『侵略』の続編(?)です。



 『 侵略 ~シャルテ~ 』



机があり、棚があり、ベッドがある。
窓があり、ドアがあり、隅にはぬいぐるみが置かれている。
いかにもと言った感じのクマのぬいぐるみだ。ここが女の子の部屋であることを、たとえ他の何が無かったとしてもそれが強く印象付けるだろう。
確率は上がる。
実際そうだった。

ベッドに腰掛ける少女の重みを布団が柔らかく包み込んでいる。
黒く長い髪は、少女の所作で揺れるたび窓から差し込む陽光が水滴のように零れ流れた。
暑さに備えられた薄着に覗く肌はキメ細かく触れればその柔らかさにため息が漏れるだろう。
短めのスカートから伸びる脚は途中で折り曲げられフローリングの床に着いている。
そして男が見れば思わず顔を赤らめてしまうほどに愛おしい柔和な笑みは、自分の足元を見下ろしていた。

「おはようコビトくん、今日は何して遊ぼうか」

にこっと笑い首をわずかに傾けながらシャルテは自分のつま先の前にいる小人たちに声をかけた。
木の柔らかさがよく表れたフローリングに降ろされた何も履いていないシャルテの素足の前には何十匹かの小人がいた。
彼らの身長は2mmにも満たない。明るい色のフローリングの上ではその存在が点のようにぽつぽつと際立った。

 *

小人たちは専用の箱庭から出され床の上に降ろされて飼い主である少女シャルテを見上げているのだった。
クローンである彼らにとって少女が自身たちの1000倍もの大きさであることは当たり前だ。驚くようなことではない。
ただクローンであっても生物であることか、またはオリジナルである地球人だった頃の本能からか、その途方もない大きさの前には唖然と立ち尽くしてしまうのだ。
今、彼らの目の前に降ろされている少女の足のその指ですら、彼らの街の中を走る電車よりも太く大きいのだ。
箱庭は旧地球の文明を再現されていることも多く、中に電車と言う地面に敷かれたレールの上を走る乗り物も存在する。小人たちも移動の際にはよく使用する。
彼らから見てもあれは大きい。ひとつに何十と人が乗れるのだ。だがそんな電車を知っているからこそ、そこにある指の巨大さもより確信できる。連結された全車両との長さを比べればそれは当然電車の方が長いのだが、一両だけならば確実に指の方が大きいであろう。それは、比べるまでも無い事なのかもしれないが。

以前、少女が箱庭を蹴飛ばしてしまったことがあったが、その時、箱庭内を走っていた電車が脱線し箱庭から飛び出してしまった。
本来の電車と言うものはレールを外れると動けなくなるらしい。そう言う地球人の知識を連ねた本が箱庭の図書館に置かれていた。
だがこの箱庭の電車は彼女たちの技術で作られておりレールを外れても走り続けたのだ。
フローリングの床に飛び出した電車は車輪をギャリギャリ滑らせながら木面の上を走り抜けていった。
内部にはたくさんの小人が乗っていたが、もともと操縦は自動であり彼らには止めることができないものである。彼らはただ悲鳴を上げていた。

電車はシャルテへと向かっていった。床に降ろされたシャルテの足へと。
シャルテはこの時混乱していた。うっかり箱庭を蹴飛ばしてしまったのだから。
重力制御は行われているが、それでも10cm以上は飛び上がり1m位は吹っ飛んでしまった。これは重力制御の限界を超えてしまうかもしれない。
と、思った時には中からこの電車が飛び出してきたのだ。細い紐のようなそれがポーンと飛び出てきて床を走り出した。
制御されているとはいえ、箱庭は小人の感覚では100m以上もの瞬間的上昇と1kmもの距離を蹴り飛ばされたのだ。
それは無意識だった。力を入れたわけではないが遠慮のない一撃は、普段そこまで制御を強くしているわけではない箱庭に凄まじいダメージを与えた。実際、何千といた小人も、事が終わった後には100といなかった。廃墟となった箱庭から、後でシャルテが必死に探し出してくれたのだ。
当時混乱していたシャルテは自分が箱庭を蹴飛ばしたこと、それによる被害などを考え…ようとしたところで更に中から電車まで飛び出てしまって一瞬固まってしまっていた。どれから手を付けていいのかわからなかったのだ。
そんなシャルテの足に、箱庭による電子制御を離れてしまった電車は速度を全く緩めることなく激突してしまった。
後の箱庭の惨状と比べれば大したことではないが、電車はシャルテの指にぶつかった瞬間大きく拉げくねるように自身をひん曲げた。それでも後続の速度が緩まぬ中、繋がった列車は次々と指にぶつかり潰れ壊れていった。
全十両がその凄まじい衝撃によって大破していた。炎上こそしなかったもののちゃんと立っている車両は無かった。潰れ拉げるものが大半、そこまでいかなくともすべてが大きく転倒していたりした。衝突の衝撃を考えればその破壊力は全車両を貫いているはずであるし、最後尾であった車両がひっくり返り横にスライドするようにして前方車両のなれの果ての山に突っ込んでいるところを見れば、そこに乗っていた小人の安否を気遣うことが如何に無駄なことであるかは容易に想像できる。
だがシャルテの足は電車が次々と自分の指先に激突し潰れ横転していっているにもかかわらず、そんな衝撃など毛ほども感じていないように、さも当然とそのままであり続けた。
実際シャルテに至っては、電車がぶつかって初めて事の次第を理解したようなものだった。
混乱したシャルテの頭は自分の足に向かって走ってくる電車がその後どうなるかを考える余裕などなかった。全車両が大破した後で、初めて弾かれたように足をどけた。鉄くずの山となった電車の一両がゴロンと転げ落ちた。

あのあとシャルテは生き残った小人に何度も謝ってきた。
当然、彼女の不注意さが招いた災害だったからだ。

だが、その彼女の謝罪が、本当に犠牲となったすべての人々を心の底から思うものでないことは、彼女の大きさと自分たちの大きさが証明してくれた。
飼い主とペット。
そこには、確かな壁がある。
種族の壁が。

 *

足元の小人たちは右往左往してる。買ったばかりだし、まだ私の大きさに慣れてないのかな?
新しい小人はこういうところが新鮮な感じだった。慣れた小人は私の言うことをちゃんと聞いてくれるけど、それはそれでちょっと物足りない。
だから定期的に新しい小人が欲しくなる。

「それじゃあ朝の挨拶から。そこに並んで、おはようって言って」

シャルテはウォッチを操作して彼らの声を拾えるようにした。
そうでもしなければ小人の声は小さすぎて聞こえないのだ。

ところが暫くたっても挨拶は聞こえてこない。
見下ろした先の小人たちもまだ並んでいない。まだただの集団のままザワザワとざわめいている。
シャルテは首をかしげた。
おかしいな、言葉が理解できなかったのかな? クローンは作られる過程で一定以上の知識が植えつけられるはずなのに。
言葉もウォッチのおかげで通じるはずなんだけどな。

これまでも何度となく新しい小人は購入したがこれは新しい反応だった。
いつもの小人は慣れてなくても言う事は聞いてくれたのに。

「あ、もしかして…」

シャルテは一つの可能性に思い至った。
小人には大きく分けて二つの種類がある。
私たちの言う事に従うよう遺伝子レベルで擦りこまれ作られた小人とそうではない小人。反応はオリジナルである地球人が初めて私たちティターン星人を見たときのものに近くなるらしい。
つまりこの小人達は私たちティターン星人のことを『知らない』のだ。
ビックリしすぎて動けなくなってしまったということか。

「……ふふふ、そっかー。私たちのこと知らないんじゃ驚いてもしょうがないよね」

私はコビトくん達があまりにも呆然としてる様を思い浮かべてちょっと笑ってしまった。
すると足元の小人達に動きがあった。
ウィンドウを出して見てみるとみんな耳を押さえてうずくまっている。
もしかして私の笑い声がうるさかったのかな。
その辺の調整もされてないんだ。

「あはは、ごめんね。じゃあ改めて挨拶しよっか。私はシャルテ。君たちは昨日私に買われてここに来たんだよ」

にっこりと笑いながら足元の小人達に話しかけた。
だが小人たちはシャルテから逃げるように走り出してしまった。
ウィンドウ越しに小人たちの必死な表情と悲鳴が伝わってくる。
怖がらせちゃったかな。
我先にと走り出した小人たちを見下ろしてちょっと反省する。

が、それとは別に思う事も。
ウィンドウを見ると確かに小人達は必死になって逃げているようだが、ウィンドウから目を外し実際に目で見てみるととてもゆっくりとした速度で移動していた。
これで本当に本気で走っているのだろうか。ウォッチで測ってみると時速20mと出た。

(時速20mって…遅すぎてピンとこないな)

もっと時間の幅を細かくして秒速に直してみると、時速20mとはおよそ秒速5mmちょっとであった。

(1秒間にたった5mm? …じゃあ10秒間待っても5cmしか進まないの?)

これは遅すぎる。
例えば鬼ごっこをして10数えてもほとんど動いてないようなものだ。
実際、こうやってウォッチを操作していた後にもう一度見下ろしてみても彼らはそこにいた。

(うーん頑張ってるんだろうけど全然わかんないな。でも必死に頑張ってちまちま動いてるのはなんかかわいい。……ちょっとイジメちゃおうかな)

私は片足をちょっと持ち上げて彼らを追いかけた。

「ほらーもっと早く逃げないと踏んじゃうよ」

くすくすと笑いながら言うシャルテ。
その途端、ウィンドウから聞こえてくる小人たちの悲鳴が大きくなった。
そちらに目を向ければ、ウィンドウの中、小人たちの背後から巨大な足が迫ってきているのだ。

(これ私の足なんだー。大きい…。それはこんなのが追っかけてきたらコビトくんだって逃げるよねー)

足は床から2cmくらいの高さまで持ち上げている。
小人から見たら20mくらいの高さだ。
しかし私の足の下には足の作る影で真っ暗な空間ができている。足の裏も影で暗かった。恐ろしいほどに広範囲が私の足の作る影で覆われている。これ全部が私の足の下なんだ。私が足を下したらこんなに広い範囲を踏んじゃうんだね。
ウィンドウの向こう、逃げる小人たちを正面から捉える映像に移る私の足はすごい速度で追いかけてきていた。私としては全然そんなつもりはないんだけど、カメラの速度はコビトくんの走る速度に合わせてて、それで速く感じるって事はコビトくんは私の足がとても速く追いかけてるように見えるんだろうな。でもこんなにゆっくり足を動かすのは疲れちゃう。

そうやって小人を追いかけながら小人の逃げる様を観察するシャルテ。
小人の速度に合わせて足を動かしているのですぐに追いついたりはしない。
だが、これだけ走ってもまだ足の届く距離に小人はいるのだ。
シャルテはベッドに座ったまま足を延ばしているのに、まだ足が届く距離にいるのだ。

(もっと速く逃げればいいのに。遅すぎてかわいそう…)

私は本当に、すごーくゆっくり追いかけてあげている。正直、足を持ち上げたままでいるのは疲れてしまった。
でもちょっと速く動かすと追いつくどころか追い抜いてしまいそうだ。
私の足は24cmだから、彼らが私の足の長さを通過するには50秒近くもかかるのか。そう考えるとほんとに遅い。私がただ足を下すだけで着く距離を彼らは何十秒もかけてやっと到着する。じゃあ私が一歩歩いたら彼らはどれだけ長い距離を走らなきゃいけないんだろう。逆にコビトくんが何十秒もかけて走り抜けた距離を私は一歩歩くだけで簡単に追い越せちゃうんだ。そう考えるとコビトくんてほんとに小さいな。

(でももう足上げてるのも疲れちゃったし、もうやめてあげようかな。ふふ、コビトくんもお疲れ様)

心の中で労ってシャルテは足を下した。
すると前を走っていた小人たちが吹っ飛んでしまった。
驚くシャルテ。

「え? なに? どういうこと?」

慌てて足を引込める。ウィンドウを覗き込んでみると小人たちはみんな床の上に倒れこんでいた。そしてその中にはなんとケガをし血を流している小人までいた。酷い者は腕や脚が折れてしまっている。いったい何が起こったのか。なんでコビトくんたちがこんな酷い事になっているのか私にはわからなかった。原因を探るため、一連の映像をもう一度映し出してみる。
ウィンドウの中には逃げるコビト君たちとその後ろを追いかける私の足。そして私の足が下される。するとその瞬間、床が大きく揺れコビトたちは全員足を取られていた。更に私の足が床に降りたとき、足の裏と床の間にあった空気が押し出され、前方のコビトくんたちを吹き飛ばしてしまったようだ。

「どうしよう……そうだ!」

私は立ち上がって机の上に置いてある綿棒を取りに行った。

この時、シャルテが歩いたせいで床が連続して凄まじい揺れに襲われ、床の上を跳ねまわる事になった小人達は更に酷い怪我をした。彼女が一歩歩くだけで床の上から5m近くも放り出されるのだ。それが彼女が歩くたびに何度も繰り返されるのだから小人たちにとっては災害のようなものだ。

綿棒を取ってきた私は綿棒の先端を咥え湿らせると、先端の部分を床の上で動けなくなった小人に押し付けた。綿棒を持ち上げると小人はそこにくっついたまま。想定通りだ。そうやってすべての小人を回収し手のひらに乗せてゆく。何匹かの小人は持ち上げたとき綿棒から床に落ちたり、綿棒を強く押しつけ過ぎたりして失敗してしまったが、他の小人は無事に手のひらに乗せる事が出来た。そのまま私は小人を人差し指の先に集め、箱庭の中に手を入れ、指を病院の前に持って行った。

「この子たちを治してあげて」

少しの間はあったがやがて小人が集まってきて指先にはしご車を掛け、指の上から傷ついた小人を降ろし病院に連れ込んで行った。それを見て私はほっと胸をなでおろした。


  *


暫くして私はベッドに座って雑誌を読んでいた。『小人チャンネル』。小人に関する最新の情報を乗せている雑誌だ。やっぱり新しい情報は知っておきたい。ペラペラとページをめくってゆく私。

そのシャルテの足の横には小人たちの街・箱庭が置かれていた。
辺30cm四方の正方形でその中に極小の街があり小人たちが生活している街だ。30cmとは言っても小人たちにすれば300m四方のそれなりの範囲。小さな住宅街なら丸ごと入ってしまう広さである。

そんな箱庭は今ベッドに座ったシャルテが床に降ろしている足の横に置かれており、街の小人たちにはシャルテの足を間近に見る事が出来ていた。この街の一辺の長さとほとんど変わらない大きさの足である。
肌色の柱にも見えるその荘厳にして巨大な脚は街のビルなどよるも遙かに高く続き、やがて膝を支点にして折れ巨大なるベッドの向こうに消え見えなくなる。
今、小人からはシャルテの足しか見る事が出来ない。太腿の途中から先はベッドの向こうに隠れ見えないからだ。だがそれでも、その巨人の少女の存在感は圧倒的である。
床とほぼ同じ高さの小人の街。巨大な足の存在感と相まって、小人たちは自分たちが少女にとって足元にも及ばない存在であると見せつけられていた。


以前、あの巨大女は戯れに我々をあの足に登らせようとした。
今みたいにベッドに腰掛け、床に降ろした素足に道具を使わずに登らせようとしたのだ。
実際、ほんの気まぐれか遊び心の衝動だろう。大した意味はなく、我々を傷つける目的も無かった。我々を使って遊びたかっただけなのだろう。
だが巨大女にとってはただの遊びでも、我々の心には凄まじい苦痛だった。
我々の目の前に鎮座した恐ろしく巨大な足。小さな丘か山ほどの大きさがある。事実、我々が普段暮らしているあの箱庭という名の街を、たった一踏みで壊滅させられる足だ。
その足が我々と同じ高さの床にズンと下されていて、更に、ひとつひとつが小さなビルほどの大きさもある巨大な足の指が我々の方に向けられている。
太さは12m、長さも30mはあろうか。ただ床に下ろされているだけのそれを、我々は見上げなければならないのだ。
太さの12mとは我々のビルの4階建てに匹敵する。つまりあの足の指はその太さだけでビルほどの巨大だということだ。
我々の身長が高々2mとして、数倍の大きさである。
幅にしてそれは道路三車線分と少し。この巨大女の足の指は、ただあるだけで道路を三車線も塞いでしまうのだ。
まだ若いあの巨大女は、その足の指だけで我々という存在の数倍の大きさがあるのである。
我々はこの巨大女にとっての底辺の、更にその底辺を這いずる存在なのだ。
何をするわけでもない。ただこの巨大女の足の前に立っただけで、人々の心は折れてしまった。

我々とあの足の指の間には50mほどの距離があるが、それでも、この床の上の世界にツンとした臭いが漂い感じられ始めていた。
あの巨大な足から香る、足の臭いだ。
酷く不快なわけではないが、それでも我々とあの巨大女ほどの体格差があると、醸し出される臭いの威力は凄まじいものとなる。
範囲が広く、周囲の空気すべてがその臭いに汚染されてゆくのだ。この足の周囲、どこで息を吸っても足の臭いが感じられた。
だが同時にふんわりとした石鹸の匂いも漂ってくる。巨大女が足を丁寧に洗っている証拠だった。以前、本人も言っていたが、我々と戯れるために色々と気を使っているとのこと。
それでも、足の臭いすべてを消すことは出来ないでいた。結局それは、このシャルテと言う巨大な少女から香る人間の匂いなのだ。

やがてあの巨大女は笑顔のままに我々に足に登るよう命じてきた。
百人近く集められていた我々は、臭いもその威圧感も我慢して巨大女の足に群がっていった。
この巨大な足の幅は90mほどもあり、ある程度近づくと、視界の端から端までをその巨大なつま先が埋め尽くしてしまう。
高さの大きさも相まって、目の前に肌色の巨岩が鎮座しているような光景であった。
近づくほどに、その圧倒的な威圧感が増してくる。
すでにその視界を足の指の一本の底辺で埋め尽くされるほどの距離まで近づいていた。
指紋がくっきりと見え始めていた。我々の身長はその指紋数本分の値でしかなかった。

近づいた何人かが、恐る恐るその巨大な指に触れた。
皮膚は硬く、我々が押そうが叩こうがびくともしなかった。全力で殴ったら拳が砕けてしまうかもしれない。
だが例え拳が砕けるほどの威力で殴っても、あの巨大女は自分が殴られたことに気づくだろうか。
この巨大女の足の皮膚が特別硬いのではない。我々から見れば、どんなに柔らかい肌も鋼のように無敵な強さを誇るのである。
肌はキメ細かい方だろう。相対的に1000分の1の大きさの我々から見てもそう感じ取れる。
触れれば女の体温がぬくもりとなって手のひらに伝わってくる。
これは証拠だ。
この巨大女がまやかしではなく生きた人間であると。
今我々の目の前にズンと鎮座し、今にも押し潰さんと凄まじい威圧感を放っているそれが、ただの少女の足の指であると。
最早巨大女の顔は見えない。我々に見えるのは、足の指の底面だけなのだ。

そしてこの巨大女は「足に登れ」と言ったが、最大の難関がその勾配である。
足の指も足全体も、底面は球形に丸まっており、登攀が非常に難しかった。
壁を上るのとも斜面を登るのとも違う、こちらに向かって倒れてくるそれに組みついて進むようなもの。
底面からだとまるで天井に組みつくようにして登って行かなければならない。
巨大女の丸っこい足の指は、その丸みだけで我々の是非を決めるのである。
我々の身長ではこの指の丸みすら踏破できないのだ。
何人かが肩車などで上に登ろうと試みていたが、高さ12mまでそれを届けるのは非常に危険だった。
何より、この巨大な指は微かに動くのだ。
巨大女にしてみれば大したことの無い、本人も気づかぬ震えにも満たない微動だろう。
だがそれだけの動きでも、組みついている我々を跳ね飛ばすには十分な動きだった。
壁が、山が鳴動するようなものだ。
肩車で登ろうものならあっという間に跳ね飛ばされて数m下の床に落下し大けがを負ってしまうだろう。
巨大な少女の微細な動きは、我々の生死を左右する天災のようである。

結局、何十人と居ながらも誰一人としてあの巨大女の足に登ることは出来なかった。
一番低い小指ですら高さは10mを超える。親指に至っては20m近い。
巨大すぎる人間の足は、我々地球人から見たらどう足掻いても踏破できない不可侵の存在だった。
最終的に巨大女は「足に登れ」という命令を取消し、我々を下がらせた。
遙か遙か上空、1000m以上もの彼方から見下ろす顔は笑っていた。
我々が指示に従えず足に登れなかったことを微塵も不快に感じていない。
つまり我々が足に登れようと登れまいとどちらでも良かったのだ。
我々を使って遊びたかっただけなのだろう。
指示通り登れれば楽しいし、登れなくてもその過程を見て楽しめる。
ほんの気まぐれの行為だったのだ。


そんな足がこの街の横に置かれている。
この街の住人のほとんどが知っている。知らなくても容易に想像できていた。
先の戯れもそう、これまであの巨大女に殺された仲間は数知れない。
悪戯に我々を弄んでは無作為にその命を奪い取る。
だがその結果そのものは巨大女の望むところではないのだろう。我々の死を認めると、ほんの少しだが残念そうな顔をする。
つまり我々の命は、巨人が無意識のうちに消してしまえるほど儚いものなのだ。

ふと、街が僅かに暗くなった。上空を何かが覆い影を落としたのだ。
同時に街中から悲鳴が上がった。
街の上空に、あの巨大な足が掲げられていたからだ。
巨大な片足の裏が街の空に現れていた。
この街を、きっちり半分踏み潰せる足だ。
その足の落とす影によって街は暗くなっていた。
その影に入った人々はこれからあの足が降下してきて自分たちを街ごと踏み潰す様を想像し恐怖した。
街はパニックになっていた。
人々は悲鳴を上げその小さな小さな箱庭の中を逃げ惑い始める。
この狭い箱庭では、どこに逃げようとあの足からは逃れられないと、理解するほどの理性も失われている。
足の影の中の人々が、必死にその影から出ようと走り始めていた。

この時のシャルテの動作は些細なものだった。
箱庭はシャルテの左足の横に置かれていた。
その時シャルテはなんの意味も思慮も無く、無意識に脚を組んだ。
右脚を左脚の上に乗せたのだ。
雑誌を読みながらの、本当になんとなくの行為だった。
左脚に乗せた右脚のその足が、偶然箱庭の上空に位置したに過ぎない。
その右足を見て地球人はパニックを起こしたのだ。
ペラリと雑誌をめくるシャルテは自分が脚を組んだだけで自分の箱庭の地球人たちが阿鼻叫喚に陥っているとは気づいていなかった。


  *


「う~…、これも欲しいな~」

私は開いたページに乗った写真を見て唸っていた。
そこには無数の建築物が聳え立つ箱庭を写した写真がある。
『大都市』の箱庭だ。『ビル群』などの箱庭をたくさん接続して大きな街を作り出したものである。
ただこういう箱庭は場所を取り、またいくつものセットを買って接続しなければならないのでちょっと金銭的にもキツイ。
私は写真に穴が開くほどじーっと視線を注いで、そんな大都市の箱庭の中に立つ自分の姿を想像した。
コビトくんたちにとってとっても高いビルが無数に建つ中に、そんなビルなんか膝にも届かない仁王立ちした私。うわー、とっても大きくなった気分。
コビトくんとは毎日遊んでるけど、それはやっぱり『私たちの世界』にコビトくんたちが来たみたいで、私が大きいっていうよりコビトくんたちが小さくなったような気分なんだよね。
一回『コビトくんたちの世界』に行ってみたいなー。

と、そんな事を考えていたとき、唐突にウォッチが反応を示しウィンドウが現れた。

「?」

目をやるとそこには友人のティファが映っていた。

『やっほーシャルテ!』
「あ、ティファ。おはよー」

ウィンドウの向こうでにかーっと笑うティファ。
後ろに纏めたポニーテールがティファの大きなアクションにふわりと揺れてる。
朝から元気だなー。
そう思って私はくすっと笑った。

「どうしたの? こんな朝に」
『んー、お散歩。シャルテんち寄ってってもいい? 近くまで来てるんだ』
「あはは、いーよ。鍵は開けとくから入ってきて」

「りょうかーい!」とウインドウの向こうのティファが言った。
ウインドウが閉じられると私はウォッチを操作して部屋の鍵を遠隔操作で解除した。
マンションの部屋のドアはオートロックで家主が開けるか認証コードが無ければ開かないのである。
私は雑誌から目を離し、ベッドに面した窓から外を眺める。
この部屋は14階の高さにあるので眺めは結構いい。部屋も広いし家賃も安いしお得な物件だった。まぁ家賃を払ってくれてるのは親だけど。
この高さからだと道を歩いている人がとても小さく見える。でも流石にコビトくんたちほど小さくは見えないな。それでも、顔なんか全然見えないくらいに小さい。
ティファはどの辺にいるんだろう。
私は窓の外から適当にティファを探してみた。

と、そのとき、

  ウィーン

「お邪魔しまーす!」

玄関の方からティファの声が聞こえてきた。
あ、もう来たんだ。
私はティファの行動の速さに苦笑した。
そしてパタパタと足音が近づいてきて、

  ガチャ

ドアが開けられた。

「来たよー!」

ドアを開けて入ってきたティファは「おいーっす」と片手を高く上げた。

「いらっしゃい。でも早かったね。もっとかかると思ってたよ」
「えへへ、もうマンションの入り口の前まで来てたからね」

ティファは笑顔で言った。
あ、そうなんだ。そりゃ早いはずだよね。窓の外見ても見えるわけなかったんだ。
私はくすくす笑いながらティファを見た。
そんなティファはテクテクと部屋の中を歩いてくる。

「ふぅ~っ。でも流石に疲れた~」
「どうしたの?」

私は汗を拭うような仕草をしたティファに問いかける。

「いやーこれもいい運動かなって思って、階段使って登ってきたからさー」

別に何ともないという風に言うティファだが、私はちょっと驚いた。

「え? でもここ14階だよ?」

そうこの部屋はマンションの14階にある。
ちゃんと半重力エレベーターだってあるのに。

と、驚いた私の先でティファはえへへ~と笑った。
ティファはこういう娘だ。ちょっとした気まぐれで妙なことをやっちゃう。
私はまた苦笑した。

「じゃあちょっと待ってて。なんか飲み物持ってくるから」
「あ。ありがと~。実は汗かいてのど渇いちゃったんだ~」

ワンピースの胸元をひっぱり、手を団扇にしてパタパタと仰ぐティファ。
そんなティファに手を振って答え私は部屋を出て行った。


  *


町の人々はこの町の主であるシャルテと同じ巨人がもう一人現れたことに驚愕していた。
巨人も自分たち小人と同じようにたくさんの数がいるのは知っていたが、今いる小人達は、シャルテ以外の巨人を見るのは初めてだった。
シャルテ一人でさえ街中の小人が翻弄されてしまうと言うのに、もう一人現れたらどうなってしまうというのか。
ワンピース姿でポニーテールの巨人は部屋の入り口からシャルテの居る方に向かって歩いてくる。

 ズシン!

 ズシィン!!

 ズシィィィイイイイイン!!!

揺れはこの町の機能で幾分軽減されるのだが、その巨大な素足が床に下されるたびに轟く凄まじい足音は防ぎようがない。
巨人は、町の住民達が自分の足音に悲鳴を上げて恐怖している事などまるで気づいていないようだ。
やがてその巨人は足を止め、あの世界を打ち鳴らしていた巨大な足音も止まった。
小人達からは、町を囲う透明な壁の向こうに、広大な床という何もない大地を踏みしめて聳え立つ巨大な二本の脚を見る事が出来た。
肉の着き加減もバランスのとれた美しい生脚は遥か上空のワンピースのスカートの中にまで続いておりその先までは見えなかった。
巨人たちは雷鳴のような凄まじい音量の声で楽しそうに会話している。
巨人たちが笑うと町の小人達は再び耳を押さえて悲鳴を上げた。


  *


「へ~これがシャルテの街かー」

ティファが私の箱庭を覗き込んで観察している。
こう見えてティファは小人関連の知識は豊富だ。

「あれ? 一部の小人、なんか慌ててるね。もしかして『ブランク』?」

『ブランク』とは刷り込みを行われていない小人の事だ。
見た目は同じなのに、ちょっと観察しただけでその違いが判るのか。

「うん。そうだったみたい。見ただけでよくわかるね」
「えへへ~。ほらあたしって結構小人飼ってるからなんとなく違うのがわかるんだよね」

ティファがこっちを向いて「えへへ」と笑った。
確かにティファはかなりの数の小人を飼っていたはずだ。私も特売とかで買った小人を分けてもらったことがあったっけ。

「ねぇ、この街には小人何匹くらいいるの?」
「うーん…2千匹くらいじゃないかな。ほら前にも話したけど、私、箱庭を蹴っ飛ばしちゃったことがあるから、今はあんまり増やさないで少なくなったら新しいの買うことにしてるんだ」
「そっかー。でもいっぱいいると楽しいよ?」

と、ティファは言った。
確かにたくさんいると楽しいだろうし私もたくさん飼いたい。
でもそれなりの数の小人を飼おうとするともっとたくさんの箱庭も必要になるだろうしそうするとお金もかかる。
小人だけなら安く買えても飼う場所がないんじゃしょうがない。
中にはビンや靴の中で飼う人もいるみたいだけど、やっぱりちゃんとした町を用意してあげたいよね。

そんな事を考えながら私は、床にペタンと座って私の箱庭を覗き込んで「へー」とか「ほー」とか言ってるティファを見た。
そう言えば、ティファってどのくらい小人飼ってるんだろう。

「ねぇ、ティファって箱庭何個くらい持ってるの?」

ほえ? と言った感じでこちらを向いたティファは頬に指を当て「考えてるよ」ってポーズをしながら答える。

「うーん…10個くらいかな」
「10個!? 多いね!」

私はちょっと驚いた。

「うん。小人が小っちゃい町の中で生活してるの見るのが好きなんだ。一個一個町のパターンを変えて小人がどんな風に違う生活の仕方するのか見たり」

ティファは同じ小人達でも山と海では生活の仕方が違うだとか小さな建物と大きな建物では住む小人に偏りがあるなどを話した。
私は驚いていた。
小人にも私達のようにちゃんと環境に順応する力があった事と、そんな事がわかるほどに小人を観察しているティファにだ。

「すごいね…小人博士になれるんじゃない?」
「あはは! それ面白そうだね!」

私が真顔で言うとティファはけらけらと笑った。


  *


小人達はこの新しく現れた巨人が町の上空を埋め尽くすほどに巨大な顔を近づけて来るのに恐怖していた。
町の上空が顔に覆われ薄暗くなる。まさかこのままその顔で押し潰してしまうつもりなのか。
その巨大な顔がにっこりと笑った。
巨人がこういう笑い方をするときは必ずなにかある。
この町の主であるシャルテがそうだからだ。
今朝も何人かの住人を連れ出し、あの巨大な足で踏み潰そうとした。
それは潰すフリだったようだが、結果的にはその「思い付き」のせいで数人が死亡している。
彼女はいつもそういう「思い付き」で我々を弄ぶ。自分の行為に我々が必死で慌てふためく様を面白がっているのだ。
そして、大抵の場合「犠牲者」が出る。
今朝の様に数人で済む事もあれば数十人数百人という恐ろしい規模になる事もある。
巨人達の「いたずら」は人々にとって恐怖でしかなかった。

故に町の小人達は皆が死の恐怖に怯えながら町の上空を埋め尽くす巨大な笑顔を見上げていた。
今度は何人殺されるのか。次は自分の番ではないのか。
恐怖が焦燥感を呼び人々を奔走させる。
だが彼らに逃げられるのはこの町の範囲だけだ。
そしてこの街はあの巨人がその気になればひょいと手に持ち上げる事の出来てしまうのだ。
どれだけ逃げようと、どこに逃げようと、巨人からは逃げられないのだ。

と、その時あの町の空を覆っていた巨大な顔が遠ざかっていった。
同時に、その巨人が立ち上がった。
町の目の前で巨人が立ち上がった事で街全体が地中に沈み込んでゆくかのような錯覚を覚えた。

巨人は立ち上がると片足を持ち上げこの町の上に翳した。
これまで町を見下ろしていた笑顔が、巨大な素足の裏によって遮られる。
そしてその足が、ゆっくりと町に向けて降下してきた。
小人たちは大混乱に陥った。巨大な足が町の空を埋め尽くさんばかりに迫ってくる。
実際には巨人の足よりも町の方が大きいが、その足が踏み下されれば町の半分近くがその下敷きになり、次いで発生した被害は敷地の8割近くに迫るだろう。
それはそこに住む2千の小人の内の1600が犠牲になる値だ。
1600もの人間が、巨人がただ足を下ろしただけで命を落とす。
小人たちは逃げ場のない箱庭の中を必死に逃げ回った。

足はすでに町の中に侵入してきていた。
縦に下されてきた足はつま先を下にし、ビルとビルの谷間に差し込まれるようにゆっくりと降下してきた。
ビル内部にいた人々は、本来なら対岸のビルが見えるはずの窓の外の景色が、肌色の指先に埋め尽くされてゆくのを見た。
このままゆくと真下を向いた巨大な足の指たちはビルの谷間の大通りに突き刺さり道路を破壊するだろう。
そこを逃げていた人々は既に間近に迫ったその超巨大な足の指の作り出す影に入り、そこから逃げようと大パニックを引き起こしていた。

しかしその指は道路に突き刺さりはしなかった。
道路から30mほどの高さで停止した指はそれ以上動くでもなく、そのまま固定された。
それでも人々は目の前に下りてきている巨大な指の恐ろしさに逃げるのを止めようとはしなかった。

そんな人々は、ふと、自分達の吸っている空気に異常が現れた事を悟る。
奇妙な臭い。ツンとするような臭いが空気に入り混じり始めていた。
その町の小人の誰もが理解した。これはあの巨大な足から醸し出される足の臭いだ。
汗の匂いの混じった足の臭いが、その体温で暖められた生温かい空気と共に箱庭の中に広がり始めたのだ。
逃げ遅れたり近所に潜伏していた小人は、周囲に充満したむわっとするような空気と香りに鼻を押さえてむせこんだ。
あっという間に何十匹もの小人が足の臭いの虜となる。

決してティファの足の臭いが強烈だという事ではない。
もちろんビルの14階を駆け上がってきて汗を掻き多少の汗臭さがあることは否めないが、問題の本質はそんなところではない。
ティファから見てゴマ粒ほどの大きさでしかない小人たちに彼女たちの臭いは強力すぎるのだ。
相対的に1千分の1の大きさしかない小人たちの嗅覚にとって1000倍のティファの足の臭いは凄まじい威力だった。
小人の敏感な嗅覚に、巨人の臭いは強すぎるのである。
故にちょっとした足の臭いでもむせ返るほどに強烈なものに感じられてしまう。

逃げ遅れた人々がパニックを起こす道路の上に恐ろしく巨大な足の指が停止している。
醸し出される足の香りに巻かれ更に多くの小人が鼻を押さえうずくまりのた打ち回る。

直後、その巨大な足の指が動いた。
前後のビルに触れぬようゆっくりと、足の指がくにくにと動き握ったり開いたりしたのだ。
するとそれまで足の指周辺にしか漂っていなかった臭いが更に広範囲へと広がっていった。
足の指の動きによって巻き起こされた突風がその臭いを乗せてビルの谷間を吹き抜けてゆく。
ゴウ! という音と共に吹き付けてきた風に小人たちが体を強張らせると同時にその醜悪な香りが彼らを包み込んでいった。
これだけのせいで、ティファが足を入れている街の中心部付近はその足の臭いに巻かれ地面を転がり悶える小人が続出した。


  *


立ち上がったティファのいたずらであたふたする小人たちをウィンドウ越しに見て私はくすくす笑った。。

「コビトくんたち驚いてるね。よっぽどティファの足が怖かったんだ」

私の笑う前で箱庭から足を抜いたティファが自分の足を見る。

「うーん、やっぱり汗臭かったかな~。シャルテの小人に悪いことしちゃった」

言うとティファはバッグから消臭用のスプレーを取り出しそれを体の各所に吹き付けていった。
小さなスプレーがシュッと音を立てると私の鼻にも微かに花の香りが届いた。
いい香り。心が安らぐ気がする。
でもこのいい香りでもきっと小人くんには刺激が強すぎるんだろうなー。鼻がいいって言うか、きっと繊細なんだと思う。

でもティファって器用だな。私だったらバランス崩して足下しちゃうかも。
そんな事になったらただでさえ少なくなった小人が更に少なくなっちゃう。
まぁ買い足せばいいんだけど。

私はティファの横に置かれている箱庭に目を向けた。
箱庭の横に立ってスプレーを吹き付けているティファの足と比べると、改めて箱庭って小さいと思う。
自分の足と比べるときよりも他人のそれと比べたときの方がなんか客観的っていうか、他人の視点でよくわかる。
箱庭は私たちが両足を並べて入れる程度の大きさしかないけど、そこには2000匹もの小人が入ってるんだ。
ってことは私達が一人立ってようやく入れる広さに小人2000匹が入れるってことだよね。
うーん、やっぱり小人って小さいなー。

「どしたの? シャルテ」

ティファに声を掛けられて、ティファの足と箱庭を見比べていた私はハッと思案から引き戻された。

「ううん、なんでもない。やっぱりコビトくんって小さいなーと思って」
「だよねー。こんなに小さいのに私達と同じヒューマノイドってビックリだよねー」

ティファは笑いながら言った。
実際ビックリだ。こんなに小さいのに私達人間と同じ形してるなんて。
言葉を理解できる程度の知能もあるし、すごい原始的だけど文明っぽいのもあるみたい。
こんな小さな文明が見渡す限りに広がっていてそこにはたくさんの小人が暮らしている地球。
あーあ、一度行ってみたいなー。

と言う事を考えてたらティファが話しかけてきた。

「あ、そうそう。これからアンジェと出かける事になってるんだけどシャルテも来る?」
「え? どこ行くの?」
「セントラルパーク。あそこにできたアイスクリーム屋さんがおいしいって評判なの! そのあとはモールでショッピングかなーって考えてるけど」

「うーんと」と言いながらティファが答えた。
アイスクリームとショッピングかー。新しい箱庭セットとかも見てみたいし、行こうかな。

「うん、私も行きたい」
「やった! じゃああたし外で待ってるね!」

言うとティファは立ち上がりスタタタッと部屋を出て行ってしまった。
元気だなー。私はティファの出て行ったドアを見てくすくす笑った。

さて、とベッドから立ち上がった私は足元の箱庭を持ち上げると中を覗きこんだ。

「コビトくん、ちょっとお出かけしてくるからお留守番お願いね」

そう言って机の上に箱庭を下した私は出かける支度を始めた。