「退屈」


「はぁ〜....ヒマですわぁ...」
空気の無い宇宙空間に響く声。
「女神って退屈....ふあ〜ぁ...」
一枚の白く薄いローブ以外には何も纏っていないそのカラダ。
クリーム色のロングヘアが、宇宙空間にふわふわと漂っている。
あくびを終えたその時、遊泳を続ける彼女の前方から、巨大な隕石が接近してきた。
直径10000kmはありそうなその巨大な塊は、凄まじい速度で迫ってくる。
それを見ても、何をするでもなく、そのまま進み続ける。
今の彼女から見れば、自分の指先程もないその石。
ローブを大きく盛り上げる彼女の胸に直撃し、砕け散った。
ほんの僅かに、彼女の膨らみが揺れる。
直径10000kmの隕石のエネルギーでは、女神に対してあまりに無力だった。
「なにかおもしろそうなコトはないのかしら....」
ただ、女神様は退屈だった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





地球。日本。とある町。
公園沿いの道を歩く女の子が一人。
姿から察するに、学校帰りらしい。
半袖のブラウスにスカート。胸元にリボン。
その付近のブラウスの生地は大きく押し上げられている。
カバンを右手に、早足で歩くその女の子。
名前は神谷千鶴(かみやちづる)。
キレイに整った顔立ちをしている。
十八歳の高校三年生。帰宅部。
歩みに合わせて、大きな胸はブラウスの中で好き勝手に暴れていた。
どうやらノーブラらしい。
信号にひっかかって立ち止まる。
「あっつぅ〜い...もう四時なのにぃ....」
不機嫌そうにぼやいて、ブラウスのボタンを外し始める千鶴。
上から四つ目まで外して谷間を露出させ、ぱたぱたと風を送り込む。
人目を気にしない性格らしい。



信号が青に変わる。
ボタンを留めることもなく、そのまま歩き出す。
ブラウスの拘束からも逃れた胸は大きく揺れ、同じ道を歩く人の目線を釘付けにする。
可愛らしい乳首が見え隠れしたところで、千鶴の手が無理矢理にブラウスのボタンを留めた。
「さすがにこれ以上は犯罪かぁ....」
それでも三つ目までは外したまま歩き続けていた。



住宅街に入って数分、その付近で一番大きな家の玄関先。
「ふぅ〜...やっと着いたぁ〜...」
戸を開け、中に入る。
「ただいまぁ〜」
ダルそうに帰ってきた旨を伝えると、
「おかえりぃー!」
奥の部屋からとびきり嬉しそうな声が返ってきた。
それを聞き終わらぬうちに、一人の女の子が部屋から飛び出してくる。
名前は神谷日向(かみやひなた)。
「可愛らしい」という言葉がぴったりな女の子。
十六歳の高校二年生。帰宅部。
千鶴の妹だ。
姉よりも二周りほど大きい胸を揺らし、駆け寄っていく日向。
姉千鶴はノーブラ。
そして家の中だからだろうか、妹日向は上半身裸であった。
「お姉ちゃん♪」
いきなり抱き付く。
「わ、わわっ...ちょっとぉ...」
二人の間で押し潰される四つの球体。
肌と肌が直接触れ合う。
「んもぅ!熱いってばぁ!離れなさいって!」
カラダに押し付けられる日向の胸を押し返す。
「ぁんっ.....ご、ごめん...お姉ちゃん...」
微かに喘いで、しょんぼりする日向。
「べ、べつに、暑い日じゃなきゃいいのよ!?
 もうするな、とかは言ってるわけじゃないんだから!」
慌てて取り繕う千鶴。その辺はしっかりお姉ちゃんである。
「ありがと.....??...どーかした?」
姉の視線が自分の胸に集中しているのに気付いた日向。
「お姉ちゃんさぁ、時々そうやってあたしの胸見てるよね?
 まだダメかなぁ...?やっぱりまだ小さい?もっと大きい方が好き?」
自分の胸を持ち上げ、千鶴に聞いてみる。
「い、いや!そのくらいで十分だと思うわ!
 それ以上大きくなったらダメ!絶対に!」
全力で否定する千鶴。
「そうかなぁ...」
胸を見つめる日向と、その日向を見つめる千鶴。
(アレを見る度にもの凄い敗北感が...
 あたしなんて...最近成長止まり気味なのにぃ...)
日に日に大きくなっていく妹の胸。
自分も大きい方なのだが・・・



(姉として・・・自信なくすなぁ・・・)
溜め息をつく千鶴。
「それよりお姉ちゃん!今日は買い物に行く日でしょ!?」
胸を揉んでいた手を離して、日向が聞いてくる。
「あ、あぁ、うん、そうだったわね」
両親を早いうちに亡くした二人は、その生命保険で生活している。
この家も、親戚に貸してもらっているものだ。
普段、買い物に行かないので、週に一回くらいは買出しに行かなければならない。
「はやく行かないと夕ご飯作れないよ!行こっ♪」
「分かったわよ。とりあえず...上に何か着てきなさい」
「は〜い♪」
膝下まであるロングヘアを揺らして部屋に戻っていく日向。
「さてと...」
テキトーに降ろしていた髪の毛をポニーテールにして、出かける準備完了。
一分もしないうちに部屋から出てきた日向。
Tシャツ一枚着ただけで準備終了。
「そんじゃ、行こっか♪」
戸を開けて表に出る二人。
ポニーテールとロングヘア、そしてお互いに大きな胸を揺らしながら。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





太陽系の近くまで泳いできた女神様。
「この大きさでは惑星を壊してしまいますわ...」
少しずつ小さくなっていく女神のカラダ。
身長20万kmほどにまで小さくなったところで、変化が止まった。
「そういえば...ここには有機生命体が住む星が在りましたわね...」
有機生命体なんて久しく目にしていない。
自分に姿が似ているとはいえ、所詮取るに足らない存在だからだ。
「行ってみましょうか...少しは暇つぶしになるかも知れませんわ♪」
そう言った直後、女神のカラダはそこから消え、地球付近に現れていた。
いわゆる「瞬間移動」と言うヤツである。
「これが地球....キレイ.....」
頬に手を当て、うっとりと目の前の小さな青い球体を見つめる女神。
「地球なんて初めて♪....どんなところなのかしら♪」
縮小を始める女神のカラダ。
「こんなに小さくなるのも久しぶりですわ...」
身長500mまで小さくなり、大気圏内に飛び込む。
「あの辺りに降りてみましょう♪」
一番広い海の西端に位置する弓状列島。日本。
その中の、ある女の子二人が暮らす町に女神は降り立とうとしていた。
凄まじい速度で地表に迫る巨体。
その素足が、並び立つビルに触れた。





「っと...これが有機生命体の町ですか....
...ふふっ....可愛らしい♪」
自分の五分の一の大きさもないビルに片足立ちしながら、上品に笑う女神。
人間の町はまだ健在だった。
どうやら重力をコントロールして自重を軽くしているらしい。
「さて....どうしましょうか....」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





家を出た瞬間、千鶴は我が目を疑った。
ビルの上に女の人がいる...大きさが...おかしい.....
その女性は、何年か前に見に行った東京タワーなんかよりもずっと大きく見えた。
そんな大きいのに....なんでビルが潰れないの....?
確かにウエストが締まっていたり、脚が細かったりはする。
でも、大きさ的にありえないんじゃ....胸もハンパなくおっきいし....
いや、そんなことじゃなくて...

まず...なんでみんな逃げないの...?見えてないの...?
リアルだし...人間っぽいし...確かにホンモノ....



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





これからどうしようか、を考えていた女神。
しかし、それは中断することとなる。
明らかに自分を見つめる視線が在ったからだ。
(わたくしを見ている者がいる....誰?
 この星に見える者なんて居るはずがありませんのに...)
視線を探ると、少し離れた住宅街からであることが分かった。
(あれは....女の子!?
 わたくしが見えるなんて...只者じゃありませんわね...)
その女の子に興味が沸いてきた。会ってみるのも悪くは無いだろう。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「..っあ....」
息が止まるかと思った。今まで経験した何よりも恐ろしかった。
あの巨大な女の人....見つめ返してきた.....
圧倒的な存在と言うのはこんなにも恐ろしいのか。
何かを思い知った気がした。
「どーしたの!?顔色悪いよ?」
日向が心配そうに声を掛けてくる。
「..っあ...あ、あんたは...見えないの....?」
なんとか搾り出した言葉。
「へ?何が?」
きょとん、とする日向。
自分にしか見えていない...?
「ほ、ほら....あそこ.....!?」





そう言って指を指した方向の空には何も無かった。
夕焼けで赤く染まる雲があるくらいだった。
「あ、雲!?きれいだよねぇ〜♪」
日向の天然にいちいち突っ込んでいる余裕もない。
「...ゴメン、ヒナ....あたしちょっと休むわ...」
本気でおかしくなってしまったのだろうか。自分が怖くなった。
「あ!ぁあ!うん、そうしたほうがいいよ!具合悪そうだし...
 今日は残り物で何とかしよっ♪」
日向の心遣いをありがたく思いつつ部屋へ。
「じゃあ...ちょっと寝るね....」
「うん♪お大事にぃ〜♪」
行く途中の階段を上りながら考える。
(見間違い...?そんなはずは....)
思い出しただけで背筋が震える。
(早く寝ちゃおう)
そう思い、部屋のドアを開けた。
そこには.....
「あら♪お邪魔してますわ♪」
自分のベッドを軋ませながら腰掛けている、ビルの上のあの女性が居た。