「ねぇ。アキラ君宇宙へ行ったことある?」
と唐突にリリーが聞いてきた。
「ないよ。地球ではまだ宇宙へ行くための設備が整っていないし、運賃が高いし、一度は行ってみたいと思うけど…」
「そうだよね。あたしはこの地球に着くまでは宇宙にずっとすごしていたの。
でね。あたしは自分の母星を見たことがないの。だから地球人がうらやましいなあと思っている」
どうやら、エレーネ星人の人達が母星を離れたのは3000年ぐらい前らしい。
「そんな昔から宇宙を旅していたの?」
「聞いたことしかないんだけど、あたし達の惑星は隕石郡の襲来によって壊滅的な打撃を受けたらしいの、
隕石郡が来る前から私たちは準備をしていて船団で母性を離れた。そうして宇宙を旅していたというわけ」
君たちの母性からは全員脱出したの? 残った人は?とアキラはリリーに聞いた。
「可能な限りの生き物、資源などを一緒に積んで旅たったから、残った人はいないと思うわ」
「すごい数の船が必要だったんじゃないかな? それに体が大きいし大変だね」
「もともとはあたし達の体はこのサイズより小さかったらしいの。長い間宇宙で過ごすうちに、
重力の少ない環境だったせいもあるみたいだけど、元のサイズよりは大きくなったらしいの。
母性に住んでいたころは身長が今の3分の2ぐらいだったみたい。
そういえば、あなたたち人間の祖先の生き物も小さかったみたいじゃない?」
「それはそうだけど…。リリー達が大きすぎるよ…」
宇宙で長く暮らすと大きくなるもんなのかなぁとアキラは思った。
「そうかなぁ。これが普通サイズだけど。あたし達から見れば、あなたたちが小さすぎるわね。
でも居住スペースや宇宙船のことを考えるとコンパクトに作れていいわね」
そういえば、さっき重力の少ない環境で過ごしていたとか言っていたけど地球で過ごすのはどうなんだろうと
アキラは思った。
「この地球の重力は強いと思う?」
「そうねえ、重力は強いけど、あたし達にはこれがあるから」
と言って、リリーは背中にあるものをアキラに見せた。
そういえば反重力を応用しているような重量軽減装置だっけ。アキラは思い出した。
「あっそうだ、小型のがあるからあなたもつけてみる?」
その装置はリブというらしい。
リリーが取り出してきたのは、リリー自身がつけているのより小さいサイズのものだ。
ペット用のものらしい。
「調整はできるけど。まずは力を最小にしておくね。それで、ちょっとあたしに背中を向けてくれる?」
アキラはリリーに背中を向けると、リリーがその装置をアキラの背中に押し当てるとアキラの背中にぴったりとついた。
「どう? 変化を感じる?」
アキラはなんか体が軽くなったような感じだ。
「おっ、これは動きやすいや、疲れているときでも楽に走ることができるよ」
リリーはにやりと例の笑みをうかべるとアキラの装置についているメモリを調整した。
「うわぁ。ちょっとリリー!」
アキラはばたばたもがく。
「地球人につけると、体が浮いちゃうのかぁ。知らなかったわ」
アキラはばたばたしすぎたので、回転してしまう。
アキラはばたばたするのをやめると、リリーが近づいてきたのでアキラはリリーの装置に手を伸ばして
調整ダイヤルをいっぱいまで回した。
「あー。アキラ君やったなー。でもザンネーン。あたしは浮いちゃうことはないのよね」
リブの出力は限られていて、エレーネ星人の体を浮かすまでの力はないようだ。
「ほらっつじっとして、調整してあげるから」
リリーはアキラを両手でやさしくつかむと、その装置のダイヤルを調整した。
「もう。リリーたら」
アキラはふくれるが、自分がばたばたしすぎて回転してしまった、さっきのことを思い出しアキラは笑いだした。
それにつられてリリーも笑う。
「さてとどうしようか、アキラ君?」
とリリーが聞いてきたので、アキラは時計を見るともう少しで12時になるところだ。
「リリー、ちょっとごめん。1時間ぐらい外へ出てくるけどいい?」
「えー。アキラ君どこかへ行っちゃうの?」
「他の人と約束があるんだ」
「あーさては恋人かなぁ? 逢い引きかなぁ?」
アキラはぜーんぜん違うよ。男の人と会うだけだからと言って出かける準備をする。
「なーんだつまんないの。じゃぁ早く帰ってきてね。そうだお土産。
ハーゲンダッツのアイスクリーム 1000個でいいから」
「1000 個? そんなにもって帰れないよ。リリーには1個で十分。いっぱい食べると太るよ」
「1個じゃ全然食べた気にならないもん」
とリリーはほっぺを膨らませる。
リリーはじゃあ10個で我慢してあげるからと言うので、
アキラはわかったとリリーに告げると外へ出た。
アキラは自転車に乗り、最初に男の人と出会った場所へ向かうことにした。
さっきのリブを背中に付けたままなので体がとても軽い。
思ったより早く到着しそうだとアキラは思った。
「たしか、5日後だったよな」
とアキラはその後2時間ほど待ってみるが、その男の人が来る気配はなかった。
そして、もうさらに30分待ってみたが今日はあきらめることにした。
また明日また来よう。
帰りにハーゲンダッツのアイスクリームを購入し、リリーの元へと急ぐことにした。
アキラは施設へ入る門をくぐる。
「リリー、アイスを買ってきたよ。おまけして20個だ。ってあれいないのかな」
アキラはあたりを探す。
「あらっ、帰ってきたのね。おみやげは? アイス。アイス」
「あっ。なんだそこにいたんだ。どこに行ったかと思ったよ」
「変ねぇ。あたしはずっとここにいたけど…」
さっき見たときはいなかったはず。ふと、アキラはこの一生に一度のチャンスの期限があと2日ほどしかないことを思い出し、
もしかして、チャンスの効き目が切れかけているのかと考えた。
もしそうならどうなるんだろう。リリーは消えてしまうんだろうかとアキラは思った。
もし明日もあの男の人と出会うことが出来なかったらと考えた。
もしそうならいやだと、なんとしてもこの世界を継続させなければとアキラは思った。
その横でリリーは20個のアイスを平らげている。
「ちょうだいって言ってもあげないよ。あたしのだからね!」
「えっ、あぁ。そうだね…」
「何。元気ないわね。どうしたの?」
アキラはなんでもないと答えたが、さっきの不安が心に残っている。
でも、明日になればきっと会うことが出来ると信じて、リリーと一緒に過ごすことにした。
リリーはプールへ行こうと言い出したので、移動することにした。
例によって、アキラはリリーの胸ポケットの中だ。
アキラはリリーに走らないでね。ポケットの中はゆれるんだからときつく言ってあるので
リリーも気をつかってゆっくり歩いている。時間はあるし…。
「ここがプール。あたしは着替えてくるからここで待っていてね」
とリリーはアキラをテーブルの上に置いて更衣室へと向かっていった。
アキラは一緒に泳ぐのかな。そうすると着替えないといけないが、水着は持ってきていない。
それに、このテーブルはエレーネ星人用のサイズ。テーブルから地面の間も相当高い。10メートルはあるだろうか。
リリーが来てから聞いてみようとアキラは思った。
「おまたせっ。どう?アキラ君。これでアキラ君はあたしにメロメロかなぁ?」
元気なリリーに似合うようなデザインと色。よく似合っているよとアキラは言った。
「ねぇ。水着持ってきていないんだけど…。レンタルとか販売とかしているところある?」
「あらっ。そうねぇ。アキラ君は水着がなくて、すっぽんぽんでもいいんじゃない?」
とリリーは言うが、だめっとアキラが言うとリリーが指さすほうにレンタルの水着があるらしい。
リリーはアキラをテーブルの上から下ろすと、1分だけ待ってあげると言った。
1分じゃ無理だ。アキラはその言葉をスルーして。水着を持って更衣室へと向かった。
「げっ。深くて底が見えない…」
リリーは、当然といわんばかりエレーネ星人用なんだからねと言って一緒に泳ごうとアキラに言う。
アキラは足の付くプールなら泳げるが、足がつかない深いところは泳いだことがない。
「こんなに深いの? 溺れたらどうするんだよ」
「あたしにとっては普通よ。プールの底に足は付くし。大丈夫よあたしがついているんだもん」
アキラはプールの端からプールの底をのぞきこんでいると、じゃあ飛びこもうっとというリリーの声がしたと思うと
リリーがプールに飛び込んだ。
エレーネ星人にはプールに飛び込むなというのを教えていないんだろうかとアキラは考えた。
リリーがプールに飛び込んだので大波がプールの端にいたアキラを襲った。
そのせいでアキラは足をすくわれてころんでしまう。
「あははっ。なにやっているの。早くおいでよ。気持ちいいよ!」
アキラはもうっと言いながら、プールに入る。うひょっ足が付かないのでなんだか怖い。
リリーはプールの端にいるアキラのほうに向かってきた。
ざばざばと大波がたつ。
「ほらっ、あたしが見ておいてあげるから泳ごう」
「うーん。大丈夫かなぁ」
なかなかアキラが泳ごうとしないのでリリーは水中に手を入れると、
手のひらを水中から2メートルぐらいのところに浮かべて、アキラ君の下にあたしの手が来るようにしてあげると言う。
これなら怖くないでしょうとリリーが言った。
確かにリリーの手があるので10数メートル下のプールの底は見えない。
約束どおり、リリーはアキラが泳いでいる間はアキラに付き合ってくれた。
リリーが泳ぐときは、一人になってしまうので、それならこうすればいいよとリリーが言って、
リリーは背泳ぎする。その間アキラはどこにいたかというと、リリーの胸の上につかまっていた。
たまに体が沈みそうになるけど人が泳ぐよりは早い。くじらとかに乗っているような感じだとアキラは思った。
アキラはリリーとプールで遊んでからしばらくしてプールから上がりいつもの部屋へ帰ることにした。
「はっくしょん」
アキラはくしゃみをした。
リリーは風邪?と聞いてきたので、アキラは大丈夫だよと答えた。
その後は、リリーが見たいテレビがあるからと言ってテレビを見ることにした。
時間は夕食の後、おなかもいっぱいになり、いい感じだ。
アキラはまた、リリーのおなかの上に座らせてもらっているというか、リリーがアキラを手でわしづかみにして
この上にアキラを置いたので、されるがままにしている。
今日はリリーのおなかの上にいても、おなかの音は聞こえない。
昼間はプールで泳いだので疲れていたせいもあり、リリーの規則的な呼吸をする音を聞いているうちにアキラは目を閉じていた。
アキラはくしゅんとくしゃみをして目をさました。
どうやらいつのまにか寝てしまっていたらしい。
いつのまにかアキラの体の上にはいつものタオルが掛けられている。
それにしてはなんだか寒気がするなと思い、風邪をひいたかなとアキラは思った。
アキラはリリーの顔を見ると、すーすーと寝息をたててリリーも寝てしまっているのが見えた。
「リリー風邪ひくよ。もう遅いから寝よう?」
とアキラはリリーに声をかけると、リリーは目を覚まし、あれっあたし寝ていた?と言った。
いつのまにか夜の12時近い。リリーは自分の寝床を用意して、
アキラはいつもの簡易ベッドにリリーからもらったタオルをひいて横になった。
ん。なんか一枚だと寒いなと思い、アキラはもう一枚上に掛けるものがないかをリリーに聞いて、
リリーから別のふわふわの織物をもらってそれを掛け布団にすることにした。
明日はチャンスシステムの6日目、また出かけないととアキラは思った。