大破壊。

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 〜 世界中が小春日和 〜

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「ここはどこなんだろう…」

目の前に広がるのは星空。
その輝きは見たこと無い程透き通っている。遮るものが無いようだ。
足元は緑色の地面。草ではなさそうだが。

小春は立ち尽くしていた。
だが何故か姿は見えないが兄を近くに感じていたのでさほど恐れは無い。

見上げた星空は360度全周囲にどこまでも続いている。
しかし空には太陽が見え、地面は明るく照らされよく見える。
目を惹くものは何も無く一面が真っ平らな地面だった。
緑色の地面だがより良く見ると様々な色が入り混じっているのがわかった。
細かすぎて緑の強さに呑まれてしまっていた。
それになにやら白いふわふわしたものが浮かんでいる。埃だろうか。
小春はそれをより近くで見ようとしゃがみこんだ。
ふわふわふわふわ。
時間が経つにつれて動き形が変わっているそれは他にもたくさん浮かんでいた。
そのひとつに触れようと手を伸ばしてみたが白いそれは小春の指が触れると細かく散らされてしまった。
別の白いのは掬い取ろうとしてみたがやはりその過程で消えてしまう。
これはなんだろう。と、もう一度視線を地面に向けたとき地面に白っぽい模様があることに気付いた。
白い砂だろうか。
周りの地面と見比べると突起している部分が多い。
少し大きめの砂粒をばら撒いた様だ。
指でその突起が集中している部分にそっと触れてみると、突起は抵抗することなく崩れ指は地面に着いた。
指をどけてみるとそこには赤い地面が顔を出していた。
この白い砂は随分と層が薄いらしい。
10㎝くらいの白い地面。何か意味があるのだろうか。
だが今はどうでもいいことだった。
白い地面も興味ないものの中で多少異色を放っていたから触れてみただけでそれ以外に理由はない。
構う必要もない。
もう少し歩いて回ろうか。
そんなことを考えていた。
もう一度地面を見下ろしてみると、指の触れた跡は白い部分全体から見ても結構大きかった。
白と灰色が基調のこの迷彩に赤茶けた色が付いてしまった。
不都合も感動も無いが、なんとなく面白くない。
立ち上がった小春はその白い地面を余すところなく踏みしめた。
小春の足幅は7㎝くらいだからひと踏みで7割以上の範囲を覆うことが出来、足の長さはその白い地面の2倍以上ある。
つまりその気になればこの白い地面は同時に2個まで踏むことが出来るのだ。
とは言ってもここにはひとつのみ。
土踏まずなどで踏み残しが無いよう何度も足を降ろし踏み固める。
ふみふみぎゅっぎゅっ。
足を戻してみると白い部分はしっかり赤茶色に変わっていた。
もともと白い地面だった部分よりも大きくはみ出てしまったが。
その様に小さく満足した小春は当ても無く歩き出した。







すべては突然だった。
誰かがそれに向かって指をさしたのだ。
大勢の人々が立ち止まりそれを見上げた。街中の人間全員がだ。
空に向かって伸びる巨大な肌色の物体。
成層圏など遙かに突破してしまっているだろうそれの正体を誰が知っていただろうか。
雲など比べても意味を成さない高さだ。
宇宙人の仕業!? 誰かがそう叫んだ。
その柱は地面へも伸びていて、それを目で追ったものは驚愕した。
肌色のそれは地面付近ではさらに拡大して大きくなっており、そこにあった山脈の姿が見えない。
この肌色の物体の下敷きにされてしまったのだろうか。

ある者が叫んだ。
ある集団が叫んだ。
彼等は望遠鏡を持っていたのだ。
夜には星空を眺めるつもりでもいたのだろう。
そんな彼等は持ってきていた望遠鏡でその天へ伸びる肌色の物体の先を追ったのだ。
そこには遙か遙か遠くからこちらを見下ろす人間の顔が見えたのだ。
まさか! これが人間だと!? こんなバカなことがあるはずがない!
これが人間だと言うのなら目の前の物体は脚か!? 大きさを考えろ! 現実で考えろ! こんな大きさの人間がいるはずない!
正体を見た者たちは自分の頬を強くつねった。夢であると。それしか考えられないと思ったのだ。
瞬間、地面が大きく揺れた。
耐震を備えていなかったビルはその揺れに次々と倒壊、人々は立っていることも出来ない大揺れだった。
同時に巨大な物体も動いた。
その動きで大地が揺れているのだ。
双眼鏡持ちたちは、その揺れで自分達が現実の中にいることを否応無く理解させられた。
この揺れは、あの超巨大な人間がしゃがみこむために引き起こされていると。
二本の柱が折れ、その上に柱の太い部分が乗る。
腰を、落としたのだ。
大きすぎるそれは最早望遠鏡を必要としない。
どこにいても至近距離から見ているのと変わらなかった。遠近感などとうに崩壊していた。
超巨大な二本の脚とその膝の上に置かれた超巨大な手。そしてその脚の間からこの街を見下ろす超巨大な顔。
雲が足首ほどの高さを漂っている。
見下ろす巨人は男の様だ。
見上げる身体に女性の面影は見られない。
だが成人男性でもない。
あの顔立ち体つきは少年のそれだった。
幼い男の子。
だが、何故彼はこれほどまでに巨大なのだ。
彼はいつ現れたのか。
彼は一体何が目的なのか。
街全体が街の十数倍もある巨大な影に覆われ、まるで日食でも訪れたように暗い。
人々はあまりに奇想天外な出来事にほとんど呆けてしまっていた。

その時だった。
巨人の片手が降りてきたのだ。
雲を突き破りうねりを上げてこの街に近づいてくる。
人々の視界は一瞬でその巨大な手に埋め尽くされた。
そのうち長さ6㎞はあると思われる巨大な人差し指が伸ばされこの街の高層ビル群を押し潰した。
本当に一瞬だった。
太さ1000mほどもある巨大な指先が高さ200mを超えるビル群を狙い撃ちにしたのだ。
ビル群にいた人々は自分達のいるビルの5倍以上の大きさの指先が迫ってくる様子をどう受け止めただろうか。
指が触れるとビルはその侵攻に刹那も逆らうことなく崩れた。
崩れたとは言うがビルが崩れ瓦礫が地面に降り注ぎ始める前にビルはすべて深さ数百mほどにも押し込められていた。
指が地面に触れた瞬間周辺のビルは残らず倒壊した。
指が巻き起こした突風は人から車から電車までを吹っ飛ばした。
その轟音は街中に轟き、またその振動は街中の人間を宙に放り出す。
これが指が接地した一瞬の間に発生したのだ。
ビル群から離れていた人々は痛む身体を押さえながらそれを見上げたとき、無数の瓦礫の上に鎮座する巨大な指先を見つめて何を思うだろう。
あの指は、例えビル群の向こうにあったとしてもはっきりと見える大きさなのだ。
指はすぐに空へと戻っていった。
指が接地した場所は赤茶けた大地が抉り出されていた。
深さは数百mにもなる。
この街で一番の高所であった高層ビル群は一番の低所へと変えられた。
街の誇った巨大ビル群が指先ひとつで一瞬にして押し潰されたのだ。
辛くも生き残った人々は巨人の圧倒的な力に怯え、またこのあと彼が何をするのかにガタガタと震えた。
戻っていった手は再び膝小僧の上に置かれた。
そしてその脚の間からは相変わらず巨大な顔が見下ろしている。
だがその顔に感情は見られない。
無表情と言うよりは感動を得ていないと言う顔。
口元を歪めるでもなく眉を寄せるでもない、完全に普通の表情だ。
つまり巨人にとってこのビル群を押し潰し数千の人々を虐殺したことはあまりに普遍的な出来事。
どうでもいいことなのだ。
いや、そもそも気付いているまい。
恐らく彼の大きさは我々の10万倍。
60階建ての高層ビルも彼にとっては高さ2㎜に満たないだろう。
200mの高層ビル群など砂粒がばら撒かれている程度の高さだ。
そしてそこにいる我々など砂粒以下の大きさだ。見えるはずが無い。
今の行動は地面の砂粒に少々の興味を持ったため触れただけ。
そこにいた我々が勝手に数千人の被害を出しただけなのだ。
例えこの被害を彼に教えたとして彼がそれを認知できるだろか。
自分の人差し指を見つめそこにある無数のビルの瓦礫と数千の被害者の死体を見つけることが出来るだろうか。
出来ようはずがない。
そもそもそれを伝える術がない。
街の生き残り全員が彼の耳の穴に入って大声を出そうとも彼には聞こえないだろう。
彼の耳の穴は数百mほどの大きさのはずだ。
声は反響することも無い。
視覚で伝えるとしたら今しがた彼がやったようにビルを壊しそれで文字を作るでもしないと無理だろう。
アドバルーンや看板を掲げる程度では彼の目にはとまらない。

一部の現実逃避をしていた人々の視界は急激な揺れで現実に引き戻された。
同時に世界が大地の底に沈下していった。
それは巨人が立ち上がったことによる錯覚だった。
彼は立ち上がった。最初と同じ様に。
座ったときと同じ様な振動が再び街を襲った。
彼等の視界から巨大な肢体が消え見えるのは二本の脚のみとなった。
天へと昇る肌色の柱。
立ち上がった彼は何をするつもりなのだろうか。
このまま何処かへと立ち去ってくれるのだろうか。
踵を返し世界の果てへと消えてくれるのだろうか。
きっとそうだろう。
心身が極限状態にあった人々はその根拠の無い願望にすがり付いてた。
が、それはすぐに裏切られる。
目の前の山脈を踏み潰していた足がふわりと浮かび上がった。
雲を蹴散らし浮かび上がったそれはあっという間に街の上空に現れた。
街が先程よりも濃い影に包まれる。
人々の視界が山を踏み潰し薄汚れた足裏で埋め尽くされた。
え…。
彼等にはそう呟き起きていることを思考する時間すら与えられなかった。
足が持ち上がり降ろされるまで半秒もかからなかったからだ。
超巨大な足は街の上に降ろされた。
街の大半が足の下に消えた。
一瞬だった。
数万の人々が踏み潰されたのだ。
ほとんど街そのものが潰されたと言ってもいい。
ビルも家も車も人も関係なかった。
踏み潰されなかったわずかな部分は足が踏み降ろされたときに発生した突風で吹き飛ばされビルさえも宙を舞った。
巨大な指は街からはみ出し山や森や郊外の農家を下敷きにした。
親指は二つの学校を踏み潰した。何百と言う生徒達がいたであろうに。
だがそれらも最初の一歩分だけである。
街を踏み潰した足はすぐに持ち上げられ一歩目で潰されなかったところを踏み潰す。
またすぐに持ち上げられ同じ様に逃れていた部分を踏み潰す。
何度も何度も足は踏み降ろされた。
街など最初の二回で消滅していたがそれでも足は踏むのをやめなかった。
ふみふみぎゅっぎゅっ。
広大な農園が小指によって踏み潰された。
踵が別の山を踏み砕く。
小さな村など親指の下に消えてしまった。
足は一歩で森一つを荒野に変えた。
やがて足が元の位置に戻されたとき街があった場所は幅30㎞以上にわたって大地が抉られ赤茶けた荒野となっていた。
そこには生物も植物も皆無。
人間の文明の痕跡など微塵も残っていなかった。
ビルの瓦礫の欠片一つ残っていなかった。
一面を顔を覗かせた土に覆われていた。
その後巨人は今しがた自分が作った荒野の上に巨大な足跡を残し何処かへと去っていった。







小春は楽しかった。
地平線が丸く見え、歩くとすぐに別の景色が見えるからだ。
地面には色々な模様があり少し歩くとそれが飛ぶように後ろに去ってゆく。
更に振り返ってみればその模様の中に自分の足跡が規則正しく並んでいる。
それがまた楽しかった。
鼻歌交じりに歩いていた。







人々は恐怖に怯えていた。
超巨人が街々を蹂躙しているとのことだった。
誰もがそれを知ることが出来た。
遠い果ての街からでも空の向こうにその姿をうっすらと見ることが出来たからだ。
だが次の瞬間にはもうそれは目の前にはっきりといる。
一歩が圧倒的な速度なのだ。
視界に入った瞬間には目の前に来ているのだ。
世界が巨人の存在を認知する十数秒までの間には幾つもの街が踏み潰され何十万もの犠牲者が出ていた。
足がズンと踏み降ろされそして次の一歩で持ち上げられる。
その瞬間に発生する大地震と突風、ソニックブームは周辺のものをズタズタに引き裂いてゆく。
一歩一歩確実に、何千もの人々が死んでいた。
ある街は足のつま先部分だけが踏み降ろされた。
だがそのつま先がペタンと地面に着いたとき街はその衝撃波で吹き飛ばされてしまった。
また別の都市は都市の真ん中に足を踏み下ろされその中心に大きな足跡を残されてしまった。
酷いところでは足が接地した瞬間まるで隕石が衝突したように吹っ飛んだ。
軍隊も自衛隊も役に立たなかった。
とある街に展開していた無数の戦車隊は降ろされた五指によって潰された。
五指も必要としなかった。中の3本だけで戦車隊の3倍の面積を踏み潰してた。
戦闘機隊は足に近づくことも出来ず巻き起こされている突風で砕け散った。
またあるところでは核ミサイルを発射しようとしていた。
だが発射された瞬間その上空には巨大な足が現れた。
足は直撃し爆発したミサイルとその核爆発も諸共地面へと踏み潰した。
足がどけられたあとには何も無かった。
巨人にとって核ミサイルの爆発を踏み潰すことはタバコの火をもみ消すよりも簡単なことだったのだ。







小春は広い水溜りを移動していた。
広いから深いかと思えば割と浅く深くても足首ほどの深さだった。
ちゃぷちゃぷと横断しているとすぐに地面が見えた。
楽しい散歩だった。







巨人が海へと接近してきた。
グラグラと揺れる大地に海は大荒れに荒れ津波さえ発生していた。
港町へ足が踏み降ろされた。
これまでと同じ様に踏み降ろされた瞬間突風が発生し街の全てを吹き飛ばす。
今回は周辺の海の水さえも吹き飛ばし一瞬だが海底が姿を現した。
船など一隻も残らず沈没していた。
ザブン。片足が海へと踏み入れられる。
ザブザブと巨人は海を歩いてゆく。
展開していた戦艦隊などもうどこにも見えなかった。







水溜りを渡り終え水からあがる。
着いたところも前と同じ様にまだら模様の地面だった。
足元とその周辺はあの白い地面に覆われ遠くにいくほどそれがまばらになってゆく。
まだまだたくさんある。
いったい何なのだろうか。
ちょっと足を動かすと白い部分はすぐになくなりしっかり踏みしめれば足跡が残る。
細かい砂粒の様だし湿った砂粒が固まった様なものにも見える。
硬くは無いので砂粒ではないし砂粒なら踏んでもなくならないで地面に残るはず。
もう一度よく見てみるために小春はしゃがみこんでその白い部分の土を手で掬い取ってみた。
脆く壊れ易いものであるのはわかっているのでゆっくり丁寧に顔の前まで持ち上げそしてそれを見る。
手の中の白い地面。
よく見ると白一色ではなく様々な色が細かく混じっている。
よく見ると線みたいなものが見える。
よく見ると規則正しく並んでいるように見える。

「え…」

ポツリと声がこぼれた。
よーくよーく見てみるとそれがなんなのか見えてきたような気がした。
細かすぎる。
目が痛くなってくる。
それほどに繊細なそれだ。
それは見たことがあるような。
まさか…。

小春は手の上の白い地面の一部を空いている指で掬い取りその指が揺れないよう手に持っている白い部分を捨てて白い部分を乗せた指を押さえた。
それを目の前まで持ってくる。
本当に目の前だ。
目とそれの距離は数㎝しかない。
それほどまでに近づけてじっと目を凝らして、やっとそこに何があるのかを判別することが出来た。
小さなビル。
小さな家。
指先の腹に乗せられたその小さな白い地面の上には、確かな街並みが広がっていた。

「えぇぇぇええええええええええええっ!?」

思わず指先のそれを放り投げ跳ねるように立ち上がって後ずさる。
足が再び海に入る。
小春が上陸するときに起こした津波で壊滅していた海岸沿いが超巨大な足の入水で発生した津波でまた災害を被った。
それでなくとも既に踏み潰されていたり振動で倒壊していたりで大被害に見舞われていたのに。
小春は揺れる瞳で今しがた自分が立っていた地面を見下ろす。
周りの地面と比べても大きな足跡が残っている。

「うそ…、僕…大きくなっちゃってる…」

なんという大きさだ。
街が、街があんなに小さい。
想像もつかないほどの大きさの差だ。
先程指先に乗せたほんの小さな白い部分でも無数の家々が立ち並びちゃんとした街になっていた。
じゃあさっきまで自分が立っていた場所にはどれほどに広大な都市が広がっていたのだろうか。
震える。
恐怖だ。
自分はなんてことをしてしまったんだろう。

「うぅ…お兄ちゃん…」

小春は泣きそうだった。
心の中で兄を呼んでみるも兄が返ことをするはずもない。
いや、もしかしたらここに来るまでに踏んでた街と一緒に…。
それは絶望だった。
思わず振り返り来た道を走り出しそうになったが、まだ、何故か兄を感じることが出来最初の一歩で踏みとどまった。

「ぐす……。…?」

涙を堪え辺りを見渡してみる。
もちろん兄の姿などない。
あったとしても見えるはずがない。
なのにその存在だけはしっかりと感じていた。
どこにいるのかはわからないが確かにそれはあった。
兄を感じる。
それだけで小春は落ち着くことが出来た。
大きく深呼吸して息を整える。
そしてもう一度陸の方を振り返りそこにある街を見下ろした。
小さい。
なんて小さいんだろう。
今度は上陸せず沿岸手前まで近づいた後しゃがみこんだ。
今自分が近づいたときに起きた波が陸に押し寄せている。
小さな波だけどそこにいる人から見たら大きかったんだろう。
自分の影になる街を見下ろす。
そこにはまだ何万という人がいるのだろうか。
自分のことを見上げているのだろうか。
小春は兄を感じてみる。
やはりその存在感は感じるがこの街からではない。
小春はおもむろに手を伸ばしその小さな街に指を押し付けツーッと一本の線を引いてみた。
白い街にくっきりと赤茶色い線が出来た。
実に簡単に。
逃げられない人もいたのだろうか。
指先を見つめてみるも汚ればかりで人影らしきものは見えない。見えるはずも無い。
それに例え見えたとしても今の行動に対してなんの抑制にもならなかっただろう。
実際、今ここにはたくさんの人がいると分かっていながらなんの躊躇も無く指を下ろすことが出来た。
今何千人も殺してしまっただろう。
だが罪悪感などかけらも感じなかった。もとより見えないのだ。
ただそこに人がいるのは分かっている。
小春は口元に笑みを浮かべていた。
たくさんの人が自分が指で線を引いただけで死んでしまった。
誰も逃げられなかった。
僕はちょっと地面を引っかいただけなのに。
もっとも指が下ろされたときの被害などこれまでの被害と比べれば最早大した物ではない。
ふぅ。
踏んだり引っかいたりでぼろぼろになってしまった街に息を吹きつける。
すると地面の砂の模様がさらりと変わった。
無数の家が吹き飛ばされたり壊れたりしたのだ。

楽しい。

誰も自分には逆らえない。
自分を止められない。
何をやっても許される。
そんな感じがした。
小春は立ち上がって辺りを見渡した。
街は足元だけでなく海岸沿いにそして内陸にと広大に広がっている。
まだまだ色々なことが出来そうだ。
小春は最初と同じ様に遠慮なく街を踏みしめて歩き出した。
今度はそこに街があることを認識しながら。
ズシン! ズシン!
街が一瞬で無くなる。
ビルが街が何倍も大きな僕の指に潰されて粉々になる。
面白い。
そして楽しい。
なんでこんなにも心が躍るのか分からなかったがそれもどうでもいい。
今はただ楽しみたかった。
ズンと超高層ビル群らしきところに指を踏み降ろす。
大体呑み込めて来た。
今の自分の大きさはおよそ10万倍。
そして指の前にあるビルの大きさが6㎜くらいなので実際は600mくらいの超高層ビルなのだろう。
約200階建てのはずだ。
それなのに自分の足の指の半分の高さもない。
親指の3分の1以下だ。
くすっ。かわいい。
小春は足の親指だけを持ち上げそのビル群の上にかざした。
もしもそこに人がいるとしたら空が幅、長さ、高さそれぞれ数千mの超巨大な足の親指の腹に占領されたさまを見ることが出来ただろう。
素足で歩き回り薄汚れた指が。
その指の汚れは土と岩と無数のビルの破片と同胞の変わり果てた姿。
だが人々にはその汚れが何なのかを判断することはできなかった。
小春にはちょっと指を持ち上げた程度の高さとはいえ、彼等にとっては1000m以上も上空のことなのだ。
1000m先の人ビルや人間の亡骸など判別できるはずが無い。
小春は自分の指の影に狙ったビルの他にもたくさんのビルが入っていることがおかしかった。

「ふふ、えい」

唐突にその指を下ろした。
ビルはあっという間に指と地面の間に消え去った。
600mもあれば踏み潰したときにその感触を感じることも出来た。
が、それも何かが触れたと感じたときにはすでに潰れ感触も消えていた。
いくつものビルがあって指1本支えられないなんて。
小春は笑みを浮かべながら今踏み潰したビル群をつま先で踏みにじる。
その所為で足の直撃を免れていた周辺のビル群も壊滅。引き起こされた振動は更に広範囲の建築物を倒壊させた。
次に別の街の近くへ足を降ろす。
郊外に下ろしたので中心となるビル群に大きな被害は出ていないはずだ。
それでも長さ23000m(23km)幅8000m(8㎞)の足が降ろされれば、その郊外にいた住人達は逃げる間もなく踏み潰される。







街の人間からはこの街の幅ほどに大きな巨人のつま先のその指が地平を占領した。
どんな高所から見ても指の上を見ることは出来ない。
街一番の高層ビルにいた人々には、街の端、つまり巨人の指先の手前には悲しいほどに小さな無数の家や低層ビルが乱立しているのが見えた。
涙が出てきた。
目の前の高さ1000mを越えるまるで山の様に超巨大な指先。
その手前に展開するその100分の1の大きさも無い小さな家々。
その中から更に小さな人々が逃げ出してくる。
高層ビルの展望台の望遠鏡からそれを見ていた人々は恐ろしい敗北感と無力感に襲われた。
人々は小さすぎる。遅すぎる。
指の目の前の人々が必死に逃げているのは分かるがその走る速度のなんと遅いことか。
もちろん彼等の足が遅いのではなく、そこに見える指の巨大さと相まって遅く見えるだけなのだ。
周辺の家々は指の作り出す影に入り夜の様になってしまっている。
その存在感は山そのものだった。
指という肌色の山なのだ。
しかもそれは5本、指の山脈だった。
登るとしたら登山になるだろう。
無数の安全具を持っての決死のチャレンジになるだろう。
ガチガチに装備を固めこみ万全の準備を強いられるだろう。
たかが少年の指に登るためだけに。
山の天気は変わりやすい。
変われば登山者全員の命は無いだろう。
だがそれは少年が指を少し動かしたために起きたのだ。
そうあの巨人の何気ない動作一つが我々の命に関わる。
実際にあの指の上に登っていたとして巨人が指をピクリとでも動かせば我々は1000m下へ真っ逆さまだ。
そのピクリと動いた幅が巨人にとって1㎜だったとしても小さな我々にとっては100mに相当する。
足場が100mも動けばその場にいられるはずが無い。
そして同時に指の周囲100mもその巨体にすり潰されることになる。
大きさが違いすぎる。
スケールが違いすぎる。
常識の通用しない大きさだった。
展望台にいた人間はもう一度指の手前の低層ビル群を見下ろしてみた。
まだ道路は避難する人で溢れかえっていた。
無限と思えるほどの数の人がビルから出続けるのだ。
これだけの時間があったのにまだ避難できていなかったのか。
そう思うほどに彼等の動きは遅かった。
瞬間、望遠鏡の先に覗いていた彼等の姿が消えた。
望遠鏡を外してみるとなんと指が街の中心に向かって接近してきていたのだ。
避難していた人など最早影すらなかった。
低層ビル群はあっという間に指にすり潰されその下に消えていった。
人間が何十日もかけて一つを建てるそのビルの群れを、指は1秒もかからずに粉砕した。
無数の建築物をその下に巻き込みながら指は前進してくる。
人間や車の被害など数えるまでも無い。
展望台の人間も逃げようとはしたが無駄だった。
彼等がエレベーターに駆け寄ろうとしたときにはすでにその巨大な指は超高層ビルの目の前だった。
展望台のガラスの向こうが肌色に埋め尽くされていた。
同時に周囲が薄暗くなる。
それは指がビルの目の前に来た証拠だった。
高さ500mのビルが少年の足の指よりも小さい証拠だった。
この時すでにビルは巨大な指の下ですり潰されていた。







街の前に足を置いた小春は暫くそのまま待っていた。
自分のつま先とその街の大きさの違いを良く見たかったから。

「小さいなぁ…」

一本の指の前にも何十と言うビルが建っている。
とは言ってもいずれも1㎜もない小さな砂粒程度だが。

「僕、本当に大きくなっちゃったんだ…」

大きくなる前はビルって大きいと思っていたけど今は指先も入らない。
というより毛の1本も危うい。
そしてそんなビルにはたくさんの人がいるのだろう。
でもそんなことは関係ない。
大きさの違いも分かった。
もうこの街に用は無い。
小春はスッと足を前に進めた。
つま先に見えた無数のビルはあっという間に見えなくなり勢いのあまった足は街の中心だったのだろう他よりも大きなビル群も巻き込んでいた。
思わぬ失敗だった。
小さな不快感を覚えた小春は足を持ち上げると残っている部分を丁寧に踏み潰した。
時間は要らない。
街一つ潰すのなんてつま先だけでも数秒で終わる。
自分の失敗を隠滅した小春は次の街でも同じ様に郊外に足を降ろした。
足を降ろしたときつま先の手前の街の模様が少し変わった。
小さな風が吹いたようだ。
もう一度見下ろした街はやっぱりとても小さい。
地面に広がる白い模様は思わず踏みにじりたい衝動に駆られる。
でもそれはダメだ。
もっと遊ばないと。
踏みにじるのはいつでもできるから。
小春はその街にいる住民の事を想像した。
きっと自分の足の指を見上げているのだろう。
1㎜もないビルから僕の指を見上げるもっと小さな人達。
可愛い。小さすぎる。心がむずむずする。
大きいと思ってるんだろうなぁ。
小春は巨大ヒーローの大きさを考えてみた。
彼等の身長は40m。
テレビの画面の中ではとても大きくビルの倍くらいの大きさだった。
でも今自分のつま先の前にあるビルはみんな100mを越える。
つまりヒーローの彼等はこのビルの半分の身長もないのだ。
そしてこのビルは自分の指の高さの10分の1も無いのだ。
小春から見るとヒーローのその大きさは0.4㎜。
シャープペンシルの芯の太さほどの巨大ヒーローなのだ。
それが同じくらいの大きさの怪獣と必死に戦うのだ。
滑稽だった。
小春はクスリと笑う。
今の小春ならそんな小さな怪獣なんて例え100匹出てきたって足の指1本で退治できてしまう。
小指1本でも足りるかもしれない。
10000匹も出てきたら足で踏み潰せばいい。
ペタリと足を降ろせば全滅だろう。
そして持ち上げた足の裏には無数の怪獣の成れの果てがこびりつくに違いない。
これならヒーローなんて要らない。自分ひとりでなんとでもなる。
ヒーローと怪獣の戦いも自分の爪の上で楽々出来てしまう。
爪の上で必死に戦い蹴ったり叩いたり光線技を放ったりするのだろう。
自分の爪の上で地球の命運を賭けた戦いをするのだ。
笑ってしまう。
そんなことしなくても小春が爪の上に指を1本そっと降ろせば決着はついてしまうのだ。
地球の命運は簡単に守れるのだ。
指を持ち上げれば爪と指の腹には小さな小さなシミが二つ。
怪獣と一緒にヒーローも潰れてしまうが地球のために戦ったのなら満足だろう。
汚れた爪もペロッとひとなめすればシミはどこにもない。
宿敵だったヒーローと怪獣の成れの果ては小春の中で混ざり合い一つになる。
圧倒的な力だ。
小春はヒーローになった気分だった。

「あ、でも今は僕の方が怪獣なのかな…」

自分が今までやってきたことを思えば怪獣のそれになる。
むしろ怪獣のそれとは桁違いの大災害だ。
いつか本当のヒーロー達によって退治されてしまうかも知れない。
小春の脳裏を恐怖がよぎった。
でも、すぐに思い直す。
さっきも考えたとおり今のヒーローなんて砂粒以下の存在なのだ。
例え何千何万と押し寄せてこようと小春の敵ではない。
それはそれで悪い気はしなかった。
無敵のヒーローさえも叶わない最強の怪獣・小春になれたのだ。
うん。それも面白そう。
小春は足元の街を見下ろした。
街の人からはこの指1本1本が超巨大な怪獣に見えるだろう。
でもそんな怪獣も自分の足の一部でしかなくその足は身体全体の一部でしかない。
小春は彼等の恐怖を煽ってみた。

「がお〜、怪獣だぞ〜」

言いながら足の指を上下させる。
小春にとってはそれだけだ。
でも街の人達はとても怖がってくれてるかもしれない。







人々の絶望はピークだった。
たった今隣の街があっという間に消滅してしまったのだ。
その原因はこの街からでもはっきりと見える。
というよりまるで足元に居る様な錯覚を覚えるほどだった。
とんでもない大きさだった。
ある住人は隣の街の友人と電話をしていた。
友人は泣き叫びながら電話の向こうで喋っていた。
電話を受けていた友人の友人もその巨人を見上げながら彼の声を聞いていた。
その時巨人が足を前に進めた。
同時に友人の電話も途切れた。
それが何を意味するかは明白だった。
その後巨人は友人のいた街を何度も踏んだ。
その度に地震が住人の身体を揺らす。
やがて巨人は踏み潰すのをやめると今度はこの街に向かって足を降ろしてきた。
ほとんど街ほどの面積がある広大な足の裏は薄く汚れている。
巨大な足は街のすぐ外に降ろされた。
その時足に押しのけられた空気が街の外周を遅い家や小さなビルがほこりの様に舞い上がった。
高層ビルなどが飛ばされ都心部を飛び越えて街の反対側へと墜落していく。
あんな巨大な建造物がああも空を飛ぶものなのか。
なんて馬鹿げた力だ。
人々はその巨大な足の指を見上げた。
やや霞がかっているようにも見える。
それほどの高さなのか。
足全体を見ることが出来た者はいない。
肉眼では膝周辺を見るのがやっとだ。
あとは空へと消えてしまって見ることが出来ない。
しかしその圧倒的な足の存在は間違いなく現実だった。
逃げなければ。
どこへ?
どこへ逃げれば助かる?
こんな巨人が相手では例え地球の裏側に逃げてもあっという間に追いついてくるだろう。
というよりこちらが飛行機で十数時間移動している間に巨人は数分で目的地についてこちらが到着するのを待つことだって可能だ。
ジャンボジェット機の飛行速度は約時速450㎞。
それほどの速さをもってしても巨人の歩行速度にすらかなわない。
巨人の歩行速度たるや約40万㎞。
飛んでいるこちらの飛行機を跨いで追い越し地平線の果てへと歩いていってしまうだろう。
もしもこの巨人が横になったとしたら例えこのジャンボ機を持ってしてもその身体の距離を通過するのに数十分とかかるはずだ。
数十分もの間片手には巨人の身体を見続けなければならないのだ。
世界を遮る肌色の壁だ。
足の方からスタートしたとして最後の数分は巨人の顔の横を通ることになる。
顔を横に向けた巨人が目の前を飛ぶ0.7㎜ほどのジャンボ機をその巨大な目で見つめている。
なんて大きさだ。
呼吸による乱気流も馬鹿にならない。
まばたきをするたびに巨大な睫毛がしなる。
乗客の全員がその巨大な顔を見ていた。
巨人は少年の様だ。
その顔が愛くるしい。
巨人はその0.7㎜のジャンボ機に乗っている我々の視線に気付いたのか笑顔を向けてきた。
本当にかわいらしい顔だった。
ふとその巨人が顔を近づけてきた。
同時に笑みを浮かべていた口元が開かれていく。
ジャンボ機に口が近づいてくる。
食べる気なのか。
すでに目の前は赤く煌く口腔だ。
ジャンボ機は桜色の唇を通り抜け高さ数百mの巨大な歯を通過した。
パクン。
口は閉じられた。
世界は暗黒に支配された。
未だにジャンボ機は何かにぶつかることなく飛び続けている。
巨人の口の中は飛行機が飛べるほどに広大なのか。
このまま我々は食べられるのだろうか。
山の様に大きな歯で噛み砕かれるのだろうか。
そんな必要はない。
もともとこんなに小さいのだから。
平野ほどの舌でなめ取られるのだろうか。
そしてらこのジャンボ機は舌にくっついてしまい飲み込む事は困難になるぞ。
それとも唾液に絡ませて唾と共に飲み込むだろうか。
それが一番巨人にとっていいはずだ。一番簡単にこの小さな砂粒飛行機を平らげることが出来る。
だがやがてこの暗黒に光がもたらされた。
ジャンボ機の正面。
暗黒が裂けそこから光が飛び込んで来る。
巨人が口を開けたようだ。
ジャンボ機はそこから脱出した。
乗客たちが後ろを振り返ってみるとそこにはぽっかりと口を開けた巨大な少年の顔があった。
飛行機が出て行ったことを確認した巨人は口を閉じくすくすと笑い始めた。
飛んでいる飛行機を口に入れるなど巨人にとっては小さな悪戯だったのだ。

はっ!
正気に返った住人。
あまりの出来事を前にして現実逃避をしていた様だ。
いそぎ現実に逃げる仕度をしようとしたときだった。

「がお〜、怪獣だぞ〜」

超巨大な声が街中に轟いた。
瞬間街中の窓ガラスが割れ住人は割れて飛んできたガラスで身体中から血飛沫を上げた。
そして割れて開放的になった窓から外を見るとなんとあの巨大な指が持ち上がっていったのだ。
必死に大窓まで近づいて見上げてみるとその巨大な五指全てが持ち上げられ数千mの上空にあった。
なんという大きさだ。
空が指に支配された。
そのどの指の腹でもこの高層ビル群を楽に潰せる大きさだった。
さっきあの巨人は怪獣だと言った。
なるほど確かに。
だがこれはもう天変地異だ。
指先だけで山の大きさなのだ。
それが、それがああも簡単に空に登ってしまうのだ。
足はすぐに降りてきた。
優しく地面に接地するとまた持ち上がった。
何度も何度もそれは繰り返される。
山が飛び跳ねているようなものだった。
そしてその巨大な指の動きがまた突風を巻き起こしビルや家などを吹っ飛ばした。
ズドオオオオン! ズドオオオオン!
隕石のように巨大な指だ。
周辺の建築物など度重なる地震で倒壊。残っているのは都心を挟んだ街の反対側のみだった。
つま先方面の家々はすでに瓦礫だった。
そして事態は急展開を迎える。
持ち上げられた指が降りてこなかった。
五指が天に向かって聳え、そのまま街の中心の方に向かって進みだしたのだ。
まだ無事だった街が持ち上げられた指の付け根の下へと潰されてゆく。
空を指に支配されたかと思うと目の前には巨大な指の付け根の壁。
あらゆるものがゴリゴリとすり潰されている。
ゴマ粒のような高層ビル群。いや、まさにゴマだった。
指が持ち上げられたまま街は超巨大な足に押しのけられ街の残骸と土砂は新しい山脈となった。
その後また指が降りてきて今しがた出来た山脈をペタペタと踏み固めた。
街の名残を残すものは跡形も無く消え去った。







指を持ち上げたまま足を少しだけ前に動かした。
それだけで足元の小さな街はなくなってしまった。
出来た小さな砂山も踏んでそこはすっきりとした。

「怪獣さんの勝ち〜」

ニコリと笑う小春。
圧倒的な勝利だった。
そのあと小春は別の街に近寄るとしゃがみこみ都心部からビルを一つ摘み上げてみた。
砂粒のようなビルはあまりにも密集していてそのビルだけを摘み上げるのは大変そうだった。
なので小春は指を使って標的以外のビルを押し潰したのだ。
まずは標的のビルの周辺から。
人差し指を伸ばし必要の無いビルの上にそっと乗せる。
するとビルはまるで抵抗無く崩れ落ち指は地面へと着く。
スッ スッ サクッ
あっという間にそのビルの周囲は逆ドーナツになった。
そのビルだけがぽつんと建っていた。
小春はついでとばかりに標的以外のその街に残っている建物を処理しはじめた。
サッ サッ サッ
掌で優しくはたいていく。
まるで消しゴムの消しカスを飛ばすように。
一回手が動くだけで街の4分の1以上が飛ばされてしまった。
数回で処理は完了。
街は無くなり広大な荒野に残るのはたったひとつのビルのみ。
そこに残っている人達は自分達のいるビル以外がほんの数秒で消滅してしまったことをどう思っただろうか。
小春はそのビルを摘まみ上げ目の高さまで持ってきて覗き込んだ。
力も上手くコントロールできる。爽快な気分だった。
このときには中に残っていた人はみな瞬間的な環境の変化に対応できずに死んでいた。
というよりしゃがんでいると言っても小春の目の高さはすでに宇宙空間に等しい。
呼吸の出来る高さではないし気温も地上のそれとは違う。
何より小春が持ち上げたときにかかった重力はシャトルが大気圏脱出をするそれの比ではなかった。
無人となったビルを見つめる小春。
ゴマ粒の様だった。
こんなものに人が何百人も入っているとは分かっていても信じられなかった。
そして指の間のビルを挟み潰す。
力を込めたわけではない。
ただ少し指に意識を集中したらつぶれてしまったのだ。
ビルなどその程度の頑丈さなのだ。
立ち上がった小春はまた歩き出した。
もっともっと遊べることがありそうだったから。
テクテクと歩く。
恐らく今もたくさんの街と無数の人が踏み潰されているだろう。
だがそれも見なければ分からない。
街を踏もうが平野を踏もうが感じようとしなければ分からない違いだった。
実際小春は途中高度10000mと言う超ド級の山脈をけり砕いていたが気付かなかった。
サクサクサクサク。
足の裏に地面の柔らかさを感じながら歩く小春。
その小春の一歩がどこに降ろされるかは人々にとって死活問題だった。
小春の足が小指1本ずれて降ろされれば数千人が余計に死ぬかも知れないのだ。
自分はただ歩いているだけなのに人々はみんな恐怖する。
楽しいな。なんか偉くなったみたい。神様かな。
小春のなんでも出来るイメージは神様のそれだ。
なんでも出来また何をやっても許される。神のやることはすべて正しいのだ。
やりたいように出来るのだ。

「あ、でも…」

と小春は思う。

「…お兄ちゃんには、やりたいようにやってもらいたいな…」

頬を赤く染める小春。
兄はいつも小春の自慰に付き合ってくれて小春にとってそれは至福の時間だった。
兄の小さな手がそっと触れてくれるだけで昇天してしまう。兄の全てが嬉しかった。
だが前にその大切な兄を射精で吹っ飛ばしてしまったときは本当にどうしようかと思った。
快楽の狭間に罪悪感がちらついた。
もう二度とするまいと誓った。
でもその兄が自分の精液の中で溺れないよう必死に泳いでいるのを見つけた時小春は自分の中に電撃が走るのを感じた。
兄のその様はまるで兄が自分の中に入ってきてくれているような。
僕の中でたゆたってくれているような感動を受けた。
それでもその行為はもう二度としなかった。
自分の快楽よりもやはり兄の身の方が大事だ。
例えその行為でなくとも、兄がしてくれるのであれば小春はどんな事でも満足だった。

「はぁ…」

熱い吐息が漏れる。
兄にしてもらいたいなぁ。夜が待ち遠しい。
来たる至福の時間を思い描いて小春はよだれを垂らしてしまった。
同時に股間のそれもむくむくと大きくなる。
腰に巻いた布を内側からぐいぐいと持ち上げようとする。
小春は目をとろんさせてふらふらと歩いていた。
意識はすでに夜の兄と二人きりの時間だった。

そうやって気が散っていたのがいけなかったのだろう。
次の小春の一歩はそこにあった湖を踏み抜いたのだが他より少し窪んだ地面とその水気による滑り易さに小春は足を取られツルリと前のめりに転んでしまった。

「わっ…! ああぁぁぁぁあッ!」

小春の巨体が倒れこむ。
その身体は数個の街を下敷きにした。
天文学的な震度を記録するような大地震が大陸中を襲った。

 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

直撃を免れた周囲の街もその振動と突風で吹き飛ばされた。
宇宙にまで舞い上がった砂煙を払いのけながら小春は起き上がった。
今の一瞬で壊滅した街の上に手を降ろし上体を支えた。
ぺぺっ。
少し土が口に入ってしまったようだ。
身体についた土をパタパタと払いながら辺りを見渡し立ち上がろうとしたとき小春は気付いた。
小春の下敷きになった街のひとつが小春の股間の下敷きになっていたのだが今や瓦礫と化したその街には快楽を想像して勃起していた小春のそれの形がくっきりと残されていたのだ。

「あぅ…」

偶然の事で布越しとは言え自分の勃起したそれが街を押し潰しそこに跡を残す。
それは無性に恥ずかしかった。
今までの街と同じ様に無数のビルが潰されたわけだが今回は股間だった。
まさかそれで潰してしまうとは。
小春は自分のそれを見下ろした。
それは未だに布を押し上げビクンビクンと脈打っている。
イチモツで潰された人々は自分の最期をどう思っただろうか。
小春は今数千の人々を押し潰したそれに触れる。
ビク!
快楽が身体を突き抜ける。
身体が求めているのだ。

「…」

小春は頬を染めたまま腰布の紐に手を伸ばした。
疼く。止められそうにない。もとより止めるつもりなどない。
紐をほどきスルリと腰布を取る。
するとそこには長さ10000mの超巨大な性器が現れた。
ビクンビクンと脈打ち、血管が浮かび上がっている。
遠い異国からでも遙か衛星からでも見ることが出来る巨大なおち○ちんだった。
はぁ…はぁ…。身体が熱い。最初、これを手に取る瞬間が小春は好きだった。
長さ10㎞弱太さ4㎞弱のそれをむんずと掴む。
瞬間、快楽がそこに集中する。

「ん…ぁあ…!」

今すぐにでも解き放ちたいそれを我慢して小春はそれをしごく。
ぐいぐいと引っ張る。
その動作で大地はグラグラと揺れ、遠方の人間は遠い山の向こうで巨人の行うオナニーと地震のリズムが同じである事に気付いた。

「ん……んん…っ!」

小春のそれのテンポも早くなっていた。
身体中の感覚がその一点に集中している。
快楽を感じたいがために。

「うぅ………でる………!」

小春は股間に力を入れた。


  どぴゅぅぅぅうううッ!!

びゅぅぅう!
湖の水量よりも多い精液が空へと放たれた。
雲よりも高く。大気を突き抜けて。
白濁色のプロミネンスだった。
それは山脈も平野も飛び越え放物線を描きながら飛んで行った。
だがやがて重力に引っ張られその放物線も弧を描き進路を大地へと変更させてゆく。
そしてその先には街があった。
住民は空から迫る巨大な流星を見上げていた。
長い長い尾を引きこの街へ迫って来る。
あまりに非現実的な現象に人々は立ち呆けてしまった。
危機を認識できなかったのだ。
一部の者は、空から迫るそれが太陽の光に照らされキラキラと光り美しいとさえ感じていた。
それはどんどん街へと近づいていった。
そしてそれが街の空を多い尽くすほどに大きいものであると感じた時点で人々は一抹の不安を覚えた。
すでに遅かった。
おびただしい量の精液は街へと直撃した。

 ドバァァァァァァァアアアァァアアアン!

街は消滅した。
ある形容の仕方をすればそれは津波に流されるようだった。
ある形容の仕方をすればそれは隕石の衝突でクレーターを穿つようだった。
そう、小春の精液はそれほどの質量を持っていたのだ。
水でも大量の水が高速で降ってきたときの威力は計り知れない。
水よりも更に粘性のある精液の威力はその比ではない。
まさに隕石と変わりない。
尾を引いたそれはまさに流星の様だったから。
街は射精一回分の精液によって押し流されてしまった。
そこにいた住民は精液の直撃を受けて砕け散るか、飲み込まれて溺れるか。
粘性の強い海を泳ぐことなど出来ないし、喉に入れてしまうと取り除くことも出来ない。
その異臭のせいで鼻も使えない。
それは街の郊外でわずかに生き残った人達の運命だった。
精液直撃の衝撃で数万の人が死にその後飛び散り湖と化した精液の中で数千の人が溺れ死んだ。
巨人の精液は一人の生存者も許さなかった。

快感の塊を放ち充足感と喪失感に包まれる小春。
だがすぐにさらなる快感を求める。
股間のそれを握りなおししごき再び快感のそれを解き放つ。

「ん…! くぁ…っ!」

 どぴゅう! どぴゅうう!

次から次にそれは放たれてゆく。
それらはまた別の街に向かって飛んでいった。

 ドバアアアアアアアン! ドバアアアアアアアン!

ある一発は街に直撃しまたある一発は街に郊外に落ちる。
その衝撃だけでも人々は立っていられないほどの大揺れだった。
近くに落ちれば衝撃波で吹っ飛ばされてしまうほどだ。
その超大量の精液はどんどんどんどん降ってくる。
まるで精液の流星群の様に。
人々は精液の弾幕の中にさらされ、やがて自分のところに精液が落ちてきて潰されるか、押し流されるか、溺れるかの運命を待つことしか出来なかった。
いくつもの街が小春の精液に呑み込まれた。


「…っはぁ…はぁ…」

しごくのをやめる。
見てみると当たりは小春の精液だらけだった。
たくさんの街がその精液の水溜りに犯されているのが分かった。

「…」

だがそんなものどうでもいい。
今更何人死のうと知った事ではない。
今は、今はとにかくこの快感に身をさらしていたい。
ふと小春は自分の近くにある街にまだ小さなビルが残っているのに気付いた。
そのゴマ粒の様なビルを摘まみ上げ、イチモツの、尿道の穴へと落とす。
射精のため開いていたその穴の中にビルは落ちて消えてしまった。
まさかとは思うがあの中に生存者はいたのだろうか。
いたとしたら先住民の精子たちと仲良くやるといいな。
小春の一部理性の吹っ飛んだ頭はそんな事を考えていた。
また一つビルを摘み上げてみる。だが今度は穴の中に落ちず、精液の粘着力で穴の入口にくっついてしまった。
興奮冷めぬまま小春はくすくすと笑った。
高さ数百mの超高層ビルが自分のおち○ちんの上にちょこんと乗っているのだ。
これにも生存者がいるとしたら、おち○ちんの上に乗せられたビルの中にいるのはどんな気分なのだろう。
その人達を弄んでやりたい。
小春は肉棒に力を入れたり抜いたり、それをくいくいと動かした。
自然、それと同時に肉棒の先端も動く。
肉棒が動くたびに風が唸る。
乗っているビルも小春から見れば数センチの幅をぶんぶんと動かされた。本当はそれは数㎞の長距離だった。
ぶんぶんくいくい。
性器が上下左右にと揺さぶられてもその先端には必ずビルがついている。
小春の精液はこの程度の揺れでは捉えた得物を逃さない。
先端のビルの中は大惨事だった。
机や棚が飛び交い、壁が壊れ外へと放り出される始末。
それほどの大災害も少年が性器を少し動かしたためだけに引き起こされていた。
なかなかに楽しい、安らぎさえ感じる時間だったがやがてまた性欲の波が押し寄せてきた。
今度小春は指だけで性器を摘まみ揺れを最小限に抑えそっとしごいた。
そっとそーっと、先端のビルが落ちてしまわないように。
得られる快楽は普段のそれには及ばないが、この行為の果てに見られるであろう光景を思い浮かべると心がそそられる。
だんだんと快楽も溜まってきた。
ぷるぷるとゆれる性器の先端。本来の最小限とは言ってもその揺れ幅は1000m近いものだった。
それでもビルがその体勢を保っていられたのは一重に小春の精液の粘着力の所為だろう。
強靭な粘力は耐震性にも優れていたのだ。
そして小春はそれを発射した。

「…ッ!」

  どぴゅ!

性器の先端から精液が放たれた。
先端に乗っていたビルはその精液と一緒に山の向こうへと落ちピチャリと音を立てた。
思い描いていた通りの光景だった。
くすくす。楽しかった。
同時に肉棒の中に感じていたむず痒さも消えた。
きっとそれはビルが引っかかっていたから感じていたのだろう。
それも今の射精で綺麗に取り除かれたという事だ。

しかしそれでも小春は満足しない。
まだまだ出したりないとイチモツはビンビンだった。
少し張り切りすぎて足腰の立たない小春は四つんばいになって歩き出した。
欲求を満たせるものを探して大陸の上を進む。
四つんばいのその様は獣だった。怪獣だった。
そんな小春は今、山の上を通過していることに気付いた。
丁度小春のお腹の下にあるのは標高10000mの山々からなる山脈だった。
それを見下ろして暫く考える。
やがて小春は自分の性器をその山に近づけていった。
お互いの大きさはほとんど同じだった。
小春のちん○は山の高さに匹敵するのだ。
そして小春は性器の先端で山の後ろから触れてみる。
熱く滾る性器でその山の冷たさを感じた。
同時に少し気持ちよかった。
そのまま性器を押し付ける。
山を後ろから押すような感じだ。
ぐいぐいと押し付けていた。
すると山肌にピシィと亀裂が入った。
同時に性器の先端が山にめり込んだ。
と思った瞬間だった。

 ドカァアアアアアン!

山は砕けてしまった。
押し付けられる超巨大なちん○の圧力に負けてしまったのだ。
山の破片が周囲に飛び散った。
大地の象徴、山も小春のおち○ちんには叶わなかった。
その光景を見ていた小春はその山の麓に小さな村があるのを発見した。
田畑を耕し狩りを生業とするのではないだろうかというものだった。
その村を見て小春はまた暫く考えていたがやがてにこりと笑ったかと思うとゆっくりと腰を降ろし始めた。
その所為で性器の高度が下がってゆく。
ちん○が段々地面に近づいていく。
そう、その村に向かって。
村の大きさは田畑を含めてもちん○の太さほどしかない。
つまりこれをおろせば村の全てを下敷きに出来るということだ。
村の人々は空から降りてくる超巨大な男性器に発狂してしまった。
それはどんどん降りてくる。どんどん大きくなる。視界が性器の先端だけで埋め尽くされた。
ある家は尿道の真下に位置していた。
その家の人は自分の家が何十棟の軽く入ってしまいそうな大きな穴を見上げていた。
穴の中は暗黒だった。今にも何か飛び出てきそうだった。
小春はゆっくりゆっくり腰を下ろしていった。じっくりとその感触を感じたかったからだ。
降りていく自分の性器をじっと見つめる。
もうそろそろその村に触れるだろう。
たかさはあと1㎝もない。
ゆっくりと降ろし、そして……触れた。

「ん…ッ」

再び快感が突き抜ける。
地面の冷たさがとても気持ちよかった。
思わず射精してしまいたくなったが今は堪えた。
ゆっくりと自分の性器を持ち上げる。
持ち上がったあとそこには自分の性器の形に窪んだ土地があった。
じかしどこにも村の跡は無い。
性器の先端を見てみるとかすかに汚れていた。
あれが村の成れの果てなのだろう。

これは楽しい。
地面に突き刺すのがこんなに気持ちよかったなんて。
これも大きくなったからなのかな。
小春は考えながら前進していた。
今の快感がもう一度欲しかった。
だがそのためにはちゃんと場所を選ばなければならない。
そうここでなければならないのだ。
小春はそれの上に到着した。
そこは街だった。
大きな街。無数のビル。
これが一番小春を楽しませてくれる。
小春は街が自分の下に来るように調節した。
そしてある程度まで腰を降ろしよく狙いを定める。
ここまでは先程の小さな村と同じ。でもここからは違う。
都心の超高層ビル群の上に性器の先端をセットした小春。
そしてそれを、一気に突っ込んだのだ。

 ズブリ!

太さ4000mの超巨大な性器が大都市の真ん中、超高層ビル群に突っ込まれたのだ。
ビル群は一瞬で潰されたがそれでも性器の勢いは止まらず、その根元付近までもが地面へと潜った。
恐ろしいほどの快感が得られた。
小春は腰を振り突っ込んだそれを上下させる。
その動きの振動は街中のあらゆる建築物を倒壊させ、人々や瓦礫は小春の腰の動きに合わせて宙に放り出される。

 ズウウウウウウウウウウウン!

 ズウウウウウウウウウウウウン!

小春の腰が動くたびに大地が悲鳴を上げた。
だが当の小春は快楽に溺れその口から垂れた一滴の唾液が森を壊滅させた。
そして遂に溜まりに溜まった快楽を解き放つ。
その瞬間有り得ない天変地異が起きた。

 どぴゅぅぅうう!

 どぴゅぅうう!

なんと周辺の死火山や休火山から小春の精液が飛び出してきたのだ。
山の高さの何倍も高く噴出している精液。まるで噴水の様だった。
山だけではない。
大地に亀裂が入りそこから飛び出たり、街の一画を吹っ飛びそこから出てきたり。
そこらじゅうの地面から小春の精液が噴き出していた。

「う……うぅん……」

更に小春は射精を続ける。
するとその山々が内側からくる小春の精液の圧力に負けて吹っ飛んでしまった。
山が破裂したのだ。
その後何回か小春の射精は続き、それが放たれるたびに周辺の噴水は勢いを増した。
やがてそれも落ち着き、小春はゆっくりと性器を街から引き抜いた。
だがまたそれも快感で抜き終えた直後、小春はまた射精してしまった。

 びゅぅぅうううううう!!

小春にして高さ2㎝弱。本当の2000m弱。
その距離から放たれた精液は街を地盤ごと吹き飛ばしてしまった。








「はぁ…はぁ…」

度重なる射精で精魂果てた小春はごろんと横になった。
いくつか街が下敷きになったことなど気付きもしない。

「気持ちよかった…。今はお兄ちゃんにしてもらえないから自分で処理しないと…」

そのために数万と言う人間が犠牲になったのだが、その犠牲者達の事など既に小春の頭からは消え去っていた。

「そろそろ帰ろうかなぁ。でもどうすれば元の大きさに戻れるんだろう…」

熱も冷め理性を取り戻しつつある頭でそんなことを考えていた。
そんなときだった。

 フッ

背中に感じていた地面の感触が消えた。
同時に、身体が浮遊感を覚えた。

「…?」

身体を起こしてみると当たりは夜空。
上下左右360度どこを見渡しても夜空。
地面も空も無い。周囲にあるのはなにやら青い球だけ。

「なにここ…。これはなに…?」

小春はそれに顔を寄せて見つめる。
小春とて地図くらい分かる。
そこには自分の見知った模様が描かれていた。
それは地球儀そのものだった。
つまり。

「地球…!? 僕、もっと大きくなっちゃった…」

小春はわけが分からなかった。
一体何が起こっているのだ。
どうしたらいいのだ。
しかし小春は冷静だった。
動揺など微塵も無い。
笑顔を浮かべることさえ出来た。
そうそれは未だに兄を感じる事が出来たから。
しかしそれはその地球からではなく宇宙全体から。
更に言えば兄に包まれているといってもいい。
なるほど。
小春はなんとなくだが今の自分の状況を把握することが出来た。
もうすぐ終わりが訪れる。
ならせめて最後にもう一度だけ気持ちよくなっておきたい。
小春のそれは未だにビンビンだった。
そして今小春の欲を満たしてくれるものは、目の前の青い球しかない。

小春は地球に両手を伸ばしそっと掴む。
その所為でいくつもの国が小春の手と指の下敷きになり潰れた。
それを自分の股間へと近づける。
そう、小春は地球でオナニーをする事に決めたのだ。
地球を回転させてそれを差し込む場所を探す。
その間も指でいくつもの国や島、大陸を潰していたが日本だけは無事だった。

「日本はお兄ちゃんと僕の国だもん。あまり酷い事したくないよね」

そして小春は角度を決めた。
自分のそれを差し込むのは南極だ。
地球の下からぶっすりと差し込むつもりだった。
南極を性器の先端に押し当てる。
ひんやりとしてとても気持ちよかった。
ただしそのせいで南極を覆っていた雪や氷はみんなとけてしまったが。
小春は笑顔で地球に話しかける。

「ばいばい、地球さん」

 ブッスリ!

瞬間、小春のそれは南極大陸を貫き根元ほどまで突っ込まれた。
ほとんど地球の半分の深さまで。
核に届く深さまで突っ込まれた。

「はぅぅ!」

核とマントルの熱が刺激を与える。
小春は一度それを抜き放ち、再度突き入れる。

 ズズン!

  ズズン!

小春の腰が振られた。
地球は最早地震や津波と表現出来ないほどの事態だった。
天変地異、というよりも星の破壊と創造レベルの出来事だ。
力が込められていく手が地球にめり込んで行く。
同時に地表に無数のひびが入る。
更に小春の絶頂も間近だった。

「んん…ぁあ…ッ! でる…ッ…でるぅ…!」

 メキメキメキ!

地表の亀裂が大きくなり海がそこになだれ込む。
そして小春のそれが解き放たれた。


 どぴゅう!


 バコッ!!

瞬間、地球は砕け散った。
ひび割れていた地球は体内に放たれた膨大な量の精液に耐えられなかったのだ。
周囲には無数の地球の欠片と小春の精液が浮いている。

「はぁ…はぁ…」

小春は息を切らしながらそれらの欠片を払いのけ目的のものを探していた。

「あ、あった…」

目当てのものを見つめた。
指先ほどの小さなそれ。
それは、地球の欠片。日本の乗った地球の欠片だった。
小春はそれをそっと両手で包むと胸元に寄せる。

「ここがお兄ちゃんと僕の住むところだもん」

そんな小春の頭に兄の呼ぶ声が聞こえる。

『……ーい…春ー…おーい、小春ー』

「お兄ちゃんが呼んでる。いかなきゃ」

小春の身体は光に包まれた。







洞窟の中。
眠る小春の耳元で叫ぶ兄こと秋斗。

「小春ー! 起きろー!!」

眠る小春の耳の穴に向かって叫ぶ。

「はぁ…まったく…いったいどんな夢見てるんだ…」

秋斗はため息をつきながら自分の身体を見回した。
するとその時、小春の身体が動き出した。
洞窟内に地鳴りの音が響く。

「やっと起きたか…」
「お兄ちゃん…?」

起き上がり壁にもたれかかった小春が目を擦りながら言う。

「ふぁ…おはよう、お兄ちゃん…」
「ああ…おはようさん…」
「…?」

兄の様子が変だ。
どうしたのだろう。
小春は自分の足元にいる兄に焦点を合わせようとした。
起きたばかりでまだピントが合わないのだ。
ようやっと定まった目で見た兄はなにやら全身にドロドロのものを被っていた。

「ど、どうしたのお兄ちゃん!?」
「…こっちが聞きたいよ。どんな夢みたらこんな事になるのさ…」
「え…?」

兄の言葉の真意を探る小春。
良く見れば汚れているのは兄だけではない。
部屋も壁も、みんなそのドロドロで汚れている。

「い、いったい何があったの!?」
「自分の股間を見てみろ…」

言われたとおりにそこに目を移してみる。
そこには自分の腰巻。
ただし穴が空いている。同時になにやら湿っている。

「……そんな」
「これ全部お前が夢精したんだよ…。寝てる俺にも飛んできて溺れるかと思ったぞ…」
「…」

小春は恥ずかしさと申し訳なさで真っ赤になり、自分の股間を押さえた。
すると股間がむっくりと起き上がるのを感じた。

「あ…っ」
「………まだし足りないのか…」

秋斗は頭を押さえた。
小春は慌てて首を振った。

「ち、違うよ! これは朝だから…その……」
「だぁあああああ! もういい、今から水浴びに行くぞ! 身体も洗わなきゃいけないし! 着いたら二度と出なくなるぐらいしごき倒してやるから覚悟しろよ!!」
「…! ……うん!!」

小春は兄を抱えると急ぎ洞窟を出て湖へと走っていった。



今日も一日、「小春日和」の始まりである。




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 〜 世界中が小春日和 〜



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