第2章.「成長」
そして楽しい一年が瞬く間に過ぎ、照和4年(皇紀2589年)12月31日、 卒業生歓送の「全校相撲大会」の日になりました。この日、卒業生の内の徴兵検査甲種合格者及び在校生の内でも甲種合格のレベルに体格が達している者が選手に選ばれ、町の本校で総当り戦を行うのです。選手だけでなく分教場の児童全員、いえ、村人の大部分が応援に駆けつけます。村の分教場から、優勝者を出すことは村の誇りなのです。
「サクラちゃん、こうやってたまに歩くのも良いものね。景色がユックリ見えるわ。」
「そうね、サクコちゃん、人力車で行くよりも、こうやって歩いて行く方が楽しいわよ。」
今日の相撲大会は正式な軍事教練の課程に入っていますので、人力車で本校に行く事は許されません。歩く事も軍事教練の一環なのです。町の本校まで凡そ4里、徒歩で4時間の道のりです。私達は提灯を持って雪の積もった道を深夜から歩き始めていました。
「兄上、具合はどうですか? もし、寒かったら毛布をお掛けしましょうか?」
数日前から風邪気味で余り具合の良くないケンイチちゃんは、サクラちゃんに負ぶわれているのです。
「うん、調子は良いみたいだ。 こうしてずっと負ぶわれている訳にはいかない。僕も自分で歩くよ。」
そして、サクコちゃんはケンイチちゃんを降ろして三人で歩き始めましたが、百メートル程、歩くうちに、ケンイチちゃんは、息を荒くし始めました。
「兄上、やっぱり負ぶいましょうか?」
「いや、相撲大会の日に妹に負ぶわれて学校に行ったら・・・我が家の恥・・・・。」
「では、妹ではなく、婚約者に負ぶって貰えば良いのですわ。」
そう言うなり、サクコちゃんは、ケンイチちゃんを抱き上げて、私の背中に負ぶい紐で括り付けてしまったのです。ちなみに、ケンイチちゃんと私が「婚約者」というのは、サクコちゃんの勝手な意見で、親は勿論、本人同士も関知していません。
「ごめん、サクラちゃん。重いだろう?」
「はい、貴方。ですが、病気の夫を背負うのは妻の当然の役目ですわ。」
「わあ! サクラちゃん、トウトウ、婚約を承知して呉れたわね! シッカリ者のサクラちゃんが嫁として兄上とナンブ家を支えてくれれば、私も安心して他家に嫁に行けるわ!」
「そうね、でっかくてガサツで目障りな小姑は、さっさと嫁に行って呉れた方が嫁としては安心ね!」
「大丈夫よ。母上が私の分までタップリ嫁虐めをやってくれるわ!」
そういう馬鹿話をしながら、私は内心、呆然としておりました。ケンイチちゃんが余りに軽いのです。殆ど重さを感じない程です。私は入学直後に精通と初潮があってからは急に成長が加速し身長100センチメートルから160センチメートルになりました。 小学校2年生になる前に、オットウとオッカアの野望、つまり私を徴兵検査で甲種合格させる夢を実現してしまったのです。 体重も3倍以上、重くなりました。 今日の相撲大会にも選手としての参加です。
「こうして見ると、この一年で、サクラは随分大きくなったわね。去年の春には身長100センチメートルあるかどうかだったのにね。」
「そういうサクコだって随分、大きくなったわね。もう180センチメートル越えたでしょう?」
「いや、まだ丁度180センチメートルよ。この一年で十センチメートルしか伸びていないの。もう成長期は終わったのかも?でも、サクラは60センチメートル伸びたでしょう? 前は身長差70センチメートル、遥か下だったのに、今は僅か20センチメートル差よ。驚きだわ。」
私は入学時はクラスで身長が最下位でしたが、牛蒡抜きで追い越し、瞬く間にクラスで二位になりました。サクコちゃんは別格ですが、他の級友を見下ろす様になったのです。 ウチは貧乏な小作人ですが、他のウチの様に子沢山ではありませんし、オットウもオッカアも勤勉で健康で朝から晩まで働いていました。 私は大盛りの御飯を何倍も御代わりできました。 今になって考えると、オットウもオッカアも、自分の食事を減らしてでも私に腹一杯食べさせていたのだと思います。更に言えば、ウチは地主様、つまりナンブ家の代理である差配人様に贔屓され、良い田畑を貸し与えられ、年貢も割り引いて貰っていたようです。 当然と言えば当然で、差配人としては、雇い主の令嬢のお気に入りから絞り取る事など出来ようも無いのです。ケンイチちゃんは、病気がちでこの一年、殆ど身長が伸びませんでした。入学時には私より数センチ高くてクラスで下から二位でしたが、私に抜かされてからはずっと最下位でした。
「サクラちゃん、申し訳ないが降ろしてくれ。僕は今日は休みにさせて貰う。ウチに帰って寝ているよ。 ここからウチに歩いて帰るくらいは出来るから。」
「兄上様、ごめんなさい。不注意な会話でしたわ。」
サクコちゃんは、おろおろしていました。
「サクコ、そういう事じゃないよ。ただ熱が出てきただけだよ。サクラちゃん、降ろしてよ。」
「そんな訳には行かないわ。ナンブ家のお屋敷まで走って戻るわよ!」
そして、ナンブ家にケンイチちゃんを降ろし、又、サクコちゃんと二人で学校に向かいました。
「兄上のこと・・・・・父上は困りきっているわ。 五年後には、徴兵検査よ。 このまま行けば、身長160センチメートル以上の甲種合格は絶望的ね。それどころか、身長140センチメートル以上の第一乙種合格も無理・・・・いや、身長120センチメートル以上の乙種第二合格も無理・・・ 母上は・・・というと、絶対に口には出さないけれど・・・・喜んでいるわね。」
この事情は当時の幼い私にも分かりました。 もし、甲種合格し、ケンイチちゃんが上等兵になれば、嫡出児になりナンブ家の総領息子として、ナンブ家の全財産の相続権があります。 サクコちゃんの父上が早死にし、サクコちゃんが兄上から持参金を分与されて嫁に行ってしまえば、サクコちゃんの母上はケンイチちゃんの義母として表面上は大事にされるかもしれませんが、居心地が良い訳がありません。 ケンイチちゃんが甲種合格できず一等兵になれば、「イワイ・ケンイチ」のママです。 一等兵には土地の所有権が認められないので、サクコちゃんが上等兵の婿をとりナンブ家を継ぐ事になるでしょう。 ケンイチちゃんはサクコちゃんのお情けで離れにでも住んで若隠居にでもなるしかありません。 サクコちゃんの母上にとってその方が嬉しいでしょう。 ましてや、今のままでは、オットウやオッカアと同じ第一乙種合格も無理、第二乙種合格も無理で、「現役兵不適」の丙種になりかねません。
「ケンイチちゃんにもサクコちゃんにとっても余り嬉しい事ではないと思うけど、サクコちゃんの父上はお妾を家にいれて、ケンイチちゃんやサクコちゃんの弟を作ろうとするのじゃないかしら?」
予備役上等兵の男の人の正妻は必ず予備役上等兵ですが、正妻からは、なかなか子供が生まれません。当時、村には予備役上等兵の男の人は、十人いましたが、「正妻の子供」は、サクコちゃんだけでした。「妾の子供」は、ケンイチちゃんや、ユウキ・タクヤ先輩を含めて何十人かいました。 ちょっと財産のある予備役上等兵は、妾を複数もち子供を作らせるのが当然だったのです。 ましてや、サクコちゃんの父上のような財産家であれば、妾の二人や三人、いや四人や五人いてもおかしくありません。
「それは絶対に無いわ。実を言うと、父上は母上の尻に敷かれているのよ。 下女に手を付けて兄上を産ませた時だって、後で母上に泣いて謝ったのよ。母上がおっしゃっていたわ。」
「え? 嘘でしょう? サクコちゃんの母上は、父上がご帰宅なさる時は三つ指付いてお迎えするのでしょう? それに母上は父上には決して逆らわず口ごたえもしないんでしょう?」
「そうね、母上は「女の嗜み」の権化だから表向きは父上を立てているわ。 でもね、ウチって「蚤の夫婦」でしょ? 父上はタダの予備役上等兵だけれど、母上は予備役伍長勤務上等兵だしね。 それに父上は威張っているけれど本当はケンカとか戦闘とか苦手なんだよ。 軍隊では「輜重輸卒が兵隊ならばチョウチョ、トンボも鳥のうち」の輜重兵だしね。 それに対し母上は衛生兵とは言っても、落下傘降下衛生兵なんだよ。」
そう言えば、サクコちゃんの父上は身長200センチです。徴兵検査の時は165センチメートル、甲種合格の基準より5センチメートルしか高くありません。それに対し、サクコちゃんの母上は身長240センチメートルあります。サト先生と同じです。徴兵検査の時に身長180センチメートルあり、第一甲種合格だったのです。 村で伍長勤務上等兵はサクコちゃんの母上とサト先生だけです。 それにしても、何時も優雅で物静かでお茶を嗜んだりお琴を弾いたりしているサクコちゃんの母上が落下傘降下衛生兵出身とは驚きです。 落下傘降下衛生兵は、薬箱と包帯と自決用手榴弾だけを持って、敵地の惑星の衛星軌道上の輸送艦から落下傘を付けて飛び降り、最前線というよりも敵地の真ん中で味方の傷病兵を介抱するのです。 命知らずにも程がある任務です。
「それはそうと、サクラちゃんは家で親がエッチするのを見た事、ある?」
私はコックリと頷きました。 ウチはサクコちゃんの御屋敷と違って一間キリで「子供部屋」なんていう物はありません。 私が気を利かせて「寝たふり」をしていれば、オットウとオッカアは、元気にエッチします。 ついつい好奇心に負けて薄目を開け見てしまうのは当然です。
「私はね、襖に穴を開けて観察したのだけれど、母上は「底なし」なの。ウチの独身の下男って結構、美男子が揃っているでしょう? 母上は、父上に騎乗する前戯に下男を五人程犯すのよ。 そしてメインディッシュの父上を搾り取って一滴も出なくしてから、後戯にまた下男を五人程犯すのよ。 母上はね、十人も男妾を持っているけれど、父上には一人だって妾を持たせる気は無いわね。 それどころか自慰すら、許さないよ。 母上ね。三つ指ついて父上のお帰りをお迎えするけれど、そのまま顔を挙げて父上の逸物の匂いを嗅ぎ、他の女や男の唾液や愛液の匂いが無いかチェックするのよ。更に逸物を咥えて口内射精させて濃度を確かめるのよ。 そして、母上は父上の慰安夫(オナペット)を取り上げて私に宛がっているのよ。 あ、そうそう、話が随分、脱線したわね。 そういう事でウチに新しい弟か妹が出来る可能性は無いのよ。」
「話は飛ぶけれど、サクラちゃん、アッチの方、不自由していない?」
私はコックリと頷きました。私は秋口に「女」になりました。精通もありました。それ以来、性欲は亢進するばかりです。毎晩、自慰はしていますが、そのうち疲れてしまいます。時々、欲求不満で悪い事をしてしまいそうになります。
「それはまずいわね。成長が著しい時期には、欲求不満は毒よ。私は、さっき言ったように父上の分の慰安夫を宛がわれていて不自由していないけれど・・・・親友兼ライバルがそんな状況では困るわね。」
そう言われてもどうしようもありません。時々、サクコちゃんとレズをしていますが、そんな程度ではどうしようもないのです。
「話は変わるけど、今日の相撲大会、どうするの?ユウキ・タクヤ先輩、投げ飛ばすの?」
「どうするも、こうするも、あるまい。 未来の妻として未来の夫を公衆の面前で投げ飛ばすなど、ハシタナイ限りだが・・・・サト先生は八百長が大嫌いだからね。いかんともしがたいわ。」
「では、1年生の授業でやっている方法は?」
「そんな事をしたら、ユウキ・タクヤ先輩にますます恥をかかせるだけだ。同級生には当然でも、相手は5歳も年上でしかも徴兵検査甲種合格の壮丁だぞ。」
相撲は、教練の授業でも行います。1年生の授業では、サクコちゃんは、49戦49勝で優勝、私は49戦48勝1負けで準優勝でした。 そして、サクコちゃんは、制限時間3分の内、2分50秒は一切動かず笑って立っているだけでした。その間、相手は殴ったり蹴ったり体当たりしたりしますが、全くサクコちゃんの足を動かす事すらできません。動かせたのは私だけ、それも半歩だけでした。そして、最後の10秒で吊り上げられ、土俵の外に下ろされるのです。吊り上げられたら最後、手を振ろうが足を振ろうが文字通り手も足も出ません。
「実を言うと、ユウキ・タクヤ先輩が甲種合格した夜、私は先輩に処女を捧げた。」
ビックリの衝撃発言でした。
「え、ユウキ・タクヤ先輩に襲われたの?」
馬鹿な質問をしてしまいました。たとえ、ユウキ・タクヤ先輩が全力で押し倒そうとしても、押し倒せる訳がありません。
「実際は私がユウキ・タクヤ先輩を押し倒した・・・・。 」
「それにしても、拙いわね。この相撲大会の趣旨に逸脱しているわ。」
この相撲大会は、軍の主催です。優勝者、準優勝者は、「上等兵心得」の資格が与えられ、入営日の当日、1月10日に上等兵の階級が与えられます。第二甲種合格しても、一番早い第一選抜で12月1日付けで上等兵進級ですから、11箇月は下積みの辛い二等兵、一等兵の生活を送らねばなりませんが、入営前に「上等兵心得」の資格があれば、それをパスできるのです。優勝者、準優勝者は、伍長勤務上等兵になれる可能性も大きいのです。一年生が優勝しても意味がありません。
「全くそうよ。今迄、6年生以外で優勝者が出ていない訳じゃないわ。私の母上とか、サト先生とか、錦山和夫曹長様とか例外もある。でも、今年は酷過ぎだ。一年生が優勝・準優勝と独占では、六年生の優勝者、私の愛するユウキ・タクヤ先輩が余りに気の毒よ。」
突然、サクコが私の前に土下座しました。
「御願いだ。サクラ、準優勝の座をユウキ・タクヤ先輩に譲ってくれ。」
譲るも譲らないも相手は6年生の男子です。サクラは兎も角、私は身長こそ160センチメートルでユウキ・タクヤ先輩とほぼ同じですが、技術面でも体力面でも敵う訳がありません。その事を、サクラに指摘し立ち上がって呉れるようお願いしました。
「実を言うと、先日までは私もそう思っていた。 でも、ユウキ・タクヤ先輩と契って間違いだと分かったの。 私ね、サクラとレズやっている時は全力で攻めているのよ。 壊れる心配もしていない。 でも、ユウキ・タクヤ先輩を抱いている時は怪我をするのでは、とハラハラだったわ。」
そう言われても困ります。
「お願いだ。サクラ、サクラは強い。ユウキ・タクヤ先輩を除く六年生の選手全員に余裕で勝てる。そして、ユウキ・タクヤ先輩には、勝ちを譲ってくれ。そうすれば、ユウキ・タクヤ先輩は1敗で準優勝確定だ。」
無茶苦茶言っています。第一、私が他の分教場や本校の6年生に勝てる見込みなどほぼありません。
「サクラ、お願いだ。ユウキ・タクヤ先輩は、あんなに綺麗な美少年だ。新兵として入営し二等兵になったら、絶対に古兵、特に上等兵になれなかった一等兵どもに嫉妬されて滅茶苦茶苛められると思う。 12月には第一選抜で上等兵になれるだろうが、その時には古兵どもは満期除隊でいないんだ。 11箇月、麗しいユウキ・タクヤ先輩が古兵にどれだけ苛められるかと思うと気がくるいそうになる。 もし、上等兵心得の資格があれば入営当日に上等兵だ。一等兵どもに苛められる恐れはなくなる。まあ、古兵のうちの上等兵に苛められる恐れはあるが、それでも圧倒的に安全だ。」
私は困ってしまいました。 しかし、親友に土下座させておく訳にはいかないので、ユウキ・タクヤ先輩には手加減をする事にしました。 そしてサクコが立ち上がった直後、後ろの方から砂埃が迫って来ました。
「サクラちゃん、サクコちゃん、おはよう! 二人とも頑張ってね!」
「サト先生、おはようございます。」「サト先生、おはようございます。」
「それから、本校の真田美津子校長先生にも相談したけれど、サクコちゃんの例の2分50秒ルール、御諒解戴いたわ。 入営間際の6年生、それも甲種合格者を大怪我させる訳にはいかないから。 最初の2分50秒はサクコちゃんは一切攻撃厳禁よ。後の10秒は好きにしなさい。 その代わり、サクラちゃん以外の子は一切、手抜き・無気力相撲・八百長厳禁よ。真田美津子校長先生は、軍人相撲の熱狂的ファンでね。内務班ではいつも相撲を取らされていたわ。そして、真田美津子校長先生は、男相手で手を抜く女の子は大嫌いだったの。 土俵際で観戦する真田美津子校長先生に手抜き・無気力相撲・八百長を見破られたらタダじゃ済まないわ。軍刀で真っ二つよ、時間よ。先に行くわ。」
そうこうする内に町に入り相撲大会会場の本校に到着しました。私達は選手席に案内され座りました。 選手80名の内、60名は、卒業生の内の徴兵検査甲種合格者、18名は5年生、4年生以下の選手はサクコと私だけでした。土俵上では真田美津子校長先生が訓示をしています。
「・・・・・6年生の選手の諸君、言うまでも無い事だが、必死で頑張りなさい。これで優勝又は準優勝だと、第二甲種合格の者でも第一甲種合格の扱いになる。第一甲種合格なら入営当日に上等兵・・・・。」
今年の卒業生には身長180cm以上の第一甲種合格はいません。60名の選手がどよめきました。その時、先生の声が大きくなりました。
「・・・・但し、5年生以下の諸君に強調しておくが、手を抜いて6年生に優勝、準優勝を譲る様な行為は、絶対に許しません! 特に女子! 自分が好きな子に第一甲種合格の特権を与える事が「内助の功」などとは絶対に考えるな! そんな奴がいたら・・・。」
真田美津子校長先生が腰の軍刀を抜き、太陽にかざしました。
「そんな奴は、私がこの軍刀でブッタ切る!」
会場が静まり返りました。
試合が始まりました。順次、進み、私は78戦し、77戦1敗でした。1敗の相手はサクコちゃん。2分50秒真剣に攻撃しサクコちゃんを30センチメートル、半歩だけ動かしました。軍人相撲には、殴る、蹴る、頭突き、何でもありなのです。サクコちゃんは、79戦し、79勝で優勝を決めています。私と同じく77勝1敗のユウキ・タクヤ先輩は2分50秒真剣に攻撃しサクコちゃんを一歩も動かせませんでした。
「サクラ、とうとう最後の大一番、準優勝決定戦ね。頑張ってね。やっぱり、親友に八百長をさせる訳にはいかない。でも、私はユウキ・タクヤ先輩を応援させて貰うわ!」
「サクコ、ユウキ・タクヤ先輩は強敵よ。多分、私の負けだと思うけれど、頑張るわ!」
大歓声が講堂に響きます。そして、行事の代わりのラッパの音と共にユウキ・タクヤ先輩が突進してきました。そして、衝撃を予想し身構えましたが・・・・その衝撃はソフトな物でした。そして、ユウキ・タクヤ先輩の顔面を殴りました。すると、先輩は土俵の外まで吹っ飛んで行きます。
「皆さん、優勝者の1年生、ナンブ・サクコさんからは、「特別ルールを適用して戴いたので、優勝の盾だけを戴き、賞品及び栄誉は辞退したい」、旨、申し出がありました。私、第35師団付属辺境尋常小学校訓導、校長、判任官3等、真田美津子校長は、それを是とします。よって、「上等兵心得」の資格と賞品は、準優勝の1年生、賞品は、準優勝の1年生、ニシ・サクラさんと、惜しくも三位となったユウキ・タクヤ君に贈られます!」
こうして全てが丸く収まりました。サクコは嬉し泣きしていました。このまま意気揚々と私達二人?は、村に走って戻ったのですが・・・私は背に一人?背負っていました。
「ふふふ、サクラ、上手くいったわね。あの方法では、真田美津子先生でも文句を云えないでしょう。 サクラも上手くやって呉れたわね。」
「うん、上手くいったね。」
「これで、ユウキ・タクヤ先輩も、入営当日に上等兵よ。これで、ユウキ・タクヤ先輩は、古兵に虐められないで済むわ。 おまけに親友も慰安夫を入手できて、毎晩、自分の指を使わずに自慰ができるわ。」
私達、二人は「勝つまで」は手抜きをしませんでした。しかし、「勝ってから」は、手抜きをしました。サクラの場合、2分50秒までは動かず、最後の10秒で持ち上げ、土俵の外に相手を持っていきます。サクラは、これからユウキ・タクヤ先輩と戦う選手に対しては、情け容赦なく土俵の外まで放り投げていました。 私は、そこまでの力はありませんが、ユウキ・タクヤ先輩とこれから戦う選手に対しては、結構、手荒く攻撃しました。戦う順番は、分教場毎に年齢の若い順ですので、私、サクラ、ユウキ・タクヤ先輩と云う順番でした。結果、ユウキ・タクヤ先輩は77勝2敗、77勝のうち、63勝までは、相手の怪我による不戦勝でした。まず、対外戦をやって、それから分教場内での対戦ですので、ユウキ・タクヤ先輩の相手はほぼ怪我人だったのです。私も79勝1敗、78勝のうち56勝までは不戦勝でした。サクコのお陰です。
「オットウ、オッカア、私、相撲大会で準優勝したんだよ!」
「本当に良かった! 電報でサト先生が知らせて呉れたが・・・。オットウは嬉しいよ!」
「オッカアも嬉しいよ!」
オットウとオッカアは凄く喜んで呉れました。
「シンサク君とかおっしゃいましたな。さあさあ、そんな所に座っていないで上がりなさい。むさくるしい所だが、土間よりは暖かいぞ。」
「そうですわ。シンサク君、ウチには男の子がいないから、私も嬉しいわ。」
私は副賞に慰安夫のシンサクを貰いました。身長100cmしかない矮躯ですが、なかなかのハンサムです。シンサクは、遠慮して土間に座っているのです。
「旦那様、奥様、私は、これから御嬢様にお仕えする卑しい慰安夫でございます。任務の時以外は、土間に起居するのが分際でございます。」
「シンサク君、ワシは、運よく一等兵になれたが、子供の時の仲間や兄弟で丙種合格で慰安夫になった者は何人もいる。君は運が悪かっただけだ。」
「そうよ、シンサク君。夫も私も君に同情、いえ、感謝しているのよ。」
とうとう、オットウとオッカアは、シンサクを囲炉裏の前に引っ張り上げてしまいました。
「旦那様、奥様、あなた方は勘違いなさっております。本来、私は御嬢様に選んでいただけなければ、共同便所に配属され、毎日、何十人もの一等兵の皆様の逸物を咥えなければならない身でございます。それが御嬢様にお選び戴き、上等慰安夫に昇進できました。」
「何を云う。シンサク君。 ワシらは貧乏人で財産らしい財産は何一つ持っていない。そのワシらの唯一の誇りがこの娘、サクラだ。まさにトンビが鷹を産んだのだが・・・。シンサク君がこのサクラを助けて呉れる・・・う~ん、云いにくいな。」
「そうよ、私達は悩んでいたのよ。サクラが年頃になってアッチの方が発散できなくて困っているわ。 このままでは成長や勉強に差し支える、私達は困り果てていたの。」
「そうだ、ワシらは交代で娘の逸物を咥えてやろうか、とも思いつめていたのだよ。でも、これでは娘も嬉しくあるまい。君はワシらの恩人なのだよ。」
「そうなの。ウチの娘はきっと偉くなる。そして、きっと世の中を少しでも変えてくれるわ。シンサク君は、それに協力してね。」
結局、慰安夫のシンサクは、ウチの一つしかない部屋の囲炉裏の前で起居するようになりました。