アキラは目をさました。
体がなんかだるい。熱もちょっとあるみたいだ。
リリーのすーすーという寝息が聞こえてくる。
時間は11時。もうすぐで昼だ。
アキラはだるい体を起こして、出かけるしたくをすると、リブを背中につけて建物を出ることにした。
途中、咳やくしゃみを何回かして、アキラはやっぱり風邪かプールで遊んだのがいけなかったのかと考えていた。
今日も例の男との待ち合わせ場所に向かうがその男の人はいない。
「うー。だるい。あそこの本屋の中で待つとするか」
と言って、近くの本屋さんの中へと入る。
ガラス張りになっていて、待ち合わせ場所はよく見える。
うーつらい。今日の夕食はどうしよう。調理場があったからおかゆにでもしようかなとアキラは考えていた。
ときどき、待ち合わせ場所のほうに目をやりながら、手に取った雑誌を読む。
その雑誌には『地球で活躍するエレーネ星人達』見出しがついていて、
地球人とエレーネ星人達との外交を目的として活躍しているエレーネ星人、
地球の自然を守るため、環境問題に貢献しているエレーネ星人の技術者、
ボランティア活動をしているエレーネ星人、
地域間で戦争をしている箇所を訪れて、戦争をやめさせようと活動している者等
いろいろいるみたいだ。
また、テレビや映画に出ているエレーネ星人たちのことも載っていて、
リリーのことも雑誌に出ていた。
リリーが出演した映画やタイトル、そのほかにリリーの着ぐるみ姿の写真も載っていた。
やっぱりリリーの着ぐるみ姿は人気があるらしい。
『宇宙からもたらされた惨事4』の製作も決定したみたいだし、
リリーもいそがしそうだ。
でもこれは一生に一度のチャンスで、アキラがそう願ったから現実になっていることで…
もし、期限までに願いを継続するのが出来なければ水の泡だ。
「なにやっているんだろう。あの人は…」
いらいらしながらアキラは本屋で待つが一向にその男の人は現れない。
夕方まで待ってみてから、今日もあきらめることにした。
その男の人の居場所がわからないのならどうしようもない。
アキラが本屋で待っている間に空模様が悪くなり雨が降り出した。
「くそっ、傘を持ってきていないのに…」
ひどいざーざーぶりの雨ではないが、アキラがぐっしょりぬれてしまうのは確実だ。
アキラは外に目をやった後、雑誌のページに目をやると、なんだか内容が変化しているように見えた。
「あれっ、ここに中東付近で活躍しているエレーネ星人達のことが書いてあったはずなのに…」
その場所には、日本から近い国で活躍しているエレーネ星人のことが書いてある記事が載っているだけだった。
『一生に一度のチャンスのおためし期間は1週間』という言葉を思い出した。
見ていると、また記事が変化して日本から遠い国で活躍しているエレーネ星人達の記事が消えていく。
「そんな…」
どうやらアキラの願いは切れかけていて、アキラがいる日本から遠い地域にあるエレーネ星人に関する効力が消えかかっているようだ。
幸い、日本付近で活躍しているエレーネ星人のことは記事に残っている。
アキラはその雑誌と雑誌のレジ付近に置いてあった『宇宙からもたらされた惨事3』のリリーの着ぐるみ姿の携帯ストラップを手にとると
会計を済ませて、リリーのいる施設へと戻ることにした。
雨はまだ止まない。アキラは風邪をこじらせて悪化しなければいいけどと思っていた。
それよりも、一生に一度のチャンスの効力はいつまで持つかだ。
リリーの着ぐるみ携帯ストラップはまだ手の中にある。確かにリリーはまだ存在している。
明日までは持つだろうが、早いうちに願いを継続しないとリリーは消えてしまうのだろう。
アキラはやっと施設にたどり着くとリリーの元へと急いだ。
アキラは施設にたどり着いた。
ふと、受付の所を見ると昨日まではリリーのパンフレットが山のように積んであったがなくなっていることに気が付いた。
急いで、リリーのいる部屋へと急ぐ…。
アキラはリリーの顔を見てほっとした。
「アキラ君!びしょびしょじゃない。どこに行っていたの?起きたらいなくなっているんだもん」
「ごめん。大事な用事があって…」
リリーはアキラが脱いだジャンバーを手に取ると軽くはたいて水を落としてから、えもんかけにジャンバーを掛けにいった。
「ほらっ、着替えないと風邪ひくよ?」
と声をかけてきたので、もう遅いかもとアキラは答えた。
リリーは指でアキラのおでこを触ると、
「ちょっとアキラ君。熱があるんじゃない?だめだよ。おとなしくしていないと…、布団用意するね。
それから夕食はあたしが作ってあげる。おかゆっぽいものでいいよね?」
リリーが布団を用意した後、夕食を作るために部屋を出て行った。
アキラはびしょびしょになった服を脱いで、寝巻き代わりにしているジャージに着替えた。
今朝より頭がまわらない。ぼーとしている。
咳や鼻水が出るのは朝よりひどくなっている。
アキラはおとなしく、簡易ベッドの中にもぐりこんだ。
1時間ぐらい過ぎた後、リリーが地球人用の巨大な鍋(業務用)を持って部屋に入ってきた。
どうやらおかゆっぽい物を作っていたようだ。
アキラはリリーに起こされて、そのおかゆっぽいものを食べることにした。
リリーは指先で、人間用の蓮華を器用につまんで、なべからすくったおかゆをふーふーして
さましてから、アキラに食べてもらえるようにアキラの顔のそばへと持っていった。
アキラは自分で食べることができるよっと言ったが、リリーは「だめっあたしがたべさせるの」
と言ってきかない。
アキラは体がだるいので、リリーのされるがままになってみることにした。
リリーが以外にも面倒見が良いようだ。
アキラが水を欲しそうにすると、コップに冷たい水を注いでくれるし、
おかゆもちょうどいい加減に冷ましてくれる。
おなかがいっぱいになるころを見計らって、もういい?と聞いてくるので
「ありがとう。とてもおいしかったよ。でもちょっと煮すぎていたかも」
とアキラはリリーにお礼を言った。
「そうだった。あたしあまり料理をしないから。じゃ今度気をつけるね。
そんなことより早く良くなってね。あたしこれを片付けてくるから」
と言って部屋を出て行った。
アキラはそのまま眠ることにした。風邪薬は持ってきてないし、寝て安静にしてれば
良くなるだろうか? と考えながら目をつぶった。
アキラは夜目をさました。
部屋の電気は暗めだがついている状態だ。
アキラは自分のおでこに人間用のタオルが乗っていて、
水で湿らせてあるのに気が付いた。
あたりを見回すと、洗面器と『ひえピタっ』の袋が置いてあった。
どうやらリリーが医務室から持ってきたようだ。
リリーはアキラのおでこに貼ろうとしたみたいだが、リリーの手ではパッケージを開けるのは難しいらしい。
なので、人間用のタオルを探してきて、アキラのおでこにタオルを乗せたみたいだ。
リリーは、アキラのそばで横になりながら、頭に手を当ててこっくりこっくりと船をこいでいる。
どうやらアキラを看病してくれているみたいだ。
洗面器の水もぬるくなっていないので、定期的に冷たい水を汲んできてくれているようだ。
アキラはトイレに行きたくなったので、だるい体を起こして部屋を出た。
アキラは部屋に戻ってきたとき、リリーのほうを見るとまだうつらうつら船をこいでいるようだ。
アキラがリリーのそばへと戻ったとき、リリーががくっとなり、
アキラの簡易ベッドにリリーの顔がつっぷするような形でつっこんでしまったようだ。
「あいてっ、あたし、いつのまに寝てしまったの…。ああー、あたしの顔がアキラ君の簡易ベッドにつっこんじゃった。
ねぇっアキラ君大丈夫? つぶしちゃっていたらどうしよう?。あれっアキラ君がいない」
リリーは少しどじなところもあるようだ。
アキラは横からリリーに声をかけた。
「ねぇ。今簡易ベッドに突っ込んでいなかった?」
「ああ良かった。アキラ君そこにいたのね。あたしはアキラ君の看病をしていただけよ。それにベッドにはつっこんでいないわよ」
アキラはちょうどリリーがベッドに突っ込んでいるところを目撃したことをリリーに話した。
「あたしの位置とアキラ君のベッドの位置が近すぎたわ。もうちょっと離したほうがいいわよね」
と言って、ベッドの位置を移動する。これで突っ込むことはないだろう。
アキラはまだ体がだるかったので、簡易ベッドにもぐりこむと電気を消して寝ようとリリーに言った。
体がだるいが明日こそはあの男の人と出会わないといけない。
この願いを継続してもらわないと。リリーが消えてしまう…。
アキラは再び眠りに落ちた。
そして日が昇り、アキラは目をさました。
まだ体がだるい。熱も残っている。
リリーの姿が見えない。アキラはあわてて、携帯電話につけたリリーの着ぐるみ携帯ストラップを探すが
まだ付いている。まだリリーの存在は消えていないようだ。
それよりも早く行かなきゃと、アキラはふらつく足元で出かける準備をする。
リリーはどこに行ったんだろう。リリーがいたらきっと外には出してもらえない。
リリーが戻ってこないうちに出かけないと…。
アキラはペット用のリブを探すがいつもの所に置いていない。
もしかして、リブの存在が消えたのかと思い、アキラは携帯電話をつかむと、外に出た。
外は朝まで雨が降っていたようで、地面はぬれているが、雨そのものは上がっている。
リブを付けていないので、体は重く、まだ熱があるので自転車をこぐスピードが上がらない。
途中の商店街に差し掛かったとき、道端にある自動販売機の絵柄が変わっていて、
エレーネ星人のことが書いてある自動販売機が少なくなっているというか、見かけなくなった。
「まさか。もう影響が…」
アキラは例の待ち合わせ場所に急いだ。
アキラはざっとあたりを見回すが、その男の人は来ていないようだ。
くそっ、いったいあの人は何をしているんだ!!
このままだとチャンスの効き目が切れてしまう!
アキラはあせりだした。
1時間待つがまだあの男の人は来ない。
もう1時間待つがまだ来ない。
アキラはあきらめずに待つ。
もうすぐで1週間前にあの男の人と出会った時刻になる。
アキラ待ち合わせ場所のそばにある壁にもたれかかる。
熱もまだあるので、あたまがふらふらする。
アキラはおでこの熱を下げるためにおでこを壁にくっつける。
壁は朝の雨の影響かひんやりしていて気持ちがいい。
「くそっ、一生に一度のチャンスのお試し期間が終わってしまうじゃないか!」
アキラはそう叫び、この世界を継続したいということを願った。
でも、あの男の人と出会っておでことおでこをくっつけて願わないと効き目がないんだろう。
そのとき、あのときと似た光に包まれたような感じがしたと思ったので頭を上げてみると、
雲の合間に隠れていた太陽が姿を見せただけのようだ。
アキラがいるあたりを照らしている。
その後アキラは1時間待ったがその男の人は現れず、時計を見ると最初のお試しを願った時間も
過ぎている。
アキラは携帯電話を取り出そうとして、携帯電話に付けたはずの携帯ストラップがないのに気が付いた。
ああ。もう遅かったのか。
リリー。もう君と会うことはできないのか…
アキラはリリーとすごした数日のことを思い出すと、目から涙があふれ出てきた。
「くそっ。こんな思いするんだったら最初っからお試しでなくて、願いを叶えておけば良かった」
アキラは壁に向かってげんこつで数回たたきながら。悔しくてしばらく泣いていた。
アキラはそのまま、とぼとぼと自転車に乗らずに自転車を押して施設のほうへと戻ることにした。
施設も、もう存在しないのかもしれない。
いつのまにか、アキラは体のだるさが取れているのに気が付いた。
風邪のほうは回復しているようだ。でも、リリーが…。
とアキラは施設の前に辿りついたときに、後ろから声をかけられた。
ちょうど、曇っていた空からまた太陽が現れて暖かい光がアキラを包み込む。
「あっ。あなたは…。どのに行っていたの?ずっと待っていたのに…、
どうして待ち合わせ場所に来てくれなかったの?
お試し期間は過ぎてしまったよね?
僕は…リリーと合えなくなってしまったんだよ!!!」
後ろから現れたのは例の男の人。
手にはマニュアルを抱えている。
「ごめん。1週間は過ぎてしまった。
一生に一度のチャンスだから、お試し期間を過ぎてしまったら、その人の願いはスルーされて
次の人に願いのチャンスは移ってしまうみたいなんだ。
待ち合わせ場所に行けなかったのは、ひどい風邪をひいてしまって外に出れなくなっていたんだ。
本当にごめん」
「そんな言い訳をしても、もう遅いよ。どうするんだよ!」
アキラはその男の人につかみかかる。
その弾みで男の人が抱えていたマニュアルが道路に落ちる。
ちょうどマニュアルはあるページを示して開いたままになった。
その男の人が落ちたマニュアルを拾おうとして手を伸ばす。
「あれっ、そういえばおかしいな。君がもうすでに対象者の資格を失っているとすると、
僕の姿は気にならなくなるんだが、そういうことにはまだなってしないみたいだよね」
アキラは1週間前の一生に一度のチャンスの説明を思い出した。
ひょっとしたらまだ効き目は残っているのかもしれない。
「おでこをくっつけて願いを思い浮かべるんだ」
その男の人が言うと、アキラはおでこをくっつけて、巨大な女の子。リリーがいる世界。
アキラが願った世界を継続させてください。と願った。
でも、あのときのようなまばゆい光に包まれたような感じはなく、その男の人は残念そうに
「どうやら終わってしまっているみたいだ」
その男の人はつぶやいた。
アキラは、もう会うことはないよね。と言って、とぼとぼと自分の家の方向に自転車を
向けると、そこから去ろうとした。
そして…。



























































「ねぇ。ちょっと。これは君のかな?」
アキラは後ろを振り向き、その男の人が持っているものを見た。
携帯ストラップ。
女の子の着ぐるみの。
リリーの着ぐるみ…。
「あー。なんでここにあるんだ。それは僕のだけど、もうお試し期間が終わったから存在しないはずなのに…」
おかしい。お試し期間の終了とともに消えて無くなるはず…。
「僕もここに来なければいけない気がして、しばらく待っていたら君が現れたのでおかしいなぁと思っていたんだ」
その男の人が言うには可能性は2つ。
アキラには再び一生に一度のチャンスの願いを叶えることができるチャンスがめぐってきた。
これは、本当は願いを叶えることができるのに、その男の人が風邪のため、期間内に会うことが出来なかったから。
もうひとつは、アキラはお試し期間が終了し本番の願いを叶えたため、アキラは『対象者』から『ナビゲーター』
の役目を果たさないといけなくなった。
つまり、その男の人からマニュアルを受け取る必要があるということだ。
うーん。再び一生に一度のチャンスがめぐってきたのなら、さっきの儀式で願いは叶うはずだし…。
「ねぇ。今日、あの待ち合わせの場所には行った?」
とその男の人は聞いてきた。
さらにその男の人はこう言った。
「僕もまだ風邪が治りきらないうちに出てきたから体がだるくて…
トイレに行った後、待ち合わせ場所の反対側にある壁にもたれて君を待っていたんだ。ちょうど1週間前と同じ時間ぐらいに…、
熱もまだちょっとあったし、ほてった頭を冷やすために壁におでこをくっつけていた。
そのときにあの感じがしたんであたりを見回しても君の姿はなくて、
ただ、太陽が雲の隙間からのぞかせただけだった」
その後その男の人はいったん自宅にもどったという。
それから、その男の人はどうしても、この場所に来ないといけないという感覚が気になりだしたので、
家を出てここで待っていたという。
「ねぇちなみに、その、例の待ち合わせ場所でおでこを壁にくっつけていた時間は何時ごろ? 2時30ぐらい?」
アキラはその男の人に聞くとちょうどそのころだという。しかもおでこを壁にくっつけていたのは1分ほど…。
アキラはもしかして…。
と思い、施設の中にいそいで駆け込んでいった。
その男の人は、またアキラにマニュアルを渡し損ねたみたいだ。
「このマニュアルはどうする?」
とその男の人は言ってきたが、今はスルーして、リリーの存在を確認することが先だ。
受付の所にはパンフレットが詰まれている。
リリーのだ。
ぱらぱらとパンフレットをめくってみると、内容が変わっている。
前のものにリリーのプロフィール部分が追加されており、
さらに、リリーが出演する新作映画のことが書いてある。
「ヤッホー。消えていなかったんだ。良かった。リリーを探さないと…」
そのとき、受付の奥から最初にリリーと会った日に世話係について説明してくれた担当者が出てきた。
リリーなら、新作映画のことで会議があるからって、今日は出て行ったことを告げられた。
戻ってくるのは夜遅いらしい。
また、リリーから伝言を預かっていて、世話係体験の期間は終わったけど、正式に君をここの職員として
迎え入れたいって言っていたらしい。
やった。
リリーがいないのは残念だ。
そうだ、あの男の人からマニュアルをもらわないと。
と思い出して、アキラは再び建物の外にでるために戻ることにした。