「ねえ。航君?」
もう寝ちゃったのかなぁと思った。
航君。
ナナは航君のことを考えた。
地球から来たらしい。
言葉も通じた。
小さいころにおばあちゃんに教えられたからだ。
いつ小人さんが来るかわからないから、
いつ来てもいいようにということだった。
でも肝心なところ、つまり帰るにはどうしたら良いかというところを覚えていない。
昔、地球の人が来たときのことは書物に記録していたが、ずっと前の洪水で濡れてしまい字が読めなくなってしまったのだった。
今では地球のことを知っている人も少ない。
村一番の長老おばあちゃんなら何か知っているかもと思った。
でも航君。
しきりにあたしの胸を見ていたみたい。
そんなに気になったのかなぁ。あたしの胸。
それに着替えを見られた。
あたしのおなかぽっこりしているとか思われたのかなぁ。
とナナはおなかをさすりながら思う。
ちょっと最近食べ過ぎたかなぁと思った。
ルビーが持ってくる食材や調味料がいい味なので食が進むのだ。
さてともう寝よう。
明日は航君を見つけたそばまで行ってみよう。
何かあるかもしれない。
それに隣町まで必要な物を買い物に行かないと。
今日は買い物に出かけたが、航君を拾ったので、
あまり買い物をせずに戻ってきてしまったのだ。
ナナも目を閉じた。

……
朝日があたりを照らし、十分に明るくなったころナナは目が覚めた。
うーんもうちょっと寝よう。
ナナは目を閉じた。
そしてしばらく時間がたったあと、再びナナは目が覚めた。
だいぶ日が昇っている。
もう起きよう。
そういえば航君は先に起きているかなぁ。
あたしは起き上がり、テーブルの上のかごの中を見る。
まだ起きていない。
まさか死んでいないよね。
ナナはじっと見てみる。
ゆるやかにおなかのあたりが呼吸で上下しているから問題なさそうだ。
顔もおだやかだ。
幸せそうに寝ている。
顔色も良いし、だいぶ良くなったんだろう。
じゃ今のうちにご飯の支度をしよう。
ナナは昨日ルビーからもらった食材を使うことにした。
これも煮ることにした。
いちおう航君のことを考えて柔らかいものにしようと思った。

……
もう起きたかな。
ナナは航が入っているかごの中を見る。
まだ寝ている。
ナナはご飯の準備が終わったので航を起こそうとおもっていた。
でもその前に…
つんつんとゆびで航のほっぺたをつっついてみる。
指先1つで航君のほっぺたは隠れてしまう。
つんつん。ぷにぷに。
まだ起きないね。
航君。かわいいと思った。
じゃもうそろそろ起こすか。
「航君。朝だよ」
ゆびを3本航の体にそえてそっとゆさゆさとゆする。
「んー」
起きない。
「おーい。朝。朝だよ」
ゆさゆさ。
ゆさゆさ。
指でゆするが起きない。
地球人って寝起きが悪い?
ナナは航が起きないので、航が入っているかごごとゆさぶる。
「ほら。朝だよ。起きてよ。ねえ。
大地震だぞぉ」
ゆさゆさ。
あまりゆさぶりすぎたので、ごろごろと航君はかごの中でころがってしまう。
やりすぎたかなと思ったけど、航君は布をかぶりなおして寝ようとする。
「むー起きない。
ねー起きてよ。
起きないと、航君のおなかを指で押すよ。ぎゅーと」
本当にぎゅーと押したらおなかは潰れてしまいそうだ。
でもかまわずに航君は寝ている。
水でもかけてみる?
でも風邪でもひいたらこまるかとナナは思った。
ナナはそのかわりこう言った。
「起きないとあたしの着せかえ人形の服を航君に着せるからね。
そうねえ。ふりふりのドレスしかないから、それを着せてしまうぞぉ」
まだ起きないところを見て。
もうとナナは怒った。
ナナはお人形遊びで使う服を持ってきた。
そしてほんとうに着せてしまうぞぉと言っても航が起きそうもないので、着替えさせることにした。
でもナナは手を止めた。
航が着ている服を脱がすことができないのに気がついたのだ。
服は何か知らないものでくっついているが、ナナの指でそれを外すのは無理だった。
小指の先より小さくてつまむことができない。
でもあたしが服の端を持って引っ張れば簡単に破けてしまうだろう。
でもそこまでする気はなかった。
もう。
せっかくご飯作ったのにさめちゃうじゃない。
ナナは違う方法で起こすことにした。
あたしの尻尾(普段は服の下にしまってある)で航の足の裏をくすぐることにした。
これは効果があり、航はこちょこちょされるとすぐにおきた。
「ぐははははっ。やめて。やめてったら」
と航は起きた。

……

「もうやめて。
起きたから…」
航は足をひっこめる。
「そんなものどこから出しているんだよ」
僕はどうやらナナのゆったりとした服のすそからでている動物の尻尾みたいなものを見た。
後ろにでも動物を隠しているんだろうか。
「あっこれ?」
器用に尻尾を動かす。
「これあたしの尻尾。
そういえば地球人には尻尾ないの?」
「そんなものはないよ。
でも本当にナナの尻尾?」
「うん。ほら。自由に動かせる」
とナナは立ち上がった僕を尻尾でぐるぐる巻きにする。
僕はナナの尻尾にさわってみる。
「少しあったかい」
そしてナナは言った。
「航君起きないから、この尻尾で足の裏をくすぐっちゃった。今度からそうするね」
「とってもくすぐったいからやめてほしいな」
「じゃどうすれば起きるのよ」
「家ではいろいろだったな。
足の裏をくすぐられたり。
ベッドから落とされて、
それでも起きないからおなかをぎゅっと踏まれたり。
空のやかんを頭の上に落とされたり」
「やかんって何?」
「それはお湯を沸かすための器具。
金属でできた容器。たたくといい音がする」
「ふーん。じゃ明日は別なのにするね」
とナナが言った。
ナナが動くたびにナナの胸がゆれるので、航は言った。
「あっそうそうもう1つ。
僕の顔の上に胸を乗せてきたことがあった。
そしたら苦しくなって目が覚めた」
「ふーん。航はあたしにそうしてほしいの?
やってもいいけど死ぬよ」
ナナは細い目で言った。
「えっなんで」
ナナは答える代わりに尻尾でぐるぐるまきにしたまま僕をちょっと持ち上げた。
そしてナナは自身の胸を手のひらで持ち上げて重さをはかる。
「だってこの胸とっても肩がこるぐらい重いんだもん。
この感じだと航君の10倍は重いよ。あたしの胸を乗せたらつぶれちゃうと思うよ」
そっそうなのか。
航はナナの手の上に乗っている胸を見る。
「あまりあたしの胸を見ないの。
変なこと考えたら、
そのままあたしの尻尾できゅっと絞めるよ。
結構尻尾の力は強いから、
あたしが尻尾を絞めたら航君はいちころだよ」
「うっ。わかった。変なことは言いません。
胸は見ません」
なんであんなことを言ったんだろうと思った。
ナナを見ていると言いたくなってしまう。
するするとナナの尻尾が解かれる。
さて、料理を温めなおすね。思いの外時間がかかっちゃった。と言ってナナはテーブルの上にならべた料理を手に持つ。
しばらくナナの後ろ姿を見ていた。
この光景はなんだろうと思った。
恋人?新婚夫婦?
いや違うな。
兄と妹。
そんな感じ。でも妹のほうが10倍は体がでかい。
これだと女の子が小動物を飼っていて世話をしているかのようだ。
そしてできあがる時間になると、当然のようにルビーが飛んでくる。
「においをかぎつけたのか…」
「いつもこのぐらいの時間だからね…
ナナ。あたしの分はいつもよりちょっと多めにね。
この後遠くまで飛んでいかないといけないから」
「うん。わかった」
とてんこ盛りの料理がルビーの前に出される。
「そんなに食って飛べるのか」
とルビーに聞いてみた。
「飛んでいるうちにおなかすくもん」
ふーんとルビーを見る。
そしてナナ。
昨日より少ない。
ナナの皿を見る。
半分ぐらい。
「ダイエット?」
「ダイエットって何?
でも言っていることはわかるような気がする。
今まで食べ過ぎていたからちょっと減らすの」
とナナはぷんぷんしながら食べる。
「ルビーはいいよね。そんなに食べても太る心配しなくて…」
「あたしはエネルギーを使うからよ。
普通の量だったら保たないわね。
そこの航君ぐらいの量だったら
あたしは細って死んじゃうわね。
あんたもしっかり食べなさいよ。
見たところ細いし」
「まあ。いつもより少ないかも。
昨日まで行き倒れていたというせいもあるけど」
「ふーん」
とぱくぱくとルビーは平らげる。
そして
「ナナありがとう。
あたし行くわね。
じゃっ」
とルビーは飛んでいく。
そして入れ違いに別の子が入ってきた。
ナナよりはちょっと背が大きめ。
でもナナよりスレンダーで胸はナナより小さい。
「????????」
「??????????。????????????????????。
?????」
また、何言っているのかわからない。
そして、その子はこっちを見る。
そして寄ってきた。
僕が動くと。
「??????」びっくりしたようだ。
ナナは「??????こんにちわ」と言う
「?こんにちわ」
その子は言う。
「こんにちわ」
身振りからびっくりして、物珍しそうにこっちを見ているようだ。
この子は日本語を話せないようだ。
そして、その子はナナに手に持っている物をあげてから出ていった。
「さっきの子は?」
ナナに聞いてみた。
「近くに住んでいるエルメさん。
彼女の名は日本語で発音できないから、
近い言葉を当てはめたんだけどね」
「ナナよりスタイルが良かったぞ。胸はナナのほうがでかいけど…」
また言ってしまった。なぜなんだろう。
「わるかったね。おなかぽっこりで足も太くて」
「そこまで言っていないよ」
「ふんだ」
とナナはそのまま外に出ていってしまった。
「ごめん。待ってよ」
僕はテーブルの上にいた。
だからそこから降りることができない。
1〜2分ぐらい待っても戻ってこない。
怒っちゃった?
どうしよう。
しばらくは戻ってこなさそうだ。
航はズボンのポケットをさぐった。
すると手帳が出てきた。
そういえば入れっぱなしだったっけ。
星の観察結果を書いておくために持ってきたんだった。
航は今までのことをメモすることにした。
テーブルの上に寝っころがって手帳を広げる。
最初にここに来たときのことを思い出す。
書き出しはこうだ。
「いったい何が起こったのかわからない。
これは夢なのかと思った。でも一向に夢から覚める感じはしない。
なので、整理するためにここにメモを取ることにする」
1ページ目はこんなものかな。
2ページ目。
5月28日。
僕は最初に気がついた箇所から1〜2時間歩いたが、
何もなかった。
同じような森が続くばかり。
食料もあまり残っていない。
このあたりには食べることができそうなものもない。
木の実もない。
人や動物も見かけない。
どうしよう。
ここはどこだ。
まあ。テントの場所に戻ろうと思った。

5月29日
昨日とは逆の方向に歩いていくことにする。
なんか雲が雨雲みたいだなと思った。
そしたら雨が降ってきた。
うわぁ。
とっても大きな葉っぱを傘がわりにする。
そして今日は戻ろうと思った。

5月30日
今日も雨だ。
おかげで飲み水はできた。
水筒に雨水をためる。
これを飲んでもおなかをこわさなければいいんだけどと思った。
食料もない。
ぐー。おなかが鳴る。

5月31日
今日で4日目。
おなかが空きすぎて力が出ない。
もう死ぬのかなと思った。
水を飲んで少しでもおなかをいっぱいにしてから、
森の道を進んでみることにした。
持てるものは持って行くことにする。
テントも片づけた。
元気のでない足をひきづりながら歩く。
歩く。
そして登り道が見えてのぼりきったとき、
上から見てみる。
がっかりした。
同じような道ばかりが続いている。
道を下りながらよろけながら歩く。
もうだめ…
背中にかけていたバックも落としてしまう。
そしてしばらく歩いたあとに、くたっと倒れこむ。
そして目をつぶった。
もうどうでもいい。
そう思った。

というところまで書いてみる。
たしかこんな感じだった。
その後は、ナナと出会ったことを書く。
しばらく書いてから、ナナのことも書く。
かわいらしい子。
体型は少しぽっちゃり。
ぼん。きゅっとはしていない。ぼん。
身長はおそらく10何メートルか。
体重は地球の女の子に換算して、
ぽっこりしているのと胸があるから50kgはあるだろう。
だから身長10数メートルに換算すると、
どのぐらいになるんだ。
わからない。
バストのサイズも相当大きいだろう。
そっちのほうが気になるなぁと思う。
そして尻尾があるということ。
航はひととおり書いてから、入り口を見る。
まだこない。
航は手帳を閉じてそのままの姿勢で目を閉じた。
……
いきなり。
どん。
という音と少しからだが浮き上がるような感じで目が覚めた。
寝てたようだ。
見てみると何かがテーブルに置かれている。
「うわっあぶない。なんだこれ」
良くわからないものがテーブルの上に乗っている。
しかも近い。
それがテーブルの上に置かれたときの衝撃で、
一瞬僕の体が浮かび上がったのも想像がつく。
「ねえ。まだ怒っている?」
ナナの顔を見て聞いてみる。
「いいや。もう怒ってないよ。
ほら行くよ。今日は航君が帰る手がかりを見つけるのに出かけるんだから。
それと隣町に薬を買いにいくの」
ナナにつかまり、僕はナナのおなかの近くにあるポケット。なんか有袋類のおなかの袋みたいだの中に入る。
「じゃ行くよ。あまり身を乗り出さないこと。
落ちるからね」
「うん」
僕はその袋の中を見る。
少しひからびたお花。
ぺったんこになっている。
「ねえ。こんなものも入っているよ」
とひまわりぐらいの大きさの花を取り出す。
まるで押し花のようになっている。
「ああ。これ。
忘れていた」
「少し片づけたらどうなの?
ほかにも何か入っているよ」
と何かの実も入っているのを取り出す。
これも少し潰れている。
「あっそういえば。ずっと前に入れたままだった。
それに道で転んだときに押しつぶしちゃったかも…」
それを聞いて。
「今日は転ぶなよ。
だから走るの禁止。
僕がポケットの中に入っているんだから」
潰れた実を見て言った。
「大丈夫。転ぶのは数日に1回だけだから。
今日は転ばない予定だし」
「転ぶ予定があるのかよ。とにかく転ぶのは絶対禁止」
「もー。うるさいなぁ。わかったよ。
今日はおなかが空いているから走らないし」
とナナ。
そういえば、皿に半分しか料理を盛っていなかったっけ。
しばらく歩いていると。
ぐー。
ナナのおなかから音が聞こえる。
ポケットはナナのおなかに近いのでよく聞こえる。
ナナはしらんぷりだ。
くー。きゅるきゅる。
僕は笑いをこらえていた。
かわいらしいおなかの音。
きゅー。
また鳴った。
「ねえ。おなかが空くよね。皿に半分じゃ」
「空いていないよ。大丈夫だよ」
ぷんぷんした感じで言う。
「ここから聞こえる音はなにかなぁ」
と航はナナのおなかをぽんぽんとたたく。
いい感じにふにふにしている。
「きっと航君のおなかの音だよ」
「どうかなぁ」
と言いながらまたナナのおなかをぽんぽんとたたく。
「あまり人のおなかをたたかないの。
尻尾で航君を絞めちゃうよ」
とナナは言う。
さらに機嫌が悪くなったようだ。
「ごめん。もう言わないから」
「ぷんぷん」
その後。ナナはだまってしまった。
そして歩く。

……
そして急に立ち止まる。
「おわっ。なんだよ」
前のめりになりそうだったので声を出して上を見上げる。
「ここ。あたしが航君を見つけた場所。
航君は最初どこにいたの?
案内して」
おっそうだ。
目線が何メートルも上だからわかりにくかった。
ナナの足で35分ほど歩いたところだ。
ナナはとっても歩くのが速い。
人の10倍ぐらいの速度はあるんではないかと思っていた。
だから僕が歩くとここまで350分か?
ということは5時間ちょっと歩かないとだめなのだ。
どおりでなにもなかったわけだ。
スケールが違う。
そういえばこの道の幅が広いのもわかる。
ナナぐらいの人が歩くのだから当然だ。
なので僕は。
「えーと6分ぐらい歩くと、木の幹に赤いひもが巻き付けてあるから、そこから森の中に入って」
「うん。でもその赤いひもはきっとこのぐらいの高さでくくりつけてあるんでしょう?」
とナナはしゃがんで手をかざす。
うっ苦しい。
服とおなかの間に押しつけられる。
「ナナ。苦しい」
「わわっ。ごめん」
ナナは立ち上がる。
ナナがしゃがんだので、ナナのおなかと服の間の隙間がなくなったのだ。
「大丈夫?
生きている?」
「うん。どうにか…
これから、僕がここに入っている間はしゃがむの禁止」
「うん。ごめん」
ナナは立ち上がり歩きだした。
「ごめんね。さっきの大丈夫だった?」
「うん。でもさっきは苦しくてびっくりしたけどね。
でもほら見えてきたよあれ」
木の幹にくくりつけてある赤いひもが見えた。
「えーどれ?」
「あれ。あの木。ずっと下のほう…」
「うーんと。えーと。
あっあれかな…」
ナナの目線から見るとずっとしたのほうだろう。
「うん。そしてあっちのほう」
僕はナナのポケットの中から指で示す。
「えー。ここ入っていくの。木の葉がじゃま」
僕がここに入ったときはぜんぜん気にならなかったんだけど、ナナの背でも木の葉が少しじゃまになるようだ。
ほとんどの木の葉はずっと上にあるが、いくつかの葉はナナの顔にかかるぐらいの高さにある。
そしてナナは道を外れて中に入っていく。
結構歩いたような気がしたんだけど、ナナの足だとほんの数十歩ぐらい進んだところに、僕がテントを設置した場所があった。
「うーんと。このあたり。
最初はここに倒れていたんだよ」
「ふーん。そうなんだ。でもこのあたりにはなにもないよ」
とナナはきょろきょろ見回す。
ナナのポケットの位置は地面から9メートルほど。
そこからみてもなにもない。
「うーん。わかんない。
今度村一番の長老さんに聞いてみようよ。
いいでしょう」
「うん。なにもないし」
「じゃこのまま隣町へ行きましょう」
と僕たちは歩き出した。