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※ 本シリーズには、サイズフェチ界隈に関する
多くのパロディや小ネタが仕込まれています。
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【星立巨人王学院】
【その2】
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【第二話】
【アイドルオタクと教育指導】
星立巨人王学院、高等部3年。
ソレイユの華麗なる一日は、下駄箱のラブレターから始まる。
「まったく……青春とはいいものだな!」
「…………そうね」
後ろをついて来ている神官服の少女が、ポツリとつぶやく。
「……それで……また、全員にお返事を書くの……?」
「うむ。誠意には誠意で返す。好意には好意で返す。これぞ清らかな学生というもの!」
「……今日は予定が詰まってる。……茶道部、弓道部、書道部の練習に間に合わない……」
「う? ……そ、それはだな、むぅ」
ソレイユは考え込んでしまう。
「部活動をサボるなどという行為は、学生としてあるまじき冒涜だ……だが、だがしかし! 私を慕ってくれる者への誠意を示さないという選択肢は、私にはない!」
「…………」
「くっ、歯がゆい……いったい、どうすれば――」
「――ふん! 口ほどにもないわね、ゴミどもが!」
「ん?」
ソレイユと少女は、下駄箱の向こうから聞こえた声に気づいて顔を覗かせる。
そこには、暴れるツインテールの巨大少女と、それを止めようとする膨乳巨大少女がいた。
「なにが学院イチの巨人暴走族ですって? 蹴散らしてやるわ!」
「ベレッタちゃん、やりすぎだよ! 落ち着いてー!」
「あんたの胸もムカつく!」
星立巨人王学院、高等部2年。
ベレッタの華麗なる一日は、巨大化と暴走から始まる。
「お、おっぱいは巨大化すると大きくなるから仕方ないんだよぅ」
「あたしの胸は大きくならないわよ! ちくしょー!」
ゴガァァァァ! と下駄箱もろとも暴走族を蹴飛ばすベレッタ。
やつあたり気味なローファーの直撃をくらったモヒカン男は、体を「く」の字に折り曲げながら壁に叩きつけられた。
「うごぇっ」
「あわわわわ……ごめんなさい、ごめんなさい! 今、保健室に連れて行きますからぁ!」
ベレッタが暴れ、吹っ飛んだ男達を片っ端から回収してポケットに収めていくが、さすがに数が多くてポケットがいっぱいになってしまう。
仕方なく、巨大化と同時にさらに大きくなった胸の谷間に、男達を押し込んでいく。
「大丈夫ですかぁ、せんぱいさぁん!」
「ひぃぃぃぃぃ!」
逃げ惑う男を捕まえ、胸の谷間に入れていく。
それはそれで彼らにとっては高威力、むしろ逃げ場のないトドメになっていたが、フジノは気づいていない。
しかも慌てすぎて、登校してきた無関係な男子生徒も捕まえていた。
「ぎゃあああ!」
「たすけてー!」
「おれは無実!」
「もー! ベレッタちゃん、いい加減にしないと先生が来るよ!」
「……ちっ! 命拾いしたわね!」
もはや、どっちが不良だかわからない。
ずんずんと廊下を教室に向かっていくベレッタ。その後を、同じくズンズン足音を立てながら……ついでに、男子をたくさん捕まえた胸を上下左右に激しく弾ませながら、フジノがついていく。
「あん、待ってよぉ、ベレッタちゃーん!」
「……あんた、保健室にそいつら連れて行くんじゃなかったの?」
「はっ!」
去っていくベレッタを見た瞬間に忘れていたらしい。慌てて保健室に走っていく。
「え、エリザ先生ー!」
「ったく……フジノったら天然ね」
「いや、ため息つきたくなるのは、フジノ君の方だと思うが……」
「…………同感……」
腕組みするベレッタの足元で、少女を引き連れたソレイユは肩をすくめた。
「生徒指導室ですって?」
休み時間になり、紙パックのイチゴジュースをすすっていたベレッタに、フジノは頷いた。
「なんで、あたしが呼び出されなきゃいけないのよ」
「……一週間前、こびと覗き魔を踏み潰し……五日前、風紀委員とトラブルになった女子生徒をちからづくで黙らせ……三日前、小等部でイジメを行っていた子を登校中に襲撃……今日、昇降口を破壊しながら多数の生徒を暴行」
「ふん。褒められてもいいぐらいだと思ってるわよ。ケガなら、保健室に行けば完璧に治せるんだし」
「トラウマが全治六ヶ月コースだし、おとなは問題を起こしたくないんだよぅ……」
ほとんど涙目になりながら、フジノは言った。
「……先生、保健室の隅っこで、ひざ抱えて泣いてたよ……『さすがにもう、かばいきれそうにありませんシクシク』って……」
「……なんか、すごく悪いことした気分だわ」
「実際してるからね、うん」
「今度から先生に迷惑かけないように、こっそり闇討ちしないといけないわね」
「そうじゃないでしょー!?」
フジノが絶叫する。
はっ、とベレッタは目を見開いた。
「……そうね、うっかりしてたわ。目立たなくちゃいけないのに」
「だから、そういう意味じゃないよぉ……」
ぷしゅーと燃え尽きて、机に突っ伏してしまうフジノ。
その時、ガラリと教室のドアが開いて、当のエリザ先生が入ってきた。
キーン…コーン…カーン…コーン……
「えっと……二時間目、保健体育の授業を始めます。皆さん、席に着いてください」
がたがたと椅子を鳴らして席に着く生徒達。
彼ら、もしくは彼女らの席に、前から順番にひとりずつ「教材」が配布された。
今日の教材は、自分から縮小能力を使って人形ぐらいに小さくなった、先輩の3年生(女子)だ。
「あ、あのぅ……よ、よろしくね。フジノちゃん」
フジノの手のひらで、おずおずと上目づかいに後輩を見上げる先輩。
胸元の名札には、『エティ』と書かれていた。
絵本に出てくるかのような、ふりふりのエプロンドレスがなんとも可愛らしい。
「よろしくお願いしまぁす、エティせんぱぁい♪」
「えへへ……わたし、ちっちゃいから、おてやわらかにね」
照れるように微笑むエティ先輩。
エリザ先生が、教卓の上に段ボールを乗せた。
「ひとより大きな体と、力を持つからには、それを制御する方法を覚える必要があります。遊び道具を用意しましたから、先輩と仲良く触れ合ってください」
段ボールに入れて持って来たのは、ネコじゃらし、ハムスター用のからから回すやつ、マタタビなど。
あきらかに小動物を対象にしていた。
「せ、先生……?」
思わずフジノがツッコもうとしたが、ふと、手の上に乗ったエティ先輩がきらきら目を輝かせているのに気づく。
縮小能力を持って生まれた彼女達の感覚は、フジノとはちょっと違うらしい。
試しにネコじゃらしを受け取って、先輩の頭上で揺らしてみた。
「……せんぱーい。ふりふり」
「やーん、いじわるしないでー」
ぴょんぴょんと素直にジャンプするエティ先輩。鼻血が出そうな可愛さだった。
小さいわりに大きな胸が、上下に弾んでいるのはともかくとして……
「か、かわいいよぅ」
「あん、まってよー、にげちゃだめー」
とたとたと机の上を走り回る先輩。フジノの母性愛が限界まで高まり、思わず熱っぽいため息をついてしまう。
お持ち帰りしたい……。
ペットとして、金魚鉢か何かに入れておきたい。
そんなことを感じた時――
「……あの、先生。なんで、あたしのとこ張り付いてん…ですか?」
噛み付きそうなぎこちない敬語で、ベレッタが言った。
ベレッタの机のすぐ隣に立ったエリザ先生が、ほぅ……とため息をこぼす。それだけでけっこう色っぽい。
「だって……心配だから」
「……誤解です、先生。あたしは、悪いやつでなければ何もしません」
机の上で、あぅあぅと怯えたように涙目になっている三年生を、じろりと睨む。
「素直にあたしに服従すれば……」
「それがよくないんですっ! ……もう」
机の上の三年生をちょいとつまみあげて没収した先生は、ベレッタの机をフジノの机とくっつけた。
「ベレッタさんはまず、フジノさんと先輩の接し方を見学してください。いいですね?」
「……ちっ」
「いいですね!?」
「うっ……はい……」
怖い目で肩越しに振り向かれて、ベレッタはしぶしぶ頷いた。
フジノと、その手のひらのエティ先輩は、深くため息をつく。
「……エリザ先生をあそこまでピリピリさせるの、ベレッタちゃんぐらいだよ……」
「こわいものしらずっていうより、ただのおバカさんね、あなた」
「あぁ? チビのくせに、あたしにナマイキな……はっ!?」
我に返ったベレッタの背後には、教育用ハリセンを手にしたエリザ先生が立っていた。
「……くっ……今日はさんざんだわ」
「それ、朝から大量の学生を治療させられた上に、二時間目からさっそくベレッタちゃんと当たった先生のセリフだと思う……」
ぼそっとツッコミを入れるフジノをスルーして、ベレッタはずんずんと廊下を歩いていた。
ぶつけどころのないイライラによって、3倍まで巨大化して身長4メートルを越したベレッタの後ろを、フジノは小走りについていく。
「だいたい、その状態で生徒指導室に行くの?」
「イライラが収まらないのよ!」
「じゃあ、私が収めてあげるね……この、霊験あらたかなツボで!」
ででんっ! とばかり、どこから出したのか、へんな色彩に様式美の混ざった安っぽいツボが出てくる。
あまりのことに、しゅるしゅると本来のサイズに戻るベレッタ。
「わあ! すごい! ほんとに戻った!」
「……あんた、また怪しげな露天商にひっかかったの?」
「怪しくないよ! 効果あったもん、今!」
「いや……うん。まぁ……とりあえず、早いとこクーリングオフした方がいいわよ、それ」
さっきまでの怒りが嘘のように萎えてしまったので、ある意味、効果はちゃんとあったわけだが。
「……ちなみに、それ、おいくらしたのよ」
「12万円」
「あんたバカじゃないの!?」
「――ちょっと、ちょっと。そこの先輩方、今お時間いいですか?」
突然、廊下の向こうから男子生徒が声をかけてきた。
黒い制服の胸ポケットに、なぜかフォークを入れている青年だった。髪が跳ねまくっており、クセ毛が強い。
「ちょっと僕達の署名活動に協力してもらえません?」
「は?」
「しょめい活動?」
「そうなんです。ぜひぜひ、先輩方にもご協力していただきたくて……ぐっふっふっふっふ、でゅっふっふっふっふ」
なんか変な笑い声を上げながら、じりじりと近寄ってくる。
いつの間にか、周囲にはふりふりアイドルのコスプレした女子やら、カメラを手にした男やらがぞろぞろと取り囲んでいた。
「あわわ、か、囲まれちゃったよぅ、ベレッタちゃん……」
「……ふん。ちからづくで署名をぶん取ろうとする連中に、ろくな団体はないわよ」
「なんとでも言ってください……我々には崇高な使命があるのです」
ニヤリと青年は笑った。
「そう……伝説の貴族アイドルを、復活させるという使命が!!」
どどーん!!
青年は勢いよくコブシを突き上げ、高らかに宣言した。
ベレッタとフジノの目が点になる。
「伝説の?」
「アイドル?」
「ふっかつ、ですって?」
ひょこっと、フジノの胸の谷間からエティ先輩が顔を出した。
突然の闖入者にも驚くことなく、青年は力強く頷いた。
「いかにも! 遠く離れた地球、その芸能界において彗星のごとく現れ、貴族出身にも関わらず派手な演出で人気をかっさらい、たった一回の握手会を経て芸能界を去ってしまった……あの伝説のビッグ・アイドルを、再び花咲かせるためにッ!」
「……それ、本人にアイドルやる気なかったら、ただの迷惑行為よね?」
「さぁ! さぁさぁ! 先輩方、いざ! こちらに清き一票のサインをぉぉぉっ!」
署名用紙と羽ペンを手に、全方位から迫ってくるオタク達の群れに、ベレッタは特大のため息をついた。
「……あたし、芸能界とかはよく知らないけど……他の星にまで、こんなめんどくさいファンがつくもんなの?」
「あぅぅ、どうしよう、ベレッタちゃん! このままじゃ本当にサインさせられちゃうよぅ!」
「はぁ……。べつに、危険思想でもなけりゃ悪徳商法ってわけでもないし、サインのひとつやふたつ構わないけど……」
「へー。やさしいのねえ」
フジノの胸の谷間から顔を出したエティ先輩が、お昼ご飯のグリーンピースを大事に抱えてもぐもぐしながら言った。
「あなた、いじでもサインしないかと、おもってたわ」
「ふん。あたしはチビ虫と違って、心が広いのよ」
「でもさぁ」
先輩は、くすっと微笑んだ。
「こいつら、アイドルがスキなわけじゃない? ……めだちすぎのオンナは、ジャマだったかもねえ」
「!?」
はっ、とベレッタは息を呑んだ。
すかさず、さっと胸の谷間に潜り込んでしまう先輩。ベレッタはフジノに駆け寄り、胸の谷間に手を突っ込んだ。
「ほぇぇぇぇ!?」
「ちょっと、あんた! どうしてあたしが奴を探してること知ってんの!?」
「やーん! つ、つままないでよー!」
脚をつままれてぷらぷらと宙ぶらりんになるエティ先輩を、フジノが慌てて奪い返す。
「い、いじわるしちゃダメ!」
「貸しなさい、フジノ! そいつ……!」
「うぅ……あなたがアリティアせんぱいのいもうとなのは、みんなしってるわ。なんとなく、あなたが、だれかをさがしてるみたいだったから……かたきうちなのかな、って」
フジノの手の中で、怯えたように、くすんと涙をすするエティ先輩。
ちっとベレッタは舌打ちした。
「……まぁいいわ。敵討ちってのは全力で否定するけど。さっきのあんたの言い分には、一理なくはない」
アイドルは、目立つことで知名度を上げる商売でもある。
そうしたアイドルを応援しているファンが、同じぐらい――いや、この星だけで言えばワイドショーで持ちきりになるほど目立っていたアリティアを、邪魔者だと感じたとしても不自然な話ではない。
問題は、そんな凶行に走るバカとは、なんかバカのベクトルが違う気がすることだが。
「……とりあえず、叩きのめして聞き出せば済むことね」
「おやおや……素直にサインしてくれればいいものを。でゅっふっふっふ……」
青年は、空にコブシを突き上げた。
「星立巨人王学院、地球芸能同好会! その実力、とくと見――」
せましょう、と言いたかったのだろうか。
青年の目の前に突然、巨大なおっぱいを包み込んだ制服の胸元が現れた。
「……へ?」
「い、いたたた……。んもぉ! ひどいよ、ベレッタちゃーん!」
頭上から声がする。
仰向けになった体勢で、廊下いっぱいを埋め尽くすように巨大化していたのは、フジノだった。
ベレッタは、ミルクキャンディの包み紙をまるめてポイ捨てしながら、ふんと笑った。
「ま、いいじゃない。あたしのおごりだし」
「いきなり、くちに入れられたから味わう前に飲み込んじゃったよぉ……」
乳製品を食することで巨大化する体質系能力者、フジノ。
一気に50倍近く(80メートルぐらい?)になった彼女によって、包囲網を敷いていた会員は、天井につくほど大きなフジノのおしりに潰されたり、体の下敷きにされたりしていた。
廊下に並んだロッカーの一部も、ぐちゃぐちゃになっている。
「……エティせんぱい、大丈夫かなぁ」
制服の胸元からチラリしている豊満な谷間を見るが、エティ先輩の姿はよく見えなかった。
「さて、と。あとは、あんただけよ」
「……く、くくく、くっくっくっく」
残ったのは青年ひとり。しかし、彼は臆するどころか、不気味な笑い声を上げ始めた。
「いいでしょう! 先輩方に、ボクの実力を見せてあげようじゃーないですくぁ!」
しゃきーん! と胸ポケットからフォークを取り出し、天井に掲げる。
「地球芸能同好会、会長、コジローの名にかけて!」
「……なにそれ。フォーク?」
「ふっふっふ。ただのフォークじゃありませんよ」
青年――コジローは、にんまりと笑った。
「このフォークは! 持ち主が小さくなればなるほど威力が上がる、まさに『グレイトなフォーク』! 略して! 『G・フォ――」
「小さくなるほど? あんた、自己縮小系の能力なの?」
「あ、はい。そうですけど、最後まで言わせてくださいよ。……略して! 『G・フォ――」
「自分から小さくなって、あたしとフジノを倒すつもりなわけ?」
「…………ええ、そうですよ」
最後まで言い切るのを諦めたらしく、コジローはフォークを片手に、意識を集中し始めた。
「正確には、このフォーク自体が能力発動アイテムなんですけど……ま、どっちでもいいですよね」
「ま、細かいことは気にしないわよ」
「署名活動のご協力を懸けて……いざ、勝負です!」
フォークが光ったかと思うと、コジローの体が小さくなり始めた。
子供ぐらいになり、フォークを抱えた小さな人形ぐらいになっていく。巨大化していないベレッタでもひとまたぎにできるだろう。
さらに小さくなろうとしたあたりで……
「……ふぅっ」
巨大化状態のフジノが、吐息を吹きかけた。
「のぁぁぁぁぁぁぁ」
どこかに吹き飛んでいくコジロー。
しーん、と廊下に沈黙が広がった。
「……口ほどにもないわ。楽勝だったわね」
「いや、ベレッタちゃん、何もしてないじゃん……」
フジノがため息をついた。
――その時、
びくんっとフジノの全身が震え上がった。
「ふぁっ……?」
「フジノ?」
「な、何か、が……わ、わたしのおっぱい、いじって……っ」
顔を真っ赤に紅潮させ、ぷるぷると震えていたフジノだったが、くたっと力なく崩れ落ちてしまった。
「ふ、フジノ!?」
「――ふぅ、危ない危ない。あやうく、おっぱいで押し潰されるところでしたよ」
突然、ベレッタの耳元でコジローの声がした。
とっさに振り向くが、誰もいない。いや、見えない。小さくなっているのだ。
「あんたは、フジノの吐息で……!」
「ただ小さくなっただけならお掃除されていたでしょう。しかし、ボクの持つフォークは、移動速度を含めた身体能力を向上してくれます。これこそ、グレイトなフォーク! 略して、『G――」
「隠れてないで出てきなさいよ!」
「あの……まぁいいや。ふっふっふ、先輩はどこが弱いんですか? 耳かな? それとも……!」
「へ、ヘンタイが……!」
思わず耳を押さえる。同時に、制服のスカートも。
「あれ? 覗かれるのキライですか、先輩」
「……ッ! 絶対、絶対に踏み潰す……!」
顔を恥辱で真っ赤にしたベレッタの体が、少しずつ大きくなっていく。
廊下だからそれほどは大きくなれない。感情を無理に抑えようとするが、コジローのセクハラは続く。
「おお、でかいですね先輩。足の裏とか弱いですか? それとも、唇?」
「う、うるさい! 黙りなさいよ!」
「あっちの先輩と違って、胸はそんなに目立ちませんけどね」
「こ、こいつ、まじで消す……!」
半泣きになりかけたベレッタだったが――
ふと、ベレッタはフジノに視線を向けた。
フジノは極端に感じやすい体質で、触れられさえすれば相手がこびとでも簡単に手玉にとられてしまう。コジローに負けても不思議はない。
だが……
(……『何かが』いじった? 『誰かが』じゃなくて?)
違和感がひとつ。
そして、もうひとつ。
「動かないから観察し放題ですよ、先輩。上履きが、もう山みたいです」
この執拗なセクハラ攻撃だ。
まるで、わざと挑発してるみたいな……。
「…………」
ひとつ、ベレッタは深呼吸した。
静かに周囲に視線をめぐらせる。そして――
「……出て来なさい!」
――唐突に、ロッカーを蹴飛ばした。
入っていた荷物や道具袋と一緒に、ちゃりん、とフォークが出てくる。巨大化したベレッタには、つまようじより小さいが、まだ何とか見える大きさだ。
「……あんた、やっぱり……フォークだけは縮まないんじゃないの?」
「ギ、ギクリ」
「あたしが大きくなれば、そのぶん見えづらくなると思ったんでしょうけど……残念だったわね!」
腕組みしていた仁王立ちしたベレッタは、指先をコジローの方に向けた。
「ふふふ……ぷっちんしてあげるわ」
「ひぁぁぁぁぁあああ」
ずん!
幅30センチ近い巨大な指先によって、廊下が陥没した。
――怒りがちょっとは収まり、もとのサイズに縮んでいくベレッタ。へこんだ廊下の真ん中でピクピクけいれんしていた3センチ程度のコジローを、ひょいとつまみあげる。
「……さぁ、白状なさい。一ヶ月前の白い太陽の日、あんたはどこで何してたの!?」
「うぅ……し、白い太陽の日……」
コジローは、ぎりぎりと悔しげに歯軋りした。
「思い出すのも忌まわしい……ボクの人生で……あんなに恨み、呪ったことはない!」
「……なんですって」
「朝のアニメが……放送局にも関わらず、野球中継に潰された日のことを!!」
「……何の話?」
「なんでタンパクなんですか先輩! ボクは、ボクは毎年あの時期だけは!」
「あぁ、はいはい。で、夜は何してたのよ」
「へ? 夜ですかぁ? 会員と一緒に、遅くまで学校でアニメ鑑賞会してましたけど……」
ぽい、とベレッタはコジローを放り投げた。
視聴覚教室を借りたなら、記録が残っているだろう。そんなウソをつくとも思えない。
というか……
「……『あいつ』が、こいつらに負けるとかありえないわ」
「せ、先輩! そんなゴミを見るみたいに見下ろされると、いけない方向に目覚めブッ」
ベレッタは上履きで足元のコジローを踏んづけると、きびすを返してフジノに向き直った。
「そろそろ退散するわよ、フジノ。起きてんでしょ?」
「…………」
うつむいたまま、じっとしているフジノ。その額には脂汗が流れている。
「フジノ? 死んだふりでもしてんの?」
「……あ、あのー……せ、先輩?」
「なによ、こっちはフジノが第一だし、一緒に現場を離れないと……」
コジローを振り向くと、彼は、廊下のフジノが塞いでいない反対側を見ていた。
彼のすぐ近くに立っている――
保健室の先生。
「……バレないと思いましたか? うふふ」
「…………」
「うふふふふふふ……」
暗黒面でも発動したかのように笑っているエリザ先生に、足元近くから見上げたコジローは「わぁ」とつぶやく。
「こんな顔、初めて見ましたよ……先輩、よっぽど面倒かけてますね」
「べ……べ、べつに面倒見ろなんて、その……言っては……ないし……」
言いにくそうに視線をそらしてブツブツ言うベレッタ。
はぁ。とエリザ先生はため息をついた。
「……生徒指導室で、生徒会の方達が待っています。とりあえず、今は早く行ってください」
「え? お、お咎めなし?」
「あとできっちり聞きますから!」
マンガみたいに三角形にした怖い目で睨まれ、ベレッタは肩を落とした。
「……やっぱ、そうなるわよね」
「自業自得ですよ、先輩」
「半分はあんたのせいでしょうが!」
ベレッタに蹴飛ばされて、コジローは廊下の壁に激突した。
【つづく。】
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【主要人物】そのに
9
・エティ
→三年生。小動物みたいな言動の先輩。自己縮小系の能力?
(借り暮らしの「アリエッティ」を適当に縮めて命名)
10
・伝説の貴族アイドル
→地球芸能同好会の崇拝対象。握手会の中継が録画された秘蔵のビデオは、会員のご神体と化している。
(JUNKMAN様の「ドロシー・ママレード・マコバン」さんです。
会員どもの言うのは「渚のひみつ」時代の話です。ネタにしてしまってごめんなさい、ありがとうございました)
11
・コジロー
→一年生。地球芸能同好会の会長。自己縮小と身体強化を比例させる『グレイトなフォーク』を使う、アイテム使用系の自己縮小能力。
(「小さい」という漢字と、武器で戦う感じにしたくて、適当に思いついた「佐々木小次郎」から命名。
ちなみに何度も言いかけた「G・フォー…」は、長らくお世話になっております、あの投稿サイト様の名前です。ごめんなさい、ありがとうございました)
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