「もちろん行く」
その場所にリリーがいるのか…
「簡易ゲートオープン、あて先の座標セット、
オープンまでカウント20」
といつものとおり簡易ゲートの準備をする。
2、1、0
「リリーの船はいる?」
アキラはリアちゃんに聞いてみた。
「あれっ。発信源はこのあたりなんだけど…」
リリーの船は見当たらない。
「あれは?」
アキラは、光学カメラに何か小さい物が映し出されているのに気が付いた。
「えっどこ?」
リアちゃんは気がついていないようだ。
光学カメラに映し出されている映像はアキラから見るとでかい。
その分、アキラは光学カメラに映し出されている小さい物もよく見える。
リアちゃんから見ると、工学カメラに映し出されているその物体の大きさは1/10だ。
だからリアちゃんは気がつきにくいとのかとアキラは考えた。
「もうちょっと、前進して、少し左のほう…」
アキラはその物体の近くまで誘導する。
「あっあった。これは緊急時に使う信号発生装置ね…
とりあえず回収しましょう」
とリアちゃんは言って、アームの操作をする。
そしてその物体を回収した。
「うーんなんでこんな物がここにあるんだろう、リリーはここにいたことになるのかなぁ?」
アキラは、リアちゃんに操作してもらって、このあたりに船がないかを探してもらうが、
船は見つからない。かわりに、この船でも行ける距離にゲートがあるのがわかった。
「わからない。でも何か手がかりになるかもしれないわ。
幸いゲートも、この船で2時間進めば到達できる距離にあるし…」
とりあえずゲートへ向けて進みましょうとリアちゃんは言う。
アキラはなんか意図的にどこかへ誘導されているような気もしてきたが、リアちゃんには言わないでおくことにした。

そして2時間後。ゲートに着いた。
「これからどうする?」
とアキラはリアちゃんに聞いてみた。
「ゲートがあるから移動はできるんだけど…
リリーが今どこにいるのかわからないからあて先をどこへ設定したらいいのかわからないの…」
そうだ。手がかりは信号発生装置のみ。
記録されている映像は、寝ていたときに受信していたものと同じ映像だけが入っていた。
アキラはその信号発生装置のまわりを歩く。
その信号発生装置は、エレーネ星人が手に持てるサイズだが、
アキラから見るとアキラの身長より大きい。
どうみても変なところはない。エレーネ製のもののようだ。
でも…これはと思うものをアキラは見つけた。
装置の側面に小さく地球の数字で5桁の数字を点でくぎった物が10個書いてある。
これはゲートの識別番号?
小さくてリアちゃんには見えないくらいの文字で書いてある。
「あっこれがヒントになるかもしれない!!」
アキラは、その数字を読み上げると、ゲートのあて先の識別番号に使えるかを
リアちゃんに試してもらうことにした。
今回は問いあわせるだけ、前のようにゲートで立ち往生しないように慎重に作業を進めることにする。
「大丈夫よ。あて先ゲートも正常。行ってみましょう」
とリアちゃんは調べてくれたので、ゲートで移動しても安心だ。
「そうだね。手がかりはこれしかないし…」
アキラとリアちゃんはゲートを使って次の場所へ移動する。

「うーん。特に気になるものは存在しないわね」
とリアちゃんはゲートから出てからアキラに言う。
リリーの船も見当たらない、何か他の物があるかと思えばそれも見つからない。
「今までの流れだと、なにか手がかりがあるはずなんだけど…」
とアキラは考える。何か物体がないかと光学カメラの映像に目をこらす。
何もない。
あるのは星ばかり…
「うーんわかんないわ」
とリアちゃんは言って、自分の席のリクライニングを水平近くまで倒して、宇宙船の天井を見ながら考える。
席を左右にくるくると回転させながらなにかないかと考える。
「あれっ今なにか見えたような…」
リアちゃんは前方の光学カメラの映像をそのままの状態で見る。下のほうから斜め上に見上げるように表示を見る。
リアちゃんはもう一度席を左右に動かす。
「あー星が…」
リアちゃんが突然声をあげる。何かみつけた?
これだわと言って、リアちゃんは手持ちの撮影装置を自分の目線の位置に構えてボタンを押す。
アキラはリアちゃんの胸ポケットの位置から見るがなにがあるかわからない。
映像は見る角度を変えると違う角度から見た星空に切り替わるという物だ。
だから頭の位置を少しずつずらしていくと、ちょうど中間あたりの位置では両方の映像が重なって表示される。
「重要な恒星系を示す図が10個見えるわ。うーんとこれをどうすればいいのかなぁ」
とリアちゃんは言う。
どれどれとアキラも見るがアキラにはただの図形にしか見えない。
ルビーもリアちゃんの近くに寄ってきた。
これは15433番目に見つかった恒星の図ね、こっちが27336番目…
アキラとリアちゃんは顔を見合わせる。
それか!!
「ねえルビー左から順番に何番目に見つかった恒星系かを教えてくれる?」
「ほい了解」
とルビーが数字を読み上げる。
リアちゃんはルビーが読み上げた数字をゲートの識別番号の欄に入力していく。
14533.27336.54221.33442.14578.22785.44217.31759.36022.36023
そしてゲートの識別番号に使えるかを問い合わせる。
「OKよ。有効なゲートだわ。また行ってみましょう」
リアちゃんはゲートオープンの指示を出して、ゲートへと船を発進させる。
絶対意図的になにかある。
アキラは確信した。
ゲートから出たらいつもどおり、あたりにリリーの船がないか何かないかを探す。
ここにも手がかりはない。
また、リアちゃんは席のリクライニングを倒して、光学カメラの映像を見てみるが
それといって普通の星空だ。
「ないわね。じゃこのゲートの使用記録を調べましょう」
と言ってリアちゃんは記録を調べ始める。
「あっあった。えっでも…そんなありえないわ」
「ねえどうしたの? リアちゃん?」
リアちゃんはアキラの顔を見ると少し困った顔をする。
「ねえ、リリーお姉ちゃんの船の識別番号を見せてくれる?」
アキラはカードに入っていたリリーの船の識別番号を読み上げる。
そして信号発生装置に記録されていた番号も同じだ。
「うーん。行くことは可能だけど…でも…」
とリアちゃんは独り言を言っている。
なかなかアキラには教えてくれない。
「よしっ決めたわ。えーとたしかここに…あった。アキラお兄ちゃん?」
とリアちゃんが呼ぶ。
「何かわかったの?」
とアキラはリアちゃんの胸ポケットの中から見上げる。
リアちゃんは手をアキラにさしだして、アキラを手の上に乗せる。
「アキラお兄ちゃん。ちょっとごめんね」
とリアちゃんは、見慣れないものを近づけてくる。
そして、かちっと音がしたと思うと、だんだん意識が遠のいていく。
「リアちゃん…」
アキラはリアちゃんの手の上に倒れてしまった。
リアちゃんは再び胸ポケットの中にアキラを入れると、ルビーに向かって指示を出す。
そして、20分後アキラは目覚める。
「あれっなんで寝ていたんだろう…」
アキラは胸ポケットから顔を出してみる。
「あっ気がついたのね。もうさっきのゲートから移動した後よ」
とリアちゃんはアキラに向かって言う。
「あっそうなんだ。なんで寝ていたんだろう…あ、でもゲートを移動したんだよね。
このゲートについてから何か見つかった?」
「うん。今から1時間前にこのゲートを通った船がある。間違いなくリリーお姉ちゃんの船だわ…」
じゃもうすぐでリリーに会えるんだ。
「ゲートでリリーが向かった先へ行こう!」
とアキラは言う。
リアちゃんはゲートの記録をみながら不思議な顔をしている。
でもリアちゃんは、アキラの言葉を聞いて、ゲートオープンの操作をして船を進める。
ゲートをくぐる。
ゲートの周りにはリリーの船が見あたらない。
また、物体がないか、何か手がかりがないかを探す。
それも見つからない。
「何もない?」
アキラはリアちゃんに聞いてみる。
「そう。何もないの。ゲートの使用記録を調べてみるわ…」
とリアちゃんはゲートの使用記録を調べてみる。
「あった。でもまた…」
リアちゃんは、ルビーを見る。
その後、ルビーがアキラへ近づいてきて
「いきなりヘッドロック…」
と言いながら立体映像のルビーはアキラにつかみかかる。
あっ意識が…
アキラはくたっとなる。
「ごめんね。アキラ」
と声が聞こえた気がした。
「んあ」
まただ。さっきから移動する前に意識を失う…。
「ごめんねアキラお兄ちゃん。ルビーがいきなりあんなことをするから…
アキラお兄ちゃんのびちゃったじゃない」
とリアちゃんは言う。
なんなんだよもう。あの立体映像は…
「んー。えーとなにかわかった?」
アキラはリアちゃんに聞いてみた。
「今から一時間前にリリーの船が通った記録があるの…
どうやらゲートの識別番号を見ると次向かった先はゼロポイントらしいの」
ゼロポイント?。識別番号にはすべて0の数字がならんでいる。
一番最初に設置されたゲート。
「今度こそリリーと会えるんだね?」
とアキラはリアちゃんに聞く。
「そうだと思うわ。
そしてあたしは隠していたことがあるの…それを今から話すわ…」
とリアちゃんが話し始めた。
「あのね。リリーの船は少しずつ時間をさかのぼりながら、ゲートをくぐっているの…」
今なんて…
「どうしてそんなことが…」
「あくまで推測なんだけど、ゲートのテクノロジーはあたしたちが作ったんじゃないの。
別のどこかの星の人が作ったのだと言われていて、
あたしたちは前からあったゲートを解析して、自分たちで使用できるようなものを作っているの、
でも動作原理がわかっていないところもあるけどね」
とリアちゃんは言う。さらに続けた。
「ゲートは空間だけではなくて、時間も移動できるみたいなの。
でも通常は移動しようとする船に積まれている、絶対時間を表す装置があって
それを元に、ゲート移動時の時間のゆれを補正しているの」
リアちゃんはちょっと言葉を句切ってから再び話し始める。
「おそらくリリーの船の絶対時間を表す装置が故障していて、
ゲートで移動するごとに、地球の時間で300年ずつ過去にさかのぼってしまうことになっていると思うの…」
300年? ちょっと待ってよ。
「リアちゃん? ゲートの使用記録を見て変な顔をしていたのはそれ?」
アキラは気になっていたことをリアちゃんに聞いてみた。
「うん。そうなの…普通はありえないから…
時間をさかのぼっているのはゲートの使用記録からわかったの。
ゲートごとに使用時間を調べるとちょうど300年だったの」
ということは、ゲートで移動してもリリーのいる時間とあわないから、
リリーと会えないことになるんじゃないか?
アキラはリアちゃんにそのことを聞いてみることにする。
「ねえリアちゃん。移動してもリリーと会えないってこと? 時間軸が違うから…」
リアちゃんはううんと首を振って違うのと言う。
「あたしは、アキラお兄ちゃんがいる時代の住人ではないの…
アキラお兄ちゃんがいる時代から14年後の世界から来たの」
えっもしかして未来人ってこと?
アキラは信じられないと思ったがこの船のテクノロジーを見ても、現在のエレーネの技術より進んでいることは明らかだ。
「もしかして、リアちゃんは…」
「だめ…はっきりとは言えないけど…これを見て…」
リアちゃんはルビーに合図を送ると、ルビーが近づいてきた。
アキラはまたヘッドロックをくらうんじゃないかと思って警戒する。
「大丈夫よぉ。もうしないから…これを渡したいだけ…」
これはリアちゃんからだいぶ前にもらった記録カードと同じものだ。
たしかリアちゃんのおじいちゃんが作っているという試作品。
「あのね。記録されている内容を見てほしいの…」
とリアちゃんは言う。
アキラは記録されている内容を表示させる…
あっ僕が持っているカードに記録されている内容と同じだ。
もしかして、双方のカードはリンクしている?
アキラはそう思って、リアちゃんのほうを見る。
「違うの…2つのカードは同一の物よ、あたしは未来からそのカードを持ってきたの」
「えっリアちゃんが僕にくれたカードも、リアちゃんからもらったから未来から持ってきたということになるけど…」
アキラはリアちゃんが言うことを理解できなかった。
「違うの。ルビーから渡されたカードは、アキラお兄ちゃんが持っているカードから見て14年後のカードになるの…」
ということは2つのカードは同一の物?
とすると、僕の持っているカードに入力すれば、未来のカードにも結果が反映される?
アキラは自分が持っているカードに何か記録してみることにした。
あっ未来のカードにも同じ内容が記録される。
試しに、未来のカードに情報を記録してみるが、アキラが持っているカードにはその情報が反映されない。
過去に起こったことは未来にも反映されるが、
未来のことは過去に反映されないということか…
リアちゃんがこのカードを持っていたということは内容を読まれた?
「もしかして、内容を読んじゃった?」
アキラはリアちゃんに聞いてみた。
「うん。ごめんね。アキラお兄ちゃんとリリーお姉ちゃんのこと、チャンスシステムのこと…
それとアキラお兄ちゃんとリリーお姉ちゃんが仲が良いこともね…」
それを聞いて、チャンスシステムのことも知られちゃったのかとアキラは思った。
でもたしか、チャンスシステムのことは記録にも残らないんじゃ?
アキラはわからないやと思った。何か特別なことが起きているんだろうと…
それと、リアちゃんが言っていた、僕とリリーのこと?
アキラは顔が赤くなった。リリーの胸に顔を埋めたことや、リリーのおっぱいにつぶされそうになったこと
ツイを取ろうとして、リアちゃんのお尻の下敷きになったことも書いていたからだ。
「あっ顔が赤くなったよ」
とリアちゃんは言う。
「もー。そのことは読まなかったことにして…」
と言うのがやっとだった。
あっでも、未来から持ってきたカードなら、このカードに記録した情報は残っているはず。
未来の時点ではもっと情報が記録されていた? つまり、今現在のことよりも未来に関する情報がわかるんじゃ?
「ねえリアちゃん? このカードには、未来。つまりこれから起こることが書いていなかった?」
リアちゃんは、
「たぶん書いてあったと思うけど、アキラお兄ちゃんのいる時代に来てしまったから、
今現在の状況が、このカードに反映されているだけね」
とリアちゃんは言う。
「あともう一つ。今あたしたちは、アキラお兄ちゃんがいる時代から換算して1500年前にいるの」
えっそれって…
「つまり僕たちもすでに時間を移動した後というの?」
「そう、この船にはその機能があるから…
だから、あたしたちでないとリリーお姉ちゃんを助け出すことはできないの」
そうか、リリーがゲートから出てこなかった理由がわかった気がした。
「ということは、リリーはゲートを使って移動できるけど…
そのゲートから後に設置されたゲート、つまり将来設置されるはずのゲート方向へは移動できない。
過去に設置されたゲートへのみ移動できる。
そして、リリーは過去へさかのぼっていることを知らない。
そして最後に行き着くのが最初に設置されたゲート。つまり認識番号がすべてゼロのゲート。
でも、それじゃ直接ゼロのゲートへ移動したらいいのではと思うけど…」
とアキラは考えたことを言う。
「そうなんだけど、ゲートからゼロのゲートへつながる航路が故障している系統が多いの。
ゼロのゲートが設置されたのは一番最初だから…
それに、直接ゼロのゲートへ行ってもいつの時代にリリーがいるのかわからない…
でも使用記録から、リリーが次に向かったのはゼロのゲートになっている。
今からさらに300年前のゲートにね…」
「そうなんだ。じゃあリアちゃんとルビーに眠らされたのは、時間を移動するため?」
「ごめんね。そのときは知られたくなかったの…
でも、カードの記録を読んで、チャンスシステムの影響で、関連する記憶をなくすとわかったから、
未来には影響がないと判断して話したの…」
そうなんだ。それだとリリーの願いは、この一連のことに関係している?
「問題が解決すると、リアちゃんのことは忘れてしまうんだね?」
「残念だけど、そうみたいね。でもこのカードにはなぜか、記録したことが残っているらしいの。
時間を超えても、そのカードから見て確定された現象は記録がそのまま残っている。
だから、ここに来たの。
あたしは、あたしの時間軸から見て7日前にこのカードを見つけたの。
そしてカードに記録された内容を読んで、あたしのことが書いてあったからびっくりしたの。
時期はあたしの時間軸から見て14年前。あたしは過去へ行ったことはないし、ちょうどママが
映画の撮影で留守にすること、パパも仕事で隣の星系へ出張することになったし、ちょうどいいと思ったの。
そして準備をして、自分の宇宙船にカードとおじいちゃんから借りた道具を積んで飛び立ったの…」
そうだったんだ。
7日前といったら、ちょうどリリーがチャンスシステムのお願いをした日にあたるんじゃないかとアキラは思った。
「アキラお兄ちゃん。今まで聞いたことをアキラお兄ちゃんが持っているカードに記録してほしいの。
それとルビーから渡されたカードを返してくれる?」
ああ、そうだ。
「はいカード」
アキラはルビーの手の上にカードを乗せる。
「受け取ったわよ。リアの言ったことお願いね」
と言ってルビーはリアちゃんの元へと飛んでいった。
「アキラお兄ちゃん。今言ったことは、リリーお姉ちゃんにしばらくの間、内緒にしてくれる?
あたしの正体を知っている人はできるだけ少ないほうがいいと思うの…」
「うん。わかったよ」
とアキラは返事をして、自分が持っているカードへ、今までのリアちゃんから聞いたことを記録する。
それに、アキラがリリーとはぐれてしまった後、
リアちゃんと一緒にゲートをくぐりながら、今まで探した航路とゲートの識別番号を記録する。
「あたしたちは、ゼロポイントへ向かう前にやっておかなければいけないことをしようと思うの…
あたしたちはなぜここのゲートまで来ることができたのか。それを調べなければいけないの…」
そうだ。どうみてもこのゲートまで誘導されたかのように思える。
「誘導したのは誰だろう?」
とアキラはカードに記録しながら言う。
「それは、エレーネのことがわかって、地球の文字も書ける人。
それに、ここのゲートにたどり着くまでの経路と方法を知っている人。
それを考えると、あたしたちしかいないと思うの…」
そうか、これから過去の僕たちをこのゲートまで誘導しないといけない。
「ねえ、ということは今まで来た経路を戻ることになるの?」
とアキラはリアちゃんに聞いてみた。
「そうなると思うけど、ちょっと難しいの。
考えてみて、あたしたちはここにたどり着くまでにゲートを使用してきた。
ゲートの使用記録を見ながらここに到達したわけだけど…
過去にあたしたちの船が通った痕跡はゲートに残っていなかった。
ということは、あたしたちはそのゲートを使わずに移動するか、
あたしたちが過去に通った時点から未来の時間軸において、そのゲートを使用するしかないの」
うーん。時間がからむと話がややこしくなるな。
つまり、下手に動き回ると痕跡がゲートに残って歴史が変わってしまうことになる?
たぶんそういうことなんだろう。
難しいなぁ。
でも、僕たちが、過去の僕たちをきちんと誘導しないといけないのは事実だし…
うーん。未来の僕たちならどうやって解決したかを知っているはずなんだけど…
とアキラが考えていると…
「そうだわ。あの手があるわ。必要な物は持ってきているわね…
ねえアキラお兄ちゃん。これからあたしと別行動になるけど、
必要な指示はあたしが出すからやってくれる?」
「えっ何かいい方法があるの?」
とアキラはリアちゃんに聞いてみた。
「あたしは、アキラお兄ちゃんと別行動をするの。といってもあたしは今から8時間後の未来へ
船を使って飛ぶの。すると、あたしとアキラお兄ちゃんの時間軸は8時間ずれる。
つまりあたしが持っているカードは8時間後の結果が反映されていることになるの。
あたしの船と、この船に備え付けてある緊急脱出用宇宙船には時間軸を越えて通信する機能があるの。
あたしはカードを見ながら必要な指示を出すから、アキラお兄ちゃんはあたしのいう通りに行動して、
行動した結果をカードへ記録していけば、きっとうまくいくと思うの…」
うーん難しいけど、僕がカードへ記録するとリアちゃんが持っているカードにもその状態が反映される。
僕よりリアちゃんが未来にいる時は、カードの時間軸が8時間ずれていることになるから、記録された情報に
時差が生じるというわけなのか?
「難しいけどなんとなく理解はできたよ。もうこうなったらやってみるしかないね。
僕はどっちの船に乗ればいいの?」
とアキラは聞く。
「緊急脱出用宇宙船も時間軸を移動する機能があるから、アキラお兄ちゃんはそっちの船に乗ってほしいの。
ルビーをサポートにつけるから。アキラお兄ちゃんでも動かせると思うの…」
「わかった。じゃ僕はリアちゃんの指示を待つよ。じゃ行って来る」
とリアちゃんに別れをつげて、アキラは宇宙船に乗り込み、宇宙空間に出る。
「あたしとアキラお兄ちゃんは8時間後にまた会えると思うから、それまでの間がんばろうね」
とリアちゃんは通信で別れを告げる。

その後、アキラの乗っている宇宙船の光学カメラからリアちゃんの船の姿が消えた。
「リアちゃんがいないと心細いな」
とつぶやく。
「何言っているのよ。もう男の子でしょう。もう少しで通信が入ると思うから…」
と声をかけてきたのはルビーだ。
ぴぴぴ。
ぴぴぴ。
とリアちゃんから通信が入る。
「こちらリア。アキラお兄ちゃん聞こえる?」
リアちゃんからの通信だ。
「無事に移動できたんだね」
「そうよ。カードを見ると、きちんと記録されているわ。これから指示を出すね」
とリアちゃんからの指示を聞く。
カードに記録された情報によると、まずは時間移動をしなければならない。
その後は、指示のあるゲートの識別番号へ移動する。
その後、再び指示を出すわと言う。
「ねえ。ルビー。この時間軸へ移動した後に、このゲートへ移動して」
「合点了解よ。えーと472年後に移動した後、このゲートまで、移動すればいいのね」
この船でも簡易ゲートをオープンすることができるようだ。でも使用回数は2回だけだ。
時間移動も2回まで。
「れっつらごー」
とルビーは声を出して、時間移動と簡易ゲートでの移動を行った。
ぴぴぴ。
ぴぴぴ。
リアちゃんから通信だ。
「はろー。リアちゃんこちらルビーよ」
「こんにちわ。ルビー。アキラお兄ちゃん次の指示をだすわ。
あたしたちが光学カメラで、過去に見つけた恒星系の順番をゲートの識別番号に置き換えた場所を覚えている?」
「ああ、あそこね。覚えているよ」
アキラは答えた。
「あそこから、ちょっと離れたところにある恒星3つに、ある物体を投下してほしいの。
必要な物はすでに積んであるから、ルビーにまかせれば問題ないと思うの…」
「わかった。物を投下した後、その恒星はどうなるの?」
とアキラは聞いてみた。
「その恒星系には生命はいないから影響はないんだけど、恒星はその時間軸からちょうど958年後に超新星爆発を起こすの。
ちょうどその光があることで、ゲートの識別番号を割り出すことが可能になるの」
うわぁそんなことをしてもいいのかなとアキラは思う。星を爆発させるなんて…
スケールがでかすぎる。
でもしょうがない、過去にあったことだし。
とアキラはルビーと協力して、その任務を果たすことにした。
幸い近くにゲートがあるので、そのゲートを通って場所へ移動することができる。
「ふう。おわったよ。リアちゃんに回線をつないでくれる?」
「あいあいさー」
とルビーは回線をリアちゃんの宇宙船とつなぐ。
「アキラお兄ちゃん。お疲れさま。じゃ次はゲートを3つ経由して移動した後に、
時間軸をアキラお兄ちゃんがいる時間から、ゲート経由で1028年未来へ移動してくれる? でも日付はあたしたちがそこに到着する一日前」
「どこのゲートへ行くの?」
「あたしたちがゲートで立ち往生した場所のそばにあるゲート。ただし、そのゲートはあたしたちは通っていないわ」
了解とアキラは返事して、指示されたゲートへ向かう。
「ついた」
リアちゃんも常に、僕が存在する時間より常に8時間後の未来に移動しなければ、指示が出せないのでゲートを使って移動しているはずだ。

ぴぴぴ。
とリアちゃんから通信が入る。
「ついたのね。そこから通常航行で1時間ほど移動した場所に、あたしたちが立ち往生したゲートがあるの。
ゲートのアクセスコードは普通の物と同じだから、これからゲートの改変に必要なコードを送るわ。
コードを受け取ったら、ゲートのアクセスコマンドを書き換えて。その後書き換えたアクセスコマンドを使って、
ゲートの宛先を、このゲートの識別番号と全部同じにしてほしいの。了解?」
「うん。わかった。でもゲートをこんな風にしたのが自分たちだなんて…思いもよらなかった…」
「そうね。でも仕方がないの。じゃお願いねアキラお兄ちゃん」
リアちゃんとの回線を切った後移動する。
ゲートの改変は何事もなく無事終了。あとはさっき出てきたゲートに戻るだけだ。
アキラがゲートに戻ると、見覚えのあるピンクの宇宙船がいるのに気がつく。
「あたしよ。アキラお兄ちゃんが必要なことを終えたから合流するわ」
「ふー。了解。回収のほうはお願いしようかな」
とアキラは回線を切った。
「ただいま」
「おかえり、アキラお兄ちゃん。さてと、後はこの信号発生器をゲートのそばに設置するだけよ。
これで、過去のあたしたちはあのゲートへ合流できるはず…」
リアちゃんは、信号発生器を設置するゲートへ移動するために、簡易ゲートのオープンをする。
「簡易ゲートの残りのオープン可能な回数は?」
アキラは聞いてみた。
「ぎりぎり2回分しか残っていないの。でも大丈夫よ」
とリアちゃんは言って、ゲートをオープンさせる。
よし。ついた。
あとは信号発生器をセットして、緊急映像を流すだけ…
「じゃさっきのゲートまで戻りましょう」
とリアちゃんは言って、簡易ゲートを再び開いた。
「これでうまく行くといいのだけど…」
とアキラは、カードを取り出して、記録をしようとした。
あれっおかしいな。記録したはずなのに記録が途中で止まっている。
ルサーラのレースに参加する前日の朝の記録だ。
「大変!!。アキラお兄ちゃん。いる?。いたら返事して…」
リアちゃんの声がする。
「僕はここにいるよ」
アキラはリアちゃんに返事をした。
「良かった。あたしがカードを見たら、記録が書き変わっているの。アキラお兄ちゃんのカードも同じ?」
僕は、ルビーに抱えられて、リアちゃんの顔がある位置まで持ち上げられる。
「僕のも消えているよ。まったく同じだ。でもどうして…」
レースに参加する前日の記録までは残っている。
「なんで今頃になって、カードの記録が書き変わったんだろう?」
アキラは疑問を声にだす。
「あたしの予想なんだけど、あたしたちがさっきまでしてきたことによって、
あたしたちは、ゼロポイントのゲートまで誘導される準備が整ったことになるの。
そこまでの未来は確定されたというわけね。
でも、あたしたちの過去に問題があって、その影響が表れていると思うの。
ようするに過去の影響は未来に反映される。過去に何かあったから、
あたしたちのカードにその結果が反映されているの」
ん? じゃあなんで今までその影響を受けなかったんだろう。
「原因と結果のループが一つ解消したからだと思うの。
考えてみて。あたしたちは未来のあたしたちに導かれて、ゼロポイントのゲートにたどり着くことができた。
ゼロポイントのゲートにたどり着いたあと、過去のあたしたちを導くために行動をした。
そして、それはさっき無事に終えることができた」
うん。そうなるね。
「そうだけど…なんでカードが書き変わったかがわからない…」
「うーんわかりやすく言うと、あたしたちが導くためにやらなければいけないことを実行中の間は、
過去との時間軸上の影響が切り離された状態になっているの。
そして、原因と結果のループが1つ解消したから、過去との時間軸上の影響が切り離されていたのが、
元に戻ったと思うの…」
ぐぉー難しい。でも過去の影響が表れ始めたとすると、僕たちの存在自体が危ないんじゃないか?
「そういう可能性もあるわね。でもあたしは未来から来た。そのときはカードに記録が残っていたはず。
ということは、この問題は回避可能だと思うの」
とりあえずルサーラのレースの前日の朝まで戻りましょうとリアちゃんは言った。

ふー。なつかしい。地球だ。
アキラとリアちゃんは何個かのゲートを乗り継いで、地球にたどり着いた。
でも、時間軸上は過去になる。

時間は早朝。
施設の前にいる。
「さっそくこの道具が役に立つわね」
とリアちゃんは、ある道具を取り出した。
「それは?」
「スルー。これをつけると、他の人から認識できなくなる。ちょうど今のアキラお兄ちゃんの状態と同じね…」
ああ、ほかの人から気にならなくなるというあれか。
「入るわよ。アキラお兄ちゃんは胸ポケットの中で観察してもらうことになるけど…いいわよね」
うん。それでかまわないとアキラは言った。

リアちゃんはそーと。リリーの部屋に入る。
「あ。あれあたし。そしてアキラお兄ちゃんもあそこで寝ているわよ」
ほんとだ、ここからだと遠いけど、あれはいつも僕が使っていた簡易ベッド。
あっリリーが僕に近づいている。
何をしようとしているんだろう。

「んもう。全く起きないわねぇ。おーいアキラ君。もう9時よ。起きなさーい。ほらっ今日は宇宙船で出かける日でしょう」
ゆさゆさゆさ。
あっ朝ああやって、起こそうとしているんだ。
なかなか起きないなあ。あんなにリリーの指で揺らされているのに…
「起きないと、あたしがアキラ君をパンにくるくるってくるんで食べちゃうぞー」
ゆさゆさゆさ。
リリーは立ち上がって食パンを持ってきた。
そして、アキラがくるまっているタオルを引っ剥がす。
そうだ、あの後胡椒まみれになるんだった。
「リリーお姉ちゃんひどいわね。いくら起きないからって言って」
「そうだね…」
アキラは久しぶりに見るリリーの姿を見て、リリーのそばで寝ている自分をうらやましく思う。
「はっくしょん。はっくしょん」
この声は自分の声?
やっぱり声を聞くと違うなあと思う。
ビデオに撮った自分の声を聞くと違うふうに聞こえる。
そのあとは、リリーと僕のいつもどおりのやりとりをしているときに、
その時代のリアちゃんが起きてきた。

「あー。あたしが起きてきた。まだ起きたばかりだから、髪もぐちゃぐちゃだわ。恥ずかしい…」
女の子。気になるらしい。

その後、僕はリアちゃんにつれられて、バスルームへと連れて行かれた。
リリーはどうしているのかと見ると、テーブルの上を片づけた後、パンを調理してサンドイッチを作っているようだ。
「あっそうだあれももって行かなくちゃ」
とリリーは言って、ビールの缶と甘酒の缶を持ってきて保冷庫の中に入れる。
やっぱりリリーは飲んべえだなぁとアキラは思った。
みしっつ。
リアちゃんがちょっと動いたときに床がたわんで音が鳴ってしまった。
「ん?」
リリーが振り向き、こちらのほうを見る。でもリリーは気がつかない。
「ふー。良かった」
「ばれていないね」
リアちゃんと僕は目をあわせた。
「ところでこの後どうなったんだっけ」
「えーと。この後は準備をして、この部屋を出たと思うんだけど…」
とリアちゃんは考え込む。そしてリアちゃんは思い出す。
このあとあたしはうれしくて、廊下を駆けていて転んだんだわ。
そのときは、胸ポケットにアキラ君は入っていなかったから、助かったんだけど…
あれっ本当にそうだったっけ。
「もしかしたら…」
リアちゃんは、今のように胸ポケットにアキラお兄ちゃんを入れたまま、転んだのかもしれないと言った。
「それってもしかして、そのときに僕になにかあった?」
「カードの記録が今朝までしかないとすると、そこしか考えられないの…
あたしが転んだとき、アキラお兄ちゃんはあたしの胸ポケットにいて…
そして、転んだときに潰しちゃった?」
アキラはリアちゃんの顔を見上げる。
僕も最初にリアちゃんのポケットに入ったのか、リリーのポケットに入ったかがあいまいだ。
「だとすると、回避しなくちゃね。何か使える物はないかしら…」
とリアちゃんはカード(リアちゃん用のカードだ)を出して、調べ始めた。
「これよ。そういえば。リリーお姉ちゃんが持ってきた道具の中にあったわね」
リアちゃんは部屋の中を移動してリリーが持ってきた道具の箱を開ける。
取り出したのは、人形のような物。
「これは…人形みたいな物。でも使い方がわからないって言っていたよ」
リアちゃんはカードを取り出して
「ここに載っているの。この人形は身代わり人形。何かあったときに、登録した人とこの人形を入れ替える機能があるの」
いまのうちにこの人形を仕込んでおきましょうとリアちゃんは言う。
リリーは今調理中だ。リリーの服の胸ポケットの中にこの人形を入れる。
この人形にアキラを登録する。
これで大丈夫なはずだけど…

「じゃあ行くわよ。ほらっ」
とリリの声が聞こえる。
アキラは、リアちゃんの手に捕まって、リアちゃんの胸ポケットに入る。

「あっやっぱり…」
僕とリアちゃんはその光景をちょっと離れたところから見る。

リアちゃんはうれしくて、早く早くと言いながら駆け出す。
「走ると危ないわよ」
とリリーの声が聞こえる。
「わあっつと」
とリアちゃんの声が聞こえて、びたんとリアちゃんの体は前のめりに倒れてしまう。

「あっちゃー。やっぱり転んでしまったわ。あの様子だと、手で受け身とか取れなかったから、
きっと、あたしの胸と床の間にアキラお兄ちゃんは挟まっちゃっているわね。
あの勢いだと、アキラお兄ちゃんがポケットの中にいたらひとたまりもないと思うの…」

アキラはその光景を見ていたがあの分だとぺったんこだろう。
その後、アキラはリリーのほうを見ると、リリーの胸ポケットから身を乗り出している僕の姿が見える。
どうやら身代わりは成功したようだ。
だから、あのあたりの記憶があいまいになっているんだ。とアキラは思った。

「ねえ。リアちゃん。僕がポケットに入っているときは走らないでね」
とアキラは怖くなったのでリアちゃんに言う。
「うん。あんなことは体験したくないわ…。気をつけるね」
と言いながら、リアちゃんはカードを取り出す。
「良かった。カードの記録が書き変わっていくわ…」
とリアちゃんが言うので、アキラもカードを確認する。
ほんとだ、記録内容が戻っていく。良かった。
「良かった。リアちゃ…あっ」
アキラは手元に持っていたカードの感触がなくなったので、手元を見るとカードが消えてしまっている。
なんで!!
「あたしのカードも消えたの…」
ということは、原因と結果のループ(2つ目)が解消されたから、それより過去の状況が反映されている?
「カードが消えた。消えたということは、あたしがアキラお兄ちゃんにカードを渡していないことになる?」
どうやらそういうことらしい。
リアちゃんはいったん。リリーの部屋へと戻ることにした。
今日はあのまま3人で出かけて、しばらくの間は帰ってこない。
「うーんと。じゃカードに関係する出来事があったときに、何が起きたのか調べてみましょう」
とリアちゃんは、リリーの部屋の中でクッションの上にぽふっと座る。そして道具を取り出した。
「これは?」
アキラは聞く。
「これは過去4日間の間だけ移動して、そのときの状況を撮影できるカメラロボット」
大きさは昆虫ぐらいの大きさだ。これなら見つかることもない。
「デザインは地球のトンボに似せたみたいなの」
とリアちゃんのおじいちゃんがそういう風にデザインしなおしたらしい。
表示は、リアちゃん専用のカードに表示することにした。
「まずは、あたしがカードをお兄ちゃんに渡したときにするね。たしか、アキラお兄ちゃんにリリーお姉ちゃんの道具を見してもらったあとだから…」
とリアちゃんは言って、カードを使用して、カメラロボットへ指示を出す。
すると、カメラロボットは目の前から消えた。
「ほらっこの部屋が写っているけど、だれもいないわね」
たしかこの時間なら、3人いるはずだ。
「もっと前なんじゃない?」
そうね。とリアちゃんは言って、あたしが一番最初にこの部屋に入ってきた時に移動するわ。
と言って操作する。
「ねえアキラお兄ちゃん。時間を教えてくれる」
とリアちゃんが言うので、夜の8時半ぐらいだったと思うとアキラは言った。

「あっ僕が入ってきた」
そのまま僕は、リリーからもらったタオルが敷いてあるあたりに腰を下ろして横になったところだ。
「まだ、アキラお兄ちゃんはなんともないわね。もうちょっとしたらあたしが入ってくると思うわ」
カメラロボットを入り口に移動する。

「あれは、あたし」
廊下を移動してくる女の子が見える。

「あれっだれもいないのかな? でも明かりが点いているし中に入って待ってみようかな」
「君は誰? リリーの友達かな? ねえちょっと」
アキラはそのときのリアちゃんに声をかけてみるがその女の子は気がつかない。
そのままその女の子はアキラの方に歩いてくる。

そのまま、そのときのリアちゃんは、部屋の中を歩く。
そのまま歩くと、床にはタオルがあり、そこに僕は寝っ転がっている。
「まさか…」
リアちゃんはそのまま歩いて、タオルがあるところを踏んでしまう。
その後リアちゃんは1、2歩歩いてなんか違和感があるのを気がついたのか、
自分の足下を見る。
すると、リアちゃんのくつしたに赤いしみがついている。
そのときのリアちゃんは、タオルがあるあたりまで戻って、のぞき込んだあと、
びっくりしてしりもちをついてしまう。

「あ。あわわわ。ど。どうしよう」
と言って、リアちゃんは手をつきながら部屋を出ていってしまう。

「ねえ。ちょっと。何があったの?」
とリアちゃんに聞くが、予想はできる。

「アキラお兄ちゃん…ここから先…映像を見ないでくれる?」
とリアちゃんは手のひらで胸ポケットの前をさえぎる。
そして、片方の手でロボットを操作して、タオルの前に近づける。

「ああ…」
リアちゃんは泣いていた。

「僕は死んじゃったんだね」
と泣いているリアちゃんに言う。
「そ。そう。あのとき…あたしがもうちょっときちんとしていれば…
でも、この歴史は正しくないの…
なんとかしなくっちゃいけないの…」
と言って、カメラロボットを現時点に呼び戻す。

リアちゃんは涙を拭く。そのあとアキラは言った。
「ねえ。あの身代わり人形は使えないの?」
身代わり人形は1回だけ使うことができる。使用した後は効力を失う。
箱の中にあった人形は1体だけだ。
「ねえ。リアちゃん? リアちゃんが覚えている過去と、この映像の過去に違いはない?」
とアキラはリアちゃんに言う。

「えーとあのとき、あたしは部屋の前で、ボールを踏んでころんでしまったの。
そのときにあたしの手に持っていたキーがころころところがって部屋の中に入っていったから、
床を見ながら歩いていたんだけど、そのときにアキラお兄ちゃんを踏みそうになって、
すぐに足をどけたの。と言っても少し踏んじゃったのだけど…」
どうやら、その違いが自分の生死を分けたらしい。
「じゃ。その時間に移動しよう」
とアキラは言った。

「あっ廊下を歩いてくるのはアキラお兄ちゃん」
リアちゃんと僕の2人は廊下で待つ。
「ほんとだ、部屋に入っていくところだ」
今のうちに、持ってきたボール(床の色と同じで目立たない)を床に置く。
そして廊下の証明を暗くする。
これでオーケーだ。
しばらくしてからあたし(この時間軸上の)が廊下の向こうから歩いてくるのが見える。
「あのボールを踏んで…」
僕とリアちゃんは廊下の反対側から見守る。

どしん。
「あいたたた。なんでこんなところにボールが…それに手に持っていたキーがないし…」
もくろみどおりリアちゃんは転ぶ。そしてしきりに頭をぶったのか、頭を手でさすっている。
「あっこの光景みたことがあるよ。あのときのリアちゃんは頭をさすっていた」
僕とリアちゃん(未来から来た)はリリーの部屋の入り口から、リアちゃんと僕を見守る。
「どうか、踏みつぶしませんように」
「リアちゃんが気がついてくれますように」
2人は願う。

どうやら、その後の行動をみると、驚いてリアちゃんが出ていかなかったところを見ると大丈夫のようだ。
そして、アキラはポケットに手をやると、カードが入っている感触が伝わる。
「あっカードが戻ってきた」
「あたしも」
これで歴史は正しく修正された。
あとは、リリーを助けに行くのみだ。

「ふー。つかれた」
「良かったわ。じゃ宇宙船に戻って休みましょう。リリーお姉ちゃんを救出に行くのは明日にしましょう」
と言って、リアちゃんの胸ポケットの中に入り、僕とリアちゃんは宇宙船に戻った。

「大変だね。未来を守るのも…」
「そうね。でもがんばらないと…」
そうだ、リリーが無事に戻ってきてようやく解決となる。

今夜は久しぶりにゆっくり眠れそうだ。