夏の日差し


「あっついわー、マジあっついわー」


高校からの帰り、友人との待ち合わせ場所に座る。太陽からの嫌がらせとすら思える照りつける日差しが私の肌に突き刺さる。ジリジリという音すら聞こえそうだ。座っているアスファルトにも熱が残っていて、下からも暑さがやってくる。

「アイス、アイス…」

せめてもの救いにと用意された棒アイスをかじる。シャリッ!という音とともにソーダ味と冷たさが口の中に広がる。そして、冷たい物がすとんと胃の中に落ちる感触。

「ふーっ」

僅かな幸せを文字通りかみしめて一息つく。………………暑い!この程度でどうにかなる暑さじゃない!日陰にも入れず、ほかの人よりも太陽が近い私にはアイス一本じゃあ満足できない!
なぜ入れないって?そりゃ体が大きいからよ。大体90mくらい?まあこんだけ大きいと正確に測るのも難しいからね。とりあえず日陰に入るのではなく、日陰を作ることのできる体なのは間違いないわ。

「あーもうあっついわねー!いらいらするわ!」

思わず大声で叫ぶ。だがさすがの私が睨んでも太陽はひるまない。代わりに周りにいた人々が腰を抜かしているのが目に入る…。

「あーッと…」

生まれた時から異常な速度で成長した私は今でこそ受け入れられてはいるが、いまだに国から大暴れするのではないかと注意を向けられている。その気になれば確かに人間なんて私の14mの足でグチャグチャのひき肉にも変えられる、というか足を乗せるだけで十分に踏みつぶせるだろう。

「いやー!」「うわあああああ!」「きゃあああ!」

目につく限りの人がみんな走って逃げていく。チョコチョコと必死に逃げる姿に若干征服欲が浮かぶも、こんなことは考えちゃいけない!と頭を振る。
ファンファンファンファン!
人々と入れ替わるようにパトカーが来る。それも十数台。面倒なことになったなー。何回目よこれ…。また前のように銃で撃たれるのかな。そうなると私は大体弾が切れるまで撃たれて、勝手に帰るまでを見届けるのだがうっとおしいことには違いない。全く嬉しくない形で顔なじみになってしまった警部さんがドアを開け、拡声器で呼びかけてくる。

「あー、あー、聞こえますか大木 文さん?」
「聞こえますよー、大声出したのは謝りますけど暴れませんよー?」

どうせ聞かれることは決まってる。やれ君は人を踏み潰そうとしてないか、やれ暴れて破壊の限りを尽くそうとしてないか。そんなところだ。
………むかつくお前たちを踏み潰してやるっていえばどうなるのかな?いつもより激しく撃ってくるのかな。毎回拳銃を構えるだけで一回も撃ってこないあの婦警さんも攻撃するのかな。けだるそうに上空に適当に撃ってさっさと車に入るあのお巡りさんも必死になるのかな。
………やめよう!やっとみんなが私をわかってきてくれたのにここで暴れちゃだめだ!
破壊欲、もとい邪念をまた頭を振って払いのける。
この行為に警部さんは若干いぶかしがるも、拡声器から聞こえる声は優しいものだった。

「いや、今日はあなたにいいものを持ってきましたよ」

そういうと遠くからサイレンけたたましく近づいてくる車が一台。

「消防車?」

火災現場の華、ちびっ子のヒーロー的存在、働く自動車の代表格、赤き肌を身にまとうあの乗り物はまごうことなき消防車だ。

「国の決定で放水による暑さ対策が決定されたのです」

それは………うれしいな!大きさのせいで水分補給にも気を使ってしまうだけに用意されるとうれしいものだ。アイスも用意されたが水も用意してくれるなんて。

「足にかけようと思うので靴と靴下を」

一部でもうれしいものだ、早速脱いで足を出す。露出した足指をやわ風が撫でる。消防士が消火ホースを手際よくセットし、足先に向ける。シャアアアアア!

「はぁぁぁぁああ、きもちいいー」

つま先が放水で冷やされる。こうして私は少しだけ、水と幸せな時間に浸れていた。

「パンツ、見えてる…」
「黙って水かけとけ、指摘しようものならあの足で潰されかねん」

消防士達のこの会話が聞こえるまで…。

「何見てんのよこの虫けらがあああ!!」

それから結局なんやかんやあって私はまた撃たれることになってしまい、揚句友人との約束を守れなくなり頭を下げる羽目になってしまったのはいうまでもない。