他人よりもこの体が優れていると感じた事は無い。物はすぐ壊すし、椅子にも座れないず、私だけ床に正座でしかも猫背で仕事。
 新入りの仕事でもあるお茶くみだって、急須が小さ過ぎてうまくお茶も入れられない。それよりも給湯室が狭すぎて上半身を入れるだけで精一杯。
 どうしてOLなんて道を選んでしまったのか、あの頃の高校生の私を問いだしたいよ、ほんとに……。

「タイムマシン……どこかに落ちてないかな…」

 私は常人よりも、背が高い。……訂正、高すぎる。
 幼稚園児の年長組の時に身長が170cmを越え、小学1年で2mを超えて、中学入学時には身長は3mを越えていた。
 特に二次性徴時は酷いと、一月で背が10cm近く伸びて胸なんか日に日に空気を入れているように膨らんだ。
 中学卒業時には4mの手前まで伸びて、高校入学時には4mを越えた。
 高校ではバレー部に入部したが、ネットが私の肩よりも低くてあまり面白くなくて半月で辞めた。
 よく世間で、いじめが問題になっているけど私はそういった目に遭った事は無いが、むしろ私がみんなを虐めていると言われる事が多々あった。
 ちょっと冗談で男子の頭を叩いたら首の骨にひびが入ったとか、体育の授業で軟式のボールを投げたら偶々男子の足に当たって骨折させたとかあった。
 私には悪意は無いのにワザと、とか言われてとても困った。そんな事があって私には友達が少なく、男子の友達は皆無だった。
 そんな高校生活を3年ほど過ごして、3年の進学調査で私は就職の道を選んだ。勉強が苦手な私に大学の道は苦難だった。
 という訳で私は就職の道を進み、内定を貰って就職した……その時には私の身長は5mを超えていた。
 この時の私にとって普通の人なんて、私の膝ぐらいの背しかない上に体重なんて私の二十分の一もない。




「山田~~~! コピーはまだか!!」
「すいません!! すぐにやります!」

 係長に怒鳴られながら、私には小さく押しにくいコピー機のボタンを押して書類のコピーを取る。あ、山田が私の苗字。
 就職してOL生活二年目、今月で20歳になりお酒を飲める事に嬉しいと思った私を怒鳴りながら急かす中年の係長。
 係長は背が低く、今の私の脛の下ぐらいしかない……最も、普通の人でも私の脛にはまず届かない。良くて脛の上か真ん中。
 こんなに小さいのに生意気だと思ってしまう。


「はあ~~」

 夜。
 20歳になり深夜残業が出来るようになって遅くまで会社に残った私には、普段は出来ない事をやる。

「うっ、う~~~~~っん…はぁ」

 床に寝そべり背伸びをする。寝そべらないと、背伸びすら満足に出来ない天井の低さに、私は毎日ムカッとしている。
 誰もいない今しか、体をほぐせない自分の体の大きさにうんざりしていた。
 高校卒業後も、緩やかだが身長は伸び続け今では6mを優に越えている。それに比例するようにお尻と胸も成長を続けている。
 中学生くらいなら上半身を胸で挟めるほどで、お尻は小型の車を潰せるぐらいの重量と迫力を持っている。
 「こんなにいらないのになぁ……」と天井を見ながらつぶやくと、腹の虫が空腹のサインを鳴らした。
 「はぁー……」頭では栄養はいらないと思っても、体は求めてしまう。私は残業に備えて給湯室の奥に隠した袋を引きずり出した。
 中身はコンビニのおにぎりや惣菜パンにカロリーバーが、計50個以上。これでも少ない方で、普段はこの2倍は食べる。
 私は流れ作業のように、ビニールを剥がしてスナック菓子のようにおにぎりやパンを口に放り込む。
 普通の人が、数回に分けて食べる物なんて私には一口で丸のみも余裕で出来るがそれはあまりにも味気ないから、しっかりと噛んで味わう。
 40個以上あったおにぎりとパンは、10分ほどで食べきった。残りのカロリーバーはフルーツ味で食後のデザート代わりだ。

「ごちそうさま……」

 それでも20分もかからない夜食は終わった。寂しい。
 私は再び、仕事に取り掛かった……。




 残業から翌日、今日は休日。
 家でのんびりと過ごそうと、下着姿で床にごろ寝している。
 5m以上の巨体に合う衣服なんて、まず無いので私の服と下着は全部オーダーメイドで、当然ながらそれなりの値段がする。
 下着の色は基本は無地で刺繍などがあると値段が張るから。

「…………また膨らんだような」

 心なしかブラジャーがきつく感じる。そしてその予想はおおよそ当り胸が大きくなると言う事は身長が伸びたと言っても過言でもない。

「やだな…」

 私はとりあえず上半身を起こし、さらに腕を天井へとまっすぐに伸ばす。以前なら、天井に手を触れないはずだが……届いた。
 私の手は天井にぺったりと着いた。

「うわ……これ…20cm以上は確実に伸びてる」

 最近、私の身長の伸び具合が変化している事に気づいた。今までは毎月のように伸びていたが、どうも去年から伸び方が数か月に一度になった。
 ただし最低でも10cm以上伸びて、酷いと30cm以上も伸びる。

「(もう、これは6m以上ありそう……)」

 身長の事を考えると、何千回吐いたか分からないため息しか出ない。私は巨人の末裔か、それでも地球外生命体かと疑ってしまう。

「…とりあえず、先生のところに行こうかな」

 7年ほど前に異常な成長と身長を心配した両親が、中学生の時に生物学の権威ある教授の元に私を訪れ行き検査した事がある。
 さすがの教授も私を見て腰を抜かした事は、今でも鮮明に覚えている。
 しかし、最近あの教授の眼が変に厭らしく見える。男性だから女性に邪な感情を持つ事は分かるが、どうも馴れない。
 それに、教授の居る大学までは電車でないと、とてもいけないほどの距離があり、今の私には電車は小さい。
 天井まで2m30cmほどしかないあの中に入るのはとても辛いが、それ以前にドアが低すぎてどう頑張っても肩でつっかえてしまう。
 大勢の前で醜態をさらすなんてしたくない。
 それに大学まで行ってもされる事と言えば精々、身体検査と測定ぐらいだ。

「…………やっぱりいいや……お昼、何食べよう」

 壁掛けの時計を見ると正午になっていたので、私は台所に向かって這い這いして台所に向かう。
 そして、冷蔵庫を開けると――何も無い、空。

「あちゃぁ……買い物しないと…あ、ついで外でお昼を食べよう」

 冷蔵庫にぎっしりと詰め込んでも3日も持たない食料と昼食を済ませようと、特大サイズのノースリーブの上着とショートパンツを穿いて外に出た。
 その時は気づかなかったが、後になってその服装を選んだ事に後悔をした。
 何故ならノースリーブ越しにブラジャーが透けて見え、成長した事を忘れて穿いたショートパンツが買い物中にビリッと破けたからだ。最悪。




 季節を一つ越えて年の終わりの恒例行事――忘年会。
 去年は飲みなかったお酒が飲めるという事で、同期のみんなと集まって乾杯をした。
 みんなはグラスでビールを飲んで、私だけジョッキでビールを飲んでいた。
 いきなりジョッキはどうかと思ったけど、グラスだと飲み難いから仕方なくだ。
 初めの一口は、口の中に苦味が広がって顔をしかめたけど、ちょっとずつ馴れて来たのか最初ほど苦くないようになってきた。
 でも、私はカラフルで見た目が綺麗なカクテルの方が好きだった…ジョッキで飲んだけど。
 
「それでは! これから王様ゲームをやります!!」
『いぇ~~~い!!!』

 忘年会を始めて1時間ほど経って酔いが回り始めた頃に、幹事の中野くんが王様ゲームをやり出すと言いだした。
 ……どうしてか私は嫌な予感がした。

「それでは、それでは王様、ご命令を」
「うむ…では、4番が10番にぱふぱふをする!!」

 くじの結果、同期で一番悪乗りする福島さんが王様になり、中野くんがどうしてか臣下になっていた。
 それはさて置き、福島さんが言った4番が10番にぱふぱふをすると言う命令に4番のくじを引いたのは私。
 つまり、私が誰かにぱふぱふしないといけない。
 バストサイズ3m以上の胸で、ぱふぱふ……胸の圧力で潰さないか心配――以前にやりたくない。
 しかし、ここで拒否するのは場の空気を悪くする事に繋がり非常にまずい事になる事は確実。……あぁ。やりたくない。
 
「ふははははははは! わたしが10番だ~~~イエ~ィ!」

 まぁ……相手がこの忘年会で一番酔っている左藤だからいいか、女同士だから。
 
「え…っと、いきます~」
「どんっとこい~、はははは!!」
「(大丈夫かな……この人)」

 私はうつ伏せに転がり、私には40cmくらいに見える左藤の前に胸を置いた。一息置いてから左藤を胸に挟んで両手で寄せた。
 息が出来るように顔が胸に埋もれないようにしたが、頭から下は完全に埋まった。
 左藤の顔が少しぎょっとしたが、私はそのまま左藤の体を胸で擦った。
 
「どうですか…?」
「うゥ…ん、熱い……でも、嫌じゃない」
「そ、そうですか…じゃあもっと」

 私は擦るスピードを速くする。その光景を目を点にして見る男達。
 5分くらい続けて、私は左藤を解放すると熱かったのかサウナでも入ったかのように額から汗を流していた。
 そして何故か前屈みになっている男達と呆然と私を見る女子達。

「えっと……? 私なにか…変な事した?」
「あんた、それぱふぱふじゃなくてパイズリだから」
「…………パイ…ズリ……!?」

 私は最初、何を言われたかよく分からないかったが数秒後に言われた事の意味に気づいた。
 つまり前屈みになっている男達は想像したのだ。左藤の頭を自分の下半身の息子の頭と思い、私の胸に挟まれて擦られるところを。

「あぁ…ああ……」

 もはや、声にならない。顔は紅潮して、全身が恥ずかしさに震える。
 どうやら私はすでにお酒に酔いっていたようだ。
 だが、そんなのはどうでもいい。とにかく――逃げることにした。
 立ち上がり、天井にずっと頭をぶつけながらもお店の装飾を壊しながら、入口のドアを突き破り、とにかく恥ずかしいから逃げた。
 途中、何人か足で人を突き飛ばしたような気がしたけど。多分、気のせい。
 家に着いた私は、収まらない恥ずかしさに特々々大サイズの布団をかぶり身を丸くした。

「(あわわわわわわわ――どうしよう、どうしよう、恥ずかし過ぎる!)」

 もうお酒なんて飲むか、絶対に飲まない、呑まなれるか。そんな決意と共に明日会社で確実にネタにされると心底恐れた。
 その事で頭がいっぱいになっていた私が気づいた時には、日差しが差し込む朝になっていた
 寝ないままの出勤になる事に憂鬱な気分だったが、それ以上に間の悪い事に夜の内に身長がおかしなくらいに伸びていた。
 
「うそ、スーツが入らない」

 大き目に作ったスーツもといYシャツに腕が入らないほど、無理に入れれば破けるのは確実で床がミシミシと鳴いている。
 仕方なく、採寸の為に教授を呼びさらに会社を仮病で休み、それが数日続いた。
 採寸の結果、私の身長は8mまで後わずか数cmまで成長していた事が分り一夜で1m以上も成長していた。
 原因はお酒だと私は確信した。

「(もう、お酒なんて飲まない!!)」
 
 しかし、新年会に歓迎会に社内旅行とお酒を飲む機会が多々あるのをその時の私はすっかり忘れていた事に気づかなかった。
 来年の終わりの頃に私の身長が、とんでもない事になったのは言うまでも無かった……。

「(会社…辞めようかな……)」




あとがき
リクエストでOLの話を書いてみました。
5mぐらいのつもりが書いていているのに徐々に大きくなってしまった。
これで良かったのか、不安です。