「んっ、ぅうぅっ!」

ぴくん、と震える瑞々しい身体。制服姿が眩しい年頃の女の子。
地面に直接お尻を着けて座っている。その顔は苦悶に歪み、頬を上気させて何かに耐えている。

「んっ、やっ...も、もう...ダメ、我慢、できないぃっ!」

ズッドオオォォォォンン!!

2000メートルを超える巨大な素足が街に振り下ろされた。
一瞬でビル街が吹き飛ばされ、そのとてつもないエネルギーに周囲の街並みは地盤ごと捲り上げられていく。
衝撃波は周囲の建物を根こそぎ吹き飛ばし、地面を伝わった揺れは街全体のみならず遠く離れた別の街をも揺さぶった。

「あーあ、もうギブなんてホントくすぐったいのに弱いよな、ロングって」

「うぅー...素足でなんて耐えられない...」

先ほどまでくすぐったさに顔を歪めなんとか耐え抜こうとしていた、ロングヘアの少女。
街を覆い尽くすほど巨大な足裏。持ち上げられたその足裏へ軍隊が集中砲火を行っていたのだ。
それを友人であろうショートヘアの少女が眺めていた、というのが先程までの状況である。我慢比べをしているようだった。

全てを吹き飛ばす戦車の砲撃も戦闘機のミサイルも、途方もなく巨大な少女たちにとっては軽い掻痒感を与える悪戯程度にしか受け取られなかった。
今にも全てを押し潰さんと街を覆うその足裏。踵を支点にして軽く持ち上げられたその状態でさえその下に山が収まってしまうほどの巨大さである。

最初に彼女らが現れた時から軍隊は必至に戦ってきた。
だが、中途半端に刺激を与えられるような戦力を保有していたのが悪かったのか彼女たちの遊び相手として標的にされてしまったのだ。
その生脚、素足にどれだけの砲弾を叩きこんでやったことか。
しかしいくら攻撃を繰り返しても彼女たちはこちらを憐れむように見下ろして顔を見合わせては楽しそうに笑うだけであった。

未だ地面に押し付けられたままの巨大なロングの素足。すべてを粉砕して数百メートルは地面に減り込んでいる。
巨大な足指がもじもじと動かされその下に敷いた高層ビルの残骸を粉々に磨り潰した。

一つ一つが高さ200メートルを超える大きさの五指。
それらが轟音と共に蠢いて破壊された街と地盤に追い打ちを加えていった。

「まったく、これじゃ今度もアタシの勝ちかな」

「むっ...まだ終わってないもん!ショートちゃんだって、裸足でやってみればわかるんだから」

グオオオオ、と大気をかき混ぜて立ち上がるロング。
地表の全てが巻き上げられ、まだ無事だった車両や建物、電車がロングの足に向かって飛んでいく。
生き残った戦車や戦闘機も巻き上げられては墜落しぺちぺちとその素肌に直撃し爆発するもロングの方は意に介してもいなかった。




「へっへーん、じゃあ次はアタシの番ね」

ズン、と3つの山をその尻の下に敷いてショートヘアの少女が座り込む。
1000メートルを超す山々が一瞬で窪みに変えられてしまった。無理もない。この巨大すぎる少女たちからすればちょっとした盛り土のようなものだ。

「ちょ、ちょっとショートちゃん。パンツ見えてる」

「んあ?別にいいよ、こいつらに見られてもなんとも思わねーし」

女の子座りからスカートを抑えつつ片脚を伸ばすようにしていたロングとは違い、ショートは思い切り脚を広げて座っている。
街の中心部を挟み込むように、左右にドスンと置かれた巨大な素足。そこから繋がる長い脚のその根本まですべてが丸見えだった。

「もう、もっと女の子らしくしなくちゃダメ」

「女の子らしく、ねぇ。ココとか自分でもいい感じに女らしいと思ってんだけど...背はちょっとデカすぎるけどさ」

そういったショートは自分の胸に手を当てて、もみもみと動かす。
平均からしてかなり大きい部類のその双丘がショートの手によって形を変える。
どんな山をも押し潰してしまえるほどに巨大なその胸はショートの手にも収まりきっていなかった。

そして街を囲う様に折り畳まれた長い生脚。その長さがショートのスタイルの良さを物語っている。
何かスポーツでもしているのか、少し日焼けしている。健康的な長身スポーツ少女、といった感じである。

「う、相変わらず身体だけは凄いんだもんな...」

「だけとはなんだ、だけとは。でもこんな大きさだと運動するとき結構ジャマなんだよな」

「むっ!ケンカ売ってるのね!?」

がばっ、とショートの背中に飛びつくロング。
比較的小柄なロングはその背中に軽々と受け止められる。

「お、背中に柔らかいのが当たってるー。ロングもそこそこある方なんだし別にいいじゃん」

「ショートちゃんに言われても嬉しくない...」

ロングがショートの背中に飛びつき軽く受け止められた、というのはあくまでこの巨大な少女たちにとっての話。
地表ではその膨大な運動量による影響がしっかりと現れていた。



ズン、とロングが飛びつく。ショートの背中には、いくら小柄だとはいえあの巨大な少女の途方もない体重が丸々預けられたのだ。
受け止めた側のショートの身体はズズンと数百メートルは沈み込み、その際の揺れが標的の街にまで伝わってしまった。

衝撃はショートの長い脚を伝い、さらに地面に触れる素足へと伝わっていく。
適当に投げ出されているとはいえ長い長いショートの両脚。その長い距離を経ても殺しきれないエネルギーが街を襲う。
街の両側で地面を凹ませているショートの両足もまた大きく地面に食い込み、街を大きく揺さぶった。
すさまじい衝撃と揺れが街を襲い、住民は残らず地面へ投げ出される。至る所で建造物が崩壊し無事な建物の方が少ない有り様だった。

「んお、なんかもうボロボロになっちまってるな、この街」

「あれ、ホントだ。わたし達何もしてないのに、いつの間にこんな...」

大気を切り裂きながら顔を近づけ、しげしげと街を観察する2人。
ただじゃれあっているうちにボロボロに破壊されてしまった街並みが広がっていた。

「これじゃあ軍隊ももうダメになってるよなぁ」

「うーん、そうかも」

実際、巨大な揺れと衝撃で建物は崩れインフラはストップ。
軍を動かすどころではなくなっていた。

はぁ、と溜め息を吐く2人。
意図しない形でとんでもない突風が発生し、ボロボロの街をさらに崩壊させていく。

「これじゃフェアじゃねーし、さっさと次探そうぜ」

「あら、さすがスポーツしてるだけあって言うことが違うわね」

「ま、結局アタシの勝ちだろーけどな」

膝に手を当てて立ち上がるショート。その衝撃が地面へ伝わり、ズシンと揺れを巻き起こした。背中にはロングが背負われたままだ。
予想していなかったのか、じたばたと暴れるロング。グラグラとまた大地が揺れる。

「ちょ、降ろしてよっ」

「なーに、ロング一人なんて軽いもんよ。あ、でもちょっと太ったか?太ももの肉付きが...」

「う、うるさい!暑くて動く気にならないんだもの、しょうがないでしょっ」

ズシイィィィン!ズシイィィィン!

はいはい、とロングをなだめて歩き出すショート。
背中のロングを背負い直しつつ踏み出された一歩。途方もない重量を足し算したその一歩で先ほどの街は外縁部もろとも一撃で粉砕されてしまった。

配備された軍隊は稼働の目途が立たずとも未だ健在であったが、ショートの巨大な足裏によって地中へと埋め込まれ離れた位置に配備されていた部隊も衝撃により吹き

飛ばされた。
無意識のうちに軍隊の師団を壊滅させ次なる目標を探す2人であった。





「ここにするかな、さっきの街よりでかいしちょうどいいハンデってやつだ」

「むぅ、素足のアレを舐めない方がいいって言ってるのに...」

最初にロングが踏み潰した街よりも一回り大きな街を見つけた2人。
軍の規模も比例して大きいものであるようで、次々に戦車隊が展開していくのが上空からも見て取れた。

「おー、こりゃすごいな。楽しめそうだ」

「今日はただ破壊しにきたんじゃないんだから、そう簡単にいかないわよ」

「わかってるって。絶対にロングじゃ抜けない記録出してやるからな」

先程と同じくいくつかの山を平らにしながら座り込んだショートがその右足を街の上に翳す。
ズドンと踵を地面に突き刺し、街の外苑から中心部へ向かって爪先を伸ばす。

「そーっと座ったし、今回は大丈夫だろ」

「...やっぱり大きいわね、ショートの足」

「う...あんま言うなよな、身長もそうだけど気にしてんだから」

「ふふ、さっきの仕返しよ」

確かにショートの素足は身長に比例して大きい。
どうやらショートにとっては身長と並んでコンプレックスになっているようだった。

「逆の足貸してみてよ...ほら、わたしの足なんて完全に隠れちゃうわ」

「ひうっ!?」

ショートの街に近づけていない左足を手に取りそのまま折り曲げられていた膝を伸ばしていくロング。
先程よりも更にショートから遠い位置にに突き立てられた踵に、自分の右足の踵を合わせてみる。

ズン、と合わされた二人の巨大な足裏。先程踏み潰した街の残骸が柔らかな足裏に挟まれ揉み潰された。
全く予想していなかった事態にショートは身体をビクつかせる。

「自分で脚を伸ばさせたわけだけど...ホント脚長くて羨ましい。肌もすべすべ...」

「も、もういいだろ。アタシの足汚いし」

「わたしは気にしないわ」

足裏をくっつけたまま、にぎにぎと足指を動かすロング。
ショートと比べて小さな素足。そのサイズ差ゆえに、踵を合わせてもロングの爪先はショートの拇指九あたりまでしか届かない。

「や、やめ...くすぐったいって!」

「余裕で勝つんでしょ?だったらこのくらい平気で耐えてもらわなきゃ」

ショートの足指もぐいぐいと動かされるがお互いの爪先は相当離れた位置にある。
目一杯足指を握り込んでも、合わされたロングの爪先に触れるかどうか。
つまりロングは一方的にショートの足裏を攻撃でき、逆にショートの爪先は空を切るしかないのだった。

くすぐったさに左足を動かしてしまうショート。
逃さないとばかりにその動きについていくロングの右足。重なり合った二つの素足が辺りに轟音と揺れを巻き起こしていた。
戦車の集中砲火にも微動だにしない巨大な素足が互いをくすぐり合う様は街に配備された軍隊の隊員たちの目にどう映っただろうか。

2人の巨大少女に挟まれた都市。中心部からどこを見渡しても少女たちの身体が見える。
特に、今まさにこの都市を揺さぶっている2人の素足は住民の視線を一手に集めていた。
どんなビルよりも巨大な足裏とそこにくっついている超高層ビル並みを超える大きさの足指たち。
親指に至ってはこの街一番の高さを誇るビルでさえ軽くぷちりと潰されてしまうだろう大きさである。

もじもじと二人がその足を擦り合わせる度に、この都市の住民は発生する揺れに翻弄されていた。
そのあまりに巨大な二つの足がくっついてできたプレス機。そのどちらか片方でも、この街に振り下ろさせるようなことがあれば...!
体験したことのないような揺れに翻弄されつつ次々に脱出を始める住民たち。

「あ、うう、ずるいぞ」

「ほんの余興よ。さ、本番頑張ってね」

そう、本番は街からの砲撃にどれだけ耐えられるか。

ゴゴゴゴ、とショートの足裏からロングの足が引き剥がされる。
2人の足裏にこびり付いていた街の残骸がパラパラと大地に降り注いだ。

「よ、よし、気を取り直して...」

ショートは右素足を軽く持ち上げ、ズンと位置を調節し直す。
当たり前のように行われた所作だったが避難中の住民してみればたまったものではない。

区画丸ごとが、突然持ち上がり再度降ってきた巨大な踵に押し潰されその周囲もまた衝撃により吹き飛ばされる。
歩いていようが走っていようが、車だろうが電車だろうが関係なく家もビルもまとめて空中へと打ち上げられ落下していった。

「余裕なんでしょ?ショートちゃん。なら両足でやってもらわないと」

「う、わかったよ...」

左足の踵でも同様の被害を巻き起こしながら中心部の上空を足裏で覆うショート。
あまりに巨大な踵のすぐ脇で、あまりに小さなビルや駅が崩れていく。

「これでいいか?」

「ふふ、いいわ。軍隊のみなさんも準備ができつつあるみたい」

ショートの両足による揺れにも負けず、攻撃準備を整えていく戦車部隊。
戦争映画も真っ青な大部隊が展開されつつあった。

「な、なぁ。まだかな」

「こんなに小さいんですもの。もう少しかかるわよ」

自分の足に遮られて様子の見えないショートに代わり、ロングは反対側から都市を眺めるべく移動していた。

「そーっと、そーっとね」

ズゥン、ズゥンと忍び足で回り込むロング。
このくらいなら大丈夫でしょ、と彼女は考えていたが足元ではしっかりと被害が拡大していた。

つま先立ちで移動するロング。
いくら彼女たちの間隔でそっと歩こうとも、遥か眼下の人間たちにとってはさして脅威度は変わらない。
中心部を避けて歩いても郊外にはマンションも多いし駅だってある。それらが悉くロングの爪先に押し潰され消えていった。

加えてつま先立ちになる、ということはそれだけ接地面積が小さくなるということでもある。
その分だけ指先への負荷が増しロングの爪先はいつもよりも更に深い足跡を刻み付けることになるのであった。

自分の歩行によって攻撃の準備が遅れていることなど露知らず、ショートの正面に回り込んだロング。
ショートの足周辺が見やすいようにしゃがみ込んで顔を近づける。その際、膨大な体重の移動によって街の郊外がロングの周囲数キロにわたって大きく沈み込んだ。
しゃがみ込む際に無理矢理押し退けられた大気が辺りに押し出され、周囲の木々や無事だった建物を根こそぎ吹き飛ばし発生した上昇気流は雲をも掻き消してしまう。
この都市からしてみれば前門の虎、後門の狼どころじゃないレベルで絶望的な状況である。

「うんうん、ここからならショートちゃんの足がよーく見えるわ。ちっぽけなビルに比べてとんでもなく大きいわね」

「恥ずかしいこと言うなよぉ...こんなちっこいビルと比べたらロングの足だってとんでもないサイズだろ」

ビル街に翳されたショートの両素足。高さ200メートルを超える超高層ビル群の奥に位置しているにも関わらず、それらビル群が踵の中程までしか届いていない。
覆い被さるように傾いたそれらは同じ倍率のロングから見ても中々のスペクタクルを感じさせるものだった。

「わたしのよりも大きいんだから、もっととんでもない大きさだって言ってるのよ。このまま街を全部食べちゃいそうな迫力よ」

「あ、あんま言うなって...。しかも食べるってどんな表現だよ」

「結構的確な表現のつもりよ?そのまま足指をぐばっ、と動かしてこう、ビルを全部一気にばくんっ!って」

「していいならするけどよ、今回はそういうんじゃねぇし...ん?なんか当たって...」

「あら、話してるうちに始まったみたいね」

2人が足とビルの対比について話しているうちに攻撃準備が整ったらしい。
ショートの足裏に一番近い部隊から攻撃を始めているようだった。十数台の戦車の主砲が一斉に火を吹く。
巨大すぎる標的だ、外すなんてあり得ない。すべての砲撃が足裏に、主に踵辺りに吸い込まれるように飛んでいった。
ちかちか、とショートの足裏に小さな爆炎が上がる。

「んん...ちょんちょん、って感じがもどかしいな...」

「んふふ、まだまだこれからよ」

ピクピクと僅かな刺激に反応するショートの足指。だが、それだけだった。
戦車隊による砲撃も、少女の足裏にダメージを与えることなど到底できない。その広大な踵に比べてあまりに小さな爆炎がちらちらと光っているだけであった。

その後もショートの足裏周辺からどんどんと放火を浴びせていく戦車隊。
決して安全とは言えない距離から決死の砲撃を繰り返す。そもそも、安全な場所などありはしない。

超高層ビルなどおもちゃに過ぎない。そう思わされるほどに高く高くそびえ立つ巨大な足裏。
後方の司令部から相当な距離を進んできたハズだが、そのサイズ感はどこにいてもさして変わらないように感じる。
あまりに巨大なため遠近感が狂わされているのだ。恐怖を感じているのかもよくわからない状況で必死に砲撃を繰り返す。

上空には、僅かに霞む巨大な足指。バカみたいな大きさだ。
人工の建造物では到底届かない。それどころか、この少女の巨大な足の土踏まずに届く建造物すら地球上には無いのである。

「ふむ、戦車はこれで全部みたいね」

「んっ...時々、いい感じのがくるけど...まだまだいける、ぞっ!」

ついに配置されたすべての戦車が一斉にショートの足裏へと砲撃を行っていた。
両の足に分かれ、数十台ずつ。それぞれの車両が交互に主砲を発射し、断続的な攻撃が行われている。
その段階に至ってもなおそびえ立つショートの足裏のその表面には何の変化もなく、ショート本人もまだ余裕の表情を保ったままだ。

「じゃあ次のステップね。そのままゆ~っくり足を倒して」

「う、うぅ...このくらいか?」

ズゴゴゴ、と踵が僅かに後退し足裏の天井がゆっくりと街へ向かって降りてくる。
発生する細かくも大きな揺れに一時砲撃がストップしてしまう。

やがて両足裏の降下が止まった。巨大な少女からすればビル群の屋上ギリギリ。地表からおよそ300メートルの高さに拇指九がある。
より強い熱気と少女の香りが街を包んでいく。巨大な足裏からは発せられる熱量もまた膨大なのだ。

「あら、調節が上手ね」

「ふふん、やるもんだろ」

「気を抜いちゃダメよ。本番はここからなんだから」

「わかってるって。ちょっとはちくちくするようなのもあるかも知れないしな」

「さすがにそれはないんじゃないかしら...」

「いーや、こいつらだって頑張ってるんだし案外あり得るかも...んうっ!?」

きゅっ、と握り込まれるショートの足指。
一つ一つがビルよりも巨大な足指が一斉に動いたことで発生した気流が街に叩きつけられ、ビル街をギシギシと揺さぶった。
巨大な指の中にはビルに触れんばかりに近づいてしまったものもある。

「あらぁ?早速危なかったんじゃない?」

「くうぅっ...いきなり指のつけ根に撃ってくるなんてやるじゃんか...!」

「戦車だけじゃなく戦闘機も飛んでるわね」

最も皮膚が薄いと思われる指の関節部。そこへ対地ミサイルが数発直撃したのだった。それによる掻痒を振り払うべく、わきわきと蠢く10本の足指。
その巨大な指の動きとそれに伴う乱気流であっという間に10近い戦闘機が撃墜されてしまった。

「あらら、ダメよショートちゃん。どんどん墜ちちゃってるじゃない」

「うー、こそばゆい。んなこと言われたってなぁ...いくらなんでも弱すぎるだろ」

「こんなにちっちゃいんだもの、しょうがないわ。とにかく、相手があんまり減っちゃったら面白くないでしょ」

「気を付けますよ、っと...んっ、なかなかっ、激しくなってきたなっ」

次々に発射されるミサイル。空からの攻撃は指先や付け根の辺りにまで届き、爆炎が爪先を覆っていく。
地上部隊からの攻撃もどんどんと激しさを増していき、ショートの足裏には常にどこかで爆炎が閃いているような状況である。
決死の集中攻撃は、巨大すぎる少女にも確かな刺激を与えていた。

「んあぁっ、これはっ結構キツ...!」

もじもじと無意識に動かされるショートの足指。
また10機以上の戦闘機が撃墜されてしまう。

「あーもう、またそんなに」

「はぁうっ!ん、くっ...!」

身体を震わせて掻痒感に耐えるショート。もうロングの言葉も耳には入っていないようだ。
ショートの身体を中心にグラグラと大地が揺さぶられる。

「はう、ああっ...も、もう...!」

ぐわんぐわんと無意識に動かされる巨大な素足。その周りを漂っていた硝煙も僅かに刺激を与える爆炎も等しく瞬く間に吹き飛ばされてしまう。
振り払われた硝煙の中から、すべすべの傷一つない足裏が現れる。軍による必死の攻撃も少女の足裏には何のダメージも与えられてはいなかった。

本人の意思とは無関係に痒みを振り払おうと動くそれ。とてつもない速度と質量を破壊のエネルギーに変えて地上へと叩きつける。
ゴリゴリと街を磨り潰しながら減り込んでいく踵。それに伴い戦車隊を襲う縦横無尽の揺れと轟音。とても砲撃を続行できる状態ではない。
大気をかき回しながら動く足裏。凄まじい気流が発生し、戦闘機部隊だけでなく砲撃を中止せざるを得なくなった戦車部隊までもが吹き飛ばされていく。
ぐにぐにと何かを揉むように動かされる足指。一つ一つがビルよりも巨大なそれらは上空から街を襲わんとする10の隕石のようだった。

すでに街は壊滅状態。
直接ショートの足が触れているのは踵部分だけなのだが、その素足が巻き起こす振動や衝撃波、とんでもない風圧に巻き込まれ無意識のうちにズタボロになっている。

足裏の下に収まっていたビル街はその悉くが見るも無残な姿になっている。
窓ガラスはほぼ全滅。中には倒壊しかかっているものもある。

「これはアウトなんじゃない?」

「ま、まだどこも触ってないし、セーフだろ...っ!」

肩で息をしながらロングを見上げるショート。
まだ足裏をつつかれるような感覚があるが、なんとか足を踏み降ろすことだけは免れた。

「んー、まぁルール上は問題ないか」

「だ、だろー?まぁ余裕だったけどな!」

「どの口が言ってるんだか...これじゃあ再開もできそうにないわね」

先程ショートが両足を動かしたせいで配備されていた軍隊は全滅、もしくは戦闘続行は不可能な状態に追い込まれてしまった。
本人にそんなつもりはまったくなかったのだが、いくら巨大であるとはいえこれが一人の少女の素足によって引き起こされた損害であるとは信じがたい。

「さて、アタシの勝ちってことで...これからどうする?」

「なんか気に食わないけど...まぁいいわ」

ぐにぐにと街を覆う素足を動かすショート。
僅かな刺激にさらされ続けて敏感になった足裏の感覚を確かめるように。

と、そこへ数機の戦闘機が近づいて来る。
ショートの足による攻撃(?)に巻き込まれずに済んだ数機だった。それが一矢報いようとショートの素足へ一直線に向かっていく。

「あら、まだちょっとだけ生き残ってるみたいよ」

「ん?どこらへんに...ひぁっ!?」

機体ごと敵に体当たりする特攻作戦。
数機の戦闘機は素晴らしい操縦テクで傾けられたショートの素足、その親指と人差し指の隙間に突っ込み積んでいたミサイルごと爆発、炎上した。

「あ」

「ひ、あぅ...か、かゆいよぉっ!」

ぴくん、ぴくんと震えるショートの身体。むぎゅ、と握られる足指。
しかし、ショートの弱点、最も皮膚の薄い指の間への攻撃によるむず痒さはどうしても誤魔化しきることはできない。
巨体が震えるのに合わせてごうん、ごうんと揺さぶられる世界でロングだけがにやりと笑みを浮かべていた。

「そ、んなっ、せっかくガマンしたのにぃぃぃぃっ!!!もう、らめぇっ!!」

ズッドオオオオオオォォォォォォン!!!!

ついにショートの両足が街へと叩きつけられ、一瞬ですべてを粉砕し吹き飛ばした。
遅れて発生した衝撃波と小規模な地殻津波が何もかもをなぎ倒し巻き上げながら拡散していき、山をも駆け上がって遥か遠い街にまでダメージを与えていく。

ロングは足元を破壊しながら通り過ぎてゆく衝撃波を感心したように見つめていた。
それほどの威力の衝撃波もロングにとっては足の甲を優しく撫でられた程度にしか感じられない。
その感覚を軽く味わった後、息を荒げるショートに歩み寄っていく。すでに何も無くなってしまった街の跡に巨大な足跡を刻み付けながら。




「すごいパワーねぇ相変わらず」

「はぁ、はぁ...くっそぉ、油断したぁ...!つか、パワーとか言うな...!」

ズン、と後ろ手を着いて大きく息を吐くショート。
また一つ山が手の平の下へ消えた。

「それに、なぁにあの可愛らしい声。かゆい~、らめぇ~なんて言っちゃって」

「しょうがないだろっ!?すっげーこそばゆかったんだもん」

今度は脚を思い切り投げだし、どすんと山に乗っける。
そのままがしがしと足裏を擦り付ける。どんどんと削られていく2000メートル近かった霊峰。
ついには10分の1程度まで擦り潰され最後には足指でむぎゅむぎゅと揉まれて跡形もなくなってしまった。

「んあ~、まだむずむずする...」

「もう、あんまりめちゃくちゃにしたら人間さんたちが生きていけなくなっちゃうでしょ」

「わかったよ、こんぐらいにしとくか」

辺りを一際大きく揺らして立ち上がるショート。
ズシンズシンと足元を軽く踏み均して、ひょいとロングを担ぎ上げる。
2人分の途方もない重量を受けて大きく沈み込む大地。

「ちょ、ちょっと!なにいきなり」

「よっしゃ、帰って甘いもんでも食おうぜ」

「なんでお姫様抱っこなの~!」

「まぁまぁ、なんとなくだよなんとなく」

暴れるロングを軽く押さえ付けて足取り軽く歩き出すショート。
その素足でいくつもの山や街を踏み潰しながらゆっくりとどこかへ消えていった。