ぴっぴぴー。ぴっぴぴー。ぴっぴぴー。
ぴっぴぴー。ぴっぴぴー。ぴっぴぴー。
「うーん。ふぁーあ。良く寝たわ。コンソールの呼び出し音が鳴っているわね」
とリリーは電子音を聞いて起きることにした。
リリーはアキラの部屋の天井を外してみると、まだすやすやと眠っている最中のようだ。
「もう。しょうがないわね。起こすのもかわいそうだから、あたしがゲートの設置をするか」
と言って、リリーは天井を元に戻すと部屋を出てコンソールへ向かうことにした。
目の前にはゲートがある。あとはゲートを設置するだけ…
リリーは、カプセルに書いてあった修理手順を読んでみることにした。
どうやら装置をゲートの近くへ設置すると自動的にゲートを認識して所定の位置へ移動するようだ。
でも、その前に装置にゲートの識別番号と通信周波数、ゲートの部品番号を事前に入力しておかなければならない。
リリーは故障しているゲートの部品番号を確認して、手元のカードに識別番号と通信周波数のデータをコピーして、
カードを装置のスロットにかざす。
すると、装置に必要な情報が転送される。
あとは部品番号を入力すれば準備はOK。
リリーは手際よく部品の放出をすませると、物体が自動的に所定の位置に移動するのを見届けることにした。
リリーはコンソールを操作して、ゲートの状況を確認する。
ゲートの初期設定が済むまであと1時間ぐらいかかる。
その間はどうしようかなとリリーは思って、シャワーでもあびようと考えた。
アキラ君もまだ寝ているようだし…
とリリーはコンソールを後にした。

リリーがコンソールへ姿を現す。
「うわっリリー。なんだよその格好は…」
アキラはリリーがコンソールへ入ってきたので見ると、体にバスタオルを巻いただけの姿が目に入る。
髪の毛はまだ乾いていない。
「あらっアキラ君おはよう。良く眠れた?」
リリーはあまり気にせずアキラに聞いてくる。
「良く眠れたけど。その格好…」
アキラはリリーに注意しようとする。
リリーの体からはほのかにボディシャンプーのにおいと、いつも使っているシャンプーのにおいがする。
しかも体からはまだ湯気が出ているのでさっき出てきたところのようだ。
「なーによ。アキラ君のために乙女がサービスしてあげているのに…」
リリーはなんか最近大胆になったようだ。目の前で下着姿になろうとしたり、
湯上り姿を見せ付けたり…
「リリー。その。えーと。早く着替えてきてくれるとありがたいんだけど…」
アキラはリリーの姿が気になってしょうがない。
「ちぇっわかったわよ。でもこのままだと風邪をひくといけないからアキラ君の言うとおりにするわ」
と言ってリリーは自分のルームへ引っ込んだ。
「まったくもー」
とアキラは言うが内心ちょっとどきどきしている。
こりゃいけないなとアキラは下に下りて、缶コーヒーを保冷庫から取り出してのみほした。
冷たい物が喉を通っていく。頭もすっきりする。
「さて。コンソールで状況を確認するか」
とアキラは気合を入れて、再び自席へと上がる。
えーと。どうやらゲートの修理はリリーがやってくれたようだ。
ゲートのステータスを見ると、オールグリーンとなっている。
すでに、記録船へは2番目のミッションをクリアしたことを連絡してある。
アキラは、移動先ゲートの識別番号を入力すると、ゲートが開いてから船をゲートへ向けて進めた。

アキラはゲートを通過したことを確認すると3番目のミッションの確認をする。
「えーと。物資の輸送とある」
惑星の開拓と船の製造に必要な物資をゲートを通じて輸送している。
その物資は大型コンテナ10個に分けて宇宙空間を航行中である。
その大型コンテナは3エレーネ公転周期前にゲートから出て、
このゲートに向けて航行中である。
今回のミッションは10個のコンテナを無事に指定あて先ゲートまで輸送することである。
ただし、大型コンテナ10個は先導する自立型宇宙船の航路を辿って航行しているが、
そのうちの7個は途中の電波障害と小惑星の影響により軌道を外れつつある。
今回のミッションとして航路を外れつつあるコンテナをタイムリミット以内に
先導する自立型宇宙船の近辺まで誘導し無事に10個全ての大型コンテナがゲートを通るように
する必要がある。
ふーん。
今回のミッションは制限時間との戦いだなとアキラは思った。
「おまたせ」
アキラはリリーの声を聞いて、リリーのほうをみると普通の服を着ているのが目に入った。
「3番目のミッションはどう?」
と言いながら、リリーはアキラの頭上からアキラの前に表示されている画面を覗き込もうとする。
そのとき、リリーの長めの髪がふわりとアキラの体にかかる。ほのかにシャンプーの香りがする。
アキラは上を見るとリリーの顔が見える。アキラは視線を前に戻してリリーに説明する。
「んーと、3番目のミッションは物資の輸送みたいだよ。
制限時間内に、軌道を離れつつある7個の大型コンテナを元の航路へ誘導するとある。
詳しい内容はコンソールにも表示されているから読めると思う」
とアキラはリリーの髪の毛を腕ではらいながら言う。
リリーの髪は結構さらさらしていて綺麗だなとアキラは思った。
「じゃあたしはどうやったら時間制限以内に大型コンテナを誘導できるか計算してみるわ。
アキラ君はどうする?」
リリーの言葉にアキラは
「念のため、付近にミッションの遂行の妨げになる物がないかを調べておくよ」
とアキラは返答する。
「アキラ君お願いね」
と言ってリリーは自席に座り、船へいろいろな指示を出し始めた。
アキラもこの船に搭載されているレーダーや測定用の機材を使って調査し始めた。
「あー。だめだわ時間が足りない。もうちょっと違う方法でやってみるか」
というリリーの声が聞こえてくる。
なかなか苦戦しているようだ。
「えーとこの付近には…恒星しかないか。でも惑星は見当たらないな。
その他には遠くにブラックホール、中性子星、その他にも多数の明るい星、
あれは超新星爆発の影響かやたらと明るい星がある。
えーと他には小惑星郡や彗星みたいな飛来物はなし…か」
特にミッションの妨げになるような要因は見つからなかった。
「ねぇ。リリーこのあたりには特に注意しておかなければいけないものは存在しないみたいだよ。
リリーのほうはどう?」
とアキラは、うーんとうなっているリリーに声をかける。
リリーは立ち上がって、アキラのほうに腕を伸ばして、アキラをつかむ。
そのまま自分の席へと座り、アキラを自分の席の前にあるコンソールへと下ろす。
「どうしても時間が足りないのよ、大型コンテナを誘導する順番や航路を違うものにしても
3個分の大型コンテナを誘導する時間が足りないの。もうーこのミッション絶対成功できないんじゃないの?」
とリリーは少し機嫌が悪そうに言う。
「どうしてもだめ?」
とアキラはリリーに聞いてみる。
「だめよ。何度やっても結果は時間足りず。もうどうすればいいってのよ!!」
とリリーは自分の顔をコンソールに乗せてほっぺたを膨らませてぷんぷんする。
アキラはリリーの膨れたほっぺたを手で押し返してみる。
ぽよんとほっぺたがへこむが、
リリーはさらにほっぺたを膨らませるので手が押し返される。
アキラは
「うーん。どうするか、大型コンテナを誘導する時間が足りない…
時間が足りない場合は増やすことはできないか、
たとえば先導する自立型宇宙船のスピードを遅くするとか?」
と言い、リリーの目を見る。
リリーの大きな瞳がこちらを見る。
「うーんだめなのよ。先導する自立型宇宙船は外部からの指令を聞かないの。
指令を変更するには特別なキーが必要なのよ。
あたしはそんなキーは知らないし…はぁ」
とリリーはため息をついて目をつぶる。
「じゃ大型コンテナの誘導には時間が足りない。人手が多ければ誘導は速く終わらない?」
アキラはリリーに聞くが、もし2人で作業しても1個分のコンテナを誘導する時間が足りないという。
それじゃぎりぎりだし、なんかあったらもちろん時間が足りない。
「うーんそれじゃゲートのほうはなんとかできないの?」
とアキラは消去法で何か手がないかリリーに聞いてみた。
リリーは目を開けてアキラのほうを見る。
「ゲートをどうするのよ。まさかゲートを遠ざけるとか…
あれっちょっとまってよ。その方法いけるかも…」
とリリーはコンソールを操作してゲートのことを調べ始めた。
「あっ」
リリーは急にアキラを手でつかんで、コンソールの真ん中まで持ち上げてアキラに表示が見えるようにした。
「なんだよ。もう…」
急にリリーに手でつかまれたのでびっくりしてリリーに言ったが、聞いていないようだ。
「これ見て。このゲートはあるコマンドを送ると、この船を使ってゲートの場所を変えることができるのよ」
とリリーは言う。
動かしてもいいの?とアキラは聞くが、ゲート間の距離はおそろしく離れているし、小惑星や彗星の飛来によって
衝突の危険性がある場合は動かすことがあるという。
「計算によると本来のゲートの位置から、地球の単位でほんの400キロほど右に動かせば大型コンテナを移動する時間が稼げるわ」
400キロか、でも宇宙スケールではほんの少しの距離だ。
「じゃあ作業分担はどうする?」
とアキラはリリーに聞く。
「あたしは大型コンテナを誘導するわ。少しでも時間を稼ぐためにこの船の重力制御がついたアームと、
エルの2つを同時に使って大型コンテナを誘導しようと思うの。
多分コンテナの大きさからいってアキラ君がエルで誘導するのは無理そうだし…
それに、ゲートの誘導はアキラ君用の宇宙船も使えるし…」
とのことだ。
リリーはアキラのカードへゲートの制御用コマンドを送るから、
宇宙船の中にあるコンソールにそのカードをかざせば、自動的に必要なコマンドは
宇宙船へ転送されるからと言って、リリーがコンソールを操作をする。
アキラはさっそく準備をするために、地球人用の緊急脱出宇宙船に乗り込むことにする。
「合図したら、ドックから放出して」
とアキラはリリーに言うと、コンソールがある部屋を出た。

アキラは宇宙船の中に入り、リリーへ指示を出すとさっそくカードをコンソールにかざす。
すると、必要なコマンドが入力される。
同時に、大型コンテナのあて先ゲートの識別番号も入力される。
「じゃ僕のほうはゲートの移動を始めるよ。この位置まで誘導すればいいんだね」
とアキラはゲート移動のための最終確認をリリーにする。
「そうよ。その位置でいいのよ。でね…」
その後通信が乱れる。
今までなかったことだ。
ちょっとして通信が回復する。
「あれっ今通信が途絶えた? 今はなんともないみたいね。そっちはどう?」
リリーのほうでも通信が乱れたようだ。
ということはこの宇宙船の通信機の問題ではないようだ。
「こっちも少し通信が途絶えた。今はな…」
一瞬ざーと通信が途絶える。
なんだろう。電波障害?
アキラは通信回線の状態が良くなったあとに
「ねえ。こんなことはよくあるの?」
と聞いてみた。宇宙のことについては全くの素人だ。
「うーん。めったに聞かないわね。でも一応注意しておきましょう。
今のところ、2人の間で指示を出し合う必要はないし、こっちのセンサーでお互いの
位置と進行状況を確認できるから、直接の問題はないんだけど…」
とリリーは言う。
「なら心配ないのかな。時間がもったいないから、僕はゲートの移動を開始するね。
ゲートの移動が終わったら、ゲートオープンの指示をすぐに出せる状態にしておくから」
とアキラはリリーに言う。
「わかったわ。じゃお互い頑張りましょう」
と言って、リリーは回線を切った。

さてとやりますか。
とアキラは船にゼスチャーをして、ゲートのほうに近づくように船を誘導することにした。
「えーと。これだな。このコマンドとこの船の識別番号を送ると、
ゲートはこの船と相対距離を保ったまま移動する…」
アキラはゲートから一定の間隔を開けた位置にいる。
そこからゲートへ向けてコマンドを送る。
「あっゲートから応答が帰ってきた。ステータスにはOKの文字があるな」
アキラは船をゆっくり指定の場所へ向けて移動するように指示を出した。
「ふう。あとはリリーかな」
アキラは、コンソールにリリーの船の位置と大型コンテナの位置を表示させる。
リリーは1個目の大型コンテナのほうへ向かっているところだ。
アキラは大型コンテナの誘導先の位置と先導する自立型宇宙船の位置を表示させる。
この船は脱出用の宇宙船なので、元の船みたいにいっぱい情報を出すことはできない。
でも現在の状況は確認できる。
アキラは、このまま誘導を続ければ、15分ぐらいで目的の場所へゲートを設置できると考えた。

アキラはゲートの誘導が完了したことをリリーへ報告する。
「こっちの準備はOK。そっちの調子はどう?」
アキラはリリーの船へ回線をつなぐ。
「えーと、今2個目の大型コンテナの誘導をしているところよ、後もうすぐで終わるわ。
残りは5個ね。今のところ…」
ざー。
まただ。リリーとの会話が途切れる。
「なによ。もう。なんでこんなに途切れるのよ。まあいいわ。時間がおしいから回線を切るわよ」
と言って、リリーの表示が消える。
あっそういえば聞いておかなければいけないことがあったんだっけ。
コンソールのしたに数字が表示されているが、この数字がだんだんと増えてきている。
いつもは0だ。この場所に来てから増えだした。
酸素の量?。残りエネルギーの量?かと思ったが、
ゼスチャーでこの船のステータスを出すと、画面に出るので違うようだ。
その数字ははじめは青色で表示されていたが、だんだんと赤みをおびた表示になってきている。
アキラはちょっと不安に思う。
この船のヘルプシステムを呼び出しても、下の表示のことは書いていない。
なんだろう。もう少ししたらリリーに回線をつないでみて、そのときに聞いてみようとアキラは思った。

アキラは大型コンテナと先導する自立型宇宙船の位置を表示させる。
どうやら、残りあと1個誘導すれば問題がないようだ。時間もなんとか間に合う。
「ねえ。リリー。調子はどう。もうすぐで終わりそう?」
アキラはリリーに聞く
「そうね。あと1個よ。この誘導が終わったら合流しようね。でね言っておきたい…」
ざー。
ざー。
「ことがあるんだ…」
ざー。
ざー。
ますますひどくなる。
「恒星が…不安定な動きを…」
ざー。
ざー。
あまり聞こえない。
この分じゃ通信は無理そうだ。
「いいよ。先に残り1個を終わらせて…」
とアキラは言う。
「了解…」
うーんなんだろう。この通信障害と、リリーが伝えたいこと?
アキラは、コンソールに情報を表示しようとするがあまり表示できる情報はない。
合流してからかなとアキラは思った。
アキラはふとコンソールを見ると、先導する宇宙船がもうすぐで到着しそうなことに気が付いた。
アキラは急いで、ゲートへゲートオープンの指示を送る。
幸いゲートは2分ほどたった後、開いたので間に合ったようだ。
先導する宇宙船の後続には大型コンテナが連なっている。
それぞれの大型コンテナと大型コンテナの距離は1キロぐらい離れているがちゃんと連なって
ついてきているようだ。

アキラは、先導する宇宙船がゲートの中へ入ったのを見届けると、
後続の大型コンテナも続々とゲートの中へ入り始めた。
1個、2個、3個…

「アキラ君。大変よ。これ見て…」
そのときリリーから通信が入り、画面には何かの画像が映し出される。
それは、この付近(付近といっても距離は離れているが)にある恒星。
どうもこの星が不安定だというのだ。
そして次の瞬間、あたり一面強烈な光が発せられ、通信回線も切れる。
アキラの宇宙船のコンソールも一時的に切れる。
その後コンソールの表示も付くが、表示は不安定だ。
アキラは船外カメラをその恒星のほうへ向けるが、あたり一面白い光に包まれている。
「何が起きたの?」
とアキラはリリーに聞くが通信状態が悪い。
「超新星爆発みたいなの。距離が離れているからすぐに被爆することはないけど…」
被爆?
「被爆って何?」
とアキラは聞く。もしかしてコンソールの下の数字はこれなんじゃないかと思う。
「被爆は、超新星爆発が起きたときに強力なガンマ線が放出されるの。
でも今回の超新星爆発が起きたのは5光年より向こうの恒星だから、届くまで5年以上はかかるわ。
でも、問題はこれじゃないの」
ざー。
ざー。
「この付近で25年前にも超新星爆発があって、もうすぐでこの付近にもガンマ線が降り注ぐの。
その時間は誤差があるけどあと3時間ってところね。
一応それまでの時間にゲートで移動できるから大丈夫と思うけど、ゲートが故障したら大問題よ」
とリリーが言う。
いちおうガンマ線が降り注ぐまでの時間を割り出しておくわと言ってリリーは回線を切った。
アキラはゲートが故障?それはいやだなぁと考えた。
まさかさっきの超新星爆発でおかしくなっていないよなと
アキラはコンソールにゲートと大型コンテナを表示させる。
今、9個目の大型コンテナがもう少しで通過する予定だ。
でも…
軌道がちょっとずれている。
ちょっとまてよ。このままだとやばくないかとアキラはコンソールに表示されている軌道を拡大する。
ゲートを構成している機械に大型コンテナが接触しそうだ。
さっきの爆発で大型コンテナの軌道がずれたらしい。
リリーはまだ、最後のコンテナの向こうだから間に合わない。
こうなったら、自分でゲートの位置を横にずらして衝突を回避するしかない。
アキラは船を移動させる指示を出して、ゲートを動かす。
たのむ、間に合ってくれ。
「くっ」
アキラはゲートを動かすがなかなかゲートが動いてくれず、大型コンテナとゲートの部品が
接触してしまった。
大型コンテナはゲートの向こうに消え、ゲートも無事だが、ゲートのステータスを見ると
ダメージを受けたことが表示されている。
「くそっ」
アキラはこぶしをコンソールへたたきつけた。
ゲートのステータスを見ると、ゲートの作用が有効な範囲が狭まっている。
どうやら部品がやられた影響のようだ。
今のところはゲートの作用が有効な範囲は大型コンテナより大きいので大丈夫だが、
アキラはまた最後の大型コンテナがゲートをくぐるまでの間は、ゲートの位置を調整し
ゲートの部品に接触しないようにするしかないと思った。
アキラは、コンソールを見ると最後の10個目のコンテナが近づいていることを知った。
アキラは、宇宙船を移動させて大型コンテナが接触しないように移動させる。
「もうちょっと。あと少し。あと少し。くそっ」
ゲートの有効範囲ぎりぎりを大型コンテナがかすめてゲートを通っていった。
大型コンテナはゲートの向こうへ消えるが、ゲートの作用が有効な範囲はさらに狭くなった。
ちょうどそのとき、リリーの声が聞こえた。
「ねぇ。アキラ君大変よ。この付近に超新星爆発の残骸が近づいているのよ。
その残骸を防がないとゲートに直撃する可能性があるわ」
アキラはそれを聞いてぞっとした。
「あと時間がどのぐらいあるの?」
「その残骸がゲートへ直撃するまで17分よ」
とリリーの答えに
「なんだって」
とアキラは答えずにはいられなかった。
なんで気が付かなかったんだろう。
アキラは悔やんだがどうしようもない。
リリーと合流している間にその時間はたってしまう。
「あたしは少しでも時間を稼ぐために、斥力場発生装置を設置するからアキラ君は
帰りのゲートへの識別番号を入力してゲートを開けておいて。
それから、このゲートを40分後以降は通過禁止にするようにプログラムして!」
とリリーが言う。
どうやら、この付近に強力なガンマ線が降り注ぐので、この辺り一体はゲートによる立ち入りが出来ないようにするためだ。
アキラはゲートへゲートオープンの指示と、40分後にゲート動作停止の指示を送る。
このゲートが動作停止すると、このゲートより前に設置されたゲートと、このゲートより後に設置されたゲートが
直通の状態となり、このゲートは破棄されることとなる。
ゲートはまだ開かない。
アキラはさっきゲートにダメージを受けたことをリリーに報告した。
「ゲートの被害状況はどう? ゲートの作用が有効な範囲はどれぐらい?」
とリリーが聞いてきたので、ざっとその範囲を告げる。
「あっ。そ、そうなんだ…」
リリーはうつむく。
「えっリリーどうしたの?」
アキラは心配になって聞く。
「あっ。なんでもないわよ。アキラ君?」
リリーは真剣な顔でアキラに告げる。
「もうすぐで、この辺りに強力なガンマ線が降り注ぐって話はしたわよね?」
「うん」
「アキラ君達、地球人はあまりこういうのにはなれていないのよね?
あたし達エレーネ星人は長い間宇宙で暮らしてきたから、少しは耐性があるの。
それにあたしが乗っている宇宙船には被爆が防げるように装甲に工夫がしてあるの。
でもアキラ君が乗っている緊急用脱出宇宙船の装甲はあまり厚くないから、被爆する危険性があるの。
そこで、アキラ君は、ゲートが開いたらすぐにゲートを通って向こう側へ非難してほしいの」
「なに言っているんだよ。一緒にゲートを通って逃げよう!!」
アキラはリリーが言った事を否定する。
「あたしもすぐに行きたいんだけど、さっきの超新星爆発の影響で、船の機能が一時的にストップしたの。
今セルフチェック中で、あと10分しないと動けないの。
一応ゲートと、アキラ君の船はあたしの船の影になっていたからそんなに影響はなかったと思うの」
リリーはセルフチェックが終わったらすぐに行くと行っている。
「じゃリリー用の緊急脱出宇宙船があるじゃないか?」
とアキラは言う。
「だめなの。さっきの大型コンテナを誘導するときに、ドックにぶつけちゃって、入り口が開かないの。
だから、この宇宙船でないと動けない…」
くっだめなのか、僕の宇宙船だと体のサイズがリリーだと大きすぎて乗れない…
そのときゲートが開いた。
「アキラ君。だんだんガンマ線の濃度が上がっているの。
地球人に換算すると結構危険な値になっているわ。
速くゲートへ非難して!!
あたしも船が動けるようになったらすぐに移動するから…」
アキラはわかった。
とリリーに通信を入れると、船をゲートへ向けて動かし始めた。
アキラはゲートをくぐり、リリーが到着するのを待つことにした。

そのとき、アキラの宇宙船に通信が入った。
「アキラお兄ちゃん。あたしリア。応答して」
最初はリリーかと思ったが、リアちゃんか。
「リアちゃん?」
「リリーお姉ちゃんは大丈夫。一緒じゃないの?」
とリアちゃんは聞いてくる。
「もうすぐでゲートを通ってくると思うけど…」
アキラはリアちゃんにこれまでの説明をする。
「リリーが乗っている船は何型なの?」
とリアちゃんが聞いてきたので、たしか3型だったなと思いリアちゃんに言う。
「それって…、もしかしたらリリーおねえちゃん。ゲートを通れないんじゃ…」
えっ。
最初リアちゃんは何を言っているのかわからなかった。

「今、なんて…」
アキラは聞き返す。
「あのね。ゲートの有効範囲が船のサイズより小さいんじゃないかと思ったの」
そんなこと…
アキラはもうちょっと詳しく聞こうとしたとき、
ゲートから無数の岩石の破片が放出されてきた。
「うわぁ…」
アキラはちょうどゲートの前にいたので、アキラの船にその破片が直撃し、
アキラもその衝撃で頭をコンソールへぶつけてしまった。
その後、アキラは気を失ってしまった。

「ねえアキラお兄ちゃん返事して…
ねえアキラお兄ちゃん…」
ん? アキラはかすかに聞こえてくる声を聞いて意識を取り戻した。
「あ…ここは…」
アキラは気が付くとコンソールにつっぷしていたようだ。
光学カメラに表示されている映像を見ると、一隻のピンク色の宇宙船が見える。
「あたしリア。これからあなたの宇宙船を回収するから…」
どうやらリアちゃんの宇宙船らしい。
アキラはまだ、頭ががんがんするがあたりを見回す。
このあたりには岩石の破片が漂っているようだ。
ゲートのほうを見ると、今はすっかり閉じてしまっているようで、ゲートがあったところにはなにもない。

こんこん。
と宇宙船の外側をたたく音がする。
アキラは、どうやらリアちゃんの宇宙船のドックに入ったのがわかった。
アキラはハッチから外に出てみることにした。
「アキラお兄ちゃん!!」
リアちゃんが手を伸ばしてくる。
アキラはリアちゃんの手につかまれて、リアちゃんの体のほうへ引き寄せられた。
そして、アキラはリアちゃんの胸のあたりで、リアちゃんの両手によってぎゅーと胸の間に挟み込まれる。
「心配したんだよ!!」
リアちゃんはアキラをぎゅーと胸に押し付けてくる。
「くるしいよ。リアちゃん!!」
アキラは苦しかったので声をあげる。
リアちゃんは子供だけどエレーネ成人だ。そんな彼女にぎゅーとされているんだから苦しい。
「ああ…ごめんね…でも…リリーお姉ちゃんが…」
アキラはリアちゃんを見る。
「ねえ。リリーはゲートから出てくるはずだったけど。
もしかして…出てきていない?」
アキラは最悪の可能性を考えてリアちゃんに聞いてみることにした。
「う。うん。そうなの。アキラお兄ちゃんがゲートから出てきてから、
リリーお姉ちゃんは出てこなかったの。
そこでなんかあったんじゃないかと思って、あたしは自分の宇宙船でかけつけたの…」
「ねえ本当にリリーは出てきていないの?…ねぇ」
アキラは再度リアちゃんに聞くが出てきていないという。
「そんな…
えーと、じゃあ僕がゲートから出てきてからどのぐらいの時間がたっているの?」
とアキラはリアちゃんに聞いた。
「40分ぐらいかしら…
あたしとアキラお兄ちゃんの通信を終えてから、すぐに駆けつけたから…」
通信?
そういえば、リアちゃんは最後に何か言っていなかったっけ?
「そういえば…僕と通信したときに、リリーはゲートを通れないとか言っていたような気がするんだけど…」
とアキラは思い出す。
「そうなの。リリーの乗っていた船の大きさは3型。
そして、ゲートの有効範囲は聞いてみたところ、その大きさより小さくなっていると思うの…
だから、リリーお姉ちゃんはゲートをくぐることはできない…」
とリアちゃんは言う。
「そんな…なんで言ってくれなかったんだろう…
すぐに助けに行かなくちゃ。あそこには高濃度のガンマ線が降り注ぐはずなんだ!!」
と言ってアキラはリアちゃんの手を振り解こうとする。
「だめなの…
もうゲートは閉じてしまっているから、あの場所へはゲートで行けないの…」
なんでだよ。
「あのゲートの付近までゲートで移動して、その後に宇宙船で向かえば間にあうんじゃないの!!」
とアキラは言う。
「あのゲート付近のゲートの識別番号は調べたわ。
でも、通常空間であの場所へ到達するには、最新の宇宙船でも1エレーネ公転周期分は時間がかかるの…」
とリアちゃんは残念そうに言う。
「それって、どのぐらい? まさか地球の単位に換算して年単位とは言わないよね?」
とアキラはリアちゃんに聞く。
リアちゃんはいいやと言う。
どうやら1エレーネ公転周期は537日。一年以上はかかる。
「そんな…
今あの場所へ到達できれば、リリーを救えるかもしれないのに…
ゲートを通っていったら、どうしてもあの場所へ到達するには1年以上かかるっていうのかよ…
くそっつ」
アキラはなんであのとき、すぐにゲートを通ってこちら側へ非難してしまったんだろう。
もう少しリリーと一緒にいてあげなかったんだろうと後悔した。
くそっ。
リリー。
リリーは今頃どうしているだろう。
ゲートも閉じてしまって、
もうすぐで迫ってくる、高濃度のガンマ線。
超新星爆発によってもたらされたガンマ線の放出は付近の生命にとって致命的だ。
くそっつ。
なんか方法がないのかよ。
アキラはこぶしをリアちゃんの胸へたたきつける。
そんなとき、頭上からリアちゃんの声が聞こえた。
「アキラお兄ちゃん。あたしと一緒に来てくれる?」
アキラはその声に反応してリアちゃんの顔を見る。
「もしかして…何か方法があるの…」
とアキラはリアちゃんに向かって言う。
「うん」
とリアちゃんはそれだけをアキラに言って、アキラを胸ポケットに入れると、
リアちゃんはドックから自分の船のコンソールへと歩き始めた。

「あのね。聞いてほしいことがあるの…
あたしは、リリーお姉ちゃんと、アキラお兄ちゃんを救わないといけないの…
あたしがこの場所に来た理由はそれなの」
アキラはそれを聞いてなんで? と理由を聞かずにはいられなかった。
「まだ言えないの。でもあとで教えてあげることはできると思うの…
これから、起こる出来事によってわかってしまうかもしれないけど…
それまではあたしの言うとおり行動してほしいの…」
とリアちゃんは言う。
なんでだろうとアキラは思ったが、
まずはリリーを救うことが最優先だ。
「わかった。何をすればいいの?」
とアキラはリアちゃんに聞いた。
「まずは移動するわ。
最初はびっくりするかもしれないけど、あまり詮索しないでほしいの。
もし可能だったら後で話せる限りのことは教えるわ」
とリアちゃんは言う。
アキラはうなずいてからリアちゃんの目を見る。
「わかったわ。じゃ行きましょう」
とリアちゃんは言って、ゼスチャーで船のコンソールへ指示を送り始めた。
すると、コンソールの前に立体映像が浮かぶ。
「はぁーい。リアちゃん。こんにちわ。
あれっそこにいるのはもしかして地球人? キャーかわいい!!」
とその立体映像は言って、アキラのほうへと向かってくる。
アキラは思わずよけそうになったが相手は立体映像だ。
なにも避けることはないと思っていると…
その立体映像はアキラのほうへ向かってきたあと、両手を広げて抱きつくような格好で迫ってきた。
そのあと、アキラはその立体映像に押されて倒れこんでしまう。
「あっちゃー」
とリアちゃんは言う。
アキラは何がなんだかわからずに、自分が倒れた理由を考えていた。
「ごめーん。大丈夫? ほらっ」
と立体映像が手を伸ばすので、アキラはつい手を伸ばしてしまう。
すると、信じられないことに手ごたえがあり、アキラは立ち上がることができた。
「えっ? えっ? もしかして…」
アキラは立体映像なのに実体があるのではと感じた。
「あー。何やっているのよ。もー。アキラお兄ちゃんを突き飛ばしたりして…
ごめんねアキラお兄ちゃん。ほらっルビーはこの前へお兄ちゃんを連れてきて…」
とリアちゃんは言う。
どうやらこの立体映像の子には名前があるみたいだ。
「ごめんごめん。アキラお兄ちゃんだっけ、ちょっとごめんね」
とその立体映像は、アキラの背後にまわると、アキラの胸に両腕を回すと力を入れた。
すると、アキラの体が浮かび上がる。
「うわぁ」
思わずアキラは声を出してしまう。
だって立体映像に抱えられて、自分は中に浮かんでいる。
そうこうしているうちに、アキラはリアちゃんの目の前のコンソールの上へと到着する。
「ちょっと待って、なんでこんなことができるんだよ…」
とアキラはリアちゃんに言う。
「あー。聞いていなかったの? びっくりしてもあまり詮索しないでねと
アキラお兄ちゃんに言っていたはずだけど…」
とリアちゃんはアキラへ向かって言う。
「あっそうだった。ごめん。でも…今のエレーネのテクノロジーはこんなに発達しているんだ…」
とアキラは言う。
「それは今ノーコメントね。
じゃゲートで、目的地のゲートの一つ前に移動するから…」
と言ってリアちゃんは操作し始めた。
「この船からゲートオープンの指示が出せるかしら…大丈夫よね。今も同じはずだし…」
とリアちゃんの独り言が聞こえる。
そして、5分後にゲートオープン完了のメッセージがコンソールに出る。
「じゃ出発」
「えいえいおー」
とリアちゃんとルビー(立体映像)は声を出す。
アキラはコンソールの上からその二人を見る。
次の瞬間。ゲートをくぐったようだ。
あたりの星空が変化する。

「まずはゲートがあった場所を割り出さないと…」
とリアちゃんはゼスチャーで船へ向かって指示を出すかと思ったが、
立体映像へ向けてゲートを調べてと指示を出す。
ルビーは、もうとっくにそんなことはお見通しよといわんばかりに
すぐに結果をコンソールへ表示させる。
その間、ルビーは妖精のようにリアちゃんのあたりを飛び回っている。
元気な立体映像だ。なんとなくリリーを思い出す。
アキラはリリーのことを思い出し、心配になった。
「ねえ。これからどうするの?」
とアキラはリアちゃんに聞く…

「じゃちょっと待っていてね。今から簡易ゲートをオープンする準備をするから…」
簡易ゲート? なんだろうそれ。もしかしてこの船を使ってゲートを開ける?
「ちょっと待って、あの…もしかして。この船を使ってゲートを開くんじゃ…」
アキラはどうしても気になるので聞いてしまう。
リアちゃんはルビーのほうに目をやると、ルビーがアキラの元へと飛んできた。
「このっ。詮索しないでとリアちゃんが言っていたでしょう。この。うりうり…」
ルビーはアキラを後方から羽交い絞めにして、アキラのほっぺたをルビーの手がぷにぷにとさわる。
うわぁなんだよ。すごく人懐っこい立体映像だなぁとアキラは思った。
「あて先のゲート位置確認。
簡易ゲートのオープン。ならびに、あて先の位置へのゲートオープン確認。
ゲート突入までカウント20」
とリアちゃんの声が聞こえる。
10、9、8...2、1、0
なんかゲートの大きさは小さいがこの船なら十分通れる大きさのゲートが開く。
アキラはなんでこんなことができるんだろうと不思議でたまらない。
「来たっ。アキラお兄ちゃん? リリーの船がいないかを探して…」
とリアちゃんはアキラへと指示を出す。
アキラは光学カメラに写っている映像を見ると、どうやら本当にあの場所のようだ。
アキラが少し前までいたところ。ゲートも見える。
ゲートは損傷しているらしいことがわかった。
でもアキラがゲート停止の指示を出したのでゲートは動いていない。

「リリーの船はどこ? リアちゃん。リリーの船は見つかった?」
とアキラは聞くがこの付近には見当たらない。
あたりには岩石が浮遊している。
というか、岩石がかなりの速さで通過しているところだ。
どうやら超新星爆発の影響でこのあたりは危険地帯になっている。
アキラは、ガンマ線の濃度がどうなっているのかをリアちゃんに聞いてみることにする。
「ガンマ線の濃度はどうなの? リリーの船はこの岩石の影響で破損しているんじゃない」
とアキラはリアちゃんに聞く。
「ちょっと待って、この付近には岩石以外の物体はないようね。ガンマ線の影響はかなり高濃度になっているみたい。
でも、この船には対ガンマ線用のフィールドを展開済みだから大丈夫だと思うけど、
リリーお姉ちゃんの船にはまだそういうものは装備されていないし…
でも…まだリリーお姉ちゃんの船は見つからないわ。
もしかして、リリーお姉ちゃんはゲートで別の場所へ移動したという可能性はない?」

別の場所? ゲートは損傷を受けていて、リアちゃんの話が本当ならゲートをくぐれないはず。
「うーんわかんないよ。あっでもゲートの記録を調べればわかるかも…」
とアキラは、手持ちのカードをリアちゃんの船のコンソールへかざす。
「なによぉ。古い形式ねでも読めるわ。このカードの情報は、あのゲートの制御コンピュータへアクセスするためのものよね?」
とルビーはアキラに聞く。古い? 最新と思っていたのに…
「あっ気にしないで…」
とリアちゃんが言う。
ルビーがゲートの制御コンピュータにアクセスして情報を取り出す。
「あー。だめね。あちこち情報が破損している。超新星爆発の影響だわ。
でもわかったことがあるの。
ゲートの移動方向は、アキラお兄ちゃんが最後に通ったとき、このゲートより後に設置されたゲートへ向けて
オープンしたのよね。
でも最後の記録には、このゲートより前に設置されたゲートの方向へ切り替わっているわ」
どうしてゲートの方向が逆に変っているんだろうとアキラは思った。
「ねえ。大型コンテナを輸送した先も、このゲートより後に設置されたゲートへ向けて開いたの?」
とリアちゃんはアキラに聞いてきた。
「うん。そう。たしかそうだったはずだよ」
とアキラの答えをリアちゃんが聞くと
「もしかして、リリーお姉ちゃんは、逆方向のゲートオープンでこの領域から脱出したのかもしれない」
リアちゃんの答えを聞いて、アキラはなぜか聞いてみた。
「ゲートのオープンは3個の物体を使って行う。前に設置されたゲートの方向へ移動するには3個、
後に設置されたゲートの方向へ移動するには残り3個を使うの。
もしかして、残り3個の物体は損傷を受けていなかったのかもしれないわ」
とリアちゃんは言う。
アキラはこの付近にリリーの船がないこと、アキラが抜けてきたゲートから現れなかったことを推測すると
どうやらその可能性が高い。
「どこへ向かったかはわからない?」
とアキラは聞く。
「ごめん。データの損傷がひどくて、割り出しは無理みたいなの…」
どこの場所へ移動したんだろうとアキラは考えた。
「ねえ。ゲートの識別番号は船に積んであるの?」
とアキラは聞いてみた。
「うーん。普通はないわね。ゲートの識別番号は無数にあるし、母船に問い合わせたり、
最初から行きたい場所を登録しておくの」
とリアちゃんは言う。
それに、ミッションで使用していたゲートは全て、このゲートから見ると後に設置されたゲートばかりだし…
「あっそういえば、レースの前日に行った場所はどう?」
とアキラは思い出して、リアちゃんに言う。
「残念だけど、あの場所とこのゲートはつながっていないの…別系統なの」
とリアちゃんは言う。
うーん。じゃもしかして、やみくもにあて先のゲートの識別番号を入れてジャンプした?
それだと、どこに行ったのかわからない…。
でもジャンプした後に、そのゲートからアキラがいる地球へ向かうゲートへ戻ることは可能なはずだけど
でもリリーは戻ってこなかった。
「ねえ、このゲートより前に設置されたゲート。つまりこの一つ前のゲートへはここから行ける?」
とアキラは聞いた。
「最初にあたしたちが到着したゲートね。
このゲートへ問い合わせれば、識別番号を得ることはできる。
でもあたしたちが到着したときはリリーの船は見当たらなかったわ」
そうなのだが、念のためもう一度戻ってみることにする。
アキラはリアちゃんに簡易ゲートオープンを頼んだ。

アキラとリリーは簡易ゲートを使って、一つ前のゲートへ戻る。
「うーん。このあたりには船は見当たらないわ」
やっぱりか。もしリリーがいれば見つけているはず…
アキラはうーんと考えて、リアちゃんに言った。
「ねえ。ここのゲートに問い合わせれば、前に使用した船がいないかわかるんじゃない?」
とアキラは言う。
「そうね。そうだったわ。さっそくゲートに問い合わせてみましょう」
リアちゃんは、ゲートへコマンドを送信し、情報を送ってもらうように指示を出した。

「えーと、あたしたちより前に通った船はないわね。
かなりの間使われていなかったみたいよ」
とリアちゃんは言う。
くそっリリーはここへ来ていないのか…
じゃどこへ行ったんだ。
「ねえ。もしランダムにどこか違うゲートへ飛ばされたんなら、割り出すことは可能?」
とアキラは聞いてみることにする。
「無理よ。ゲートは無数にあるの。あたし達が一つずつ前に設置されたゲートへ移動しながら
探したとして、何年かかるか検討もつかないと思うの…
アキラお兄ちゃんごめんね。力になれなくて…」
とリアちゃんはうつむいてしまう。
くっどうしたらいいんだ。
「ねぇ。もう一度ゲートを開くときの画面を出して…」
とアキラはリアちゃんに言う。
なにかヒントはないか、画面を見ればなにかわかるんじゃないか?
画面には今まで通ってきたゲートの識別番号が入っている。
識別番号を新たに入力する場合は、5桁の数字を10個入力する。
腕を上げれば数字が増える。下げれば数字が減る。
右、左に腕を移動すれば桁が移動する。
アキラは、ふと全部の数字に0を入れたらどうなるんだろうと思った。
「ねえ、リアちゃん。ここの数字を全部0にしたらどこへ行くの?」
リアちゃんは、一呼吸の後、アキラを見る。
「えーとわからないけど、0は一番小さい数字よね。とすると一番最初に設置されたゲートへつながる?」
だとすると、リリーでも移動は可能だ。もしかしてそこへ行ったのか?
「ねえ。もしその可能性があるなら、行ってみる価値はあると思うの?
アキラお兄ちゃんはどう思う?」
とリアちゃんが言う。
エレーネ星人のリアちゃんが言うのならそのとおりかもしれない。
「行ってみよう。もしかしたらリリーがいるかもしれない…」
アキラはリアちゃんに再び、ゲートをオープンしてもらう指示をお願いする。
「ゲート識別番号00000.00000.00000.00000.00000.00000.00000.00000.00000.00000は現在ここからは通行不能です。
このゲートから移動可能な、最も古いゲートへ移動しますか?」
とコンソールへ表示が出る。
そうなら、リリーもそこへ行ったのかもしれない。
アキラは、リアちゃんにそこへ行くようにお願いする。
「じゃゲートを開くわ…」
リアちゃんが開いたゲートへ向けて、宇宙船を発進させる。
「ついたけど、ここにもリリーの船は見当たらないわね」
とリアちゃんが言う。
じゃリリーはどこに行ったんだよ。もしかしてすでに地球へ戻っているとか?
「ねえ、リリーはもうすでに地球へ戻っているんじゃ?」
とアキラは希望を込めてリアちゃんに聞いてみる。
「リリーのパパと離れるまえに、もしリリーお姉ちゃんが戻ってきたら教えてと
連絡してあるの。でも、連絡がないってことはまだ戻っていないと思うの…」
そうかあ。
じゃまた、このゲートを使った船がないかを調べてみることにした。
「このゲートもしばらく使われていなかったみたい。あれっこれは…」
とリアちゃんの言葉が止まったので、もしかしたらリリーの船を見つけたのかと思い、
アキラはリアちゃんに聞いてみる。
「どうしたの?」
アキラはリアちゃんの顔を見るが、少し様子が変だ。
「ねえアキラお兄ちゃん。これ見てくれる…」
リアちゃんが指をさす場所には、このゲートの識別番号が表示されている。
そして、次の行にはこのゲートより前に設置されたゲートの識別番号が、
その次の行にはこのゲートより後に設置されたゲートの識別番号が表示されている。
でもおかしい。3つの識別番号の値が同じだ。
「なんで3つの識別番号が同じなの?」
とアキラが聞いてみた。
「ありえないわ。だって、このゲートを使って、前の方向、後の方向どちらにもいけないことになるの」
それって、この場所からゲートで移動できないことになる?
でも変じゃないか、ゲートを使ってここへ来たのだから…
「別のゲートからこのゲートへ来ることは出来るの。その理由はきっと、
別のゲートの識別番号は正常だったから、つまり、来ることは出来ても帰れないということが起きるの…」
なんだって!!
そんな!!
でも、この船には簡易ゲートをオープンする機能がある。
「簡易ゲートを使って戻れるんじゃ?」
とアキラは聞いてみた。
「戻れるわよ。でも、簡易ゲートを開くのにエネルギーを使うの…
それに、あと簡易ゲートを開くことが出来る回数は2回。
この簡易ゲートで移動可能な距離はせいぜい2ゲート分しかないの…」
がーん。なんてこった。
万事休すだ。
簡易ゲートにも使用制限がある…
アキラは深呼吸してからこう言った。
「あ。あのさ。状況を整理すると…
僕たちは今リリーを探している。
リリーと一緒に地球へ帰ることが目標だった。
でも、僕たちはゲートで移動できない。
つまり、僕たちも地球に帰れない可能性があるということなの?」
リアちゃんのほうを見ると、うんとうなずく…
どうしよう。
とりあえず落ち着こうとアキラは考えた。

何か方法があるはずだ。
「ねえ、アキラお兄ちゃん? こんなことになってしまって申し訳ないと思っているの
あたしが、ゲートをくぐらなければこの場所へは来なかった…」
リアちゃんはうつむいて話をする。
「僕のほうこそ…リアちゃんをこんなことにまきこんでしまって…
でも僕はリリーが心配だ。今もどこかで困っているのかもしれない…
もしかして、僕たちと同じようにリリーもゲートで立ち往生している可能性はないかなぁ」
とアキラは、地球人の僕よりゲートのことに詳しいリアちゃんに聞いてみた。
「その可能性はないと思うわ…
こんなこと人為的にでも、ゲートの設定を書き換えなければ起こるはずがないもの…」
人為的に? でもだれが…
書き換える?
アキラはもしかして…とリアちゃんに聞いてみた。
「ねえ。リアちゃん?
このゲートの前か後に設置されているゲートの識別番号を書き換えることができる?」
そうなのだ、人為的に書き換えられたとすれば、この船からでも書き換えることは可能だとアキラは思った。
「あっそうね。やってみる」
とリアちゃんは、ゼスチャーを使って、ゲートの識別番号を書き換えることにする。
僕たちがこのゲートへ来る前に使ったゲートの識別番号を
このゲートの後に設置されたゲートの識別番号と置き換えることにすれば大丈夫のはずだ。
「え? なんでだめなの?」
リアちゃんの言葉を聞いて、アキラはコンソールを見る。
「アクセスが拒否されました。正しいアクセスコマンドを入力して下さい」
「なんでよ!!。他のゲートはこのアクセスコマンドでも大丈夫だったのに…」
どうやら、ゲートの識別番号書き換えは失敗したようだ。
「だめだったんだ…」
アキラはリアちゃんに聞く。
「なんで…どうして…
このアクセスコマンドは今の時代ならすべてのゲートで共通に使えるはずなのに…」
くーだめなのか。
アキラはこの後どうしようと思った。
ん? 待てよ。今の時代?。
アキラはリアちゃんの言葉を聞いて、リアちゃんに問う。
「ねえ。今リアちゃんは今の時代って言った?」
「えっ?」
リアちゃんは、アキラの顔を見る。
「今の言葉は聞かなかったことにして」
とリアちゃんは言う。
そういえば、驚くことがあっても詮索しないでねと言われている。
アキラは、リアちゃんの顔を見るが、今は聞いてほしくないという表情をしている。
リアちゃんは、エレーネ星人でアキラより9倍以上は大きい。
でもリアちゃんは地球人の年齢に換算して11から12歳ぐらい。
アキラより年下。まだ子供である。
アキラは
「わかった。ごめんね」
とリアちゃんに謝った。
今は聞いてほしくないらしい。
「うん。ごめんね。いつか話せるときが来ると思うの。
そうだわ。アキラお兄ちゃんおなかすかない?」
とリアちゃんは言う。
そういえば、最後に食事したのはリリーと一緒だったときだ。
「そうだね…」
リアちゃんは、リリーと一緒に食べたことがあるパンみたいな味がする物を取り出してきた。
でも、それはエレーネ星人サイズの物。
「ごめんね。この船には地球人サイズの物はつんでいないんだ…
あたしが、アキラお兄ちゃんの分を分けてあげる」
といって、リアちゃんはその食べ物をちぎって、アキラのために分けてくれる。
「ありがとう…」
アキラはリアちゃんからそれを受け取ると、口に含む。
それはリリーと食べたときと同じようにパンのような食感が口の中に広がった。
そういえば、リリーは今頃何しているんだろう…とアキラは思った。
リアちゃんはアキラのほうを見ている。
「アキラお兄ちゃんは、リリーお姉ちゃんのことが心配なんだね?」
とリアちゃんは、アキラの顔を見ながら言う。
「うん」
とアキラはそれだけ言うと、飲み物を口に運んだ。
リアちゃんは…
「ねえ。アキラお兄ちゃん。リリーお姉ちゃんは大丈夫だと思う。
あたしにはなんとなくわかるの。
でもリリーお姉ちゃんは、あたし達でないと救出できないのかもしれない…
だから、最後まであきらめないでなんとか頑張ってみようと思っているの…」
とリアちゃんは言う。
リアちゃんはアキラより年下だが、これではアキラのほうが年下のようだ。
「そうだね。リアちゃん。一緒に頑張ろうね」
とアキラはリアちゃんに言う。
そうだ。あきらめなければ、きっとリリーと再開することはできると信じて
出来る限りのことを頑張ってみようとこのときアキラは思った。

「ごちそうさま」
とアキラは食べ終わってから言う。
「ごちそうさま。
ねえアキラお兄ちゃん」
とリアちゃんは僕に声をかける。
どうやら、この場所から移動できる手段が見つかるまで、この船のエネルギーを
温存しておきたいのとリアちゃんは言う。
そうすれば、エレーネ星人1人、地球人1人の場合は3週間以上は、この船のエネルギーと
食料でまかなえるという。
それは船のエネルギーを節約しながらの場合だ。
「ねえ。アキラお兄ちゃん。この船の外はとても冷たいの…
この船内の温度を保つのにもエネルギーを使用している…
今後のことを考えて、体を休めておくのがいいと思うんだけど、
同時に船内の温度も寝ている間は最低の温度で保っておくほうがいいと思うの。
それに、この船には地球人用の席もないし、
あたしは、あたしの座席で保温用の布をかぶって寝ようと思うんだけど、
アキラお兄ちゃんは、あたしの体の上で一緒に寝たほうがいいと思うの…」
と言う。
アキラお兄ちゃん一人で寝るよりは、リアちゃんと一緒のほうが体も冷えにくいというのだ。
「リアちゃんが良ければ、こんな状況だし仕方がないと思うんだけど、
僕がリアちゃんの体の上で寝ても大丈夫?」
とアキラはリアちゃんに聞く。
もし寝返りでもうたれたらと思うとちょっと心配だ。
「あたしの体のほうがずっと大きいから、アキラお兄ちゃんがあたしの上で寝ても気にならないし、
それに宇宙船の座席を倒して寝るから、あたしは寝返りはうてないから、アキラお兄ちゃんも大丈夫だと思うの」
ということなら安心だ。
リアちゃんは、エネルギーを温存するために、船の大部分の機能をOFFにしてから、
船内温度を調整する。
船内温度が15度まで下がっても、それ以下の温度にならないように設定する。
「アキラお兄ちゃん。こっちに来て…」
とリアちゃんは手を伸ばす。
リアちゃんは、保温用の布をかぶる。
アキラはリアちゃんの胸の上だ。
アキラの上に布がかぶさり、視界が遮られる。
「アキラお兄ちゃん。暗いと思うけど、朝になるまで我慢してほしいの。
朝になるときっと船内温度も15度まで下がっていると思うから…」
とリアちゃんは言う。
「暗いけど、大丈夫だよ。僕の体の下にリアちゃんの鼓動を感じるから」
アキラは、リアちゃんの胸の上にいる。
リリーみたいにばいんばいんではないけど、リアちゃんは女の子。
アキラより9倍は大きい、女の子のやわらかい体の感触がアキラの体を包み込む。
それに、リアちゃんの鼓動の音も聞こえる。
そして、たまにリアちゃんのお腹が鳴る音も聞こえる。
そういえば、リリーのお腹の上に乗ったときも同じようにお腹の音が聞こえていたなと
アキラは回想する。
「じゃおやすみ」
とリアちゃんが言う言葉が聞こえる。
「おやすみ…」
とアキラは言葉を返す。
リアちゃんの規則的な呼吸のたびに、アキラの体ごと少し上下する。
アキラは規則的に動く胸、心地よく聞こえるリアちゃんの鼓動の音と体温を感じながら、眠りに落ちていった。

ん? なんだろ、ゆさゆさ体がゆれる。それに、夢の中でリリーの声が聞こえる。
こちらリリー。船体の識別番号は17456925。至急救援を求む...
ゆさゆさ。
アキラお兄ちゃん…
んー。もうちょっと、あと1時間寝かしてくれ…
ゆさゆさ。
んーん。
やっぱり起きないわねぇ。
ゆさゆさ。
アキラお兄ちゃん。ねえ。
ゆさゆさ。

おっゆれが止まった、このまま寝よう。ほどよくやわらかくて、あったかい。
このまま夢の中へ…
もう。しょうがないわね。この上にアキラお兄ちゃんを置いて…
という声がして、体が持ち上げられる感じがしたあと、やわらかい布のような物の上に下ろされた。
その布はほどよいあたたかさを保っている。
アキラは、背中が寒かったので、その布をたぐりよせる。

もしかしてリリーお姉ちゃん? こちらリア。応答して…
こちらリリー。船体の識別番号は17456925。至急救援を求む...
だめだわ。この音声は自動的に送信されている通信ね…
この通信の送信元の割り出しをしなくっちゃ…
あきらは、夢の中でこのような声を聞いているような、
それとも夢の中なのかわからない感じで、布にくるまりながら眠っている最中だ。
そんなとき、いきなり背中にやわらかい物があたったような感じがしたあと、
急にものすごい重さで体が押し付けられる。
肺の空気が押し出される。
「わわっごめん。アキラお兄ちゃんをお尻の下にしいちゃったよ!!」
というリアちゃん? の声がしたが、急にものすごい重さで押し付けられたので気を失いかける…
ゆさゆさ。
「ん? あ…」
とアキラは目をあける…
「良かった。ごめんね、座席の上にアキラお兄ちゃんを置いていたことをわすれて、
おもわず、上に座っちゃった!。大丈夫? 体潰れていない?」
げっさっきのはリアちゃんのお尻?、それでいきなり押し付けられたのか…
「いちおう…なんともないみたいだ」
さっきはものすごい重さが体にかかったため、肺の空気が一気に押し出された。
死ぬかと思った。地球人が子供のお尻の下じきになり圧死。
みっともない死に方だ。
「で、何かあったの?」
とアキラはリアちゃんに聞く。
またふんじゃったらいけないからと言って、アキラはリアちゃんの胸ポケットへと入るように言われた。
「これなの…」
「こちらリリー。船体の識別番号は17456925。至急救援を求む...」
これはリリーの声じゃないか…
でもその声はリリーのだけど機械的に繰り返されている。
それに映像はとても乱れている。映像をみるかぎりリリー本人のようだ。
「この通信は自動的に送信されているみたいなの…
そこで、この通信の送信元を割り出そうと思うの」
僕が寝ている間にこの通信が届いていたとは…
「リアちゃん、解析をお願いできるかな…」
んーんとアキラは体を伸ばす。
いてっなんかあばら骨のあたりがいたい。さっき押し付けられたから?
でも折れているとかいうのではなさそうだ。
まあいいか、今はリリーの居場所を割り出すのが優先だ。
アキラはリアちゃんの胸ポケットの中からコンソールの表示を見る。
そこにはいろいろと情報が映し出されている。
「わかったわ。発進場所は、簡易ゲートを使っても行ける距離よ。
アキラお兄ちゃん。その場所へ行ってみる?」
リアちゃんは、アキラに聞いてくる。
アキラはもちろん行くとリアちゃんに言った。