結論から言えば怪獣は来ている。
「地球に怪獣が来ない」というそもそもの前提が間違っているのだ。
怪獣は毎日のように地球侵略を目指してこの青い星にやって来ている。

だが、地球にある程度近づくとフッと姿を消してしまう。
その場所が地球人の監視網の限界の外なので地球人には怪獣が飛来していることを察知できないのだった。

さて、ではその怪獣たちはどこに消えたのか。


  *


自分の部屋でやや前かがみになるようにして椅子に座り、自分の足を下している床を見下ろしている少女。
床の上には少女の足の指ほどの大きさのものがいくつもうろうろしている。
虫ではない。そりゃ虫みたいなのものいるがただの虫ではない。
それらはすべて、モノホンの怪獣だった。

少女が地球圏の外枠に張った結界に侵入した怪獣たちだ。
彼ら(?)は本来100~200mという超高層ビルサイズのとんでもない巨大怪獣なのだが、今床の上にいる怪獣たちは体長1~2cmという豆粒サイズである。
侵入してきた怪獣を縮めて自分の部屋の虫かごにワープさせる。これが少女が結界に組み込んだプログラムだ。少女の部屋の棚にはいくつもの虫かごがあり、そこには捕まえた宇宙怪獣たちがジャンルごとに分けて入れられている。
宇宙怪獣たちの力を以てしても破る事の出来ないただの虫かごだ。

少女は自分の足元を右往左往する小粒のような怪獣たちを見下ろしてにやにやと笑っていた。

「くく、今までいろんな星で好き勝手暴れてた怪獣たちが、随分と大人しくなっちゃったわね」

ミニスカートから伸ばされた足を床に降ろし、両腕を脚の上で肘を立て、手のひらの上に顔を乗せて床を見下ろしている少女。
怪獣たちにとっては自分たちよりも大きな存在と言うのは前代未聞だった。
だからこそこれまで好き勝手暴れてこれたのだ。
星ひとつを壊滅させてやったことだってある。
しかし今、目の前には、そんな強大な自分と同じくらいに大きな足の指がずらりと並んでいる。
素足の少女の先のぴょこんとした足の指だ。
だがその指の一本一本が怪獣の全長の倍ほどもある。
つまりは、片足に指が5本として、少女の足のつま先には、怪獣より巨大な足の指が10本も付いているということだ。
少女のつま先だけで、怪獣10体以上の戦闘力がある。
いったいどういうことよ。

今、少女の目の前にいる怪獣たちは捕まえたばかりのものだ。
まだ自分のおかれている状況が呑み込めていないのかもしれない。
逃げようとはせず、こちらに対して威嚇してきている。

足もとの、指先ほどの大きさしか無い怪獣がこちらを向いてピーピー鳴いている様はとてもかわいらしく、滑稽だった。
それが威嚇であるということは、少女も経験で分かっていた。

「じゃあこっちもおかえし。がおー」

言いながら少女は怪獣の前の足の指をガバッと持ち上げた。
それだけで怪獣は怯んでしまった。
目の前に並んでいた巨大な足の指は、一気に、巨大な怪獣であるはずの自分を見下ろせるまでに首を擡げたのだ。
少女が持ち上げた足の指に、怯える巨大怪獣。

そんな様を見て少女は笑う。

「ふふん、あたしがちょっと足の指を持ち上げただけでこんなに怯えちゃって。もし今足全部持ち上げてたらひっくり返っちゃったかしら」

少女は足の指をパタパタ上下させた。すると怪獣の動きが目に見えて鈍ってくる。完全に怯えていた。
じりじりと距離を取りながら頭を低く下げてゆく。
敵意はあるのだろうが、闘争心が萎えているのだ。
他の数匹は腹を見せて転がった。完全な服従のポーズだ。

つま先の前、指先ほどの大きさの怪獣がお腹を見せてコロコロ転がるのを見て少女は優越感に満たされていた。

「だから宇宙怪獣って好きよ。今まで宇宙最強だって思ってたのに、それがあたしのつま先にも勝てないんだもんねー」

少女は足を僅かに動かし、その足の親指を、腹を出し転がっている怪獣の上にそっと乗せた。
加減しているので潰しはしないが、それでも怪獣にとっては相当な重圧がかかっているはずである。
何より少女からは、怪獣の姿は自分の足の指の下に完全に隠れてしまい全く見えないのだ。
その怪獣や、それを見ていた他の怪獣たちが悲鳴を上げたが、少女は構わず乗せた足を動かし指の下の怪獣をコロコロと転がして弄んだ。

「ほらほら、逃げてもいいんだよ? 女の子の足の下で転がされるのって嫌だもんね」

だが言葉とは裏腹に、怪獣に乗せられた足の指の微細な力加減は、怪獣をギリギリだが絶対逃がさない重圧をかけていた。

 ボォォォオオオオオオオ!!

そうやって怪獣を弄んでいた少女の足に、激しい炎がぶつけられた。
そちら目を向ければ、つま先の前にいた別の怪獣がその口から真っ赤な炎を吐き出している。
つま先の前にいるこの捕まえたばかりの怪獣の中で、唯一闘争心を燃やしていた怪獣だ。
その激しい闘争心は、遂に炎のブレスとなって少女の足にぶつけられたのだ。

だが少女にダメージは無かった。
少女は右足で怪獣を弄んでいて、怪獣の炎は足の小指辺りにぶつけられているのだが、実際、熱くも痛くも無かった。
暖かいそよ風が当たっているような感触だ。
あまりにも優しい当たり心地にくすぐったく、指がむずむずしてきてしまう。

攻撃された少女に怒りの兆候は見られず、むしろその悪戯的な笑みを更に輝かせ満足そうに頷いている。

「うんうん、やっぱり怪獣はそうでなくっちゃね。でもその程度じゃ全然効かないな~」

少女は、踏んでいた怪獣の上から足をどけ床に戻し、そして座ったまま身を屈め、炎を噴いている怪獣のしっぽを摘まんで持ち上げた。
怪獣の全長はしっぽまで含めれば300mはあるだろう。二足歩行の恐竜の様な姿だ。日本なら馴染み深いかも。
だがそんな巨大怪獣も今は3cmと、少女の指の半分ほどの長さしかない。
相対的に自身の体長の倍の長さのある巨大な指にしっぽを摘ままれ、宙釣りされて体感で数千mもの上空に攫われてしまった。

左手は先ほどまでと同じように頬杖を着き、その顔の前で右手に摘まんだ怪獣をぶらぶらと揺らす少女。

「ふふ、悔しかったらなんとかしてみなさいよ、ほら」

くすくすと笑う少女の顔の前で、宇宙の暴君とも言える怪獣が悲鳴を上げて揺さぶられている。
これまでいくつもの星を蹂躙してきた怪獣にとって、これほど屈辱的なことは無かっただろう。
目も回るほど激しく揺らされながら、怪獣は少女に向かって渾身の炎を吐いた。

 ボォォォオオオオオオオ!!

数々の星を焦土と変えてきた地獄の炎が少女の顔に届く。
だが、

「あはは。やったわね」

やはり少女にダメージは無く、少女はにかっと笑って怪獣を見返した。

「お返しよ」

息を吸い込んで、「ふぅー」と吹き付ける少女。
その吐息で怪獣の炎は一瞬でかき消され、更に少女の吐息は怪獣にとっては凄まじい突風となって襲い掛かった。
強靭なその外皮があっという間にズタズタになってゆく。
全身が、強すぎる風を受けバラバラになってしまいそうだった。
薄紅色のすぼめられた唇の間から噴き出してくる風は、僅かにミントの香りがした。
少女は軽く息を吹き付けているだけだが、怪獣から見るそれは大気が轟轟とうねりを上げ竜巻が直接ぶつかってくるような凄まじい空気の渦である。
少女の巨大な指に摘ままれたしっぽだけが体を支えてくれていた。自身の巨体が、風にあおられてバタバタとはためいていた。まるで突風にあおられた風鈴のように、激しく揺れ動いていた。

そしてその少女の吐息に、遂に耐えられなくなった。

 ぶちっ!

あまりに凄まじい少女の吐息と、それに揺さぶられる自身の重さに耐えられなくなったしっぽが千切れてしまったのだ。
怪獣はそのまま少女の息によって彼方に吹っ飛ばされてしまったが、これは流石の少女も予想外だった。

「あ! 大変!」

怪獣が飛んで行ってしまった瞬間、少女は椅子から立ち上がり、前に駆け出し怪獣に手を伸ばしていた。
ほんの3歩。一瞬の出来事。少女の運動神経の良さがここで生きた。
飛び出した少女は吹っ飛んで行った怪獣が床に落下する直前に、その手のひらに受け止めていた。
まさに刹那の早業であった。

「ふぅ…よかった…」

少女は安堵の息を吐き出した。
まさか軽く息を吹き付けただけでしっぽが切れ飛んで行ってしまうとは思わなかった。
手のひらの中で小さな小さな怪獣がうずくまっている。とりあえず、生きてはいるようだ。
ほっとする少女。

だが同時にハッとそれに気づき、足元を見下ろしてみる。
そこにはまだ他の怪獣がいたはずだが、この騒ぎの瞬間はそんなこと完全に頭から吹っ飛んでしまっていた。
何も考えずに前に飛び出してしまった。
見下ろすと、最後の一歩である左足のほんの2cm横に、足の小指ほどの体長も無い一匹の怪獣が転がっていた。
命はあるようだが、あまりのショックに気絶してしまったようだ。
目の前に下された少女の遠慮の無い巨大な足は、小さな怪獣にはとんでもなく衝撃的だったのだろう。
実際、あとほんの少し、自身か、足の位置がずれていたら、結果は完全に最悪の物だった。
怪獣は泡を吹いて気絶していた。
少女が更に周りを見ると、他の怪獣たちもなんとか無事の様だ。
一応足の裏も見てみるが、踏み潰してしまった者はいない。
少女はもう一度安堵の息を吐き出した。

「でも君には悪いことしちゃった。ごめんね」

少女は手のひらの中の怪獣を見下ろした。そして右手にはその怪獣のしっぽが摘ままれていた。
大事なしっぽを千切り取ってしまったのだ。

「絆創膏で治るかな…。んーでもこの大きさだとスマキになっちゃうし…」

そうやって思案を巡らせながら少女は怪獣を手に乗せたまま部屋を出て行った。
少女の巨大な足が床に降ろされるたびに、その凄まじい揺れで怪獣たちは床の上を跳ね回った。


  *


部屋に戻ってきた少女。
手のひらの上には、しっぽを包帯で繋がれた怪獣が乗せられていた。
はさみとピンセットで細かく刻んだ包帯で、傷口に薬を乗ったしっぽを繋ぎ止めているのだ。
人間の薬が怪獣に効くかはわからないけど。

そうやって部屋に戻って来ると、床に残してきた怪獣たちが何やら騒がしい。
何かを囲んで鳴き声を上げている。
なんだろう? よく見えない。
少女は手に乗せていた怪獣を横の棚の虫かごに入れ、床の怪獣たちに近寄りしゃがみこんで見下ろしてみた。

「どうしたの?」

そうやってしゃがみこむと、怪獣たちは皆少女の作る影に入ってしまった。
たった今まで何かに対して勇ましく威嚇をしていた怪獣たちだが、その少女が現れた途端一気に大人しくなってしまった。
これまでの内に、少女の圧倒的な力強さに太刀打ちできない事を完全に理解していた。
刃向う意味は無い。
全力の抵抗も、少女にとっては抵抗足り得ないのだ。

「…あれ?」

ふと、少女は気づいた。
怪獣たちが何かを取り囲んでいる事に。怪獣たちと一緒に自分を見上げてくる存在に。
あまりにも小さくて遠くからでは見えなかったのだ。
怪獣と一緒に、少女を見上げて驚く存在がそこにいた。

「なにこれ?」

しゃがみこんだ少女の足元の怪獣の、更にその足元にいる体長4mmほどの存在。
体が光っているようにも見える。
少女はもっと間近で観察してみようと手を伸ばしたが、少女の指が近づくとその小さな存在は宙に飛び上がり少女の手を避けた。

『な、何をするんだ!』

突如、少女の頭に声が聞こえる。

「な、なに!? 声!?」

慌てて立ち上がり周囲を見てみるが、誰もいない。
するとまた声が聞こえてきた。

『うわぁぁああああ! 突然動かないでくれ! す、すごい風だ…!』
「ちょっと! どこにいるのよ! いるなら出てきなさい!!」
『ここだ! 君の目の前にいるぞ!』
「え?」

少女は視線を前に戻した。
そしてそこには、あの光る4mmの何かが浮いていた。

「まさか…コレ?」
『そうだ。……な、なんとも巨大な…』

その光り輝く存在は目の前の光景を埋め尽くす少女の超巨大な顔に気圧されていた。
本来、この光る者は体長が40mという巨人だが、その巨人は、巨人であるはずの自分など毛先ほどにしかならない途方も無い巨人の少女を前に唖然としていた。

「い、いったいなんなのよ、あんた」
『私はこの宇宙の平和を守る宇宙警備隊の者だ。この地球と言う星に凶悪な宇宙怪獣が侵略を仕掛けてきているという報告を受けやってきたのだが…もう少しで地球に到着するというところで妙な力場に巻き込まれ、気が付いたらここにいたというわけだ』
「へぇ、あんたも結界に引っかかったんだ。で、あんた、この怪獣たちを退治しに来たってわけ?」

言いながら少女は足元を指さした。
少女の足の周りでは、怪獣たちが少女と光の巨人のやり取りを見上げ見守っている。
少女の言葉に、巨人は頷いた。少女にはわからなかったが。

『そうだ。奴らはこの宇宙の平和を乱す。なんとしても退治し駆逐しなければならない』
「でも、あんたさっき苦戦してたじゃない。体だってこいつらの方が大きいし。勝てるの?」

少女は足元の怪獣を一匹摘まみ上げ光の巨人の前に差し出した。
先ほどの失敗もあるので今度は慎重にだ。
光の巨人は、自身の5倍近い体長の怪獣を目の前に突き出されて思わず怯んだ。
悍ましい怪獣は今にも食らいついてきそうな凶悪な形相だが、より恐ろしいのは、そんな凶悪な怪獣を2本の指でちょいと摘まんでいるこの少女である。
光の巨人はややうろたえながらも怪獣の影から少女の前へと出る。

『も、もちろんだとも! 我々は宇宙の平和を一身に受ける宇宙警備隊だ。どんなに凶悪な怪獣が相手であろうと決して負けはしない!』
「ふーん。じゃあちょっと戦ってみる?」

少女は摘まんでいた怪獣をもう片方の手である左手に乗せ、その手を光の巨人の前に差し出した。

「はい、どうぞ」
『…』

光の巨人の前に差し出された、途方も無く巨大な手。
その手の平の上には巨大な怪獣が嘶きながら佇んでいる。
…この手の上で、怪獣と戦えと言うのか。
確かにそれだけの広さはあるだろう。
手は、指先から手の付け根まで含めば大きさは千数百mはあるのだ。
この星で言えば、住民たちの住宅街を丸ごと乗せてしまえる大きさだろう。
指は太さ120mほど、長さも700mはあろうか。
その太さは光の巨人の身長の3倍もある。長さは20倍近い。
この少女は、指だけで宇宙の警察たる光の巨人の数十倍の大きさなのだ。
その手のひらの上には、星さえも壊滅させる巨大怪獣がちょんと乗せられている。
怪獣の恐ろしさもその重さも、少女は微塵も感じていないようだ。
ひとりの少女の手のひらの上で怪獣との決戦。
それは光の巨人にもためらいが生まれることだった。

『し、しかし、それでは君にも危険が…』
「あんたやこんなちっちゃい怪獣が暴れたくらいで怪我なんかしないわよ」
『…』

少女の言葉に嘲りは無い。
言っている事は、ただの事実だ。
仮にこのまま本当にこの手のひらの上で怪獣と光の巨人が死闘を繰り広げたら、少女はあくびでもしながら観戦しているに違いない。

「っていうか、あんたこの怪獣たちが地球に来るって知って来たって言ったわよね。だとしたら遅すぎ。これまで何匹来たと思ってるの?」

少女は足元にいた他の怪獣も手のひらに乗せ、棚に向かって歩いてゆくと虫かごの中に怪獣たちを下した。
いくつかある虫かごの中にさまざまにジャンル分けされた怪獣のその総数はすでに30匹を超えていた。

「こんなにたくさんの怪獣がそのまま地球に来てたら地球なんかもうとっくに無くなってるわよ」
『こ、今後は我々も常時警戒するのでどうか安心してほしい』
「どうかしら。あんな怪獣一匹に手こずってたくせに」

じろりと睨む少女の視線の、その大きさもあって凄まじい威圧感を受け巨人はタイマーが点滅しそうなほど強烈なプレッシャーを受けた。

『と、とにかく、君が確保してくれた怪獣たちは私が責任を持って宇宙刑務所に連れてゆこう。これでもう君もこんな凶悪な怪獣たちをそばに置かなくて済む』
「は? 連れてく?」
『そうだ。いずれも凶悪にして凶暴な宇宙怪獣。宇宙刑務所に入れ永久に出られないようにするのが宇宙の平和の為だ』

そう言って光の巨人は怪獣たちの入った虫かごに向かって飛んで行ったが、その前方を、あの巨大な手のひらが遮った。

「ちょっと待ちなさいよ。あの子たちはあたしが捕まえたものなのよ。勝手に連れて行かないで」
『な、何を言っているんだ! あれは宇宙怪獣だぞ! 君みたいな素人の手には負えない!』
「えー。でも怪獣一匹に苦戦するプロの人にあんなにたくさんの怪獣を連れていけるのかな? 素人のあたしは普通にできたけど」
『ぐ…、とにかく! あの怪獣たちは我々宇宙警備隊が預かる。それと、今後もう二度とこういう事はやらないように。今回は大目に見るが、本来、こうやって空間に穴を作って次元を歪めるのは宇宙法に触れる犯罪なのだ』
「ちょ…! なによそれ!! その宇宙の平和を守るあんたたちが役立たずだからあたしがやってるんでしょ!! 肝心な時に来ないくせに、後から来て偉そうにしないで頂戴!!」

少女の剣幕は光の巨人を大きく吹っ飛ばし、虫かごの中の怪獣たちを震え上がらせた。

『ぶ、無礼な! 我々宇宙警備隊とてすべての銀河をマークできているわけではないのだ! それでも少ない人員を割いて全宇宙の安全の為に日夜休むことなく戦い続けているのだぞ! 君は我々がどれほど多くの星を救ってきたか知っているのか!?』
「そんなの知らないわよ! なに? あんたたちは自分たちの都合で守る星を決めてるわけ!? 守れなかった星は仕方ないって言うわけ!? 半端な仕事して、それでそんなに偉そうにしているの!?」
『なんだその言いぐさは! 我々が身を粉にして怪獣を退治しているからこそ君たちは平和に暮らせているというのに!! それに君は宇宙的大罪を犯した犯罪者なんだぞ! 怪獣を抑え宇宙の平和に貢献したからこそ特例的に見逃してやるんだ! しかしあまり無礼が過ぎるなら特例を取消し逮捕するぞ!』

 ドン!

突如、光の巨人の視界が真っ暗になり、そう思った瞬間には巨人は凄まじい衝撃を受け、数万mもの距離を超高速で移動していた。
そしてその勢いのままに床にぶつかり、意識を失いそうなほどのダメージを受けた。
少女が、目の前に浮いていた巨人を叩き落としたのだ。

「誰を逮捕するって? やってみなさいよ、このチビ」

少女は床に叩きつけられ弱弱しく輝く光の巨人を見下ろして吐き捨てる。

「あんたたちがもっとちゃんとしてたら、あたしも犯罪者にならなくて済んだんじゃないの? 自分たちの無能を棚上げして、それで自分の星を守ってたあたしを犯罪者呼ばわりするってどうなのかしら?」

少女は片足を持ち上げ巨人の上にかざした。
巨人から見れば全長2400m幅900mの超巨大な足である。
今の少女は巨人の感覚では1万倍の大きさであり、これは宇宙史的にも例を見ない途方も無い大きさであった。

少女はそのまま足を下し、巨人を、その足の親指の下敷きにした。
巨人の体に、幅200mはあろうかという巨大な足の指がずしんとのしかかってきた。
彼の数百倍の重さはあろうかという足の指だ。
少女としてはただ指を乗せただけだが、巨人は今にも潰れてしまいそうだった。
少女にすれば巨人の身長はたった4mm。本来なら高層ビルほどもある巨人も、今の状態では少女の足の指の指紋数本分の大きさでしかない。

「ほらほらどうしたの? あたしを逮捕するんでしょ? ねー、ただでさえ大犯罪者なのに宇宙の警察のあんたをこんな風にいたぶってるんだからそりゃもう凄い極悪人よねー。そりゃ逮捕しなきゃダメよね」

親指の下に、小さな小さな巨人が微かに動いているのを感じる。
まるで蟻を押さえつけてるような感覚だ。

「あの怪獣たちを倒せるって言ったわよね? でもあたしの足の指はどけられないの? それってあたしの指が怪獣よりも強いってことかしら?」

押さえつける足の指に僅かに力を込めると、その指の下の巨人の動きが激しくなった。
実際、怪獣ですら軽く弄んだ足の指だ。その怪獣に苦戦する巨人に抗える存在ではない。

少女は足の指を上下させた。
床に倒れこんでいる巨人の上に、足の指が何度も振り下ろされる。
ずしん。ずしん。
指が下されるたびに巨人の体はどんどん潰れてゆく。すでにタイマーなど消滅し、完全に力尽きていた。
それでも力溢れる彼らの体は消滅せず、最後にはペチャンコになって少女の足の指の裏にへばりついていた。

「へ? もう終わりなの?」

それに気づいた少女は椅子に座り、足をもう片方の脚の太ももの上に乗せ、指の裏にへばりついている巨人を見下ろした。

「あっきれた、よくそんなんで宇宙の平和を守るとかエラそうなこと言えたもんね」

ペチャンコの巨人を指からペリペリと剥がし目の前にぶら下げてみる。
少女の吐息にさえひらひらと揺れるそれは完全にのしいかだった。
このまま丸めて捨ててしまってもよかったが、とりあえずとっておこう。
100均で買ってあった小さなケースの中に入れ棚の隅に置いた。

「宇宙的な大犯罪者か~…全然実感ないけど。ま、あんなチビな警察なんて何匹いたって怖くないし、どうでもいっか」

少女はん~っと伸びをすると下着とパジャマを手にし、水生型の怪獣の虫かごに手を入れた。

「今日はどの怪獣で遊ぼうかな。お湯に入れても大丈夫な子って結構少ないんだよね」

言いながら少女は何匹かの怪獣を手に取り、鼻歌を歌いながらお風呂へと向かって歩いて行った。



おわり

久々だとgdgdだ。