第5話 〜 今日は10000倍 (ショートギャグ) 〜



10000倍の大きさの妹が見下ろしてくる。
その頬はぷっくりとふくれ、形のいい眉は吊り上げられている。
誰が見ても分かる。怒っているのだ。
そしてなんとその怒りは兄に向けられていた。

「どうして!? どうしてお兄ちゃんはあたしとHしてくれないの!?」

その理由はアレだったが。

兄は飄々とした態度で妹を見上げている。
なんとものんきな兄だが、周辺の住民はたまったものではない。

今の妹は身長14000メートル。学生服に身を包み腰に手をあて見下すように兄の居るところを見下ろしている。
巨大な二つの乳房が前にせり出され、その周囲にはやや雲がかかっている
広大な範囲を誇るスカートからはにょっきりとふとももが突き出し、
黒のニーソックスに包まれローファーを穿いた脚は無数の家々を踏み潰している。

高さが10メートルある家も妹から見れば1ミリメートルほどの大きさだ。
2500メートルもあるローファーの下には、いったいいくつの家やビルや人がいたのだろうか。

「いったいなんでなの!? あたしのことが嫌いなの!?」

大声と共に、まるで地団駄を踏むように巨大な足を地面に叩きつける妹。
歴史上のいずれの大地震にも勝る衝撃は足の周囲の家を吹き飛ばし、兄の周辺の家を宙へと放り出した。
周辺にいた人や車も同じである。
ただ兄だけが兄パワーによって大地に立っていることができた。

激昂する妹を見上げ、兄は「ふぅっ」とため息をつきながら、言った。

「わからないのか? それはお前のことを愛しているからさ」
「えっ!?」

ボッ と赤くなる妹。
手を頬にあて足をもじもじさせている。

「俺はお前のことをとても愛してる。でもだからこそ、そういうことは大事なときにだけしたいんだ。
 節操無くやったって、なんの愛の証明にもならないんだよ。わかってくれるだろ?」
「お兄ちゃん…。ごめんね…あたしが間違ってた…」
「わかってくれればいいんだ。それにそれだけ俺のことを想っていてくれて感謝してるよ」
「やだ、お兄ちゃん、恥ずかしい…」

妹はキュッと身体をひねった。
そして顔を覆い隠すといずこへと走り去ってしまった。
途中幾つもの街を踏み潰しながら。

瓦礫の山と化した街にひとり取り残された兄は頭をかいた。

「やれやれ、妹に求められる兄もつらいよな」

言いながら兄は、地面を巻き上げながら走り去る妹を見送った。