根は優しいいい子なら、巨大娘でも説得できる。
あわよくば言い負かせるはず!

というお話。









ずうぅぅぅぅぅんんん…

その地響きと揺れから始まった侵略。
侵略者は可愛い、だけどとても大きな一人の女の子だった。


その、人類にとって圧倒的な大きさの女の子にはどんな兵器も通用しなかった。
仁王立ちになって全ての兵器をその綺麗な素肌で易々と受け止め、その後で降伏を迫った。

一つ、また一つと、丸腰の女の子に降伏していく国々。
その巨人は、直接手を下すことなく、次々に侵略を進めて行った。

でも、人々にはわかっていた。直接の攻撃は無かったが。
あそこまでの巨体に踏みつけられたりでもしたら。
いや、少し手や足が触れるだけでビルなど吹き飛ばされてしまうに違いない。

その女の子が唯一踏み潰した物。
街の郊外に置きっぱなしにしてあった、彼女にとっては足指の大きさにも満たない車。
それは、巨大な素足で踏み潰され、どんな強力なプレス機よりも強力に圧縮され、地面と同化させられていた。

その女の子は、車を踏み潰したことに気付いてもいなかった。
そしてそのまま、新たに降伏を受け入れた国から、いつものようにとてもゆっくりとした足取りで去っていったのだった。



とうとう最後の国、日本に、侵略者が迫っていた。






「へぇ、ここが日本…いよいよ最後ね…気を抜かないように、っと…」

日本の首都、東京の摩天楼を見下ろす巨大な女の子。
波を掻き分け、海を歩いて渡って来たその巨人こそ、地球侵略を達成せんとする侵略者であった。


地球で言うビキニ姿の侵略者は、地平線の向こうにその巨体が見えたあとも、とてもゆったりとした動作で接近してきた。
自分の圧倒的さを理解しているためであろうか、その顔は余裕に満ちていた。

腰に手をあて、自分の脛ほどの高さのビル郡を圧倒的高さから見下ろす。

「さぁ!出てきなさい、ひ弱な人間さん達…いくらでも攻撃していいのよ?」

ふふん、と見下すような表情を浮かべる巨大な女の子。

「そうねぇ…くすぐったいって思わせてくれたら上出来かしら?あははっ♪」

嗜虐的な笑み。
それに伴ってサイドポニーに結んだ髪がさらさらと、ビキニに包まれた大きな胸がゆさゆさと揺れる。
それから少し待ってみたものの、戦車や戦闘機の影も形もなく、海にも戦艦の類は浮かんでいなかった。

「どうしたの?てっきり準備してくれてるのかと思ったわ…ちっちゃい花火の…♪」

くすくす、と言い終えてから笑みを浮かべる。
それから数分、相変わらず攻撃の意思はなさそうだった。

「へぇ、この国はあたしの強さををよく分かってるようね。頭いいわ、あんた達」

満足げな表情。このままでは侵略が完了してしまう。
しかし。ふくらはぎのあたりに微かな感触。


「…なによ…一台だけで戦おうって言うの…?」

ちらり、と足元を見ると、臨海部で一番高いビルの上に戦車の砲台が設置されていた。



その戦車砲は、一発だけ弾を撃った後、何の動きも見せなかった。
先程、砲弾が直撃したはずのふくらはぎの素肌には傷一つ無い。

「ふん、そんなの痛くも痒くもないわ。早く降参して出ていらっ…」

キィ、と砲台のハッチが開き、中から砲撃手が降りてくる。
軍服に身を包んだ、顔つきの優しそうな青年だった。
優男風のイケメンである。

「ど、度胸あるじゃない。素直に出てくるなんて…」

余裕を全身から溢れさせていた巨人の表情が、少しの驚きを含んだものになる。
しかし、それはすぐにもとの余裕へと飲み込まれた。

「あははっ、わかったわ。そうやって油断させて、だまし討ちするつもりなんでしょ?」

ぐおおぉぉぉん、と大気を唸らせてゆっくりとしゃがみ込み、足元のビルを至近距離から見下ろす。

「でも、残念ね。あなたが味方に連絡しようとしたらすぐにわかっちゃうのよ。
 建物の影に隠れて作戦会議、もダメ。全部聞こえちゃうんだから」

どうやら、この巨人の母星の科学技術は地球とは比べ物にならないレベルにまで発展しているらしい。
それとも、巨人の能力なのか。自分よりも遥かに小さい獲物を逃さないための。

「そう、ですか…それを聞いて安心しました」

と、そこでビルの上の青年が柔和な笑みを浮かべ呟いた。
圧倒的かつ巨大な侵略者に対する恐怖心は、微塵も感じられなかった。
しゃがみ込んだ体制ですら、どんな建物よりも大きな女の子。
威圧的な態度で見下ろされているというのに、青年の表情は変わらない。

「…なに…?強がってるの?それとも時間稼ぎ、かしら?」

ぴくり、と巨人の眉がひそめられる。

「いえ、あなたはとても大きくていらっしゃるので…こちらの声が届かなかったらどうしよう、と思ってました」

相変わらずニヒルな青年。

「へぇ…で、あたしに声が届いたからって何がしたいの?」

ちょっぴり不満そうな顔で見下ろし続ける巨人の女の子。
こんな対応をされるとは思っていなかったのだろう。

「少しお話を、と思いまして」

「話…?あたしは侵略者なのよ?なんであんたなんかと…」

「そう仰らずに、少しだけお付き合い願えませんか?」

指先だけで自分の何倍もの大きさをもつ侵略者にも怖気づかない青年。

「わ、わかったわよ…少しだけね」

「えぇ、ありがとうございます」

全く恐れる様子の無い青年に気圧されたのか、了承してしまう。

「それでは、あちらの砂浜まで参りましょう。
 そのままの体制ではお辛いでしょうから…」

しゃがんだままの女の子にそう言って、指差した先にはぽっかりと開けた砂地があった。
おそらくこの日のために整備された土地であろう。
この巨大な女の子が二人座っても、まだ少し余裕があるくらい広い。

「最初からそのつもりだったってことね…ま、いいわ。
 せっかく最後に残しておいた国だもの、そんなすぐに終わっちゃってもつまんないしね。
 その…つ、ついでだから連れて行ってあげるわ。その戦車とかいう機械に乗りなさいよね」

巨人の指先と比べても遥かに小さな戦闘車両。
ちょっと力の加減を間違えれば、瞬時にひねり潰されてしまいそうである。

「はい、恐れ入ります♪」

「な、なに嬉しそうな顔してんのよ…ど、どーせそのちっぽけな機械で飛んでいくつもりだったんでしょ…?」

ビルの屋上にスタンバイしていたヘリコプターをちらりと見て、巨人が言う。

「そ、そんなまどろっこしいことされたら待ちくたびれちゃうからよ…
 運んでる途中に潰しちゃってもしらないから、か、覚悟しなさいよ…?」

「はい。でも、あなたは約束してくださいましたから」

暗に死を突きつけられても、青年の笑みは消えない。
ハッチを開いて戦車に乗り込み、大きく手を振って合図をだす。

「ふ、ふんっ…ホントにどうなっても知らないからねっ…」

ビルごと握り潰せるであろう巨大な手が迫り、綺麗な指先が屋上へと伸ばされる。
青年の乗り込んだ戦車を、軽々と、しかし丁寧に摘み上げると、反対の手の平へと乗せる。
小さなものを扱うのが得意なのだろうか、とても手馴れた動作だった。

ぐおおおぉん、と再び大気を揺るがしながらゆっくりと立ち上がる。
巨人にしてみれば数歩の距離を、ゆったりとした動作で歩いていった。





「さ、さぁ、着いたわよ」

広大な砂地も、この女の子が立っていると随分と小さく見える。
実際は、まだ大きな学校の一つや二つ建設できるスペースがあるのだが。

足元にちっぽけな戦車を降ろし、立ち上がって腕を組む。

「ま、まったくホントに小さいわね…どこにいるのかもわかんなくなっちゃうくらい」

再び得意気な顔で、自分の巨大さを見せつけようとする。
足元の戦車は、巨大な女の子の小指よりも小さかった。

「助かりました、ありがとうございます♪」

ハッチを開け、青年が出てくる。
と、そのまま家よりも大きな素足の指に近付いていく。

「…なっ!?何してんのよっ!?」

思いがけない事態に、巨大な女の子の顔が赤くなる。
青年は更に歩み寄っていく。

巨大な女の子の凄まじい体重によって辺りの地面は圧縮され、水分が押し出されて水浸しになっている。
さらに、大きな足指に押し退けられた砂が山を作り、ちょっとした丘のようである。

「いやぁ、大きいですねぇ…これが足の指、親指でしょうか?」

砂の丘を登り終えて、そこから女の子の足指を触る。

「なっ、なななっ、なぁっ…!?」

ますます顔が赤くなり、口も上手く回らない巨大な女の子。

「な、なにしてっ…は、離れなさいよっ!」

やっと、といった様子でそれだけ言い切る。

「これは失礼いたしました…思わず触れたくなってしまいまして…
 先程、ビルの上から眺めたあなたの素足がとても美しかったものですから」

そそくさと、もとの戦車の位置まで戻っていく青年。

「…ば、ばば、ばか言ってんじゃないわよっ…」

その様子を遥かな高みから見下ろす女の子だったが、耳まで真っ赤。
もはや余裕なんてものは存在していなかった。

  




「いやぁ、近くから見ても実際に触れても美しい。綺麗にお手入れしていらっしゃるようですね」

にこにこ、と真っ赤に火照った女の子の顔を見上げる青年。

「ふ、ふざけてると踏み潰すわよっ!?そんなに近くで、その、見たんなら…お、大きさだって分かったでしょ!?」

両の拳をきゅ、っと握り締め、顔を赤らめたまま足元に向かって言う。
先程の威圧的な態度から考えると、だいぶ子供っぽい。

「ほんのちょっと足を乗せてやるだけでなんでも潰せちゃうんだから!
 あ、あんたたちみたいなちっぽけな生き物が作った物だもん、アレよ、そう、脆くて当然よねっ」

まだ顔は赤いが、そこまで言ってちょっと余裕を取り戻したようだった。
ちょっと得意そうな顔になっている。

「そうですね…あなたにかかれば、この地球上のものなど取るに足らないでしょう」

少しだけ、真剣な顔つきになる青年。

「そ、そうよ!あんた達人間なんか、その気になれば、す、すぐに全員…その、ふ、踏み潰せるんだから…」

セリフの後半になるにつれて、言いたくないかのように声が小さくなる。
こころなしか、表情も曇っているような。

「ふむ…それでは、先程は『その気』ではなかった、ということですか」

びくっ、と巨大な身体が反応し、足指によって作られた砂の丘がどさり、と崩れる。

「な、な…なんのことよ…」

つい、と辺りの地面に視線を泳がせる女の子。
しかし他に見るものも無いので、ちらちらと、視界の隅にちっぽけな戦車とそれよりも小さな青年が映ってしまう。

「先程、自分はあなたの素肌に触れました。しかも、足の、です。
 少しでも気に入らないことがあれば、すぐにでも踏み潰せたはず。足の指を持ち上げるだけでも、いや、ほんの少し動かされるだけで、自分は吹き飛ばされて死んでいたでしょう」

巨大な少女は何も言わないで黙っている。
青年がさらに続ける。

「何の予告も無くあなたの素肌に砲撃したあげく、こちらの都合で話し合いや場所の移動まで勝手に決めさせていただきました」

巨大な女の子は足元の戦車と青年を、悔しそうな、恥ずかしいような、ばつが悪いのを認めたくないような目つきで見下ろしている。

「それでもあなたは怒らなかった。無礼な対応をしておいて言うのもまた失礼かと思いますが…」

ぺこり、と頭を下げ、青年がさらに続ける。

「その上、ここまで運んでくださった。まったくと言っていいほど、揺れませんでしたよ。あなたの手の平の上は。 
 持ち上げられたこの戦車も、ほとんど損傷もありません。もちろん、自分も」

黙って聞いていた女の子が、やっと口を開いた。

「そ、そんなのきまぐれよっ…話聞いてあげようと思ったのも、運んであげようと思ったのも…
 きまぐれなのっ!手の揺れが少なかったのだって、今日はたまたま足元になにもなかっ…っ!」

しまった、という表情。もう遅い。

「ふふっ、足元になにもなかったから、ですか…」

「い、言ってないっ!そんなこと言ってないんだから!」

ぶんぶん、と両手の平を足元に向けて振り、否定する。
顔はもう、威圧とはかけ離れた表情である。

「確かに、あの場所からここまでは更地でした…ところどころに木々が生えているだけの。
 ですが、その木々すらも、一本も踏み潰されていなかったとし…」

「そ、そんなわけないでしょっ!?たまたま、そう、たまたま踏ん付けなかっただけよっ!」

「ふふ、いなかったとしたら、の話ですよ。まだ何も言ってないじゃないですか」

「っ!?~~~~っ!」

顔がますます真っ赤になり、ついには綺麗な目に涙が溜まる。
うう~、と猫が威嚇するような声も漏れている。

「いやぁしかし、建物や人間だけじゃなく自然にもお優しいんですね」

青年が笑顔で言う。
女の子の表情が変わる。
一番言われたくないことを言われてしまった、という感じ。

何かを決心した様子で、右の素足を持ち上げる。
ゴバァ、と辺りの砂地を巻き上げ、巨大な素足が持ち上がり青年の上に覆いかぶさる。
少し素足を前にずらし、かかとを地面につける。これまた、おそるおそるといった感じ。
すべすべなかかとが、ずぅん、と鈍い音を立てて接地し、砂の地面にめり込む。

「ふ、ふっ、ふざけんじゃないわよっ!このまま足を、お、降ろしたら…
 あんたなんか、あんたなんか…その、ちっ、ぽけな、機械ごと…か、簡単に…」

そこまで言って、巨大な少女が黙る。
足の下が気になって仕方がないらしい。しきりにちらちらと覗き込むような動作を繰り返している。

「失礼しました。お気に障ったのなら謝ります」

小さいビルほどの高さにまで降ろされた広大な足裏。
滑らかかつ強靭な素足の肌は、その気になれば何もかもを容易く踏み潰してしまえる威力を持っている。

「よ、よかっ…っ!…あ、あたりまえじゃない!このまま、その…ふっ、踏み潰して、や、ろうかしらっ…」

何か言いかけて、またもごもごと後半が聞こえないセリフを。

「えぇ、そうですね。戦車ごとぷちりと潰されてしまいます。いくら砲撃しても無駄なようですし」

青年はしっかりとそれを聞き取り、さらに加える。

「そ、そうよっ!く、くすぐったいくらいかしらっ?
 な、泣いてどっ、土下座でもすれば、そうねっ、逃がしてあげないことも…」

「この大きな足で、唯一踏み潰した人工物があの車ですか…」

びくり、と今までで一番大きく身体が反応する。
無意識に体重がかかっているらしく、ずずず、と大きなかかとが更に砂地にめり込んでいく。

微かに、一つ一つが家よりも大きい足指が微かに蠢き、ごご、ずりずりすりすり、と音を立てる。

ぷるぷる、と上空を覆う素足が震えている。

「そ、その中に…に、人間は、いっ、居なかったん、でしょ、ねっ…?」

それよりもさらに上空からの声は震えていた。
今にも泣き出しそうな女の子の声、そのものだった。

「えぇ、居ませんでした。ただ、車の方はなす術もなくぺっちゃんこだったようですが…」

ふふ、と微かに微笑み答える青年。

「そ、そうなの…よ、よかったぁ…」

素が。

「あら、よかったんですか?」

意地悪に、青年が追い討ちをかける。

「……?…っ!?い、いいい、いいわけないっ!ないんだからっ!
 だ、大体ねぇっ!そ、そんなとこに置いとくのが、悪いんだからっ…っ」

ぐぉん、と青年の上空から素足が動かされ、またもとの位置にずしんと降ろされる。

「おや、見逃していただけるんですか?」

「…」

巨大な少女は黙ったままだった。
それを見て、青年が言う。

「あなたの努力は、分かっていますよ」

「…っ」

まだ黙ったまま。
しかし、ぐすぐすと鼻をすするような音が聞こえている。
そして。

「…ごっ…」

「ご?」

「…ごめんなさいぃ…ごめんなさあぁぁい!…ふえええぇんっ…」

ぐしぐしと泣きじゃくり始めた巨大な少女を見上げ、青年はくすりと微笑んだ。






「ふええぇぇぇん…も、もうっ、つらかっ、たっ、よぉっ…うわぁぁぁん…」

「おやおや、これはギャップがとてつもないですねぇ」

立ったまま泣き出した巨大な少女は、地面に涙の雨を降り注がせている。

「そ、そんな意地悪言わないでよぉ…ぐすん…」

泣き腫らした顔。大気を唸らせてしゃがみ込む女の子。
まだ目尻に薄く涙が溜まっている。

「ふ、踏ん付けちゃったなんて知らなくてぇ…ごめんなさぁい…ふえぇん…」

再び涙が目から溢れ出す。

「とにかく、お座りください。椅子等もご用意できませんでしたが…」

「…ぐすん…う、うん、ありがと…」

ずずぅん、と女の子座り。
ぺたりと太ももを地面にくっつけ、脚の間に青年の戦車がくるように。
辺りの地面はまとめて、柔らかな太ももとふくらはぎに圧縮される。

「先程、その車に人は乗っていなかった、と言ったはずだったのですが…」

太もものむっちりした肉の壁に囲まれながら青年が言う。
その壁の高さ、厚み、強度と比べると、鋼鉄製の戦車も随分頼りない。

「ちゃ、ちゃんと聞いてたよ…?でも…造った人達にも買った人にも申し訳なくて…くすん…」

うつむいて、本当に申し訳なさそうに呟く巨大な女の子。

「この星では、一台の車っていう機械を造るのに沢山の人が働いて、沢山のお金がかかって、それを買いたい人が頑張ってお金を稼いで買うんでしょ…?」

「えぇ、まぁそうですが…」

「そんなに大事なものをあたしが…踏ん付けちゃったから…っ…もう使えなくなっちゃうなんて…」

自分の指先ほどもない車一台。指先よりも遥かに小さい人間。
それに敬意を払う巨大な侵略者。

「それに…ビルとか学校とかっていう建物も、沢山の人達が何日も何ヶ月もかけて建ててるって聞いて…
 そ、そんなの…簡単に壊したりなんか出来ないよぅ…」

「ははぁ、そういう理由だったのですか。生き物だけでなく物にもお優しいとは…」

人の住む町に、とってもゆっくり歩いて近付いたり。とってもゆっくり去っていったり。
自分の大きさを考えての行動だったのだろう。

「ここにくる途中も海を渡ってきたけど…うぅ…お魚さんいっぱい踏ん付けちゃっただろうし…
 陸を歩いてこようかとも思ったけど、この国、島国なんだもん…」

「しかし、どこの国からも津波の被害の届出はありませんよ。よかったじゃありませんか」

「う、うん…これでも我慢強さには自信あるし、細かい作業も得意なんだっ…えへへっ」

笑顔が戻る。
先程までの威圧的な笑みとは違う、無垢な女の子の笑み。

当然、血の滲むような努力があっただろうが、それを口にしないのも優しさなのだろうか。
指先ほどもない生き物に細心の注意を払い、決して自分の素を曝け出さない。
それがどんな心持ちかは、人間には分からない。

「何も壊さないで、誰も傷つけないで、この星を治められたらいいなって思ってたのに…うぅ、失敗しちゃったよぉ…」

「何を言ってるんです。これからでも遅くはないですよ」

「ふぇ…?」

涙目で太ももの間を見下ろす。
そこには、笑顔で見上げる青年がいる。

「もう、みんな知ってますから」

「え…?」

その時、辺りの森やら林やら、建物の影から自衛隊の人々が顔を出す。
ぞろぞろと、みんな笑顔で。

「え…?え…?」

おろおろし始める女の子。
自分よりも遥かに小さく弱い存在だというのに、彼女には関係ないらしい。

「よー、ねぇちゃん、頑張ってたみてーだな」
「こんなにでっかいのに、壊さないようにするの大変だったろう」
「まー、このねぇちゃんにかかりゃあ戦車百台まとめてぐしゃり、だもんなぁ」
「そいつ、うちの期待の新人イケメン君だからイチャイチャしてて潰しちゃわないようにねー」
「そーかー、あいつあの山みたいな胸に挟んでもらえるわけかー。イケメンはせこいなー」

上官っぽい中年親父やら、青年より少し上の先輩、同期で入隊したらしい若者。
みんながそれぞれ、激励やら感激やら茶化しやら、楽しそうに並べ立てる。

「ふふ、みなさん相変わらずで…おや」

ぽろぽろ、と巨大な黒い瞳からまた涙が溢れ出す。

「こ、こんなことなら…始めから素直になってればよかったよぅ…ふえぇ…」

また泣きじゃくる巨大な少女。
くすり、と微笑んで青年が言う。

「いやぁ、泣いていらっしゃる顔も実に可愛らしい」

「っ…ぐすん…さ、さっきから…本気で言ってるの?」

「ええ、大真面目ですよ。あなたの素足を褒めたのも、決して口上なんかではありません」

「で、でも…あたし、こんなにおっきいから…一緒に居たら、その…つ、潰しちゃうかも…」

ひゅーひゅー、と若い隊員が茶化してくる。
それにつられておっさんたちも混じってくる。

「そんなことになったらあなたが悲しむでしょう。ですから、死んでも潰されません。それに…」

「そ、それに…?」

笑顔のまま、青年が付け足す。

「自分は大きい胸が好きでしてねぇ。先程から、えぇ、釘付けですよ」

「…っ!?」

ぽっ、と顔が赤くなる少女。
ぽよん、と弾む大きな胸を腕で覆うように隠す。

「…そ、そんなふざけたこと言って…えっち…」

ずごごご、と太ももの間隔が狭まる。
間に居る青年からすれば、巨大な肌色の壁が迫ってくるような。

「そんなことばっか言う人は…つ、潰しちゃうんだから…」

じりじりと、太ももを寄せていく少女。
もちろん本当に潰してしまう気は更々無いであろうが。
その時。

「…っひゃあんっ!?」

ずどぉん、と股の間から砲撃音。
青年の乗った戦車の主砲だった。
ぴくん、と震える巨体。辺りの大地が微かに揺れる。

「も、もも、もうっ!な、なにをいきなりぃっ…」

「いやぁ、満足していただけましたか」

かぁっ、と巨大な少女が、身体までも朱に染める。

「あ、あっつくなって、きちゃったなぁっ…だ、誰かさんのせいで…」

つい、と熱っぽい視線を戦車、もとい青年に向ける。

「ふふ、お付き合い致しますよ。いろんな意味でね」

「ば、ばかぁっ……そ、その…」

「はい?」

「これから、その…よ、よろしくね…」

「ええ、元よりそのつもりです。こちらこそ」

改めてそんな会話をして、照れた様子の巨大な女の子が戦車を摘み上げる。
演技ではない、自然な動作には優しい余裕があった。

地鳴りと共に立ち上がると、一歩ごとに大きな足跡を残し足音を響かせながら歩いていった。

にやにやのとまらない隊員たちに見送られ、とてもゆったりした歩みで。






























後日談。

「こ、これでいいの…?」

「そうそう、そのままで。今撮ってますから」

「恥ずかしいなぁ…」

今日はグラビア撮影。
地球全土にその優しさや破壊・侵略の意思がないことが認められ、そんな活動もするようになった。
その、文字通り山のような巨大な胸やお尻、整った顔立ちと美しい髪、肉付きの良い脚には、熱狂的なファンも多い。

本日の構図は、膝立ちからビルを股下に収めてのせくしーぽーず。
足元には、全国からファンが集まっている。

「いやはや、妬けてしまいますねぇ」

「うぅ…で、でも…触らせてるのは、あなただけだもん…」

「おやおや。明日から逃亡生活かもしれませんね」

巨大な生脚、素足に纏わりつかんばかりの信者たちが、一際大きな声を、怒号を上げた気がした。








「うぅ…ホントに壊すの…?」

「そう、これも仕事です。みんなのお役に立てるんですから」

「は、はぁい…」

今日はビル解体。
おどおど戸惑う女の子の巨大な素足の間には、くるぶし程の高さのビルが数棟。
古くなったものらしく、新しく建物を建設するのに邪魔なようだ。

「ほ、ホントにやんなきゃだめ…?」

ゴバァ、ごごご…と巨大な素足を持ち上げ、いくつものビルをその影の下に収める。
まだ踏み降ろすのをためらっているようだった。

「えぇ、やらなくては帰れません。続きも出来ませんよ」

「…っ!そ、そゆこと言うんじゃありませんっ!もうっ…わかったよぉ…」

そろそろと、持ち上げた素足を降ろしていく。
そのすべすべした足裏が、一番高いビルの屋上部分に触れる。

「あっ…」

ぼろぼろ、と何かが崩れる感触。
屋上と、その下のフロアは完全に崩れ去り、それを支える階下の部分も、巨大な素足の重みに悲鳴をあげている。

体重など微塵もかけてはいない。が、その圧倒的な質量はそれだけでコンクリートの建物を容易く破壊してしまう。

「うぅ…あ、当たってるよー…」

「そのまま一思いに。長引かせては余計に辛くなりますよ」

「わかってるよぉ…せ、せぇのっ、んっ」

ゆっくりと降ろされていく巨大な素足。
広大な足裏に、高い建物から順に、次々と押し潰されていく。

めきめき、ごご、ぐしゃあっ、と何もかもを押し潰し、すり潰して接地する綺麗な素足。
上空から見れば、それは砂浜に下ろした少女の素足、に見えなくもないのかもしれない。

「ぜ、ぜんぶ壊しちゃったぁ…うぅー…」

「要らなくなった建物ですから、いいのですよ」

「で、でもぉ…人間さんが頑張って…」

「それに、ほら、圧倒的な強さを振るって、興奮しませんか?」

「し、しし、しないよっ…!そんな酷いこと思ったこともないよー…」

「ふふ、だから好きですよ。あ、つま先の所にもう一棟残っています」

「あ、ホントだ…ごめんね、潰しちゃうよ…」

親指のほんの前にあるその小さな建物。
自分の足指とほとんど変わらないそのちっぽけな建物に一言謝って、足の親指を持ち上げる。

ずごごおん、と持ち上がった足指。家の一軒や二軒、まとめて潰せてしまいそうな大きな指。
ずずず、と素足を滑らせ、小さなビルの上に親指を軽く乗っける。

それだけで、その小さなビルはぎしぎしと悲鳴を上げ、今にも崩れてしまいそうであった。

「んっ…」

足指を、地面に降ろすように軽く動かす。
ぷちり、と潰れてしまう小さなビル。
それを押し潰してなお有り余る大きさの親指がそこにあった。

「いやはや、間違いなく最強の女の子ですねぇ」

むぅ、と頬を膨らませる巨大な少女。
それから、恥ずかしそうに付け加えた。

「最強、って…さ、最高じゃ…ないの…?」

「うーむ、そのようなところも合わせて、最強です」

「な、なぁによー、それー…」

青年を手に乗せ、足元に用心しつつ去っていった。







「さぁ、始めますよ」

「えへへ~、いくらでもいーよー♪」

今日は自衛隊の合同戦闘訓練。
様々な最新武器の性能テストも兼ねていた。

展開した最新鋭の戦車や戦闘機部隊。
女の子座りの巨大な少女。
戦車部隊を見下ろし、目の高さには何機もの戦闘機。

「では、始めてください」

一台の戦車に乗り込んでいる青年が、上官に合図を出す。

戦車部隊からの一斉砲撃。
座り込む巨大な少女に向かって、砲弾の雨が降り注ぐ。

むっちりな太ももやすべすべな膝、射角の大きいものは上半身にも当たる。
その様子を、にこにこと見下ろす少女。

「うーん、あんまりわかんないけど…この戦車さんのはちょっとあったかい気がするよ」

最新鋭の砲弾と従来のものを比べ、それを報告する。
これほどにまで圧倒的な相手に、ちょっとでも熱さやら痛みやら与えられたら即採用モノである。

今のところ、あったかい程度の感覚ならともかく微かな痛みさえ与えられるような兵器など造れそうも無い。
そんなわけでこの女の子はこんなこともお手伝いしているのだった。

「えへへ~、そんなんじゃおっきな侵略者に攻め落とされちゃうよ~?」

ずずずん、とお尻を持ち上げて身体を前に押し出す。
展開している戦車部隊を太ももで囲い込むような体制。

と、その時、後ろの足裏に微かな感触。

「んぅ?」

数台の装甲車が、大きなガトリング銃を巨大な壁のような足裏に向かって乱射していた。

「あはは、くすぐったいよ~♪」

足裏にぱしぱしと当たる銃弾。
コンクリートの塊も一瞬で粉砕する銃弾の嵐が、女の子の足裏ではじけている。

その様子を、身体をひねって見下ろす。
ぱらぱらと銃弾を撒くちっぽけな車。
なんだか微笑ましいとすら思ってしまう。向こうは全力で攻撃中なのだが。

そのうち、全て撃ち尽くしたらしく撤退していく。

「あははっ、あたしの足の勝ちだね♪」

ちょっぴり意地悪そうに笑う。
ふと。そういえば、脚への感触が無くなったような。

「ん~、みなさんもういいの?」

前に向き直ってみると、案の定というか、砲撃が止んでいる。
戦闘機部隊も、まだ攻撃は始めていないようだった。

ぱかっ、とハッチが開いて青年が顔を出す。
ちょっと困ったような、恥かしいような顔。

「えぇとですね…お気付きになりませんか…?」

「…?何に~…?」

首を傾げる巨大な少女。
股の間に収まった、沢山の戦車。
もちろん、それには人が乗っているわけで。

別の戦車から、上官らしきオヤジも顔を出す。

「はっはっは、そこに打ち込むのは俺らじゃなくてこいつの仕事だからなぁ!」

豪快に笑う、人がよさそうな上官オヤジ。

「えっ…はぁぅ…///」

「…つまりはそーゆーことです…」

女の子の股の間。
つまり、目の前にはビキニに包まれた女体の神秘。
大きさは、言うまでもなく凄まじいが。

「まー、そーゆーわけだ!そこはそのイケメンに思う存分撃ってもらえ!」

「…す、すみませんでした…///」

「さ、気を取り直して、再開しますよ」

その後、戦闘機部隊も攻撃を開始。
上空からミサイルを撃ち込むが、やはり笑顔のまま受け止められる。

そして。

「いやぁ、今日はお疲れ様でした」

「あたしはなんともないけど…みんなのほうがお疲れ様だよ~」

「やはり…圧倒的ですねぇ」

「ま、またそんなこと言うー…」

手に青年を乗せ、ゆっくりと歩いて帰る。
顔を赤くした女の子がなんだか言いにくそうに言う。

「えと、その…さっきさ…」

「はい、なんでしょう?」

「その…撃ってくれる、みたいなこと…///」

「あぁ、その話ですか。さすがに戦車は借りれませんが、これは頂いてきましたよ」

ごろごろ、とポケットから出てきたのは手榴弾のような爆弾。
結構な数だが、どこから許可が下りたのだろう。

「これも最新技術によるものなので、威力は従来のものとは比べ物にならないようです」

「ど、どのくらいなのかなぁ///」

「密閉空間では戦車の主砲よりも強い、という話は聞きましたが…」

「じゃ、じゃあ…ちゃんと奥の狭いとこで実験して、報告しなきゃだね…///」

「…やれやれ、そちらもいろいろな意味で圧倒的です」

「…あ、あなたにしてもらうから好きなんだもん…」

「ふふ、ありがとうございます」

ずぅん、ずぅんと足音を轟かせ、この後の営みを楽しみにしながら歩いていった。