「あっ」
落ちると思ったら何かに受け止められた。
僕はそれを見る。
肌色であたたかい。
視線をたどっていくとそれが人の腕であることがわかった。
そしてさらに見ると、見覚えのある顔がある。
「あっ」
思わず声を出してしまった。
目の前にいるのはエリィだ。
数メートルほど離れた場所にあるエリィの顔は僕の身長よりも長さがある。
瞳の大きさでさえ僕の顔ほどはあるんでないか。
エリィが僕に顔を近づけてくる。
「大丈夫?びっくりさせちゃったかな」
「いや。大丈夫だよ。宇宙船の入り口を開けたら、外にエリィの顔があるんだもの。びっくりしちゃった」
僕はエリィの瞳を見る。
エリィの瞳はきれいだ。
その瞳には僕の姿がうつりこんでいる。
エリィの瞳が大きいので、瞳孔の大きさが変化するのがわかる。
「ごめんね。おどろかせちゃったね。
じゃこのままコンソールまで行きましょう。
ちょっと持ち上げるから」
とエリィは僕を優しくつかむと胸の前まで持ち上げられる。
そして「ここに入っていて」
と言われて、左の胸ポケットの中に優しく入れられる。
反対側の胸ポケットを見るといつもの人形が入っていた。
トオルはポケットの中から上を見上げる。
エリィの顔がはるか数メートル上に見える。
そして、横を見てみるとふくよかな盛り上がりも見える。
僕は自分が入っているポケットを見回す。
どうやらポケットの位置はエリィのふくよかな盛り上がりのところにあたるらしい。
エリィが歩くたびにぽよんぽよんとそれは揺れている。
こうして見ると結構胸あるなぁと僕は思った。
僕はポケットの中でエリィに寄りかかってみた。
するとほどよい弾力と温かさが伝わってくる。
でもエリィの膨らみはとっても大きい。
それにぽよんぽよんと揺れている胸はとっても重量感があり、
エリィが歩くたびに僕の背中が押されてふっとびそうになる。
なんかすごいや。
僕は遭難していることも忘れてエリィの体にふれたときの感触を感じていた。
そして、エリィがコンソールがある部屋についた。
「よっこいしょ」
とエリィが言って席に座った。
それを聞いて「なんかお年寄りみたいだね」
僕はエリィに言う。
「あはっ、おばあちゃんの口癖なの。
しばらく病院にお見舞いに行っていたらうつっちゃった。
でもねおばあちゃんは日本語を話せないから、
エレーネで使う同じ意味の言葉で言うんだけどね」
とエリィは言う。
「ねえ。エリィ?
救援が来るまでどのぐらいかかるんだろう」
僕はポケットの中から首を精一杯上に向けてエリィを見て言った。
「うーんどうなんだろう。あたしも宇宙船で外に出たのは初めてだし…
そうだ。航さんと通信してみましょう」
とエリィはコンソールを操作して、航さんの宇宙船と回線を接続しようとする。
「現在。宛先の回線は使用中のため接続できません」
とコンソールに表示がでる。
「あっだめだね。きっと救援を頼んでいるんだよ」
「きっとそうだね…」
そのとき、エリィのおなかからきゅるきゅるというかわいい音が聞こえる。
「あっ」
僕は言った。
それを聞いてエリィの顔が少し赤くなる。
「聞こえちゃった?」
「うん」
「ねえ。おなかすかない?
地球についてから食べようと思っていたからおなかがすいちゃって…」
そんなエリィの顔を見て僕はエリィかわいいなあと思う。
「ちょっと待っていてね。今食べるものを持ってくるから。それまでこの上で待っていてね」
とエリィが指を出してきて僕が持ち上げられる。
そしてコンソール横の台の上に置かれる。
エリィは奥のほうに歩いていく。
それをエリィの後ろから見ていたが、
「あっ尻尾がある」
エリィのお尻から黒い尻尾が伸びている。
なんか尻尾をちょっとうれしそうに振りながら歩いていくエリィ。
エリィの後ろ姿もかわいい。
猫コスプレをした彼女みたいだ。
でも身長が16メートルぐらいあるので、とってもかわいいんだけど巨大怪獣みたいだ。
あとは耳があればそれっぽいなと思った(耳は普通だ)。
エリィに特大サイズの猫耳カチューシャとかつけてみたいなあとトオルは思った。

……

「おまたせ。
トオル君サイズの食べ物がなかったから、
あたしのを分けてあげるね」
と手に持っていたいくつかの缶を台の上に置く。
僕はエリィのそんなしぐさを見ている。
「ん?
どうしたの?
なんかにやにやした顔をしてなんか面白かった?」
エリィは僕の目線を見てから、
「あっひょっとしてこれのこと?」
とエリィは後ろを見て尻尾をとっても器用にくねくねと動かす。
「あたしたちの住んでいる地域では、比較的尻尾を取らないで残している人が多かったの。
結構便利なんだよ。
両手がふさがっているときにドアを押したり、
誰かを呼ぶときに尻尾で招いたりできるし。
あとちょっと疲れたときに、
尻尾を地面につけて少し寄りかかったりもできるし…」
「そうなんだ。でも尻尾があるとドアとかにはさんじゃったりしない?」
「うーん。あたしが子供のころはよくはさんじゃったよ。
自分のお尻の下に敷いて尻尾が痺れたり、
自分で踏んじゃって痛かったこともあったし…」
「やっぱりそうなんだ。でもかわいいよ。エリィの尻尾」
僕はエリィのくねくね動く尻尾を見ていった。
「えへへっありがと」
そう笑うエリィはかわいい。
くー。いいなぁ。
気立てもいいし、かわいいし。
でもサイズ的にはとっても大きいんだけど、エリィのほわほわな性格もあいまって怖くはない。
エリィは持ってきたものを手にとってから、
「せっかく持ってきたんだから食べましょう」
と言った。
そして缶を持ち上げる。
地球の缶詰のようだが違うのはその巨大さ。
ドラム缶の倍は高さがあるしとっても容量がありそうだ。
あの中になら僕が何人入るだろう。
それに、僕の力じゃごろごろ転がして移動させることすら無理なんではないか。
きっとあの缶だけで何百キロもあるに違いないと思った。
でもエリィは、そのおそらく金属でできた缶詰を軽々と持ち上げて、
缶詰の上側を持ってひねった。
すると、缶がねじれてねじれたところからきれいに上部の蓋部分がとれる。
「うわっちょっと、堅い缶を素手でひねっちゃったの?」
僕はエリィの怪力に驚いた。
「あははっ。見たことがないんだね。
これは特殊な金属でできている缶詰だよ。
上部はひねると簡単にとれるの。
こんなひ弱な女の子でさえ、簡単に取れる設計なの」
とエリィは解説する。
やっぱりエレーネは地球より進んでいるなと思った。
でもさっきはびっくりした。

エリィは皿に缶詰の中身を取り分けてくれた。
どうやら、缶詰は何かの肉っぽいものと何かの果物系のもの、
そして芋かお米のような感じのものの3種類があるらしい。
エリィは僕のために飲み物をかき混ぜるための先が平べったくなった棒を短く折ってくれた。
でも地球人サイズの僕にとってはまだ大きいけどスプーンに使えそうなものはこれしかない。
給食を作るときに使うようなしゃもじのようだ。
「ごめんね。こんなものしかなくて。
トエールミナの船団には地球人サイズの人がいないから、
こんな大きさの物しかないんだよ」
「いや。大丈夫だ。なんとかするよ」
僕は目の前に盛られてある料理の量を見てから、
「でも、この量だとちょっと食べきれないかな。
この半分ぐらいの量でいいよ」
と言う。結構多い。
「あっごめんね。このぐらいなら食べられるかなと思ったんだけど、トオル君にしたら多かったのかな。
じゃちょっともらうね」
とエリィはお皿に盛られている量の半分ぐらいを自分の皿に移動する。
でも、エリィの皿に盛られている量を見る。
エリィのはまるで山のようだ。
「あーなんか今失礼なことを考えていたんでしょう。
でも。これがエレーネの女の子が食べる量なんだよ」
とエリィは言う。
たしかに身長が10倍違うんだから、10倍、いや違うな100倍?、1000倍ぐらい食べる量が違ったっていいのかもしれない。
エリィのおなかからさらにかわいい、きゅるるという音がかすかに聞こえてくる。
エリィはじっと僕のほうを見つめてくる。
「じゃ食べよう。いただきます」
「はい。お口にあうかわからないけどきっと大丈夫だよ」
とエリィが言い食べ始める。
エリィはとってもにこにこ顔だ。
よっぽどおなかが空いていたのか、それとも僕と一緒にいることができるからなのか。
僕も食べてみることにした。
結構おいしい。
これなら毎食これでも飽きないかもと思った。
材料にはどんな物が使われているかわからないがなんとなく人工的な味がした。
きっと天然のお肉とかではないだろう。
「これは?
お肉のようなんだけど食べたことがない味。
でもどっちかというと牛肉に似ているかも…」
「あっそうなんだ。あたしは地球の牛肉を食べたことがないからわからないんだけど、
その牛肉って人工的に作ったもの? それとも天然のもの?」
「うーんとね。天然のもの。まだ地球では人工的に作ったお肉がないんだ。
でもエレーネの人達が来てからだんだんと増えていったんだけど。僕はまだ食べたことがない」
「ふーん。そうなんだ。でもその牛肉ってかわいそう。
あたしたちに食べられるために育てられるんでしょう?」
「まあ牛って言うんだけどね。でも日常だから、僕はあまりかわいそうとは思っていなかったな…」
「あたしたちは長いこと宇宙船で移動しているから天然の食材は少ないの。
他の星系から取り寄せたものしかないんだ。
でも輸送費はあまり高くないんだけど、元の値段が高いのよね」
とエリィは言う。
見るとエリィの皿の上に盛られている料理は1/4ぐらい減っている。
「じゃいつもはどんなものを食べているの?」
「えーとね。この缶詰に使われているような人工的に作ったお肉と。お野菜。
それと他の動物の卵とかが、たまに近くの星系から入ってくるからそのときにまとめ買いをしているの」
「卵かぁ。でもその卵はどんな大きさなの? エリィにとって丁度いい大きさなの?」
僕は聞いてみた。
もしかしたらとってもでっかい卵があるのかもしれない。
地球のニワトリの卵ならエリィから見たらイクラの粒ぐらいの大きさになるんだろうかと考えた。
「うーんとね。このぐらい」
と言ってエリィは僕たちのサイズでいうと、うずらの卵ぐらいの大きさを指で示す。
僕たちにとってはダチョウの卵より大きいぐらいかと思った。
「いちおう地球にもそんな大きさの卵があるよ。子供のころにダチョウっていう鳥の卵を食べたんだ。
僕たちが普通に食べる卵の大きさの30個分ぐらいなんだ。
それと、卵の上に僕は乗ったことがあるんだけど割れなかったよ。
大人の人が卵の上に乗っても割れないって言っていた」
「えーそうなんだ。あたしは卵の上に乗ったことはないなぁ。ぜったい無理だもん」
とエリィは言う。
「ねえ。エリィ。そういえば飲み物はないの?」
と僕は飲み物が欲しかったのでエリィに聞いてみた。
「そういえば飲み物がなかったね。取ってくるよ」
と言ってエリィは席を立った。
そして缶詰と同じような缶の入れ物に入っている飲み物を持ってきた。
エリィは缶の上をひねってふたを開ける。
そして僕のほうを見る。
「あっそっか。トオル君はこのままだと大きすぎて飲めないね。どうしよう?」
エリィは困ったというふうにあたりを見渡す。
僕はエリィが持っている缶を見る。
きっと僕自身がすっぽりその中に入ってしまうだろう。
ドラム缶のような大きさだ。
「あっそうだ。
あたしがこの缶を傾けているから、あたしが飲み口に届くようにトオル君を持ち上げてあげるね」
と言ってエリィは缶を斜めにする。
そして、エリィは僕をつかんで、丁度いい姿勢になるようにしてくれる。
顔に感じる冷気から程よく冷やされているようだ。
水面に僕の顔がうつる。
きっと落ちたらおぼれるなと僕は思った。
僕は水面に口をつけた。
味は薄めでポカリのような味だ。
「ありがとう。エリィ。もう大丈夫だよ」
「うん」
とエリィは返事をした後に、僕が口をつけたあたりからその飲み物を飲んでいる。
トオルはもしかして間接キスかもと思った。
エリィは缶を置いてから残り少なくなった料理に口をつける。

「ところでさ、ここは宇宙でいうとどの付近なんだろう。
地球やトエールミナの船団とはどのぐらい離れているんだろう」
と僕は食べながらエリィに聞いてみた。
「えーとね。じゃあ表示してみるよ。
たしか、ここをこうして…」
エリィがゼスチャーを使ってその場からコンソールを操作する。
すると、3つの点が表示される。
どれも言葉が横に書かれているんだけど僕には読めない。
「えーとね。この下にあるのがこの宇宙船の位置。
そしてこの位置がトエールミナの船団。
こっちの点が地球のある太陽系」
見ると、この宇宙船からどの2点も離れている。
トエールミナの船団と地球は比較的近いように見える。
「あと、この大きさが宇宙船の標準速度で100年かけて移動できる距離ね。
でも1年はエレーネでの1年で、地球の1年の倍ぐらいだから…」
とエリィが示す長さは3点のスケールから見たら非常にちっぽけだ。
これだと何百年、何千年、いやもっとかかるぐらいの距離の隔たりがこの宇宙船と地球の間にあるようだ。
「あとね。この宇宙にある使用可能なゲートの設置してある位置を重ねるよ」
とエリィが操作する。
すると、結構な数の点が表示される。
そして、この宇宙船のそばにも3箇所の点が表示される。
「あっこの付近にもほかに使用可能なゲートがあるじゃないか」
僕が気がついた。
「うん。ほんとだ。
でも。このスケールだと近く見えるけど、
拡大してみるね」
エリィが操作するとこの宇宙船付近の図が拡大される。
図にはさらにエレーネの言葉でいろいろ表示されるが、さっぱりわからない。
「ああ。残念」
「どうしたの?」
「うーんとね。この付近のゲートは3つあるんだけど、
宇宙船の標準速度で120年かかる位置に1つ。
70年かかる位置に1つ。
68年かかる位置に1つとなっているね。
これじゃ、ゲートにつくまでにあたしはおばあちゃんになっちゃうわね」
「げっそんなに離れているのか。だったら無理かも…」
素直に航さんの救援を待つしかないか。
でも救援はどうやってここまで来るんだろう。
何か方法があるのか?
「じゃあさ、この付近に何があるかを調べることはできる?
たとえば知的な生命が住んでいる星があるとか、
ほかのエレーネの船団が立ち寄った惑星とか」
「たぶん知的生命がいる星はこの付近にはないと思うの。
もしあれば、ゲートのメンテナンスも行われていると思うし、
そうならゲートが故障することはないと思うの」
「ひょっとしてこの付近にいる生命体は僕とエリィの2人だけなんだろうか」
僕はエリィを見た。
「そうなのかもしれないね。
でもあたしは隣にトオル君がいるから寂しくないよ」
「うん。僕もだ。エリィがいるから大丈夫なんだと思う。
地球を離れるのは初めてなんだけど、
エリィも大きくてとっても存在感があるから安心するよ」
「うーん。そうなのかなぁ。
あたしから見ると、トオル君がとっても小さくてミニサイズだと思うんだけど。
あと、誤解しないでほしいんだけど、
あたしはトエールミナにいる人と比べたら普通サイズだよ」
とエリィは言う。
それを聞いて宇宙って広いなあと思った。
自分たちが標準サイズだと思っていたのに…
じゃ逆に僕たち地球人より体の小さい種族というか人はいるんだろうかと思った。

そういえば。もうそろそろ航さんと通信できるかもしれないと僕は思った。
「ねえ。エリィ。航さんと通信がつながらないかなぁ。
さっきの地球とこの宇宙船の位置があんなに離れているのを知ってから、
なんか心細くて…」
「うん。そうだね。今度はつながるかなぁ」
とエリィが通信装置を操作した。
「こちらエリィ。航さんですか」
ざーざと通信にノイズが入る。
「おっエリィさんか。
救援にはもう少しじか………
だから………
なるべく宇宙船のエネルギーを節約し………
ざー………」
というところで通信が切れてしまった。
「あれっどうしたんだろう。
通信が切れちゃった」
「なんか感度が悪かったね。
つながりにくいところにいるのかなぁ」
「もう1回つないでみるね」
と再びエリィは通信をつなごうとする。
そしてコンソールに表示がでる。
もう1回操作をしているようだ。
「えーそんな」
とエリィは言う。
コンソールに表示が出ているが日本語ではないので僕には読めない。
「えーとね。その…
ゲート間通信にはゲートの通信機能を使うんだけど、
そのゲートの通信機能も壊れちゃったみたいなの。
だから、航さんとは通信できないの…」
としょんぼりした表情でエリィが言う。
しょんぼりしたエリィの表情を見て、僕もがっかりする。
でも僕はエリィを元気付けることにした。
「でも航さんは、僕たちがここにいることをわかっているんだし、
きっといつか助けに来てくれるよ。
そういえば、さっきの通信はとぎれとぎれだったけど、
たしか時間とか、宇宙船のエネルギーを節約と言っていたと思うんだけど」
「ああ。そうだね。念のためこの宇宙船の残りのエネルギーを調べてみるね」
とエリィは宇宙船の残りエネルギーをコンソールに表示させた。
「うーんと、あたし1人と地球人1人として計算するんだけど、
その設定がないからあたし1人と計算すると、節約しながら使って7日間というところね」
「ああそれなら大丈夫かな。それと食料のほうは大丈夫なの?」
と念のため聞いてみる。
「コンソールに備蓄量を出してみるね」
エリィがまた操作をする。
僕はその間エリィをみていた。
エリィがコンソールを操作すると、一緒にエリィの尻尾もつられて動くためだ。
それを見ているとなんかほほえましい。
「えーとね。食料も同じぐらい持つよ
って聞いている?」
「えっああ。ごめんごめん聞いているよ。
食料も大丈夫なんだろう」
あわててエリィの顔を見て言う。
「もう大事なときによそ見しないの」
とちょっとエリィが怒る。
そうすると、尻尾の先がぴんと上に向く。
ああ、怒ると尻尾を上に上げるんだ。
と僕は思った。わかりやすいなあ。
そろそろ尻尾を見ているのをやめるか。
尻尾ばかり見てよそ見しているとエリィが怒るかもしれないし…。
そういえばトイレに行きたいな。
さっきから我慢していたのだった。
「あのさ、エリィ。ちょっと聞きたいんだけど」
「なあに」
とエリィがこっちを見る。
「この宇宙船にトイレはある?」
「トイレ?。あるわよ。あそこの奥まで…あっ」
と言って言葉を区切る。
「ここのトイレだと大きすぎてトオル君一人だと使えないね。
あたしも一緒に行く?それとも、えーと何かないかなぁ」
とあたりをきょろきょろしてから、金属でできた箱を持ってくる。
「この入れ物を使ってする?」
と言われて入れ物を見せられる。
うう。もしかしてこれにしろと。
「そういえば、この宇宙船には地球人サイズの設備がないんだったね」
と言ってから僕は考える。
金属でできた箱になにか、やわらかい紙をしいてくれた。
それにすればいいんだけど、
なんか僕が小動物になったかのようだ。
人としてのプライドがそれを許さなかった。
「あのさ。エリィがトイレまでつれていってくれる?
えーと。その箱だとちょっと…」
と言って箱を見る。
「ああ。そうだよね。
トオル君もこんなのにするのはいやだもんね。
じゃトイレにあたしがつれていくしかないね」
とエリィは言って、僕を指でやさしくつかむ。
そして、はるか10メートルぐらいの高さまで持ち上げられると、そのままエリィは廊下を進み始めた。
「ここがトイレだよ。
これからどうしようかな。
ねえトオル君。もしかして大きいほうだったりする?」
とエリィに聞かれた。
「いや。小のほうだけど…」
と僕は言う。
でも下を見てみるとはるか10数メートル下に床がある。
そして、ちょっと前方にはぽっかりと穴があいているトイレがあった。
どうするんだろう。
このトイレに座って用をたすのか、でも座るのは無理か。
穴が巨大すぎる。
今は小だから、この端に立って立ちションをすればいいのか。
でもここに落ちたらどうしようと思った。
とっても巨大なトイレ。
トオルはなかなか行動にうつせない。
はあ。地球人サイズだと不便だなあと思った。
そのときエリィがこう言った。
「あたしは、トオル君の上半身を指でつかんでいるから、
トオル君はその間に用事をすませたらいいよ。
あたしは、目をつむっているから気にしないで…」
とエリィは言ってから、
親指と人差し指、それと中指だけで僕の上半身をつかんだ。
そしてトイレの穴の上まで空中を移動させられる。
「ねえ。本当に大丈夫?
それにいいの?」
とちょっとこわばった声でエリィに聞いてみる。
「あっいいよ。
気にしないで。
あたしはきちんと目をつぶっているから、
見ないよ。
それに絶対にトオル君を落とすことはないから安心していいよ。
トオル君はとっても軽いんだし。
暴れたって落とさないよ。
でも、なるべく早くしてね。
あたしも恥ずかしいんだから…」
とエリィは言う。
うう。
僕はズボンのチャックを下げて、
両脇をエリィの指にささえられて、
ちゅうぶらりんになった状態で、
はるか下にあいているトイレの穴に向かって小便をしはじめた。
うう。はずかしい。
でも、エリィが用意してくれた、あの金属の箱よりはいいと思った。
もし大のほうだったらどうするんだろうと思った。
でも今は大丈夫だ。
それよりも早く終わらせよう。
そして僕は用をたしたあと、ズボンのチャックを閉めてから。
「エリィ。もういいよ。ありがと。
でね。この後、手を洗いたいんだけど…」
と言った
「うん。じゃ。水を出すね」
と言って、もうかたほうの手を使って水を出す。
そして、僕はエリィの指につかまれた状態で、出ている水のように近づけられる。
そして極太のホースから出されたような勢いの水に手をあてて、手を洗う。
うっひょー。勢いが強い。
それに下を見なければよかった。
下を見ると数メートル上から流れた水が巨大な穴に向かって吸い込まれていく。
落ちたら終わりだなと思った。
それを見てちょっと身震いをした。
「いいよ」
と僕は言う。
早くこんなところから出たい。
「じゃ戻るね」
とエリィは歩きだした。
うう、次トイレに行きたくなったらどうしよう。
小でなくて大のときは?
あまり考えたくない。
この宇宙船には地球人サイズのものはないらしい。
あるのは、僕が乗ってきた宇宙船ぐらい。
???。
そうだ。そういえばその宇宙船の中ならトイレがあるんではないか。
「ねえ。エリィ。今思いついたんだけど。
僕が乗ってきた宇宙船の中なら、地球人サイズのトイレがあるんじゃないかなぁ」
「ん?
あー。そうだね。きっとあると思うよ。
あたしも気がつかなかった」
「じゃ、下に下ろしてくれる?
今から行って確かめてくるよ」
「うん。わかった。
あたしはコンソールのところにいるね。
1人で大丈夫?」
「うん。地球人サイズの宇宙船なら1人で乗れるし…」
トオルはエリィに頼んで床の上に下ろしてもらう。
「じゃあとで」
とエリィに声をかけて、廊下を歩く。
この宇宙船はエリィのサイズから見たら小型のバスを2個横に並べたほどしかない。
でも僕から見たら縦横それぞれ10倍違うのでとっても広い。
僕は格納庫に向かう。
格納庫の扉は開いている。
もし踏んだら開く自動扉みたいなものであれば、
トオルが上に乗っても開かないだろう。
トオルは宇宙船に乗り込む。
そして宇宙船の中に入る。
なんかすごく狭く感じる。
人間サイズの10倍ある物に囲まれていたせいだ。
さてとトイレはどこだ。

「おっあった」
いちばんわかりやすい、宇宙船の入り口ハッチがある廊下の奥にあった。
ドアを開けてみる。
普通に使えそうだ。
なんだ。
これならさっきエリィに手伝ってもらわなくてもよかったじゃないか。
さてと、用はすんだ。
エリィの元に帰ろう。
僕は宇宙船のハッチから外に出る。
格納庫がある空間はとっても広いし天井も高い。
ここにはトオルの他、だれもいない。
なんかひとりぼっちみたいだ。
もしエリィがいなくなっていたらどうしようと考えた。
僕は少し急ぎ足で格納庫から出る。
そして廊下にさしかかり、もうすぐでコンソールがある部屋へつくというときに何か視線を感じた。
どすん。
というふうな何か重いものが落ちたような音がする。
後ろを振り返る。
「げっ」
なんだこれ。
見たことない物。というか生き物がいた。
固い殻のような物を身にまとった。
だんご虫のような姿。
体がこわばる。
「ねえ。ちょっとエリィ。エリィ」
と僕はインカムのスイッチを入れてエリィを呼ぶ。
「どうしたの?そんな声を出して。
もしかして何かいたの?」
というエリィの声がする。
その声を聞いて少し安心する。
「エリィ。早くきて。
廊下のところ。
何か知らない生き物がいるよ」
と僕はその生き物がこっちに向かって襲いかかってこないかどうかを見ながらエリィに言う。
「今行くから待ってて」
という声がして、エリィが来る。
エリィがこっちに来るけど、エリィも怖い。
身長16メートルはあろうかという人がこっちに向かって歩いてくる。だから踏みつぶされるんじゃないかと思ってしまう。
「ああ。この船の中にもいたんだ。ちょっとまずいわね。
でも。人には襲いかからないからトオル君には害はないよ。
さわってみたら?
たたいてもきっと鈍感だから大丈夫だよ」
とエリィは言う。
エリィが言うならきっとそうなんだろう。
そういえば、航さんの手帳に書いてあったずんぐりした生き物ってこれのことかなと思った。
トオルはおそるおそるその生き物に近づいてさわってみる。
固い。頑丈だ。
僕が蹴ってもびくともしなさそうだ。
ぺたぺたとたたいてみると、のっそりと動く。
僕は押してみることにした。
全く動かない。とってもずんぐりしていて重そうだ。
こんなのをやっつけるにはどうしたらいいんだ。
バットでたたいても何ともないだろうし。
ナイフだとどうだろう。
でも生き物には襲いかからないらしい。
「ねえ。エリィ。危険性はないの?」
と聞いてみる。
「生き物には危険性はないよ。
でもね。機械とかの配線を噛みちぎるから、
宇宙船や機械のそばで見つけたら駆除しないといけないの。
ちょっとかわいそうなんだけどごめんね。
なので駆除しちゃうから、トオル君ちょっとどいていて…」
とエリィが言う。
何するんだろうと思いながら僕は後ろの壁まで下がる。
それを見たエリィが足をあげて、その生物の上にエリィの足を乗せる。
あっと思ったけど、その生物はなんともない。
エリィは普通にその生物を踏んでいるようだ。
エリィが踏んでいるんだから、きっと何10トンという重さがその生物にかかっているに違いない。
でもつぶれそうな気配はない。
とっても殻が固いらしい。
その生物は上からものすごい力で、押さえつけられているのでおなかが床についてしまっている。
でもこんなに殻が固い生物がいるなんて思ってもいなかった。
大砲とか打ち込んでも大丈夫なんではないかと思った。
そのとき、さらにエリィが完全に体重をかけて2、3回ぎゅ、ぎゅと重さをかけると頑丈な殻もとうとうへこんで、最後にはつぶれてしまった。
それを見て、もし僕の体の上にエリィの足が乗ったらどうなるんだろうと思った。きっとぺたんこだ。
エリィが歩くときには下を歩かないようにしようと思った。
僕はもうぺたんこになってしまっているさっきの生物を見る。
「びっくりしちゃった?
駆除用の専用スプレーもないし、それを使うと空気が汚れるから宇宙船では使えないの。
このとおりとっても殻が固いから、
踏みつぶしちゃうのが簡単なの。
でもあたしが完全に乗っても潰れないから、何回かぎゅぎゅと全体重をかけないといけないんだけどね。
でも最後はかわいそうかなと思っているの。
どこかの惑星で見つけたのなら、外に放してあげるんだけど外は宇宙だし、でもそのまま宇宙船の中に放すと配線を噛み切っちゃうからどうしようもないの」
そうなんだ。
僕はその生物を見ると、手を合わせてご冥福を祈った。
「ねえ。他にはいないの?
生物にとっては危険性がないということなんだけど…」
とエリィに聞く。
「うーんわかんない。
でもトオル君にとっては危険なのかもしれない。
だって、この生物は上のほうから落ちてくることがあるの。あたしだったらこつんという感じで、
何かなと思うぐらいなんだけど、
もしトオル君の上に落ちてきたらきっと死んじゃうと思うの」
げっそうなのか。
そういえばさっきは、僕が通った後の廊下に落ちてきたなと思った。もし落ちてくるのが早ければ直撃していたのかもしれない。
「ねえ。早くコンソールの所に帰ろうよ。
エリィが僕をつれていってくれるといいんだけど…」
さっきのように生物が上から振ってくるともかぎらない。
「あはっいいよ。じゃつかむね」
とエリィは言って僕を指でつかむといつものポジションに入れられる。エリィの胸ポケットだ。ここに入るとおちつくなぁと思った。
エリィのぽよんぽよんという感じの胸が背中にあたる。
そしてエリィの体温が温かい。
僕はまたエリィの膨らみに背中を押しつける。
ぽよんぽよんという弾力がここちいい。
ふう。
いいなあ。
このポケットの中にずっといたいような感じだ。
「さてと、もうすぐで寝る時間なんだけど、救援がきたらわかるように、他の宇宙船が近づいたらアラームが鳴るようにしておくね。
それでね。この宇宙船にはベッドがあるんだけど、
トオル君には大きすぎるの。
どうする? トオル君が乗ってきた宇宙船の中で寝る?」
とエリィが聞いてくる。
うーんそうだな。どうしよう。
ここには人間サイズの物がない。
でも、格納庫の宇宙船で1人というのもなぁ。
結構格納庫は広いし、この付近には他に人はいないし、
地球とも離れているし…
トオルはエリィに言った。
「僕からすると宇宙船がある格納庫は広いし、
宇宙にひとりぼっちでいるみたいで、
とっても不安になると思う。
あのさ、もし良かったらなんだけど、
エリィと一緒の部屋で休ませてくれるといいんだけど…
でもエリィがいやだって言うのなら、
宇宙船に行って寝るけど」
たしかに宇宙で過ごすのは初めてだしとっても不安だ。
「うん。あたしはいいよ。
あたしも誰かいてくれたほうが寂しくないし。
でも着替える必要があるから、
先に着替えてくるね。
それが終わったらトオル君をベッドがある部屋につれていくよ。ちょっと待っていてね」
とエリィはベッドがある部屋まで歩いていく。
もう一つベッドがある部屋があるんだけど、トオルには大きすぎる。
縦、横、高さそれぞれ10倍サイズのベッドだ。
1人ではベッドの上に登ったり、降りることすらできない。
本当にいいのかなぁ。
エリィは女の子。
でもエリィから見たら僕は小動物というか、人型だと妖精さんサイズぐらいになる。
だからOKなんだろうかと考えた。
「おまたせ」
とエリィの声がする。
淡い色調のゆったりした服だ。
胸ポケットはない。
そしてエリィの胸の膨らみがさっきの服よりも目立つ。
やっぱり結構胸が大きいなと思った。
そして、足元には尻尾が見え隠れしている。
そういえばエリィの尻尾どうなっているんだろう。
「ん。どうしたの。そんなにあたしのことを見つめて…」
とエリィに聞かれる。
「い、いや。なんでもない。
じゃつれていってくれる?」
と僕は両腕を少し上に持ち上げる。
こうすると、エリィが手で僕を持ちやすそうだと思ったからだ。
エリィによって、さらに5メートルほど持ち上げられる。
そしてそのままの姿勢で廊下をつれて行かれる。
「ここがベッドルーム。
ベッドの他は、横に台とランプしかないんだけどね」
とエリィが解説する。
さてと、どこで寝よう。
エリィと同じベッドの中で寝るわけにはいかないよな。
と考える。
それもいいかもと考えたがエリィとは現実ではまだ会ったばかり。
でも、寝返りをうったエリィに押しつぶされる危険性もある。
ということを考えていると。
「トオル君にはこの台の上で寝てもらうね。
下にこのタオルをひいて、この柔らかい布地でできたものを上にかけると寒くないとは思うの」
とエリィに用意をしてもらう。
「ありがとう。それで十分だよ」
とエリィの姿を見る。
エリィの尻尾を見ているうちに気になってしょうがなくなった。
エリィが僕の寝床を用意してくれたので寝る準備はできた。
そして、エリィもベッドの上にあがる。
僕はまだ寝たくないと思った。
そこでさっきから気になっていたことを聞いてみた。
「ねえ。エリィ」
ん? なあに。と振り向く。
「あのさ。さっきから気になっていたんだけど、
その尻尾は自由に動かせるの?
それに、尻尾に感覚はあるの」
「あっこれ?
やっぱり地球人には尻尾がないから気になるんだ。
えーとね。尻尾は自由に動かすことができるの。
でも、人によってはそれが不得意というのもあるんだけど。あと感覚はあるの。
ドアに挟んだら痛いし、
座るときにお尻の下にしいたままだと痺れるし…」
「あっやっぱりそうなんだ」
僕は尻尾を動かすという感覚がわからない。
あとエリィの尻尾にさわってみたいと思った。
「ねえ。エリィ。その。
僕は尻尾が珍しいから、エリィの尻尾にさわってみたいと思うんだけど、だめかな」
エリィはちょっと考えてから、
「うん。いいよ。
でもぎゅっと握ったりしなければ問題ないよ。
でも、トオル君の力で握っても痛くないかも。
じゃこのベッドの上に乗せてあげる」
とエリィは手を伸ばしてくる。
僕はすなおにエリィの手につかまれてベッドの上に下ろされる。
ベッドといっても、僕が乗っただけでは全くへこまない。
結構固いなあと思った。
でも、エリィが乗っている付近は1メートルぐらいへこんでいる。
このベッドはエレーネ星人仕様にあわせてあるみたいだ。
僕はエリィの尻尾がある所まで歩いて移動する。
そして、エリィの尻尾を見る。
うーん。絶対に僕の胴回りより太い。
それに結構毛がふさふさだ。
僕はおもいきってエリィの尻尾に抱きついてみることにした。
「うわー。けっこうふさふさ。
それにあったかい」
「うふふっトオル君ったら。
じゃあたしはこうするね」
とエリィは言いながら、尻尾を動かす。
どうやら尻尾で僕の体を巻きとっているようだ。
結構力は強い。
「あっ。なにおー
僕を尻尾で巻きとろうとしているな。
ならば、抵抗してみるか」
と言って、尻尾を僕の体から引き離そうとするが、
力は強くて僕の力ではどうすることもできなさそうだ。
「じゃ持ち上げちゃお」
とエリィは少し僕を尻尾で持ち上げてくるくると巻きとる。
「あっやったな。じゃ尻尾をくすぐっちゃおうかな」
と僕は尻尾を指を使ってくすぐってみる。
「あはははっ、
トオル君。くすぐったい。
やめて。やめないとこうだよ」
とエリィは言って少し僕の体に巻き付いている尻尾の力を強くする。
「ぐっ尻尾を締め付けてきたな。
でもこのぐらいなら大丈夫。
どっちが耐えられるか。そーれ。
こしょこしょこしょ」
「あははっ。あははっ。
もうやめて、結構あたしの尻尾は敏感なんだから、
くすぐったい。
あははっ」
ちょっとくすぐるのをやめる。
エリィがこっちを見る。
それを見て僕はさらにくすぐる。
きっとこうすればこそばゆいんではないかという方法でくすぐる。
「ひゃん」
エリィが言う。
そのとたん僕の体を締め付ける力がものすごく強くなる。
「ぐっ」
「あはははっつ。今のはやばかった。もうやめてねトオル君。あれっトオル君大丈夫?」
「ごほっ。う。うん。大丈夫。
今一瞬、締め付ける力がとっても強くなって、息ができなくなった」
「ごめんね。さっきはとってもくすぐったくて、体に力を入れちゃったから、そのときに、きっと尻尾の締め付ける力の加減を忘れちゃったみたい。
でも、大丈夫? 胸とか潰れていない?」
「うん。大丈夫。潰れていたら今話していないよ。
僕のほうこそごめん。やりすぎたかも」
「いいよ。あたしは気にしていないから、
でもあまりあたしの尻尾は今度からくすぐらないでね」
「うんわかった。今度くすぐったら、尻尾に締め付けられて潰れちゃうかもしれないしやらないよ」
でもさっきはエリィの尻尾が僕を締め付ける力に驚いた。
エリィの尻尾にこんな力を出せるなんて思っていなかった。でも軽々と僕を尻尾で持ち上げることもできるし。
やっぱり、エリィから見たら僕は小動物みたいに見えているんではないか、いやいやきちんと一人の人として見ているのかなとトオルは思った。
そこのところはどうなんだろう。
「楽しかった。そして疲れた」
「うんそうだね。あたしはあまり力を入れていないからそんなには疲れなかったけど、トオル君は全身の力を使って抵抗していたみたいだったね」
僕はエリィの尻尾をなでながら言う。
「うん。だってエリィ思ったより力が強いんだもん」
「そうなのかなぁ。でもあたしは全然力を入れていないよ」
「じゃやっぱり相当力を加減していたんだ」
「うんそう」
やっぱり体のサイズの差があるとそこまで力が違うもんなんだ。
でもエリィは優しい。そしてとっても気を使ってくれる。
それに、僕の言ったことに対してはほとんどというか全部聞き入れてくれる。
きっと恥ずかしいことでも頼んだらOKと言いそうだ。
たとえば胸の間に入れてほしいとか、パンツを見せてとか…
でもそれは言わないでおこう。
僕は気を紛らわすためにエリィの尻尾をなでてみた。
結構エリィの尻尾の毛並みがきれいだなと思った。
「ねえ。エリィ尻尾の毛並みがきれいだね。
何か手入れをしているの」
「たまにブラシを入れるぐらいかな」
とエリィが言う。たしかにいい尻尾だ。
僕もあとでエリィの尻尾にブラシを入れてみたいと思った。
手触りがいいし、もふもふしている。
でも太さがあるのでどっしりとした感じもある。
この尻尾だけで何キロぐらいの物を持ち上げることができるんだろう。
僕はさっき軽々と持ち上げられたし、
きっと地球の重量挙げ選手が持ち上げられる重さをはるかに越えるぐらいの物を持ち上げることができるんじゃないのかなぁ。
「エリィの尻尾も力持ちだね。
さっきは僕を巻きとったし」
「うん。そうかも。
地球人なら、数人まとめて持ち上げることができそうだよ」
「じゃそんなに力が強くて、自在に動かせるんなら、手がもう1本あるような感じだね」
「うん。そんな感じ。
床に置いてある服をとるときに尻尾を使ってとることもできるんだよ。
でもね。あたしのおばあちゃんに見つかると、怒られるんだけどね」
はははっそうかもと笑って、エリィがおばあちゃんに起こられているところを想像してみた。
僕はエリィを見る。
尻尾があることで、ほわわんとしたエリィの雰囲気をさらにかわいくさせている。
やっぱり猫耳カシューチャをエリィにつけてもらいたいなぁと思った。
地球についたらエリィの機嫌がいいときに言ってみるかと思った。
でっかい猫みたいな、猫コスプレをしたエリィもいいかもしれない。
ということをトオルが考えていると、
「もう寝ない? トオル君はもしかして、あたしと添い寝したいと考えているのかなぁ?」
「えっ。いや。その。さっきの台の上でいいよ」
「あーそうなんだ。ちぇっ」
ちぇっと言った?
「あーごめん。うそ。うそだから気にしないで。
じゃトオル君を台の上に移すよ。
あっそうだトイレとかに行きたくなったら、このインカムであたしを起こしてね。
1人だと降りることができないでしょう。
我慢しないであたしを起こしてね」
「うんわかった」
と僕は言って、エリィによって台の上に移動するのを手伝ってもらう。
「じゃ明かりを消すね」
「うん。いいよ。おやすみエリィ」
「おやすみトオル君」
とエリィが電気を消す。
その後に、エリィがもそもそとベッドの上で動く音がする。
真っ暗でなにも見えない。
そばにエリィがいる。
幸せだ。
エリィと一緒にいる時間がずっと続けばいいのにと思った。
でも明日には助けに来てくれるんだろうか。
地球に帰ったらなにをしようかな。
まずはエリィと一緒にいろいろなところに行きたいな。
トオルはエリィの寝息を聞いているうちに眠くなってきたので考えるのはやめて寝ることにした。