「おっ、リリー来たか、リリーが母船へ来るのは久しぶりだな」
どうやら、この人がリリーのお父さんらしい。
アキラはどうもと挨拶をする。でもリリーのお父さんはアキラに気がついていないらしい。
アキラはナビ状態だったことを思い出した。
長身で、人のよさそうな感じだ。性格はリリーと違って真面目そう。
「なんだかみすぼらしいわね。また寝ていないんでしょ? 顔を洗って来たら?」
なんか機械の解析をしているみたいだ。いつも、夢中になって仕事していると夜が明けたのにも気が付かないこともたまにあるらしい。
リリーは飲み物を入れるカップを探して、お湯と紅茶のような飲み物の葉っぱを用意する。
その葉っぱは地球のものではなく、別の星系で手に入れたもの。
アキラが見てみると、その葉っぱを乾燥させたようなものは、アキラの手のひらぐらいの大きさがある。
うーん。他の星系の生物も地球サイズよりでっかいのかなぁとアキラが考えていると、
リリーはいつの間にか用意したのか、茶菓子みたいなものをテーブルの上に広げる。
「やぁ、お待たせ。おっ気がきくな。リリーもやっと女の子らしいことができるようになったか?」
「もー。そんなこと言う人にはあげないよ」
すまんすまんとリリーのお父さんは言う。
そうだと言って、リリーのお父さんは席を離れて、結構大きな箱とカードを持って来てテーブルの上に置いた。
「これがリリーにテストしてほしいものだ。まだ用途が不明なものや使い方がわからないものがあるが、
危険性はないと思う。解析して使用方法がわかったものについては、中に入っているカードに記録しておいた」
リリーは本当に危険はないのよねと念を押す。
リリーが身を乗り出して箱の中を覗き込んだので、アキラも見てみたいとリリーに頼むと、
リリーはアキラを手でつかんで箱の中が見える位置へと手を移動させた。
中には十個ぐらいの機械らしいものが入っている。カードみたいなものは説明を書いてあるものかと思う。
まだ、それらの装置には色が付いておらず、いかにも試作品っぽい外見だ。
「これは何に使うものなの?」とリリーは箱の中から一つ取り出す。
「これは物を運ぶときに使うものだな。これの正式名称はないのでエルと呼ぶが、
物に向けて引き金を引くと、物体を軽い力で動かせる。小さいものから、宇宙船クラスのものまで移動できるぞ」
へー。そうなんだ。とリリーが言って、アキラへエルを向けて引き金を引く。
「ちょっと何するんだよ。わわっ」
リリーがエルを右にゆっくり動かすと、アキラは何かに引っ張られるような感じで右の方に移動する。
今度はリリーがエルを左に動かしてから上に移動すると、アキラは左に引っ張られたあと、空中へと持ち上げられる。
アキラは手足をばたばたとさせるが、アキラは空中でもがくのがやっとだ。
「リリー。僕で遊ばないでよ!」
あっごめんねとリリーが言って、アキラはやっとテーブルの上へ降りることができた。
リリーにこういう物を持たせると危ない。アキラはリリーをにらむ。
「こらこら。人をおもちゃにしてはいけないと前に言ったじゃないか?」
リリーはてへっと舌を出して、エルを箱に戻す。そしてもう次にこれは何?と聞いている。
「これはまだ用途がわかっていない。他の物と組み合わせて使うのかもしれんな」
ペンダントのように、フレームに石のような物が付いていて、首からかけれるようにチェーンが付いている。
もう一つはリリーから見て妖精サイズの人型の人形のようなもの。
アキラから見ると、同じぐらいのサイズだ。
「これは?」
と言ってリリーが2つ同じものを取り出す。
「これか? これも正式名称がないので、ツイと呼ぶことにしているんだが…」
と言って説明する。ツイは日本語から来ているらしくて、2つで一つの役割を果たすらしい。
たとえばと言って、カップと茶菓子を手に持って、そのツイの一つに近づけてボタンを押す。
今度は、ちょっと位置を移動し、リリーにカップと茶菓子とツイを持たせてボタンを押してくれと言う
「これで良し、一緒に付いてきてくれ」
と言うので、リリーのお父さんの後について行く。
隣の部屋のテーブルにツイとカップと茶菓子を置く。
そして、そのまま元の部屋へと戻る。
「これで準備ができた。2個目のツイはこのテーブルに置いてある。そして一個目のツイは隣の部屋だ。
こうして、2個目のツイのボタンを押すとだな…。ほらこうなるわけだ」
2個目のツイの隣には、さっき隣の部屋に置いてきたツイとカップと茶菓子が現れる。
あれっ戻ってきたとリリーが言う。
リリーが立ち上がるので、アキラはリリーのほうを見る。
リリーは手を伸ばして、アキラをリリーの胸ポケットに入れ、隣の部屋へ向かう。
さっき隣の部屋のテーブルに置いたツイとカップと茶菓子は無くなっている。
どうやらツイは登録した物体とともに、もう一つのツイの元に引き戻す働きをするようだ。
これを使うと持っていきたい物を登録してからもう一つのツイを手元に持っていれば、
いつでも手元に引き寄せたりすることもできる。
大事な物が盗難されても大丈夫なようにも使える。
これは結構便利かもとアキラは思った。
リリーはにやりと笑みを浮かべて、ツイをアキラのほうに近づけてくる。
「あっリリーだめだよ。また僕で試そうとして…」
「あれっこのツイなにか光っているよ」
リリーが言う。リリーのお父さんは、これはエネルギー切れだという。
一回使用すると、一回エネルギーを補給する必要がある。
エネルギーが太陽光みたいだ。充電するのに一日、移動させた物の大きさや距離は関係ない。
なので、今回はテストの餌食にならないで済んだみたいだ。
なんだつまんないと言って、リリーはツイを箱に戻す。
そして他に面白そうな物がないかと箱の中を物色している。
「おっそうだこれなんかいいんじゃないか?」
とリリーのお父さんが布のような物を取り出す。
リリーのお父さんは、それを床に広げてリリーにその上に立ってほしいと言う。
「何? 危険な物じゃないわよね? ちゃんとテストした?」
「大丈夫だよ」
リリーのお父さんは言う。
アキラはテーブルの上に置いてあるカードを見ると、説明を見る。
なんか、物体の大きさが変化し、大きい物が小さくなるような絵が描かれている。
その隣には小さい物が大きくなる絵が描かれている。
アキラは、リリーのお父さんのほうを見て、リリーのお父さんがにやりと
リリーと同じような笑みを浮かべているのを見た。
アキラもこれから何が起こるかわかった気がしたので、アキラはリリーに頼んで
布のような物の隣に下ろしてもらうようにリリーに頼んだ。
その後、リリーが布の上に立ったので、リリーのお父さんがスイッチを押した。
まばゆいほどの光により、アキラとリリーは目をつぶってしまう。
そして、光が弱くなったので、その布を見るとリリーがいない。
「あれっリリーはどこ行ったの?あっもしかして」
アキラは声を出す。その布の上にはアキラがよく知っている女の子がいる。
それもアキラ達地球人と同サイズの女の子だ。
「なによ。もう急にまぶしくなったじゃない。やっと目が見えるようになったわ」
あたりを見回して。
「ちょっと。なによここ。どうみてもさっきの部屋よね。
どうして周りのものが大きくなっているの?」
「リリー。大丈夫?」
リリーはアキラのほうを見る。
「あー。アキラ君よね。アキラ君が大きくなっている」
リリーはアキラの方へ向かってくるとアキラに抱きついてくる。
「わわっ。リリー違うよ。リリーが小さくなったんだよ」
リリーはあたりを見回して。たしかにそうね。あたしが小っこくなったんだわと言う。
「あたしは今アキラ君と同じサイズになっているということのようね」
リリーはしきりにアキラの体に両手を回して抱きついてくるし、体を押し付けてくる。
リリーは普通の地球人サイズになってもやっぱり胸は大きいみたいだ。
リリーが体をアキラに押し付けるたびに、リリーの胸がアキラの背中にあたる。
「もう。そんなにくっつかないでよ」
「なによ。いいじゃない。普段はこうしてアキラに抱きつくことができないし…」
アキラはリリーの胸が体にあたるたびにおかしくなりそうな気がする。
「もうそろそろ効き目が切れるころだ」
とリリーのお父さんが言う。
「えっ」アキラはリリーが元のサイズに戻るということなのかと思ったので、リリーの手を振り解いて、いそいでリリーの元から離れる。
「ちょっとアキラ君。ってあれ、なんだか体がむずむずしてくるような…」
次の瞬間。地球人サイズだったリリーが急に元の大きさに戻る。
アキラの目の前には、2メートルを超えるリリーの靴が見え、目線を上に向けるとはるか上にリリーの顔がある。
「なーんだ。もどっちゃったのか。ほらっアキラ君。そんなところにいたら踏み潰しちゃうよ」
と言ってリリーが手を伸ばしてくる。アキラは再びテーブルの上に上げてもらう。
「これは10分ほどしか効き目が続かないんだ。でも面白いだろう。
もっと時間が持続すれば地球の町を地球人と一緒のサイズで観光できるんだがな」
アキラはリリーが地球人サイズになって、アキラと一緒に町を歩いているところを想像した。
リリーは大きくても、小さくてもきっと、自分をおもちゃにしてからかったり、荷物持ちをさせたりするに違いない。
「他にもあるんだが、カードに書いてあるからわかると思う。一つ一つの機械には名称を示すプレートを貼ってあるからわかるだろう。
あっそれと、もうひとつルサーラの参加パスだ。このカードにリリーを登録しておいてくれとのことだ
ところでパートナーは決まったのかい?」
「心配しないで」
とリリーは言って参加パスを受け取ると、そのカードに手のひらをあてる。どうやら参加の登録はこのカード経由で行い、
生体認証もかねているらしい。リリーはアキラへそのカードを差し出すとここに手のひらをあててと言う。
これで、アキラもこのカードに登録されることになる。
「がんばれよ。応援しているぞ」
と言ってまだ仕事が残っているからと部屋を出て行った。
「さてと帰りますか。アキラ君その箱を持って」
「えー持てないよ」
とアキラは言う。エレーネ星人サイズならわかるが、地球人サイズのアキラには無理だ。
「この箱結構重いのよ」
とリリーはぷーとほっぺたを膨らませる。
「だったらさっきのエルをつかえばいいんじゃない?」
リリーはああそうかと言って、箱からエルを取り出すと、その箱に向けて引き金を引く。
「あはっこりゃ楽ちんね」
早速。道具が役に立つわねと言ってリリーは廊下を歩く。アキラは相変わらずリリーの胸ポケットの中だ。
アキラはリリーの顔を見る。どうやら、ハーゲンダッツ100個のことはころっと忘れているようだ。
そのことは言わないようにしようとアキラは思った。