そして朝。
一番最初に目を覚ましたのはリアちゃんだ。
リアちゃんは、部屋の明かりをつけてからリリーに声をかけた。
「リリーお姉ちゃん。朝だよ」
う、うーん。とリリーは目を覚ます。
「あっおはようリアちゃん。良く眠れた?」
「うん」
リアちゃんは元気だ。
アキラはまだいつものように寝ている。
「うーん。なかなかアキラ君は起きないのよね。今日はどうしようかしら…」
とリリーは起こす方法を考える。
「今日はあたしがアキラお兄ちゃんを起こしてみようと思うの。
ねぇいいでしょう?」
とリアちゃんが言う。

「ねぇ。アキラお兄ちゃん朝ですよぉ」
ゆさゆさ。
「お兄ちゃん?」
ゆさゆさ。
リアちゃんは指をアキラの体にそえて、ゆさゆさとゆする。
「これじゃだめよ。いつも寝起きが悪いんだから…」
とリリーが言う。
「これは一応声をかけたの。ねぇリリーお姉ちゃん。化粧に使うものか、掃除に使う物か何でも良いけど、
刷毛みたいなものがある? ふさふさしたものがいいと思うんだけど…」
「うーん。たしか机の上にあったはずだけど…取ってくるわね」
とリリーが机の上を掃除するための羽ほうきを持ってきた。
「あはっこれでいっぱつだと思うわ…
それっこしょこしょ、こしょこしょ」
リアちゃんは、アキラがくるまっているタオルを少しめくって、
アキラの足の裏に羽ほうきをあてて、くすぐる。

「ん?、んはははっ。ひっつ。ひゃはははは…、なんだよぉ。ひょっはははは」
とアキラは足の裏のくすぐったさに目を覚ます。

「あっ起きた」
リリーがアキラに声をかける。
「ひゃっははは。くすぐったい。もうリリーなにやっているんだよって、リアちゃん?」
アキラは、足の裏をくすぐっていた犯人がリアちゃんだと知って声をかける。
「ごめんね。こうしないとすぐに起きないと思ったから…」
「わかった。わかったから。ひゃはははっつもうやめて…」
とアキラはリアちゃんに起きたからもういいと講義する。

「あらっ簡単ね。こうすればアキラ君はすぐに起きるんだ。これからこういうふうにしようっと」
いつもこういう起こされ方するのもいやなので、アキラは講義する。
「あなたの寝起きが悪いからしょうがないでしょう?
1発で起きなかったらこうするからね…」
とリリーが言う。
「努力するよ…」
とアキラはリリーに返答した。
うーんでも朝1発で起きる自信がないなとアキラは思った。

「あー。来た来た。お父さんこっちよ」
と迎えに来たリリーのお父さんを出迎える。
「おっこの子がリアちゃんだね。こんにちわ」
リアちゃんはお辞儀をして、
「おじ様こんにちわ。よろしくおねがいします」
「おっ礼儀が正しいねぇ。リリーが小さいころはおてんばでね…」
とリリーのお父さんが言い出したので、リリーはそんなことは言わないでと講義する。
「リリー達が乗る船はこれかい? なかなかかっこいいじゃないか?
リリーならもう少しかわいい船を選ぶと思ったんだけど…」
「あーこれ? 一緒に搭乗する地球人の意見を取り入れてこうなったの…」
「ほう、リリーが他人の意見を受け入れるとは…
さては惚れて…」
「ん、んーん。ごほんごほん。それじゃあたし行くから…」
とリリーは途中で咳払いをして、リリーお父さんの発言をさえぎる。
「じゃ、頑張ってな。危険だと感じたら、無理はしないように…」
とリリーお父さんとリアちゃんは宇宙船に乗り込むために去っていった。
「じゃあたしたちも行きましょう」
とリリーは自分の宇宙船に向かって歩き出した。

「みなさんおはようございます。これから我々ルサーラが開催するレースに必要となる、
ゲートのあて先座標をみなさんの船へ送信します。
あて先の座標とともに、みなさんがクリアすべきミッションの概要を書いたファイルも添付されていると思います。
レースの期日となる3日後には、与えられたミッションをクリアし、この場所に帰還していることが入賞の条件となります。
それでは30分後にゲートの使用が可能になりますので、ゲートが開いたらみなさんは速やかに移動を開始してください」

「さぁやるわよ。準備いいアキラ君?」
リリーは元気だ。
アキラは地球人用の操縦席についている。
「じゃあ、最初のゲートオープンとあて先座標への移動はアキラ君お願いね。
あたしはこの船に付く記録船の処理をするから…」
「了解」
アキラはルサーラから送られてきたファイルに書いてある座標と、ミッションの目的をコンソールへと表示する。
そして必要な処理をアキラはこなす。
どうやら今回のルサーラのレースに参加するチーム数は20。
日本からは3チーム参加するという。
他の国からも参加するチームがいるが、現地時間の10時に合わせてレースが開始される。
そのため日本以外の国から参加したチームはもうすでに出発済みのものもある。
チーム毎にミッションが違うので、あて先ゲートの座標もそれぞれ異なる。

レース中の記録や中継は記録船が行い星間通信で中継される。
「ゲートが開いたわね。じゃあレッツゴー」
とリリーが元気良く声をあげる。
「頑張ろう。リリー。ゲートに入るよ…」
アキラはゲートに向けて船を進める。

ゲートをくぐった先には地球から見える星空と異なる景色が見える。
遠くに銀河が2個。
近くには恒星と惑星が見える。
コンソールに表示されている恒星系を見ると、
恒星が2つ2重になっていて、その周りを惑星が回っているようだ。
「うわぁ恒星が2つあるよ。こんな恒星系もあるんだ…」
とアキラは声を上げる。
「そんなにめずらしい物でもないわよ。こういう星系にも生命がいることもあるのよ。
調べてみたところこの星系には生命の痕跡はないけどね…」
とリリーは解説をする。
「えーとミッションの内容は3つ。1番目はこれね…」
とリリーはミッションの内容を読み上げる。
この惑星に小惑星郡が近づいており、このままでは衝突コースになっている。
そのため、第1のミッションとしては小惑星郡の軌道をそらせて惑星との衝突を回避すること、
なお小惑星郡の数は130個。その全ての軌道をそらす必要がある。
タイムリミットは今から6時間後となる。
回避方法に制限はないため手段は問わない。
なお、ミッションに失敗しても対称の惑星には生命が存在しないため影響はない。
とのことだ。
「130個? めんどくさいわね。アキラ君全部お願いね!!」
「えー。リリーも一緒に考えてよ…」
リリーは今回のミッションをアキラに押し付ける気だ。
「次のミッションはリリーがやるんだよ」
とアキラは言って、コンソールを操作する。
まずは小惑星郡を調べるか…。
小惑星郡の数は指令の通り130個。それぞれの大きさは直径10数メートルの物から10kmほどの物までさまざま。
ほとんどの小惑星は直径1km未満の物。それより大きいのは7個だ。
まずは細かい物から片付けていくかと考える。
小惑星郡は非常にゆっくり移動している。こっちから出向いて行って小惑星郡の軌道を変えたほうがよさそうだ。
「まずはこっちから小惑星郡の方へ向かうことにするよ。じゃあこの船のスピードを上げるから…」
とアキラはリリーに報告する。
リリーは自分の席に座って、ハーゲンダッツのアイスクリームを食べながら
「じゃあ出発ー!!」
と言う。
アキラはため息をつきながら、船を加速するゼスチャーをする。
船は加速する。5800、5900、6000、6100、6200...6900。
あれ?この船6000までじゃなかったっけ?
「ねえリリー? 6900までスピードが出ているんだけど…」
「ああ。これ? 今朝あたしのお父さんに調整の方法を教えてもらって、さっきエレーネ星人1人、地球人1人の設定にしたのよ。
アキラ君はあたしと比べてちっこいからその分生命維持や重量が軽くなった分スピードのリミットがゆるくなったのよね」
「ふーんそうなんだ。じゃリリーの体重がもう少し軽ければスピードは7000までいくかもね…」
「なんですって。このあたしが重いって言うわけ?
ふーん。じゃアキラ君の分の酸素をカットしちゃおうかな。
それとも、この惑星にアキラ君を置いていけば、帰りはスピードが7000行くかもね。試してみる?」
「それはやだよ。ごめんごめん。そんなことより、もう少しで小惑星郡に近づくからスピードを落とすね」
とアキラは話題を切り替える。
リリーは少しぷんぷんしながら、もう1つのアイスクリームを食べようと手を伸ばすがやめたようだ。
リリーも気にしているのかなとアキラは思った。
でもリリーの前にころがっている袋を見てその思いをアキラは撤回した。
なにせもうすでに5個のアイスの袋が転がっていたからだ。
アキラはリリーのほうから目をそらして、目の前のコンソールを見ることにした。
アキラはこの船に装備されているレーザーでまずは手じかの小惑星を打つかなと思った。
「なにやっているのよ。だめよ。レーザーで打ったら破片が増えるじゃない。
消滅するわけじゃないんだから…」
と言うリリーの声を聞いて、そうなの? とリリーに問う。
「しょうがないわね。アキラ君あたしが手伝ってあげる。
一番良いのは斥力場発生装置を使うのよ。
船は小惑星帯や彗星のかけらが多い場所を通ることがあるのよ。
そんなときはこの斥力場発生装置を船の周りに展開させて、
船とこまかい物体の衝突を避けるようにしながら進むの。
で、この船のエネルギーを一時的に斥力場発生装置に送れば結構出力を出せるはずよ。
そうなれば細かい小惑星ならはじき飛ばせるはずよ」
とリリーは言う。
「操作方法はヘルプを見ながらやれば出来るはずだから…」
とリリーは言う。
アキラは、ヘルプシステムを呼び出すと、目の前に立体映像と、
機能一覧がコンソールに表示される。
「これか? 斥力場発生装置の制御。じゃあエネルギーを斥力場発生装置に送り込むには…」
と言いながら操作方法を調べる。
どうやらエネルギーの流れを示す図をコンソールに呼び出して
エネルギーの流れをゼスチャーでつかんで操作することで、
斥力場発生装置のほうにエネルギーが行くようにできることがわかった。
アキラがゼスチャーで操作すると、船内の明かりが少し暗くなり
斥力場発生装置と生命維持装置以外のエネルギーは最小限にするため、カットしますとの表示が出る。
小惑星郡はもう少しでこの船に到達する。
おっコンソールの表示を見ると、こまかい小惑星郡のいくつかの塊は力場に遮られて
軌道を横の方へとそらしていく。
でも大きい小惑星の軌道はあまり変化せず、そのまま進んでいる。
見るとこの船の座標も小惑星に押されたため移動しているようだ。
1時間ぐらいすると、全ての小惑星は横へ軌道がそれる。
大きい小惑星はそのままこの船を通り過ぎていった。
「うーん。あの惑星に衝突する可能性がある小惑星はあと23個か。
残りの小惑星は結構大きいなぁ。レーザーで破壊するかぁ」
「この船のエネルギー量はさっきの使用で20%少なくなったわ。レーザーは使うべきではないわね。
アキラ君。このフィールド反転装置を使ってみたら?」
これは比較的大きな物体が船に衝突しそうなとき、
フィールド反転装置を船の前方に設置しておくことによって
力場に触れた物体の移動方向を逆に向けることができるものだという。
けど10個しかない。アキラはコンソールに表示されている残り23個の小惑星の位置を再確認する。
大きい小惑星から片付けることにするとしてどうするか。
アキラはコンソールのナビゲーター指示により、設置位置を工夫しそれぞれの反転装置を共鳴させれば
19個の小惑星が対処できることが表示されているのに気がついた。
結構いい制御コンピューターが搭載されているのでそういう計算も正確で速い。
アキラは制御コンピューターが指示するとおり反転装置を設置して、
少し離れた位置から見守ることにした。
「おっふれた小惑星の軌道が反転しているよ。すごいなぁ。
このまま行けばだいぶ処理できるんじゃないかな」
どうやら、18個は軌道が反転し違う方向へと進み始めた。
でも1個は後続の小惑星にぶつかって破片は反転装置をすり抜けてしまった。
「うーん。こんなもんじゃない? でも一番最初のミッションも残りあと2時間ね」
「残りの小惑星は5個、あの破片は小さいからあれを片付けたいんだけど…なにかないかな」
と言いながらあたりをみまわす。
アキラはリリーの姿が目に入った。
自分もリリーぐらい大きければ、あの破片を手でつかんでよいしょっと
横にほうり投げれるんだろうかとふと思った。
あの破片は18メートルぐらい。
リリーの身長はたしか16メートルぐらいだったから、リリーならそんなことも可能なのかな
とアキラは考えて、アキラはリリーのほうを見る。
「リリーの身長はたしか16メートル以上あったよね?」
「なによぉ。まさか、あの破片をあたしに処理させようと言うんじゃないわよね?
あの破片が18メートルだから?
無理よ。慣性の法則を忘れたの?
あたしの質量のほうが"絶対的に軽い"んだから
あたしが動かそうとしても反対にあたしのほうが移動しちゃうわよ」
「そんなに軽いを強調しなくても…。うーんなにかあるかな?
そういえば、あの道具はまだ積んであったよね? その中にエルはあったっけ?」
「ああそうね。解決方法の手段は問わないとあるから使ってもいいわよね」
アキラはリリーからエルを渡される。
そのエルは大きい。
アキラは両手で抱えるようにして、エルが倒れないように支える。
「どーれ。アキラ君でもあの小惑星の破片が動かせるかなぁ?
操作する人の質量に比例するみたいだから、ちょうどいいわね」
と言いながらリリーはコンソールをいじる。
「えーとあの破片の大きさは…
一番長いところで18メートル、他は9メートルぐらいね。物体の総重量はこのぐらいね」
と言いながらリリーはコンソールを操作する。
「じゃアキラ君動かしてみて」
とリリーが言う。
アキラは動かそうとするとエルにかかる力が変わり、動かすのに力がいる。
けれど、ちょっとずつ動きそうだ。
「んーん。もうちょっとで動きそうなんだけど。んーん。
あっ動いた。よーし」
とアキラが力を入れると、その破片の軌道が変化しだした。
「アキラ君頑張ったわね。
えーと計算すると操作する人の質量のざっと30000倍の物を動かせそうね。
じゃあちょっと貸して」
とリリーが言ってエルを操作し始めた。
リリーが動かすとあっさりと小惑星の軌道位置が大きく変化した。
「なんだよー最初からリリーがやればよかったのに…」
とアキラはリリーに文句を言う。
「なによぉ。後4個残っているのよ。これはモニターのためでもあるの…
残りの小惑星も片付けちゃいましょう」
とリリーはアキラに移動の指示を出す。
「あの大きさじゃアキラ君がエルを使うのは絶対無理ね」
とリリーは言う。
直径が1kmほどある小惑星が4つ軌道を進んでいる。
あれじゃリリーでもだめなのかなとアキラは思ったけど。
「ねぇ試しにやってみてよ」
とリリーに声をかけてみる。
「しょうがないわねぇ。このリリーがやってみようじゃないの」
とリリーは足を広げて小惑星の一番小さそうなものに照準を合わせる。
「くー。動かないわね。でも全く動かないというわけでもないわ」
「本当? リリーすごい。頑張れー。リリー」
「じゃあこれなら…」
とリリーは背中に付けているリブのコントローラーの蓋を開けてスイッチを反転させる。
「くー。けっこうきついわね。でもこうすれば効果があるかも…」
とリブの動きを反転させて目盛りをちょっとずつまわす。
どうやらいつもリブは重量軽減の目的で使っているが、今回は装置の作用を逆にしているみたいだ。
リリーの表情を見ると結構辛そうだ。
リリーの二の腕、足をみると結構ぷるぷる震えている。
重量に耐えるので精一杯のようだ。
でもその効果はあり、小惑星の軌道の位置がちょっとずつ移動し始める。
「ふー。これで良し。はーはー。後残り3個ね」
と言ってリリーは残り3個の小惑星に向けてエルを構える。
「リリーお疲れさん」
とアキラは声をかける。
リリーのおかげで3個の小惑星を対処することは出来た。
コンソールを確認すると、目的の惑星と衝突コースの物体は存在しない。
リリーは手を上げて、アキラの言葉に応答すると呼吸を整える。
「やっと終わったわね。でも残りの3個の小惑星は見かけによらず動かしやすかったわね。
中身が空洞だったのかしら…」
リリーはそう言ってから、1番目のミッションが終了したことを記録船に連絡する。
記録船は無人だがきちんと応答が返ってくる。
「次のミッションは違う恒星系にあるのね…
じゃあアキラ君。また移動はお願い…
あたしは少し休むわ」
とリリーが言って、奥のリリー用のルームに向かって歩き出した。
「うんわかった。まかせてよ」
とアキラは応答してから、ゲートを開くための準備をする。
識別番号はすでに入力済みだ。
アキラはゲートが開いてから船をゲートに向かって進めた。