「接触」





ドアノブを掴んでいた手もいつの間にか離れ、立ち尽くす千鶴。
「...え?...っあ.....ぅあ...」
人間、本気で驚いた時やパニくった時にはこんな感じになるらしい。
驚愕を声に出そうとしても思ったとおりに動いてくれない。口も、喉も。


目の前に....あの女の人...?大きな....?今も....大きい...?
ちが...胸が大きい....?肌がきれい...?違う....違う.....


今考えるべきはそんなことじゃないハズ。
でもついていかない。頭も、精神さえも。
見詰め合った時の、カラダを突き抜けるような恐怖が、じわりじわりと襲ってくる。
柔らかな微笑を浮かべながらベッドに腰掛け、木製のベッドを大きく歪ませているその女性。
「....や....あぅ.....いや...ぁ...」
ほろり、と涙がこぼれた気がした。
それすらも分からなくなっていた、そんな時。



「何故、泣いていますの?」
なにもかもを優しさで包み込めそうな、甘く、おっとりした声。
それがその女性の発したモノであることに気付くのに、少し時間がかかった。
一際大きくベッドを軋ませ、その女性はカラダを動かす。
この部屋は彼女にとっては狭すぎるらしく、しばらく考え込むような表情をつくった。
ベッドから腰を浮かせ、四つんばいの体制になると、こちらに向き直りにっこり微笑む。
そのままの体制でゆっくりと近づいてくる。
みしり、ぎしり、と床が悲鳴を上げるたび、純白のローブが衣擦れの音を立てるたび、
千鶴の恐怖は濃くなっていった。


い....やぁ.....来な.....い....で...
う...うぅ....や....だ...ぁ....


一歩、また一歩カラダを引く。
カラダが本能で怖がっていた。
そんな千鶴にゆっくり、確実に迫っていく女神。
部屋の壁に背中が触れ、その場にへたり込んでしまう。
窓から差し込む夕日。
女神のカラダが作る影が、千鶴に覆いかぶさる。
上半身を支えていた腕を曲げ、顔を近づける女神。
豊か過ぎる胸が、たゆん、と揺れた。
びくっ、と震える小さな女の子。
大きな胸が、ぷるんっ、と揺れた。
「何故....泣いているんですの...?」
先程よりもゆっくりと、語りかけるような声。
それと同時に、美しい女神の指が千鶴の涙を拭った。



「....ひ.....い...いやぁっ.....いやああああぁあぁぁーーーっっ!」
初めてマトモな声が出た。
叫ぶと同時に両手を前に突き出し、女神を押しのけようとする。
当然、手は大きな胸に触れ、力任せに突き放す。
ぽよん、たゆん、と形を変えながら揺さぶられる大きな胸。
「あらあら♪」
自分の胸が好き勝手に触られていようがおかまいなし。
おっとりと、千鶴に微笑みかける。
「やあっ!.....んっ...きゃああぁっ!」
なおも必死で胸を押しのけようとする千鶴。
そんな千鶴の小さなカラダを、女神の長く美しい腕が抱き寄せる。
「....っぷわ.....や...!....離し....て...!」
柔らかな二つの球体に顔を埋められ、思うように喋ることが出来ない。
女神は千鶴の頭を、優しく、ゆっくりと撫でる。



「そんなに怖がらなくても....大丈夫ですわ...♪」
その大きなカラダで包み込むように、全身を使って抱き締める。
途端、千鶴の表情が変わった。
恐怖は薄れ、安心へと変わっていく。
「...ぅう......ぅわあぁん.....ぐすっ....ぐすっ.....」
女神のカラダにすがり付き、胸に顔を埋めて泣き出してしまった。
「...ふえぇ....ぐすん....ぐすん....」
まるで子供のように泣きじゃくる千鶴。
女神はその様子を微笑みながら見つめていた。
「あら?」
自分に抱きついている小さな女の子。
いつの間にか、すやすやと寝息を立てている。
「ぅふ....♪可愛らしいですわね...♪」
手で包み込めそうな千鶴の頭を、優しく撫でる女神。
その時、部屋のドアが荒々しく開かれた。



「お、お、おお、おねえちゃん!?だいじょぶ!?何もされてない!?
出、出て来なさいヘンタイドロボー!!あ、あたしが、や、やっつけてあげる!」
そんなことを叫びながら千鶴の部屋に突入してきたのは、日向だった。
最愛の姉の叫び声を聞きつけたのだろう、手にはフライパンとおたまを握り締めている。
「い、いくら可愛いからって、あたしのおねえちゃんに何かしたら許さないんだからぁ!!」
最後にそう怒鳴ってから、部屋の大半を占領している大きなカラダの持ち主と目が合った。
「どうも♪お邪魔してますわ♪」
軽く頭を下げ、会釈する女神。
「あ、これはどうもご丁寧に........って.....あれ!?」
そこで初めて、自分と向き合っている女性のサイズがおかしいことに気付く。
それとほぼ同時に、大きな美人さんに抱かれている女の子が自分の姉であることにも気付いた。
「えぇーーーーーっ!?」
驚愕を声にする日向。
「しーっ。あなたのお姉さんが起きてしまいますわ。
 気持ちよさそうに眠ってらっしゃるのですから、もう少し寝かせておいてあげましょう?ね?」
細い指を唇に当て、おっとりと言う女神。
「あ...は、はい。そうですね.....すみません.....」
何故か謝ってしまった日向。
そこは謝ったら負けなところではなかっただろうか。



微笑みながら、日向見つめていた女神。
「....あなたも.....可愛らしくて...キレイですわねぇ...♪」
うっとりと、見惚れるように言う。
「い、いえ、そんなことは.....てへへ♪」
そこは素直に照れるところだっただろうか。
「是非.....抱き締めさせて下さい......♪」
そんなことを言いながら、日向に迫っていく大きなカラダ。
胸に千鶴を軽々とホールドしながら、擦り寄っていく。
「....へ?...い、今、何て....っぷぁ!?」
確認し終わらないうちに、女神の長い腕が日向のカラダを抱き寄せた。
大きな胸に顔が埋められる。
「むーーー!?ぅーーー!?」
じたばたともがく日向。
さらに優しく、包み込むように抱き締める。
暴れていたのが嘘のように、明らかにチカラが抜けていく日向のカラダ。
今は夏だというのに、その大きなカラダから伝わる温もりはとても心地よく感じられた。
「...ん....ふぁ....暖かぁい......」
すっかり眠たそうに顔を上げ、虚ろな目で女神の顔を見つめる。
「....んー......おやすみぃ....なさぁい.....」
眠たさの限界が来たらしい。
柔らかな胸に、もふっ、と顔を埋めて寝息を立て始めた。
「....ふふっ.......可愛い♪」
満足そうな表情の女神であった。