シンデレラという少女がいました。
1000倍の大きさでした。

舞踏会があると聞いた継母や姉たちはせっせと身支度を始めました。
ですが連れて行ってもらえそうにありません。継母たちから仕事を言いつけられてしまいました。
やれ東の果ての山脈を更地にしろだの、やれ西の果ての森の木を全部薪にして来いだの、やれ南の果ての国を火の海にしろだの無理難題でした。

すべてを終えて家に帰ってきたときにはもう日はどっぷりくれ、明らかに舞踏会が始まってしまっている時間でした。
継母たちの姿もありません。
シンデレラは家の近くの山に座り、夜空に輝く星々に舞踏会の華やかさを思い描いていました。

すると目の前に魔法使いが現れました。
彼はシンデレラに魔法をかけ、あのみすぼらしかった衣をまるでお姫様のようなキラキラときらめくドレスへと変えてくれました。
ティアラ、ドレス、ガラスの靴。それらの美しさは夜空の星にも負けません。
シンデレラは魔法使いにお礼を言いました。
魔法使いは笑顔で応え、ひとつ忠告をしました。
魔法は12時で解けてしまいます、と。
シンデレラはもう一度魔法使いに頭を下げ、そして舞踏会が開かれている城へと向かって歩いてゆきました。
どうあがいてもカボチャの馬車には乗れなかったのです。
ガラスの靴を履いた足でいくつもの畑を踏みにじりながら笑顔で歩いてゆくシンデレラでした。

お城のホールではたくさんの人が踊っていました。
その中には城の王子様の姿もありました。
この舞踏会は彼の伴侶を見つけるためのものでもあったのです。

突然地震が起きました。
ホールがざわざわとざわつき始めます。
だんだんと大きくなる揺れ。

揺れがおさまると今度はホールの天井が持ち上がりました。
向こうにはシンデレラの顔がありました。
城に着いたシンデレラはしゃがみこんで城の上層部を取り除いたのです。
ホールは一階にありました。
つまりシンデレラは2階以上の階層をまるごと持ち上げてしまったのです。

ホールの中をきょろきょろと見渡してそこに王子様の姿を見つけたシンデレラは手に持っていた城を放り投げそして手の指をホールの中に差し入れました。
親指と人差し指で王子様をつまみ上げると手のひらの上に乗せました。
立ち上がったシンデレラはまるで二人で踊るかのようにくるくるとステップを踏み始めました。
お城や城下の町が次々と踏みにじられていきました。
シンデレラと王子様。
この星空の下は二人だけの世界でした。
降り注ぐが如くの星の踊るスターカーニバル。

ボォーン

重々しい音が町に響き渡りました。
見れば崩れ倒れかけている時計塔の針が12時を指そうとしていました。
魔法の解けてしまう時間です。
このままではあのみすぼらしい姿に戻ってしまいその姿を王子様に見られてしまうでしょう。
シンデレラは慌てて王子様を城のホールへと戻し、踵を返して逃げ出しました。
唖然とする王子様の視線の先では美しいドレスを身に纏った娘が町を踏み潰しながら走り去っていきました。
夜の闇の向こうに消えてしまった娘を想う王子様。
名前も知らない可憐な娘。もう一度会いたい。
怒涛の勢いで自分の中に飛び込んできたあの娘はいったい誰なのだろうか。
王子様は唯一の手がかりであるそれを見つめました。
瓦礫と化した町の中に悠然と転がる巨大なガラスの靴を。

翌日。
シンデレラはいつものように扱き使われていました。
やれ東の湖を干上がらせろだの、やれ西の大商船から積荷を奪って来いだの、やれ南の国を征服して来いだの面倒な仕事ばかりです。
一仕事終えて家に戻ってくると継母たちが騒いでいました。
どうやら町に王子様が来ているようです。

町の郊外。
王子様は数千の馬に引かせた荷馬車の上の超巨大なガラスの靴を指して言いました。
この靴を履きこなせたものを妃すると。
王子様はこのガラスの靴で昨日の娘を探し出そうというのです。
地面に残された巨大な足跡を辿ろうなどと無粋な真似はしません。
そしてこの王子様の発言には町中の娘たちが集まりました。
パッと見であんな靴を履きこなせるわきゃねーことくらいわかりそうなものでしたが、娘たちはやってみなきゃわからねーと立掛けられた梯子から我先にとガラスの靴の中に飛び込み自分の足を靴に当てていました。
1000人もの町の娘たちがガラスの靴の中で蠢いているのが外からでもよく見えました。
皆が靴内面に足をぺたぺたとくっつけて自分が昨日の娘であると主張していました。バカなの? 死ぬの?

突然地震が起きました。
見に覚えのある揺れ方でした。
見れば遠くから山を跨いで歩いてくるみすぼらしい姿の娘が見えました。
シンデレラでした。
こんな大きな娘が他にいないことくらい察しがつきそうなものですが、王子様はシンデレラにもガラスの靴を履いてみるよう言いました。
シンデレラは履いていた布の靴を脱ぐと素足となったその足をガラスの靴へと差し向けました。
ガラスの靴の中にいた1000の娘たちからは自分たちの上空にして唯一の出口の先から巨大な足が迫ってきているのが見えました。
巨大な指が靴の中に入ってきました。
たくさんの悲鳴が靴の入り口から聞こえていましたがそれも足が入ると入り口を塞がれ聞こえなくなりました。
見守る人々からは透明な靴越しに娘たちがシンデレラの足から逃げようとしているのが見えました。

靴はシンデレラの足にぴったりと合いました。
本当ならガラスの靴の下半分は真っ赤に染まっていそうなものですが厚かましく面の皮の厚い娘たちは潰されることなく足と靴の間に挟まれガラスに押し付けられることによって皆が面白い顔になっていました。
靴を履きこなしたシンデレラこそ昨日の美しい娘であると今更悟った王子様はシンデレラを妃に迎えました。
その後のシンデレラはとても幸せな日々を過ごしました。

おしまい


ちょww