アキラはその男の人からマニュアルを受け取り、その施設の部屋に戻ることにした。
アキラは今日もここに泊まろうと思っている。
マニュアルを受ける少し前にアキラの携帯に両親と姉から電話があり、
アキラがいないことを理由に、北海道へ旅行に行くからあとはよろしくという連絡を受けたばかりだ。
アキラは、いつもの簡易ベッドの中で、リリーからもらったタオルにくるまって
マニュアルを読んでいる。
アキラは願いを叶えたので『ナビゲーター』の役をすることになる。
まずは『ナビゲーター』であるアキラと『対象者』が出会うことからはじめないといけない。
どうすればいいのだろうと思ってマニュアルのページをめくる。
どうやら『対象者』は『ナビゲーター』がいるところまで引きつけられるらしい。
つまり、アキラが何もしなくても『対象者』は『ナビゲーター』の所へ行かなければならない
という気持ちが自動的に働くようだ。
また『対象者』が一生に一度のチャンスの内容を理解するまで、『対象者』は『ナビゲーター』の元に
引きつけられるとのこと。うーん。どんな人が『対象者』なんだろうとアキラは考えた。
期間は1週間なので、おそらく1週間以内にはその『対象者』と出会って例の儀式をするのだろうか。
それまでは、気長に待つしかないのかなぁとページをめくりながら考えていた。
また、『ナビゲーター』は一生に一度のチャンスの役目を果たすために、特殊な状態(他人から無視される)になるので、
もしかしたらリリーに話しかけても無視されてしまうのかなぁとアキラは思った。
もし誰からも無視されるなら、外に出かけて買い物をする時や喫茶店、ファミレスなどで注文をしても、
気がつかれない可能性もあるのかなぁと考えた。
うーん。今なら普段入れない所にも侵入できたりするのかなぁ。
とアキラが考えていると、部屋のドアが開いたので、見てみるとリリーが入ってくるところだった。
「あっアキラ君。今日どこに行っていたの?あたしが起きたらアキラ君がいないんだもん」
リリーだ。
アキラは目の前のリリーを見て、抱きつきたい衝動に駆られたが、アキラはうーんなんかおかしいと思った。
なんで、リリーは僕に話しかけてきているんだろう?
まだ『ナビゲーター』としての役目は始まっていないんだろうか?
アキラは、リリーにちょっと待ってて、すぐに戻ってくるからと言ってから部屋の外に出た。
だれか人がいないかを探していると、ちょうど自動販売機のところに人がいる。
アキラはおーい、おーいと声を出して、その人の元へと近づいて行った。
「ちょっとすみません。あのー」
だが、その人はアキラに気がつかないようだ。
アキラはさらに、その施設の食堂へ向かった。
食堂にはまだ人がちらほらいる。
アキラは大きな声を出してみたが、一向にアキラの方に目を向ける人はいない。
アキラはなべの蓋を2つ取って、なべの蓋を2つ打ち合わせて、大きな音を出す。
それでも、アキラのほうを見る人がいない。
やっぱり、アキラは他人から無視されている。『ナビゲーター』としての役目は始まっているようだ。
すると、リリーから声をかけられたということはもしかしてリリーが対象者なのか?
アキラが部屋へ戻ると
「アキラ君。これみて、新しいあたしのパンフレットだよ。どう?あたし。かわいく写っている?」
アキラはリリーからパンフレットを受け取るとぱらぱらっとめくってみた。
リリーの写真が載っている。いい感じだ。
「良く写っているよリリー」
とアキラは言った。さて、リリーに確認をしないと、とアキラは例のマニュアルを取ってリリーに説明することにした。