休みの日。
アキラは10時頃に目を覚ました。
筋肉痛のせいで目が覚めてしまった。
いつもならもっと寝ていられるのに…
「あいたたた」
やっぱり昨日、友人達とボーリングを連続10ゲームやったせいか…
無茶しなければ良かった。
アキラは階下に降りるためにホバーに乗った。
「静かだと思ったけど、何やっているの?」
僕は窓際でリリーが横たわり、その背中の上にリアちゃんが乗っている。
「マッサージよ。足踏みマッサージ。リアちゃんにしてもらっているの」
リリーが言う。
なるほど、ホバーに乗っているのでちょうど今の高さはリアちゃんの胸のあたりだ。
だから良く見える。
娘は今8歳。
でも普通の地球人ではない。
エレーネ星人と地球人との間に生まれた子だ。
体のサイズは10倍。
だから床から10メートルぐらいの高さなのだけど、これでもリアちゃんの胸のあたりだ。
この高さから見ると普通の地球人の子がお母さんに足踏みマッサージをしているようにも見える。
僕は、ホバーをあやつり床の上に降りることにした。
そして、リリーの腰の横あたりまで近づく。
リリーの背中の厚みは1メートル以上ある。
その背中の上に2メートル以上の長さの物が乗っている。
リアちゃんの足だ。
その足が上に持ち上がり、そして踏み下ろされる。
こきこき。
「ああ、そこそこ。そのあたり…」
リアちゃんがリリーの背中を踏むと背中が少しリアの体重でへこむ。そのたびにこきこきと音が鳴る。
横になっているリリーも大きいが、リアちゃんも大きい。
間近で見ると結構迫力があるなあと僕は思った。
リリーの上に乗って踏み踏みしているリアちゃんの足も僕の身長より長いだろう
だから、あの足が僕の上に乗ったとしたら、全身がすべて隠れてしまう。
あんな風に踏まれたとしたらきっとぺったんこになって厚みは残らないだろうと考えた。
踏み踏み。
踏み踏み。
そのたびにこきこきと音が鳴る。
「ああ。いいわね。寝ちゃいそう。アキラには足踏みマッサージできないわねぇ。
クウに踏み踏みしてもらったほうがまだいいと思うわね」
クウは家で飼っているペットだ。
見た目は地球のウサギと有袋類の間の子。でもウサギの10倍の大きさ。
だからこの家で一番体が小さいのは僕だ。
しばらくして…
「ありがとリアちゃん。もういいわよ」
とリリーが言い、リアちゃんはリリーの背中から降りる。
「あたしは買い物に行かないといけないから、お駄賃は後ね」
「うん」
「アキラもやってもらったら?マッサージ。リアちゃんはうまいわよ」
とリリーが言いながら、立ち上がりリビングのほうに歩いていく。
そうだな筋肉痛だし。足踏みマッサージは無理かもしれないが、
リアちゃんに手を使って揉んでもらうことはできるだろう。
「ねえ。リアちゃん。お父さんもマッサージ頼めるかな。昨日のボーリングのせいで筋肉痛なんだ」
そうなんだ。お父さんも若くないのに無理するから…
と言われてしまうが、僕が朝食(もう少しで昼食かも)を済ませたらマッサージをしてもらえることになった。

「じゃお父さん手でつかむよ」
リアちゃんが言いながらこっちの方に手を伸ばしてくる。
リアちゃんは子供だけど、僕はリアちゃんの手のひらに乗ってしまう。
「力加減のほうは大丈夫? 間違って潰さないように」
「はぁーい。わかってますって」
リアちゃんはソファに座ると、自分の手を太ももの上に置く。
僕はちょうどリアちゃんの手のひらの上に横たわるような感じになる。
「じゃどこからマッサージする?。腕? 腰? 足?」
「じゃその順番で…」
僕は仰向けの状態のまま両腕を広げる。
リアちゃんの指が僕の腕をさわさわとなでる。
「やっぱり、お父さんの腕細いね。力加減を気をつけないと折っちゃいそう」
リアちゃんの指の太さは僕の腕、いや足よりも太い。指の長さも僕の腕の長さよりも長いので確かにそうかもと思った。
内心ちょっと不安だ。
リアちゃんはそおっと僕の腕をマッサージしていく。
「もうちょっと強くつかんでも大丈夫だよ」
「そうなんだ。じゃ少し強めるね」
おっいい感じだ。
ふにふに。
ふにふに…。
こりこり。
強すぎず、弱すぎないぐらいの力で僕の腕をもんでいく。
リアちゃんにとっては指に全然力を入れていないんだと思うけど、
ちょうどいい力でやさしくもみほぐしていく。
僕は腕がだいぶ楽になったので、腰のほうをやってくれるようにリアちゃんにお願いする。
「じゃうつぶせになってね。あたしは親指でお父さんの腰を押せばいいのかな」
「そういう感じでお願いされようかな」
僕はうつぶせになる。
その後、僕はリアちゃんの指によって腰のあたりをつままれるのを感じた。
そして軽々と持ち上げられる。
リアちゃんの指数本が僕のおなかの下に当てられる。そしてリアちゃんの親指が僕の背中にあたるのを感じた。
リアちゃんの親指は僕の腰のほとんどの部分を覆い尽くしている。
「じゃ押すね」
とリアちゃんの声が聞こえる。
「うぐっ」
「わあ。お父さんごめん。ちょっと力を入れすぎちゃった? お父さん大丈夫?」
「だ。大丈夫だ。急に力が加わったからびっくりした。なんとか大丈夫だ。
でも力加減に注意してほしいな」
「ごめん。お父さん。今度から気をつけるよ」
と言ってリアちゃんは親指に力(ほんの少し)を込める。
うん。今度は大丈夫だ。
「もうちょっと強くても大丈夫だぞ」
「うん。わかった」
ぎゅっぎゅっ。
リアちゃんの親指が僕の背中をリズミカルに押す(というかリアちゃんにとってはなでているような感じだ)。
「ねえ。お父さん。あたし思うんだけど」
「えっ。何?」
「お父さん。リリーお母さんと毎晩ビールを飲んでいるよね」
「うん。そうだけど。それが何か…」
「えとね。お父さんのおなか。前より出てきたんじゃない?」
「うっ。そうか。そうなのか。まだ出てきていないと思っているけど…」
僕はちょっとどきっとした。油断するとおなかが出てくるのではと思って気を付けるようにしているけど…。
「なんとなくだよ。あたしの手の平に伝わるお父さんのおなかの感触が少しふにふにしているかなって」
うう、娘に言われたくないなあ。まだおなかは出ていないけど、今度から気を付けようと僕は思った。
それに僕は恥ずかしくなったので、
「じゃ腰はもういいから、足を頼むよ」
「えっ腰はもういいの?」
うんと僕は言って再び仰向けになる。うつぶせが良かったけど、さっきの言葉が気になったので
体勢を変えることにした。

「わあ。お父さんの足細いね。あたしの指の方が太いんじゃない?」
「確かにそうだな」
リアちゃんは僕の足と指を並べて太さを比べる。
僕の足に添えられたリアちゃんの指のほうが太そうだ。
「じゃ。力が強かったら言ってね」
「うん」
もみもみ…。
リアちゃんの指、数本を使って僕の足をもみもみ。こりこりとほぐしていく。
地球人の10倍サイズの子にマッサージしてもらうのもいいかもしれない。
もっとも信頼出来る子でないと安心してマッサージを受けていられないと思う
リアちゃんが力を少し入れたらきっと僕の足は簡単にぽきりと折れてしまうだろう。
「リアちゃん。マッサージありがとう。ところでリアはマッサージしていて疲れない?」
と僕は聞いてみた。
もむ方にとっても、手を使って揉むのはきっと力がいるだろうし疲れるだろう。
おそらく、リアちゃんは力をあまり入れなくても済むのであまり疲れてはいないはずだけど
「リリーお母さんを手でマッサージしているときは疲れるよ、
でも、お父さんの時は全然疲れないよ。力いらないし…。
あたしが力を入れると、きっとお父さんの体の骨が折れちゃうよ。
だから、やさしくそっとマッサージしているような感じなの…」
「そうか。僕がリリーにマッサージを頼むとめんどくさいからいやと言われそうだ」
「そうかも…。お母さんは細かいことできないからね。
おおざっぱに力を入れすぎて、お父さんの骨を折っちゃいそう」
今はリリーがいないのでリアちゃんも気にしないで言う。
「あはは。そうかもな。今度からマッサージはリアにお願いしようかな」
「うん。あたしはいいよ。お小遣いさえもらえれば…」
やっぱり小遣い目当てか…。
「ねえ。お父さん。あたしの手でマッサージするのはこのぐらいでいい?」
とリアちゃんが聞いてきた。
だいぶマッサージで筋肉もほぐれた。でも筋肉痛は残っているけど。
リアちゃんのおかげで筋肉痛も早く治りそうだ。
「うんだいぶ楽になった」
「そう。良かった。じゃ今度は足踏みマッサージをするわね」
「え? 足踏みマッサージ」
ちょっとびっくりした。
「そう。あたしがお父さんの背中をあたしの足の裏で踏んでマッサージするの。
リリーお母さんに足踏みマッサージをやってみたら好評だったのよね…」
とリアちゃんは言う。
うーん。
さっきリアちゃんがリリーの背中の上に乗って足踏みマッサージをしていたことを思い出した。
エレーネ星人のリリーなら、リアちゃんぐらいの重さがちょうどいいのかもしれないけど…。
地球人にとっては途方もない重さだと思う。
ちょっと体重の掛け具合を間違ったらと思うと気が引ける。
「ねえ。今までに地球人相手に足踏みマッサージをしたことないよね」
「うん。でもぜんぜん大丈夫よ。あたしはかかとをつけて、あたしの足の裏をちょっとお父さんの背中の上に乗せるようにするから…」
うーんそれなら大丈夫な気がする。
「じゃ窓際のほうに移動するわね」
どうやら窓際のほうが支えになる壁があるからマッサージしやすいとのことらしい。
リリーに足踏みマッサージをするときにそこでやっていたし…。
「ねえ。でもここは床が木なんだけど…」
一応念のため家の床の大部分には、ある一定以上の重さがかかるとめり込むような物が敷いてある。
これがあれば、万が一エレーネ星人に地球人が踏まれても床がめり込んで、体がぺちゃんこに潰れてしまうことはない。
でも木の床だとそのような安全装置はない。
「ねえ本当に大丈夫か? ちょっとあれで練習したほうがいいんじゃないか」
と僕は地球人サイズのエクササイズボールの方を指さした。
あのボールを踏み踏みして踏む感じをつかんだらどうだろうかと思った。
「そうね。じゃお父さんはそこの木の床の上にうつぶせになって待っていて」
と言いながらリアちゃんはエクササイズボールを指でつまんで木の床にそのボールを置いた。
そのエクササイズボールは地球人から見ると十分な大きさだが、エレーネ星人サイズのリアちゃんと比べると
非常に小さく見える。
「えーとこんな感じかな」
と言いながらリアちゃんはかかとを床に付けて足の裏をそーっとボールの上に乗せる。
少しだけというか地球人が普通に乗ったときと同じぐらいボールがへこむ。
踏み踏み。
と力加減を確かめながらボールを踏む。
そんな光景を床の上で寝そべりながら見ていた。
踏み踏み。
ちょっと力をかけすぎじゃないかなと僕は思った。
リアちゃんが踏むとそのボールは半分ぐらいまで潰れる。
「ちょっと力いれすぎじゃないかな」
僕はリアちゃんに言ってみる。
「えっ」
リアちゃんがその声に応じてこっちを見たときに僕はボールを見た。
きっと気がそれたんだろう。
そのボールはものすごく潰れている。破裂するんじゃないか。
と思ったとき。
ぼふっ。
リアちゃんの体重により、ボールがやぶけ、リアちゃんの足の下に隠れて見えなくなってしまった。
「あっ。気がそれちゃった時に、ちょっと力をかけすぎたみたい。てへっ」
う"。本当に大丈夫かな。
「ち。ちょっと。リアちゃん。お父さんはすごく不安なんだけど…」
「大丈夫大丈夫。今ので力の加減わかったから。それにあのぐらい力をかけたら潰れちゃうこともわかったし…」
とはにかみながら僕に向かって言う。
「ねえ。お父さん大丈夫だから…」
リアちゃんはこっちを見ている。
きっとマッサージをさせてもらえないと、お小遣いはもらえないと思っているようなので必死だ。
うーん。
大丈夫だろう。信じよう。
前に未来からリアちゃんが来たとき(そのときのリアちゃんは16歳)、僕がマッサージ中に謝って踏みつぶされたとかは言っていなかったし…
なら大丈夫だ。
足の裏をちょんと乗せるだけだと言うし…
「わかった。わかった。リアちゃんを信じよう。このマッサージが終わったらお小遣いをあげよう」
「うん」
リアちゃんはすっかりつぶれちゃったボールの残骸を片づけると、
こっちの方に歩いてきた。僕が寝ころんでいる木の床にリアちゃんのかかとが乗る。
「おっ木の床がリアちゃんの体重でへこんだ」
リアちゃんの体重で床がぎしっつと鳴る。
「あっそうなの? あたしにはわからないな。でもあたしは太っていないよ。
きっと木の床の強度がちょっと不足しているんだよ」
なんか10センチ以上は沈み込んだ気がするんだけど。
「ちなみに体重はどのぐらい?」
僕は聞いてみた。聞いてもどうにもならないけど。
「えー。教えるの? 恥ずかしいよ。でもヒントなら教えてあげる。リリーお母さんはあたしの倍重いよ。それだけ」
ふーん倍か。ということは28トンぐらいか?
僕はリアちゃんの顔を見上げる。
「ひょっとしてわかっちゃった? でもあまり女の子に体重は聞いちゃいけないんだよ。あたしもお年頃だし…」
「こんどから聞かないようにするよ」
「うん。じゃ始めるよ」
その後リアちゃんの足の裏が僕の背中に接するのがわかる。
はじめはちょっとだけふれたような感じの力から始まって、序助に僕の背中をリアちゃんの足の裏が押し始める。
「もし苦しかったら言ってね。あたしは手探り、じゃなくて足さぐりで力のいれ加減を調整してみるから」
「今のところ、もうちょっと強くでも良いかな」
「そうなんだ…」
ぎゅっぎゅっとだんだん背中を押す力が強くなる。
でも苦しくはない。
「うん。このぐらいがちょうどいいよ」
「良かった。じゃこのまま続けるね」
ちょうど良い力で腰が圧迫される。
気持ちがいい。
なんかうつらうつらしてきた。
「ねえ。お父さん。マッサージどうかな」
「んあ。ちょうど良いよ。気持ちが良くて寝てしまいそうだ…」
と僕は言う。
「ところで…、報酬のほうはどのぐらいかなお父さん」
「ああ。そうだった。えーと300円?」
僕は試しに言ってみた。
「300円?」
リアちゃんの足が僕に力をかけたままの状態で動作が止まる。
「ほんとに? それだけ?」
その後マッサージは再開するが、今までより力の入れ加減は強めに感じる。
ぎゅー。ぎゅー。とその間もマッサージは続く。
「ちょっと力を弱くしてくれないかな?」
その声にリアちゃんは
「力は強くしていないはずなんだけど、ところでもうちょっと上がらない?」
「310円」
僕はちょっとからかってみた。
ぎゅー。
リアちゃんが踏む。うぐっ結構重い。
「えー。それ冗談? 今度は最後に聞くけど本当にそれだけ?」
その間も腰にかかる力はなんだか増えているような気がする。
ぎゅーむー。
「冗談。冗談。3000円」
「あっそれで十分。ありがとう。ごめんねちょっと力を入れすぎたみたい。それっつ踏み踏みと」
ふう。
最後はちょっと苦しかった。
その後数分後、またうつらうつらしてきたところで出かけていたリリーが帰ってきた。
「あらっリアちゃん何やっているの」
「お父さんに足踏みマッサージしているの」
あらそうなのとリリーは買い物の袋を置く。
「あたしも一緒にアキラを踏み踏みしてあげようか」
とリリーが言う。
「それだけはだめ。きっとリリーが踏み踏みしたら、トマトのように一瞬でぺちゃんこだよ」
と僕は言う。
「なによ。一瞬って。なんか失礼なこと言われているみたいなんだけど…
まあいいわ。あたしはちまちまと潰れないように気を遣いながらマッサージするのはいやよ」
たぶんそうだと思った。こまかいことはあまり出来そうにもない。
「あたしはこれから昼ごはんを作るから」
と言って台所のほうに歩いていった。
「ねえ。リアちゃんありがとう。とても体が楽になったよ」
「そう。あたしも喜んでもらえてうれしいな。じゃ終わりにするね」
リアちゃんは離れて、しゃがみ込む。
僕は木の床から起きあがり立ち上がる。
そしてカードを取り出す。
「カードだして、報酬をリアちゃんのカードに転送するから」
「うん。わかった」
僕は報酬をリアちゃんにあげると、台所から昼食のにおいがしてくるのに気がついた。
今日はなにかな?
「お父さんありがと。これで好きな物が買える」
「あんまり無駄使いするなよ」
はあーいというリアちゃんの返答を聞く。
「昼食ができるまであたしと一緒にテレビを見ようね」
とリアちゃんが言って、手をのばしてくる。
僕はその手に体を預けるとリアちゃんの顔を見上げた。
リアちゃんはにこにこ顔だ。
親孝行をしたのとお小遣いが増えたのでとてもうれしそうだ。