・10倍

ズゥン!

『くっ、殺せ!』

目を瞑り、周囲の男たちから視線を外してどこかで聞いたようなセリフを放つ女。脚を崩すように座り込み、自らの肩を抱くように身を縮める。
綺麗な黒髪はつやつやと輝き、えも言われぬ香りを周囲に振り撒く。潤んだ瞳と唇、すっと通った鼻、白く美しい肌。極上の美人であった。
身に着けた白銀の鎧と腰に携えていた直剣はこの女が王国所属の騎士の一人であることを示していた。

『お前たちのような外道に汚されるくらいなら私は死を選ぶ!さぁ、殺せっ!』

「...んなこと言われたって、なぁ」

「あぁ、どうしろってんだよコレ」

『どうした、怖気づいたか!無抵抗の女一人相手に及び腰とは、荒くれ者が聞いてあきれる!』

そう言って腰をくねらせる女騎士。女座りで地面に押し付けられた尻が動き、付近の背の低い木々をメキメキと押し砕いてすり潰した。
目の前には自分の目線よりも高い位置にその天辺が来る太ももの壁。どのくらいの重量か見当もつかないほど巨大な鎧の隙間から健康的な肌色が覗いている。
ぷにぷにとしていて一見柔らかそうに見える肉の壁。しかしそこまで背が高いものではなかったとはいえしっかりと根を張っていた木々が簡単に押し潰されてしまったことを考えると、そこに挟まれて無事に戻って来られる気は全くしなかった。

自分たちの10倍の体躯をもって、目の前に座り込む巨大な女騎士。
男たちはその光景にぽかんと口を開けるしかなかった。

『くっ、仕方がない...こうすれば狙い易かろう、さぁひと思いにやるがいい!』

ガシャン、ガシャンととんでもないサイズの鎧を脱ぎ捨てる女騎士。黒い薄手のアンダーウェアのみの姿となる。
周囲の岩や木々が降ってくる金属の塊に簡単に押し潰されていく。大きく地面にめり込む巨大な騎士鎧のパーツ。
プレートに覆われていた大きな胸が曝け出され、ゆさゆさと大きく揺れていた。

「ひぃっ、あんなのに当たったらひとたまりもないですぜ!」

「くそ!こんなデカブツどうしろってんだ!」

「かといって逃げられる気も...しないですよこれ」

「くっそぉ、ここで逃げたら賊の名が廃る!幸い向こうは今のところ抵抗してきそうにねぇ。矢でも剣でもなんでもいい、今のうちにとにかくメッタ刺しにしちまえ!」

うおおおおお、と先陣を切って小山のような巨体に向かっていく山賊の頭。
その無謀ともいえる、というか無謀としか言いようのない勇気に触発され剣や弓を構えて突撃していく山賊たち。
女騎士からしてみればマッチ棒にしか見えないサイズの剣や弓矢で攻撃を仕掛ける。

『んっ、あぁっ...ちくちくとした刺激が全身に...!』

「攻撃されてるってのに変に色っぽい声出しやがって...このやろぉ!」

『あぁんっ!』

どすり、と壁のような太ももに剣を突き刺すお頭。
見たとおりに弾力のある肌は剣で刺したくらいでは傷一つつかず、ただぽよんと弾き返されるだけだった。
それでも確実に刺激は与えられているらしく、ずりずりと大きな肉の壁がもどかしそうに動いている。

『そ、そんな程度では私は殺せんぞ!その程度かっ、貴様たちのチカラは!』

「おい、お望み通り矢をくれてやれ!たっぷりとな!」

『ふ、ふん、その程度...ひうっ!?ひゃあぁんっ!!』

ちくちくと降り注ぐたくさんの矢。
文字通り、女騎士の指先にも満たない大きさのそれらが瑞々しい肌を刺激していく。

堅牢な鎧の下に隠されていた敏感な部分、膝や首筋、胸などに矢が当たる度に女騎士の巨体は大きく震えた。
その度に大きな尻と太ももの下で石や木々が潰されていく。
巨体が震えるのも構わず攻撃を続ける山賊たち。その団結力はさすが長年山の中で生きているだけのものはあるといえた。

『あぁんっ...やぁん!!』

「撃て撃てーっ!」

『ま、まだまだっ!あっ、ひゃあぁんっ!』

男たちの号令と、それを掻き消す女騎士の嬌声と地響きとがしばらくの間響いていた。



『はうぅん...』ハァハァ

「ぜはー、ぜはー...!」

「お、お頭...もう矢も、体力も残ってないっす...」

「くっそぉ、ここまでか...!」

膝に手を着き、肩で息をする山賊の男たち。
対する女騎士はといえば、数百の矢とあらくれの男たちによる剣の攻撃を受けてなお平然としていた。
おそらく受けたダメージを全て合計しても体力は1ポイントたりとも減っていないはずだ。しかし表情はなにやら緩みきっており、頬もほんのりと紅潮している。

『うぅん、気持ちよかったぁ...やはり人間に攻撃されるのは最高だな...』ウットリ

「えっ、今なんて」

『ゴ、ゴホン...き、貴様たち、中々見どころがあるではないか。また近いうちに、その、私がこうして相手になってやろう。うん、そうだな。それがいい』

「い、いやぁ、できれば今回っきりで...」

ズドォン!

お頭のすぐ横に2メートルを越える大きな足が踏み降ろされる。
座り込んだ力の入りにくい体勢からの踏み付けだったにも関わらず、そこにあった数本の木をまとめて踏み潰すには十分な威力だった。

『何か足元から聞こえたかな?私の気のせいだと思うのだが』

「は、はいぃ!何も申し上げておりません!」

『ならいい。ふふ、また遊びに...おっと、違うな。次に相手をするときは貴様らの性根を必ず叩き直してやるからな。覚悟しておくがいい』

妙に棒読み感のある言葉を残して、ズンズンと足音を響かせて去っていく女騎士。
後には弓矢を撃ち尽くし疲労困憊となった山賊たち、そして折れ曲がった無数の剣と弓矢の残骸が残されていた。


・100倍

ズッドォォン!

『くっ、一思いに殺しなさい!』

「ひえぇぇっ!た、退避、退避ーっ!」

「巨人族でもここまでデカくは...!」

『何をためらっているのですかっ。さぁ、どうか一思いに!』

切れ長の眼、長い睫、すっと通った鼻立ちに白い肌。綺麗なブロンドヘアは一つに括られ、黄金でつくられた滝のように流れ落ちている。
簡素なものではあるものの、鎧の上からでは細かな体型はいまいち分かりにくい。しかし、すらりとしたスレンダーな身体つきであることは見て取れた。

はっきり言って極上の女だった。女日照りの山賊の男たちからすればすぐにでもむしゃぶりつきたいところだろう。
そのサイズを抜きにして考えれば、だが。

巨大な女騎士が座り込んだ衝撃で、山賊のアジトは丸ごと揺さぶられた。
アジト内部ではその際の揺れと衝撃で壁が崩れてしまったところもある。酒瓶はほとんどが棚から転げ落ちめちゃくちゃに割れてしまった。

それを巻き起こした張本人はというと、山賊たちのアジトを見下ろせる位置に座り込み悲痛な表情を浮かべて男たちを睨みつけていた。
100倍の体躯を持った女騎士。先日現れた巨大な女よりもさらに圧倒的に巨大であった。

地面にぺたりと尻を着けながらも小さな山肌の洞窟を利用して作ったアジトを覗き込めるほどの巨体。
もじもじとその巨体が動くたびに山は揺れ、脚や尻の周囲にある木々は粉々に磨り潰されてしまう。そんな大規模な破壊を引き起こしつつ、何かを期待するような目付きで野盗の集団を見つめる巨大女騎士。

「お頭ぁ!!どどどどうしましょう!?」

「ば、バカやろ...こ、こんなのどうしようも...!バレねぇように裏から逃げるしかねぇだろっ!」ボソボソ

『一体何をコソコソと...はっ、わたくしを汚す手段を考えておいでなのですねっ!?』

「い、いや、ちが」

『そうはさせませんわ!誇り高い騎士であるわたくしがそう簡単に身体を許すとでも思いまして!?』

「...おい、今のうちに他の奴らを連れて裏口から...」ボソッ

「お頭...わかりやしたっ」タタッ

『あぁ、そうそう』

「へ?」

ズッドォンッ!!

「うわあああぁぁっ!?」

『女一人を前にして、逃げ出すなんてあり得ませんわよねぇ?』

すさまじい衝撃に、踏ん張ることもままならず地面に転がされる山賊たち。
見上げると、女騎士がその腰に差していた巨大な剣をアジトのある山へと突き刺していた。どうやら先程の衝撃はその際に起こったものであるらしい。

「や、山に剣をぶっ刺して...!?」

『おほほ、少々手が滑ってしまいましたわ』

白々しくも口に手を当てて微笑む巨大騎士。ここまでくれば、さすがに学の無い荒くれどもにも察しが付く。
この女、この間のデカい騎士と同じ類だ。

「な、中のヤツらは...!?」

恐る恐る背後のアジト入口を振り返る。先ほど信頼できる大切な手下が逃げ込んでいった山肌の穴。その山にぶっ刺さった巨大な剣。
自分たちではピクリとも動かせないほどに巨大で重厚な大剣とその持ち主である巨大な女にかかれば、山肌を奥深くまで掘り進めて作り上げたアジトを一突きで貫くのも容易いことらしかった。

中で待機してたヤツらもまとめて串刺しにされてしまったんじゃ、とお頭の背筋を冷たい汗が流れ落ちた。
が、崩れかかった入口から何人かの男たちが這い出てくるのを見て表情が安堵したものへと変わる。

「無事だったかお前ら!」

「な、なんとか...しかし、アジトがさらにめちゃくちゃに!裏口も突然現れた鉄の板に塞がれちまいましたぁ!」

「鉄の板だぁ!?んなモンどっから...ってアレ、か」

『皆さん無事なようでなにより、ですわ』

ずるり、と山から巨大な剣を引き抜く巨大騎士。
山を貫いてなお刃こぼれなど全く見られない長大な騎士剣。なるほど、横に立てればまるで金属の壁。手下の男がそう表現したのも頷ける。
その鉄の壁もとい巨大な直剣は引き抜かれたものの、もう内部の通路は通ることもままならない状態であろう。

退路は断たれた。ならば、どうするか。

「おい、お前ら...」

「お頭...!」

「こうなったらやるっきゃねぇぞ!血のにじむような特訓で身に着けたアレの威力、思い知らせてやれ!」

「「オオーッ!!」」

ババッ、と整列する山賊たち。数人のグループで集まって両手を前に突き出し、何やらぶつぶつと唱え始める。
すると、彼らが構えた両手の先に何やら魔方陣のようなものが浮かんできた。

『あら、魔法ですわね。あなた達のような下品な者にも使うことができるだなんて驚きですわ』

「フン、何とでも言いやがれ。今に見てろよ...!」

「お頭ぁ!いつでもいけますぜ!」

「よぉし、あのデカブツにぶち込んでやれ!!」

展開された魔方陣からシンプルな破壊魔法がいくつも飛び出していく。
巨大すぎる的を外すわけも無く、女騎士の身体のあちこちで魔法が炸裂する。

『んんっ...な、なかなかやりますわねっ、あんっ』

「まだまだぁ!魔力の続く限り打ち込んでやれえええ!」

ズドンズドンと巨大な女騎士の体表で弾ける魔法はその一発一発が小屋程度であれば軽く吹き飛ばせる威力をもっている。森の中での試射でもそこそこの大きさの木であれば一撃で打ち倒すことができていた。しかし。

『ふ、ふんっ...威張り散らしていた割にはその程度ですのね!こんなものではわたくしは屈しませんわ!』

そう、女騎士が身に着けている巨大で分厚い鎧。サイズがサイズであり細部に凝っている余裕が無いためか、先日の黒髪の女騎士の身に着けていたものより簡素な作りではあるもののあちら基準でこさえられている鎧相手に人間基準の魔法でどうこうできるハズもない。
事実、目の前にそびえる女騎士が何らかの反応を示すのは鎧の無い部分で魔法が弾けた時のみであった。

「くそっ、あんな分厚い鎧を着けられてたんじゃあ急所に当てるのは無理だな...」

『...!!』ピクンッ

「ど、どうしますお頭」

「うるせぇ、今考えてんだ!しっかしこのままじゃ...」

鎧のプレート部分はもちろん、繋ぎ目の部分にも人間基準ではあり得ない厚さの革や凄まじい太さの綱のようなものが使われており、いくら魔法を使っているとはいえピンポイントでその部分を破壊するには何発も打ち込む必要がありそうだった。いつもの試射ならともかく、この状況ではそれも難しい。

「くっそぉ、ここまでか!あんなに死に物狂いで魔法の鍛錬をしたってのによぉ...!」

ついに山賊の頭も膝を着き、諦めムードが漂った、その時。

『あ、あぁんっ。よ、鎧の留め具が壊されてしまいましたわっ。ひ、卑怯者~!』

目の前の女騎士が身体を捩り、ごそごそとあからさまに自らが身に着けている鎧のあちこちを弄り始めた。棒読みも甚だしいセリフも添えて。
ズガシャン、ドガシャンと降ってくる巨大な鎧のパーツ。そのうちの一つでもあれば無敵のシェルターが出来上がるだろう。

「い、今だ!鎧がなけりゃこっちのモンだ!」

「えっ、さっきから一応肌の見えてるところにも当たってましたけど」

「いいから撃てるだけ撃つんだよォ!」

「あ、アイアイサー!」

勢いを増した魔法弾が、女騎士の身体のあちこちで再び炸裂する。
鎧越しでない、100%の威力が女騎士に伝わった。小ぶりな、しかし山賊たちからすれば小山のような胸に魔法が直撃する。すでに何本もの大木を圧し折っては磨り潰しているその脚で魔法が弾ける。

『はぁんっ、こんなぁっ、すご、いですわっ...あぁんっ!』

「撃て撃てーッ!!」

『小さな人間たちがこんなにも頑張って...!ああぁんっ!!』

その後およそ数十分にわたって、山賊の男たちは限界を超えて魔法を放ち続けた。




『あっ、ん...まだ少し余韻が...!』ピクンッ

「「「 」」」チーン

「うぐぐ、もう一歩も動けねぇ...」

『はぁん...んんっ、コホン。アナタたち、中々見どころがありますわね。このまま捕まえてしまうのも惜しいですわ』

「で、でもアンタ、騎士なんじゃあ」

ブオォン! ズバババァン!!

女騎士が腰に刺していた剣を振るう。凄まじい勢いで巨大な剣が振り抜かれた際に発生した衝撃波が辺りの森を丸裸に変えてゆく。
力を込めたようには見えない所作だったが、その威力はアジト脇の森の木々をすべて切り株に変えてしまうほどのものだった。

『お黙りなさい』

「は、はひ」

『あら、わたくしとしたことがはしたない。とにかくまた近いうちに遊びに...ではなく、視察に来させていただきますから。その時まで大人しくしていることですわね。あ、魔法の鍛錬はしっかり続けておくんですのよ』

地面にめり込んだ鎧のパーツを拾い集めて小脇に抱えると、満足げな表情を浮かべて去っていく巨大騎士娘。
後には地面に突っ伏すようにして倒れ込む山賊の一団と巨大な平たい穴が空いてしまった山、そして広大な範囲に転がる大木と大量の切り株だけが残されていた。



・1000倍

ズッドオオオォォォン! ゴゴゴゴ...

『あうぅ...こ、殺してくださいっ...』

「うわあああぁぁっ!?」

「ア、アジトが!俺たちのアジトがぁぁぁっ!?」

控え目なセリフとは裏腹な大破壊を伴いつつ、今日も巨大娘がやってきた。
過去最大の衝撃と揺れが山賊たちの根城である山を襲い、彼らの拠り所である洞穴の入口はあっという間に崩壊し埋まってしまった。

そんな事情など知る由も無く、きょとん顔で首を傾げる軽装の騎士娘。幼さを残しながらも非常に愛らしい顔立ちをしていた。やや茶色がかった髪は肩口あたりで切り揃えられ、さらさらと揺れている。先の2人とは異なる方向性ではあるものの非常に男としての欲をそそられる女であることは間違いなかった。今回も、その規格外の大きさを除いて。
とうとうその身体に合う金属鎧が作れないところまできたのか、巨大な革を何枚も繋げてこしらえた革鎧を身に着けていた。いくら防具が簡素なものになろうともダメージなぞ欠片も与えられる気がしないのでもはやどうでもよいのだが。

これまでで最大の大きさを誇る巨大娘が、アジトとして使っている洞穴がある小さな山を覗き込むように身を屈めている。それほどに身を屈めても山頂は彼女の太ももの高さ程度であり、大きく脚を広げて座り込んだ彼女の太ももの間に楽々と山全体が収まってしまっている。
村を1つまるごと覆ってしまえそうなほど巨大な革鎧をもってしても覆いきれない巨大な胸。遥か上空で大きく揺れるアレがそのままこの山に押し付けられるようなことがあればそれだけでアジトどころかこの山ごと押し潰されかねない。
それほどの重量感と巨大さをもった双丘が今にも落ちてきそうな位置でゆらゆら揺れているのだから生きた心地が全くしなかった。先日のつんつんした巨大騎士娘が可愛く見えてしまうくらいの大きさと迫力だ。

「あぁ...こないだの姉ちゃんに剣でめちゃくちゃにされたの、なんとか直したとこなのによぉ...」

「直す前よりめちゃくちゃだぁ...」

『あ、あのぉ』

「お頭ぁ、もうさすがにこれは諦めた方がいいんじゃあ」

「バカやろう!これまでに集めたお宝も集め直した高い酒も全部埋まっちまってんだぞ!はいそうですかと諦められるかっての!」

「この間はさっさと逃げるって言ってたじゃないすか...」

「うるせぇ!アレもなんとかなったんだから今回もなんとかするんだよ!」

「で、ですけどぉ」チラッ

「...」チラッ

『...?』フリフリ

「...なんか、手ぇ振ってますよ」

「あぁ、もしかしたら話の分かる嬢ちゃんかもしれねぇ。おどおどと視線が泳いでいやがるしな。よくわからんがあまり気の強いタチじゃねぇみてぇだ」

「あんな大きさで気弱な性格になることってあるのか...?」ヒソヒソ

「いやぁ、どうだろ」ヒソヒソ

「ん?なんだよ、なんか文句あっか?」

「いえ、あんな大きさのを相手にまだ嬢ちゃんと呼べるお頭、さすがっす」

「うるせぇ。とにかく大人しく帰ってもらうしかねぇだろ」

「っす」

スタスタと巨大な壁にしか見えない肉の壁、もとい巨大な騎士娘の太ももへと近付いていくお頭。
あまりにも巨大な彼女から見れば、人間など2ミリにも満たない大きさ。そんなサイズ差にも関わらず自分から近づいていくお頭に、手下たちは尊敬の眼差しを向けていた。

「おぉーい、嬢ちゃん!今日は何の用だぁ!?」

『え、えぇっとぉ...み、みなさんが悪いことをしてるって聞いたので、その』

「あんだってぇ!?人違いじゃねぇのかぁ、おい!」

『はうぅ、でもぉ...』

「何の証拠もなしにンなこと言われても、なぁ!お前らもそう思うだろう!?」

「「そ、そーだそーだ!!」」

『あうぅぅ...』

正直なところ、こっちに話を振らんでくれと思わずにはいられない手下たちであったが頼れるお頭の言葉に同調して気の弱そうな巨大娘を責め立てる。
お頭の策略通り、上手く言いくるめて帰ってもらえそうだ。

『うぅっ、確かに証拠はありません...』

「おうおう、だったら今日のところはさっさと帰って」

『なので、ちょこっと調べさせていただきますっ』

「...は?」

ズドンッ!!

ゴシャッ、ととんでもないサイズの指が山肌に突き刺さり、アジトの入口をぐりぐり押し広げていく。
彼女の指先はそれだけでも10メートル以上の幅と太さを持ち、アジト入口よりも遥かに大きい。洞窟の入口は一瞬で指先に押し潰されてしまった。

『ん...狭すぎて、入んないや...』

「「「おいおいおいいぃぃぃいぃ!?」」」

野盗の男たちが阿鼻叫喚の悲鳴を上げる中、さらにぐりぐりと指を動かす騎士娘。その度に指先の動きだけで山が揺さぶられあちこちでガラガラと落石が発生する。

『んー、しょうがないなぁ。山、崩しちゃいますねっ』

「いやいやいやちょっとちょっと!?」

思いの外ちっぽけなアジトにしびれを切らしたのか、指先だけでなく手の平全体を使って山を切り崩しにかかる巨大騎士娘。
あの巨大すぎる手の平をもってすればこんな小さな山程度、ものの数分でぐしゃぐしゃに破壊されてしまう。スケールの大きさが段違いだった。

「ま、ままま待ってくれ!!」

『ふぇ?』

「わ、悪かった!俺たちがこの辺りを縄張りにして悪さをしてました!すみませんでした!」

まさか山ごとめちゃくちゃにされるようなことになろうとは。以前に出くわした100倍騎士娘の時には山ごとアジトを剣で貫かれたりもしたが、丸ごと平らにされるなんてのは予想の斜め上の展開だった。そもそもそんなことが可能な人間?が存在していること自体想定の範囲の遥か彼方である。目の前にはまさにそれが可能な人間(?)がいるわけだが。

「ぜ、全部話しますし、何か証拠品が必要なのであれば用意させていただきますので!」

『...むぅ、騙してたんですね』

「その件に関しては誠に申し訳ありませんでしたぁっ!!でも最近はそんなことをする余裕がなかったのも事実で...!」

上空でむくれる巨大な顔。更に少しでも機嫌を損ねるようなことがあれば...男たちの背中を冷や汗が滝のように流れていく。
しかし見下ろしていた顔がふと穏やかなものへと変わり、張り詰めた空気も一変した。

『ふふっ、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ?妹たちからお話はよーく聞いてます』

「い、妹...?」

『はいっ。ここで皆さんと遊んだって、すごく楽しそうに話してたので私も遊びに来ちゃいましたぁ』

あの巨大な女騎士たちの姉だという目の前の巨大娘は隠すことも無く打ち明ける。

『でも悪いことはめっ、ですよ。何か隠しているものがあったら出してくださいね』

「あ、あいあいさー」

言われるがままに荒れ放題のアジトからなんとか引っ張り出してきたのは数々の爆薬が詰まった樽だった。その数はおよそ数十。

『これは...爆弾、ですか?』

「あ、あぁそうだ。あー、なんだ。ちょいとアジトが手狭になってきたもんでよ。コイツを使って広げるか、いっそのこと新しく作っちまうおうって話で」

そう、ここ最近の巨大騎士娘の襲撃から逃れるべく新たな拠点を作ろうと計画していたのだった。目の前の超巨大騎士娘が現れた時から先日の2人との関係性は明らかだと踏んではいたが、まさかの姉妹とのこと。ここで計画がバレるようなことがあってはならない。

岩盤をも砕くことのできる強力な爆弾だ。それだけ値も張る。
これまでの貯蓄の大部分を投資して手に入れたものだ。どうにか事を穏便に済ませたい。

『でもコレ、危ないですよね?』

「へ...?」

『どこかの街を攻めるのに使えないことも...』

「い、いやいや嬢ちゃん!アンタのとこの妹さんたちのおかげで俺たちにゃそんな余裕はとてもとても」

『でも、万が一ってこともあるので』

「待ってくれぇ!そいつは大枚はたいて手に入れた...!」

『じゃあ、処分しちゃいますね~』

「「ちょっとおぉぉぉぉ!?!?」」

ゴバッ、と地面ごと持ち上げられた大量の爆薬。それを掌の上に万遍なく広げていく巨大騎士娘。

『ちょっと少なくって物足りないけど...贅沢言っちゃダメだよね』

ばちん、と革鎧の留め具を外しインナーに包まれるのみの胸を曝け出す超巨大騎士娘。山のような大きさの乳房が締め付けからの解放を喜ぶように揺れている。
そのまま、手の平に広げた爆薬を揉み込むように胸に押し付けていく。

ボォン、ボボボォン...!

『んっ...あ、ふ』

遥か上空から微かな爆発音。それを掻き消す、控え目ながら大音量の悩ましい嬌声。
騎士娘の身動ぎ1つで巻き起こる轟音の方がよほど大きかった。

『んん...えへへ、気持ちよかったです。ありがとうございましたぁ』

「え、は、ははっ」

もはや何を隠すことも無く楽しみ終えた超巨大騎士娘は、いそいそと革鎧を着込み直すとおもむろに立ち上がった。

ゴゴゴゴゴ...!! 

立ち上がる、その動作だけでも膨大な重量と体積の移動で辺りの大気や地盤はめちゃくちゃにかき乱されてしまう。
アジトのある山が少々傾いたような気がする、とは後日の山賊たちの談だ。

『じゃあ、今度は妹たちと一緒に遊びに来ますねっ。あんまり危ないものを溜め込んじゃ...あっ、やっぱりちょっとなら...ううん、割とたくさん溜め込んでおいても大丈夫かも、です』

雲を散らしながら大きな手を振り、一歩ごとに突き上げるような揺れを巻き起こして去っていく超巨大騎士娘。
後には入り口の潰れたアジトと一部が抉り取られた山、そして呆然と立ち尽くすしかない山賊の一団が残されていた。


.10000倍

ズゥン!

末『さぁ、今日もわたしが鍛え直してやるからなっ!』

ズッドォォン!

下『あら、わたくしが魔法の威力を見て差し上げてもよくてよ?』

ズッドオオオォォォン! ゴゴゴゴ...

中『また爆弾とかたくさん持ってたりしたら危ないし...処分するの手伝ってあげますね』

小、中、大と続けてやってきた地響きに戦々恐々となるアジト内。

「ひ、ひいいぃぃっ!この前言ってた通りまた来てるぅ...お、お頭ぁ!なんで俺らがこんな目にぃ!」

「馬鹿野郎、俺が知るかよ!ちくしょう、なんであんなデカい女どもに付きまとわれなくちゃいけねぇんだ...!」



『むむ、姉上たちは引っ込んでいてくれないか。今日もこいつらの剣と弓をこの身で受け止め、騎士のなんたるかを教え込まねばならんのだからな』

『あらぁ、そんな小さなもので満足できるだなんて羨ましいですわ。やっぱり魔物を一発で焼き尽くす様な強力な魔法でないと』

『わ、わたしはもっと強くしてもらわないとダメだから...2人とも羨ましいなぁ』

震える山賊たちを尻目に、アジトのある山を囲んできゃいきゃいと盛り上がる巨大娘たち。

「い、今のうちにずらかるぞ!」ヒソヒソ

「へ、へいっ」コソコソ

会話に夢中になっている三人娘の隙をついて逃げ出す山賊たち。
そろりそろりと忍び足。と、その時。

ゴゴゴ、グラグラ。

ズゴゴォン、グラグラッ。

何かがゆっくりと近付いて来るような、少しずつ大きくなる揺れと地響き。
俺たちを囲んでいるこの巨大女どもの仕業だろう、と三人娘の方を伺うといつの間にやら会話はストップしていた。三人揃ってある方向を見つめている。

『こ、これは...!』

『えぇ、間違いありませんわ...』

『あうぅ、この世界もめちゃくちゃにされちゃうかも...』

怯えているのともまた異なった、神妙な顔つきになる三人娘。

「な、なんだってんだ...」

今までとは明らかに違う巨大娘たちの様子にさらに身構える山賊たち。
逃げ出す足も思わず止まってしまう。

ふと、アジトのある山と巨大な三人娘をすっぽりと影が覆った。大きな雲でも流れてきたのだろうか。
男たちは空を見上げるが特に雲などは出ていない。今日は一日快晴のはずだ。

『あらあら~、みんな揃ってどうしたのかしら~』

突如、天から轟音が降り注いだ。柔和な声色だが、その音圧はケタが違った。一番大きい1000倍娘の声ですら足元にも及ばないほどの威力。
ビリビリと叩きつけられる爆音に、思わず蹲る山賊たち。山の木々もがさがさと震え、まるで山全体がその音に揺さぶられているようだった。

『う、上姉上...!』

『上姉様...』

『お、お姉ちゃん...』

上空を見つめ続けていた巨大娘たちが揃って口を開く。
更に辺りが暗くなったかと思うと、とてつもない威圧感とともに巨大な影が上空に現れた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!! ズッドオオオオォォォォン!!

『はぁい、お姉ちゃんも遊びにきちゃいました~』

『『『きゃああああああっ!!!』』』

「「「のわあああぁぁぁっっ!?」」」

山賊たちだけでなく巨大娘たちですら立っていられないほどのとんでもなく巨大な揺れが山とその周辺を襲い、なんとか立て直しつつ補強を行っていたアジトはあっさりと崩壊、崩落し埋まって

しまう。

「あ、あぁ...せっかく苦労してほぼ1から作り直してたのに...」

「掘り起こしたお宝もまた埋まっちまったぁ...!」

「く、くそ!どこのどいつだ、こんなことしやが、ったの、は...」

上空を仰ぎ見る山賊たち。
そこには空一面に広がるあまりにも巨大な女の顔があった。目を細め、慈愛の笑みを浮かべながら山を見下ろしている。
そのあまりの巨大さに、お頭の悪態も尻すぼみに小さくなってしまう。

その巨大でありながらも美しく整った顔を支えるようにして地面に打ち込まれた片肘は隣にあった小さな山を突き崩し押し潰している。
もう片方の腕は軽く曲げられ山賊たちや三姉妹のいる山をぐるりと囲うように置かれていた。無論、全てをその下に敷いて。

いわゆる片肘を地面に着いた「頬杖」の体勢で寝そべった四姉妹の長女。
ほぼ地面に寝ているのと変わらないはずのその状態でさえ、次に大きな次女を楽々と眼下に収めてしまえるほどの大きさ。
姉妹である三人娘はある程度落ち着いていられるだろうが山賊たちはそうはいかない。
これまで三人の巨大娘を(結果的に)あしらってきたお頭もこれには開いた口が塞がらなかった。

『上姉上、どうしてここに...!』

『あらあら~、わたしが来ちゃダメだったかしら~?』

『そ、そんなことは...!』

『うふふっ、冗談よ~。みんなが楽しそうにお喋りしてる声が聞こえてきたから、つい遊びに寄っちゃったの~』

『し、しかし上姉様。今日は天界からのお仕事で魔界へ行かれていたのではなくって?』

『そうよ~、5つだったかしら?魔界を滅ぼしてきた帰りなの。どの魔界もすぐに終わっちゃって退屈だったから、みんなに会えてちょうどよかったわ~』

『あうぅ、わたしは頑張っても1つの魔界に何日もかかっちゃうのに...お姉ちゃんやっぱり凄すぎるよ...』

『あらあら、あなたも下の2人も、そのうちも~っと大きくなれるようになるわよ~。心配しないで~?』

娘をなだめるような優しさで妹と触れ合う長女。八の字眉の困ったような笑顔は聖母を思わせる。

『そ、そうだ上姉上!ここにはその、人間が居るんだ。だからあんまり動かないでいてくれると...』

『わたくしからもお願いしますわ...』

『う、うん。わたしからも...お姉ちゃんからしたら見えないくらいちっちゃいかもだけど』

その言葉を聞いた長女が、顔だけを動かして妹たちの足元を見つめる。
人間などがいくら飛び込もうと気付きもしないのでは、と思えるほどに巨大すぎる眼球が動き山賊たちを捉える。

過去最高のプレッシャーが山賊たちを震え上がらせた。危険な魔物に出くわした時。警備の厳重なキャラバンを襲う時。その時に感じていた緊張感など吹き飛んでしまうほどの、圧倒的な重圧感。彼女にとって自分たちは、文字通り吹けば飛ぶような矮小な存在でしかないことを視線の移動だけで思い知らされてしまった。

そんな彼らの重圧を感じ取ってか、やはり柔和に微笑んで口を開く長女。

『まぁ、なんと可愛らしい殿方たちなのかしら~。いつもこの娘たちがお世話になっているみたいで、ありがとうございます~』

うふふ、と首を傾げつつさらに続ける長女。
動いた首に伴って引きずられた髪の毛がそこにあった樹木を大小関係なく薙ぎ倒し、一瞬で広大な更地が出来上がった。

『この娘たちったら、最近はあなたたちのことばかり話してるのよ~?口を開けばそればっかりで困っちゃうわ~』

「へ?」

表情の成分比率をちょっぴり「困った」に傾けつつ、妹たちを見やる長女。
その視線の動きにつられて三人娘の方を見る山賊たち。
視線の先には、小さな彼らから見ても一目で分かるほどに顔を紅くしていく三人の巨大騎士娘がいた。

『なっ!ち、ちがっ、これはだな...!』アセアセ

『そ、そんな話したことなんて、あああありませんわっ!』アセアセ

『ええっとぉ...わ、わたしは話してたかも、なんて...』テレテレ

『うふふふっ、この間もどうすれば長く付き合っていけるか仲良く話し合ってたじゃないの~』

『あ、う...』

『あ、あれはちが、ちがくて...』

『えへ、えへへ...』

『あらあら、紅くなっちゃって...可愛いわ、三人とも~』

にっこりとその様子を見つめる長女。
と、ふと何か思いついたような表情に変わる。偶然何かを発見した幼子のような無邪気な笑みを浮かべていた。イヤな予感しかしない、と男たちが先手を打つべく何か言葉を発しようとしたその時、巨大な口からとんでもない提案が飛び出した。

『じゃあいっそのこと、お持ち帰りしてしまいましょうか~。そうすればこの娘たちも喜びますし~』

「はぇ?い、今なんて...」

『少し揺れるかも知れませんが心配なさらず~。では、いきますね~』

ひゅん、と消える長女の巨体。
地面にはその巨大な痕跡がしっかりと残っていることから幻の類ではなかったことがわかる。
姉妹の中でも随一のカップサイズを誇るであろう胸が置かれていた部分は、それこそこの国有数の高さを謳われる山が二つ逆さまに収まってしまう深さにまで陥没していた。

なんだなんだと慌てる山賊たち。
ふと、彼らのいる山に影がかかる。これは、先ほどと同じ...!

誰からともなしに空を見上げる。
そこには先程までこちらを見下ろしていた巨大な女がしゃがみ込んでいた。先程よりもさらに巨大な姿で。

ズドッゴオオオオオォォォォォォンンン!!! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ.........!!

「う、あ...!!」

『うふふっ、もう少しだけおっきくなってみました~。このくらいになれば、皆さんのいる山ごとしっかり運んで差し上げられますので~』

『上姉上っ、やり過ぎですっ!』

『そ、そうですわっ!こんなことをしては辺りがめちゃくちゃにっ...』

『そうだよっ、わたしたちの修行に使ってる世界が大変なことになっちゃうっ』

『三人とも大げさねぇ、ちょっとおっきくなっただけじゃないの~。それに、もしもこの世界が壊れちゃってもお姉ちゃんが別の世界を用意してあげるから大丈夫よ~。じゃあ、いきますね~』

指先だけでこの山を押し潰せてしまうのではないか、それほどまでに巨大な指が四本連なって降ってきて大地にざくりと突き刺さった。
もごもごと大地の奥深くで長い長い指が折り曲げられた後、お椀型になった手の平で山を掬い取るように持ち上げてしまう。
最初に指が大地を抉った時も山ごと持ち上げられてしまった時も、体感した揺れは想定よりもずっと少なかった。想定できるレベルの衝撃かどうかは置いておいて。

『大丈夫ですよ~、わたしの魔力で守っておりますので~。うふふ、怖がらせちゃってたらごめんなさい~』

ゴバァ、と大地をくり抜いてその手に乗せながら柔和に微笑んでみせる超巨大化した長女。
その広大な手の平の上には巨大なハズの三姉妹も乗せられている。その手の平は超巨大な長女の次に巨大な次女が何十人も寝そべることができる広さをもっていた。

『さぁ、行きましょうか~。た~っぷりとおもてなしさせていただきますね~』

有無を言わせぬ勢いで自宅へと向かう長女。
魔力によるこの世界への保護はもう解除してしまったのだろう、もう用はないとばかりに全てを足下に踏み潰しながら歩いてゆく。
一歩ごとに山を踏み潰して窪みに変えつつ、るんるんと楽しそうに歩くその姿は姉妹の中の誰よりも男たちとの出会いを喜んでいるようでもあった。