超巨大海防艦と巨大航空戦艦のお話!

前編


ある日の事だった。
大陸有数の大都市に突然、強い光に満ちた。
その光は高さが1000mを超え、人々は光の柱を呆然と眺めていた。
光が少し弱まったその時だった。

パシュッ!!!
ズッズゥゥゥゥゥゥンンン!!!

大地震が街を襲った。走行中の車は宙に浮かび、頑丈な高層ビルが右へ左へ大きく揺れる。
人々は地震に混乱した後、更に大きな混乱が街を覆った。

「ううん……ん?ひゃあ!?何ここっ!?模型の上に乗っちゃったの!?」
「ん……いや、模型にしては脆すぎる。下を見てみろ、足が沈んでいる……!」

巨人が喋るたびにビルの窓ガラスが割れ、空気が振動するのがハッキリと分かるほどだ。
街のどこからでも、下駄のような不思議な靴が建物を踏み潰しているのが見える。
あり得ない大きさの靴は2足分ある事から二人いる様だ。
目線をあげると白を基調とした和服をモチーフにした服を身に纏った女性が聳え立ち、
キョロキョロと辺りを眺めている。
明るい口調の方は戦艦伊勢、冷静な喋り方をするのは戦艦日向で、彼女達はいつも一緒だ。
今回も一緒のようだが、自分の身長が周りの建物よりはるかに大きい状況が上手く飲み込めないようだ。

「明石の機械に入ったまでは覚えているけど…大きくなるなんて、言われなかったよね?」
「ああ、それは私も覚えている。ふふ…どうやらどこかの世界に飛ばされたようだな!」

少し興奮する日向。日々強くなりたいと思う日向は、建物を踏み潰す自身の力に酔いしれ始めているようだ。

「足を上げれば……伊勢、見てみろ…高層ビルが私の足の影に隠れてしまうぞ…!」

伊勢は商業施設がたくさんある繁華街に目をつけ、足を運んでみる。
繁華街は自分の靴の足の影に余裕で収めてしまう。
一番高い高層ビルでも日向の膝にも及ばず、靴裏が少し当たっただけで高層ビルが倒壊してしまった。
今この足を下ろせばどうなるのか、結果は分かってはいたがウズウズして仕方ない。
日向は昂る気持ちを抑えに抑え……

「くっ…が!我慢できん!!それっ!!」
ズッッズゥゥゥゥゥゥンンン………

一気に足を下ろして繁華街をペチャンコにする、その時日向に電撃が走った。
靴越しにサクサクと崩れる感触があまりにも気持ちが良い。
今までに感じたことがない優越感が日向を満たしていく。

「ふふっ!悪くない…悪くないぞ…!も、もっと……!!」
ズッシィィィィンンン!!
ズッシィィィィンンン!!
ズッシィィィィンンン!!

日向は踏み潰す感触が病みつきになったのか、勢いよく足踏みをしながら歩き始める。
日向の下駄履きは大通りに入りきらず、道路の両側の雑居ビルを巻き込んで踏み潰してしまう。

「ん?あれは電車…?ふふっ、この日向から逃げようと言うのかっ?」

都心部を走る高架の鉄道に狙いを定める。
日向の足の影から逃げようと電車は異常な加速をするが、日向の巨足から逃れられるはずが無い。
足を下せば高架駅はたちまち崩落し、電車は下駄履きに呆気なくペシャンコになる。

「電車が糸屑のようにペチャンコだな…!なんて弱いんだろう…!」

靴裏に一本の筋がへばりつき、日向に剥がされる。
それは電車の成れの果てであり、一本の太い鉄板に変わり果ててしまった。
日向は更に勢いづき、高層ビルを見つけては踏み潰していく。日向は子供のように夢中になっていた。

「あちゃー…日向ってたまに変なスイッチが入るのよね〜。そんなに良いものなの?」

ズンズンと歩いていく日向の背中を眺めてぼやく伊勢。
妹が夢中になっている姿に伊勢も興味が湧いてきたようだ。

「じゃあ私も楽しんじゃおうかな♪」

伊勢も足元を気にする事なく、ズンズンと踏み潰しながら歩く
。伊勢は地面に生える小さな雑居ビルがふと気になった。
が、伊勢からしてみれば地面からヒョロリと立つ頼りない物であった。

「小ちゃいわね〜!……ビルも引っこ抜けちゃったりするのかな…?」

伊勢は恐る恐る雑居ビルに人差し指と親指を差し向ける。指より遥かに細く、あまりにも弱い存在だった。
伊勢は力加減を考えて、ほんの少しの力で摘もうとする。

ズンッ!!グシャッ…メリメリッッ!!
「ああっ!ちょっとしか力入れてないのに!そぉっとしないと……」

グググ……スボォォォ!!

「引っこ抜いちゃった♪このビルに誰かいるのかな〜?」

伊勢の指の圧力で歪むビルの窓には、伊勢の綺麗な瞳が窓いっぱいに広がっていた。
引っこ抜いたビルはオフィスビルだったので、デスクやコピー機があちらこちらに散乱してしまう。
伊勢は中をみようと目に近づけた拍子に指に力が入ってしまい

グググ……グッシャアアアア!!!!

「ありゃ!?潰しちゃった……。思った以上に脆いわね〜ビルって♪」

瓦礫を服で払うと、伊勢は更なるターゲットを探した。

「お!もっと大きい建物があるじゃん!」

伊勢が見つけたのは電波塔だった。高さは600mを誇る世界でも大きい電波塔なのだが、

「うふっ!タワーが私の股下に入っちゃった!」

身長1600mの巨人である伊勢の前では、腰より低く股下にすっぽりと入ってしまう。
タワーは両側に伊勢の立派な太ももに挟まれてしまった。

「んっ……このまま…足を閉じちゃお!」
メリメリッッッ!!!
ミシミシミシミシッッッ!!!

頑丈なはずのタワーが伊勢の太ももの圧力に悲鳴を上げる。
タワーは最後の意地を見せるように限界まで耐えようとしていたが、伊勢の太ももには叶わず

ギギギ………グッシャアアアア!!!
「んんっ…!挟み潰しちゃった……❤️」
メシャッ……ゴシャッ……

タワーを挟み潰した感触が気持ちよく、太ももをすり合わせて更にタワーを粉々にしていく。
伊勢も自身の強大さに酔っていると

ズズゥゥゥゥンンン………
ズズゥゥゥゥンンン………

微かな揺れを伊勢と日向は感じた。
最初はどちらかが歩いた時の衝撃と思い、お互い顔を見合わせるが二人とも歩いていない。
それにも関わらず揺れは続き、更に揺れはどんどん大きくなっていき、立っていられないほどになった。

そして

ドッッッッゴォォォォォォォォ!!!
「うわっ!?」
「きゃっ!?」

大巨人である伊勢と日向が数十km吹き飛ばされ、遠くの街に尻餅もついてしまう。

「いたたた……」
「伊勢、大丈夫か?」

日向に手を引いてもらいながら、なんとか立ち上がった伊勢は、ゆっくりと上を見上げた。




「……!!お、大きい壁……?」

いくら見上げても視界に入る赤色の壁かと思いきや銀色の眩しい光が目に入る。
その更に上には肌色の物体が銀色から伸びており、肌色の銀色の境目に雲がプカプカと漂っていた。

「これ…‥もしかして靴!?」

遠くにあった山脈が超巨大な靴の下に消えている。
目線を動かすとこのとんでもない靴が、もう2つあり、海に平然と浮かんでいる。
海側の靴の大きな違いは靴から伸びる巨塔が黒色では無く、肌色をしていた。
山脈を軽々と踏み潰す、とんでもない大きさの巨人であることに気づいた瞬間

ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!

周りの建物が音圧で破壊されるほどの衝撃。耳を塞いでいると巨大な影が艦娘を覆った。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!

大気を掻き回しながら4本の脚が折り畳まれ、曇り空があっという間に晴れていく。

「……!ここにいたら危険だわっ!?」
「よし、逃げるぞ伊勢っ!」

ズン!!ズン!!ズドドドドドドッッッ!!!

身長1400mの伊勢と日向が、なり振り構わず爆速する。
小人も超巨大な存在から逃げようとしていたのだが、それより遥かに小さい戦艦ですら敵わない。
建物は次々と踏み潰され、走る時の衝撃波で車が宙を舞う。
二人が走る度に猛烈な爆風が発生し、ありとあらゆるものが吹き飛ばされ、
彼女達が走り去った後は何も残らない。

突如後ろから空気の塊に押され

「「きゃああああ!?」」

1600mの巨軀がふわりと宙を舞う。建物が更に小さく見え、数百km上空に巻き上げられたようだ。
後ろの超巨人からすれば、二人など埃に過ぎない。数百km先の大きな街にお尻の影が少し大きくなり

ズッズゥゥゥゥゥゥゥンンン………!!

お尻が街に襲いかかる。伊勢と日向が地面に座り込んだ衝撃で、お尻の周りの建物が一瞬で吹き飛んでしまった。
顔を上げるとはっきりと分かるほどの巨大な顔が見え、そこで初めてこの超巨人が誰なのか理解できた。

「えっと……択捉ちゃんと佐渡ちゃん……?」
「す、すごい……なんて大きさだ……」
「伊勢達が佐渡ちゃんの顔を見られるってことは…うつ伏せになって……!?」

130kmの超巨人の佐渡は、数万㎢の面積に存在した山や都市を等しく圧し潰してしまう。
まだ小ぶりのお尻の択捉でさえ、今の大きさでは凄まじい大きさである。
択捉のお尻の下で多くの都市が敷き潰されていた。一体どれほどの面積が下敷きになっているのか、
想像するだけでも恐ろしい。
佐渡の顔の近くの山脈がまるで小さな盛り土のようだ。
普段は小さくて可愛らしい海防艦が大地の全てを圧し潰し沈み込ませる、
とんでもない存在に二人はただ眺めるしか出来ない。

二人が見た光景はこの世の地獄であった。

佐渡が悪戯っぽい笑顔を浮かべ、択捉が佐渡に注意する微笑ましい光景だ。
しかし佐渡の口から発せられる呼吸は、口元の山脈や都市を粉々に吹き飛ばして平らの荒野に変えてしまう。
自分達が暴れて破壊した面積を佐渡が喋るだけで上回るのだ。

しばらくすると佐渡の純白の手袋に包まれた手が顔の近くの都市に寄せられ、

ズンッッ!!ズブズブズブッッッ!!!
「きゃっ!?」

思わずよろめくほどの地震と共に、佐渡の手が大地に容赦なく沈み込む。
爪の下敷きになった山は見えなくなってしまった。

スガガガガガガガガガ!!!!

ショベルカーのように都市や山脈をめくり上げ、膨大な土砂とともに反対側の都市に被されていく。
凄まじい量の土砂と都市の建物に圧し潰され、新たな山脈がうず高く積み上がっていく。
択捉も渋々とした表情で佐渡と同じように大地をめくり上げ、佐渡が作った山を更に高くする様に被せる。
まるで砂場で山を作るような感覚だった。

「す、すっごいね……」
「これが海防艦の力か……」

唖然とするのも当然だった、大都市が圧し潰されて高さが20kmの大山脈が出現したのだ。
世界最高峰のエヴェレスト山を軽く凌駕する世界一の山が、小さな女の子の手のひらだけで造成された。
自分が巨人である事ですら忘れてしまうほどの迫力に頭がクラクラする。

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「うわっ!?」

再び揺れる大地に足を取られそうになり、

ドッドォォォォォォォォ………

建物が宙に浮くほどの衝撃が二人を襲う。
衝撃になんとか耐えて見上げてみれば

「佐渡ちゃんの顔が…逆さまに…?」
「仰向けになったみたいだ…跡が凄いな……」

佐渡の可愛いらしい顔がひっくり返り、佐渡の広大な眩しいおでこが太陽に照らされている。
綺麗な水色の髪の毛が大地に靡いているが、佐渡の髪の毛は直径1kmにも及び、建物を次々と圧し潰している。
髪の毛でさえ小人にとって大き過ぎる存在だった。
仰向けになった佐渡の隣にはうつ伏せの時の跡がくっきりと残ってしまう。
いくら小柄の海防艦とは言え、身長130kmの巨人の体重は大地にとって重すぎるのだ。
そこにあったはずの都市や山脈は茶色の荒廃とした地面に塗り替えられ、何もない荒野がひたすら続いていた。

グワングワングワン!!!

佐渡達が何か喋っているようだが、声量が巨大すぎて言葉として聴き取れない。すると択捉がこちらを向いた。

「ん?択捉ちゃん?どうしたんだろ…?」
「いや、択捉からすれば私達は見えないだろう。」

日向の言う通りであり、130kmの超巨人からすれば1400mなど目を凝らさないと見えない。
実際、択捉はこちらに気づ素振りを見せないまま

「日向っ!択捉ちゃんの手がこっちに向かってるわ!?」
「空一面が択捉の手に置き換わってるな。なんて壮観な風景だろう!」
「ちょ、関心してる場合じゃないわよー!?」

みるみるうちに超巨大な手が近づき

ズブッッ!!ズブズブズブズブ…………

遥か遠くで択捉の手が大地に沈み込み

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

逃げようとした二人を大地震が阻む。その地震は地面の下では択捉の手が地殻を砕く振動によるもので
先程の地震が可愛く見えるほどの地震にうずくまるしか無い。

ついに

バッッゴォォォォォォォォンンン
「きゃあああああ!」

周りの景色が急激に下に動き、伊勢達に強烈なGが襲いかかる。
体に地面が押しつけられ立つことすらままならない。
遥か上空は択捉の顔で埋め尽くされ、択捉が息をする度に雲ができる。
自分達が立っている都市の風景全てが択捉の手のひらの上である。
普段なら身長が140センチにも満たない小さな少女が、都市を丸ごと救い上げられるほど巨大なのだ。
すると再び地面が勢い良く降下し始める。周りの建物は突然発生した浮力に耐えきれず基礎ごと宙に浮いてしまう。
伊勢達も地面に踏ん張ることで必死であった。

ズズズ……ズンッッ!!!

択捉はどこかに都市を下ろしたようで、先程よりずっと安定していた。




「今度は何…?」

冷静に辺りを見渡す日向だったが、どこか違和感を感じた。
緑の大地が遥か"下"に見え、都市の端から"肌色"の大地が広がる。
さらに方角を変えればシワがいくつも入った白色の壁が視界を覆い、日向がここが何処であるか気づいた瞬間

すぅぅぅぅ………

 ごぉぉぉぉ…………

すぅぅぅぅ………

ごぉぉぉぉ…………

1400mの巨人が思わず尻餅をつくほどの"ゆっくりとした縦揺れ"が二人を襲う。
先程までの激震とは異なり一定の間隔で街が優しく上下する。
まるで地面が生きているような揺れ方に日向は確信した。

「伊勢っ!私達は佐渡の腹の上に載せられたようだぞっ!」
「街ごとお腹に載せてるって…!?じゃあこの揺れって佐渡ちゃんの"呼吸"なの!?」
「なんか熱いな…それに頭がクラクラしないか…?」
「ふぁ…安心する匂いがするわね…」

択捉は佐渡のお腹の上に都市を乗せた。
佐渡のお腹はとんでもない面積を誇り、都市を余裕で載せることができるのだ。
佐渡の微かな呼吸でも小さな都市にとって、数百mも上下に動く地殻変動。
更に佐渡は都市を載せるために服をめくっているので、蒸れたお腹が都市の湿度を上昇させる。
そのうえ佐渡の良い香りが充満し、二人の脳天を鈍らせてしまう。

…………ちっまったぜぇ!!!!
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

地面が小刻みに震え、足元の建物が次々と倒壊していく。
地面が音に振動して震えるような揺れと、はるか遠くから聞こえる佐渡の声の爆音に翻弄される二人。
その時体に違和感を覚えた。」

「んっ………!体がっ…火照るように暑くないか!?」
「私も…体が暑くなってきちゃった……!!」

体中から溢れそうなほどの力が湧いてくる。
佐渡のお腹のフェロモンなのか、超巨大な巨人の体表にいることが影響したのか。
凄まじいエネルギーが身体を満たしてそのエネルギーは、彼女達の体の限界を突き破った。

「うぐっっ!?」
「はうっっ!!」

普段の伊勢達には有り得ないほど艶かしい声が響きわたると

グッ!ググググンッッッ!!
ムクムクムクムクムク!!!

行き場を失ったエネルギーは、伊勢と日向の巨軀を更に爆発させるように膨張させる。
二人が履いている艤装靴は下駄の様な靴は周辺の建物をなぎ倒し、
敷き潰しながら幅と高さが10mずつ倍増していく。

ズンッ!ズズン!!
「おっとっと、建物が小さすぎて踏み場が無いな。」

日向くるぶし辺りに見えていた高層ビルの屋上はさらに小さくなり、
霜柱の様にサクサクと踏み潰し巨大な足跡を形成してしまう。
足の置き場を変えている間にも巨大化は進み、ステップを踏むたびに日向の足跡の面積が倍増し
より多くの建物をスクラップにしていく。

「あわ、いやっ!?」

伊勢はあまりの急激な膨張にバランスを崩してしまったようだ。
バランスを崩している間も巨大化は止まらない。
都市に現れた伊勢の尻の影は10倍20倍と面積が増加し、予想される破壊の範囲が途方もなく拡大してしまう。
どんどん巨大化していく尻が押しのける空気は、運良く影に包まれなかった街に暴風を起こし
ビルは根こそぎ吹き飛され、車は宙を舞う。

ズッッシィィィィィィンンンン!!!!

重々しい轟音と共に伊勢は盛大に尻餅をついた。
伊勢のむっちりとしたお尻は影に収めた地域を、建物や自動車を一つも残さず佐渡のお腹にプレスしてしまう。
伊勢は受け身一つとらず尻餅を着いてしまい、お尻の痛みに身構える。

「伊勢。大丈夫か?」
「あ、佐渡ちゃんのお腹柔らかい!お尻が痛くないわ!」
「ふふっ、それは良かったな」

ズズ…ズズズズズ………!!

お尻をずりずり動かしながら、お尻に伝わる感触に喜びを感じる。
だがその動きは周辺の建物にとどめを刺し、地面を更に削って佐渡の腹の肌色を剥き出しにしてしまう。

「よっこいしょっ!」

ズォォォォォォォォォォ!!!!

伊勢が立ち上がると、数千㎢がお尻の形に敷き潰された跡が残されていた。
伊勢が尻を動かしたことで全てが丹念にすり潰され、都市に突如として佐渡の肌色の広場が形成されてしまう。
お腹には自動車や地下鉄の車両がへばり付いていた。

「伊勢のお尻は大きいな、羨ましい。」
「は…恥ずかしいから見ないでよ…。どうやら私達また大きくなったみたいね
 建物が埃みたいに小さいわ…。」

身長16km、1万6000m。1600mから更に巨大化した巨軀は壮大なものだった。
銀色に輝く途方もない艤装靴が聳え立ち、都市に圧倒的な存在感を放つ。
そこから天を突き破らん限りに伸びる巨軀は、強く逞ましい戦艦の威容を誇る。

が、

「おおっ?地面が少し沈み込むぞ!ようやく佐渡の腹が少し凹む重さになったようだな。」
「そういえば街が乗っても沈まなかったよね…?今の私達って街より重いのかしら…?」

都市の重量を軽く上回る大巨人を余裕で載せる肌色の大地は、小さな少女のお腹なのだ。
巨大化した実感は足元の都市を丸ごと踏み潰しているから分かることであり、
本来は巨大化したことすら気が付かないだろう。
巨大化したことで佐渡は重さを感じ、択捉もこちらを認識したようだ。
そして耳奥の鼓膜の面積も増大したことで超巨人の声も拾う事ができるようになった。
択捉が驚いた様子でこちらを覗き込む。

「そこにいるのは…伊勢さんと日向さん!?どうしてそんなに小さいのですか…?」
「んあ?なんだなんだ??」

佐渡も顔を起こしてお腹を眺める。
凄まじい大きさの顔に囲まれ、戦艦でも恐怖を覚えるが伝え無ければならない。
小さいのではなく、あなた達が大ききすぎるということを……





時が遡ること数分前、択捉と佐渡は見渡す限り水が存在する空間に棒立ちしていた。

「なんだここ?見渡す限り何も無ぇなぁ、えと!」
「こ、こら佐渡、ここが何処か分からないんだからウロウロしちゃダメ!」

択捉は明石から実験を頼まれて、良く分からない機械に入った所までは覚えている。
しばらくして風を感じて目を開けてみれば、足元に水たまりがひたすらに続く不思議な空間が広がる。
真面目な択捉は何が起きたのか考えを巡らせるが、佐渡が歩き出してしまいそれどころでは無くなってしまった。

「ああっ!ちょっと佐渡!?どこ行くのよ!?」
「にひひっ!探検しよーぜ!面白そーだし!」

跳ねるように無邪気に走り出す佐渡。
この時、佐渡は足底を僅かに濡らす水たまりの上を走っているつもりだった。

だが実際には

ズッッドォォォォォォォォォ!!!
ズッッドォォォォォォォォォ!!!
ズッッドォォォォォォォォォ!!!

佐渡の靴の裏が着水するごとに10mを超える津波と衝撃波が発生し、
大洋を航行していた大型船を次々と転覆させる。
靴の影に覆われた船舶やその海に泳ぐありとあらゆる海洋生物を、海底に圧し潰し靴裏の模様に変えてしまう。
佐渡の靴跡に沿って新たな海底山脈を形成するほどの地殻変動を起こしている事に佐渡は気づいていない。

なぜなら"佐渡は巨大過ぎる"のだ。

択捉達は身長130kmという途方もない大きさで現れた。
130kmの目線では足元の海は極浅い水たまり程度でしか無く、海に浮かぶ船も小さすぎて分からない。
ただただ何もない所に降り立ったという感覚だけであった。
しかしそれは、彼女達にとっての比較対象が無いだけであり、実際にはありとあらゆるものを踏み潰す超巨人である。

「もう佐渡…いつもこうなんだから…」

自由奔放な佐渡にいつも振り回される択捉は覚束ない足取りで追いかける。
択捉が呆れながら歩いている間も

ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンン………
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンン………
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンン………



佐渡が走るほどの衝撃では無いが、確実に海へ足跡を刻む。択捉の視界には同じ大きさの佐渡しか入らず、
海に浮かぶ小さな島に気付かない。大小様々な大きさの島が択捉の靴の下に次々と踏み潰されて行く。
佐渡と択捉が歩くだけでこの一帯の海域の海図を一変させてしまった。
この大天変地異をあの小さな海防艦が引き起こしたとは、誰も信じられないだろう。
しばらくすると、択捉はようやく佐渡に追いついたようだ。

「えと〜!ここから水たまりが無いぜ〜!」
「勝手に行かないでよ佐渡……。それよりなんだろう、苔のようなものが生えてるわね?」

択捉が苔だと思っているのは標高3000mの大山脈であり、極小さな水たまりは大きな湖である。
130kmの身長では大自然の威容も、地面に僅かに生える苔でしか無いのだ。

「いひひっ!佐渡様の上陸だぁ〜!」
「あっ、佐渡!?」

ズッッドォォォォォォォォンンンンンン!!!

大地に佐渡の超巨大な靴が勢いよく振り下ろされる。
全体重をかけて踏み込んだようだ。

「んおっ!?めちゃくちゃフカフカしてるぜ!?」

今の佐渡は数兆トンの質量を誇る。
山脈と沿岸都市をあっという間に平らにする上に、大地が体重に耐えきれずズブズブと沈み込んでしまう。

グォォォォォォォ………

足の大きさが18センチの佐渡は、今では全長18kmの巨足である。
18kmに渡って佐渡の可愛らしい靴の足跡がくっきりと刻まれていた。

「ん〜えとの言う通り苔だな!靴裏に土がいっぱい付いてるしっ!」
「うーん…明石さんが遊び場を作ってくれたのかなぁ?任務でお外遊び出来ないし…」
「きっとそうだぜ!いひっ!こんなに広いと遊びがいがあるなっ!」

靴裏を見ながら確信する佐渡。土は間違っていないが、土だけで無く沿岸都市の建物全てが混じっている。
しかし択捉にも佐渡にも都市の残骸など小さ過ぎて分かるはずが無く、
明石は砂場の様なものを作ってくれたと勘違いしてしまう。
択捉も上陸しこの大陸の運命は決まってしまった。





地面は地獄だった。ある日突然、海に平然と聳え立つ超巨大な少女が現れたのだから。
小学1.2年程の小さな女の子が海に立つ光景に人々は絶望した。
沿岸から大急ぎで逃げる小人達の努力は、勢いよく振り下ろされた佐渡の靴で無駄になった。
18kmの靴は沿岸から遠く離れた都市まで全てを踏み潰してしまい、
周辺の都市も靴が着地した衝撃で一瞬で廃墟と化してしまう。
靴が上げられると都市の残骸が降り注ぎ、断崖絶壁となった靴跡に街が次々と崩れ落ちて行く。
佐渡が一歩踏み出すだけでこの大災害だ。
小人は可愛らしい海防艦が、この世の終わりを告げる死神にしか見えなかった。

「えと!行こ行こ!」

「うーん…苔を踏み荒らして大丈夫なのかなぁ…?」

まだ沖合に居た赤毛の少女は二の足を踏んでいるようだ。
最後の良心であった択捉も、佐渡の催促に折れて

ドッッッゴォォンンン………

なるべく足跡を付けない様にそっと足を踏み出す。しかし超巨大な足であることに変わりは無い。
佐渡の足跡の隣に択捉の足が出現し、僅かに残った都市を一つ残らず踏み潰してしまう。
それを見た佐渡はもう片方の足を運ぶ。
佐渡の足が移動するだけで瓦礫を全て吹き飛ばし、数百km先の盆地を谷に変えて行く。

二人の超巨人は大地を歩き出した。

二人にとってはただの散歩だが、小人にとって全てを終わらせる行為だった。
山も川も湖も都市も全て靴裏に収めされ平らにされていく。地面はもちろん空を飛ぶ飛行機も同様だ。
旅客機は彼女達のくるぶし辺りを低く飛ぶに過ぎず、気づかれないまま靴に弾き飛ばされるか踏み潰されていった。
択捉と佐渡が通った後は巨大な足跡が延々と続き、生物が一つ残らず地面に圧しこめられる。

「フカフカしてて気持ちいい〜!えともそう思うだろ〜?」
「う、うん。足跡が凄いことになってるけど…」
「気にしちゃだめだぜ〜!ん?えと、あそこの苔は灰色だ!にひひっ!ちょっと近くで見てみようぜ!」

二人は灰色の苔を目指して歩くが、大きすぎてあっという間に着いてしまった。その灰色の苔は有数の巨大都市であり、そこに1600m級の日向と伊勢が居たが二人には小さくて分からない。

「いひひっ、もっと近くで見てみようぜ!」

佐渡は無造作にうつ伏せになる。
うつ伏せになった時の風圧で巨大戦艦を吹き飛ばし、足から胸にかけて100km以上の地域を蹂躙してしまう。
佐渡本人は、全身でフカフカとした地面を感じて不思議な感触だった。

「うおっ、柔らかけぇ!粘土の上に寝ているみたいだぜぇ!」
「ちょっと、汚れるわよ!?」
「えともうつ伏せになって見なよ!気持ちいいぜ〜!」
「私は汚れるのは嫌だから座るわ。」

択捉もフカフカの大地に女の子座りをする。確かに柔らかく、お尻がドンドン沈みこんでしまう。

「いひひっ!こんだけ柔けぇと手で苔を掬えちまうぜ!山作っちゃおっと!」

苔が山脈や都市である事を知らずに掬いあげ、無造作に置いていく。

「えとも山作ろうぜ〜!」
「わ、分かったわ。ちょっとだけよ?」

女の子座りをしながら択捉も土を盛っていく。
二人が積み上げる山脈は小人にとって、標高2万mの恐ろしい山となった。

「完成〜!仰向けになろうっと!」

佐渡が思いっきり寝返りを打ち、さらに被害を拡大させる。
綺麗な髪の毛が地面に靡いていた。

「あ、そーだ。えと〜、向こうの灰色の苔をお腹の上に…載っけてみてくれよ!」

佐渡は服を無造作にめくりながら択捉に頼み込む。

「汚れるわよ?まぁ、良いけども…」

択捉は何気なく佐渡が指さした部分を救い上げる。
この都市に日向と伊勢がいる事など知る由も無い。
あっさりと掬いあげられた都市は、佐渡の広大なお腹に載っけられてしまう。

「コレでいい?」
「にひひっ!ありがとうな!」

呼吸にそって上下に動く様子が面白いようだ。そんな様子を見ていた択捉は異変に気付く。
何かがドンドン大きくなっていき、よく見ると知り合いだった。

「そこにいるのは…伊勢さんと日向さん!?どうしてそんなに小さいのですか…?」

後編へ続く