「トオルさん。お元気ですが。
こんにちわ。エリィです。
メールありがとうです。
トオルさんの質問に答えます。
トエールミナは船の名前です。
第3シティは私たちが住んでいる町の名前です。
趣味はありませんでしたが、
地球のことを学んでいるときに、地球には編み物があることを知りまた。
なので、私は編み物を始めました。
結構難しいですが面白いです。
トオルさんはどこに住んでいるのですが、
また、しゅみはなんですが。
また返信を待ちしております。
エリィ」

トオルはエリィからのメールを読み終わった。
ところどころ日本語間違えている。
お元気ですが。はお元気ですか?なんだけど。
そのほかにも、か? になっているべき箇所が、がになっている。
まあ、間違っているのは教えたほうがいいかな。
でも、エリィが住んでいるのは宇宙船だったんだ。
ひょっとして、地球の衛星軌道上に停泊しているエレーネ星の船? なんだろうか。
ちょっと調べてみるか。
トオルはネットを使って船のことを調べてみたが、どうやら違うらしい。
あれっ。じゃあエリィはどの船のことを言っていたんだろう。
トオルはさらにネットで調べてみた。
すると、宇宙を航行中のエレーネの船団の情報が載っているページがあった。
そこに、トエールミナという船が見つかった。
トエールミナは地球からはるか遠くの宇宙を航行しているところらしい。
エレーネのゲートと呼ばれる装置を使っても何個もゲートを越えていかなければいけないぐらいの距離にあるという。
そしてトエールミナは地球のほうに向かっているようだ。
ページによると、それはほぼ間違いないとのことだが、トラブルがあれば太陽系には寄らず、別の星系に行く可能性もあるという。
まあそれはめったにないと書いてあった。
トオルはじゃあ、トエールミナが地球に着くのはいつごろだろうというのが気になった。
どうせなら、エリィ本人に会いたいと思う。
ページには2ヶ月後ぐらいとある。
トオルは後で、もし地球に寄ったらどうするかをエリィに聞いてみようと思った。

……

「なあ、トオル。まだメールは続いているか?」
「ん? まだ続いているよ」
トオルは親友の正人に返答した。
今は休み時間。正人とは席が近いのでしゃべっているところだ。
最初にエレーネのメルトモのサイトがあることを教えてくれたのが正人だ。
「その。何子ちゃんだっけ。どうなの?」
正人がトオルの肩を、うりうりとつつきながら聞いてくる。
「えーと。エリィだよ。普通だよ。普通にメールをやり取りしているよ」
トオルは答えた。たしかにそうだ。
きっと正人は恋人としての進展が気になるらしい。
「そうか? トオルが女の子をたくみに誘うようなプレイボーイっぽい言葉を書いて、相手をその気にさせているのかと思っていたが。普通か」
「普通だよ」
とトオルは次の授業の教科書を用意するためにカバンから本を出したりしながら答える。
「どんなこと書いているの? エレーネ星人にもあの日はあるのか? とか、ひとりでエッチなことをするのか? とかは書いていないのか?」
変なことを正人が言うので、教科書を床に落としてしまった。
「もう。そんなこと書かないよ。書くのは正人だけだよ!!」
「まあな」
と正人は言ったところでチャイムが鳴った。
そしてしばらくしてから先生が教室に入ってくる。
えーと地理か。
先生はあのじいさんだから、授業中にでもメールを見ても怒られないよな。
じゃあメールが来ていないかこっそり確認してみよう。

トエールミナの船がゲートをくぐるタイミングで、メールが不通になることがある。
それは接続する回線を調整するために必要とのことだ。
それは3日かかるらしい。
だから、トオルはしばらくメールをやりとりしていなかった。
しばらくと言っても3日だけなんだけど。
メールのやり取りがないとなんかさびしい。
トオルは先生が黒板に授業の内容を書いているうちに携帯電話を開いて、メールが来ているかをチェックしてみた。
あっ新しいメールが来ている。
エリィからだ。
えーと。
「こんばんわ。トオルさん。エリィです。
お元気ですか。私も元気です。
私もだいぶ日本語がうまくなったのではと思います。
これもトオルさんのおかげです。
最近は編み物を続けています。
ここ数日は、トオルさんの実物大の人形を編みこんでいます。
やっと完成したの。だけど指が6本になっているのと、
左右の足の長さが違うふうになってしまいました。
これはトオル君には見せることができませんね。作り直しです。
でも人形として作ってみて、私のサイズとトオル君のサイズの違いがわかったの。
この前のメールで教えてもらったトオル君の身長どおりに人形のサイズをあわせたんだけど、私の手のひらに乗ってしまうぐらい小さいんだね。
きっと、トオル君が私の足元に立って、腕をまわしたら、
私の足首のところに腕が来るぐらいと思います。
もしかしたらトオル君が腕をまわしてもあたしの足首はつかめないかもしれません。
このサイズだと私の上着のポケットにすっぽりと入ってしまいます。
私はトオル君に会ってみたいです。
で、あたしはいいことを思いついたの。
前より、地球との距離が近くなったからメールのやりとりの他に立体映像での通話ができると思うの。
必要な機械は、きっと地球のエレーネ星人のための施設にあるはずだから、
申し込めばトオル君も借りることができると思うの。
考えておいてね。
では。
長くなりましたが、メールを待っています。
エリィ」
ふーん。
編み物か、てっきり今はセーターやマフラーでも編んでいるのかと思っていたけど人形か。
でも指が6本か。きっとすごいに違いない。
でも作り直すと言っていたっけ。
トオルはエリィに会ってみたいと考えた。
でも、身長が16メートルぐらいの人って想像できないや。
電柱よりも上に頭があるのかな。

そういえば、エリィの隣に僕が立って、腕をまわしたところが足首と書いてある。
とすると、そのまま上を見上げれば彼女のふくらはぎが見え、
そして、そのさらに上に彼女の太ももが見える。
そして、その先には…。
うう。
何を考えているんだ。
たしかにそのまま見上げれば、パンツも見えてしまいそうだ。
正人と同じだな。エッチなことを考えてしまう。
もし僕がエリィの下に立ってみたとして、
エリィのパンツを見てしまったら、エリィはどう行動するだろう。
キャーと言ってパンツを隠すか、悪ければ踏み潰される?
命がけなのかもしれない。でもエリィは天然なところもあるから、
気がつかないのかもしれないな。
いやいや。
もうよそう。
トオルはエリィに返信をすることにした。
立体映像での通話ができるなら、エレーネ星人の施設に借りに行ってみるよと書いて、メールを送信した。
ここからだと隣町だから時間はかかるけど。今日はバイトがないので行って見るかとトオルは考えた。

……
トオルはだいぶ遅い時間に家についた。
結構時間がかかったな。
通話のための道具を借りに行ったんだけど、3Dスキャナーみたいなもので体全体をスキャンさせられたので結構遅くなってしまった。
じゃあひょっとしてあの服装のまま立体映像になるのかなとトオルは思った。
ならもうちょっといい格好をしておけば良かったと後悔した。

……

そして、日曜日。
都合のいい日時はエリィが合わせてくれたので、今日が初めて立体映像での通話となる。
そして約束の時間。
立体映像のゴーグルをトオルはつけてみた。
トオルは説明書に書いてあるとおりにボタンを押した。
すると、どこかの部屋みたいな場所が目に入る。
けれどもその部屋はとても大きいし、天井も高い。
ビルの吹き抜けのようだ。
体育館の天井よりも高いしすごいなあと思ってうえを見上げた。
するとぴぴっつと音がして、目の前の風景が一部だけざざっと乱れた。
なんだろうと思っていると、
目の前には2本の棒(一抱えできそうなぐらいの太さ)がある。
「あっトオル君?」
耳元のヘッドホンから声がする。
そして、目線を上のほうに向けた。
するとはるか頭上に頭が見える。
エリィだ。
なんて背が高いんだろう。
キリンの背の高さが5メートルぐらいだから、その3倍ちょっとはあることになる。
きっと校舎の3階の窓から見ても見下ろせないぐらいあるに違いない。
トオルはざっとエリィを見回した。
白を基調とした色のやわらかそうな感じの服を着ている。
なんとなく、純粋で優しそうな感じのエリィに合っているなと思った。
トオルは上から下まで一通り目線を移動した。
とっても大きくて、この距離からだと一度に見ることはできない。
全体的な感じは人とあまり変わらないが、違うのは大きさだけだ。
「こんにちわ。エリィ。これ。君の足だったんだ」
とトオルは言って足に触ってみようとする。
すると、すかっと手がすり抜ける。
ああ、そうか立体映像だったっけ。
「あはっさわれないよ。でも本物そっくりでしょ」
「うん。そうだね…」
エリィの顔を見ると微笑んでいる。かわいい。
トオルは、首が疲れたので首を元に戻す。
目の前より少し下にエリィの足首がある。
そして、少し上を見ると彼女のふくらはぎが見える。
見た目はすらっとしていてきれいな形だ。
でも、トオルと比べると、恐ろしく長くて太さも太い。
腕を回しても回りきらない太さだ。
そのはるか上にひざ、その上にはひらひらしたものが取り巻いている。
スカートだ。
でも、その上は暗くなっていて中(パンツ)は見えなかった。
「ひょっとして見えた?」
びくっ。トオルはびっくりした。
「えっ。い。いや何も見ていないよ。パ。パンツは暗くて見えなかったし…
って。そうではなくて。決して見ようと思って見たんではないから…」
なんとか言い訳をする。
「あはっつ。いいよ。スカートの中は立体映像でスキャンしていないから、
暗くなっていて見えないはずよ。
でも、これが立体映像ではなくて、トオル君が実際にあたしの足元に立って、あたしのスカートの中を見ようとしたら、
こうするかも…」
と言って、トオルはエリィが片足を上げるのが見えた。
そしてトオルの頭上から巨大な足がだんだん踏み下ろされる。
「うわあ」
と言ってトオルはその場にしゃがんで、頭を手で保護して目を閉じた。
でも、立体映像だというのに気がついて目をあけると、
僕の体がエリィの足に埋没しているような感じになっている。
「あはははっ。ご、ごめんね。そんなに驚くと思っていなかったから
でも大丈夫だよ。立体映像だし。
立体映像だからこんなことができるんだよ。
生身だったら。踏むふりでも絶対にしないから…」
といいながらエリィは足をどける。
「もー。本当にびっくりした。
立体映像に慣れていないから。本当に踏み潰されるのかと思ったよ」
とぷんぷんとほっぺたを膨らませる。
「本当にごめん。立体映像でも。トオルにはもうしないから。許して…」
と、エリィはトオルの前にしゃがみこんで、手を合わせる。
トオルは急に笑いたい気持ちになった。
「あははっ。でも面白い、立体映像はやっぱりすごいや…」
思ったより楽しい。
やっぱりメールだけではなくて立体映像もあるから現実感がある。
音声だけより、テレビ電話。テレビ電話より、立体映像か。
エリィはにこっと微笑んでから。
「こう言ったら怒るのかもしれないけど、トオル君かわいいね。
笑った顔も好きだよ」
と言って、エリィは手を僕のほうに伸ばしてきて、僕の頭に手のひらでちょんと触るような感じで手を頭の上に乗せようとしてくる。
ちょっと、巨大な手が近づいてきたので一瞬ひるんだが、立体映像だし、
弱虫みたいな感じになってしまうので、表情に出さないようにして、そのままの格好でいた。
トオルは、そのまま目の前のしゃがんだ格好のエリィを見る。
しゃがんでいると言ってもエリィはでっかい。
エリィのひざの上には、絶対手を伸ばしても届かない。
何メートルか上を見上げると、エリィの上着のポケットが目に入る。
そして、そのポケットに何かが入っているのが見えた。
「ねえ。そのポケットに入っているものはなに?」
「ああ。これ? これは前から編みこんで作った。トオル君の等身大人形。
立体映像のスキャンをするときに、ポケットに入れておいたの…
これ、2回目に作り直したものなの。最初のは置いてきちゃった」
とエリィは微笑みながら言う。
最初のは失敗したんだっけ。
たしか指が1本多くて、左右の足の長さが違う。
思い出してトオルはぷぷっと笑いそうになってしまった。
「あっなんか失礼なこと考えているでしょう。
これ立体映像だから、人形を取り出して見せることはできないけど、
これはきちんとうまく出来たのよ。
指の数も合っているし、左右の足の長さも同じだし…」
「まあ、それが普通なんだけど…
でも良く出来ているね。
編み物は初めてなんでしょ?」
「うん。そうなの。でもエレーネには他惑星の文化やいろいろなことを学ぶための、
機械があるから、知識を覚えるのは個人に能力は要らないの。
日本語もその機械を使ってほとんど覚えたし。
地球のことも同じようにして学んだの…」
「ふーん。いいなあ。そういうのがないから、覚えるのに苦労するよ。
僕はまだ学校に通っているんだけど、授業で習ったことを覚えるのが大変でさ、
それにテストがあるから、勉強を自分でしなければいけないし…」
と話しているうちに、トオルはエリィと初対面なのに普通に話せていると思った。
とても自然だ。
ずっと前から知っているような雰囲気だ。
なんか愛称がいいかもとトオルは思った。
そして、会話を何十分かした後、次に立体映像で会う約束をして回線を切断した。