ファンティアで限定公開する作品の第1部兼サンプルです
 大柄だった主人公は縮小の病に侵され、恋人どころかペットのネコビトにおもちゃにされていきます。
 恋人には見向きもされずペットには犯され続け……というお話。
 これまでの縮小病(LSS)と猫の小人(ネコビト)の設定が融合していますが、これまでの作品とは全く独立なのでこれらを読んでいなくても少しも問題ありません。
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§
 粗方荷物を運び終えた時、綾は麦茶を持って戸口に現れた。
「休憩にしようよ。引っ越し、終わったでしょ?」
 ね、と促しながら、綾はちょこんと机の前に座り込んだ。子供のような体は、座るとますますちんまりしている。
「コウのために、一室取っておいて正解だったね。ここ借りる時、もしかしたら、って思ってたの。同棲したいなーって、さ」
 トレードマークのサイドテールを揺らしながら、恥かしげにそんな一言。お互いの念願だった二人暮らしは、綾の家が舞台だ。
 あぐらをかいて座る綾。いつもの通りにクピクピと細い喉を鳴らして、グラスを傾ける。
「しかしこんな図体の男がいると、この家も狭く感じるよ」
 からかうように言って、あぐらのままユラユラ揺れる。その体は女性としても華奢で、俺たちはかなりの体格差カップルと言えた。俺が大柄なのもあるが、何より綾が小さいのだ。その姿は女子中学生にも見える小躯。そこに現れる女性的な起伏が、なんとも胸をざわつかせる。
「悪うござんした。んで、手狭な家に俺を迎えたのは誰だっけ?」
「あたしー。でもほら、ミアも怖がってる」
 クスクス笑いながら、綾はドア口を指差す。

 見遣れば、ヒッと怯える小さな影。40センチ程度の何かが、さっとドアの影に隠れてしまう。それからおずおずと覗いたのは、猫の小さな耳。続いて少女の顔が除けば、そのネコビトは不安げな顔でこちらを伺っていた。
「ご主人、その人、怖い人?」
「んー、まあ怖くないよ。デカイだけ。一緒に暮らすから、仲良くね?」
「……うん」
 コクリと頷いてから、そろりと一歩部屋に入って来る。

 それは、恐ろしく可愛らしいネコビトのメスだった。ダブダブのTシャツをワンピースがわりに着込んで、ギュッとその裾をつかんでいる。その髪は腰までゆったり長く、透明感ある白に輝いていた。その上には、怯えてしおれた耳が、三角の輪郭をこちらに向けている。
 低い位置にサイドテールを結った、黒髪の飼い主、そして長い白髪の飼い猫。対照的な姿が目に映える。ミアと並ぶと小柄な綾も、ずいぶん大きく見えた。
「これからはコウもミアの飼い主だね」
 綾が、そのぬいぐるみのような体を持ち上げた。猫目はやや不安そうにこちらを伺う。どうも簡単には懐きそうになさそうだ。人見知りなのか、男の大きな体格が怖いのか。しまいには恐怖心から震える威嚇の声を出す始末。
 そんな敵意も、小さな体に宿れば可愛いものだ。懐いてくれればどんな一面を見せるのか、楽しみでもあった。
 驚かせないように、ゆっくり手を伸ばして撫でてやる。途端に止む威嚇。そして、ふわりと手のひらに収まる柔らかい髪と、小さな猫耳が手に伝わった。緊張に震えさえする小動物は、ギュッと目を瞑って耐えるばかりだ。

「これは、慣れてくれるのに時間がかかりそうだな」
「ま、ミアは私にしか懐かないからねー。気ままな子だから、優しくしてやってよ」
 俺は頷き、この人形のような猫から手を離す。大きめのフィギュアと変わらないその繊細な造形美は、美少女を縮めたようだ。長い髪の分幼く見えるが、ネコビトとしては成猫だろう。その髪を結ったら、或いは綾とそう変わらない歳の頃に見えるかもしれない。

 それにしても、と思う。
「というかこの猫、下は穿いてないの? シャツ一枚?」
「ううん、ちゃんと穿いてるよ? ほら」
 ペロリとシャツをめくり、中のスパッツをこちらに見せる。なんでもないような顔をする二人。股間にぴっちり張り付いた黒い光沢に、俺は思わずどきりとしてしまう。けれどそれは、人形の裸が目に飛び込んできたような驚きに過ぎない。所詮は猫の下着で、おまけにミアは小人だ。
 僕は得心いったと頷いてから、顎でも撫でてやろうかと手を伸ばす。
 けれどびくりと飛び跳ねたミアは、そそくさと扉へ逃げ去って、一度影からこちらを見ると、そのままどこかへ行ってしまった。
「アハハ、ずいぶん嫌われちゃったね」
「……まあ、すぐふてぶてしくなるのがネコビトだろ? 舐め腐った態度を取るまでそう待たんよ」
「そうね」

 他愛ない会話。
 その端々で、同棲という甘い期待を俺たちは分かち合う。
 そうなれば、やることなんて一つだった。


§
 小さな体だと思った。後ろから抱けば、その頭は俺の胸板に収まる。肩幅は俺の肩の間に包まれ、30センチはある身長差に、思わず壊してしまわないかと怖くなるほどだ。
 それは、綾も同じようだった。
「おい、震えるなって」
「わかってるわよ。……本能かしらね、体がどうしても反応しちゃうの」
 背後からその抱きとめた瞬間から、綾の体は小刻みに揺れ始めていた。小動物的な反応は、何度体を重ねても変わらない。体格差は、女性の恐怖心を掻き立てるのに十分だった。
「やめようか?」
「わかってるでしょ? ……乱暴にしてもいいくらいよ」
 綾自身はケロリと言ってのける。その細い肩が揺れるのを、内心綾ももどかしく思っているらしい。

 ならば。
 俺は構わず、服の上から綾の体をなぞった。右手は下半身に、他方は胸を目指して。
 そして、綾の確かな存在感を探っていく。
 抱きしめれば折れてしまうほどの体、不安になる腰のくびれから、柔らかな弧を描いてずっしりとした臀部が広がり始める。登っていく左手はその乳房に阻まれ、母性の重い膨らみを知った。
 この瞬間、俺はホッとする。
 そのまま体を弄れば、俺は綾のあまりに華奢な体に、強い肉付きを見出す。スカートを押し拡げるデカイ尻に、頼もしい重みを感じさせる巨乳。その膨らみは共に俺の手のひらにさえ収まらず、鷲掴みにしても指からあまるほど。その太ももの手応えに俺は安堵し、それを糧に劣情は燃え上がる。
 もはや綾の体は不安を誘うどころか、俺の激しい衝動をぶつけるにふさわしい器となった。豊満なバストを揉みしだき、焦らすようにその下腹部を撫でていく。
 後はもう、流れが俺たちを連れ去るばかりだ。

 綾をベッドに押し倒し、その服を解いていく。
 シャツから露わになる白い肌。スカートの中には黒いショーツが覗き、すでに湿り始めているらしい。バサリと綾が髪紐をほどけば、枕に広がる黒髪、染まる頰に潤む瞳、肉厚の唇から吐息が漏れる。
 そんな姿、雄に見せるものではない。
 発情した顔に、俺は唇を重ね貪った。手はしっかりとショーツを包み、手の中の膨らみをほぐすように揉みしだき始める。
 ブラを解けば溢れる乳房は、重力に潰れて輪郭を円くし、吸い付くと巨大なマシュマロでも頬張ったような、柔らかさに甘やかさ、それが顔全体に沁み通る。

 雄の貪る音に、雌の善がる音。湿り気を帯びる室内には綾のフェロモンが発散され、それに呑まれるように俺は女体にのめり込む。
「挿れるぞ」
「……うん」
 子供のような体が、薄暗い中でコクリと頷く。俺はそんな真っ白の裸体に跨り、太ももの間、その付け根へと、屹立したモノを押し込んでいった。
「んぐッ……ん゛!」
 隘路に、ミチミチと巨大なものがねじ込まれていく。そうすれば小人の体は跳ね、それから苦しそうにシーツを掴む。俺の腰が綾の腰と逢着すれば、もう綾の胎はパンパンだ。
「き、きついって……ッ!」
「我慢しろ、よっ!」
  乱暴に腰を振れば、絞り出される綾の声。それが嬌声か悲鳴かは綾にもわからない。それでも、立て続けに俺は腰を振った。小さなものを思うがままに汚し尽くす、その征服感が快感だった。その声を聞けば、なにか背徳的な行為に及んでいる錯覚に襲われる。小さな体がくねるのを見ると、嗜虐心は嫌が応にも燃え上がった。そしてそのバウンドする乳房を見て、劣情に更なる火が灯る。

 壁に移る人間の交尾の影。甘やかな声に激しい水音。嗜虐心と被虐心がないまぜになり、人間二人が享楽に落ちていく。

 部屋の片隅に震える、仔猫を忘れて。

§
 同棲生活は順調だった。
 あれから一月は経ち、家事の分担も、二人暮らしの生活も馴染みあるものに変わる。共に起きては食事をし、語らい、体を重ねた。そんな日々が続いている。
 どうも一つ、引っかかりはあったが。

 案の定、ミアはふてぶてしくなっていった。
 いや、憎まれているのかもしれない。
 一度思い切って俺を拒絶して以来、ミアは俺に刃向かうことを覚えた。とはいえ、それは猫にありがちな反抗というもので、物陰から俺を睨め付けたり威嚇の唸りをあげたりする程度だ。俺にとっては何の意味もない。引っかかれたりしたらたまったものではないが、一度戒めて以来はすっかり大人しくなった。
 しかし、懐かないことに変わりはない。
 これが、小動物の本能なのか勘なのか、或いは俺に非があるのかもしれないが、とにかく俺が苦手らしい。
 ……猫と思って、扱いがつい乱雑になるきらいは否めない。
 部屋に勝手に入って物色されたり触られたりして、きつめに叱りつけたことはあった。ネコビトに占有スペースの概念はないから、無理からぬことではある。とはいえ躾は躾だ。そこに特別非があるようには思えなかった。
 その訳が分かるまでに、いっときを費やすことになる。

 果たして。その訳を明かしたのはミアの方だった。

 ある時、机に向かう俺の前に躍り出て、ミアは渾身の力を込めこう叫んだ。
「ご主人に偉そうにするな!」
 震える体を必死に立たせ、机の上でミアは涙目にそう訴えた。俺に馴れてからも、ミアには勇気のいる行動なのだろう、ずいぶん怯えている。そんな小動物を、まじまじと俺は眺めた。
「偉ぶってなんかない。それより、机に立つなよ」
「ボク、お前が嫌いだ」
「わかったからそこをどきなさい」
「いやだ!」
 そんな人形大の小人を、俺はひょいと摘み上げる。恨めしげな猫の視線も無視して、ぞんざいにベッドへ放り投げた。背後でキャッと悲鳴が上がる。
「い、痛いじゃないか!」
「お前が邪魔するからだ」
「お前が悪いんだ!」
 ハァ、とため息をついてミアの方を振り向く。ミアはベッドの上で毅然と俺を睨め付け、飼い主を守らんと必死だ。こうなると猫より忠犬に近いかもしれないが、その猫耳と愛くるしい姿は猫そのもの。これを前にすればどうにも気勢を削がれる。

「ご主人ご主人って、俺も飼い主なんだからちったぁ弁えて欲しいんだがな」
「飼い主でもお前はご主人じゃない。ご主人はボクのだぞ! お前みたいな乱暴者なんか、ご主人には似合わないんだ!」
 結局、これが本音のようだった。愛する主人を奪われたようで寂しいのだ。小動物特有の喪失感は、俺には俄かには理解しがたい。

 だから俺はさとすように言ってやった。
「俺はお前から綾を取り上げるつもりはない。ほんとだぞ? だからそんなに拗ねるなって」
「拗ねてない!」
「……お前、可愛いやつだな」

 急に情が湧いてきて、撫でてやろうかなんて思った。優しくしてやれば、少しは懐くかもしれない。
 しかし、突如伸びてきた巨人の手に、仔猫はびくりと飛び上がる。
「さ、触るな!」
 金切り声。
 その瞬間、ピリッと痛みが走った。
「お、おい!」
 小さな口で、ミアがカプリと俺に噛み付いていた。逃がすまいとするように俺の腕にしがみついて、なるほど、獣らしい動きだ。俺の腕より細いくせに、食らいついたら離さないぞと言わんばかりに牙を突き立て、喉元を食らっているようなそぶりをする。
 俺は腕を振って無理やりミアを振り落とす。ぎゃっと可愛らしい悲鳴が上がって、僅かに良心が痛んだ。
「おいおい、腫れたりしないだろうな、ったく。あんまり舐めた態度取ると怒るぞ?」
 消毒液を探しうろつきながら、ペットにに忠告してやる。とはいえ奴は涼しい顔であぐらをかき、ペロペロと乱れた毛並みを整えていた。猫のふてぶてしさには呆れるばかりだ。
「ちったぁ謝ったらどうだ?」
「ふん。謝るのはそっちの方だ」
「……綾のやつ、躾くらいちゃんとしろっての」
「ご主人は悪くないよ。ボクをこんなに怒らせたお前が悪いんだっ!」
 いい加減怒鳴りつけてやろうかとも思ったが、小鳥のような姿を見ればそんな気も失せるというもの。トラウマになったら不憫なこと極まりない。
「ご自慢の牙なんて人間様には通用せんよ。綾みたいな華奢な女ならいざ知らず」
「言うがいいさ」
「……物分かりの悪い奴め」
 そう言い遣ればミアはニッと笑って、軽々ソファの上に飛び乗った。
「それはお前の方だよ。ヒトは、ボクらがどんな生き物かまだ知らないんだ。ふふっ、ボクを怒らせたら怖いって教えてあげるよ。後で泣きついたって、絶対、ぜーったい許すもんか!」
 捨て台詞を吐いて部屋を後にする。尻尾を巻いて出て行くとはこういうことか。口だけは達者なネコビトに、俺は苦笑するばかりだ。
 
 そんな、哀れなやり取りだった。
 やるときはやらねばならない。
 実行するなら、先手を打って。
 そんなことも知らなかった。
 それが、あの時の俺だ。
 哀れなほどの無知蒙昧。
 悔やんでも悔やみきれない1日が、これだった。
 
 今ならわかる。
 ミアの方が、遥かに賢かった。


§
 一言で言おう。
 波乱が始まった。
「……まあ、死ぬわけじゃないし。元気出してよ」
「……これが平気でいられるか」
 背を向けたまま、綾に悪態をつく。
「死んじゃいないがおしまいだ。終わっちゃいないが詰んじまった。わかるだろ? お前を養うどころか、……ックソ!」
 拳を握りしめる。そんな俺を綾は背から抱きとめた。
 俺はその腕を乱暴に振りほどく。
 我慢ならなかった。
 綾の同情が?
 違う。綾がほかにどんな態度が取れるって言うんだ。哀れなのは間違いない。
 しかし、惨めさを焚きつけるその無神経が、我慢ならなかった。
 惨めだろう?
 だって、俺は今、綾の背と変わらないのだから。

 俺の体は縮小の病に侵されていた。LSSなる、例の奇病だ。
 そんな病の理不尽さから、俺は理不尽な怒りを綾に向けた。
「綾は気楽でいいもんだ。女だからな。怖くないだろ?」
 すっかり成長期のガキみたいになった体で、綾に叫んだ。けれど、綾の顔は見れない。自分よりやや背の高くなった綾を、見たくなかったのだ。
「進行は送らせられるわ」
「でも、治らない! そんなの誰でも知ってる。誰も逃げられない! 一人もだ!」
 もう子供のような背丈になれば、去勢されたようなものだった。
 俺ももう病人だ。ピンピンしてるくせに難病の身だ。奇病であっても希少でなく、だのに自分は大丈夫と思っていた。
 その報いが、縮小病なのか。
 ふざけた名前が笑い草だ。

 積み重ねた奢りの分、俺の体は小さくなっていく。
「どうしていいかわからないけど、現実的なことは考えてあげるから。暮らしは私が支える。心配しなくていい」
 膝をついて俺と向かい合うと、しっかり俺の腕を掴んだ。いざとなったらウェットな俺に、サバサバとした綾の行動力。自嘲に満ちた心では、それさえ情けなく感じる。

 その時、ハッと気づいた。
「ミア……」
 突如現れたネコビト。LSSのパンデミック。ミアの呪い。全てが頭の中で結ばれ、一気に一つの像を作る。
 俺は猛然とミアを探し求めた。
「ミア! ミア! 出てこい!」
 果たしてソファに丸まるミアを見つけた時、俺は怒りに任せて飛びかかった。
「ぎゃあっ!?」
 眠りこけてたネコビトは、突然のことに金切り声を上げた。

 いくら小さくなったとはいえ、俺は小柄になっただけだ。ネコビトの数倍はある。そんな巨人に襲われ、小動物はなすがままだった。
 小人のメスを締め上げる。足はバタバタと俺の腹を蹴り、それでもその非力さに俺は確かな手応えを感じていた。
「離して! 離してよ!!」
「ふざけやがってこの畜生! ぶっ殺してやる!」
 ひっとミアは息を飲む。
「ただで済むと思うなよ」
「やめて! ボクを離して! じゃなきゃ、か、噛むよ?!」
 咄嗟に放たれた言葉に、一気に巣に戻される。かてて加えて、俺は青ざめてさえいた。ペットの一言に、俺は脅されたのだ。
 まだミアは俺の四分の一程度の体。しかしその重さは以前の2倍ほどもあり、その牙に刺される恐怖はさらなる絶望を催すことは必至だった。
 ミアの言葉は、あまりに重く俺の腹に落ちていく。

 そこに、綾が駆けつけた。 
「何してるの!?」
 慌てて俺をミアからもぎ離す綾。そしてミアを腕に抱くと、思いっきり俺を睨め付けた。
「バッカじゃないの? 腹いせにミアに当たり散らすわけ? 恥ずかしくないの? ミアを虐めるならとっとと出て行きなさいよ!」
 まくしたてる綾。前よりずっと近くから放たれる言葉に、俺はしばらく押し黙ってから、
「いや、わ、悪かった。少し取り乱したんだ。……すまん」
 少しも納得してはいない。未だに殺意は消えてない。けれど変化は着実に俺の心を蝕んでいた。
 目前にある鋭い視線。下から輝く猫の殺気。少なくともこの二人が一緒なら、ミアに報復など叶わない。
「次何かしたら許さないから。……ね、ミア、大丈夫?」
「……うん。ボクは平気」
 ほっと綾は息を吐き、ミアを床に下ろした。
「ミア、おいで?」
 そして、キッと俺に目をくれてから、部屋を出ていく。
 女の後を追うメス。
 その足が部屋を出る、直前。ミアはきびすを返して俺のそばの机に飛び乗った。
「……ぼ、ボクをいじめたら、もっと酷い目に遭うからね? ご主人に毒のこと話したら、ガブってしちゃうんだから。そしたら、もう虫みたいになっちゃうの、わかるよね?」
 震える声で、けれどしっかり俺を脅していく。その言葉に勇気付けられるように、猫娘は元の表情に戻っていった。
 それから、牙を見せつけるように小さな口を開けて、俺に耳打ちする。
「今日のこと、許してあげないんだから。まだコウはおっきいだけど、ネコビトはケモノなんだ。そのこと、よく覚えておくがいいさ」
 そして踵を返す。
 残された俺は呆然としながらも、もはやミアに報復など出来ないこと、それだけを愕然と悟らざるを得なかった。