アキラはマニュアルを読みながら、どうやってこの一生に一度のチャンスのことをリリーに説明しようかと悩んでいたが、
アキラはリリーに向かってこう言った。
「ねえ、リリー。もし自分の願いがひとつだけ叶えることができるチャンスがやってきたらリリーならどうする?」
リリーは急に何よと言ってきたが、
「そうねぇ。ハーゲンダッツのアイスクリーム食べ放題とかいいかなぁ」
とリリーは言う。
アキラはため息をつきながら……
「もう、リリーたら、もっと大きな夢はないの?」
リリーは考え込むようなふりをして
「願いを無制限に叶えることができるというお願いをするかなぁ」
「もう、定番だなぁ。そういう願いを増やす願いはだめだったとしてだよ」
リリーは、超大物ハリウッドスターとか、話題映画のメインヒロインとか、
超お金持ちセレブとか、だれでも考え付きそうな回答をする。
「ならアキラ君ならどんなお願いするのよ」
とリリーが聞いてきたので、考えてみる。
すでにアキラの願いは叶ったので、一生に一度のチャンスはもう使えない。
「そうだな、宇宙かな? 宇宙に出て、かっこいい船で星間をとびまわって、悪い宇宙海賊をやっつける。
映画やアニメの中では宇宙へ簡単に行けるけど、現実はそうでもないし…
でも、リリー達が来たから現在は違うのかな?」
「ふーん。でもその宇宙海賊があたし達と同じサイズだったら、アキラ君はすぐやられてしまうわね」
リリーがそんなことを言うので…
「もー、体のサイズは関係ないよ。すごい操縦テクニックで、小惑星の中をかいくぐって敵をやっつけれるんだから」
「ふーん。そう? 宇宙船も操縦したことがないくせに?」
「ぐっ、願いを叶えてくれるんだったら、強くなってもいいじゃん」
とアキラは反論するが、これはリリーの願いを叶えるための会話だったことを思い出して…
「で、リリーは他になにかある?」
と聞いてみた。
「なんかしつこいわねぇ。これはたとえ話なんだからどうでもいいじゃない?」
とリリーが言う。それもそうだ。一生に一度のチャンスのことをリリーに話していないし…
アキラは信じてもらえないかもしれないけど一生に一度のチャンスのことをリリーに話し出した。
…数分後
「なんかあたしをからかっていない? いつもあたしにいじられているから?」
「もう、だから言ったじゃないか、これは一生に一度のチャンスというのがあって、
願いをひとつだけ叶えることができるんだって」
リリーはなかなか信じてくれそうもない。
「だったらお試し期間を試してみればいいじゃないか。それで願いが叶うなら信じてみようと思わない?」
「まぁ、その話が本当だったとしてよ。じゃぁうそだったら、あたしの願いをアキラ君が叶えてくれるわよね?」
「僕がリリーの願いを叶えるの? まぁ、いいけど、これは本物だし…」
アキラの答えを受けて、リリーはずいぶん強気じゃない?と言ってくる。
ちょうどそのとき、部屋の入り口の扉が開いて、一人の女の子が入ってくる。
「リリーお姉ぇちゃーん。遊びにきたよー」
と見た目地球人に換算して5、6歳の女の子がとてとてと駆け寄ってくる。
リリーから見ると、とてとてという感じだが、アキラから見ると、
10メートル以上ある女の子に見えるので、床に足が着くたびに、
地響きをたてて寄ってくるのだからアキラにとってみると巨大な生物が走ってくるような感じだ。
アキラはその女の子とリリーの中間の位置にいるのでどうみてもこのままだと危ない。
アキラは、最初にリリーから教わったとおり、床に伏せることにした。
ずしん、ずしん。
ちょうど、アキラが伏せた後、その女の子の足が見えたかと思うと
アキラはその女の子の足の下敷きになって、むぎゅーと踏まれてしまい、床にめり込む。
「うぎゅー」
アキラはつぶやいてしまう。アキラは床にめり込んだかたちでリリーのほうを見ると
リリーもやっちゃったという顔をしてこっちを見ている。
その女の子はリリーの元にたどり着くとリリーを両手で抱きしめる。
「もう。マリー。そこに人がいるのに走ったら危ないでしょう。ほらっ踏んづけちゃったでしょう、マリー」
その女の子はマリーと言うらしい。アキラは床にめり込んでいたが、やっと
めり込んだ床から這い出したところだ。
ふぅ。この床がこういう構造になっていなかったら今頃ぺったんこだ。
マリーはリリーを見上げながら、
「えっ。そうなの…。でもあたしよりちっこい地球人はいないよ」
とマリーは言い、きょろきょろあたりを見回す。
「ほらっ、そこにいるじゃない。あれはアキラって言うの。ごめんなさいをしなさい」
マリーはうーん?と困ったような顔をして、
どうしてもいないよとリリーに言う。
リリーはほらっ、あそこにいるよと指をさすが、マリーからは認識できないらしい。
マリーは、どんどんアキラのほうに近づいてくる。
アキラはマリーと目が合うが、マリーのほうは気が付かないらしい。
アキラは、またマリーが足を上げて、自分のほうに踏みおろそうとしているのを見て
床に伏せる。
また、アキラはマリーの足の下敷きになり、床にめり込んでしまう。
むぎゅーとマリーはアキラに体重をかける。
アキラは床にめり込みながら、マリーはアキラが見えていてわざと踏んでいるんではないだろうか
と思った。
でもその後、マリーはリリーの元へ駆け寄って、だれもいないよとリリーに言う。
「変ねぇ。いくらアキラ君がちっこくても見えるわよね。あっ。もしかして」
とリリーはアキラのほうを見る。
マリーはまだ子供だ。
それにうそをつくような子ではない。
リリーは、マリーからアキラは本当に見えていない。つまり認識できていないのかなと考える。
リリーはアキラから聞いた『ナビゲーター』になっている間の特殊な状態のことを思い出した。
一生に一度のチャンスの任務を遂行するために『ナビゲーター』は特殊な状態になる。
『対象者』と『ナビゲーター』以外の人からは認識されなくなる…。
それはチャンスシステムの目的を果たすまでの間『ナビゲーター』は『対象者』に対して
説明をしたり、行動をともにしたりするわけで…
『ナビゲーター』をしている人の人生にも影響を及ぼさないようにとのこと。
『ナビゲーター』をしている人は、会社を休んでも、学校を休んでも影響はないとのこと。
しばらく、リリーはマリーの相手をしていたが、もうそろそろ時間ということで、
マリーは部屋を出て行った。
「ねぇアキラ君。あれは本当の話なの?」
と聞いてくるのでアキラはそうだと答える。
「じゃぁお試し期間てのも本当。ひとつだけ願いを叶えることができるのも?」
とリリーは聞いてくるのでアキラはうなづく。
「そうなんだ。ところで、さっき2回も踏み潰されちゃったけど大丈夫?」
アキラはなんとかと答える。
「言っておくけど、小さい子供が駆け寄ってきたときは注意してよね。
逃げたほうがいいかも。この床は35トン以上の衝撃を吸収できないから」
リリーは言う。
「なんで?」
あたし達、エレーネ星人の大人はこの重力軽減装置(リブ)を背中につけているけど、
子供は足腰を鍛えるため、リブを背中に付けていない。
なので、リブを付けていないエレーネ星人に踏まれると、場合によってはこの床が衝撃を吸収できない場合も考えられるとのこと。
「早く言ってよ。じゃあどうすればいいんだよ」
とアキラはリリーに言う。
リリーはエレーネ星人の子供に踏まれないように、アキラがころころっと床をころがって
回避すれば大丈夫よと言う。
アキラはそんな簡単にいくものかとリリーに言う。
リリーは
「じゃぁアキラ君はぺったんこになっちゃうかもね」
と言う。それはごめんだ。
リリーは大丈夫よと言うが、これから気をつけよう。
「じゃあどうする。お試しの願いを叶えてみる?」
アキラは、リリーに向かって言う。
「そうねぇ。その願いは本当に無茶なもの意外なら効力あるのよねぇ」
アキラはそうなるねと答える。
リリーはにやりと笑みを浮かべると
「じゃぁ。アキラ君があたしのペットや下部になるという願いをもし言ったらどうする?」
「えー。絶対だめ。断固拒否するよ!」
アキラはリリーが例の笑みを浮かべたので警戒していたが、そういう願いならお断りだ。
なーんだ。とリリーが言いながら、アキラに向かってリリーの手が伸びてくる。
アキラはリリーの手にわしずかみの状態になっている。脱出は不可能だ。
「強制的に捕まえて、変な願いを叶えようとしてもだめだからね」
とアキラは言う。リリーはちぇっつと残念そうな顔をして、
「大丈夫。ちょっとアキラ君をからかっただけだから、
そんなつまんないことに願いを使わないわよ。で、
お試しではなくてこれが本番でもいいのよね?」
とリリーが言ってくるので、アキラはそれでもいいの? 失敗したらどうするの?
と言ったが、リリーは笑みを浮かべて(いつものリリーがいたずらをするときの笑みではない)
準備はいい?と言ってくるのでアキラはいいよと答えた。
リリーはアキラを手でつかんだ状態で、リリーのおでこのほうにアキラを近づける。
アキラとリリーのおでこがくっついたとき、
例のまばゆい光のようなものに包まれたような感じをアキラと
リリーが感じた。
「ねぇ。リリーは何を願ったの?」
とアキラは聞く。リリーは、
「えへへっ。内緒。最後に教えてあげる」
と言う。
リリーは何を願ったんだろうとアキラは思った。