タイトル
「恐ろしい天使様8」


「父上ー」

駆け足で娘のリアが入って来た。その後ろにリイもいる。
二人はニコニコしながら、僕の元へ寄ってきて、リアに摘ままれ手のひらの上に降ろされた。
娘リアは今7歳。リアは妻のリイに似て年を重ねるごとに美しさを増している。
リイに似たということは、将来有望だ。きっと将来美人さんになることだろう。
当たり前のことだが、僕のように小さく生まれてはこなかった。
今のリアの身長はこの前1200メートルを超えたらしい。
あそこに見える、部屋の柱に横線が刻まれている。
その横線は複数あり、徐々に高くなっている。
その一番高い位置にある、柱の横線が今現在のリアの身長だ。
この前畳の上からリアを見上げたが、7歳の子供でも山のような大巨人でリアの足指と横に並んだ時、あまりの大きさに腰を抜かしそうになった。
そのことを妻のリイに打ち明けたら

「うふふふー、王様私の身長1590メートルですよ。それに比べたら1200メートルのリアはまだまだ子供ではありませんか」

と言われた。
たしかに妻のリイに比べたら、娘のリアは小さく、リイの胸ぐらいの身長しかないが、僕のような1.7メートルしかない
人間から言わせるとリイもリアも大して変わらない。どっちも山のような大巨人に見える。


「父上は小さくてかわいいですね。お人形さんより小さいです」
「リア!あまり王様に無礼なことを言うのではありません。それよりなにか忘れてない?」
「そうだ。忘れていました。父上ー新しい文字を覚えたので、この本が読めるようになりました。今から読んで聞かせますね」
「そうか、リアは難しい本が読めるようになったんだな。成長したな~」
「えへへ、では読みますね」
「この世界では牛は人間の100倍の大きさである・・・・」

リイが本を読み始めた。感情まで移入してなかなか本格的な朗読だ。
うんうん、牛みたいな大きな人間と普通の人間の話か。
大きな牛娘が自分の飼い主にご飯をねだる話か。
なかなか微笑ましい話じゃないか。

「うん。おっぱい全体が痛くて少し固くなってきてるよ~。おっぱいたくさん出ると思う~。そんなこと考え出すと早く出したくなってきちゃった。
 ねえ~早く絞って~」

リアが艶っぽい声で体をくねくねさせながら、そんな卑猥な言葉を言う。
なにか変だ。この話なにかおかしいぞ!

「あいの乳輪に全身張り付き、下から上へ下から上へと体全体を強く擦り、あいの乳輪を愛撫する。うん・・・・ああ・・」

リアは艶っぽい声を出しながら、服越しで自分の胸を触り始めた。

「ストップ、ストープ!!」
「父上ー私なにか間違えましたか?」

リアは首を傾げている。

「いや、間違えてないかもだけど・・・リイ!!なにやってるの!?こんなこと娘に教えないで、これってエッチな小説家かなにかでしょ?」
「これは小さな殿方と大きなおなごが仲良くなる話で、地球と呼ばれる星で書かれたサイズフェチ小説です」
「とにかく、こんな卑猥な話を娘に読ませないで!」
「王様、リアもいずれは殿方と子作りをする日が来ます。ですので、今のうちから性教育は必要かと・・・
 それにこの小説は小さき殿方の扱い方や小さい殿方の心理などいろいろと学ぶことも多く、このような話を手あたり次第、リアに読ませております」

おいおい正気か!

「そんな・・・教育によくないよ」
「いえ、大丈夫です。王様のいた星では殿方とおなごは平等にいましたが、私たちのM2681では殿方は王様たったお一人しかおられません。
 ですのでリアが誤って子供を宿すことはあり得ません。それにリアがいつ王妃の身分につくのかわかりませんよ。
 ですので、早い段階からおなごとはなにか?殿方とはなにか?ということを理解していなければなりません」

なにも言い返せない。
最近リイに反論できないことが多く、完全に主導権を握られてしまっている。
まあ夫婦なんてこんなもんか。こんな感じの夫婦は自分のいた故郷でもいたし、別に珍しいものでもない。

「そうです王様。今日は家族全員で湯あみに行きましょう。そこで王様の性器をリアの間近でお見せください。
 殿方の体の構造を知るにはそれが一番手っ取り早いです。そうです、そうしましょう」
「父上の性器見てみたいですー」
「いいリア?殿方の性器はとてもデリケートなのよ。優しくそして包み込むようにしないといけないわよ。
 それに相手のことを思いやって、自分だけじゃなく相手にも気持ちいいと思わせることが大事で・・・・」

リイは娘に男とはなにか?女とはなにか?ということを永遠と話していたが、娘のリアは真剣に母の話を聞いている。
そんな感じで今日も少し変わった家族の団らんが続く。





****


暖かい~。気持ちい~。柔らかい~。
まるでこの世の天国だ。全てが最高だ。

ゴゴゴゴゴゴゴ

気持ちよく安らかに眠っていたのに突然の音。それに浮遊感。
あまりの環境の変化に驚き、起き上がろうとしたが体が動かない。
金縛りにあったみたいに指すら動かせない。
目を開いてみても辺りは真っ暗でなにも見えない。
なにが起こったのかわけがわからないまま、浮遊感が続いた。
ピカッ!っと光が入ってきた。真っ暗闇から一転、真っ白な世界が広がり眩しい。
あまりの眩しさに目を細めていると、浮遊感が落下に変わる。
どんどん落ちる。地獄の底まで体が落ちて行く。
怖い・・・どこまで落ちるんだ。
だが、落下はすぐに収まった。

ゴオオオオオオオオオ!
スウウウウウウウンン!

うるさい!あまりのうるささに思わず耳を塞ぐ。
耳を塞ぎながら恐る恐る目を開いてみると辺り一面肌色。
平地ではなく傾斜のある肌色の大地。
前方は崖のようになっており、後側もかなりの傾斜・・・・。
轟音が絶え間なく響いており、崖の先から轟音が聞こえてくる。
さらに地面は若干ベタベタしている。これは脂?それとも・・・

グチャアアア

「うわ!!化け物!!」

崖の下にある、真っ赤な地面が裂けると裂け目から真っ赤な化け物が姿を現した。
その化け物は真っ赤な裂け目を一周撫でまわすと、裂け目に戻っていき裂け目が閉じ元の形に戻った。
化け物が撫でまわした裂け目はキラキラ光り、独独の匂いが広がっている。

だんだん目が覚めてきて頭が回ってくるとここがどこなのか理解した。

ここは鼻の上だ!

鼻の上に僕は孤立している。
鼻息に吹き飛ばされないよううつ伏せになり、鼻の上から鼻の穴を覗き込む。
鼻息は轟音と共に空気を取り込んでいる。
このものすごい量の空気を取り込む二つの大きな穴。
穴の奥には鉄棒のような太い鼻毛が何本も生えており、長さは僕の体の何倍もある。一番短そうなものでも数倍の大きさはある。
鉄棒のように硬くそして太い鼻毛が空気が吸い込まれるユラユラと簡単に揺れている。
埃みたいな僕が吸い込まれでもしたら、一大事だ。
死なないとはいえ、体内に取り込まれたらどうなるかわからない。
そう思うと恐ろしくなり、鼻の上を匍匐前進しながら鼻の傾斜を下がる。
鼻にしがみつくように匍匐前進し、その先に見えたのが目。鼻の傾斜の奥に目がある。
まつ毛は鼻の方向を向いており、目はつぶっている。
そのまつ毛も鼻毛同様鉄棒のような太さで硬く頑丈そうな毛。
この目の大きさは少し小さい。
これは子供の目・・・・そうだリアだ!!。このつぶっている可愛い目はリアの目だ。
自分の娘なんだから間違いない。
そういえば、昨日リイとリアで二人一緒に寝たっけか。
隣を見てみると白い巨体が見える。あれはリイなのだろう。
すると寝ぼけたリアにつままれ、鼻の上に落下したのだろう

「こらリア!起きろ!!僕を殺す気か!!」

ゴオオオオオオオオオ!
ゴウウウウウウウウウ!

ダメだ。鼻息で声がかき消される。

「うーん・・・父上の匂いがします・・・父上・・・」

ダメだ。まだ眠っている。

「おーい!起きろ!」

叫びながら、鼻の地面をぺちぺちと叩く。
地面は脂で少しヌルヌルしていたが、汚いものだとは思わない。
自分の実の娘だから、自分の体を触っているような感覚に近い。

「うーん・・・くすぐったいです・・・」

グワー!っと手がやって来た。
くすぐったい?
つまり僕が鼻の上で動き地面を叩いたことにより、リアがかゆいと思って鼻をかきにきた・・・・。

「まずい逃げないと!ってやっぱり無理だよなあああ」

もちろん逃げれない。娘とはいえ巨人なのだ。リイと同じく圧倒的力を持った娘にされるがままである。

ポリポリ

鼻の上が大地震が起こった。
僕は鼻の上にしがみつき、なんとか難を逃れた。
それにしても運がよかった。
もし指か爪に直接当たっていたら、鼻から落下し埃のように吹き飛ばされ大変なことになってた。
あ!?でも僕って死なないのか・・・。でもこの距離を落ちるとなるとかなり怖いな。
鼻の地面を叩くと指がかきにくるし、かと言ってリアの顔から飛び降りるのも怖い。
なので、リアの鼻の上でじっとし待つことにした。

「うーん・・・ふわー」

口が裂るとものすごい音。
ちょっとしたあくびでもこの至近距離から聞いたらかなりうるさい。
だって鼻の上にいるんだ。口なんてすぐそこだ。耳元で大声で叫んでいるような音だった。

「・・・・あれ?もしかして父上ー?」

大きな可愛い二つの目が寄り、僕を見つめる。
娘リアという一人の人間と話すというより、二つの目玉としゃっべているような感覚。
至近距離から二つの目玉に見つめられると迫力と威圧感がすごいが、声を聞いて安心した。
この声はまさしくリアの声。
至近距離から見た、目が怖くてもいつも聞いてるリアの声を聞くと安心する。
僕の娘は決して故意に危害を加えない。そう徹底的に教育されているし、本人もそんな気は全くない。
僕のことを慕ってくれるいい娘だ。

「父上ーもしかして私の鼻の上で探検ごっこですか?」
「違うよ。リアが寝ぼけて鼻の上に持って行ったんだ!」
「えーそうなんですか?ですが探検ごっこも面白いですよ。
 ちょうどここに二つの洞窟があるから、入って探検してくださいー」

恐ろしい突風が吹き荒れる洞窟に入るのは遠慮したい。でもリアは無邪気に軽い気持ちで僕を誘っている。

「洞窟はもちろん私、探検家は父上ですー。この洞窟の奥には宝があると思いますよー父上―ぜひ探してみてください」

鼻の奥には確かに宝がある・・・というより、リアの鼻の奥にあるのは鼻くそ・・・。
といってもかなり小さく細かいやつで、奥の方の鼻毛にくっついている。
小さいと言っても見えるか見えないかぐらいの細かい鼻くそ。でも僕からしたら膝ぐらいの高さもある巨大鼻くそだ。
こんな大きな鼻くそ、抱いてかかえたくないし、娘のやつとはいえ意味もなく触りたくもない。
太い鉄でできたように見える無数の鼻毛の隙間をかいくぐり、巨大ジャングルジムの鼻毛を登り、
ようやくたどり着いた先にあるのが娘の鼻くそ・・・。
やっぱりリアの鼻の中を探検するなんて嫌だー!
そもそもこんな突風が吹き荒れる鼻の穴を探検できるわけないだろう!
入る前に吹き飛ばされるわ!
でもそんなこと言うとリアが悲しむので言うのはやめた。
前に似たようなことがあり、きつく叱ると、目から大洪水が発生し、涙にさらわれてしまい恐ろしい目にあったのだ。
それに「申し訳ありません!!父上―!!」と大声でエンエン泣かれ、口からは泣き声という名の轟音が響き、気を失いそうになった。
だからリアを泣かしてはいけない。なのでどうしても怒りたい時は妻のリイに頼むようにしている。
その方が効果もあるだろう。
なぜなら僕みたいな小さな小人が怒ってもあまり怖くないと思うからだ。

だがこの時アルトは勘違いをしていた。アルトが怒るとなぜリアは泣くのか?
それはアルトが王であり、絶対的な力を持っているからだ。
肉体的には子供であるリアが勝っていても、父であり王でもあるアルトを殺せない。
巨人たちの考えでは、こんなに小さいのに殺せないどころか危害すら加えることができない。
ものすごい力をもった王。それがアルト。
そういう認識だし、優しいアルトが怒るとリアは本当に怖かったのだ。
優しくあまり怒らない人ほど、そのギャップに驚き怖く感じる。
だからリアはアルトに怒られるのを恐れているし、大好きな父に嫌われたくない。そんな気持ちなのだ。

「父上ー早く入って探検してくださいよー」

ニコニコ顔で顔を近づけてくるリア。
顔全体から、鼻と口、そして口が見えなくなり、二つの鼻の穴が目の前一杯に広がり、そして右の穴が見えなくなり、
今は左の鼻の穴しか見えない。どんどん鼻の穴が近づき拡大され、鼻の穴の鼻毛が一本一本はっきり見えるようになる。
この大洞窟に吸い込まれる!!もしかしたら娘の鼻の穴の中で遭難するかもしれない。
いや吸い込まれ、咳き込むかも・・・。どっちにしろいい未来は待っていない。


ゴオオオオオオオオオ!
ゴウウウウウウウウウ!

近づくにつれ、ものすごい突風が吹き荒れる。
踏ん張っているにもかかわらず、足はリアの鼻の方向に向かってズルズルとスライドしている。
このままじゃ鼻に吸い込まれる!!

ドスウウウウウ。

「きゃ!」

鼻の穴が視界から消え、今度は真っ暗になった。
なにか大きなものが上から降って来て、その先端部分がリアの鼻に当たるが一瞬見えた。

「こらリア!王様が困っていらっしゃるじゃない!」
「申し訳ありません母上・・・」
「ほら、私より王様。王様にちゃんと謝りなさい。王様のお体にもしものことがあったらどうするの!」

視界がもどる。真っ暗闇の正体はリイの手ひらだ。
リアの鼻に吸い込まれる寸前で、リイが気づき手のひらを上から被せ僕を守ってくれたようだ。

「父上ー申し訳ありません・・・」

リアも自分の過ちに気づいて謝ってくれたし、これで鼻の穴を探検しなくて済む。
やれやれって感じだ。

「王様を吸い込んだらどうするの!こんなことしたらダメよ!」
「はい、母上ー」

うんうん、その通り。やっぱりリイは僕の気持ちがよくわかっている。

「どうせ遊ぶなら自分の胸で王様と遊びなさい。そこなら安全だから」
「はい、そう致します。母上ー」

え!?胸ってあの背中の反対側にあるあの胸?
鼻の穴の中じゃなくて、胸で遊ぶ・・・。
胸でどうやって遊ぶんだ・・・・。

「殿方に胸を揉んでもらうと大きくなるそうよ。リアも大人になったら殿方をお迎えするのだから、
 胸を大きくしないといけないわ。だから王様を胸の上に降ろして、お願いして今から大きくしてもらいなさい」
「母上もそうおっしゃっていますし、父上―私の胸で探検ごっこを致しましょうー。
 もちろん山は私。父上―が探検家です」

僕はリアの手から全速力で逃げたが、あっという間に追いつかれ、そのまま胸の上に乗せられ、
まっ平らなリアの胸をマッサージさせられた。


***



縁側にリイと僕が二人で腰掛け、リアが一人ではしゃいでいるの遠くから眺めている。
リアはとても楽しそうで、さっきから飛んだり跳ねたりしている。
その姿を見てると僕にもあんな無邪気な時期があったのかなーと思うが、その頃自分がどんな気持ちで遊んでいたのか忘れてしまった。
子供は不思議である。ただ走るだけなのにあんなにも嬉しそうにできるんだろう?なぜ?意味もなく急に走り出すんだろうか?
そんなことを考えながらも風が吹き木々が揺れる。
木が揺れザワザワと葉っぱが擦れる音がすると木が僕に対してなにか伝えようとしているのではないかと思うときもあるが、
木がなにを言っているのか僕にはわからない。そんなことを考えているとただ意味もなく時間だけが過ぎていく。

「父上―、見てください。トンボです。トンボを捕まえました」

リアは親指と人差し指でトンボをつかんでいた。
サングラスをかけたお化けのような巨大怪獣がリアの指でもがいていた。
たぶんこのトンボは昆虫界でもトップの位置にいる強い昆虫なのだろうが、
トンボはリアの指の長さぐらいしかなく、リアの指に逆らうことができなかった。

「リア、すごい強そうな虫だけど指痛くない?危ないから放しなさい」

リアは白い歯を見せながら笑い、トンボを自分の目の前に持って来てケラケラ笑っている。

「父上ー、こんな小さな虫、なんともないですよ。父上は本当に心配性ですねー」

トンボは最初、リアの指の間でもがいていたが、弱ってきたのか動きがだんだん鈍くなってきた。

「リア、王様が怖がっていらっしゃるから放してあげなさい」

そうリイに言われるとリアはトンボを指から放した。
たが、そのトンボは頼りなくフラフラと蛇行で飛び、最終的には地面に墜落した。
あの巨大なトンボもリアの持つ指の力に耐えきることができなかった。
トンボは死んでしまった。
しかしトンボのことなど気にせず無邪気に走り出すリア。
その足元を見るとアリを何匹も踏みつぶしている。
アリの行列の上に不幸にもリアの草履が直撃し、アリが何十匹もが一度にペシャンコになった。
そのアリの姿は無残である。まさかアリも自分たちが小さな7歳の女の子に踏まれて死ぬとは思ってもみなかったことだろう。
大量にアリを殺した、リアは足元なんて気にした様子はない。
リアはアリなんかに興味なく蝶を追いかけている。どうやら蝶を追いかけてる最中に足降ろされ、その巻き添えをくらってアリは踏まれたようだ。
その踏みつぶされたアリは僕よりもかなり大きく、馬の倍ほどもある巨大な怪物なのだが、リアの持つ恐るべき体重には勝てなかったようだ。

「リア、ちょっとこっちにきなさい」
「はーい、いかがなさいましたか?父上ー」
「リアこれを見て、アリが沢山死んでるよ。さっきリアが踏んでこうなったんだ」
「それがなにか?・・・」
「いや、だから!アリがかわいそうだから、もっと気をつけなさい」
「父上ーそれはできません。下ばかり向いていたら首が疲れてしまいます。それにアリを何匹踏もうと変わりは沢山います」
「じゃあ、僕がもし地面にいたらどうするの?リアは父のこと踏むの?」
「父上はアリとは違います。そんなことするわけありませんよ~。それに父上はたった一人しかいない殿方ではありませんか。
 働きアリとは全然違いますよー。あ!また来たー待て~」

そう軽く言ってまた走り出すリア。
アリを踏んだことについて、リアは深く考えてはくれなかった。

「リイ、ちょっといいかな?」
「はい、王様なんでしょうか」
「リアも大人になると僕みたいに結婚するんでしょ?」
「はい、左様です」
「その結婚相手はリアと同じ大きさの人間なのかな?」
「いえ、違います。王様と同じ大きさの小さな人間です」
「じゃあ、さっきアリを潰したみたいに人間を踏んだりしないか心配だよ。大丈夫なのかな?」
「それは絶対に大丈夫です。リアと子作りできる殿方は宇宙でたった一人しかいないはずです。ですからそのようなことするわけがありません」
「普通の人間は?結婚と関係のない普通の人間はどうなるの?」
「それは、さっきのアリと同じような運命をたどるのではないでしょうか。リアは多くの人間を踏むことになるでしょうね」

なんてことだ。リアが将来そんな大量殺人をするなんて・・・・

「それは絶対ダメだよ。やめさせないと!」
「王様、さっきリアは言ったではありませんか。アリには沢山変わりがいると。私たちと生殖行為のできる殿方は別ですが、
 それ以外の人間などそこらへんにいる、アリと似たようなものです」
「なんてこと言うの!!リイ見損なったよ!!」
「ですが王様、私たちが足を降ろすと必ず何かを踏みます。それはアリや草やもしくは人間の町かもしれません。
 ですが、それは仕方のないことです。それは王様とて同じこと。王様はアリを一度も踏んだことがないのですか?
 いえ、そんなことありません。必ず一度ぐらいは虫を殺しているはずです」
「確かにそうだけど・・・でも・・・」
「王様リアを見てください。あの子は故意に虫を殺しているわけではありません。走っている最中アリを踏んだだけです。
 トンボも同じ、ちょっと触ってみたかっただけでしょう。アリやトンボの命を取るためにわざと踏んだり、強く握りしめたわけではありません。
 そんな残酷な子に育てたつもりはありませんから、ご安心ください。
 ですので、小さな人間の街に行く機会があろうとも、故意に人間を殺したりはしないでしょう。
 もちろん歩いている最中、巻き込まれて死ぬ者も多少は出るでしょうが、それは仕方のないことだと私は思います」

僕はなにも言い返せない・・・でもなにか違う気がする。
でも心の中がもやもやする。

「でもさ、それじゃあ間違えてリアの婿さんも踏みつぶすんじゃない?そうなったら・・・」
「王様、決してそのようなことはありません。私たちと生殖行為のできる殿方は特別です。
 お姿を拝見したり、匂いを嗅げばすぐわかります。それに相手のことを念入りに調べ上げてから迎えに参るので、
 誤って踏みつぶすことはありません。それにもし万が一踏んでも、殿方は殺せません。
 それは王様が一番ご存じのはずです。お忘れですか?」

あ・・・そうか。そういえば僕は死なないんだった。
リイやリアたちにすごく大事にされてるから、死の実感がなくなり時々忘れる。
死なないとすれば、リアの婿は隣近所の家々をリアたちに踏みつぶされるのを指をくわえて見上げることになる。
リアの婿は死なないが、友や家族がもし踏みつぶされたら、婿はどんな気持ちになるんだろう。

「リイ・・やっぱり思ったんだけど・・・」
「父上ー蚊です。蚊を殺しました」

僕の声はリアにかき消されてしまった。
リアはその大きな手のひらにへばりついた蚊を見せてきた。
蚊は無残にもリアの手にペシャンコになり、真っ黒に潰れていた。
その蚊の大きさは馬の二倍ほどあるが、子供のリアの小さな手と比べても蚊はかなり小さく、
その手で叩かれると一瞬でペシャンコになるのもうなずける。
ちなみに僕は蚊に刺されない。
僕なんかよりもはるかに膨大な血を蓄えている、巨人たちが沢山いるから僕は刺されないし刺しても意味がないのだ。

「さっき、リアは故意に蚊を殺したよね?」

さっきと言ってることが違うぞ。と言った口調でリイに抗議した。

「王様・・・さすがに蚊は・・・あの子は刺されてかゆくなるのが嫌なのでしょう・・・王様は蚊を殺したことがないのですか?」
「それは・・・・あるけど」

ブーーーン!!

「うわ!」

怪鳥のような巨大な真っ黒な鳥・・・。
いや怪鳥じゃない。ただの蚊だ。蚊がまた飛んできた。

今度はリイの手の甲に蚊が止まった。

ブスリ!

蚊の持つ鋭い針がリイの肌に刺す。すると蚊の腹がどんどん赤くなり、リイの血を吸血している。
リイの持つ厚い肌を針が貫通し、その中の血を吸い上げる蚊・・・。たかが蚊でも恐ろしい化け物だ。
もしも僕が蚊に血を吸われると・・・・・全てが吸いつくされ、干からびてカラカラになった死体を想像した。
おお・・・こわ・・・。蚊に吸われなくて本当に良かった。もし吸われるのなら命がいくつあっても足らないだろう。
まあ蚊からしたら、僕の血なんて吸っても全然足りないのだろうが。
刺されていることをリイに教えてあげようと思った次の瞬間。

ドシイイイン。プチュ!!

爆風が突然吹いたので、思わず尻餅をつく。
反対側のリイの手が蚊を叩き潰した。
娘リアと同じようにリイも蚊を叩き潰し、手のひらに潰れた蚊がシミになっている。
血を吸い終わった後に蚊を潰したので、リイの皮膚が膨れ上がっている。
リイが刺されたところは肌が黄色く変色し、僕の体の何倍にも膨れ上がっていた。
そして手でポリポリと刺されたところを掻いている。

「あ・・・申し訳ありません。そこに王様がいらっしゃいましたね。お怪我はありませんか?侍医を呼びますか?
大変・・・どうしよ・・・」

リイは手を掻きながら、心配そうにのぞき込んできた。

と・・・とにかく!将来リアに踏みつぶされる人が一人でも少なくなるのを祈るばかりだ。