ゆさゆさゆさ。
ゆさゆさゆさ。
アキラは体が地震のように揺れているのを感じる。
「んーん。んぁ」
とアキラは目を開ける。
目線を上に上げると、リリーと目が合う。
「もうすぐで地球に到着よ」
「そんなに寝てた?」
リリーはそうよと言う。とっても気持ちよさそうな顔をして寝てたとリリーが言う。
アキラはもうそろそろ自分の席に戻るよと言って、リリーの手によって席に移る。
モニターには地球が表示されている。
日本のあたりは暗いので夜なんだろう。
時間を確認すると、夜の8時は過ぎている。
やっと地球に帰ってきたとアキラは思った。
リリーは手際よく、着陸の姿勢を船体に指示する。
「今日は何食べようか? そうだ、この前カップめん作っているメーカーのCM撮影があって、
そのときに試作してもらったカップラーメンをいっぱいもらったから一緒に食べる?」
「いいよ。今日は疲れたし」
とリリーに返答する。
そして、施設の駐船場に着陸させると、リリーはアキラを胸ポケットに入れて船を下りた。
「アキラ君、中に入ったら床に下ろすから、先に部屋へ戻っていて。
あたしは宇宙船が変わったから手続きをしてから部屋に戻るわ」
アキラはわかったと言って、リリーによって床へと下ろされる。
歩くと結構遠いんだよなとアキラは考えながら廊下を歩く。
「やっと着いた」
ふう。結構疲れた。アキラは部屋の中でリリーからもらったタオルが敷いてあるところにくたっと倒れ込む。
メールでもチェックしようと携帯電話を取り上げて画面をチェックする。
そのとき、入り口付近でかたりと音がしたので、そのままの姿勢でアキラは入り口を見る。
女の子がいる。
リリーと比べて背が小さい。地球人換算で11,12歳ぐらいか?
その子は頭をしきりにさすっている。
「あれっだれもいないのかな? 明かりがついているから誰かいるかと思ったんだけど…」
と言いながらその女の子は部屋へ入ってくる。
「君は誰? リリーの友達かな? ねえちょっと」
アキラは声をかけてみるが、その女の子は気がつかない。
そのままその女の子はこっちの方に歩いてくる。
ずんずん。
ずんずん。
「げっ。そういえばまだナビ状態だった」
そうつぶやくうちにその女の子はアキラの目の前まで迫っている。
横に逃げればいいけど、間に合わないのでアキラはふせることにする。
むぎゅー。
アキラはまたその女の子に踏まれてしまう。
踏まれたことで床にめり込んでいるが、さらにものすごい重さがかかる。
パキリと携帯電話かなにかが壊れるような音を聞いた後、アキラはそのまま気を失った。

「おーい。おーい。アキラ君。もしかしてまた踏まれちゃった?」
んあ。あれっ今まで何をしていたんだろう。思い出せない。
アキラは目を開ける。アキラはいつのまにか、例のタオルの上に寝かされている。
体のほうはなんともない。
アキラの手には携帯電話が握られている。
あれっ。さっき壊れたと思ったのに、携帯電話には割れたような箇所はない。
見上げると二人の顔が見える。
一人はリリー。もう一人はさっきの女の子。
リリーと目が合う。
リリーはにっこりと微笑む。
アキラはもう一人の女の子と目が合う。
その女の子もリリーと同じように微笑む。
あれっなんでだ。ナビ状態なのに…。
「アキラ君気がついた? あたしが部屋に帰ってくると、女の子が立っていてその下でアキラ君がのびているんだもん」
とリリーは言う。
アキラは
「そういえば、その女の子には僕が見えているみたいなんだけど…」
とリリーに問う。
「この子はリアって言うの。この辺りには観光で来たみたいなんだけど、
廊下に落ちていたボールを踏んじゃって、ころんで頭を打ったみたいなの。
その後。落としたキーを拾うためこの部屋に入ったらしいのよ。
ってまだアキラ君の質問に答えていなかったわね。どうやらリアちゃんにはアキラが見えているみたいなの。
不思議よね」
「さっきは踏んじゃってごめんなさい。大丈夫?」
その子はアキラに向かって謝ってきた。
「一応気を失っていたのかな?。でも体を動かしても痛いところはないし大丈夫だよ。
でも今度から歩くときは気をつけてね」
「はーい」
一通りの自己紹介を済ませると、リリーがご飯にしましょうと言って、
テーブルの上にあるものをアキラに渡す。
アキラに渡されたのは普通のカップヌードル。でもアキラはテーブルの上に並んでいるものを見て、
「でかっ。なんだよそれ」
とアキラは思わず口に出してしまう。
それは、有名なメーカーのカップヌードルのパッケージのように見える。
カップヌードルのパッケージの高さだけで、アキラの身長より大きい。
でもカップヌードルに書かれている柄は普通の物と同じだ。
「どう? すごいでしょ。アキラ君が知っているカップヌードルと同じように作ってもらったのよ。
CMはもうちょっとしたら放送されるから」
うわぁ。アキラはカップヌードルに近づいて表示を見る。
エネルギー(mcal):420
たんぱく質(g):8800
あれっ、mcal、キロカロリーではなくてmcalてことはメガカロリー?
なんだよそれ。カップヌードル1000個分だとそうなるのかなぁとアキラは考えた。
そして違う箇所を見つけようとする。
熱湯15分とも書いてある。15分かぁでも1000個分にしては早いような。
とアキラがつぶやくと…
「麺の太さは普通の物より太いけど。さすがに10倍の太さにはできなかったみたいね。
いろいろ難しいみたい。でね。工夫して麺をこの太さにしたら、何とか実用化出来そうな感じになったの。
それでも3分というわけにはいかなくて、熱湯15分になったと聞いたわ。
で、15分もすると熱湯ではなくなるから、カップ酒に使われているお酒をお燗する仕組みがあって、
底面に貼ってあるシールで容器に蓋をするんではなくて、専用の蓋があるの。ほらっこんな感じ」
リリーはカップ麺に蓋として乗せてあるものを取る。
蓋の中心には、鉄製みたいな銀色に輝く太めの棒があって、その棒から湯気が上がっている。
それが温度を保温する仕組みになっているようだ。
エレーネ星人も地球人が食べているカップヌードルを食べたくなったらしく、
前々からリクエストが上がっていたらしい。
「ふーん。そうなんだ。でもわかるよ。カップヌードルみたいなカップラーメンはなぜか、
たまに食べたくなるし。他の人が食べているところをみると食べたくなるし…」
アキラは、リリーが蓋を取ったので、カップヌードルのおいしそうなにおいをかいでみる。
「あっにおいは普通のカップヌードルだ。このにおいはカレー味?」
「そう。あたしはカレー味。アキラ君のはシーフード味。リアちゃんのはミルクシーフード味」
リリーはカップヌードルが出来たので、早速食べ始める。
アキラは目が覚めてからお湯を入れたのでちょうど今頃が食べごろだ。
リリーは、テーブルの上に乗っているカップヌードル(エレーネ星人用サイズ)を手に取ると
2つ目のカップヌードルにお湯を入れ始めた。
「何やっているの」
とアキラはリリーに聞いてみると、
「熱湯15分よ。今から用意しておかないと間に合わないじゃない」
「だれか来るの? もう一つ用意しているけど…」
「あたしが食べるのよ。一つじゃ足りないじゃない。アキラ君ももう一ついる? それにリアちゃんはどう?」
とリリーが聞いてくる。
アキラは一個で十分と言う(リリーのカップヌードルを見ているだけでおなかいっぱいだ)。
リアちゃんも一個で十分と言う。
リリーは2個目のカップヌードルが出来上がるごろに、一つ目を食べ終わり、二つ目のカップヌードルに手を伸ばすところだ。
「ねぇ。リアちゃん? ここには旅行で来たって言っていたけど、ご両親は? 一人で来たの?」
とアキラはカップヌードルを食べ終わったので、リアちゃんに聞いてみた。
リアちゃんは、リリーとアキラのほうを交互に見た後、
「お父さんは出張中、お母さんは撮影に行っているの。何日か留守にするみたいだから、この施設に遊びに来たの。
家はここから地球の新幹線で3時間ぐらいの所にあるけど、小さいころからここには遊びに来ているから、自分の船で一人で来たの」
と言う。
リリーが言うには、この施設にはゲストルームもあるし宿泊することも可能だ。エレーネ星人はもちろん無料。
エレーネ星人が泊まれるホテルがないので、観光や仕事で住んでいるところから離れる場合は、
こういった施設を利用することになる。
リリーがカップヌードルを食べ終わったので、テーブルの上を片付けるために立ち上がる。
寝るには少し早いので、何かないかと辺りを見回すと、リアちゃんも一緒に部屋の中を見回す。
「あれは何?」
とリアちゃんが言うので、アキラはその箱の中の物を見せることにした。
アキラがリアちゃんのほうを見ると、手をのばしてきたので手につかまると、
リアちゃんは胸ポケットにアキラを入れて、その箱の方へと歩く。
アキラはまだ何も言っていないのに、よくわかるなぁと思いながらポケットの中からリアちゃんの顔を見る。
リリーと比べると身長が低いので、いつもの胸ポケットの位置よりは低いが、それでも結構な高さだ。
リアちゃんが箱を開けていいと聞くので、いいよとアキラは答える。
「わぁ、面白そうなものがいっぱい。あっこれ見たことある。これも。これも」
とリアちゃんが言う。
あれっおかしいなこれは試作品のはずだからまだ知らないと思ったんだけど、他の物と
勘違いしているのかなとアキラが考えていたら…
「あっ、これ見た事ない。このペンダント綺麗。人形みたいなものも入っているよ」
と言って2つ取り出す。
「つけてみていい?」
とリアちゃんが聞くので、使い方はわからないけど害はないだろうということでいいよと言った。
「どうかなぁ」
とリアちゃんが言うので、似合っているよとアキラは言う。
リアちゃんは、ペンダントを指で触っている。
アキラはポケットの中からペンダントを見る。
自分の顔より大きいなとペンダントを見ながらアキラは考えていた。
ペンダントには小さい宝石か何かで出来ている小さな飾りが付いていて、
メインの石の周りに付いている。
ふと、アキラはペンダントの下の辺になにか付いていて、取れかかっているのに気が付いた。
ペンダントの位置は、胸ポケットの位置から近い所にあるので、アキラは手を伸ばせば届きそうだ。
アキラは手を伸ばして、それに触れてみる。触れると取れかかっていたものが取れて下に落ちた。
なんだったんだろうゴミかなぁとアキラが下に落ちていく物をみていると、
「ねぇ。この人形さんは何に使うの?」
とリアちゃんが聞いてきた。
アキラは
「うーん。それが使い方良くわからないんだ。多分ただの人形ではなくて何か意味があると思うけど」
「ふーん」
とリアちゃんが言いながら、人形の手や足をちょっと動かしてみる。
人形遊びや着せ替えなんかだとこのまま遊べそうだけど、これまでの他の道具を見てみると、
道具一つ一つに何か役割があるような気がする。
「あっそうだ思い出した。ねえアキラお兄ちゃん? これあげる」
とリアちゃんは言って、アキラの前にカードを差し出す。そのカードはリアちゃんの人差し指の上に乗っている。
「これは?」
とアキラが聞いてみた。
「これを作ったのはあたしのおじいちゃんなんだけど、
あたしのおじいちゃんは、過去に発見された物体を解析してから、復元しているの。
そして、その復元した物を発売前にあたしがモニターしているの。
それでね。これは情報を記録するカード。楽に記録できるから日記代わりに使えるわよ。
アラームもセットできるし、簡易的な通信機能もあるの。これを使えば月にいても、
地球の携帯電話の回線をエレーネの回線を経由して転送してくれるの…」
「へえ。そうなんだ。すごいなあ。もらっちゃっていいの?」
「うん。いいの。試作品だし、あたしも同じの持っているから…
それに使った感じを教えてほしいの。
今後地球人用にも販売する予定だから…」
「うんわかった」
とアキラは言う。
「ねえ。アキラお兄ちゃん。せっかくだから、最近の出来事を日記の記録用カードとして使ってほしいの…」
「うーん。あまり日記をつけたことがないからなぁ。三日坊主になるかも…」
「だめよ!。せっかくあたしがあげたのだから、使ってくれないとリア怒るよ…」
とぷーとほっぺたをふくらませてリアちゃんは言う。
「わかった。わかった。早速今日からつけるよ」
「うん。お願いね」
とリアちゃんは言う。
アキラは日々の日記をつけることになった。

「さあもうこんな時間よね。アキラ君もリアちゃんも寝るわよ。リアちゃんはもちろんここで寝るわよね?」
と、リリーが言う。確かにいつのまにか時間が過ぎている。
「あたし、アキラ君と一緒に寝る」
とリアちゃんが言う。なんかアキラはリアちゃんに好かれているみたいだ。
「だめよ。間違って下敷きにしちゃったらどうするの? つぶれちゃうわよ」
とリリーが言う。たしかにそうだ。
リアちゃんは子供でもエレーネ星人サイズ。
それに女の子だし一緒に寝るのはどうかとも思う。
「そうかぁ。残念ね」
とリアちゃんはちょっとしょんぼりした顔でリリーに言う。
アキラは明日どうするのかと思ったのでリリーに聞いてみることにした。
「ねぇリリー、明日はどうするの? また宇宙船でどこかへ行くの。そのときはリアちゃんはどうするの?」
リリーは手をほっぺたに当てて、少し考えてから
「そうねぇ。明日もアキラ君が宇宙船になれてもらうためにどこかへ行こうと思っているけど、リアちゃんは明日なにか用事ある?」
「用事はないと思うわ。もしかして宇宙船でどこかへ行くの?」
じゃあ、もし良かったらあたし達と一緒に宇宙船でどこかへ行かないとリリーが言う。
リアちゃんも行く行くと行っていたので明日の行動は決まったようだ。
「じゃ、電気を消すね」
とリリーが言って電気を消す。

リアちゃんとリリーは一緒に寝ている。
アキラはその隣でいつもの簡易ベッドの中でタオルに包まっている。
しばらくすると、すーすーという寝息が聞こえてきた。
アキラは2人のほうを見ると、リリーと目があった。
リアちゃんは先に寝てしまったみたいだ。
「ん。ママぁ…早く帰ってきてね」
と寝言をリアちゃんが言う。
やっぱり子供ね。お母さんが恋しいのかしらとリリーが小声で言う。
リアちゃんは寝返りをうって、リリーをぎゅーと抱きしめる。
「ママ…」
リアちゃんは安心した顔で寝ている。
アキラはそんな二人を見ながら、明日はどんなことをするのかなと考えていたが、
アキラもいつのまにか眠りへと落ちていった。

ゆさゆさゆさ。
ゆさゆさゆさ。
「んー」
なんか体が揺れているが夢の中だからなんでもいいやとアキラは再び眠ることにする。

「んもう。全く起きないわねぇ。おーいアキラ君。もう9時よ。起きなさーい。ほらっ今日は宇宙船で出かける日でしょう」
ゆさゆさゆさ。
ゆさゆさゆさ。
まだアキラは起きない。
「起きないと、あたしがアキラ君をパンにくるくるってくるんで食べちゃうぞー」
ゆさゆさゆさ。
こんだけ言っても起きないんだったらとリリーは言って
本当にパン(エレーネ星人サイズの食パン)を持ってきて、アキラがくるまっているタオルを引っ剥がす。
アキラはまだ起きない。
アキラをつかんで食パンの端に置くと、リリーはくるくるっとアキラをパンでくるんでしまった。
そして、胡椒をぱらぱらっとアキラにふりかけてみる。
アキラは体を包むタオルの感触がなんか変化したなぁと思っていると鼻がむずむずする。
「はっくしょん。はっくしょん」
ってあれ? アキラは目を開けてみると、テーブルの上にいるようだ。それに皿の上。
アキラは自分の体にくるまれている物を見るとどうやらパンのようだ。
「あー。パパをリリーが食べようとしているー。って違った。アキラお兄ちゃんをリリーお姉ちゃんが食べようとしている?」
リアちゃんもさっき目が覚めて起きてきたようだ。まだはっきりと目が覚めていないようだ。
アキラは、リアちゃんの声を聞いて、自分の状況を確認してみた。さっき振りかけられたのは胡椒?
「ちょっと待ったリリー。何しているの?」
ああ、やっと起きたわね。とリリーが言う。
あまり起きないものだから、アキラ君を食パンでくるくるって巻いて、胡椒を振りかけたのよとリリーは言う。
「大丈夫。本気でアキラ君を食べたりしないから。ほらっ下に下ろしてあげる」
うわぁ。なんだよもう。体が胡椒だらけじゃないか。
「はっ、はっ、はっくしょん」
くしゃみをした後でリリーをにらむ。
「うふふふふっ」
とリアちゃんの笑う声がする。
どうやらアキラとリリーのやりとりを見て笑っているようだ。
こっちはそれどころではないのに……
シャワーでも浴びてこようとアキラは言って部屋を出ようとする。
「あたしが手伝ってあげる」
とリアちゃんが言って手を伸ばしてくる。
そのままリアちゃんの手に捕まれて、バスルームへ向かう。
リアちゃんはアキラを洗面台の上に置くと、服を指を使って脱がそうとする。
「ちょっと待って。一人で服は脱げるよ」
とアキラは言うが、リアちゃんはおかまいなしだ。
人形遊びみたいにアキラのパジャマのボタンを器用に外すと、お湯を出し始める。
リアちゃんも、寝巻きを脱ぎ始め、下着姿になる。
アキラはそんなリアちゃんを見てちょっと顔を赤くする。
「あーあたしの体を見ていたなー。まだあたしの胸はぺったんこで、ママみたいにばいんばいんではないけど、
これから成長するんだからね。でもあたしの体を見て欲情した? これでも成長はしているんだからね」
とリアちゃんは言う。
「えっごめん。そんなに見ていないよ」
とアキラは言うが、ちょっと照れくさい。
アキラの姉は、脱衣所でアキラに下着姿とかを見られると、出てけーと言って戸を閉めるが、
反応が違うなぁと思う。
どっちかって言うと、リリーと同じような反応だなとアキラは思った。
地球人より、エレーネ星人は10倍体のサイズが大きい、だから小さい地球人に見られても恥ずかしくないのか、
それともアキラは小動物のように見られているのか?
とアキラは思った。
「お湯の温度はちょうどいいわね」
と言って、リアちゃんはアキラをつかむと湯船の中にアキラをそっと入れる。
リアちゃんは指を使って、ボディシャンプーの液体を指につけてからアキラの体をそっと指でなする。
指一本の太さはアキラの胴体ほどは太くないが太い丸太より大きい。
「うわっ。ちょっとやめてよ。くすぐったいよ」
とアキラは言って抵抗してみる。
リアちゃんはアキラをしっかりと握っている。
アキラはもがいてみるが脱出できない。
脱出できても、アキラは地上10メートルぐらいの場所にいる。下にはお湯が貼ってある湯船が見えるので、
ここから落ちても大丈夫だと思うが、その湯船もかなり深い。
うー。エレーネ星人サイズのバスルームだと、変に抵抗はできないなとアキラは思った。
ごしごし。
ごしごし。
リアちゃんはアキラの体を、石鹸がついた指でなぞっている。
もういいかなと言って、リアちゃんはアキラを湯船の中にそっとつけて、手のひらを使って、お湯をアキラの体にかける。
「うわっぷ」
畳ぐらいの大きさに思えるリアちゃんの手のひらによって、大量のお湯が押し寄せてきたため、大量のお湯を頭からかぶってしまう。
「ごめん。大丈夫?」
「こほっ。こほっ大丈夫。ちょっと顔にお湯がかかっただけ」
だいぶ良いわねと言いながらリアちゃんはアキラを洗面台の上に置くと、自分で顔を洗う準備や髪を整えるしたくをする。
その間にアキラは洗面台に置いてあったタオル(エレーネ星人サイズ)で体を拭いて、そのタオルにくるまる。
アキラが横を見ると、リアちゃんは歯ブラシを手にとって歯を磨く。
うへぇ。歯ブラシも地球人が使うものと同じだがサイズが違う。
昨日の夜。リリーがリアちゃん用に用意してくれたものだ。
アキラも歯を磨きたかったが、ここには地球人用の歯ブラシはない。
歯ブラシはあるのだが、自分の顔より大きい歯ブラシだ。
バスルームから出たら、地球人用のバスルームに行って、そこで身支度を整えようとアキラは思った。
アキラは自分の服を着てから、リアちゃんに頼んでバスルームの外まで連れて行ってもらうことにした。
リアちゃんはアキラを手でつかむと、顔のそばへアキラを近づけてからくんくんとにおいをかいだ。
「んー。ボディシャンプーのにおいがする。もう胡椒くさくはないわね。大丈夫みたい。これからはちゃんと朝は起きないとね」
とリアちゃんは言う。
「ありがとう。じゃあとで」
とアキラはリアちゃんにお礼を言ってからバスルームを後にした。

「ふぅ。ひどい目にあった。もうあんな思いは勘弁だよ」
とアキラは言う。
テーブルの上には朝食の準備がしてある。
パン、目玉焼き、レタスやトマトなどが皿に盛り付けられている。
「やっぱりこの大きさなんだね」
それらは、アキラが目にするものの10倍サイズだ。

「そう。品種改良で、卵やレタス、トマトは大きくしてもらったの。エレーネのテクノロジーと、地球のバイオテクノロジーをかけあわせて
やっとこの大きさになったのよ。最初あたしは、地球産の物を食べたくてお願いしたときは、地球人サイズの物しかなかったから、
こんなにちっこいものしかなかったのよ」
と言って、リリーは人差し指と親指でつまむようなしぐさをする。
たしかに、アキラは自分の知っている食材がもし1/10サイズだったら小さいなぁと考えていた。
「この調味料も見慣れたものだけど…。これもCMに出てもらったものなの?」
とアキラは言って、テーブルの上に並んでいるマヨネーズや胡椒、しょうゆの瓶を見た。
「そう。CMに出演すると、これらの物が最初に優先してもらえるの。だから最初のころはいろいろな食品関連のCMに出たわ」
アキラはふーんと言いながら、自分の背丈より大きいか、背丈ほどもある調味料の瓶を見つめている。
リリーは、アキラの前に置いてある皿を見てから。
「アキラ君ごめんね。地球人サイズの食材がなかったから、あたしのを分けてあげる」
とリリーは言って、パンをひとかけら、目玉焼きのはしっこと黄身少し、レタスをちぎってアキラの前の皿に入れる。
それに、ミニトマトを1/4の大きさに切ってから皿に入れる。
ミニトマトと言っても、スイカぐらいの大きさだ。
でっかいなぁと思いながら、リリーがミニトマトの上にマヨネーズをにゅるっとかけて、目玉焼きと野菜の上にしょうゆをたらす。
エレーネ星人から見れば、ほんのひとかけらをアキラにおすそ分けしたような感じだが、
アキラから見ると朝食としては十分な量だ。
リリー達といると物の大きさに驚くばかりだ。
聞くところによると、十分に大きい食材が手に入ることになったので、地球の各地でも食料に困っている人が少なくなってきていると言う。
一時期、食料品の値段が高騰した時期があったが、今ではだんだん値段も下がってきているらしい。
アキラは、でっかい野菜や、10倍サイズの卵がスーパーに普通に並んでいる様子を想像してみた。

……
「ごちそうさま」
アキラはリリーの声を聞いて見上げると、リリーの皿の上にアキラから見て山のように盛り付けてあった朝食がもう無くなっている。
アキラはリアちゃんのほうを見ると、リアちゃんの皿の上ももう少しで空になりそうだ。
子供と言ってもエレーネ星人だなぁとアキラは思った。
「あと30分ぐらいで出かけるわよ」
とリリーが言う。
アキラはちょっと待ってよと言う。アキラは今、皿の上のミニトマトと格闘中だ。
ふとアキラは顔を上げると、リアちゃんと目が合った。
そんなアキラを見て、リアちゃんは微笑む。
うー。リアちゃんから見ても僕は小動物のように見えるんだろうかとアキラは考えた。

「じゃあ行くわよ。ほらっ」
とリリーが言う。
アキラは胸ポケットに入る。
リアちゃんはリリーとならんで廊下を歩く。
リアちゃんはうれしそうだ。
リアちゃんはうれしくて、早く早くと言いながら駆け出す。
「走ると危ないわよ」
とリリーが言い、追いかける。ポケットの中もゆれる。
ちょうどそのとき、
「わあっと」
とリアちゃんの声が聞こえて、リアちゃんの体は前のめりに倒れてしまう。
「リアちゃん!!」
リリーは心配して叫ぶ。
「いてててて」
リアちゃんは転んでしまった。
「あっアキラ君は」
と言ってリアちゃんは胸ポケットを見る。

「あっ大丈夫だよ、ここだよ」
とアキラはリリーのポケットの中から言う。
たまにリアちゃんのポケットの中に入って移動することもあるので、
今回はリリーのポケットの中に入っていて助かったとアキラは思った。
もしリアちゃんの胸ポケットの中だったら今頃、昔のマンガのように
シャツにぺったんこに張り付いてしまっていたころだ(もちろんマンガならの話だが…)。
「良かった。あたし。アキラ君を潰しちゃったかと一瞬思っちゃった」
とリアちゃんはほっとした顔で言い、服をぱんぱんとはらってから再び歩き出した。

駐船場が見えてきた。
3人は新しいピカピカの宇宙船に乗り込む。
「今日はどこへ行くの? また昨日みたいに危険なことしないよね?」
と念のためアキラはリリーに聞く。
「今日は大丈夫よ、レースの前日だし。リアちゃんも一緒だから。
軽くいろいろなことをして、レース中に出されるミッションに対応できるようにするの」
リリーが言うには、それらは宇宙船の操縦以外にしなければならないミッションをどうやって対応するかの技術を習得することらしい。
「レース用に訓練するのにいい場所があるの。ちょっとそこは遠いからゲートを通っていくね」
リリーは母船に回線をつないで、目的地ゲートの識別番号を問い合わせる。
「あて先ゲートの識別番号はこれね」
アキラはコンソール表示された数字を見る。
15463.22711.44203.57333.22476.11952.24365.04179.00156.00002
うわぁ結構桁数があるなぁとアキラは思った。
どうやらエレーネ星人達がこれまでに通ってきた場所や惑星にゲート用の装置を置いてきているらしく、
今まで行ったことがある場所なら、短い時間で行くことが出来る。
でも行ったことがない所や、そのゲートが故障してしまった場合は、ゲートでその場所へは行くことができない。
だから、エレーネ星人は居住可能な新しい惑星が見つかったりしても、船団の大部分はまた新たな場所を求めて進むとのことだ。
こうすれば、未知の宇宙領域を開拓するという目的が果たすことができる。
リリーは腕輪を使って、あて先のゲートにゲートオープンの指示とこの船の認識番号を送信する準備をする。
「これでいいわ。あと十分ぐらいでゲートが開くからそれまで待ってましょう」
とリリーが言う。
前方にぽっかりと黒い穴のようなものが開いたのをアキラは見た。
(後ろの星の光が円形状にさえぎられているのでかろうじて何かがあるのがわかる)
コンソールを見ると、通行可能の表示が出ている。
コンソールには、エレーネ星人用の言葉の下に日本語で表示が出ているのでアキラが見てもわかった。
これならリリーがいなくても困ることはないだろう。
「じゃあ出発ー」
とリリーが言って、ゲートへと宇宙船を進入させる。
「あれっ、なんか色とりどりの模様や、星が超高速で後ろへ飛び去っていくような光景はないの?」
とアキラは言う。
ゲートに入ったと思ったら、すぐ星が見える。
「映画やマンガの見すぎね。もう着いているわよ」
実際は一瞬で着くらしい。
ワープっぽい体験ができるかと期待していたがアキラはちょっとがっかりした。
「でも。アキラ君。ほらっ見て綺麗でしょう」
とリリーが言うので、アキラは窓から外を見てみる。
といっても、宇宙船はエレーネ星人サイズなので、アキラが勝手に窓に近寄ることはできない。
アキラはまたリリーの胸ポケットの中だ。
「ここの風景はあたしも実際に見るのが初めてなのよ」
とリリーが言う。アキラは船内の窓から見える景色に釘付けとなる。
遠くに見えるのは、恒星みたいな物体の上下からなにかが噴出されていて、はるか遠くまでその軌跡が伸びている。
その恒星から見て、右のほうには銀河が大きく見える。
さらに近くには太陽のように光る恒星とそれらを取り巻く惑星達。
宇宙船は青く輝く惑星の近くを航行しているようだ。
青い惑星はなんか地球みたいだなと思うが、星空の景色が地球から見えるのと全然違う。
こちらのほうがダイナミックだ。
「うわぁすごいや」
「ねぇアキラ君。あたし達はこんな遠くまで一瞬で来ることができるし、
これまで通ってきた箇所にゲートを設置してきた。
でもね。この宇宙と比べると、あたし達の存在はちっぽけだと思わない?」
とリリーが言う。
「そうだね…」
アキラはリリーの言葉を聞きながら窓から見える景色をしばらく眺めていた。
アキラはふと横を見るとリアちゃんも同じように窓から外の景色を見ている。
こうしてリリー達と一緒にすごしていると、地球人とは体のサイズが10倍違うけど、
宇宙のスケールから比べたら、エレーネ星人も地球人もあまり変わらないのかなと思った。
アキラはそういうことを考えながらリアちゃんの方を見る。
リアちゃんは窓から景色を見ながら、なにかを両手に持ってボタンを押す。
「リリーお姉ちゃん? この場所から少し移動できる? あの惑星をすぎた辺りまで?」
とリアちゃんは窓から離れて、コンソールに表示されている、別の惑星のあたりを指で示す。
「えーとできるわよ。でもこの船でも3時間ぐらいかかるけど…
あっそうだ。ゲートで行けばすぐよ」
「ゲート? ゲートでも行けるの?」
とアキラはリリーに聞く。
「そう。ちょうどいいわ。ここからアキラ君に操縦をお願いしようかしら。
あたしが教えてあげるから」
「う、うん大丈夫かな?」
とアキラはちょっと心配な顔をしながらリリーに言う。
「大丈夫よ。難しくないし…。じゃあゲートの仕組みと使い方を簡単に教えてあげる」
と言ってリリーはゲートの説明をする。
「ゲートはあたし達が立ち寄った箇所とその他にあたし達が過去に出会った異星の人達に頼んで
いろいろな場所にも設置してもらっているの。
ここまではいいわね」
アキラはうなずく。
「それで、ゲートには親子関係があって、
一番最初のゲートはエレーネ星付近に設置してある物。
そのゲートは次に設置するゲートの通信周波数と識別番号をインプットしておく。
次に設置するゲート。これを2番目のゲートとするわね。
2番目のゲートは1番目のゲートとその次に設置する3番目のゲートの
通信周波数と識別番号をインプットする。
こうしてゲート間はつながっているの。
そして、さらにゲートには子ゲート、孫ゲートを持つことができる。
あたし達は恒星周辺に子ゲート、星系内に孫ゲートを設置しているの。
だから、長距離を移動するのに親ゲートを使って、比較的近い距離を移動するのには、
子ゲート、孫ゲートを使うの。
でね。ゲートを使うためには、一番近い場所にあるゲートに目的地ゲートの識別番号と
船体の識別コードを転送するの。
すると、ゲートを通じて目的地に近いゲートまで長距離通信を使って指令が送られる。
目的地のゲートは、その指令を受け取ると、送信元のゲートに向けて長距離通信を使って返答をする。
その返答には、目的地のゲートの通信周波数が入っていて、受け取ったという返答をその通信周波数を使って
目的地の親ゲートへ返すと、目的地のゲートが開く。
その後は、そのゲートを通れば目的地に着くわけよ」
ずいぶん長い説明だったけど、アキラはなんとなく理解できた。
目的地ゲートの識別番号がわかればゲートを通ってどこにでも行けるということだ。
「それと、複数の宛先をインプットしてあるゲートもあるんだけど、ここでは使わないわね。
でね。実際の使い方だけど、アキラ君はあたしと一緒にやってみて。あたしと同じように操作をするの」
アキラはリリーのほうを見る。
「まずは腕をこう操作して、コンソールの表示の中心に、この小さい丸が6個円状にならんだ絵を持ってくるの。
そして、腕輪をちょんちょんとタッチするように両手首を交差させると選択される。
その状態で、あて先ゲートの識別番号を入力するんだけど、最初は一桁ずつ入力しないといけないの。
左腕を上に上げると数字が大きくなり、下に下げると数字が少なくなる。
右腕を左に動かすと桁が左に移動する。右腕を右に動かすと桁が右に移動するの。
数字は日本語に合わせてあるから、アキラ君でもできるはずよ。
じゃあ、目的地の惑星に一番近いゲートの識別番号はこのコンソールに表示されているから、入力お願いね」
とリリーが言う。
00000.00000.00000.00000.00642.00536.00027.00013.00012.00002
ゼロが多いや。アキラは少しほっとした。
数字の入力が終わり、アキラはリリーを見る。
「一応。使い方を目の前に表示するようにしたから、あとはその通りにすれば大丈夫よ」
とリリーはよっこいしょと言いながら、自分の座席に座る。
アキラはまるでおばさんみたいだなとリリーのほうをみてから前を見る、
コンソールの上にリリーから見て妖精サイズの立体映像が浮かんでいる。
その立体映像は、次にしなければいけないゼスチャーのとおりに動いている。
アキラにとって見ると地球人と同じ大きさだ。少し大きすぎる。
「これ小さくできないの?」
とアキラが聞くが、これより小さくならないらしい。
じゃしょうがないなと思いながらアキラは、腕輪をちょんちょんとタッチするように両手首を交差させる。
すると、表示が変化し、送信を許可するマークが出たので、同じ操作をする。
あとは待つだけだ。
「あっ孫ゲートから返答がきたみたいだよ。この操作をするとあて先の孫ゲートへ返信されるんだね」
とアキラはゼスチャーをすると、ちょっとしてからコンソールに通行許可の表示が出る。
船の前方には円状に星の光をさえぎるものが出現している。
アキラはコンソールを見ながら、慎重に船を進める。
「やった。ゲートをくぐったよ」
「良く出来たわね。えらい。えらい」
とリリーが言いながら。アキラの頭を手をつかってぐりぐりする。
「よしてよ。子供じゃないんだから…」
「アキラ君はまだ大人ではないんでしょう。じゃあ子供よ」
「リリーいつまでもぐりぐりしないで、このばかでかい手をどけてよ」
ばかでかい手とはなによとリリーが言う。
アキラから見て、畳より大きな手がアキラの頭をちょんちょんとたたく。
そんなやりとりを見て、リアちゃんはくすっと笑っている。

「あっそうだ」
とリアちゃんが言いながら窓の方へと駆けよる。
りあちゃんはまた何か手に持ってボタンを押す。
「それは何?」
とアキラがリアちゃんに聞くと、まだ不完全だけどと言ってボタンを押す。
すると、目の前に外の銀河の景色が立体映像で浮かぶ。
「これは、撮影したものを立体映像で再現する物なの。これも試作品」
もうちょっと撮影すれば、立体映像は完全な物に近くなるというので、
このあとは、アキラのゲート移動の練習を兼ねて、あちこちこの星系内を移動することにした。
アキラは、コンソールを見ながら、目的地をどこにしたらいいかをリアちゃんと二人で決めた。
その後、5回ほど星系内を移動したところで、
「もう十分だわ。どうもありがとう」
とリアちゃんがお礼を言う。
「ちょっと疲れたけどだいぶコツがわかったよ」
とアキラは席に座る。
「お疲れ様。おなかすいたでしょう。お昼にしましょう」
とリリーはテーブルの上に箱から食材を取り出して並べる。
どうやら朝食の後、あまった材料でお弁当をリリーが作ったらしい。
アキラはテーブルを見ると、それはサンドイッチのようだ。
ん? でも普通のサンドイッチとは中身の具が違うようだ。
「ねぇ。リリーこのサンドイッチの中身は何が入っているの?」
「ああ、これ? カレー味のヌードルの麺を入れたの」
ヌードル? あのカップラーメンの?
「そんなのサンドイッチの具に入れる人いないよ」
とアキラは言う。
「これ。カップヌードルは在庫がいっぱいあるから入れてみたんだけど…
ヌードルだけじゃ味が足りないから、スープを煮詰めてから少しカレーを足してという風にいろいろ工夫しているのよ!」
とリリーが言う。
「これは何?」
とリアちゃんがリリーに聞く。
「これは、メンマとチャーシューをパンに挟んだの。これもおいしいわよ」
うーん。普通のサンドイッチはないのかなぁとアキラは思う。
他にも、さっきのヌードルをフライパンで炒めてカリカリにしたものにさっきのカレー味のスープで味付けしてあるものや、
桃缶の桃を敷き詰めたサンドイッチ、パンにレタスとハーゲンダッツのアイスクリームを挟んで食べるために、用意してある
サンドイッチが入っている。
アキラは、そんなサンドイッチを見つめていると、
リリーは別途保冷庫からアイスクリームを出す。
ハーゲンダッツのアイスクリームだ。
「リリーは本当にアイスクリームが好きだねぇ」
とアキラは言う。
「地球に来て良かったと思うのはこのアイスクリームね。今まではこんなのなかったし…
ところで、アキラ君はどのサンドイッチにする? このヌードルのサンドイッチ?」
とリリーがアキラに聞く。
ちょうどそのとき、アキラの背中をつんつんとつっつく物がいる。
うしろを振り返ってみると、リアちゃんが指先でアキラの背中をつっついている。
「あのね。ヌードルのはやめといたほうがいいと思うよ。おすすめはメンマのやつ。あれならおいしいと思うよ」
とリアちゃんが小声で言う。
たしかに、ヌードルのは味が想像できない。メンマのやつもそうだが、リアちゃんが言うなら信じようとアキラは思った。
「じゃあそのメンマのやつにする」
「あらっそうなの、このヌードルのはいらないの?」
「うん。いらない。たぶんメンマのやつ食べるとおなかいっぱいになるから…」
アキラは、リリーが取り分けてくれたサンドイッチの厚みを見て答えた。
やっぱりサンドイッチは10倍サイズなんだなとアキラは思った。
「うーん。このヌードルのサンドイッチ。味はそうでもないんだけど、
やっぱりパンとヌードルは合わないわね。どっちもやわらかいから食感がいまいちかも…」
とつぶやきながらリリーは言う。
やっぱりそうかとアキラは思う。
メンマのやつは結構いけるかもとアキラは思うが、サイズがでかいのでなかなか食べずらい。
パンの厚みが半端でない。
ナイフを使ってちょうどいい大きさに切り分けることにした。
アキラはリリーとリアちゃんのほうを向くと、リリーはパンにアイスクリームをはさんで食べているところ、
リアちゃんはサンドイッチ(桃缶の)を手で持ちながら、アキラのほうを微笑みながら見ている。
くー。やっぱりリアちゃんは小動物を見るような目で自分を見ているんじゃないかとアキラは思った。
「ごちそうさま」
とリリーが言う。またテーブルの上のサンドイッチはほとんど空になっている。
良く食べるなぁとアキラは思う。そのわりにはスタイルが崩れないなとアキラは思う。
でもちょっとおなかのあたりがぽっこりしているが、とアキラはリリーを見ながらそんなことを考えていた。
「アキラ君あたしのほうを見てどうしたの? もしかして、その目線からするとちょっと変なこと考えていたんじゃない?」
「いやいやいや。ぜんぜん変なことは考えていないから…
別にリリーのおなかがぽっこりしているとか…、あっ」
「ふーん。ほー。へー。このあたしのおなかを見てそういうこと考えていたんだ…」
リリーはアキラを手でわしづかみにすると、自分のおなかにアキラを手で押し付ける。
「良く見なさい。あたしのおなかがどうぽっこりしているのよ」
アキラはリリーの手によってリリーのおなかに押し付けられている。
アキラは押し付ける力が強いので、両手をリリーのおなかにあてて必死に抵抗しようとする。
アキラの手はリリーのおなかにめりこむが、リリーの力が強いのでぎゅーと押し当てられてしまう。
「くっくるしい…」
リリーがおなかに力を入れたので、それまではめりこんでいたアキラの体がリリーの手とおなかの間に挟まれる。
よけい苦しくなった。アキラは抵抗しようとするが、びくともしない。
「ねぇ。もうアキラお兄ちゃんを許してあげたら?」
とリアちゃんの声がするが、アキラはリリーの押し付ける力によって、呼吸ができなくなっていた。
うーん。だんだん気が遠くなる…
「ああ、そうよね。ってアキラ君? やばっ。あたし押し付けすぎちゃった?」
アキラはぐったりとしている。
リリーはテーブルの上にアキラを置くと、手のひらを使ってあおぐ。
アキラはちょっとすると目を開けてから
「あっ、リリーごめん。もう言わないから…」
「あたしもやりすぎた。ごめん」
「もー。リリーお姉ちゃん。地球人を扱うときは手加減しないとだめだよ。小さいんだから…
でもアキラお兄ちゃんもそんなことを言っちゃだめだよ。デリカシーがないって言われるわよ」
とリアちゃんも言う。
でもリアちゃんは地球人の扱いになれているようだ。
「あたしの小さいころから一緒に過ごしてきたんだもん。もう扱いは覚えたわ」
とリアちゃんは言う。今もリアちゃんは子供だけど小さいころ?
エレーネ星人が地球に来たのは2年前ということになっているから、そのころリアちゃんは9歳ぐらい?
9歳で小さいころとは言わないかもしれないが、リアちゃんにとっての2年は僕達よりも生きている割合からすれば多い。
たぶんそうなんだろうとアキラは思った。
「でも、地球人とエレーネ星人って一緒に生活している人はいないの?」
「うーん。あたし達エレーネ星人と地球人は一緒に過ごすことがあると思うけど、
こういうふうにべったりというのはあまりないわね。
普通に一緒に仕事をしたりするのはあると思うけど。
一緒に暮らしているような例はまだあまり聞かないわね」
とリリーが言う。
でもエレーネ星人は地上に降りる前に、地球人とのふれあい方や、その地域にかかわる言語や習慣の教育を受けるらしいが…。
「さてと。午後からは各種センサーの使い方を覚えましょう」
とリリーが取り出したのはある物体が数個。
「これは?」
とアキラが聞くと、練習用の装置らしい。
「えーと。このミッションを実行するのにいい場所はないかしら」
とリリーはコンソールを使って場所を探しているようだ。
詳細は後でリリーから聞けるだろうとアキラは思った。
「ここがいいわね。でもゲートが近くにないわね。この船で2時間かぁ」
往復で4時間。このミッションをすると、だいぶ時間をとられてしまう。
アキラはふと、リリーが持ってきた数個の道具を思い出した。
たしかツイというのがあったなと思い出したのでリリーに聞いてみた。
「ねぇ。リリーはこの前モニターを頼まれた道具もいくつか持ってきているんだよね?
その中にツイはある?」
「たしかあったはずよ。もしかして帰ってくるときにツイを使って戻ろうというんじゃないわよね。
でも使えるかもしれないわ。使えなかったらそのまま帰ってくればいいんだし…」
とリリーは言って、説明が書いてあるカードを取り出してツイの説明を読む。
物体を取り寄せるとき、普通は手元のツイのボタンを押すと、手元に引き寄せられる。
ただし、設定をしておくと、遠方に置いてあるツイのボタンを押さなくても、
手持ちのツイのボタンを押せば遠方に置いてあるツイの元へ移動することも可能。
その場合は、親のツイがどちらかという設定をしておくこと。
とある。
また、移動させることが出来る物体の大きさと距離については未計測だが、
宇宙船サイズの物までは動かせるらしい、距離も月と地球では実験済みだが、
これまでの道具の特性からかなり遠くまで転送することが可能。
どうやらゲートと同じようなテクノロジーを使っているみたいとある。
「じゃ準備するわね」
とリリーが言ってツイの操作をし始める。
このツイをここに置いておかないといけないんだけどと言いながら、
リリーはコンソールをいじっている。
「ねぇアキラ君お願いがあるんだけど、このツイを地球人用緊急脱出宇宙船の中に置いてきてくれる?」
リリーは手で持っていたツイをアキラの目の前に置く。
リリーが手でつまんでいたツイは小さく見えたが、実際にアキラのサイズと比べるとでかい。
この船にはエレーネ星人用緊急脱出宇宙船と地球人用緊急脱出宇宙船がある。
本体と比べれば小型だが緊急時に使えるらしい。
地球人用のは通常装備されていないのだが、エレーネ星人用の物と比べれば小型なので、
サービスでつけてもらったものだ。
この地球人用脱出宇宙船にツイを乗せて、この場所に置いていこうと言うのだ。
「このツイ重いよ」
とアキラが言うと、リリーは
「あたしは地球人用の宇宙船には入れないじゃない。これはアキラ君の仕事。ツイは丸いからころがしていけばいいでしょう」
と言うので仕方がなくアキラはツイを転がして運ぶことにした。
アキラは手元のカード(いろいろな情報を表示できる)を首からぶら下げていたので、宇宙船の場所もすぐにわかった。
エレーネ星人用の脱出宇宙船の向かい側にあるらしい。
アキラは地球人用の宇宙船の中にツイを置いてから、その場所を離れた。
「じゃああたしが地球人用宇宙船を遠隔操作するから、アキラ君はこの場所へ行く準備をしておいて」
とリリーは宇宙船を置いていくために遠隔操作をする。
アキラは、これから向かう場所の座標をチェックし、目的地の航路をゼスチャーで設定する。
「脱出用宇宙船の排出完了よ。この座標覚えておいてね。後であの宇宙船回収するから」
「うん。わかった。じゃあ行く準備はできたから発進させて良い?」
リリーは良いわよといいながら自分の席に着く。
アキラは船を発進させるゼスチャーをする。
船が動き出してから加速する指示を出す。
「あっすごいすごい。速いわね」
とリアちゃんはコンソールの表示を見ながら言う。
「最新の宇宙船だからね」
とアキラは言う。
もうすぐでスピードはMaxになる。
5450。
あれっMaxは6000ではなかったっけ。
「ああ。これ?。この宇宙船は本来2人用だから、生命維持用にエネルギーを温存しているのよ。
地球人もエレーネ星人一人と換算しているからだと思うわ。
別にリアちゃんは子供だし、アキラ君は地球人だし、エレーネ星人2人としても大丈夫だと思うけど」
ふーん。なら、エレーネ星人一人なら、いや地球人一人ならもっと速く飛ばせるのかなとアキラは思った。
そして2時間後。
「ついたわ」
と言う声にアキラは顔を上げる。
アキラはリアちゃんのおなかの上で、リアちゃんの両手に抱えられながら眠っていたところだ、
この宇宙船に座席は2つしかなくて、1つはリリーが使っている。
もう一つは、地球人用の席を取り付けてあったが、それだとリアちゃんが座れないので、
地球人用の席を取り外してリアちゃんが座っている。
それだとアキラの席がないので、リアちゃんの上で両手に抱えられているというわけだ。
おなかの上だとやわらかくて、あったかくて心地が良かったので、アキラはすぐに眠りに落ちていった。
リアちゃんもそんなアキラを見ているうちに寝てしまったようだ。
アキラはコンソールを見ると、外には無数の小惑星が見える。
何するんだろう。またこの中を飛び回れというんじゃないよね。
とアキラはリリーの方を見る。
「じゃあミッションを説明するわね。この小惑星の中に、いくつか本物の小惑星とは違う偽物の小惑星がまぎれこんでいるの。
この偽物をこの船のセンサーや装備を使って見つけ出すのよ。
いくつか小惑星は破壊してもいいけど、無数にエネルギーがあるわけじゃないから気をつけてね」
ということらしい。
違うものと言っても、どれも同じに見える。
「偽物の小惑星は何なの?」
「さっき見せた物体。あれは小惑星に偽装する装置。
光学カメラから見ると、全く小惑星と同じに見えるけど、他のセンサーを使えば反応がないからわかると思うわ。
あたしは手伝わないからあとはよろしくね」
と言って、保冷庫から見覚えのある缶を取り出した。
「それって缶ビールじゃないか!!」
「あはっばれた? 前にモニターして何ケースかもらったのよ。宇宙の景色を見ながらのビールはどんなものかなと思って
持ってきたのよ」
「リリーはまだ大人じゃないだろう。飲んでいいの?」
「あらっあたしはいいのよ。地球の法律には引っかからないし…」
といいながらぷしゅっつとプルタブを引いて、ごくごくと飲みだした。
「かー。やっぱりこの最初の一口がいいのよね。なにかつまむものは…」
あーあ。ここに酔っ払いが一人いますよ。
もうしょうがないなあと思っていると
「あーあたしもそれ飲んでみたい」
とリアちゃんは言う。
「リアちゃんはまだだめ」
とアキラとリリーが同時に言う。
「リアちゃんはこっち」
リリーが取り出してきたものを見ると甘酒のようだ。
甘酒といっても酒を子供に出すとは…。
リアちゃんはそれを受け取って飲みだした。
酒盛りが始まったのかとアキラは思う。
でも、アキラはやらないといけないことがある。
「えーと、光学カメラの他には温度センサー、音波センサー、空間位相差センサー、磁場センサーとかいろいろあるな。
じゃあ相手は小惑星だから…」
とアキラは考えた。
さっき、リリーから温度や磁場、物質を構成しているスペクトル等は偽装をしているみたいだから、他には…
空間位相差センサーはなんだろうとアキラは思った。
ゼスチャーを使ってそのセンサーを選択してみると、物体の質量が重くなると空間がゆがむので、
そのゆがみを計測するセンサーのようだ。
小惑星の大きさとさっきの物体を見比べてみると大きさは明らかに違う。
そうだ、この空間位相差センサーを使ってみよう。
まずは、光学センサーであたりの小惑星の位置を記録してから、
この空間位相差センサーであたりをサーチしてみる。
すると、小惑星の大きさ毎に色の濃淡でゆがみを示すことに成功した。
そこで、改めて観測してみると、いくつか光学センサーには反応しているのに
空間のゆがみがほとんどない箇所が見つかった。
その数は5個。
あれっさっきリリーは7個って言っていなかったっけ。
アキラはリリーの方を見ると、もうビールを4缶ほど開けている。
そのビール缶は地球人から見ると背丈ぐらいある。いったい何リットルあるんだろうとアキラは思った。
アキラはリアちゃんのほうを見る。
リアちゃんも甘酒を3缶ほど開けている。
アキラは、リアちゃんのほうをみて、うーん大丈夫かな。
でも甘酒だから…と思っているとなんかリアちゃんの顔が赤い。
ん?と思って甘酒の表示を見ると、「子供には飲ませないで下さい」
とある。
字が大きいので良く見えるから表示を読みとる。
その下にはアルコール度数3%とある。
「ちょっとリリー、その甘酒!」
「んあ。アキラ君調子はどう? あたしは絶好調よ。でどうしたの?」
「どうもこうもないよ。その甘酒。リアちゃんに飲ませて良かったの?」
とアキラは聞く。
「ああ。これ?。えーと。
あっやばっ間違えた。
これは特別にアルコール度数を高くしてもらった甘酒だわ。
もしかしてリアちゃん全部飲んじゃった?」
「あー。なんだかこれを飲んだ後、体が暑いの。これ普通の甘酒じゃないの?」
「ごめんあたし間違えた。リアちゃん大丈夫?」
「うーん。大丈夫。らいじょうぶ。ねぇアキラお兄ちゃん。ここで服脱いでもいいかなぁ?」
とリアちゃんが言う。
お酒のせいで体がほてっているようだ。
「だめだよ。こんなところで服を脱いじゃ。ほらっ船内温度を調節するから我慢してね」
「服を脱いじゃだめなの?。もしかしてアキラお兄ちゃんはあたしの下着姿を見たくないから?」
「なんでそうなるんだよ」
とアキラは言って、そんなことを子供が言うんじゃありませんと怒っておく。
「もうリアは大人だよぉ。ほらっ前よりは成長しているんだよ」
とリアちゃんは服を脱ごうとする。
「ほらっだめよ。こんな所で服を脱ごうとしたら…。あたしのところへきなさい。これあげるから」
と言って、リリーはとっておきのアイスクリームを取り出す。
「あー。アイス。食べる」
とリアちゃんはアイスを手に取る。
うーん。リアちゃんには今後、甘酒を飲ませないようにしないとなとアキラは思った。
リアちゃんが大人しくなったので、アキラは再びコンソールの表示に向き合う。
やっぱり、光学センサーには反応しているが、空間位相差センサーには反応しない物がある。
アキラはその場所に船を近づけていくと、肉眼で小惑星がないことが確認できた。
さらにその場所には、あのリリーが手に持っていた装置が漂っているのが見えた。
アキラはリリーにそのことを言おうとしたが、リリーは顔が少し赤くなっている。
「あらっ。見つけたのぉ。よくやった。アキラ君。後であたしがパフパフしてあげる。ひっく」
という返答が帰ってきた。酔っ払っているなとアキラは思った。
その横でリアちゃんがすーすーと寝息を立てている。
寝ちゃったかとアキラは思った。
じゃあリリーはあまりあてにならないようだからとアキラは考えて、
船のヘルプシステムを呼び出すことにした。
あの物体を船内に取り込むにはというのを調べた。
どうやらドックの操作と、重力制御のついたアームを使えば取り込めることがわかった。
アキラは操作をヘルプシステムから習得するとおそるおそる取り込みを行ってみた。
目の前には立体映像で必要なゼスチャーが次々と表示されるので、とても操作がしやすかった。
まずは一体の取り込み完了。
アキラはやったと思った。
リリーのほうを見ると、リリーも、うとうとと船をこいでいる。
あの二人はほっておくほうがいいなとアキラは思った。

この船のヘルプシステムと立体映像によるナビが使いやすいので、
使いこなすのにそんなに時間がかからないような気がした。
アキラはゼスチャーを使って船を移動させて全部で5体の物体を回収することに成功した。
でもあと2体残っているはず。
空間位相差センサーも偽装するような物体があるんじゃないかとアキラが考えていると、
光学センサーに表示されている小惑星の動きに目が止まった。
表示にはこれまで数時間の動きがトレースできるようなボタンが浮かんでいる。
これか? とアキラは思って、過去3時間の小惑星の動きをトレースしてみることにした。
これらの小惑星郡はある一定の方向に向かって少しずつ移動しているように見える。
ただし、その中で3個は移動のしかたが違う。
3個あるけど近くに行けばわかるだろうとアキラは思ったので、船を移動させることにした。
肉眼で見ても、あれは小惑星だよなと思う物が目の前にあった。
あれは違うのかなとアキラは考えた。
別の小惑星はここから数分のところにある。
アキラはまずそっちを先に調べてみることにした。
「あった」
肉眼で例の物体が見える。物体の色が違うなとアキラは思った。
偽装の種類に応じて色分けしてあるんだろうとアキラは考えた。
そして、もう一つの物体も見つけることができたので、計7個全て見つけることができた。
アキラは時間を確認すると、もう夜の6時だ。
アキラはリリーを起こそうと、リリーに声をかける。
「すーすー」
「すーすー」
2人とも起きそうにない。
うーんどうしようかとアキラが考えていると、帰りはツイを使ってもとのゲート近くまで戻ることを考えていたことを思い出して
アキラはツイを探すことにした。
「あった」
宇宙船の床の上。
でもそれは、リリーとリアちゃんの体の間に落ちている。
しかも、隙間はそんなにない。
もし、ツイを取ろうとしたときに2人の体が動いたら危険な位置だ。
寝ているから急には動かないと思うけど、意識がないから潰されるかもと思った。
「う、うーん」
とそのときリリーが動いて、腕が床の上に落ちた。
どすんという音がする。
うー。腕一本でもあんな音がするんだ。
挟まれたりしないよなとアキラは思う。
リアちゃんのほうを見ると、リアちゃんはリリーの肩に頭を乗せている。
すーすーと寝息が聞こえてきて、とても気持ちがよさそうだ。

まずは、リリーの足によってツイに至る経路がふさがれているので、リリーの足首の上を上って
反対側へ出なければいけない。
アキラはリリーの足首の上に腹這いで乗っかってから、反対側へ降りる。
そして、リリーの足もう一本も同じようにして越える。
ふー。あとは、リリーとリアちゃんのお尻の間に落ちているツイを引っ張り出して、
そのツイのボタンを押すだけだ。
アキラは、頭上7〜10メートルぐらいの高さに思える、2人の顔を見ながら、そろりそろりと
ツイの方に近づく。
うごいたりしないよな。
左右に2人の太股の壁が迫る。
リリーの太ももの上面はアキラの胸よりも高い位置にある。
リアちゃんの太ももはそれほどではないが、壁のようにそそり立っている。
うごかないよなとアキラは思いながら、そーっと歩く。
「んーん」
と言ってリリーの足が動く。
げっアキラはリリーの足が動くのを見た。
アキラはリリーの太ももとリアちゃんの太ももの間に挟まれてしまう。
「んー。くそっ。なんで動くんだよ。でも…んーしょ。全く動かない」
リリーの足はシャチか鯨の胴体かと思うほど太くて、どっしりとしていて動かない。
幸い。体がちょっと挟まっただけだ。
アキラは両手を踏ん張ってリリーの足を動かそうとする。
リリーの足は女の子の足だけど、すこし柔らかい。押すと弾力があり暖かい。
押しても少しへこむだけで全く動く気配がない。
くそっ。じゃリアちゃんの足なら動くかもと思い、
アキラはリアちゃんの太ももを押してみる。
こっちの足も押すと弾力があり、柔らかそうだ。
でもアキラの体のサイズと比べてとても太いので動きそうもない。
「はあはあ」
アキラは上のほうに脱出を試みる。
両手を使って体を持ち上げて、リリーとリアちゃんの太ももの上に降りようとするが
高さがあるので、なかなか脱出できない。
「うーん」
と言って、リアちゃんが足を持ち上げて反対側へ倒れ込む。
よーしチャンスだ。
今のうちに…
とアキラはリアちゃんのお尻の下にあるツイをつかんで移動させようとする。
いったん起こして、ころがしたほうがいいかもと思っていると、
なんかいやな予感がする。
アキラは上を見上げると、リアちゃんのお尻の下にいるのがわかった。
「げっ今声が聞こえたような…」
とアキラが息をころしていると…
リアちゃんのお尻がだんだんと下がってくるのが見えた。
「やばっ」
アキラはツイの横に伏せる。
どすん。
とリアちゃんが寝返りを打ったらしく、リアちゃんはまたリリーにもたれかかる。
その影響で、ツイはリアちゃんのお尻の下に敷かれる。
アキラはツイの横にいたので、どうにか直接お尻の下敷きにならないですんだ。
でも真上にリアちゃんのお尻があり、ツイの上に乗っかっているといっても
やわらかいお尻はアキラの体の上にも乗ってしまっている。
リアちゃんはさらに体を動かして重心をツイの方に乗せる。
かちっと音がして、リアちゃんのお尻によって、ツイのボタンが押される。
そのあと、リアちゃんはお尻の下のツイの感触がいたかったのか、ちょっと体をずらす。
アキラもリアちゃんのお尻によって押さえつけられていたが、ようやくはい出すことができた。
「ぐはっこのまま下敷きになるかと思った。
でもツイのスイッチは押されたみたいだ…
コンソールに戻って確認しよう…」
とアキラはリリーとリアちゃんの太ももによる壁の間を歩いてようやく安全地帯へと出ることができた。
そのあと、アキラはコンソールへ登るためのはしごを上に登る。
リリーが起きていればめんどくさいことしないでもいいんだけど…
座標を確認すると、地球人用脱出宇宙船を置いてきた座標へと戻っていることがわかった。
これで、ツイはある程度距離が離れていても、また宇宙船ごと移動するのにも使うことができるというのが実証された。
あとは宇宙船を回収するんだけど…
とアキラは物体を回収するのと同じ要領で宇宙船も回収する。
さて、必要な任務は済んだのでゲートを通って帰ろうとするが、
帰りのゲートの識別番号をアキラは知らない。
「ねぇ。リリー。リリーったら」
アキラはリリーに声をかけた。
すーすー。
まだ起きそうもない。
うーんどうしたものか。
間違ったらとんでもない場所に出てしまいそうだし…。
とりあえず、コンソールをいじってみようとアキラは考えた。
アキラはゼスチャーでゲートの絵を選択すると識別番号の入力画面に
行き先が2つ表示されているのに気がついた。
うーんどうすればいいんだろう…。
「ふぁーあよく寝た。ねぇアキラ君。ミッションはどんな感じ?」
そのとき、目を覚ましたリリーが声をかけてきた。
「リリーやっと起きたんだね。もうとっくに小惑星のミッションは終わったよ。
計7個の物体も回収したし…、
それにツイを使って元に戻ったところだよ」
「あらっなかなかやるわねぇ。えらいえらい。で、今は何をしているの?」
「ちょうど困っていたんだ。もう時間も遅いからゲートを通って地球まで帰ろうと思っているんだけど、
帰りのゲートの識別番号がわからなくて…」
とアキラはリリーにどうすればいいかを尋ねた。
「えーと。教えていなかったわね。
そのコンソールの右上に矢印がくるっと元のほうに戻っている絵があるから、
それを選択すると今まで通ってきたゲートの一覧が出る。
その中から選べばいいのよ」
なあんだ。そうだったのか。
アキラは念のため尋ねた。
「ここに2つだけ。ゲートの識別番号みたいなものが表示されているけど…これは?」
「ああ。これ? これはこのゲートに対して前のゲートと、次のゲートの識別番号よ。
もしかして、これが帰りのゲートの識別番号だと思った?」
「うん。リリーがちょうど起きてくれて助かったよ」
「うーん。ゲートの識別番号は注意しないと危ないわよ。
ちょっと間違うと、とんでもない場所に出てしまうから…
それに、帰りのゲートの番号がわからなくなったら帰れないからね」
とリリーの言葉を聞いて、むやみにゲートは使わないほうがいいかなとアキラは思った。
「アキラ君疲れたでしょう。帰りはあたしが操縦するから、
リアちゃんの横で休んでいたら?」
とリリーが言って、アキラをリアちゃんの横に下ろす。
さっきのこともあるし、寝返りをうったら潰されないかなとちょっと心配になった。
でも疲れていたのと、リリーが起きていてこちらのほうを見てくれているだろうと思ったので、
アキラはリアちゃんの横で少し休むことにした。

その後、ゲートから出た後、地球の衛星軌道上にあるマクドナルドのドライブスルーでハンバーガーを人数分購入し、
施設へと戻った。
衛星軌道上のマクドナルドは、エレーネ星人の要望により実現したものだ。
案の定ハンバーガーのサイズはエレーネ星人サイズの物しか扱っていないが、
たまに地球人も購入するという。
おそらくグループで注文してみんなで一緒に食べるんだろうとのことだ。
なにせ、普通サイズのハンバーガー1000個分とはいかないが、
重さ56kgのハンバーガー。地球人にとって途方もない量だ。
1000倍はさすがに無理(パンが柔らかいので自重で崩壊するようだ)なので、これまで作ったことがある最大のサイズに近いもの
での販売となったようだ。
エレーネ星人にとってはこれでも小ぶりなので一人で数個購入していくという。
リリーは4つ購入しているし、リアちゃんは2つ購入している。
アキラはリリーの4個のハンバーガーから少しだけ分けてもらうことにした。
味は普通サイズのハンバーガーと変わらない。このサイズだと調理するのに大変ではないのかなと思うが
飛ぶように売れているので問題ないようだ。

リリーはほぼ4個のハンバーガーを食してから、食後のアイスを食べている。
リアちゃんも2個のハンバーガーを完食。
うわぁリアちゃんでさえ、僕2人分に等しい重さのハンバーガーを食べちゃうとは…
やっぱり体の大きさが違うなあとアキラは思った。
僕なんかエレーネ星人にかかれば、簡単に食べられてしまうようなサイズなんだなと思った。

「ねぇリアちゃん。明日からあたし達はレースで留守にするんだけど。残念ながら一緒に連れて行ってあげることができないのよ、
それでどうするのかなと思って…」
と食後のアイスクリームを食べながら、リリーはリアちゃんに明日以降の予定を聞く。
「うーんと。ママが帰ってくる予定が延びそうだから、帰らずにレースを観戦していたいと思うんだけど…」
それならとリリーは
「それじゃ、明日はあたしのお父さんに迎えに来てもらって、あたしのお父さんと2人でレースを観戦してみてはどう?。
それで良ければあたしが連絡をしておくから…」
リアちゃんは、本当? ありがとう。とお礼を言って明日、リリーのお父さんに迎えに来てもらうことにした。
リアちゃんもうれしそうだ。
「明日。レースの開催時間は日本時間で10時だから、もうそろそろ寝ましょう」
とリリーが言ったので、今日は早めに休むことにした。
一通りの準備はしてある。

「おやすみー」
「お休み」
「お休みなさい」
と3人は床についた。