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引き続き,ポール・アハーン博士がレコーダーに吹き込んだ研究日誌を書き起こす.

2011/12/17

ジェスの部屋に私が越してきてから,初めての一人暮らしだ.
ジェスがいなくなって,この上なく寂しいし,ジェスの今が心配でたまらない.
もしもジェスの成長が止まっていなければ,ジェスは今,9フィートを超えているだろう.もっと正確には,289.6cmほどになっているのだろう.
私は,ジェスが無事であることを心の底から祈っている.

ジェスは妄想にとりつかれているだけなんだ・・・・・・私はそう思いたい.
しかし,月曜日の,ボスからの尋問.そして,部屋の調査.
これらは,未だジェスが見つかっていないということ,つまり,ジェスが無事に逃げ切っていることの何よりの証拠だ.
そして,ジェスの監視に関するデータベースも,そのことを物語っていた.

私は今の状況が怖い.
こんな時にジェスがそばに入れば,お互い励まし合えるのにと,思う.
しかし,2人が一緒にいるのは,あまりに危険である.

・・・・・・まずありえないだろうが,クリスマスまでには,落とし前がつかないだろうかと私は願う.
恋人として初めてのクリスマスを,私は何よりも楽しみにしていた.
私の母は,家で祝わないかと言っている.もしかしたら,私はそれを受け入れるかもしれない.
しかし・・・・・・1人で過ごしたくなるかもしれない.

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2011/12/20

今日,奇妙な手紙が届いた.母の住所で送られてきたのだが,文体がまるで違うのだ.
便箋はコンピュータで自作したものらしかった.
上の方と左の方に風船の集合があり,また,それら2つの集合も,また2つの小集合からなっている.
そして,それら小集合の間には雪の結晶がある.

文章は次のようになっている.
「ビッグ・クリスマス・パーティ! 家族みんなで楽しみましょう!
12/23から1/2までパーティの準備をしているわ! 場所は家の別荘よ.さあ,いらっしゃい!」
そして文末には『ママ』とサインがしてある.

私の母は,自分のことを『ママ』とは言わない.そもそも,家族の誰も,そうは呼ばないのだ.さらに,家に別荘なんかない.
第一私の母は,キャンプとかそういったものが大嫌いなのだ.

何かの間違いかと,私は最初そう思った.
しかし・・・・・・少し考えれば分かる.これはジェスからの手紙ではないか!
文頭に「ビッグ」,文末に「ママ」,2つ合わせて「ビッグママ」.これは,ジェスの愛称だ.

しかしそれがわかったところで,これは何を意味しているのだろうか.
場所はどこなのだろうか? どうやってそこに行けば良いのだろうか?

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2011/12/21

謎は解けた.風船と雪の結晶がカギだったのだ.これらは緯度と経度を意味している.
雪の結晶は小数点を意味する.そして上の方にある風船が北緯を,左の方にあるのが西経を意味するのだ.
さらに,上左に2つずつある小集合は,整数部と小数部を意味する.これで場所がわかった.
私は,機種設定を終えていない買ったばかりのスマホでグーグルアースを起動し,数字を打ち込んだ.
そこには小屋が写っていた.私はグーグルマップで,そこまでの道を調べた.

もしかしたら,クリスマスパーティが開けるかもしれない

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2011/12/23

私は今から,旅に出る予定だ.その前に,記録を残そうと思った.
会社の人には,家族のお粗末なクリスマスの計画のせいで,家族のいるアパラチア山脈の辺りに戻ることになったと伝えた.
研究日誌のコピーも持ち運ぶ予定だ.コピーはいくつも作り,色々な所に隠した.やつらは,全てを見つけることは不可能だろう.

さて,私は目的地でまで研究日誌を付けたくはない.ジェスが第一だ,そのことに集中したい.

(編注:以下はジェシカ・エゴルフ博士による動画データより音声を書き起こしたものである)

2011/12/23の夕方.
小屋に入ってきたのがポール以外だった場合の対処を終えたわ.
まあ,もしポールじゃなくても,ポールの関係者であることを祈るだけよ.

私の身に起こったことを,まとめてみようと思うの.これが初めての録画よ.
この動画を見た無関係な人は,きっと私の巨体に怖くなるかもしれないわね.

(編注:ドアのノック音が入った)
「どちらさま!?」(ジェシカは高い声でそう言った)
「ボクだよ,ビッグママ」(ドアの外から聞こえた)
「ポール! あなたなのね!」bv
(ビデオの中で,ジェシカはドアの方へと走り,ドアを殴り壊した.そしてポール・アハーン博士を抱き上げ,数分にわたり,熱いキスを交わした)

「ありがとう,神様!」
「ああ,無事でよかったよ! ところで,君の今の身長は,300cmくらいかな?」
(ビデオ中で,ジェシカは頷いた)
「ええ.本当はあと8mmくらい高いけどね.ところで,つけられてないわよね?」
「ああ,僕しかいないはずだよ」
「じゃあ,さっさと出ましょう.カメラを切るわ,もしものためにって――」
(編注:ジェシカはカメラの方へと歩き,ここでビデオは終了している)

(以下は,ポール・アハーンの研究日誌である)

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2011/12/24

至福のときを過ごしていた.ジェシカと私は肉体的にも精神的にも,お互い寄り添い,くっつきあった.私が到着してから,24時間ほどが経過していた.

彼女のカラダは素晴らしい.サイズ,体力共に,私よりもずっと優れている.それでいてジェシカは礼儀正しく,優しい女性である.

私の計算では,ジェシカは300cmに満たないくらいの高さになっているはずであった.現在,ジェシカは1日に3cmほど伸び,今日では303cmとなっている.そして明日には,306cmとなるのだろう.

今朝起きた時,私は焦った.ジェシカのいたところにはベッドと枕のみがあり,またコーヒーの香りが漂っていた.私がしばらくの間1人で時間を過ごしていると,ジェニスが小屋の入り口をくぐって,中に入ってきた.片手で軽々と薪を抱えていた.ジェシカはTシャツだけを身にまとっている.いかにもキツそうに,まるでスポーツブラのように,それを身につけていた.

「おはよう,リトルマン.あ,そのコーヒーは飲まないでくれる.私,もうちょっと飲みたくて」

「うん,分かった.ところで,この天気でその格好は寒くないのかい?」

「面白いことにね,それが全然大丈夫なのよ! 270cmを超えたくらいから,なんだか暑さとか寒さとか,あまり感じなくなったの.寒そうだなと思っても,他の人に見られても大丈夫な最低限の服だけでやっていけるのよ」

「ここには僕らしかいないよ」

「ふふ,確かにそうね」

私達はその後,やりとりを続けた.

この録音は,その日の夕方に撮っている.この後,ジェスのPCからクリスマスイブの礼拝をし,明日の朝に交換するプレゼントを確認する予定だ.

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2011/12/25

昨夜は非常にロマンチックな夜だった.ジェスは周りに置かれていた木を手で加工した.そして,どこからか持ってきたのか,クリスマスライトをその周りに巻きつけた.私達はその明かりに照らされながら,一夜を共にした.

今朝,私とジェスでプレゼントを交換した.私はジェスからネクタイを受け取った.母親がくれるような,よくある紳士用のネクタイだ.わざとそういうものを選んだと,ジェスは言っていた.

ジェスはまた,パジャマをプレゼントしてくれた.行為に至るときに着るためのものらしい.ダークブルーの,シンプルなパジャマだ.これを着るととても魅力的に映ると,ジェスは言っていた.

私からのプレゼントは,2000gのチョコレートバーと,探した限りでは最大サイズのチョコレート・ボックスだ.それと,就寝用の洋服をプレゼントした.普通の女性が着れば床についてしまいそうな,大きいネグリジェだ.しかしジェスが着ればそれはミニ・ワンピースとなってしまう.その他にも,パンツを何枚かプレゼントした.ジェスが成長しても履き続けられるような,ビッグサイズのパンツだ.

プレゼントを交換して,私達は抱き合った.しかし私にはまだ,とっておきのプレゼントがあった.

「ジェス,もう1つあるんだ」

私はポケットからそれを取り出して,その場でひざまずいた.

「ジェシカ・エゴルフさん.僕と結婚してくれますか?」

ジェシカ:私は言ったわ.もちろんよ! ってね.

ポール:ああ,そう言ってくれた(クスクスと笑っている).僕らはそれから,今後について話し合った.これから,どんなふうに歩むのか.でも,人生のことなんてサッパリわからない.

ジェシカ:ええ,私もそう思う!

ポール:僕がプレゼントした婚約指輪はサイズ可変で,普通の女性にとってのブレスレットくらいの大きさにまで変えられる.ジェスでも,これをぶち壊すにはかなり成長しなくちゃできない.さて,今の状況をどうやって終わらせられるか,僕には全く思いつかない.でも,打開策が見つかるってことは,確信している.

ジェシカ:ねえポール.この録画はいつか私達を助けてくれるかもしれないものでしょ.なら,もっと私のダンナ様っぽく,法律的に話してよ.まあ,そのためにこういうことをやっているわけでもないけど・・・・・・

ポール:うん,分かってるよ.

ジェシカ:あなたが分かっているっていうのは,わかってるんだけど.でもCPRラボと法的に戦うってことになったら,あなたは結構有利ね.あと,私は『ジェシカ・エゴルフ・アハーン』ってことにしたいわ.この名前が好きなの.

ポール:ああ,僕もその名前が好きだよ.

まだ色々とやるべきことが残っている.そして年明けは,僕らの幸福を引きちぎるかのように,刻一刻と迫っている.でも,僕はこの婚約者と一緒にできる限りのことをしながら,残りの日々を楽しむ予定だ.ああ,明日がもうすぐでやってくる.