「ねえ、ちょっとそこの君」
とアキラは路上を歩いていると、ある男の人に声をかけられた。
「ん?」
「そうそう、君に僕が見えるってことは対象者だね」
「対象者?」
なんだろう、新手の勧誘か何かか?
見たところあやしそうなところもなく、感じのよさそうな人だ。
「そう対象者。君は天使や神様を信じるほうかい?」
「はい? もしかして宗教の勧誘? であれば他をあたって…」
「いやいや、宗教の勧誘ではないよ。商品の勧誘でもないし、君に用があって話しかけているんだ」
「何の用? 知り合いじゃないよね?」
「僕も初対面だと思う」
「じゃあ俺に用というのは?」
なんだろう、とアキラが考えているとその男の人がしゃべり出した。
「人それぞれに一生に一度のチャンスが与えられているのは知っているかい?
そのチャンスが君にめぐってきたんだが、信じろって言っても無理だよね?」
「一生に一度のチャンス? 聞いたことはないけど、俺に何か売りつけるとか? そういうのならお断りだけど…」
「ぜんぜんそういうのではないから、安心していいよ。そうだな、簡単に説明をすると…」
とアキラはその男の人の説明を聞くことにした。
その男の人が言うことを要約するとこういうことになるらしい。
人間には誰にでも一生に一度のチャンスが与えられている。
そのチャンスは『ナビゲーター』によって『対象者』の願いが叶えられる。
『対象者』の願いはひとつだけ叶えられ、
『対象者』は願いが叶うと『ナビゲーター』の役目をしなければならない。
こうして次々と一生に一度のチャンスは、人から人へと叶えられるというものだ。
また、『ナビゲーター』となっている人は、『対象者』の願いを叶えるまでの間、
特殊な状態になっているらしく、『対象者』以外の人からは全く認識されない、
つまり他人から『ナビゲーター』は無視されるようになる。
実際に『ナビゲーター』である彼が、通行人の目の前で手を振ったり、
べろべろばーと舌を出しても通行人は全く気が付いていないようだ。
アキラは、この男の人が電波な人で、脳内設定の話をしているだけのようにも思えるが、
通行人が全くその男の人を気にしないのも気になる。
その男の人はマニュアルを見ながら説明している(一生に一度のチャンスのことが書いてあるらしい)。
アキラは、ちょうど暇でなにか面白いことがないかを探しているところだったので、
こうして男の人に付き合っているのであるが…。
「ところで、まだ信じられないような顔をしているね。そこでお試し期間というのがあるんだけど」
男の人は聞いてきた。
「お試し期間?」
「そう。いきなりこういう話をしても信じることができないと思うから、
お試し期間というのがあって、1週間だけ『対象者』の願いを試せるということになっているんだ。
その後本番の願いを叶えるということになるんだけど…どう?」
アキラは、お遊びでこの男の人に合わせることにした。
そうだな、もし本当に願いが叶うなら、何がいいだろう? 宝くじが当たるように願う? でも
お試し期間なら、お金が当たっても、その後はお金が消えてしまうのだろうか?
それともその1週間はなかったことになるのか?
うーんだったら、かわいい彼女と知り合えるように願う?
アキラは、ふと数日前にインターネットであるサイトを見つけたことを思い出した。
そのサイトには、人間の何十倍かの大きさの女の子が出てくるような絵や、お話がアップロードされていて、
その後は何度かそのサイトを訪れていた。
アキラもそんな巨大な女の子と知り合い、そのサイトにアップロードされていたお話のように
巨大な女の子のおっぱいにぎゅーと抱きついたり、おっぱいに挟まれるとどうなんだろうというような妄想をしてみた。
「お試しで叶えることができるんだよね。じゃあお願いするかな。どうすればいいの?」
男の人は、おでことおでこをくっつけて『対象者』が願うだけだと言う。
「おでこをくっつけて願いを思い浮かべるんだ」
アキラは巨大な女の子がいる世界のことを考えた。そう身長は10倍ぐらいかな、
アキラは巨大なかわいい女の子を思い浮かべた。
アキラは目をつぶっていたが、まばゆい光に包まれたような感覚を感じた。
「これでいいのかな?」
「そうだね。あまり無茶な願いでなければ叶えられていると思う」
アキラは、さっきの説明にあった、あまり無茶な願いはスルーされると言っていたのを思い出し、
無理な願いだったのか、それともこれは電波な人の脳内設定のお話なのかと考えていたら…
「お試し期間は1週間だから、5日後にここで待ち合わせよう。じゃまたあとで…」
とその男の人は去っていってしまった。
アキラはまだその男の人の名前や連絡先を聞いていなかったことを思い出した。
まあ、いいやとアキラは思った。
さてと、喉も渇いたしちょっと先の公園で休んでいくかと思いアキラは公園へと向かった。
アキラは缶コーヒーを自動販売機で購入した。
なにやらその缶コーヒーはくじ付きで、ちょうど当たりと書いてある。
ラッキーかもとアキラは思い、缶に書いてある説明を読む。
景品:マリーの実物大靴下。サイズ240cm。連絡先は以下まで…。
「はぁ、なんだこれ、実物大くつしたってなんか変かも…。しかも240cmって誤植しているし」
変なものを景品につけるなあと考えていると、その缶コーヒーを購入した自動販売機に目が止まる。
絵柄には、マリーと思われるかわいい女の子が描かれているが、そのサイズが一般のサイズではなく
ビルとならんでいる彼女の写真が写っている。
「まさかな、きっと CG だよ」
アキラはあまり気にすることなく、商店街に寄ってから家に帰ることにした。

アキラはどうやら、一生に一度のチャンスというものが本物であり、今日の昼間出来事が電波な話でないこと、
その願いは1週間だけ本当に叶ったらしいというのを確信する。
アキラは部屋でテレビをつけて見ていると、やたらと外国人ぽい女の子がテレビに出てくるのに気が付いた。
しかも、エレーネ星系とかいう言葉もよく出てくるし、なんかの宇宙ブームだっけ?
昨日はこんなニュースも、女の子もいなかったはず。
アキラはチャンネルを変更した。
そのチャンネルでは、ニュースを放送している。まじめなニュース番組だ。
テレビのニュースキャスターが
「本日、第1小学校の老朽化した校舎の解体が行われました。
解体作業には、エレーネ星系から来たボランティア団体であるクイーネチームが担当しました。
彼女らの巨体を生かして、解体作業は効率的に行われ、解体作業はほぼ一日で終了しました」
とニュースの原稿を読み上げる。
「いやー、ほんとに彼女達は良く働きますね。大型の重機も使用せずに建物を解体できるんですから、
環境にもやさしいし、ボランティアなのでお金もかからない。まるで女神ですな」
「そうですね。彼女達が地球に来てからいろいろと役に立つこともしてくれますし、
彼女達のテクノロジーも人類の発展に貢献していますので、とても喜ばしいことですね」
と締めくくって、アナウンサーは次のニュースの原稿を読み始めた。
「まじか? そうだインターネット、ネットではどうなんだ」
とアキラは google で検索したり、いくつかのニュースサイトを開いてみた。
どうやら、エレーネ星系から来た彼女達は本物らしいということがわかった。
2年ほど前に地球外からやってきたらしい。本星を離れここ地球に到着。
彼女達と言っているが、船団で到着したのはほとんどが女性だったらしい。
彼女達が地球に到達したときはニュースとなり、一部の人達はそのまま地球で暮らすことになったが
その他の人達は宇宙船でさらなる外宇宙へとめざし地球を離れていったという。
最近は、エレーネ星人の人も一般的になり、ハリウッドやテレビにも出演していること、
体はほぼ地球人と一緒の構造をしていることがウェブに書いてあった。
「えっと身長は約10倍の16m 前後、性格は温厚で協力的。ふーん」
アキラはウェブのページを読みながら、つけっぱなしになっているテレビのほうに耳をかたむけた。
次のニュースは、近くの海岸が漂着したごみで汚れているというニュースだった。
「…明日から3日間の間、海岸でクイーネチームのボランティア達がごみの撤去作業を行いますので、
一般の方は砂浜への立ち入りが禁止となります。なお、近くの防波堤には警備員が配置されます」
というのがテレビで映っていた。
ごみの撤去作業には、10名ほどのクイーネ星人が参加するらしい、その海岸はここから30分ぐらいの
ところにあるので、明日見に行ってみようと思った。
そして次の日。
幸い天気も良く、休みの日なので午前11時ごろ家を出た。
いちおう双眼鏡も持った。彼女らを観察するためだ。
アキラは自転車で海岸を目指す。昨日は気が付かなかったが、途中の商店街にある自動販売機には
昨日のマリーだっけ、リリーだっけの写真が貼り付けられているものが多数あった。
どうやら人気らしい。アキラは本屋に行けば、女性週刊誌に記事があったりするのだろうかと
自転車をこぎながら考えていた。
そんなことを考えているうちに例の海岸が見えてきた。
「あれだ、実際に見てみるとやっぱり大きいなぁ」
海岸の砂浜のほうには何名かの人がいるのが見えるが、遠くからでも彼女達の姿が見えるということは
体が相当でかいということになる。
アキラは自転車を近くに止めて、海岸の堤防の近くへと足を運ぶ。
アキラは、双眼鏡で彼女達を観察してみることにした。
服装は体にフィットするような素材で出来ている。あれは彼女達のユニフォームなのかなぁ。
背中には、ちっちゃい羽のような物が付いている。あれはなんだろう。体の一部とかではないようだ。
彼女達が手に持っているのは、海岸のごみをさらいやすいようになっているくまでや箒みたいなものを
使っている。以外に近代的なものを使っているかと思ったが原始的だ。
だけど一般の人がやるととても終わりそうにないぐらい、海岸にはごみが漂着している。
でも彼女達からみれば、人間サイズの10倍は体が大きいので、ゴミのサイズもちょうど10分の1だ。
やっぱり体が大きい分、一度に多くのごみを処理することができるらしいので、
ちょうど3日もあれば、この海岸のごみは綺麗に撤去できそうな感じだ。
「なぁおまえさんもクイーネチームのファンなのかね。わしもゴミ拾いを手伝ってあげたいが、
生憎と立ち入り禁止だ。彼女達はでっかいから足元にわしらがいると、いつ踏み潰してしまうか気になるんだと」
とアキラの隣にいるおじいさんが声をかけてきた。
「ああ、なるほど。たしかにそうですね。ここからでも良く見えるということはやっぱりでっかいなぁ」
「彼女達を見ていると、女神が地球に降り立ってきたのかと思うよ。あっそうそう、お前さんにいいものやるよ」
とそのおじいさんからアキラは一枚の抽選券を受け取った。
町にあるエレーネ星人の施設で、世話係体験というのが行われるらしい、その抽選券だ。
「いいの?」
「いいよ、おまえさんみたいな若者にチャンスを与えてやろうと思ってな。
それにわしはその日は老人会で、箱根へ温泉に行くことになっている」
「ありがとう。ところで抽選はどこでやっているんですか?」
とアキラは聞いた。町の中心に近いところにあるらしいその施設で今日の午後1時からやるらしい。
自転車なら、その時間には十分間に合う。アキラはそのおじいさんにもう一度お礼を言うと自転車で町に向かうことにした。
その後、アキラは抽選券を受付の人に見せると、6個あるさいころを振って、出た目の数字を書くように言われた。
そして、当選発表は明日とのことで、当選した場合は連絡が行くという。
アキラは紙に名前、住所、電話番号を書いてそこを後にした。