ! ありがたく思いたまえ! 私もありがたく思うからな!」
黒髪美少女が熱血の高笑いを上げる一方で、ベレッタはがっくりと肩をすくめた。
「……だから、目立つことは、やめたいってのに」
「あ、でもさー。ベレッタちゃん?」
ふと思いついた様子で、フジノが言った。
「ほどほどに目立つようにすれば、通り魔さんの方から来てくれるんじゃないかな?」
「なんですって?」
「だって、ほら、ベレッタちゃんのお姉さんを……アリティアさんを狙うようなひとだもん」
確かに、ベレッタの姉――『アリティア』は、最近では、この星一番の有名人だった。いわゆる『時の人』というやつだろう。
星立巨人王学院、首席卒業。
学院の代表として、地球との親善大使に任命。
若干19歳にして、宇宙連盟総長と会見。
テレビでもラジオでも雑誌でも――姿を見ない日はないぐらいの。
「…………」
ベレッタは唇を噛み締めた。
「……確かに、『あいつ』ほど目立ってたやつもいないわね」
「あ、でもでも! そ、そんなに目立っちゃうのもどうかなぁ、なんて……」
「ふん。やるからには徹底的にやるわよ」
ぐっ、とベレッタは握り拳を作った。
「……この星にいるやつで『あいつ』に勝てる人間は、この学院のどこかにいる巨人のはず。そいつを探しながら、目立つように行動して、犯人を引きつける。そして……」
続けて、ぶん、と手を横に振り払う。
「あたしが、その通り魔を倒して……『あいつ』よりも強いことを証明する!」
「べ、ベレッタちゃん……」
「カン違いしないで、これは敵討ちなんかじゃない、あたしのためよ。だから手段は選ばないわ。……でも」
はっきりとフジノに告げたベレッタは……ちらっ、とソレイユに視線を向ける。
ソレイユは意味もなく腕組みして笑っていた。
「うん、元気なことはよいことだぞ、少女よ! それでこそ、私の好敵手(とも)だ! ふふふふふっ!」
「……こいつとだけは、二度と戦いたくないわ。めんどくさい」
「悪い人じゃ、なさそうだしね……」
ベレッタとフジノは、ふたり揃ってガックリと脱力した。
――その頃、保健室。
廊下から聞こえる、生徒達の声を耳にして。
お茶をすすりながら、使うことのない医薬品と一緒に魔術書の類が収まった戸棚を見つめたエリザ先生は、ぽつりとつぶやいた。
「……復讐なんて……何の意味もありませんのに」
戸棚には、卒業式の日に撮ったアリティアの写真が、飾られていた。
【つづく。】
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【主要人物】そのいち
1
・ベレッタ
→主人公。二年生。性格はかなりものぐさ。感情系の巨大化能力。
(地上最大の山「エベレスト」から命名)
2
・フジノ
→パートナー。二年生。面倒見のいい巨乳で、巨大化するとさらに膨乳する。アイテム使用系(乳製品)の巨大化能力。
(日本最大の山「富士山」から命名)
3
・ソレイユ
→ライバル。二年生? 外見は黒髪美少女だが中身が熱血系。感情系の巨大化能力?
(太陽系最大の星「太陽」の外国語から命名)
4
・神官服の少女
→ソレイユのパートナー。二年生? 口数が少ない。能力は不明。
(???)
5
・エリザ先生
→保健体育の先生。状況作用系(陽光)の巨大化能力。
(ゆんぞ様からお借りいたしました。ありがとうございます。
ちなみに西洋圏の「エリザ(エリザベス)」という女性名には「神の誓い」というステキな意味があるそうです)
6
・シフォン軍団
→購買部『ソラツオーベル裏商会』の店員。口癖は「ですの」。
(リリィとの差別化(笑)で被食系にしたかったので、食べ物の名前を適当に命名)
7
・青髪の美少女
→科学の先生。装備品使用系(装置)の縮小能力。
(青い髪で科学と言えば、超有名なあの方です。
固有名はもとからないので出していませんが、ありがとうございました)
8
・アリティア
→ベレッタの姉。卒業生。かなり強い能力の持ち主。
(「不思議の国のアリス」から命名。外国での『アリス』はだいたい『アリティア』の愛称だそうです)
◆