タイトル
「恐ろしい天使様11」




「料理長。大変です! 一大事ですよ!」

部下の一人が小走りで走って来て、慌てた様子でそう言っている。

「ほこりがたつから走らない」

料理長はその部下の顔を見ず、素っ気なく返事をした。
食材の点検や一週間の献立を考えていたため、部下の顔を見る余裕はなく、それほど重大な要件とも思っていなかった。

「王妃様です。王妃様がこちらに来られます!」
「え!?王妃様が?」

王妃様が直々に調理場に来られるなんて初めてだ。
なにか問題でもあったのだろうか?

後ろを振り向くと丁度王妃様が調理場に入って来ていた。
座って日誌を書いていた、料理長は慌てて立ち上がり、王妃様に向かって深々とお辞儀をする。

「これはこれは王妃様。なにかご用がおありなら、こちらから向かいますのに、直々に足をお運びいただけるとは恐れ多いことでございます」
「私もいるよー」

王妃様の横に姫のリア様もいた。
リア様はちょうど王妃様の真後ろにおられたので、挨拶が遅れてしまった。
料理長は慌ててリア様にもお辞儀をする。
お辞儀をし終わると、王妃様と目が合う。すると思いもしなかったことを王妃様は言い出した。


「料理長。夕食のお米を炊いた者をここに連れて来て」
「ご夕食を作ったものですか?」
「王妃様。ご夕食になにか問題でもありましたか?」

王妃様が直々に調理場に来られるなんてただ事ではない。
カレンの炊いたご飯に何か問題でもあったのか? 
もしカレンの作った料理になにか問題でもあったなら最悪、私の首が飛ぶ。
私の首ばかりか、多くの部下にも疑いがかかり料理人全体の信用問題になる。
やはり、幼いカレンを起用すべきではなかったか。

「いいから、早くカレンを」
「はい。ただいま、すぐに」

カレンを呼びに調理場の奥に探しに行く。本来なら自分の部下に行かすところだが、王妃様直々の指名のため今日ばかりは自分が探しに行った。
カレンがいたのは料理場の奥の奥。隅っこの方でカレンは一人寂しく、もくもくと皿洗いをしていた。

「カレン。王妃様からお召しがあった。早くこっちに来なさい」
「お・・・王妃様がですか? ですが・・料理長、まだお皿が・・・」
「そんなのいいから、早く来なさい。さあさあ急いで」

カレンは手を拭きながら私の後をついてきた。

「王妃様。カレンを連れてまいりました。それでカレンになんのご用でしょうか?」
「私じゃないわ。このお方がカレンに用があるのよ」

王妃様の手が開かれていく。
するとそこには小さな小さな人間が乗っかっていた。

「お・・王様!! みんな聞いて。王様のおなりだ!!」

料理長の声を聞いた全ての料理人が一斉に作業を止め王妃様に注目した。
そして状況を理解したものから、徐々に頭を下げ始め、調理場にいた者。そのすべてが頭を下げるまで、それほど長い時間はかからなかった。


「「「王様!!」」」


皆、王妃様の前に集まり、一斉にお辞儀をする。


それは料理長とて同じ。
料理長も王妃様の手の上にいらっしゃる王様に向かって、深々と頭を下げていた。

王妃様でさえ、調理場に来られるのは初めてなのにまさか王様が直々に来られるとは・・・・
それに王様はお部屋から出られることさえ珍しく、この時初めて王様のお姿を拝見した人も多いだろう。

「カレンは?」

王様直々のお言葉だ。その一言一言が重く感じる。

「はい、こちらがカレンです」

カレンの背中を押すようにして王妃様の前に出した。

「・・・?? 料理長。王様はどちらにいらっしゃるのでしょうか? なんでみんな王妃様にお辞儀を? 王様はいないと思うんですけど」

皆、王妃様の手におられる王様に向かって、お辞儀をしているのに、カレン一人だけが状況を飲み込めていないようで浮いていた。


「王様に無礼であろう!王妃様の手のひらをよく見なさい!」
「え!?これが王様?小さい!」


****

リイの手のひらに握られ、調理場にやってきた。
リイの手が開くとカレンがこっちに向かってくる最中だった。
目の前にはカレンがいる。
踏まれそうになったこの前とは違い、カレンは僕のことを見てくれている。

「ご飯粒? え!? これが王様? これが本当に王様なんですか!」
「これカレン! 王様に無礼ではないか!! 申し訳ありません。王様。なにも知らない子供が言ったことですので、なにとぞ・・・」

料理長はカレンの頭を押さえつけるようにして無理やり頭を下げさせている。

「いや、本当に小さいんだ。仕方がないよ」

カレンは僕があまりにも小さかったことに驚き、料理長に怒られたこと、そしてなにより王である僕に恐れをなして、うつむいてしまった。

「カレン。僕のことが怖い?」
「いえ、決してそのようなことは・・・」
「じゃあ、僕のこと見れるよね? 僕のことよく見て。これは命令だよ」
「はい・・・」

カレンは小さい子ながらも、僕からしたら像の体よりも大きな目でじっと僕のことを見つめている。
そんなカレンに向かって手を振った。
なるべく、カレンを怖がらせないように優しく笑顔で。
それが功を奏したかどうかは定かではないが、カレンがリイの手に近づいてくる。
鼻先がリイの手につきそうなぐらいカレンが近づく。

そのカレンの鼻という洞窟は、アリ以下サイズの僕を簡単に吸い込めるぐらい大きな洞窟で、その大きさに見合う空気が高速で出入りしている。
その鼻の持つ力強さは僕なんかが敵わない。小さい子供の鼻でさえ僕を簡単に吹き飛ばせる。
もしかしたら100人ぐらいの小人を一瞬で吹き飛ばせる威力をこのカレンの鼻は持っているかもしれない。
僕一人なんか相手にならないぐらいカレンは強い。
やはりカレンも巨人の子。リアと一緒だ。
改めて近くで見るとリア同様カレンもかなり大きく見える。
僕の娘がこんな巨人だなんて、たまに信じられなくなるが、カレンを見て理解した。
やはり、ここは巨人の星だ。
巨人の子を生んだのは巨人リイだが、その種を提供したのは僕でもある。
その巨人の子供が僕に恐れをなし、僕みたいなコビトが王だと言ってもなんの疑いも持たず、えらい人だと信じて疑わない。
そんな様子を見て強く感じた。
僕はもう普通に人間じゃない。この巨人族の一員だ。体は小さくともカレンの父でもあり、多くの種を提供した男。それが僕だ。
カレンという純粋な目を持った子供を見て強くそう思った。

リイにアイコンタクトを送り、テーブルの上に降ろしてもらう。
テーブルの上からカレンを見上げながらこう言った。

「僕の前にカレンの手を」
「これカレン! 王様のおっしゃることが聞こえぬのか!」

カレンは料理長のお叱りに驚き、慌ててしまったため、テーブルの上に勢いよく手を降ろしてしまった。
その振動で僕はよろめき、こけてしまう。

「王様。お怪我はありませんか?」

その様子を見ていた料理長はとても心配そうな目をしている。

「これカレン! 王様のお体に傷をつけるとは何事! 謀反になるよ!!」
「王様。申し訳ありません!」

カレンは顔を青ざめながら、勢いよくお辞儀をした。

「いや、少しふらついただけだよ。カレンは悪くない。それよりカレンの手を見せて」

今度はゆっくりと指が前進してきた。
その指先は赤い血でにじんでいる。
あの時の町を襲った。傷だらけの竜だ。ようやく再開できた。

「痛くてかわいそうだから、治療したいんだけどいい?」
「え?・・・はい・・・」

カレンはなにが起こっているのか、よくわからなかったようで、生返事のような感情のこもっていない返事をした。



モップを大きくしたようなブラシを手に取り、まるで酒が入った大樽のように大きな樽の中に勢いよくブラシを突っ込んだ。
この樽の中身は全部あかぎれの薬だ。そのツンとした辛い匂いが鼻をくすぐる。

カレンの指を壁に見立てて、ペンキ塗りと同じ要領でカレンの指に薬を塗っていく。
それでも傷ついた指のほんの少ししか塗ることができず、上の方は塗れない。高い爪付近に薬を塗るには大きな梯子が必要で自力では届かなかった。

でもこれでカレンに触れたし、僕のことを見つめてくれた。
これで安心だ。
もし僕がカレンの足元にいても次からはすぐ気づいてくれる。
カレンの傷も治療できるし、カレンと触れ合える、まさに一石二鳥だ。

大出血した痛々しいカレンの指を一つずつ丁寧に塗っていく。
右手の治療は終わった。といっても僕が届く範囲に過ぎないが、それでも結構な肉体作業だ。
この竜のような指を自由に使いこなせる、カレンが少しうらやましい。
僕が自分の指とカレンの指をくっつけてみたが、僕の指はカレンの指紋と指紋の間にすっぽり入るほど小さく、その差は歴然。
さすがは僕の娘・・・おっきく成長した。

「もういいよ」

リイにそう言うとリイの手がカレンの手をつかむ。
傷ついた竜より一回り大きま真っ白な竜が傷ついた竜とともに天に昇っていく。
まあ、要するに僕が塗りきれなかったカレンの指をリイが塗ってくれている。
僕が十分かかってようやく塗れた指をリイは一分もかからず簡単に塗っていく。

「カレンも女の子なんだから、もっと自分を大事にしなさい。この薬を置いていくから、これからはもっと指を大切にするように」

カレンは自分が何をされているのかいまいちわかっていないようで、相変わらずきょとんとしていた。
するとすかさず料理長が叱りつける。

「これ、カレン返事をなさい!」
「・・・は・・はい!」

慌ててカレンは返事をした。

「あと、これカレンにあげる。受け取るように」

と僕が言うとリイが包丁の入ったケースを開け、カレンに見せた。
そのケースの中に入っていたものは包丁一式セット。
普通の大きさの包丁よりも少し小さく、子供用の包丁が一式綺麗に揃っていた。
その包丁の平に金色で王室の紋章が刻まれている。これは王室から直々贈られたという証である。

「こ・・これは・・・王室の紋章が入っています・・・。王様。これをカレンに差し上げるのですか?」

紋章の入っている包丁を見て、動揺している料理長。

「さすがになにかの間違いでは? 王室の紋章が入った物は
 功績を上げた者にしか与えられない特別なもの。名誉の証なんですよ。それをカレンなんかが・・・・」
「黙りなさい。料理長」

リイが料理長を鋭いまなざしで睨んだ。

「王様が直々にカレンの功績を認め、この包丁を差し上げるとおっしゃっているのよ。それを断るの? 王様に「そんな物はいらぬ。
 持って帰れ」ということ? そういう意味に取られるわよ」
「いえ、王妃様。決してそのようなことは・・・」

料理長は小さくなって頭を下げた。

「いやね。カレンが史上最年少で試験に合格して調理場に入ったって聞いてね。カレンになにかしてあげたいと思ったんだ。
 で、リイとリアに聞いたら包丁がいいって教えてくれたから持ってきたんだけど、ダメかな料理長?
 せっかくリアが選んでくれたんだけどなあ・・・」

なんかピリピリした雰囲気になりつつあったので、できるだけ優しく料理長に問いかけた。

「いえ、決してそのようなことはありません。大変光栄なことでございます・・・ほらカレンなにしてるの? 早く受け取りなさい!」

無言でケースを受け取ったカレンは笑いもせず泣きもせず無表情だった。
なにが起こっているのか全然理解ができていない。そんな様子だった。






*****


「わあーすごい!これが王室の紋章ね。金よ。本物の金! へー」
「もしかしたら、王様の匂いがこの包丁に少し移っているかも! スンスン・・スゥー・・うー・・なにも匂わない・・」
「ちょっと!どいて!くんくんくん・・・ホント・・なんにも匂わないわ・・・ねえ、カレン? 王様ってどんな匂いだった?」
「そうよ。カレン。遠くて王様のお顔がよく見えなかったわ。ねえどんなお顔だった?」

「「早く教えなさいよ。カレン!!」」

先輩たちがワイワイと色々言いながら、王様から頂いた包丁を眺めていると思ったら、今度は質問攻め・・・
こっちだって頭の中がぐちゃぐちゃでパニックなのに一気に色々言われたって答えきれない。正直勘弁してほしい。

「カレンお願いがあるのだけど、私の持っている包丁と交換しない?
 私の持っている包丁はね、一流の職人が私のためだけに作ってくれた最高の包丁なのよ。ねえいいでしょ。これと交換して」

普段、私に笑顔なんて向けない先輩が、まるで猫がご飯を欲しがるような甘えた声で話しかけてきた。

「なんてこと言うの! これは王様がカレンに渡したものよ。カレン以外の者がこの包丁を使っているなんてことがわかったら王様がお怒りになるわよ。
 ダメに決まってるでしょ! さあ仕事仕事」

「「はぁ~い」

「カレンは私と一緒に来るように」

料理長が先輩たちを追い払い。料理長の部屋に来るよう言われ部屋に入る。
ふすまを閉めると早々こう私に聞いて来た。

「カレン、王様が小さなお体だって知らなかったの?」
「はい・・そうです。知りませんでした・・・」
「本当に心臓が止まるかと思ったわよ・・・はぁー・・・あなたったら王様に無礼な態度ばっかり取るんだもの。
 一瞬、頭がおかしくなったんじゃないかと疑ったぐらいよ・・・」
「申し訳ありません・・・」
「それにしても王様はお優しいお方ね。あなたがあんなに無礼な態度を取ったのに
 少しも気分を害されていないように見えたわ。でも王妃様と姫様は少し機嫌が悪くなっていたわね。こう、キッって眉上がっていたわよ」
「わ・・・わたし・・・大丈夫なんでしょうか?」
「まあ、大丈夫なんじゃない。王様がもしお怒りになられたら、
 カレンはもちろん、私だって責任を取らされて首をはねられるかもだけど、
 幸い王様はご機嫌だったし、なにも咎められなかったから、多分大丈夫よ」

もしかして、私って危機一髪だったの?
下手したら死んでいた・・・。そう思うとものすごく怖い。やっぱり王様は王様なんだな。
本当に恐れ多いお方。

「でも、なんであなたみたいな見習いが王様の目に止まったのかしら? カレン。なにか心当たりある?」

私は「わかりません。わかりません」と何度も何度も料理長に繰り返し答えた。その言葉を聞いた料理長は首を傾げるばかりだった。

料理長にはそう言ったが、一つだけ心当たりがある。
それはもちろん王様のお部屋にこっそり入った時のことだ。
だが、そのことだけは口が裂けても言えない。いや命令されれば、言うしかなくなるが、命令されない限り誰にも言わないつもりだ。
王様の部屋にあった小さな町は実はあれは王様の住居だったんじゃないかと思う。
あの小さな町の中に王様がいらしたのに私は町をほんの少し壊してしまった(カレンは気づいていないが、町は大きな被害を受け廃墟だらけになっている)
その様子を王様が見ていて、私のことを知ったということで違いなさそうだが、それじゃあ、なぜ? 罰じゃなくて褒美をくださったのかわからない。
今度またこっそり王様に会って確かめてみよう。
小さな町も壊さないと思うし、それに王様のお姿も今回の騒動で覚えたし次は大丈夫だろう。

そう思って夜。隙をついて、王様のお部屋に忍び込もうとした。
だが王様のお部屋にはずっと見張りがついていて部屋の中に入れる機会はなく、王様にお話しすることができなかった。


****


「リイ様。お呼びですか」

王妃であるリイの部屋に調理長が呼ばれ、料理長が王妃に座礼をしている最中だった。

「あの、カレンのことだけど・・・」
「はい王妃様。私もそのことで王妃様にお伺いを立てたいところでした」
「王様とカレンの関係についてね」
「はい。なぜ王様はカレンにお会いになったんでしょうか?」
「王様は自分の娘だからって言ってらっしたけど、私もよくわからないわ。もしかしたら、どこかでお会いになったのかもしれないわね」
「カレンがですか!? カレンのような見習いが会うはずもないと思いますが・・・」
「そのはずなんだけど、王様に伺ってもなにもおっしゃらないし・・・私にもわからないわ」
「はあ・・・では、あの贈り物はなぜカレンに授けたのですか? 今までそのような前例がなく驚きましたよ」
「王様はね。自分の娘が宮殿で一人、頑張ってご飯を作っているなんて思うと健気に思えたのかもしれないわね。
 だって王様はカレンの作ったご飯をご機嫌で召し上がっていらしたし、おかわりまでされたのよ。
 いつもならそんなに食べないのに」
「そのようなことがおありでしたか・・・」
「だからね、頼みがあるの。カレンを・・・カレンを徹底的に鍛えて欲しいの。
 カレンの作った料理をお出しすると王様もお喜びになるはず。でも今のままじゃ力不足よね」
「はい、その通りです。王妃様。もしカレンをひいきすれば他の物はカレンに嫉妬し関係が悪化するでしょう」
「そう、そうなのよ。だからカレンに他の者を圧倒する腕があれば、
 王様に料理をお出ししても誰からも文句は言われないはず、だからカレンを徹底的に鍛えてお願い」
「そういうことでしたら、わかりました。王様のため王妃様のため私はカレンを厳しく指導いたします」
「ありがとう。料理長。あと明日から王様の召し上がるご飯はカレンが炊くように。これは王様からの命令。
 だけど、私からの命令としておきましょうか。その方が王様にも害が及ばないと思うから」

こんなやり取りがあったことなんて、カレンは知る由もなかったが、この日を境に地獄のような厳しい修行が始まった。



****

「こら!カレンいつまで寝てるの?早く起きなさい!」

ゆさゆさと体を揺さぶれると誰かの声がする。
重い目を開けると怒った顔の料理長様の顔が見えた。
慌てて飛び起きて、その場で正座し料理長に礼をする。

「もう五時よ! 早く起きなさい」
「あの・・・料理長様。確か。朝は6時半でいいと聞いてましたが・・・」
「ああ・・・あれね。あれは取り消し。今日から5時前に起きるようにしなさい」

そんな無茶な・・・。話が違う。
朝五時なんて今まで起きたことがない。
寝不足で頭がガンガンするし、外はまだ真っ暗。こんな朝早くに起きて何をするんだろう。

「ほら、早くする。早く早く」

そうせかされ、私は慌てて布団を片付け、服を着替え、料理長様のあとについていく。

「まずはお米を炊く練習」
「はい、ですが・・・なぜ私なのですか? いつもなら先輩たちがするのに」
「今日から王様の召し上がるお米をカレンが炊くのよ」
「え!? 私ですか!」
「こらこら今から王様の召し上がるご飯を炊こうってのにそんな顔しない。もっとしゃんとしなさい」

そんな・・・なにかの間違いじゃ・・・
私より飯炊きがうまい先輩なんてゴロゴロいるし、いやもしかしたら、私が一番下手かもしれない。
それなのになんで、わたしが・・・。

「何かの間違いです。きっとそうです。そうに違いありません・・・」
「これは、王妃様からの命令よ。命令は絶対。それは知っているわよね?」
「はい、命令とあらば仕方ありません。ですが・・・私なんかじゃ・・・」

不安だ。こんなに不安になったことは生まれて初めてだ。
もしかしたら、これが罰なんじゃ・・・。
王様の部屋に入った罰を飯炊きで受けさせそうとしているんじゃないだろうか・・・。

「こんなまずいご飯を食べたのは初めてだ・・・こんな不出来な料理人が私の調理場に居ようとは・・・お前は島流しだ! 出てけ!」

と王様が小さなお茶碗を地面に投げつけ、お怒りになるかも・・・。
私が王様の部屋に勝手に入ったのを実はお怒りになっていて、私に難癖をつけてここから追い出すつもりじゃ・・・

「料理長様。どうかお許しを・・・。私が、私が全て悪かったのです・・・」
「・・・?? なんのこと・・・」
「はい実は・・・」

もう打ち明けよう。こっそり王様の部屋に入ったことを打ち明けよう。
いまから打ち明けても仕方がないかもしれないが、こうなったら本当のことを言うしかない。

「もういいから、さっさとやる! あなたには時間がいくらあっても足らないのよ。今は一分でも惜しいわ」

結局言えずじまいだった。



「こら! 火加減が強い」
「はい」
「王様のご飯は1センチ(カレンから見たら0.01ミリ)にきっちり揃えて・・・これじゃあ不揃いじゃない! やり直し」
「はい・・・」
「魚のさばき方はこう。ダメダメこんな切り方じゃあ、魚の細胞が潰れて水っぽくなる。もう一回」
「はい・・・・」
「刺身の大きさは5センチ(カレンから見たら0.05ミリ)これじゃあ大きすぎて、王様のお口に入らないわ!」
「・・・・・・」

クタクタだ・・・。もう力が入らない。それに眠い。だんだん料理長様の言葉が耳に入ってこなくなる。

「目がうつろね。しょうがないわ。ちょっと早いけど今日は終わり。もう休んでいいわ」
「はい・・・ありがとうございました・・・」

私はフラフラと蛇行するように歩き、自分の寝床へと戻っていく。
カレンが寝床に戻ったのを確認すると、一人の部下が近づいてきた。

「料理長様、私悔しいですよ。なんで入ったばっかりの子が王様の飯炊きを?」
「ここに来て、あなた何年?」
「はい、もう4年になります。ですが、一度も王様の食事なんて作ったことがありません。私悔しくって」
「そうね・・・みんなはどう? 今回の件。おかしいと思うものはいる?」

と声をかけると一人、また一人と手をあげる者がいた。その数は半数以上にも及んだ。

「料理長。こんなのおかしいですよ。何年も努力してきたのにそれが全部無駄だったということですか?」
「それはない。絶対にない。でも・・・王妃様直々の命令だからしょうがないのよ。
 それに王様がどうやらカレンを気に入ったらしくて・・・」

辺りが静まり返る。
無理もない。
ここにいる彼女たちは王様に気に入られたことなんて一度もないのだ。
王様に気に入られる。
たった、それだけでカレンが特別扱いされ、そのことに異議を唱える者はいない。
それほど王様の持つ権力は大きかった。


****

疲れた・・・。
今日一日ずっと料理長様と二人きりで、気の休まる時間なんてほとんどなかった。
それに眠くて眠くて仕方がない。
早く寝たい。
布団を敷いて、寝ようと思っていると後ろに人影があるような気がして振り返る。すると先輩が一人立っていた。

「カレン、あんた王様から褒美をもらったからっていって、いい気になっているんじゃない」
「いえ、そのようなことは・・・」

私がなにをしたのか、わからないが、その先輩は怒っていた。
明らかに敵意みたいなのものを私に向けられていた。

「いーや。そう思っている。だって、私たちより先に寝るってどういうこと? おかしいじゃない」
「すいません。先輩。でも眠くて・・・」
「眠いのはみんな一緒。なのに・・・あんただけ特別なんておかしいじゃない」
「・・・・」
「まだ皿洗いが残ってるから、さっさと洗ってきなさい」
「え? でも・・・料理長様が休んでいいって・・・・」
「うるさい! さっさと行く。ぶたれたいの!」

先輩が鬼のように睨みつけてきた。
あまりにも先輩が怖かったので、逃げるようにして部屋から出た。
そして、重い足取りで調理場に戻る。
薄暗く誰もいない調理場に戻ると油で汚れた皿が、山のように積まれていた。
これは護衛隊の食器。
私たち料理人はこの宮殿に関わる全ての食事を担当している。
もちろん、その花形は王様や王妃様などが召し上がる王族の料理。
最高の食材、最高の料理人。そして考えに考えられた献立。
全てが最高の技術と才能が求められ、王族料理を作れる者は料理人にとって最高の名誉。
当然皆それを目指し頑張っている。

さっき私を叱りつけてきた、いじわるな先輩は主に護衛隊の料理を担当している。
華やかな王族料理とは違い、質ではなく手際の良さが求められる、いわば影のような仕事。
その皿洗いを私に押し付けてきたのだ。








****

眠れない。気になって眠れない・・・・

「ねえリイ。悪いけど起きて」

いつものようにリイとリアに挟まれるようにして眠っていたが、なぜか目が覚めてしまった。

「すぅーすぅー」

上を見上げるとリイは完全に眠っている。
安らかな寝顔だ。
こういう時は僕みたいな小さい奴がいくら叫んでもなかなか起きてくれない。
巨人の起こし方にはコツがある。
まず、リイのほっぺまで近寄る。
そして、ぺしぺしとリイのぽっぺを叩く。これで大抵起きてくれるのだが・・・

「ううん・・・すぅーすぅー」

起きない・・・これは珍しい。大抵これで起きてくれるのだが・・・
ほっぺを叩いて起こすのをあきらめ、仕方なくリイの耳元まで進んだ。
耳に近づいてみるとリイの耳は相変わらず大きい。巨大渦巻きの耳で直径は60メートル近くある。
これだけ大きな耳なんだから、どんな小さな音も聞こえそうなもんだが、そうではないらしい。
リイのサラサラの髪の毛を命綱し耳を登る。

すると横幅7メートルぐらいのいびつな洞窟が現れた。
これはリイの耳の穴。
耳の穴だけでも僕の体よりも遥かに大きく。中に入ることは容易いぐらい大きい。
そして入り口付近には白い草原が広がっている。
これはリイの産毛。白く若干透明な草たちがリイの産毛なのだ。
太くしっかりした髪の毛から、比較的細いリイの産毛に持ち替えて、さらに奥へと進む。
洞窟内は暗く、そしてあったかい。
なんだか安心できるような程よい暖かさで、ここがリイという一人の巨人の耳の中だと再認識される。
耳の内部には耳独独の匂いが充満し、洞窟の屋根には、両手で抱えられそうなほどの黄色いボールがぶら下がっていた。
これはリイの耳垢だ。もしこの耳垢が降ってくれば、屋根から雪が降ってくるようなものなので、埋もれてしまう。
まあ、もし埋もれても、ここはリイの体内なので、なにかあったら、すぐにリイが救助してくれるから、まあそこは安心だ。
でも、出来ることなら、埋もれたくないが・・・。

「リイ。起きて」

幸い耳垢は降ってこず、鼓膜付近までたどりつけたので、小声でリイを起こす。

するとグラグラと地震が発生した。
地震の震源地はまさにここ。なので、ものすごい揺れだ。
慌ててリイの産毛につかまり、その揺れに耐える。
体が90度も傾いた。耳の中なので外の様子が分からないが、どうやらリイは体を起こしたらしい。

「王様・・・・どちらですか・・」

リイが起きた。それにより体が小刻みに揺れる。
揺れが収まると、今度は体が左右に動き始め、僕の体が振り回される。
これはリイが辺りを見回しているのか・・・。慣れているとはいえ苦しい・・・・。

「近くにいませんね・・・。あ! もしかして」

大きな指の壁が耳の中を進んできた。
その大きな耳の穴の上から下までをリイの人差し指が埋め尽くした。

「王様、私の耳にいらっしゃいますよね」
「うん」
「もう・・・汚いですよ。早く指につかまってください。汚くて恥ずかしいです・・・」

リイの指にくっつけられ、耳から外に出される。
リイの耳は普通の人よりは綺麗だと思うが、それでも耳垢が全く無いわけじゃない。
そのことをリイも承知しているのか、やけに恥ずかしがっているように見える。

「王様、いけませんよ。おなごの体に勝手に入っては。これは無理矢理襲ったも同然ですよ」
「ごめんね。でもなかなか起きないからさ」
「あ・・そうでしたか。それは申し訳ありません」
「いや、それはいいんだけど、それよりちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど」
「こんな夜分にですか?」
「うん、夜にしかできないことなんだ」
「夜にですか?」
「うん。実は・・・カレンに会いたいんだ」

その言葉を聞くとリイの目が泳ぎ始めた。

「い・・いけませんよ・・・前にもおっしゃったじゃありませんか。会うのは一回きりだと・・・」
「わかっている。だからもう会わない。でも寝てる姿を遠くから・・・遠くからでいいから見たいんだ。お願い!」

リイに頭を下げる。いつものリイなら慌てて止めるのに今回は止めず、じっと僕のことを見つめている。

「この通り!」

両手を合わし、リイを拝むようにして頭を下げる。

「・・・・王様。顔をお上げください。そんなことされても困ります」

リイは淡々とそう言った。
リイのこういう口ぶりは大体ダメという意味で、このままだとカレンに会えない。
だが、それじゃあ困る。僕の気が済まない。

「やめない。リイがうんと言ってくれるまで、ずっとこのままだ」

部屋には沈黙は流れ、なかなかリイは口を開いてくれない。
こういう時の時間は、とても長いように感じる。

「・・・わかりました。わかりましたから、顔をあげてください」
「ほんと!!」
「はい、ですが、遠くからですよ。遠くからカレンを見る。本当に見るだけで話しかけたりしないと、これだけはお約束ください」
「うん。わかった」
「あと、これは王様と私だけの秘密ということにしてください。じゃないと他から批判が来るやもしれないので」
「リイありがとう。恩に着るよ」



リイが静かに歩きだした。もちろんその手の上には僕も乗っている。
夜遅くに大きな音は出せないため、リイは抜き足で歩いている。

「たしかここです。ここがカレンの寝床です。いいですが、少しだけですよ。あまり長いことはいられませんので」

リイは人を起こさないように小さな声で僕にささやいた。

「うんわかっている」

リイを見習い、僕も小声でそう返す。
そして、ゆっくり音を立てないようにしてふすまを開いた。
だが部屋の中は空っぽで誰もいない。

「もしかしてトイレかな?」
「いえ・・さっきトイレの前を通りましたから、それはないと思いますが・・」
「じゃあ、どこにいるの? だってもう夜の2時だよ。あんな小さい子普通寝てるはずだよね?」
「もしかしたらですか・・・・」

リイがそうつぶやくと足が動き出す。
どこか心当たりでもあるのか、部屋を後にしてどこかへ向かい始めた。
老化を抜け、少し歩くと明かりがついている部屋が見えてきた。
この時間。宮殿は消灯されていて、薄明かりしかないのに、この部屋だけ明かりがついているなんておかしい。

「リイ、もしかしてここって・・・」
「はい、調理場です。カレンはまだ調理場に残っているようですね」
「え!? でも、もう夜中だよ。あんな小さな子が残っているわけ・・・」

リイの手が動き、調理場の中の様子が見える窓枠に降ろしてくれた。
その窓枠から、窓を覗き込む。
すると泣きそうな顔しながら、一生懸命なにかを洗っている子が一人料理場に立っていた。

「なんで? なんでカレンだけ・・・かわいそうに・・・」
「王様。やはり危惧していたことが起こってしまったようですね。カレンはこの前の件で周りから嫉妬を買ったようです」
「いじめられてるってこと?」

リイはなにも言わない。ただ、寂しい目でカレンを遠くから見つめている。

「今すぐカレンに聞いて来て、誰がこんなこんなことしたのかって」
「それでどうなさるのです?」
「もちろん、カレンにこんなひどいことした子を怒るんだ!」
「いけません。王様。それはいけません」
「なんで、なんでダメなの? 悪いことしたら怒るのが普通でしょ? それにこのままだとエスカレートするかもしれない。それじゃあカレンが・・・」
「王様。王様はお気づきじゃないかもしれませんが、王様の発言力はとても大きいんですよ。
 ちょっとでも王様の気分を害したと噂になればその者の人生は終わりです。王様の逆鱗に触れた者と見られ、宮殿はもちろん外でも生きていけません」
「それじゃあなに? このままカレンがいじめられてるのを黙って見てろっていうの? そんなこと僕にさせる気!」
「ですが、それも仕方のな・・・」

ガシャン!!

大きな音が調理場に響いた。
音のした方向に目をやると皿が床に散乱していた。その様子から察するにカレンは手を滑らして皿を割ってしまったようだった。

「ぐっす・・・っ・・・!」

カレンは顔をうつむかせ、やがてポロポロっと大粒の涙が地面に落ち始める。
やはり、カレンはまだ小さな子供だ。
しっかりしているようで、まだまだ子供。でもそれも仕方がない。だって、カレンはまだ7歳なんだぞ。子供じゃないか。
カレンは山のように巨大で信じられないほどの怪力の持ち主であるが、根っこはまだ小さな子供。
そんな幼い子供が、辛い思いして泣いている。
皿を割ってどうしていいかわからず、立ち尽くしている。
娘が困っている。泣いているのに僕は何もしてあげれない・・・・。
こんなの父親失格だ。

「かわいそうに・・・リイ。カレンの所に早く! 僕が何とかするから!」
「ダメです。王様はカレンに会ってはいけません」
「誰もいないからいいじゃない。このままだとカレンがかわいそうで見てられない・・・・」
「いえ、それでもいけません。誰かに見られるやもしれません。
「でも・・」
「心配には及びません。私が何とかしますから」

リイは僕を窓に置いたまま、一人調理場に向かって行った。

「ぐっす・・・っ!」
「カレン!」

リイがそう呼びかけるとカレンが顔を持ち上げた。
持ち上げた顔は真っ赤で顔じゅう涙で濡れていた。

「王妃様!!・・・申し訳ありません」

カレンは慌ててリイに頭を下げる。突然リイが現れたことにより、カレンは飛び上がりそうなほど驚いていた。

「割れた物はしょうがないわ。もういいから片付けましょ」

割れた皿をほうきで掃き、床が綺麗になるとカレンも落ち着きを少し取り戻したように見える。
顔じゅう真っ赤になるほど泣いておらず、涙の筋が少し顔に残っているが、それでももう涙は出ていない。

「私も手伝うわ。ほらそれ貸して」
「ですが・・・王妃様自ら洗い物をするなんて・・・」
「もう! いいから貸しなさい」

リイはカレンの持っていたスポンジを奪うようにして取った。
どうやら、リイがカレンの代わりに洗うようだ。
まさかリイがここまでカレンのこと気にかけ、協力してくれるとは思わなかった。
僕とカレンが仲良くすると、いい顔をあまりしないので、リイはカレンのことを嫌っているのかと心配していたが、この様子を見るとそうじゃないと思える。
リイの協力する姿勢を見て、僕は少し安心をした。

「いけませんよ。王妃様。こんなに洗剤をつけたら、ああ・・つけ過ぎです」
「え、そうなの? たっぷりつけたほうが汚れがよく落ちるんじゃない?」
「あの・・・数滴たらせば十分です」

うん・・・・? なんかカレンのあたふたした声が聞こえてきた。
なにかおかしいぞ? もしかして・・・。

「王妃様・・・ここ、まだ汚れてますよ・・・あ、裏側がちゃんと洗えてません・・・それにここにもぬめりが・・・」

もしかして、リイって皿洗いをしたことがないのか?
遠くから見てるから、はっきりとしないがリイの手つきはどこかぎこちないような気がする。
それにリイの手際の悪さのせいで余計にカレン仕事が増えてるようにも見える。
リイが洗ったものをカレンがもう一度洗い直し、皿を拭くにしても、もう一度カレンが拭きなおしている。
するとリイが戻って来た。

「どうしたの?」

すると、なぜかリイは一人調理場から出て、僕のいる窓まで戻って来た。

「申し訳ありません。追い出されてしまいました。「私が一人でするから」とカレンが何度も頭を下げてきましたので・・・」
「・・・・」
「申し訳ありません。私が役立たずで・・・・」
「でも、なんとかしてあげたいなあ・・・」

と、言ってると地響きがなり始めた。

「誰! ここでなにしてるの!?」

一瞬、僕たちのことを言っているのかと思い、驚いたがどうやらそうじゃないようだ。
誰かが調理場に入って来た。ここからじゃよく見えないが一体誰だ?

「ってカレンじゃない! なにしてるの? こんな遅くに?」
「申し訳ありません。料理長様。ですが、まだこれが終わってないので・・・」
「洗い物?」
「はい、護衛隊のお皿です」
「護衛隊って・・・カレンの担当じゃないわよ? なんでカレンが洗ってるの? おかしいじゃない」
「でも・・・洗うよう先輩に言われたので・・・」
「はあ~~~。あの子もしょうがないわね・・・でも話し声が聞こえたわよ。カレン。一体誰としゃべっていたの?」
「はい。実はさっき王妃様が来ました」
「王妃様!? 王妃様がなにしにいらしたの? なにかおっしゃっていた?」
「いえ、特に何も」
「そう。ならいいわ。ほら、カレンはさっさと寝なさい。ここは私がやるから」
「え? でも・・・」
「あの子には私から言っておくから、もうあなたは寝なさい。命令」
「料理長様。すいません。おやすみなさい」

カレンは地響きを立てながら料理場を去っていった。
なにはともあれ、これでカレンは眠れる。
そう思うとよかったと思う一方、こんなに遅くまで働いていると思うと怒りや悲しみが湧いてくる。

「王様。もう行きましょう」

リイがそう言うと僕の返事も待たずに歩き始めた。
寝室までの帰り道。リイは何も言わない。そして僕も何も言わない。お互い無言。
このもやもやする気持ちは、薄暗い廊下によく似ている。先の見えない少し不気味な道。
いつ終わるか、先の見えない道だ。
そんな気持ちになる。

「王様。カレンのことは心配でしょうが、あの様子ですと大丈夫です。先ほどの料理長をご覧になられたでしょう。
 なにか困ったことがあっても、カレンには料理長がついています。ですので、料理長にまかしておけば大丈夫ですよ」
 
リイの言う通り、カレンには敵ばかりではないことがわかった。
料理長とカレンのやり取りを見て少し安心はしたが、娘が困っているのに僕は見守ることしかできない。そんな自分に腹立たしい。
腹立たしいが、なにもできない。
唯一僕ができるのはカレンが嫌な目にあわないよう夜空に向かって祈ること。ただそれだけだ。