より良い選択

より良い選択

作:X-Virus
原作:「Another Way To Go」by Angel.


彼は超高層ビルの屋上から、足もとを走る通りを見下していた。そこは一歩前だけ進むことで、何百歩にも匹敵する距離を一瞬のうちに移動し、全てを終りにすることができる場所だった。彼は、命を失うことに何の戸惑いも感じてはいなかった。

「こんにちは」

今まさに一歩踏み出そうとしたそのとき、その声が彼の一歩を留まらせた。彼はその声のした方を見た。それは彼に余計な動揺を与えることになった。なぜなら声のした場所はビルの屋上ではなく、そこから数メートル宙に出た場所だったからだ。彼は、ビルの屋上の延長線をたどり、そこにある何かを理解しようとし目を凝らした。そしてそれが何であるか理解したとき、彼のあごは垂れ下がった。

それは、まちがいなく口だった。巨大な女性の口だった。彼の目線は少しづつ上に移動していき、ようやく彼の目の前にあるものを理解することができた。

巨大な顔。それも女性。しかも美人。

彼女は青い目のブロンドの女性で、その外観は天使以外の何者でもなかった。このような巨大な天使というものが存在するのだろうか。彼は見ているものを信じることができず目を閉じ、そして確かめるために再びゆっくりと目を開いた。巨大な顔は、間違いなくそこにあった。その巨大な顔がにこやかにほほ笑み、そして巨大な口が静かに開いた。

「これは事実よ」

「い…一体、なんで、どうして…」

彼は言葉にならない言葉で、彼女に聞いた。彼女は、さもありなんといった表情で軽いほほ笑みを浮かべながら話を始めた。

「貴方のためなのよ。貴方が飛び降りたあと、私が貴方の魂を導くことになっているの。でも…」

「でも、何?」

彼女の言い方に含みがあり、気になった彼は、彼女に話の続きをせかした。彼女は軽いほほ笑みをたやさないままに話を続けた。

「正直に言いますが、私はあなたのことを気の毒に思っているのです。」

そう言った彼女は、ちょっと目線を彼から外した。そして、再び彼を見て話を続けた。

「知ってますか?死ぬときの痛さを。それに見るも無残な物体になるのですよ。はっきり言いますが、貴方が天国に行ける可能性はとても低いのです。そこで私は、貴方に他の選択肢を用意しました。そして、貴方がそれを選択することを望んでいるのです。」

彼はしばらくの間考えて、それから彼女に言った。

「貴方の提案する選択肢とは、飛び降りるよりもましだというのですね?」

彼のその問い掛けに、彼女の表情が明るくなった。

「貴方、私のディナーになりませんか?」

彼は、ただまばたきを繰り返すだけだった。

「貴方は私の中で苦痛無く死を迎え、貴方の体は私の体の一部となり、そして貴方の魂は天国に行くことができます。」

この奇妙な提案に彼は混乱した。最初、この提案を断わるつもりであったが、突然ある考えが閃き、それが彼の決定を覆した。彼女のような存在の一部になることは、遥か下の歩道にたたきつけられるよりも、遥にましなことじゃあないだろうか。

結論は容易に導かれた。彼は、屋上の縁でひざまずいた。

「天子様、私は貴方のものです。貴方の望み通りにしてください。」

彼の言葉に彼女は、満足そうに唇をぬらした。そして彼女は一言「別の場所へ」と言うと、指をはじいて鳴らし、その瞬間目の眩むような光が彼を襲った。気がつくと彼は都心ではなく、うっそうとした森の中にいた。そして彼女がゆっくりと近づいてきた。

「私は食事を中断されるのが嫌いなの。」

そう話す彼女は、満面の笑みをたたえていた。

彼女はひざまずいている彼を持ち上げるために、彼の脇にしゃがみ込んだ。そしてわきの下に彼の胴体よりも太い指を入れてきた。そして、そのまま彼をつまみあげると、彼の頬に巨大な口でキスをした。それから彼女の口を大きく開いたかと思うと、彼を口の中に含んだ。

飲み込んだり噛んだりすることはしなかった。驚いたことに、彼は息苦しくなく普通に呼吸をすることができた。そうした中、彼女は彼を口の中で舐め回しながら、彼女は食べるのに邪魔な彼の服を器用に舌で脱がしていった。

彼女の舌が彼のズボンに器用にはぎ取るとき、彼は興奮を覚えた。さらに下着を脱がし、彼のものに彼女の舌が触れたとき、それは成人の堅いものであった。今、彼女の舌はちょうど彼の堅いもののところにあり、彼女は彼の堅いものを舌で舐め回した。そして彼女はうめきながら、彼の発射したものと一緒に彼を飲み込んだ。

彼は、彼女の心臓が静かに鼓動している音を聞くことができるところにいた。それが少しの間続いた。彼はさらに奥へと落ちていった。彼女の中は快適で、その彼女にまもなく完全に取り込まれることについて、彼は思いをはせた。今や彼は、彼女の食事であることに誇りを持っていた。彼は彼女が今までにない豪華な食事であったと満足してくれることだけを切望していた。

彼女が咽喉を鳴らすと、彼は咽喉を一気に通り抜けた。そして、彼を受け入れるために待ち構えていた胃に、彼は収まった。

驚くべきことに胃に留まった彼は、口の中と窒息することもなく、またすぐには胃液に溶かされることもなかった。彼は彼女が、安楽のうちに死ぬことを約束していたことを思い出していた。彼女は、彼に害のある行為をすることはできず、彼女の使命を全うすることだけが絶対だった。そして彼女の義務を彼女の喜びと一緒にした結果が、現在の状態の全てだった。

その考えが彼を元気づけた。彼は、彼女の広い胃の中で楽な姿勢をとり、そして彼が切望している消化が始まるのを待った。

天使は満足そうにお腹をさすり、それから後ろに倒れこむようにしてゴロリと横になって眠った。彼女の背中で、木々が草のように曲がった。折れた木が無いのは、彼女が真の天使だからだろうか。彼女は満足そうにぺろりと口の周りを舐めた。そして消化が始まった。

彼女の胃液は、彼にとって心地よいものだった。彼に眠りを誘い、気持ち良く寝ている間に彼は溶かされていった。数時間の後には、彼女の血の中に含まれた、豊富な栄養素以外に彼の痕跡を見つけることはできなくなっていた。そしてそのほとんどは、彼女の翼になった。そして翼は、以前よりも強くなった。他の部分は彼女の胸になった。それは、力強く羽ばたかせるための力を与えたのだった。

彼の魂は、愛情をもって彼女に運ばれた。そして、開放された。約束の天国で…

End.


2000.05.07