そして朝。
ゆさゆさ。
ゆさゆさ。
いつものように朝が始まる。
「アキラお兄ちゃん。朝よ。ゼロポイントのゲートへ出かけないといけないの…」
ゆさゆさ。
ゆさゆさ。
体がゆれている。でもリアちゃんの体なのかなぁ。やわらかくて、暖かいからとても心地がよい。
もうちょっとこのまま寝ていたい…
ゆさゆさ。
ゆさゆさ。
「このまま寝ていると、前みたいにあたしのおしりの下にしいちゃうかもよ!!」
とリアちゃんの声が聞こえる。
ぱちっ
アキラは目を開ける。

「あっ起きた。アキラお兄ちゃんおはよう」
「おはよう。リアちゃん」
もう、前みたいにお尻の下敷きになるのはごめんだ。

「準備ができているわよ。
先に母船に寄っていくから」
とリアちゃんが言う。
母船?

リアちゃんは、スルーのスイッチを入れて、母船の中を歩く。
「ねえ。どこに行くの?」
「しー。アキラお兄ちゃん黙っていて」
はいはいそうですか。
アキラはリアちゃんの胸ポケットの中からリアちゃんを見上げる。
リアちゃんはカードを持って、何かを調べているようだ。
「すこしぐらいだまって拝借してもいいわよね」
と言いながら、部屋の中へと入る。
そこは、簡易ゲートを開くために必要なエネルギーパックを保管している倉庫。
リアちゃんは懐から四角い物を取り出すと、その部屋においてあるエネルギーパック
の中から箱がいっぱいになるまでカプセルのような物を移動し箱に詰める。
「これは、簡易ゲートで移動するのに必要なエネルギーを詰めたカプセル。
基本的にこの母船は地球にしばらく滞在するから、簡易ゲートを開くことはもうないと思うの。
だから、あたしの船で簡易ゲートを開くために、カプセルを拝借しようとしているところ…」
と解説してくれた。
「お主もなかなか悪よのう…」
とアキラはリアちゃんに言う。
「いえいえ、お代官様ほどでは…」
というふうなやりとりをする。リアちゃんもなかなか地球の文化を知っている。
「みつからないうちに行きましょう。見つかったら怒られると思うから…」
とリアちゃんはこっそりその部屋をあとにする。

「はぁーい。アキラ。はろーん」
と言って、ルビーが飛んでくる。アキラはルビーによって背後から抱きかかえられる。
「うわぁ。また浮かんでいるよ」
とアキラはルビーのおもちゃになっている。
「またぁ。アキラお兄ちゃんとルビーはじゃれているし…
でも仕方がないか、
ルビーの思考パターンはリリーお姉ちゃんの物だし…」
ん、なんかリアちゃんが言ったように聞こえたけど
「ん、なんか言った?」
「なんでもないの。それより、もうすぐで1800年前のゼロポイントゲートに移動するわよ」
うん。わかった。とアキラは言う。
「時間移動ポイントセット、およびゼロポイントのゲートの識別番号セット完了。
じゃ行くね」
とリアちゃんはルビーに指示を出す。
次の瞬間場所と時間が移動する。

アキラは光学カメラに目を凝らす。
「あっいた。リリーの船だ!!」
アキラは光学カメラに見覚えのある船が写っているのを見つけた。
アキラはふるえる声で、通信を試みる。
「こちら、アキラ。リリー聞こえる?」
ざーざー。
ざーざー。
「こちら、アキラ。リリー聞こえる?」
反応はない。
「うーんなにかあったのかもしれないわ。
リリーの宇宙船のハッチとこの宇宙船のハッチを連結しましょう」
とリアちゃんは言って、宇宙船のハッチ同士を連結する。
宇宙船同士のハッチは緊急時に連結が可能だ。
連結して、乗組員を移動させることができるように…。
「リリー」
アキラはリリーの元へ駆け寄る。
リリーは自席でぐったりしている。
どうやら低酸素障害のようだ。
船の空気循環装置の調子が悪い。
「アキラお兄ちゃん。先にあたしの船に戻っていて、
あたしはリリーおねえちゃんを抱きかかえて、船を移るから…」
うんしょとリアちゃんは、リリーをかかえる。
リアちゃんはなかなか抱えることができない。
「一人だと重くて無理だわ。アキラお兄ちゃんは地球人だから手伝ってもらうことはできないし…」
「リアちゃん一人だと無理だよ。えーと何かできないかなぁと言っても僕が運べるわけないし…
ん。運ぶ? ああ、そうだリアちゃん。エルが道具の中に入っているから…」
とアキラは道具を置いてある場所をリアちゃんに教える。
「それなら、アキラお兄ちゃんにお願いするわ…
あたしは、この船の記録をカードへコピーするから…」
とリアちゃんが言い、エルをリアちゃんから受け取った。
エルを抱えると、リリーに向けて引き金を引く。
おっ持ち上がった。
ある程度力を入れるとリリーが動く。これなら僕でも移動できる。
エルを使えば地球人でも身長が10倍の大きい女の子を持ち上げて動かすことができる。
はたからみれば力持ちだ。
アキラはリリーをぶつけないように、エルごと移動する。
そーと、そーと。
ごつん。
あっちょっとリリーのあたまを壁にぶつけちゃった。
リリーは起きない。
たんこぶになってなけりゃいいけど…
とアキラは、エルを押しながら、リリーとともに移動する。
ふー。やっと移動できた。
あとはこの座席にリリーをおろしてっと。
ずしっと席にリリーをおろす。
「アキラお兄ちゃん。大丈夫そう? ルビー。リリーお姉ちゃんの具合をスキャンしてくれる?」
「あいあいさー」
とルビーがリリーをスキャンする。
どうやら、重度の障害はなく、軽い低酸素障害のため眠っているだけのようだ。
「保温用の布をかけてくれる? あたしが手伝ってあげるから」
とルビーがアキラの背後から手を回して抱え込む。
アキラは保温用の布を手に持つ。
座席の上につくと、アキラは右はしを持ち、ルビーは左はしをもって、布をリリーにかけてあげる。
その後は、ルビーにかかえられて、コンソールの上に降りる。
「ああ。やっぱり!!」
リアちゃんの声がする。
「どうしたの?」
アキラはリアちゃんのほうを見る。
「リリーお姉ちゃんもこのゼロポイントへ誘導されていたみたいよ。これ見て…」
どうやら、ルサーラに所属する救護チームの一人と名乗る人が無線を使って誘導していたみたいだ。
「でも…この船は過去にさかのぼっていたんでしょう? 無線で通信することは可能なの?」
とアキラは聞く。
「だめね。この時代の船にはまだ搭載されていないの…
この所属番号…もしかして…」
リアちゃんは自分のカードを見る。
「やっぱり。そうだったんだわ」
リアちゃんが言う。
「ねえ。何なの?」
とアキラは聞く。
「詳しくは言えない。でもリリーを誘導したのはあなたよ。アキラお兄ちゃん」
僕は何もしていないよ…
と言いかけたけど、これから僕がするんだとアキラは思った。
「リリーお姉ちゃんはしばらく目を覚まさないと思うから。一緒に移動しましょう。
いったんリリーお姉ちゃんの船はここに置いていくけど…」
と言って。リアちゃんはリリーの船に残っていた通信記録を調べる。
「行動がわかったわ」
どうやら、最初に連絡を受けたのは、ルサーラの3番目のミッションから移動した後のようだ。
「アキラお兄ちゃん。ルサーラの所属番号を教えるわ、あなたがリリーお姉ちゃんと通信するときはこう名乗って」
とリアちゃんが教えてくれた。
「それと、通信は音声だけにして、そのほかにはリリーお姉ちゃんには、ゲートを使用するための装置が故障したということを伝えるの、
移動方向は前に設置されたゲートだけ使えること、
それと、過去に移動していることは言わないで…」
「わかった」
すべてあたしが指示を出すから安心してと言う。
「じゃんじゃじゃーん…このとっておきのエネルギーカプセルをこの船にセットするわ」
と言って。リアちゃんは船にセットする。
「このエネルギーカプセル高いの。あたしたち一般人にはとても買えないわね」
と言う。さっき母船からだまって拝借してきた物だ。
色は赤と青のがあり、セットしたのは赤の物だ。
「そんなに高いの?」
とアキラは聞く。
「カプセル1個で、この宇宙船が10隻は購入できる…」
うへぇ高そう…それを何十個か装置に入れる。
ぐあっ見つかったら大変だ。弁償できない…。
「あたしも使うの初めてよ。こんな高価なカプセル…出力が出るからいっきに簡易ゲートで移動できるわよ。わくわく…」
とルビーもうれしそうだ。
しかし、よくこんな立体映像のインターフェースを作れるな、最初に作った人を見てみたいよとアキラは思った。
「じゃ移動先は、リリーお姉ちゃんがルサーラの3番目のミッションのゲートから移動したゲートにセット、
時間はアキラお兄ちゃんと別れてから300年前ね」
とリアちゃんはルビーに指示を出す。
「れっつらごー」
とルビーは言う。
相変わらず元気な立体映像だ。
簡易ゲートを出る。

「ねえ。ここは地球と、ゼロポイントのゲートの位置関係でいうとどのあたりになるの?」
とリアちゃんに聞いてみた。
「えーと。ゼロポイントのゲートから3/4ぐらい地球の位置まで戻ったぐらいの距離にあるゲートよ」
おおすごい。でも距離感がわからない。
「うーんよくわからないな」
「じゃ、エレーネは、地球でいうとおおくま座の銀河M81付近にあるの。距離でいうと1280万光年ぐらいね」
ぐはぁ。とてもゲートなしじゃいけない距離だ。アキラは距離感がやっとわかった。
「じゃアキラお兄ちゃん。リリーお姉ちゃんと通信をお願い。通信の応答はアキラお兄ちゃんのカードに転送しておいたから…」
じゃさっそく通信を試みてみることにする。
「えー。こちら、ルサーラに所属する救護チーム。応答せよ」
ざー。ざー。
もう一度とリアちゃんは小声で言う。
「えー。こちら、ルサーラに所属する救護チーム。応答せよ」
ざー。ぴっ。
「こちらリリー。船体の識別番号は17456925。やっとつながったわね。
大変だったのよ。ゲートでうまく移動できないの。あたしはどうすればいい?」
「我々はルサーラに所属する救護班。ルサーラの所属番号は526794。ルビーと呼んでくれ」
「わかったわ。ルビー。あたしは超新星爆発に巻き込まれて…ゲートでやむなく移動したの…
そのあと連絡ができなくなったわ。で…そうだわアキラ。アキラ君は大丈夫なの?」
リリーは僕とはぐれて、僕のことが心配のようだ。
「心配いらない。彼は無事に地球があるゲートに到着した。今はゲートから出てきた隕石群が船にあたった影響で病院に運ばれ、
手当を受けている。軽傷という情報が入っているから心配はいらない」
「そう。良かった。あたしのほうは超新星爆発の影響をもろに受けて、船内の機能のいくつかが動かなくなってしまったの」
「すまない。我々もあのような超新星爆発の影響は考慮していなかった。今後、そのようなことが起こらないよう、
努力をする。このことは船の設計メンバーへ伝えておく。
さて、リリーと言ったか。リリー君聞いてほしい」
「うん」
リリーは返答する。
「超新星爆発の影響で、状況からするとその船の持つゲートをコントロールする装置がやられているらしい。
ゲートの移動方向は限られる。今いるゲートより後に設置されたゲートの方向へは行けないようだ」
「やっぱり…あたしがゲートオープンの指示をしても、宛先ゲートは無効ですとしか出ないのよ!」
とリリーが言う。
その理由は、リリー自信が時間を過去へさかのぼっているからなんだけど…。
「我々も、すぐに救援に向かいたいのだが、ルサーラの3番目のミッションで使用していたゲートが使用不能になったため、
リリー君のいる場所には直接ゲートで向かうことができない。
そこで、我々はこれからリリー君を誘導しあるゲートまで移動することにする。
そこで救援を待ってもらいたい」
「了解よ。お願いするわ。でもゲートでここまで移動したときに、
この場所はこのゲートで到達できる最終ポイントと言われたわ」
とリリーが言う。
アキラは、手元のカードを見ながらこういった。
「そのゲートを経由していける場所はそこまでらしい。その系統のゲートでは無理だ。
今から座標を送るから、そのゲートの隣のゲートまで移動してもらいたい。
移動には8時間かかるが。そこに到達したら、このゲートの識別番号を使って移動してもらいたい。
移動後連絡を待つ。我々の通信回線の番号を今から送る。では以上だ」
「あっちょっとま…」
とリリーの声がする。
「ふう。疲れた。ああいう感じでいいの?」
「演技うまかったわね。これなら、リリーお姉ちゃんと一緒に映画に出ることができそうね」
とリアちゃんは言う。
さてと指示したゲートへ移動する。でも時間軸はそのまま。
時間を超えて通信ができるから。いちいち時間を移動する必要はない。
ざーざ。
「こちらリリー。船体の識別番号は17456925。応答せよ」
ざーざ。
リリーからの通信だ。
「こちら、ルサーラに所属する救護チーム。識別番号17456925の通信に応答する」
「良かったわ。二度と通信がつながらないかと思ったわ。でも安心した。
で、どうするの? このゲートもこの先は移動できないわよ。また移動するっていうんじゃないでしょうね」
「そうだ」
「なによもう。めんどくさいわねぇ。なんで直接いけないのよ!」
とリリーは怒っている。こちらはさっきの通信からすぐ後だが、リリーの時間軸上でみると8時間は経過している。
「すまない。がんばってくれ。通常空間を移動するのはこれで最後だ。
隣のゲートの座標と宛先ゲートの識別番号を送る。では4時間後に…」
「ああ。もう…」
とリリーの声が聞こえたが通信を切る。
また移動することにする。ただし時間軸上はそのままだ。

ざーざ。
「こちらリリー。船体の識別番号は17456925。応答せよ」
ざーざ。
「こちら、ルサーラに所属する救護チーム。識別番号17456925の通信に応答する」
「ああ。疲れたわ。あと何回移動すればいいのよ」
とリリーが聞く。
アキラはカードを見ながら
「あと、そのゲートを含めて4個のゲートを経由してゼロポイントへ向かう」
「ゼロポイント?」
「ゲートの識別番号がすべて0のゲートだ」
「ああ。あそこね。あたしもルサーラのミッションで使用したゲートから、前に設置されたゲートへ向かうときに
ゲートの番号をすべて0にして入力したけど行けないっていわれたわ」
「そうだ。ゼロポイントへ到達するために必要な途中のゲートが通行不能になっていることが多い。
そのためだ」
「そう。わかったわ」
「これから必要なゲートの宛先識別番号を3つ送る。最後にゲートの宛先をすべて0にしてゲートで移動してもらいたい」
「わかったわ。ゲートを3つ経由して移動するにはあと40分ぐらいかかるわね。そこで救援を待っていればいいのね?」
「そうだ。あと君の連れのアキラ君とか言ったな。もう回復して状況を伝えたら、
リアという人と一緒にそのゼロポイントのゲートへ向けて向かっていると連絡を受けた。
われわれより先に到着するかもしれない」
とアキラはカードに記録されている通信記録のまま言う。
「それ本当? あんたたちルサーラの救護班よりよっぽど役に立つじゃない。
ああ、アキラ君があたしを救助に来てくれるのよね」
「以上だ」
と言ってアキラは通信を切る。
「ふー。必要なことは終わった?」
「そうね。お疲れさまアキラお兄ちゃん」
ふと、このままリリーがゲートに到着すると、リリーが二人に増えるんじゃないかとアキラは思ったのでリアちゃんに聞く。
「ねえ。これでリリーがゼロポイントのゲートへ向かうことができるのは確定したけど、僕たちがゼロポイントへ戻ったら、
リリーが二人に増えているということはないよね?」
と疑問そのまま口にする。
「何言っているのよ。さっき通信していたのは、あたしたちの時間軸上において過去のリリーよ。
そして、そこで眠っているのは現在のリリーお姉ちゃん。
あたしたちがゼロポイントのゲートへ誘導したから、そこにリリーお姉ちゃんがいるの…」
そうだよな。リリーが二人に増えたらどうなるか…
アキラはリリーのほうを見る。
「さてと、もう少しで目をさましそうだから、レースの日から換算して1800年前のゼロポイントのゲートへ戻るわよ」
とリアちゃんが言う。
あそこにはリリーの船が置いたままだ。
「簡易ゲートの座標と時間軸セット。
それじゃぽちっとな」
とルビーは言う。
ああ。ルビーにもうつったなとアキラは言った。

「う。うーん。んーん」
「あっリリーお姉ちゃんが目をさましそうだよ。そうだ、ルビー? 物体干渉用の機能をOFFにするね。
リリーお姉ちゃんが見たらびっくりすると思うの…
ただでさえ、この船のインターフェースは現在のエレーネ星人にとってオーバーテクノロジーなんだから」
「ねえ。リリー? リリー?」
「ん。んあ。あれ…ここは…」
「目が覚めたようね。リリーお姉ちゃん?」
「あっアキラ君」
リリーは手をアキラに向かって伸ばす。
アキラは、リリーの手のひらにくるまれるようになる。
「アキラ君。あたし心細かったよ。でも、ルサーラの救護の人にアキラ君が助けに向かっていると聞いて安心したよ…」
「そう…よくがんばったね…」
リリーは自分の手を顔のそばまで近づけて、アキラをほおずりする。
アキラはリリーの手のぬくもりを感じながら、リリーの髪をなでる。
しばらくそのままでいようとアキラは思った。
「いちおう、リリーお姉ちゃんはなんともないようね。軽い低酸素障害になっていたみたい。
リリーお姉ちゃんの船は故障している箇所があるから、この船で牽引していくね」
リリーはあたりを見回して、
「この船リアちゃんのなんだ、いいじゃない。この船の外装の色は何色?」
とリリーが聞いてきたので、リアちゃんは
「ピンク色」
「ピンク色か、いいなぁあたしの船…
あー。そういえばルサーラの大会の結果はどうなったの?」
とリリーがアキラに聞く。
「あっそれなら…」
とアキラは、ゼロポイントへ向かう前、リリーのお父さんにリリーが無事なことを伝えようとしてリアちゃん経由で連絡したら、
大会の結果を教えてくれたのでリリーに話した。
上位への入賞はできなかったこと。
でも、3番目のミッションに手違いがあり、危険な場所に転送してしまったこと、
それが原因で今回の事故が起きたことをルサーラの関係者が知り、
今後数年の間は、好きにルサーラが製造する宇宙船を好きなだけ使ってくれという。
ただし使用感をレポートしてくれということの条件が付いていた。
「ふーん。なるほど…損害賠償を請求しようかしら…」
とリリーが言う。
「ねえ。これからあたしたちは移動して地球に帰るわ。
リリーお姉ちゃん少し眠ったほうがいいの…」
「あたしは大丈夫よ。このとおり…」
とリリーは腕を上げる。
「だめっ。リリーお姉ちゃんお休み…」
とリアちゃんは言って、いつか僕にも使った睡眠用の器具をリリーに向ける。
その後かちっと音がしたあとリリーはすーすーと眠ってしまった。
「まだ、リリーには知られたくないんだね…」
「そう。これから時間移動と、簡易ゲートを使って一気に地球まで移動するから…
そんなことをリリーお姉ちゃんが知ったらいろいろ聞いてくると思うの…」
そうか。そうだよな。僕もいろいろ聞きたいことがあるぐらいだし…
「れっつらごー」
と相変わらすルビーが言ってゲートをオープンし船を進ませる。

「ねえ。アキラお兄ちゃん? アキラお兄ちゃんのカードをちょっと貸して…」
とリアちゃんが言う。
その後ルビーが飛んできたので、アキラはルビーにカードを渡す。
すると、ルビーはリアちゃんの元へ飛んでいった。
「ねえ。何するの? もう問題は解決したから、見る必要はないんじゃないの?」
とアキラは言う。
「あと大事なことが残っているの…
このカードはなくさないこと、でもしばらくしたらアキラお兄ちゃんも忙しくなって
このカードを使わなくなると思うの…
そうなったらこのカードをある場所にしまっておいてほしいの。
えーとたしか赤い箱の中だったと思うの…」
とリアちゃんは言う。
そうだ、リアちゃんが未来の時間軸上において、このカードを見つけなければ
リアちゃんはここには来ない。
「それと他に、やっておかないといけないことがあるのよね」
と言ってリアちゃんはカードをいじる。
「何をしているの?」
「大会の記録はそのまま残るから、今から14年後までは、消去や閲覧ができないようにロックしておくの…
それに、アキラお兄ちゃんの将来に必要なことも記録しておかないと…歴史が変わっちゃうわね」
とリアちゃんが言って、準備完了。これをアキラお兄ちゃんに返してきてとルビーに頼む。
「ほんとだ、これまでのの記録はロックされている。あれっこれは?」
アキラはロック解除の日付が明日になっている物を見つけた。
「ああ。それ? たぶん。地球についてから、次の日に病院に行くことになるの。
リリーの検査のために。そのときにきっと、リリーが願ったことがかなえられるから、
あたしのことは忘れてしまうと思うの…
リリーお姉ちゃんの検査が始まる前に、そのロックが解除されてアラームが鳴ると思うの…
指示は書いてあるけど、検査が終わるまでの間にルサーラへ言ってカードの言うとおりにするの。
これで、あたしの知っている未来と同じになるはず…」
そうか、リアちゃんと関係することは忘れてしまうんだ。
でもリリーとか、チャンスシステムに関係がないことはそのまま記憶が残る。
そのときに必要な行動を記録しておくという。
「さてと、ゲートをくぐったから、もうすぐで地球に降りるわ。
リリーお姉ちゃんはまだ目を覚まさないと思うから、アキラお兄ちゃんが
部屋まで運んでね!」
とリアちゃんは言う。
また、エルを使ってリリーを運ぶのか…
あれ、エルが大きいから疲れるんだよなとアキラは思った。
リリーが地球人と同じサイズなら、お姫様だっこでもなんでもリリーを抱えて運べるんだけど
とアキラは思った。

アキラとリアちゃんはもうくたくただ。
いろいろなことをやりすぎて疲れた。

アキラはリリーを部屋まで運んだ後、リアちゃんに手伝ってもらって
リリーに布団を掛けると、アキラはいつもの簡易ベッドの中に入って目を閉じた。

ゆさゆさ。
ゆさゆさ。
んー体が揺れている? でもまだ眠い。昨日はつかれたから、もうちょっと寝ていたい。

「んもう。アキラ君は起きないわねぇ。こらー今日は病院に行かないといけないのよ!」
ゆさゆさ。
ゆさゆさ。

「しょうがないわね。あたし着替えてくる」
と言ってリリーの声が遠のく。

ゆさゆさ。
ゆさゆさ。
「アキラお兄ちゃん。おきてよ。ほらっまたお尻の下にしいちゃうぞぉー」
という声が聞こえる。
お好きなように…とアキラはむにゃむにゃと言う。

「まだ起きていないのね」
「あたしが、お尻の下にしいちゃうぞと言ったらお好きなようにって…」
なんかリアちゃんの声が聞こえる。
「なら、軽く乗っかっちゃったら」
とリリーの声がする気がする。
「そうね。こんなにゆすっても起きないんだもん。アキラお兄ちゃんが悪いのよねー」
とリアちゃんの声がする。
その後、暖かくてやわらかいなにかが体全体を包み込むように上から押しつけられてくるような気がする。
「ほらほらー。早く起きないと体重をかけちゃうぞー」
とリアちゃんの声がする。
アキラはまだ眠くて、夢の中なのか現実なのかわからない。
なんか上から押しつけられる圧力がさっきより強くなった気がする。
「ねえいいのかなぁ、こんなことして…」
「何。いいのよ。アキラ君が起きないんだもん。じゃ10数えるからそれまで起きなかったら。
そのまま座っちゃいましょう」
「えー大丈夫? つぶれちゃったりしない?」
「大丈夫よ。この床は重さがかかるとへこむんだし、床にめり込ませちゃいましょう」
とリリーの声かなぁ。
7、6、5、4、3、2、1、0
ぎゅー。と信じられないような圧力が上からかかり体が床にめり込むのがわかる。
ぐぉーめり込む瞬間苦しくなった。
アキラは目を開けるが、何も見えない。
アキラは手を使ってたたこうとするが、ものすごい力で押しつけられているので腕、いや体が動かせない。
「むーむーむー」
「あっお尻の下で動いたよ! リリーお姉ちゃん。ひょっとして起きたんじゃない」
というリアちゃんの声がした後、体の上にのしかかっていたとても大きな物体が中に浮く。
「あっアキラお兄ちゃんおはよう。きれいに床へめり込んじゃっているわね」
くすっとリアちゃんが笑う。
リアちゃんひどい、こんなことはしない娘だと思っていたのに、ひょっとしてリリーみたいになってきたのか
とアキラは思った。
「ほらっ起こしてあげるわよ。指につかまって…」
とリリーが言う。
ふう。やっと床から起きあがれた。
「二人ともひどいや。こんなことして…」
とアキラはほっぺたをふくらませる。
「ごめんごめん」
とリリーが言って、指でアキラのほっぺたを突っつく。
「今日は病院に行かないとね。リアちゃんはどうする?」
「たぶん。もう帰らないといけないの。病院に行くときに別れなきゃならないの…」
「そうなんだ。寂しくなるわね。また遊びにおいでよ…」
「うん。きっと遊びに行くわ」
と会話を終えて、出かける支度をする。

外の駐船場に出てから、リアちゃんに呼び止められる。
「ねえ。ちょっとの間、アキラお兄ちゃんを貸してほしいの…」
とリアちゃんは言う。
そして、リリーから、リアちゃんの胸ポケットの中に移る。
「リリーお姉ちゃん。ちょっと待っていてね…」
とリアちゃんはリリーに言って、宇宙船の中に入る。
うーんなんだろう。未来のことで何か言わないといけないことがあるのか…

「ルビー。ちょっとあなたのインターフェースをあたしに貸してくれる?」
「いいわよ」
とルビーが答えて、リアちゃんは自分の座席に座る。アキラはコンソールの上だ。
その後、ルビーが飛んできて、アキラに抱きつく。
「アキラお兄ちゃん。あたし行かないといけないの。
リリーお姉ちゃんが病院についてから検査を受けて、
リリーお姉ちゃんはきっと病院の人に封筒を渡すと思うの…
その後に、あたしのことは忘れてしまうと思うの」
とアキラはルビーに抱きしめられながら(中身はリアちゃんのようだ)
そのことを聞いていた。
「そして、リリーお姉ちゃんのこと大切にね…」
としばらくそういう風にした後、リアちゃんはアキラを胸ポケットに入れて
宇宙船から出る。

「はい。アキラお兄ちゃんをよろしくね。リリーお姉ちゃん」
「うん。わかったわよ。アキラが朝起きなかったら、あたしがあたしのお尻の下に敷いてあげるから…」
「なんでそうなるんだよ!」
「うふふっ。わかったわ。じゃあね」
とリアちゃんは言いながら、目をうるうるさせている。きっと泣かないように我慢しているんだろう。
とリアちゃんは背中を向けて走っていった。
「行っちゃったわね。リアちゃん」
「うん。なかなかいい子だったわね。また遊びに来るといいけど…
ところで、リリーはチャンスシステムのお願いは何にしたの?」
「え? ああーそうね。いままでいっぱいいろいろなことがあったから忘れていたわ」
とリリーが言う。
「ひょっとして、あたしの願いの分を、チャンスの願いを必要としている子にわけてあげて
とかいう願いだった?」
「あれっなんでわかったのよ。あたしはアキラ君と一緒だったから、もう願いはいらないと思って
今アキラ君が言ったようなことを願ったの。
そんな子がいたとして。願いは叶ったのかなぁ」
とリリーは言う。
「たぶん。願いはもうすぐで叶うと思うよ…
でも、願いが叶ったら、リリーが『ナビゲーター』になるんだからね」
「あーそうだったわね。ところでそのチャンスシステムのマニュアルはどこに置いてあったっけ」
とリリーが聞く。
次のためにリリーがマニュアルを読むために場所を聞いている。
「たしかテーブルの上にあったと思うよ…」
「わかったわ。じゃ病院に行きましょうか」
とアキラとリリーは病院へ向かう。

ぴぴぴっとアラームが鳴る。
あれっ僕は今まで何をしていたんだろう。
そうだ、リリーを病院に連れて行って、検査が終わるまでどうやって時間をつぶそうかと思っていたところだ、
最近までもう一人身近にいたような気がするけど、記憶があいまいだ。
アラームの発信源を探す。携帯電話でもない。
ポケットの中をさぐるとカードが出てきた。
このカードはなんだっけ、リリーからもらったんだっけ?。
起きたばかりの寝ぼけている頭で考える。
アキラはカードを操作して、表示されている内容を見る。
「ねえリリー?」
「あっアキラ君。どうしたの?」
「検査はもうちょっとかかりそう?」
「うん。半日ぐらい。アキラ君はどうするの?」
とリリーが聞いてきたので、アキラはカードの内容を読む。
「これから、ルサーラまで船を取りに行こうと思って」
「そうね。検査に時間がかかるし、アキラ君も操縦できるし、いいんじゃない行って来なさいよ」
うんそうする。とアキラは言って回線を切る。
アキラは、前に月にあるルサーラの建物の場所を思い出そうとした。
「うーん。どこだっけな。一人だと他の人に聞けないし、こういうとき、
船をナビしてくれる立体映像とかあったらいいんだけど…
うーん。たとえば、性格はリリーぽい感じで、現実の物体に干渉できる力があったらいいな…」
と言いながらアキラはルサーラの建物があるクレーターのそばまで宇宙船をゼスチャーで移動させる。
「ぽちっとな」
と言って、アキラはルサーラの建物が近づくと駐船場へ誘導するビームにより宇宙船が移動できるようにした。
アキラは宇宙船を着陸させると、そこにはルサーラの人が待っていた。
「こんにちわ。あたしはサラというの。アキラさん」
「あっこんにちわ」
と言ってアキラは頭を下げる。
あたしの胸ポケットに入る? 地球人が移動するのは大変だと思うのよね。
と言って、リリーと同じように胸ポケットに入る。
「ごめんなさいね。あたしたちが企画したレースに参加したときに事故に遭ってしまったことをお詫びするわ」
「あまり気にしないでもいいからっ。一応無事だったんだし…」
「でもお詫びに、ルサーラの宇宙船を使えるようにするわ。こうでもしないとあたしたちの気が収まらないの…」
アキラはルサーラの人に連れられて、前に見た宇宙船のカタログがあるロビーに入る。
でも、ルサーラの人はそこを通り抜けて、社員用の入り口の中に入る。
「あれっどこに行くの…」
アキラは廊下を進んでいくルサーラの人を見上げる。
「あなたには、一般の船でなくて、最新式の船。つまり発売前のモデルのモニターになってもらおうと思っているの」
と言う。
アキラは、そのお姉さんの胸ポケットの中で廊下を見ながらカードを取り出す。
「ねえ。今開発中の最新式はどんな宇宙船?」
とアキラは聞いてみた。
「あたしたちのオフィスについたら、契約書にサインしてもらうわ。その後ならいろいろ疑問に答えてあげる」
と言う。
アキラはオフィスで契約書にサインをする。
そして、その後、ルサーラの人にこういった。
「ねえ。僕の知り合いに、エレーネ星人で、過去に発掘されたものを解析して研究している人がいるんだけど、
そこでこんなものを見つけたんだ。それでこの技術を応用すれば、一般用の宇宙船にもゲートを開く機能を付けることが
できると思うんだけど…」
とアキラはカードに記録されているとおりに言う。
研究者というのはリリーのお父さんだ。これはリリーが記録していてくれたもののようだ。
「ねえ。ちょっと見せてくれる?」
とそのお姉さんはカードに手を伸ばす。そして自分のカードをかざしてデータをコピーする。
「あれっこのデータの作成日時、今から14年後になっている。日付の記録が壊れているのかしら」
アキラはおかしいなと思った。
「アキラはどうなんでしょうとそのお姉さんに聞いてみた」
「これ、いけそうね。あたしたちも簡易ゲートを開く機能のことは研究しているのよ。
でもなかなか小型の船につけられるような物はできていないの…これを使えばいけるかもよ」
と言う。アキラはそれに付け加えてさらに
「あと、船のインターフェースとして立体映像をつけたらどうかな、
その立体映像は現実の物質に干渉する力があって、乗組員をサポートできるとか…」
「あっおもしろいこと言うのね。でもそれもいいかもね。
ところであなたはエレーネの使っている科学技術にくわしい?」
と聞かれた。
「あっそれなら、知り合いのエレーネ星人に学習用の装置を使わせてもらってエレーネの技術は一応拾得済みなんだけど…」
とアキラは言う。
「やった。あたしは一応人事も担当しているのよ。あなたここの契約社員にならない? 地球の技術とエレーネの技術を合わせれば
きっといい宇宙船ができると思うの…」
いちおう。リリーの世話係という施設の仕事があるんだけど、そんなにやることはないし、給料はこっちのほうが良さそうだ。
施設の仕事は副業にしようとアキラは思った。
「僕はいいけど…」
「じゃ決まりね。なら宇宙船のモニターと、開発はあなたの仕事となるわ。これからよろしくね」
さっそくルサーラの契約社員としての手続きをしてくれるようだ。
ルサーラの所属番号はこの場で発行してくれて、手持ちのカードに記録してくれる。
これがあればこの建物の中に自由に入れるし、移動用のホバーも使える。
「はい、ルサーラの所属番号は526794よ」
と言われてカードを渡される。
「あと、今開発中の地球人サイズの宇宙船もあるから、それで帰りは帰るといいわ。
あなたが乗ってきた宇宙船はあとで届けてあげるから…」
と言う。じゃあリリーがいる施設へ届けてとお願いをする。
そのとき、ぴりりりりと音がする。
どうやら地球から携帯電話経由の通信のようだ。
月でもエレーネ回線経由で転送してくれる。
「あっお母さん。どうしたの…」
アキラは、ルサーラの人に断りを入れて話す。
「なによぉ、しばらく留守にして、連絡したかったのに、あなたは勝手にルサーラの大会に出ていて
電話に出られないっていうじゃない」
「ごめん。忙しかったから…」
「あのね。アキラ。急で悪いんだけどお父さんの職場が転勤になって、引っ越さなくてはいけなくなったの…」
「えっそれはいつ…」
「昨日引っ越さなければいけないことになって、あなたのところへ連絡を入れようとしたんだけど
つながらなかったわ。だからあなたの荷物は適当に分けて、新しい引っ越し先に運んじゃったの」
「なんだよ。ずいぶん急だなぁ」
「それで、エレーネの施設にも連絡を入れて、勤務先場所を引っ越し先の町の施設へ転属してもらうようにたのんだから…
じゃ通話料がもったいないから切るわ。メールで新しい引っ越し先の住所を送っておいたから、あなたでもこれると思うわ。
じゃ」
つーつーつー。
「おい、母さん。母さん。なんだよ。一方的に電話してきて切ってしまうなんて…」
それに、施設の勤務先を転属って言っていたな。ひょっとしてリリーと離ればなれになるんじゃ?
メールも転送してくれるようだ。カードにメールが届いている。
その新しい住所は、新幹線で3時間ぐらいのところ。宇宙船ならそんなに時間はかからないけど…
とアキラは考えていた。でも転属はしょっくだ。リリーが知ったらなんて言うか。
引っ越したばかりだから、いったんは家に帰らないといけないなとアキラは思った。
「あなたも大変ね。でも、地球と月の間を通勤するのに比べたら近いじゃない」
とそのお姉さんは言う。
ふーとうとうこんな時代になったかとアキラは思った。
「あっということは僕の住所も変わったから、新しい住所を教えないと…」
と気がついて、アキラはカード経由で新しい住所をルサーラに登録する。

「じゃあね」
と言ってアキラは、そのルサーラのお姉さん(サラさん)に別れを告げて、地球の軌道へと船を進ませた。
そのあと、アキラはリリーに連絡を入れるがつながらないので、
引っ越したことや、引っ越しの事後処理で1週間は会えないこと、新しい住所を連絡しておいた。
また、ルサーラの契約社員になったことも告げておいた。

アキラは新しい住所へと船を走らせて、家の隣にある空き地に宇宙船を着陸させた。
アキラは1週間の間は、引っ越しの片づけと、新しい勤務先の処理で忙しい日々を過ごした。
でも、アキラのうちの隣にある空き地は結構広いのだが、アキラが越してきてから次の日には
エレーネ星人管理の看板が立てられて、アキラの宇宙船は移動を余儀なくされた。
宇宙船はエレーネの施設の中にある駐船場に止めることにして、自転車で移動することにした。
日数がたつにつれて、アキラの隣の空き地には何か建物が建設されていく。
エレーネ星人管理の看板が立っているからエレーネの関係者の建物のようだが住居のようにも思える。
それは、急ピッチで工事が進められ、1週間後には完成していた。
そして次の日。
ぴんぽーん。
ぴんぽーん。
ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。
なんだよ、休みの日をゆっくり寝ているときに…
家族はすでに出かけている。
新聞の勧誘か?
アキラは起こされたのを理由に、文句を言ってやろうと思って玄関を開けた。

「あっアキラ君。ひさしぶりだねー」
と言って、その女の子が抱きついてきた。
アキラは玄関内から押されて、フローリングの廊下の上に倒れ
その女の子に押し倒されてしまう。
「きみは?」
とアキラが言うが見覚えがある。この髪の色。髪の長さ。声。
「あたし、リリーよ。今。お父さんが作ってくれた装置を使って
一時的に地球人サイズになっているんだけど。その装置の持続時間が5分しかもたないの…
だから、あたしと一緒に早くきて…」
と言って、アキラの腕を引っ張って、外へ連れ出す。
そしてそのまま、隣の建物に入っていく。
ぴぴぴ
とリリーのカードからアラーム音がした。
「あっあたし。元の大きさに戻っちゃう。アキラ君離れて!!」
と言ってリリーはアキラを突き飛ばす。
「いてて…なんだよ急に…」
とアキラは文句を言う。
そんなアキラを頭上16メートルぐらい上から見つめる顔がある。
リリーだ。
ほらっと言ってリリーがしゃがみ、手を伸ばしてくる。
アキラはいつものとおり、リリーの胸ポケットに入る。
「じゃはいろ」
ここはエレーネ管理の建物。
「断りもなしに入ったらだめじゃない?」
とアキラが言う。
「何言っているのよ。ここはあたしの家よ。アキラ君のうちの隣に引っ越してきたの。
アキラ君も一緒に住むのよ!」
とリリーが言う。
「なんでだよ。聞いていないよ」
とアキラは言う。
リリーはにやりと笑みを浮かべる。
「ほらっこれをみて、あたしとアキラ君の適合はばっちりよ。これであたしたちの子供もつくれるわ!」
とリリーが言う。
うーん? こども? 子供ぉ。
アキラは、地球人とエレーネ星人の結婚が認められたのをニュースで知った。
また、遺伝子レベルでもエレーネ星人と地球人は似ているというか非常に近いことがわかって、
地球人とエレーネ星人の間で子供を作ることも可能なことが適合性試験によって実証されたという。
「そんなのいつ調べたんだよ」
とアキラは聞く。
「ルサーラの大会の間に、あなたがあなたのルームで寝ているすきに、アキラの体のあそこをちょっといじって、
サンプルをとらせてもらったの」
とあそこってなんだよと言おうとしたが、恥ずかしくなった。
「ひどいなぁ。僕が眠っているときに、強制的にそんなことをしたんだ…」
「てへっ」
とリリーは舌を出す。
「アキラ君が、あたしの勧めた飲み物を飲んだ後、アキラ君の部屋の屋根(蓋)を取って、
きちんと眠りについたか確認したの。
そのあと、ちょこっとね。きゃー今思うとはずかしい」
とリリーは言う。
ひどいやとアキラは思う。でも二人の間で子供を作れるんだ。
「ねえ。リリー。エレーネ星人と地球人の間で結婚した人はいる? そして、子供を作った人はいる?」
とアキラは聞いてみた。
「今まで世界で5例よ。でも子供は無事に生まれたみたいよ。すくすくとエレーネ星人サイズの子が成長していると聞いたわ」
そうなんだ。エレーネ星人と地球人の背の大きさの半分になるのかと思ったが、子供のサイズはエレーネ星人サイズになるらしい。
「ふーん。そうなんだ」
とアキラは少し動揺しながら返事をする。
「ねえ。あたしたちはいつにする? 今晩?
なら、勢力の付くものを買ってこなくっちゃね…」
と言って、アキラを胸ポケットに入れると、建物の中に入っていった。

聞くところによると、エレーネ星人の妊娠期間は2年ぐらい。

「あたし。生まれてくる子供の名前を決めているの」
「えっなんだよ。気が早いなぁ」
「リリーとアキラで、リアって名前にしようと思うんだけど…」
いいんじゃないか、そういえばカードにその名前があったな。
うん。かわいい名前じゃないか。
「うん。それがいいな」
とアキラはリリーに言った。
「あっ引っ越しの挨拶もかねて、アキラのご両親に挨拶をしなくっちゃ」
とリリーが言った。