ゲートが開くと次の恒星系が目の前に広がる。
記録船も一緒にゲートから出てきた。

アキラは2番目のミッションに目を通す。
「えーと。ゲートの修復とあるけど…」
アキラはミッションに目を通す。
ゲートは6個の装置を使って構成される。
3個の装置はこのゲートより前に設置されたゲートとの通信、およびゲートを開くのに使われる。
残り3個の装置はこのゲートより後に設置するゲートとの通信とゲートを開くのに使われる。
そして、このゲートは故障しており、このゲートから見て、このゲートより前に設置されたゲートとの通信は不能となっている。
ただし、3番目のミッションをクリアするためには、このゲートを修復する必要があるという。
「げっなんだよ。どうすればいいのよ。でもまだ先があるな…」
とアキラは言いながら目を通す。
このゲートは4個の装置が稼動中である。
残り2個の装置は故障しているため、交換用装置に置き換える必要がある。
交換用装置が入っているカプセルは不慮の事故によりそれぞれ違う方向へと移動中である。
2番目のミッションは交換用部品が入っているカプセルを見つけ出し、所定の場所へ設置することとある。
ファイルには交換用部品が入っているカプセルの詳細なデータが添付されている。
「なんだよ。まずはカプセルを探さないといけないのか…」
アキラはコンソールを操作して、物体検索の絵を選択しカプセルを検索してみることにした。
計算結果を出すためには3時間ほどこの船を止めて、あたりの物体をサーチしないといけないらしい。
じゃあ今のうちに休んでおいたほうがいいなとアキラは思い、自分の操縦席の背もたれを少し倒して
一眠りすることにした。

ぴっぴぴー。ぴっぴぴー。ぴっぴぴー。
「うーん」
ぴっぴぴー。ぴっぴぴー。ぴっぴぴー。
「ん。あアラームが鳴っている。ひょっとして計算が終わったのかな…」
アキラは軽くうとうととしていたが、アラームの音に目を覚ます。
アキラは目をこすってから、
「あっこれだ、レーダーからするとカプセルに一致するな。
結構遠くまで離れてしまっているけど、いそげば間に合いそう。
じゃさっそく移動するかな…」
アキラはゼスチャーで船を加速させる指示をだす。
4200、5000、5700、6200、6999。
また最高速度を更新した。
うーん。さっきリリーはリブを使っていたよなぁ。
すると、リブでリリー自身の重量緩和装置の目盛りを操作したのかなぁ、それで軽くなったのかとアキラは考えた。
まぁいいやちょうど速度も速いし目的地まで到達する時間も稼げるし…。
アキラは到達予定の時間は今から8時間後になることをコンソールの表示から知った。
そういえば、記録船はきちんとついてきているんだろうかとアキラは心配になった。
コンソールの表示を見ると、記録船はこの船の底の位置にくっつくような形で追ってきていることがわかった。
まるでコバンザメのようだとアキラは思った。
アキラは操縦を自動にゼスチャーで切り替えてから、自分のルーム(リリーの部屋の隣にある)に
戻ってきちんと休むことにした。
この船のコックピットの明かりを暗くしてからルームに入る。
廊下はエレーネ星人サイズだが、ルームの中は地球人サイズだ。
こうしてみると、今までエレーネ星人サイズの建物の中ばかりにいたから部屋が狭く感じる。
物も小さく見える。
でもこれが普通サイズなんだなぁとアキラは考えた。
すっかりエレーネ星人と暮らすことに慣れてしまったとアキラは思った。
この世界もチャンスシステムによって叶えられたものなんだよなとアキラは回想する。
そういえば、リリーは何をお願いしたんだろうとアキラは思い出した。
自分がまだナビ状態であることを考えると、リリーの分の『一生に一度のチャンス』の願いは継続中だと思うんだけど
とアキラは考えた。
それに、なんでリアちゃんから自分を認識できるんだろうと思った。
「うーん。わかんないや。レースが終わったらリリーに聞いてみよう」
とつぶやきながら、アキラはベッドにもぐりこみ目を閉じた。

ぴっぴぴー。ぴっぴぴー。ぴっぴぴー。
ぴっぴぴー。ぴっぴぴー。ぴっぴぴー。
「うーんなによぉ。うっさいわねぇ。これはコンソールからの呼び出し音ね。
全くアキラ君は何やっているのかしら…」
とリリーはアラームの音に目を覚まし、自分のルームから出てきた。
「あれっアキラ君がいない。
自分のルームで休んでいるのかしら…」
とリリーはコンソールにアキラの姿がないのを確認して、
自分の部屋へと戻った。
そして自分の部屋の隅に出っ張った部分がある。
ちょうどそこは地球人用の部屋になっていて、リリーの部屋の一角に取り付けてもらったもの。
地球人用の部屋にはちょっとした細工があって、天井をリリーが取り外すことができる。
リリーは体のサイズが大きすぎて地球人用の部屋には入れないためだ。
リリーは地球人用の部屋の天井をそっと外してみる。
「あっいたいた。ベッドの中でアキラ君が寝ているわね。
しっかし。さっきあれだけのアラームが鳴っていたのにちっとも起きそうにないわね」

「おい、アキラ君。アラームが鳴っていたわよ」
リリーはアキラの頭を指先でつっつく。
リリーはさらに、アキラのお腹を指で押す。
ベッドがリリーの指に押されてぎしっつとたわむ。
「んぎゅー」
あまりの苦しさにアキラは目を覚ます。

アキラの目の前にリリーの顔があり、リリーの大きな目と目が合う。
「うわぁびっくりした。なんだよリリーか、この天井外せるようになっているんだ。
心臓が止まるかと思ったよ」
あきらはちょっとどきどきしながらベッドから起き上がろうとする。
「さっきコンソールからアラームが鳴っていたわよ。
何かしている最中だったんでしょう?」
とリリーは相変わらず、天井からアキラを見つめている。
改めて地球人サイズの部屋の中から、リリーの顔を見ると大きい。
目の大きさは僕の顔より大きいんじゃないか?。

そんな目がアキラを見つめている。瞳の中にはアキラの顔が映りこんでいる。
「わかったよ。すぐ行くよ。だから天井を元に戻してよ」
アキラは服を脱いでいたので下着姿だ。
「あらっごめんね。じゃコンソールの前で待っているから…」
とリリーは天井を元に戻す。
アキラは天井から見えたものから見て、リリーの部屋とつながっているんだろう。
もしかしたら、リリーの部屋の一角にこの部屋が作られているんじゃないだろうかと考えた。
アキラは服を着てから、カードを取り出して船内の見取り図を表示させた。
ほら。やっぱり。リリーの部屋の一角にこの部屋が作られているようだ。
じゃ天井はリリーの部屋からいつでも取り外せるわけだ。
こちらからロックもできないのでプライバシーもあったものじゃない。

アキラは部屋を出た。
やっぱり部屋とコンソールは遠いなとアキラは思った。
きっとエレーネ星人ならすぐなんだろうけど、アキラからすると距離は10倍に感じる。
背中に羽を付けて妖精みたいに飛んでいけたらとアキラは思った。
まだそういう物はエレーネにはないのかなぁと考えながら廊下を進む。
「おまたせ。リリー」
アキラはコンソールの前に立っているリリーの姿を見つけて声をかけた。
「おそいわよ。もう。ミッションを読ませてもらったわよ。アキラ君はあのカプセルを追いかけていたのよね?」
アキラは自分の席に上ろうとしていたところを、リリーの手によって、自分の席まで持ち上げられる。
「ありがと」
アキラは例を言ってから、コンソールの表示に目を向ける。
ちょうどそこには例のカプセルが見える。
この船が自動的に目的の物を見つけたので、自動的に速度を落として、物体と同じ速度で進んでいる。
「じゃ回収しちゃいましょう。回収はアキラ君にお願いするわ。あたしは回収した後、ドックへ行って
回収した物体を調べるから…」
リリーはてきぱきと指示を出す。
アキラは体の大きさを考えると各自の分担は適切かなと思った。
アキラはゼスチャーで目の前の物体を回収するために操作する。
「回収完了。リリー準備が出来たよ」
とアキラはリリーに向かって船内放送で伝える。
リリーの声がコンソールのスピーカーから聞こえる。
これからドックで回収された物体を確認するようだ。
「んー。これね。カプセルの開閉スイッチはっと、これか。ぽちっとな」
とリリーはボタンを押す。
あ。リリーはあのアニメをみたんだなとアキラは思った。
アキラはドックの様子を見ようとして、船内カメラを操作することにした。
うーん。なかなか、このゼスチャーのインターフェースと、
コンソールに表示されている立体映像のヘルプシステム使いやすい。
立体映像のサイズが大きすぎるのと腕が疲れるけど運動になるな…
とアキラはカメラを操作しながらそう思った。
「ねえ。アキラ君。大丈夫みたい。じゃこれから2個目のカプセルを回収するための準備をして、
まずはこの船を止めて、ここの座標からカプセルの動きをサーチ、最短でゲートの場所へ帰還するための航路を
割り出しておいてね。じゃあたしは戻るから」
とリリーが言う。
アキラは船を止めて、例の2個目のカプセルの位置と、最短で帰還することができる航路の割り出しを船へ指示すると、
アキラはリリーが来るのを待つことにした。
「お.ま.た.せ」
とリリーはアキラに声をかけた。
「ねぇリリー。航路の割り出しにはまだ時間がかかるみたいだけど…」
アキラはリリーのほうを見る。
「じゃごはんにしましょう。せっかくだからあたしのルームで食べる?」
アキラはどこでもいいよと思ったけど、これを機会にリリーのルームへ入ってみることにする。
アキラは、リリーが手を伸ばしてきたので、リリーの手の上に乗る。
そして、リリーが歩き出す。
「どう。なかなかいいでしょう」
とアキラは部屋の中をアキラに見せる。
部屋の中には、テーブルとベッド、収納用の棚が取り付けてあるがどれも固定されている。
色調は赤。どうやらリリーは赤い色が好きらしい。
そして、部屋の一角の壁が出っ張っている。
「ねえ。これ。もしかして僕の部屋になっているの?」
とアキラは、リリーに問う。
そうよと言いながら、アキラをテーブルの上に下ろす。
「ほらっこうすると天井が外れるの」
リリーは天井を外してみせる。
そして天井を戻すと、そのまま上に座ってみる。
「あーなにやっているんだよ。部屋の上に座っちゃだめだよ」
とアキラはリリーが部屋の上に座ったのを見て思わず声を出す。
「なによぉ大丈夫よ。どうせなら椅子にも出来るようにお願いをしたんだから…
ほらっあたしが座っても大丈夫よ」
と言いながら、リリーはおしりを浮かせてから、何回かリリーのおしりをどすんどすんと部屋の上に下ろす。
「本当に強度は大丈夫なの? つぶれない?」
とアキラは言う。心配だ。
「なに? あたしのおしりが重いっての? ほら。大丈夫よ、それそれ」
リリーは再び地球人から見て超巨大なおしりを部屋の上にどすんどすんと下ろす。
みしっ。
そのとき、リリーのおしりの下で音がした。
「あっ今。みしって聞こえた」
アキラはリリーの顔を見る。
「あっやばっ。ちょっといきおいすぎたかな?」
リリーはおしりを上げて、部屋の天井を外す。
音がしただけで、天井にひびは入っていない。
その天井はすごい丈夫だ。100人乗っても大丈夫な物置の10倍はすごい。
「ねぇ。リリー。僕が部屋の中にいるときは絶対に腰掛けないでよ。もし天井がわれたらと思うと部屋に入れないよ」
とアキラはリリーに言う。
「大丈夫だって。あたしが座っても割れたりしないって」
とリリーは言うが
「だって。僕からみたら、天井をおおいつくすぐらいの大きさのおしりが、上に乗っていることになるんだよ。
いつ天井が落ちてくるかと思うと心配だよ」
とアキラは言う。
「うーん。わかったわよ。なるべく椅子として使わないようにするわね」
「なるべくってなんだよ!」
とアキラは言うが聞いていないようだ。

その後、リリーは手持ちの保冷ボックスから、果物のような外見のものと、飲み物を取り出した。
エレーネ星人サイズの物と地球人サイズの物だ。でもアキラは飲み物以外は見たことがないものだ。
「これは?」
とアキラは果物に見える物を手に取った。
大きさはパイナップルぐらいだ。
「これは、エレーネの食べ物よ。地球でいうとパンみたいな食感の食べ物ね。この蜜をつけて食べるのよ」
と言って、リリーはへたの部分を引っ張って、くるくるーと外側の皮をはがす。
どうやら長い間の品種改良で皮もむきやすくなっているらしい。
アキラは、リリーの見真似でへたの部分を引っ張る。
すると皮が、らせん状にくるくるっと綺麗にむける。
中身はふわふわだ。
リリーは横に置いてある、レモンのような形の果物を二つに割って、そのふわふわの実をちぎって
レモンのような果物の中にあると思われる蜜をつけて食べている。
アキラも同じようにレモンのような物を割ってみることにした。
「あっ蜜が入っている」
アキラは指をつけてなめてみた。結構あまい。
そして、ふわふわの物をちぎって蜜につけて食べてみることにした。
「おいしい。なんか食感は本当にパンみたいだね。この蜜となかなか合うね」
とアキラはちぎって食べる。
他には、食物繊維で出来たパッケージに入ったもの。
「これは合成のお肉みたいなものね。合成といっても結構いけると思うわよ。それに
必要な栄養素や、うまみ成分が付加されているし、味もいろいろあるから…」
と言いながらリリーはパッケージを開けて中身を食べている。
アキラもそのパッケージを開けて食べてみる。
「食感は肉に似ているけど、牛、豚、鳥でもない。けどこれも結構いけるかなとアキラは思った」
アキラはふとリリーのほうを見ると、見覚えのある缶を手に持っている。
どうやらビールのようだ。
「あー。また飲んでいる」
アキラはリリーの持っている缶を指さして言う。
アキラが持っているのは野菜ジュース。
日本時間では早朝にあたる。
「なによ。自分が未成年だから飲めないからひがんでいるんでしょ」
とリリーはぐびっとビールを飲みながらアキラに言う。
「そんなことないけど、今はミッション中だよ」
とアキラは野菜ジュースを飲みながらリリーに言う。
「いいのよ。特に制限はないし、今回はカプセル回収だから難しい操作はないし…
今のうちにリラックスしておかないと、今度はいつゆっくりできるかわからないじゃない?」
とリリーが反論する。
それに、飲むのは1缶だけだからとリリーは言う。
「まあいいか」
とアキラは言って食事を続けることにした。
「ねえ。アキラ君。レースの状況だけど…」
とリリーが話しを切り替える。
どうやら全てのチームは出発済み。1番目のミッションをクリアしたチームは17チーム。
他のチームは、僕たちと同じく2番目のミッションを進行中か、すでに3番目のミッションを
進行中のようだ。
今までの大会によると、1番目のミッションをクリアするのは85%。
2番目のミッションをクリアするのは85%のうち半分。
さらに3番目のミッションをクリアするのは、2番目のミッションをクリアしたチームのさらに半分という。
「あれっ2番目のミッションはそんなに難しいの?
今だって、1個目のカプセルは回収したし、2個目のカプセルもこのままだと順調に回収できそうじゃない?」
とアキラはこれまでの状況から見てリリーに言う。
「そうねぇ。なにか見落としているんじゃない? このままで大丈夫か心配ね。
食事が終わったらコンソールで確認してみましょう」
そうだねと、アキラは返答してから野菜ジュースを飲み干した。

「ああ。やっぱり。これを見てアキラ君」
僕たちはリリーのルームを出て、コンソールの前にいる。
リリーはコンソールを操作して情報を表示させる。
「えーと。ここから2番目のカプセルまでの距離は遠いね。この船でも15時間かかる。
それにそこから、ゲートの場所へ戻るのにはさらに9時間かぁ。
でもこれだと、時間がかかるだけでミッションはクリア出来そうだけど…」
とアキラはコンソールの表示を見てから答える。
「それだけだったらいいんだけど…
これを見て、カプセルの15時間後の位置はこれ…」
リリーはコンソールを操作して表示を更新する。
カプセルは予想した位置には到達していない。
カプセルはここから12時間後の位置で停止している。
というか、12時間後のカプセルの付近には惑星があり、惑星の公転軌道と一致している。
「もしかして…」
アキラはリリーの顔を見る。
「そう。カプセルは12時間後、この惑星の重力に捕らえられてしまうようね。
そして、この船で加速しても15時間かかる。
このままでは回収は無理ね」
アキラはリリーの言葉を聞いてから
「くそっ。先にこのカプセルの回収をしておくんだったよ。そうすれば間に合ったのに…」
アキラはこぶしをコンソールへ振り下ろす。
「アキラ君。あきらめちゃだめ! 何か方法がないか考えるのよ…」

アキラはリリーに言われたとおり方法がないか考えてみる。
「ゲートだ。ゲートが使える?」
アキラはリリーに言う。
「だめね。この付近にはゲートはないようね」
アキラはコンソールを見ながら考える。
「ツイは…。使えないか。帰りなら使えるけど…。
カプセルに追いつくためには、空間を渡るか、この船のスピードを上げるか、
カプセルのスピードを落とすか、
うーんどうすればいいんだろう…」
アキラは考えてみることにした。
この船はエレーネの船だ。何か方法があるはず…
でも思い浮かばない。じゃ地球の宇宙船で考えてみようとアキラは思った。
たしか地球の宇宙船を打ち上げるときは3段ロケットで、
1段目を切り離して2段目のロケットに点火…。
まてよ、この船には緊急脱出用の宇宙船として他に2隻ある。
ということは3段ロケットの方法が使える?
「ねえ。リリー。この船を自動操縦にして、リリー用の緊急脱出用宇宙船に
僕用の緊急脱出宇宙船を搭載して、発進することはできないかな?」
アキラはリリーに聞いてみる。
「できるわよ。でも、どうするのよそんなことをして…」
とリリーが聞いてくる。どうやらまだわからないようだ。
「えーと、この宇宙船は最高速度でカプセルの元へ飛行中だよね。
その状態で、リリーの緊急宇宙船で発進して最大スピードまで加速する。
そして、その状態で僕の緊急宇宙船を発進させて、最大スピードまで加速する。
こうすると、リリーの緊急宇宙船は今のスピードを0として、最大スピードまで加速する。
そして、さらに僕の緊急宇宙船を発進を発進させるってのはどうかな」
リリーはうーんと考えて。わからないわ。コンソールにその方法を入力してシミュレーションしてみましょうと
リリーは言う。
結果は…
「すごいわね。この方法だと、アキラ君の宇宙船は停止時の速度からして19000だから、
ざっと5時間でカプセルまでたどり着けるわね。カプセルの大きさはアキラ君が乗る宇宙船より小さいから
カプセルは回収できないにしても、カプセルの運動を止めることはできるわ。でも、
これからはカプセルをこの船に回収する間は離れ離れになっちゃうわね」
なので、このミッションはなんとかなりそうだ。
でも長い間。この宇宙に一人ぼっちで過ごさないといけない。アキラはとても不安だ。
「なに。大丈夫よ。通信回線は空けておくから、いつでも話せるわよ。
それにあたしからアキラ君の宇宙船の位置はモニターしておくから、
万が一。行方不明になっても。あたしが探してあげる」
アキラはリリーの顔を見る。
そうだよな。リリーは女の子。自分は男。男の僕が不安にしていちゃだめだ。
「わかったよ。なんとかなりそうな気がする。
僕は僕の緊急脱出用宇宙船の準備をするから…」
「了解。アキラ君は。宇宙船に乗って、この船から一旦出てほしいの。
そのあと、あたしも宇宙船で出るから。その後あたしが回収してあげる」
リリーはこの船を自動操縦のモードにセットする。
リリーは一旦、アキラとともにこの船を離れ、
最大の加速までスピードを上げてから、アキラの宇宙船を放出する。
その後、リリーはスピードを落としてこの船と合流するという。
ふう。なかなか大変だ。
「アキラ君。準備が出来たわよ。船を発進させて」
「了解」
アキラはゼスチャーを使って船を発進させる。
使い方は同じ。
アキラは船を発進させて、ちょっと離れた場所で待機する。
元の船を見ると移動していないようにも見える、まわりの星を見てもそうだ。
動いているような感覚はない。
でも、船のコンソールを見ると、スピードが7000。船の加速度は0を示している。
「アキラ君。こっちも準備できたわよ。これからあたしの船のドックに回収するわね。
でも回収しても。アキラ君はそのまま宇宙船の中にいるのよ。
そのまま加速して時間をかせぐから…」
とのことだ。コンソールにはリリーの顔が映し出されている。
アキラは
「お願いするよ」
と言って、アキラはコンソールの表示にカプセルのデータを表示する。
船から必要なデータはすでに転送してあるので5時間後のカプセルの位置はわかる。
でもカプセルの移動を止めるには、この船に搭載している簡易斥力場を使う必要がありそうだ。
そうこうしているうちにリリーの船に回収される。
「じゃ加速するわよ」
とリリーの声が聞こえる。
「OK」
とアキラは答えて、コンソールの表示を見る。
加速が始まった。おっ速い。
7200、7500、7800、8000、8500、9000...12200、12800、12990
どうやらアキラの船の発進準備ができたようだ。
「アキラ君。これから4時間半ほどあたしと離れ離れになるけど、一緒に頑張ろうね」
リリーはちょっとしょんぼりした顔でアキラと通信する。
「そうだね。でもこれを片付けないと3番目のミッションを開始できないし、帰りが大変だよ。
僕は大丈夫だから心配しないで…」
アキラも心のうちは不安だ。今までこんな宇宙で誰もいない場所で一人ぼっちになったことはない。
耐えることができるだろうかという不安があるけど、リリーにはそんな顔を見せちゃいけないと
アキラは思って、精一杯の笑顔で
「じゃ行くよ。ドックから出して」
とアキラはリリーに伝えた。
よし、ドックから出た。
それじゃ加速するかとアキラは加速のゼスチャーをする。
12990、13500、14200、15000...17400、18300、18999
どうやら最大スピードに達したようだ。
「こちら。アキラ。予定どおり最大スピードに到達。これから回収に向かう」
アキラはリリーに報告する。
「思ったより速いのね。やっぱり小さい分加速しやすいのかしら…
了解したわ。あたしリリーはこれから減速して、元の宇宙船と合流してから、
アキラ君を追跡するわ。
いちおう回線はこのまま空けておくから、いつでも声をかけていいわよ」
と言って、リリーはゼスチャーで船を操縦する。
アキラは、コンソールに表示されている3隻の船の位置を確認する。
アキラの船はどんどんリリーの船から離れていく、
リリーの船も元の船からどんどん離れていくが、一番アキラの船が元の船の位置と離れている。
まあ当然だけど、これからあと4時間はこのままか。
そして、さらに待たないとリリーと合流できない。
回線は開いているので、リリーの姿は映像で表示されている。
でも手を伸ばしても実態には触れることはできない。
リリーはだいぶ後方から僕を追ってきてくれているはずだ…
コンソールを見るというのは表示からわかる。
でもその距離は想像できないほど離れているのだ。
アキラはリリーのぬくもりが恋しくなった。

アキラは疲れていたので、船に異常があったらアラームで知らせるようにセットしてから
目を閉じることにした。

そして3時間後、ふとアキラは目をさました。
「あれっ、ここは…。宇宙船の中か…。えーとカプセルとこの船の距離は…
あと1時間ぐらいかな」
アキラはリリーの船の位置を確認する。どうやらずっと前にリリーは
自分の船と合流し、アキラを追跡してきているところのようだ。
リリーと自分の船の間は最大のスピードで追いかけても9時間かかる。
遠いなぁ。でもカプセルの場所についたら待っていればいいのだけど、
と考えながら、そろそろカプセルの移動を止めるための簡易斥力場の発生装置を
準備しておくかとアキラは考えた。

それから1時間後、アキラはカプセルとこの船が十分近づいたのを見て、減速の指示をこの船に出す。
19000、18000、17000...160、40、25、17、2、1、0
よーし、後はこの装置を使ってカプセルの移動を止めるだけだ。
アキラは今来た方向とカプセルをはさんで反対側に船を移動して、簡易斥力場をセットした。
「やった、カプセルの移動は止まった。けど、ちょっと反対方向に動いているな。
ねえ。リリー。今カプセルの移動は止めたけど、ちょっと反対方向に動いているみたいなんだけど。
このままカプセルを追いかければ、位置が近づくと思うんだけど…」
とアキラはリリーに通信をする。
この距離まで離れると、さすがにタイムラグが生まれる。10分後。
「アキラ君。カプセルを見つけたのね。でもあまりその場所から動かないほうがいいわよ。
あたしと合流するにはあと9時間はかかるから、9時間移動したら元の位置と相当ずれちゃうと思うの。
だからアキラ君はなるべくその場所にとどまっていること。いいわね」
とリリーから返答がある。
アキラはわかったよという返答をリリーの元へと送る。
じゃあのカプセルが移動しないようにまた簡易斥力場で跳ね返さないといけないのかとアキラは思った。

「アキラ君おまたせ。あと1時間ぐらいで合流できるわよ」
と気が付くと、リリーから通信が入っている。
タイムラグも1分ほどだ。
「ああ。やっと来てくれたんだね。こっちはカプセルが移動しないように定期的に簡易斥力場で
跳ね返していたら、もうくたくただよ」
リリーは
「そうだったんだ。頑張ったわね。カプセルの回収も、アキラ君の宇宙船の回収も
全部こっちでやるから、あたしが到着するまでの辛抱よ」
とウインクする。
あと1時間か…
頑張るか。

「アキラ君。回収が終わったわよ」
やっと終わった。このミッションはとても疲れた。
でもゲートへ戻らないといけない。
アキラは自分の船を下りて、コンソールへ向かうことにする。
「おかえりアキラ君」
リリーは膝を床につけ、両手を床に置いてアキラが来るのを待っていたようだ。
「リリー」
アキラはリリーに向かって走り出す。
リリーはアキラを両手の手のひらで受け止めて、自分の胸にアキラを押し付けた。
むぎゅー。
ぼよよんとアキラはリリーの胸に跳ね返されるが、リリーの手がぎゅっと押し付けてくる。
「アキラ君会いたかったわよ。ぎゅーしてあげる」
リリーは力を入れてくる。アキラはリリーの胸にうずまってしまい、とても苦しい。
でもリリーのぬくもりはとても心地よかったのでそのまま抵抗せずにいた。

「さて、ゲートの方に戻るわよ。ゲートまで到達するには後10時間はかかるけど、
あたしもくたくただし、一眠りするわね。
アキラ君はどうするの?」
とリリーは聞いてきた。
「僕もそうするよ」
とアキラは言った。
「じゃあたしと一緒に寝る? 一人でいるときは一人ぼっちだからあたしが恋しかったでしょう?」
とリリーは例のにやりとした笑みで聞いてくる。
「遠慮しておくよ、リリーと僕の体の大きさは違いすぎるでしょ。添い寝されるのはうれしいけど、潰されちゃいそうだし」
とアキラは答えた。
「しょうがないわ。じゃあたしがベッドまで運んであげる」
と言って、リリーはアキラを手の上に乗せるとリリーの部屋へと移動する。
リリーは
「あっそうだ着替えなくっちゃ」
と言って、一旦アキラをテーブルの上に置くと、自分の服を脱いで下着姿になろうとした。
「わわっなにやっているんだよリリー。男の目の前でいきなり、服を脱ぎださないでよ!」
とアキラは動揺しながら、リリーに注意する。
「別にいいじゃない。ほらっあたしのパンツ見る?」
といって、スカート状になっている服をパンツが見える位置までめくる。
アキラは動揺して、何も言えないでいると、リリーはかまわず服を脱いで寝間着を着る。
アキラから見て巨大な何百キロかぐらいありそうな大きな胸がたゆんたゆんとゆれているのが一瞬見えた。
「アキラ君は服を脱がないの? 脱がないなら、あたしが強制的に脱がしてあげるわよ」
とリリーが言う。
アキラはわかったよとリリーに言って上着とズボンを脱ぐ。裸になるわけじゃないからいいかと思った。
じゃ天井を開けるね。
と言ってリリーは天井をどかしてから、アキラを手でつかんで、地球人用の部屋のベッドにアキラを寝かせる。
「あっそういえば、喉が渇いたらその脇に置いてある保冷庫に飲み物が入っているから、飲むといいわよ…」
とリリーが言う。
なんかいつもの、にやりとした笑みを浮かべているようだけど…
アキラは疲れていたので
「ありがと。それじゃおやすみ…」
とアキラは言う。
リリーもお休みと言って天井を元に戻す。
そういえば、喉がかわいたなと思い、保冷庫から飲み物を取り出す。
パッケージは見たことがない物だ。
エレーネ語で書いてあるので内容物はわからない。
でも感じからすると水に何か加えたようなものに見えるので、
アキラはごくごくとその飲み物を飲んだ。
あっなんか変った味がする。でも冷えていておいしい。
でもなんだか頭がボーっとするような…
疲れているんだろうかとアキラは思って、その飲み物を飲みほすと
ベッドの中に入った。

しばらくしてから、アキラの部屋の天井が外されリリーがアキラを覗き込んだ。
でもアキラはぐっすりと眠っている最中だったのでそれには気が付かなかった。