今回猥褻は一切無い、いいね?
ふと思ったこと。




雑記もの 随想録

その一、「靴と兵隊」



『ふふ、ふふふふふふ♪♪』


廊下を歩くゴキゲンな巨メイド、今日は珍しくねこびとの兵隊たちを何匹か捕まえて持って帰ってきたようだった。
捕まった兵隊たちは当初、しきりに情けない泣き声を上げていたが部屋に入ると観念したらしく、すっかりしょげかえっていた。
巨メイドはポケットの中からポトポトと兵隊たちをベッドの上に取り出すと、よし、と言う小さい声を上げて満足そうな笑みを浮かべた。
兵隊たちの近くにはとても大きな本が置いてあり、背表紙からその本が「小人と靴屋」の童話であることと、細切れにされた布とかがある事から、巨メイドがなにをしようとしているのか薄々察せられた。

『さあ、これで忙しくても大丈夫ね!しっかり私の為に働いてちょうだい?』

兵隊たちは、出たよ、本当かよ……と言いたげな、うんざりした顔で巨メイドを見上げるとため息をついてうつむいた。

『嫌だって言うなら、それでも別にいいけど……?』

ベロリと唇を舐めて、威圧的に兵隊たちを見下す。たちまち兵隊たちは震え上がって一ヶ所でおしくらまんじゅうしはじめた。

『食べられたくなかったら、さっそく靴をキレイにしなさい。わるい子は……ウフフ』

「にっこり」と笑うと巨メイドは部屋を出て、どこかへと行ってしまった。
小さなため息が部屋の中にこだまする。それを見届けた兵隊たちは、輪を作るように集まってわめきたてる。

「あーあ、どうしよう……帰れるのかなあ」
「もう帰れないなんてやだよ!」
「とにかく、靴磨かないと巨人に食べられちゃうよ」
「それは怖いなあ……」
「とりあえず綺麗にすれば帰してくれるかも」
「はたしてそうかなあ」
「とりあえず、生きることが大切、磨こうよ」
「靴って、アレ?」

一人の兵隊が指さした先には、薄--汚ごれたちょっと臭--い紙箱の上に乗る小山のような革靴が鎮座している。
その靴は白く曇り、しわくちゃで、ところどころ兵隊たちや戦車を踏んづけた時のいろんな汚れがくっついたままであった。


兵隊たちは、ため息すら出なかった。



……



『どぉーー??あらやだ!キレイになってるじゃない♪♪』

巨メイドが仕事を終わらせて自室に帰ってきた。顔が映るほどのピカピカの靴を見て、上機嫌になる。きゃーきゃー♪♪
反面、兵隊たちはヘトヘトで力尽きていた。軍服の上衣と襦袢(じゅはん、シャツのこと)を脱いだまま放っぽり出し、毛皮は汗でまとまってみっともなかった。それなのに、はしゃぎまくる巨メイドを見て、怒りを隠さぬ様子で兵隊は口を開く。

「……目も当てられなかったぞ、この靴!バカか!!」
『な、なによ?急に怒り出して」
「おこんだろ普通!きったねえんだよ!ボロ雑巾で拭くことさえしねえのか!砂まみれ!革は痛んでるし!いつもなにしてんだよ!足元にいる俺たちに『あいつの靴汚ねぇ』とかって笑われたいなら別だけどな。ところでおまえ、靴履き潰したら捨ててるだろ。俺たちを簡単に潰すもんな。怒られるの嫌だったらキチンと靴墨まで塗れよ。全く、俺たちがこんな汚くしたら引っかかれるぜ……」

巨メイドは顔を真っ赤にして、恥ずかしさで身体を震わせる。そして、ゆっくりと手を組むと思い切り腕を振り上げて拳を兵隊たちに振り下ろした。


『うううーーっ!!うるさああああいい!!!』


ドスン、という音がむなしく部屋に響いた。僕らは足元にいるんだ。
おしゃれは足元から、だよ……。






その二、「敵の作戦まるわかり?」




巨メイド、今度は兵隊たちではなく将校を捕まえてきた。
将校達は捕まるとピストルで自分を撃とうとしたりサーベルでハラキリしようとするので捕まえるには細心の注意が必要だった(もっともやろうとするものの怖くて出来ないらしい)。
将校は兵隊たちとは違ってちっとも騒がず、運命を従容として受け入れているようだった。もっとニャーニャー言えばいいのに、反応がつまんない。
そんなことはとかく、巨メイドはポケットの中からポトポトと将校達をベッドの上に取り出すと、よし、と言う小さい声を上げて満足そうな笑みを浮かべた。
将校達の近くにはとても大きなノートと筆記用具が置いてあり、長ーい線と大きな文字で「てきの作戦ちょうさ」とある事から、巨メイドがなにをしようとしているのか薄々察せられた。

『さあ、これで次の戦いは大丈夫ね!しっかり私の為に働いてちょうだい?』

将校達は堂々とした態度で、断固拒否する、黙秘権を行使する、と言いたげな表情で巨メイドを見上げると睨みつける。

『あなたたちも嫌だって言うなら、それでも別にいいわよ……?』

巨メイドはねっとりと胸を揉むと、ベッドに
ズシンと叩きつける。将校達はポーンと一度宙に舞うと二、三回ベッドにバウンドしてひっくり返ったあと、一ヶ所に集まりさらなる攻撃に身構える。

『わたしの自慢の胸に潰されたくなかったら、さっそく作戦を教えなさい。わるい子は……ウフフ』

将校達は諦めのため息を吐くと、円陣を組んでヒソヒソ話を始める。
数秒とかからずに話は決まったらしく、眼鏡をかけ、参謀モールを付けた参謀将校が前に出てきて大声を上げる。

「よろしい!では基本戦術の講義をはじめよう!」

巨メイドの表情がぱあっと明るくなり、拍手をして歓迎をする。
コレだけ見ればただのバk……もとい子供である。

「まさか知らないなんてことは無いと思うが、横陣(おうじん)と縦陣(じゅうじん)の特徴ぐらいは知っているだろうな」

参謀将校の問いに、巨メイドはぽかんとした表情をもって答える。
その様子に参謀将校、首をガックリ落とすと「本当かよ」と言いたげなため息を吐いてから、不機嫌な声音で説明を始める。

「……よろしい、では教えよう。先ず横陣とは!読んで字の通り部隊を横に展開させる陣形の事であるッ。利点としては、正面の敵に対しほぼ全ての部隊の攻撃力が向けられることである!欠点としては、縦陣等で正面突破を図られ陣形の分断をされてしまうと各個撃破されてしまうという点である。更に!横陣は機動力に劣り、部隊毎で高度な連携をせねば移動がままならないと言う面もあるのだッ」

目をパチクリさせて、もう何がなんだかわからない巨メイド。しかしそんなことには構わず、参謀将校は更にクドクドと講義を畳み掛ける。

「さて、反対に縦一列に部隊を展開させる縦陣は、機動力に優れている事と、重層的な構造を持つ事が利点である!この構造を持つ事により攻撃にあたっては先鋒が撃破されても後方からまた部隊を繰り出す事が出来、防御にあたっては突破されてもすぐに次の部隊が突破された穴を防ぐ事が出来るのだ!特に狭い狭隘部に展開する時に効果的である!しかし、この縦陣の欠点は!正面から会敵した場合、前にいる部隊だけしか戦えないのだッ。然るに!一部の部隊が敵と戦闘出来ない、所謂何も出来ない『遊兵』が出来てしまう事だ。また、幅が狭い事により包囲、殲滅される恐れがあるのだッ」

参謀将校はひと息ついてから、覚えたか?と途中から何処から出して来た指示棒をパシッと鳴らす。チリン、と参謀モールが鳴ると、巨メイドのしまりのない声が返ってくる。

『さ〜〜〜っぱりわかりませーん。いったいどういうことなの?』

その声を聞いた将校達は、鼻で笑ってボソボソと巨メイドの悪口を言い合い始める。
引きつった笑みや人差し指とかで明らかに馬鹿にしている様子が伺えた。怒りでプルプル震える巨メイド、なんとか我慢をして質問を投げかける。

『わたしはどんな作戦であなたたちと戦えばいいの?おしえて!!』
「おまえはバカか!縦陣と横陣を理解出来んヤツに何教えても駄目だろう。と言うかおまえはバカだ!決まり決まり!!ウドの大木とはホンッットによく言ったものだな。考えついたヤツは殊勲甲で二階級特進ものだ」

巨メイドは顔を真っ赤にして、怒りで身体を震わせる。そして、ゆっくりと手を組むと思い切り腕を振り上げて拳を将校たちに振り下ろした。


『うううーーっ!!うるさああああいい!!!』


ドスン、という音がむなしく部屋に響いた。戦いは力で勝つのか、頭で勝つのか。
ウーーーン、むつかしい。




おわり



靴のくだりをやりたかっただけだったりする