私は藤丸立香、花の乙女でカルデア所属。役職は人類最後のマスターをやっています。
幾つもの特異点を越え、七つの異聞帯を切除し、ストームボーダーで白紙化地球を彷徨いながらあらゆる困難と戦い、人理にカルデアとして向き合いながら過ごす毎日。
それでは疲労も溜まる物。
でも止まるわけにはいかないと張り切って任務に精を出していたある日のこと。
「というわけで、今日一日は休息日とする! 必要最低限の業務以外を停止し、最大のスペックを発揮できるよう鋭気を養う事に集中すること。特に立香!」
ゴルドルフ所長に深く釘を刺され、シミュレーター訓練はおろか、司令室への立ち入りすら禁止されてしまった。
手持ち無沙汰になり、先ほどまでは食堂でティータイムを楽しんでいたが、それもお開きとなり、再び暇人となっていた。
「……暇だなぁ」
普段なら溶岩水泳部の皆様やゲーム部屋の住民、ちびっ子サーヴァント達が寄ってくるのだが、事前に言い含められているのか、今日は寄ってこない。
一人だけの時間は貴重だけど、こうやって意図されての一人になるのは最近苦手になった。
だから、ちょうど廊下を歩いていたサーヴァントが居れば声を掛けてしまう訳で。
「やっほー、ワンジナ」
「あ、マスターだ!」
天真爛漫という単語がよく似合う声。
最近召喚された褐色の肌に、宇宙服のような服を身に纏う、大気の精霊ワンジナだ。
「あれ、ちょっと元気無いね?」
「うん、訓練とかそういうのは禁止されちゃったからね」
だから話し相手になってよ、と続けようとしたら、
「ねえマスター、思いっきり身体を動かせる場所あるんだけど!」
そんな事を言われるのであった。
○ - - - - - - - ○
「えっと、ここ、私の部屋だよね?」
連れてこられたのは見慣れたマイルーム。
わーいとベッドに倒れ込むワンジナを見て、少しだけ困惑しながら問いかける。
「うん、ここのほうが都合がいいしね。じゃあちょっと交代っと」
ワンジナの身体が光り、褐色から青色へ変貌する。
第二霊基に切り替わった様だ。
「マスター、あのときの浮遊特異点は覚えてる?」
先ほどの活発さは鳴りを潜め、物静かな少女という印象を与える落ち着いた声でワンジナが問いかけてくる。
「うん、ワンジナの中に出来た特異点だよね?」
「事実だけど、ちょっと恥ずかしい……」
ほんのり頬を赤く染める彼女を見ながら、それがどうかしたのと回答する。
「あのときは概念的に中に出来た特異点だったけど、今度は外側かなって」
「外側?」
起き上がったワンジナが、私の手を取る。
「じゃあマスター、ワールドツアーの第二幕、だよ?」
一瞬の閃光、その次の瞬間には、私は深い蒼の壁に囲まれた、見知らぬ場所に居た。
○ - - - - - - - ○
「え? ワンジナ?」
左右を見る、遙か彼方に見える巨大な二枚の壁。
足下を見る、僅かに柔らかく、見覚えのある蒼い色をしている。
『うん、成功したね』
暴風のように吹き下ろしてくる空気と、巨大な音。
見上げれば丸い金と黒の空。
その黒い部分が大きくなったり小さくなったりしている。
「え、なに? どういうこと!?」
『ふふ、驚いてるマスター、かわいい。説明するより見た方が分かるかな?』
暴風こそ伴わないけど、音の圧が凄い。
ぐん、と重力を感じて、地面にしがみつく。
『見上げて、マスター』
言われるままに見上げれば、金と黒の空は遙か彼方。
霞掛かるような空の先に見えるは、薄い笑みを浮かべたワンジナの顔。
「な、な……!!」
『マスター、私の見ている物を少しだけ見せてあげるね』
視点が一瞬で切り替わる。
いつも通りのマイルームの景色と、ワンジナの指先。
借りた視界が指先にピントを合わせていく。
はじめは何も見えなかったけど、どんどん拡大されていくにつれ、指の表面に僅かな黒い点が見えてくる。
やがてそれは点から徐々に人の形を取っていき、黒だった色も見慣れたカルデア制服の白に、頭は鮮やかなオレンジの、毎朝鏡で見慣れた姿に変わっていく。
『どう? マスターは今、私の指先に乗ってるんだよ』
○ - - - - - - - ○
「縮尺は544000分の1、あのときの特異点のサイズと同じ縮尺にしてみたよ」
浮遊特異点になった時の私のサイズは832km。
召喚後にいろいろ計測した時の身長が153cm、544000分の1サイズになっていた。
マスターの声は物理的には聞こえない。
パスを通じて、その声を拾っている。
「どうやったのって? 今の私はサイズこそ小さいけど大気の精霊。
地球全てを覆う空気そのものと言えるから、私が触れる物って私よりも小さい物って定義出来るから、後はスケールをそれに合わせたら人間なんて砂粒以下のサイズだよ」
でもそれだと魔力が足りないし、聖杯は厳重に管理されているはず。
そうマスターは訴える。
「うん、聖杯は無理だったけど、交換してない聖杯の雫はあったから」
マイルームに散らかしてあった魔力リソースを一部拝借すればこれくらいならなんとかなる。
頭を抱えるマスターを眺めながら、そのままぽすん、とベッドに倒れ込む。
たったそれだけで、マスターは大慌てになりながら、指に伏せて衝撃に耐えていた。
「前にパラケルススさんに聞いたんだけど、指紋って大体0.11mmくらいなんだって」
今のマスターが目にしているのは、何もかもが私。
目の前にある蒼い壁も地面も、吸っている香りから何から何まで、ぜんぶ私。
「実際は呼吸をするだけで私を体内に入れているって解釈も出来るよね?」
その気になれば出来るけど、今日はそうではない。
「マスター、私の身体であそぼう?」
服をはだけさせ、マスターの乗せた指先をそっと左胸の中心、乳首に当てる。
指先からふるい落とされ、乳輪に落ちる。
「前のサバフェスで描かれていた人間達の営みの中で、身体の一部を触って貰って快感を得るっていうのがあったんだけど……」
身体を得たのはあのとき、ユニヴァースでも精霊としての存在だった。
この身体で得られたのは味覚と触覚、それと未知を楽しむ心。
「だから、マスターに快楽って感情を教えて欲しいの」
私の言葉を聞いて、少し逡巡した後、マスターは乳首に向かって走って、その麓に抱きついてくれた。
感度を上げていなければ、全く感じなかった感触。
マスターの芥子粒のような全身が、私という世界を喜ばせるように懸命に力を入れてくれている。
それだけでじんわりと暖かい物が胸を中心に流れ込んでくる。
でも、物足りない。その思いが伝わったのか、マスターが巨大な乳首に口づけて、甘く噛みついてくれる。
「っ!?」
甘い甘い刺激、中心部から全身を駆け巡り、下腹部に集約される。
無意識に右胸を揉みながら、手のひらで乳首を潰す。
刺激はこちらが上だけど、与えられる快楽の質はマスターが触ってくれる方が上だ。
だんだんと右手の揉む速度が早くなり、マスターが僅かに歯を立てた刺激で未熟な私の神経は限界を迎え、快楽の頂点に達するのだった。
○ - - - - - - - ○
「……大丈夫?」
「……うん、ちょっと慣れない感覚だったから」
ワンジナが達した後、私に適用されたスケールが元に戻り、ワンジナの上に覆い被さるようになっていた。
人間の身体を得てまださほど経たず、おそらくユニヴァースでも経験の無かった事だからだろう、胸の刺激だけで軽く達してしまったよう。
「おかしいな、この後お股の部分とかそういうところを刺激して貰う予定だったのに」
黒髭さんが買ってた本だとこの後……と呟いていたのでこの後筋肉自慢のサウナに放り込むように伝えておこう。
「ね、マスター」
「なに?」
次は、最後までやろう?
ワンジナのそのつぶやきに、私は唇を落とすことで返事をした。