正人とトオルはトオルの家に向かって歩いていた。
「なあ。トオルよ。立体映像ってどんなの?
本物と変わらない?」
正人がトオルに聞いてきた。
「うん。本物と一緒。
初めて見たときは、すごいと思ったよ」
ふーんと正人はうなずく。
トオルは1週間前にエリィと立体映像で会ったのだ。
トオルは正人に立体映像でエリィと会話したことを話したら、
ぜひ会ってみたいとなったので、
2人でトオルの家に向かっている所だ。
すでに立体映像のスキャンも済ませてあるので問題はない。
そういえば、エリィにそのことを話したらエリィもよろこんで承諾してくれた。
それに、エリィのほうからも友達を連れてくると言っていたのを思い出した。
2人はトオルの家に着いた。

「おじゃまします」
と正人は言いながら玄関をくぐった。
「今は誰もいないよ」
とトオルは言った。
両親は働いているので日中はいない。
とんとんとん、と階段を上がっていく。
部屋に入るとさっそく正人はヘッドセットを見つけた。
「おお。これか。ヘッドセットは…」
と言いながら手に取る。
「案外、秋葉に売っていそうなヘッドセットだな」
「まあね」
僕もそう思った。けどこんなものは今までなかった。
地球のテクノロジーでは作るのは無理だ。

「そうだ。通話の前にちょっとトイレ借りるな…」
と正人は部屋を出て行った。
その後にトオルはヘッドセットを手に取った。
するとヘッドセットのランプが点滅しているのに気がついた。
トオルはヘッドセットを装着する。
「あっトオル君。聞こえる?」
エリィの声だ。
約束の時間まではあと少しだが声が聞こえる。
「やあ。エリィこんにちわ」
「こんにちわ。トオル君」
声が聞こえるのと同時にトオルの目の前にエリィの姿が現れる。
やっぱりでかいなあ。
だって、4階建ての建物に届きそうなぐらいの背があるのだ。
トオルはエリィを見つめる。そしてエリィの隣に誰かがいるのに気がつく。
「こんにちわ。ねえ。ねえ。この人がお姉ちゃんの言っていた地球の人?」
と地球人に換算して見た目13歳ぐらいの女の子が現れる。
「そうだよトオル君だよ。あっ名前を言っていなかったわね。
この子は近所に住んでいるあたしの友達のメイちゃん」
「トオルと言うんだけど、メイちゃんよろしく」
メイちゃんはものめずらしそうに
しゃがんでからトオルを見る。
「あー本当だ。エリィが持っている人形と大きさが同じだ。かわいいかも…
あーでも、かわいいって言ったら怒るかな。ごめんねお兄ちゃん」
とその子は言う。
こんなでっかい子にお兄ちゃんと言われるのもどうなんだろうと、
見た目で身長が10メートルを超えるメイちゃんを見てトオルは思った。
トオルは目線を目の前の女の子に向ける。
目の前にはしゃがんでいるんだけど、はるか頭上まで伸びている両足が見える。
メイちゃんもスカートみたいなのを履いているのかとトオルは思った。
「あー。あたしのパンツを見ようとしたでしょう。残念でした。
あたしもスカートの中はスキャンしていないんだ。
でも、トオルお兄ちゃんなら見られてもいいって思っているんだよ。
あーでも勘違いはしないでね。これはエリィお姉ちゃんから聞いた話。
あたしはそうは思わないから。
あっそういえば、もう1人いるんでしょう。まだ来ていないの?」
メイちゃんがトオルにたずねる。
きっと正人のことだろう。
「ああ。今はトイレ。もう少しで戻ってくると思う」
「ふーん。今いないんだ。
あっそうだ。その正人君だっけ、地球にいるエレーネ星人の足元にそっと近づいて
パンツの中を見ようとしたことがあったってエリィお姉ちゃんから聞いたけど本当?」
これは前にトオルがエリィに話したことだ。
「ああ。そうだよ。きっと今日もエリィや、メイちゃんのスカートの中のパンツを見ようとすると思う」
「えーやっだ。じゃあいっそのこと懲らしめちゃおうよ。
この身長差だったら、足元に近づいただけでパンツが見られ放題なんだよ。
だからその正人君にパンツを見られるというエレーネ星人の被害を少なくするためと
正人君がエレーネ星人の足元にそっと近づいたときに蹴られたり、踏まれたりするかもしれない危険もあるし。
それを戒めるために芝居をしない? 面白そうだし。ねえやらない?」
そうだな。それもいい薬だろう。
「僕はいいと思うよ。それにこの通話はとてもリアルで触れることが出来ない制限があるとは
正人にまだ言っていないし、なんか面白そう」
エリィも、ちょっとかわいそうだけど事故で死んじゃったら困るし、
今のうちに、足元にそっと近づくのは危険だということをわかってもらおうということで、エリィも賛成してくれた。
その後に階段を上ってくる正人の足音が聞こえる。
「あっきたみたいだ。具体的にはどうするの?」
トオルは2人に聞いた。
「あたしにまかせておいて。トオルお兄ちゃん」
とメイちゃんが言った。
さーてどうなるか。
「あっなんだよ。俺が戻ってくる前に、俺抜きで通話をしていたな…」
「正人が部屋を出て行った後に、着信があったんだ。
じゃ。さっそくこのヘッドセットをつけてよ…」
とトオルは正人にヘッドセットを渡して、ボタンを押すように言う。
「おーすげー。これ。なんかの部屋か?」
正人が感激の声をあげる。
そうだろう。僕もそう思った。
本物と見え方は変わらない。
そう見分けがつかないぐらいに…
そして僕は正人にこれからする芝居をリアルにするために嘘をついた。
「どう? すごいでしょう。本物と変わらないんだよ。
ほらっ僕が正人の手をにぎると感覚があるでしょう?」
と僕は正人の腕を握ってみた。
「おお。すげー。現実とかわらないなぁ」
ほんとに驚いているようだ。
正人の腕を握っているのは現実の僕。
2人は隣にいるから手を握ることができる。目では仮想空間の中触れ合っているように見える。
「で、こんなことをすると…」
と僕は軽く正人の足をふんづけた。
「いてててて。なにすんだよ」
と言って僕は足をどける。
「おかえしだ…」
と正人に足を踏まれた。
「いてて。ごめん。踏まないから。
でも超リアルでしょ。
で。正人。後ろを見てごらん?」
僕は正人に後ろを向くように言った。
「げっ。うわっ。びっくりした。う、後ろにいたんだ…でっけー」
正人はエリィを見上げた。
正人はかなりびっくりしている。
「こんにちわ。正人君?
こっちの子はメイちゃん。近所に住んでいる子だよ」
にこっと微笑むエリィはかわいい。
「俺、正人って言うんだけど、こんにちわ。そしてメイちゃんこんにちわ。
お兄ちゃんって呼んでくれるとうれしいな。
まっちゃんでもいいよ」
「やっだー。絶対そんな名前で呼ばない。正人でいい。べーだ」
とメイちゃんはべーをする。これも芝居のうち?
初対面なのに仲がいいんだか悪いんだかわからないなあ。
「なにおー。このやろー。目上の人にはさんをつけるとかないのかぁ」
「やーだ。何かむかつくこの正人っていう人。あっかんべー」
と正人の顔より大きい舌を出してべーをするメイちゃん。
「生意気なガキだなぁ。そういう子はおしりぺんぺんだぞ」
「へーんだ。正人が背伸びしたってあたしのおしりには届かないんだから、絶対無理だよ」
「まあまあ2人とも仲良くね」
とエリィが仲裁に入る。
その後に声が聞こえた。
「ねえ。トオルお兄ちゃん。メイだけどこの会話はトオルお兄ちゃんにしか聞こえていないんだ。
この後にあたしとトオルお兄ちゃんがトイレに行くふりをしていったん回線を切ることにしたいんだ。
その後に、ヘッドセットのこのボタンを押すと観察モードになるから、またその状態で接続してほしいんだよ。
観察モードの間はあたしとトオルお兄ちゃんの姿はエリィお姉ちゃんと正人には見えないから。じゃあお願いね」
とメイちゃんに頼まれた。
「あー。なんかトイレに行きたくなっちゃった。なんか正人の顔を見ていたらおなかが痛くなってきたみたい。
じゃいったんあたしは回線切るね」
という声を残してメイちゃんの姿が消える。
じゃ僕も。
「僕も今のうちにトイレに行っておくよ。ちょっと待っていて、正人はエリィと話でもしておいて」
とヘッドセットのボタンを押していったん回線を切る。
そしてボタンを押して再び回線をつなぐ。
「あっトオルお兄ちゃん。見えている? 聞こえている? しゃべっても大丈夫だよ」
「えっうん。これでいいんだね」
見た目はさっきとかわらない。
エリィと正人の声も聞こえる。
「なんだ。2人そろってトイレか。
さて。生意気なガキがいなくなったな。
なあ。エリィさん。俺初めて見たけど結構かわいいじゃん」
「そう。ありがとう。とってもうれしい」
とエリィは正人に言う。
「くー。あたしがいないと思って生意気なガキって言っているよ。後で覚えてろー。こんにゃろ」
とメイちゃんが言う。この子の性格は普段こんな感じなのかなぁとトオルは思った。
「ところで。やっぱトオルといい感じなの?」
正人は気になるらしい。
「えーと。まぁそうかなぁ。
メールをやりとりを始めてからあまり長くないんだけど、
結構面白いし、良かったと思うわよ」
「ふーん。そうなんだ。
そのスカートはエレーネだったっけ、そんな服装なの?
地球の女の子と変わらないんだな」
「うーんと違うよ。このスカートは地球人ふうにしてみたの。
どうかな?
このスカートはトオルにもあまり見せてはいないんだけど、
似合ているかなぁ」
と言いながらくるっとその場でまわった。
すると、学校の体育館のステージに下がっている幕よりも大きいぐらいのスカートが少しひらひらっとなってスカートがめくれる。
「うーん。どうかな。もう少し回ってみせて…」
といいながら、少しづつ正人はエリィの足元に近づく…
ちらっと上を見ながら正人は。
「えーと。結構いいんじゃない。似合っているよ。
だからもう少しそばに行っていい?」
きっと正人はエリィのパンツを見ようとしているに違いない。
「あーやっぱり。あの目はスカートの中をのぞきたいぞーと、うかがっているんだよ。
エリィお姉ちゃんは見た目、のほほーんとしているから格好の餌食だし。
くっくっく。でも。スカートの中は見えないんだなぁ。べーだ」
「ずいぶん敵対するんだなぁ。メイちゃん」
僕の隣でしゃがんで2人を見ているメイちゃん。
「なんか。天敵って感じだよ。あの正人って人は。
あっほら。また正人が近づいたよ」
そして、上を見上げた正人とエリィの目が合う。
「あっ。もしかしてスカートの中見えた?」
それはエリィの声。
「えっ。いやこの位置からだと見えないよ。大丈夫。大丈夫。
ほらっくるっと回ってごらん」
と正人は催促する。
絶対見える位置だ。
でも、スカートの中はスキャナでスキャンしていないので見えない。
「ねえ? 本当にスカートの中見えない?
あたしは、その位置からだと見えると思うんだけど…」
とエリィが言う。
「いや。見えないって。
大丈夫。大丈夫」
と正人は言いながら目線をちらっとスカートの中に移す。
「でも、あなたはあたしのスカートの中がみたいんじゃない?」
「えっ、い、いや、そんなことないぞ、どこかのエロ大魔王じゃないし…」
と正人は言葉を濁す。
「本当にそうなの?
本当は見たいんじゃない?
もしそうなら見たいっていってくれれば見せてもいいよ」
「えっ」
と正人は驚く。まさかそんなにすんなりとパンツを見せてもらえると思っていなかったからだ。
「あーやっぱりそうでしょう。
ここでうんと言わないのなら、今後はそういう機会はないと思うよ。
きっと変な子と思われるかもしれないけれど、こんなことを言うエレーネ星人はあたしだけだと思うし…」
「な。なあ。本当にいいのか? やっぱりうそでした
とか。言わないよな?」
「言わない。言わない。エレーネ星人嘘つかない…」
「じゃトオルと生意気なガキが戻ってくる前にお願いする」
と正人はエリィに向かって頼み込んだ。
あーあやっぱりエロ大魔王は正人だなとトオルは思った。
「じゃあ。そこに仰向けに横になってくれる?
そのほうがいいでしょう。
そのまま見上げていたら首がつかれるよ」
ん、それもそうだな。
と正人は言ってからその場に仰向けになった。
「あっ。じゃ準備ができたわよね。
そーれ、サービスでくるくる回ってあげるよー」
と言ってエリィはその場でくるくると回りだした。
そうすると、エリィのスカートもいっしょに回転の反動でひらひらと広がり始める。
「おお。エリィさんかわいいなぁ。もっと回ってよ」
と正人も言う。
「あはははは。そーれ」
とエリィも調子に乗って回っている。
きっと目を回してしまうのではと思った。
「こーんなもーのでいいでしょうかーーー」
と言いながら身長16メートルにもなる彼女が
くるくると回転している。
その足下に寝そべるということは
現実だったら怖いにちがいない。
ここから見ていてもその巨大さに圧倒される。
やっとエリィが体の回転を止めた。
そのとき、急にメイちゃんがエリィの前に飛び出て言う。
「あっ何をやっているのかなぁエリィお姉ちゃん?」
「わっメイちゃん」
エリィはとっても驚いている。
急にメイちゃんが出てきたからだろう。
「わっおっとっと」
とバランスを崩してエリィの足がよろける。
正人は床に寝そべった格好で、エリィの足元でエリィがよろけるのを見ている。
目のたまが飛び出そうなぐらいに驚いている。
だって正人の頭上にエリィの巨大な足がさしかかったからだ。
ずん。
というような感じで、正人の真横にエリィの足が踏みおろされる。
「ぐぉぉわー」
と正人が悲鳴を上げる。
「あ"」とエリィも声を出してしまう。やっちゃったという顔だ。エリィも演技がうまい。
「だー。あっぶねー。もう少しで一生が終わるところだった」
「ま、ま、まさと君? 大丈夫よね」
「お、おう。今のは本当に危なかった。少し足がずれていたらぺったんこだったかも…」
正人は単なる立体映像にすぎないことに気がついていないようだ。
「あーあ良かった。
あたしは地球の女の子1000人分ぐらいの重さがあるから、
あたしが踏んじゃったら正人君はぺちゃんこだったわね」
それを聞いて正人はぞっとする。
ちょっと顔がひきつっているのがここからでもわかる。
「エリィお姉ちゃん。何やっていたの。
こいつに言いくるめられて。くるくる回っていたんでしょう。
どうせ。正人はパンツを見るつもりだったんでしょう。
こんなやつ踏み潰しちゃってれば良かったのに…」
「なんだよそれ。こっちはもう少しで死ぬところだったんだぞ」
「あっかんべーだ」
とメイちゃんは正人にべーをする。
ついでにおしりぺんぺんのまねも。
「くそっ小生意気な。
無い胸を隠して、お尻出してぺんぺんか。
お子様だな」
メイちゃんはお子様という言葉なのか、胸のことを言われたからなのかわからないけど、
ついに怒ったようだ。
「ふー。もう我慢ならない。今まで加減してきたけど。今度は絶対に殺ってやるぅ」
とメイちゃんは正人を踏み潰すような感じで足を上げて、正人の近くに踏みおろす。
「ぐぁーアブねえなぁ。やめろよ俺を殺す気かぁ」
と正人が横にころがって避ける。
「こんにゃろーこれでもくらえー」
と正人の上に足を踏みおろす。
「ぐぁーやめろーって」
再び正人は転がって避ける。
でも壁に突き当たりもう転がってよけることはできない。
「ふっふっふ。もう後がないようね。土下座して謝ったらやめてあげる。どう?」
とメイちゃん。
「だれがそんなことするか。悪いのは俺じゃないし。そっちこそ土下座しろー」
「やだ」
と言いながらメイちゃんは足を上げる。
「こんなことしていいのか。殺人だぞ」
「いいもーん。正人がエリィお姉ちゃんのパンツを見ようとして、
足元にそっと近づいたら、誤って踏み潰されたということにするもん。
正当防衛だよ。あたしが踏めば絶対助からないし。
これを証言する人はいないし」
正人は謝ろうか、それともどうしようか困っているみたいだ。
「じゃ時間切れ。素直に謝らないし、さっきあたしにお子様だとか、胸がないとか言っていたわよね。
あたしは超怒っているの」
メイちゃんの顔はマジだ。
その顔を見て正人は。
「な。なあ本気じゃないよな」
と聞く。
メイちゃんはううんと首を横に振る。
そして足をじょじょに正人の真上に移動させる。
「これで最後。じゃね正人君」
と言って足を踏みおろす。
「ぐぁーーーっ」
と正人は言うが、まだ殺られていないことに気がついて目を開ける。
でもなにも見えない。視界が何かにさえぎられている。
僕から見ると正人の体がメイちゃんの足に埋没してしまっているように見える。
ちょうど映像が重なってしまっているのだ。
その後にメイちゃんが足を上げると正人の姿が見えた。
顔はひきつっている。
あたりを見回している。
そのときエリィの声が聞こえた。
「ごめんね正人君。これはどっきりなの。
本当はこの立体映像では触れることができないの」
と言いながら、エリィ横になったままの正人の体に指を近づける。
「うぁっ指が突き抜けた」
ころあいをみはからって僕も姿を現すことにした。
「ぶっあっはっは。おかしいなぁ。正人の顔マジなんだもん」
正人はトオルの顔を見て
「はあ? なんだよ。それ。ってことはトオルもぐるだったのか。
まだ心臓がばくばくしている。これで寿命が3年は縮まったな」
「これでわかった?
正人お兄ちゃん。
これからパンツを見ようとして、
だまってエレーネ星人のお姉ちゃんの足元に近づいたらだめだよ。
いまみたいに踏み潰されちゃうかもしれないんだから。
これがもしリアルだったらいちころだよ。
正人お兄ちゃんは紙っぺら一枚ぐらいの厚さになっちゃうぞ」
とメイちゃんは正人に説教をする。
それを聞いてから、正人は苦笑いをして
「ということは、俺がこれからエレーネ星人のパンツを見ようとして
足元に近づかないようにするためにこんなことをしたのか」
と言いながらようやく立ち上がる。
そのあとちょっとよろける。
「足ががくがくしているぜ」
と正人が言うのでトオルは見てみるとたしかにがくがくしている。
相当怖かったらしい。
「そうだよ。トオル君のお友達になにかあったらいやだもん。
それにスカートの中は立体映像では見えないの。スキャンしていないし。ほらっ」
とスカートをちょっとたくしあげるが、暗くなっていて見えない。
「ちっ。なんだよそれ。どおりで…」
正人は非常にがっかりした感じでだれる。
「じゃメイちゃんは俺を怒らせる目的で生意気な受け答えをしていたのか?」
と正人はメイちゃんに聞いた。
「いいや。違うよ。あれはあたしの本心。あたしが正人と会ったときに感じたの。
正人はあたしの天敵だと」
「ぐぁっなんだよ。こっちこそ天敵で十分だ。生意気な娘よ」
と正人はメイちゃんに言う。
「生意気じゃないもん」
と少しほっぺたを膨らまして正人に口答えをする。
「じゃおしとやかにしてみろよ。そこのエリィさんみたいに。
そういえば胸もないし。将来はエリィさんみたいなナイスボディのお姉さんにはならないな」
と正人はメイちゃんに悪口を言う。
すると、メイちゃんのほっぺたはますますふくらんで
「なっ。超むかつくー。今度リアルで会ったら絶対踏んでやるー」
と足を振り上げて、その場に下ろす。
現実だったらどしんと地響きがしていたことだろう。
「おまえなんかに踏まれてたまるかー。鈍いお前には踏まれないぞ、俺様の運動神経で逃げ切ってやる」
「むー」
「むー」
このへんでやめさせるか。
「まあまあ2人とも息がぴったりじゃないか」
「どこが、こんなやつ」
「どこが、こんなやつ」
2人同時に言う。
それを聞いてトオルはため息をついた。
何やっているんだろう。エリィと話をしたいから立体映像で話を始めたのに…
僕はエリィの顔を見た。
すると、エリィも同じことを思っていたのか、トオルと目が合うと苦笑いをする。
「さてとこんなことで貴重な時間をつかっちゃってごめんなさい。
エリィお姉ちゃんもトオルお兄ちゃんとお話をしたいでしょう?
今までの通信料は正人お兄ちゃんに請求するから」
「なんだよ。有料かよ」
「そっ。だめだめな正人お兄ちゃんの教育のため、費用はといちだから」
メイちゃんは指を正人のほうに向けて言う。
「高いなぁ。でもそれは利子の話だぜ10日で1割かよ。そんなのすぐに振り込んでやる100円か?」
とポケットから財布を出すふりをする。
「いや違うよ。10光年で1万円」
「なんだよ。それずいぶんぼったくりだな。ところで距離はどのぐらい離れているの?」
メイちゃんはうーんと考えるようなポーズになってから
「うーんと地球だと200万光年ぐらい」
「げっそんなに払えないぞ」
「あーうそだから。通信費はかからないから…」
その声はエリィ。トオルはずっと前から知っていたけどだまっておいた。
「でもすごいよね。200万光年ぐらい離れていてもこうしてタイムラグなしに通話ができるなんて」
と僕は言う。
「あっそういえば、言っておかないといけないことがあるの」
エリィは僕の前にしゃがみこんで言う。
「もうすぐで次のゲートに到着してゲートをくぐるんだけど、
次の場所では地球と通信ができないの、だからまたその次のゲートをくぐるまでの間は
メールも映像もできないの」
とがっかりした感じでエリィはトオルに言う。
「あっそうなんだ。じゃ今のうちにいっぱい話しておかないとね。
えーとその通話できない期間はどのぐらいなの?」
素直に疑問をエリィに聞いた。
「たしか地球の時間換算で2週間ぐらい。ゲートをくぐったらあたしのほうからメールするね」
「わかった」
そうなんだ。じゃあ時間を無駄にはできないなぁとトオルは考えた。
「あっでもまだ大丈夫だよ、ゲートをくぐるのは3日後だし」
そういえばエレーネと地球とでの1日はほぼ同じだから、あと3日と考えてもいい。
「ねえ。そういえばあたし、帰りに買い物を頼まれていたんだった。今何時?」
とメイちゃんの声がした。
「えーと33時」
「あーもうそんな時間か、じゃあたしは先に回線を切るね。あとはトオルとエリィお姉ちゃんと2人っきりでらぶらぶね。
ってそういえば正人お兄ちゃんもいるんだった。正人おにいちゃんもさっさと帰っちゃえ」
とメイちゃんが言う。
33時というのは地球換算で17時ぐらいのこと。
エレーネだと1日を30等分にしていて、5進数で表現している。だから33時となるのだ。
5進数は1桁が1〜5までしかない数字。6になると1桁あがる。
この数え方だと1〜5までが左手の指、桁が上がると右手の指を折ればいい。
そうすると両手を使うと35まで数えることができる。
やっぱり種族によって数え方や基数(地球だと10進数)が違うんだなとトオルは思った。
そうトオルが考えている間にメイちゃんと正人の間で言い合いが発生している。
「くっ今日は俺もレンタルDVDを返しにいかなくちゃいけないんだった。隣駅のレンタル屋。
だから俺も回線を切るわ。あとはお2人で…」
と正人の姿が消える。
「お。おい」
と僕はヘッドセットをいったんはずす。
「なあに、俺のことは気にしないでもいいぜ。あとはお2人で。
俺は勝手に帰るから。じゃまたな」
僕は。お、おうと返事をしてから、再びヘッドセットをつけた。
「あっ正人さん。帰っちゃったね。メイちゃんも」
「う。うん。でもやっと2人きりになれたよ」
「えへへっ」
とエリィは笑う。
「ねえ。エリィは時間大丈夫なの?」
僕は聞いてみた。
「うん。大丈夫。あたしにはおばあちゃんがいるけど。今は病院なの。高齢だから」
「ふーん。じゃ今はエリィ1人で暮らしているの」
僕は今まで聞いたことがなかったので聞いてみた。
「うん。そうなの。でも近くにメイちゃんもいるしさびしくはないの。
それにトオル君という大切な人ができたし…」
とちょっとほほを赤らめてエリィは言う。
トオルはてれくさそうにほっぺたを指でかいてから
「そうなんだ。よかった。さて、この後はどうしようか」
とトオルはエリィに聞いてみた。
もうすこししたらエリィともしばらく通話できなくなる。
だから今日はできるだけエリィと通話をしたかった。
「そういえば、地球には星空を見てある形とかに例えるのがあるみたいね。
なんだっけ。星座だったわよね?」
「うん。そう。エレーネには星座みたいなものはないの?」
とトオルは聞いてみた。
「母星にいたころは、そういうものもあったみたいなんだけど、
あたしたちは常に宇宙船で移動しているからそういうものはつけないの。
でもね。宇宙に見える星空を母星の景色に見立てて名前をつけることはあるの。
たとえば、星の集団が川の流れのようになっているところは川っぽい名前とか、
星の集団が小高く盛り上がっているようなところは丘っぽい名前とか」
「ふーん。やっぱり宇宙を移動していると惑星というか。大地の上が恋しい?」
僕はずっと宇宙船の中にいるエリィ達の感じ方というのがどんななのか判定できない。
でもやっぱり大地や土の上が恋しいのではと思った。
「そうね。やっぱり広いところでのびのびとしてみたい。
地球に着いたら、草の映えている小高い丘に登って、
そしててっぺんについたら大地の上に寝転がりたいの。
そして太陽を見て、ぽかぽかと暖かい日差しの中でうたたねをしたいの」
とエリィは言う。
宇宙船の中は空間拡張装置を使って空間を広くしていて、小高い丘があったり、
上空に雲や太陽の映像が投射されてはいるとエリィから聞いた。
でもやっぱり本物ではない。
「今度エリィが地球を訪れたら僕が連れて行ってあげるよ」
ちょっと足をのばせば、エリィの言っていたような風景の箇所がある。
「本当? ありがとう。楽しみにしているよ」
とエリィはとてもにこにこな顔で言う。
その後にあっそうだと言う感じでエリィは言い出した。
「ねえ。トオル君。昨日資料室の片付けをしていたらこんなものを見つけたの」
とエリィの指先に乗ってしまうほどの小さい紙切れ。
でもそれは本、いや手帳に見える。
「それは本?」
エリィが指の上に乗せてその紙切れを僕の前に差し出す。
「えっとね。拡大鏡で見ると字が書いてあるの。
でもちっこくて見えないの。
この通話で使っている立体映像はとっても解像度が高いの。
だからトオル君には何か書いてあるのが見えるんじゃないかと思って持ってきたの」
とエリィは指先をどうにか使って、その紙の表紙と思われるページを開いた。
「どれどれ見えるかもしれない」
と僕はエリィの指に乗せられた紙を見る。
エリィはとってもおっきいので、そのままの姿勢だと疲れると判断したのか、
いったん手を引っ込めて、うつぶせになっていったん寝ることにした。
その姿勢で腕を前のほうに投げ出し、指をトオルに向かってさしだす。
「えーと、1970年6月23日、24日、25日…
あれっこれって普通に読めるよ」
とトオルは手帳だなと思った。
年号と日付が書いてあり、日付ごとに線が引かれている。
「ね。ねえ。それ本当?」
エリィはとっても驚いている。
「ねえ。なんでエリィがそんなものを持っているの?」
とあまり驚かずに僕は聞いた。
「えっ。あー。そうね。これは資料室を片付けていたらある箱の中に入っていたものなの。
すごく小さいからなんだろうと思って。
でもこのサイズは地球人が使うのなら丁度いい大きさなのかなと思って持ってきたの。
それで、君に見せたらこれに書いてある字が読めるって言うんだもん。
びっくりしちゃった」
???
これはとっても不思議なこと?
念のためエリィに聞いてみた。
「ねえ。これってこのヘッドセットが自動的に地球の日本語に翻訳して、紙に書かれたものを表示しているんじゃないの?」
それを聞いてエリィは
「それはないの。この言葉もあたしが日本語を覚えて、話しているの。翻訳は入っていないの。
それは紙に書かれた文字も同じこと。
それに、この紙が入っていた箱はエレーネの母星から持ってきたと言われているわ」
それを聞いてトオルは
「えっそれっておかしいよ。ということはエレーネ星にその手帳があったってことになるよね?」
と。もしそれが本当ならすごいことだ。
「うーんなんでなんだろう」
2人ともなやんだ。
「それでね。この手帳をエレーネのゲート転送宅配便を使って地球のトオルへ送ろうと思うの。
何かわかるかもしれないし。それでね。これを口実に、2人で何か物でも交換しあわない?
あたしがいる船には、遠距離恋愛をしている中の良い2人同士が、実際に会う前に
物を交換しあうと幸せになるというのがあるの。
だからやってみない?」
ふーんそうなんだ。でもエリィがいる船はもうすぐでゲートを通るんだよな。
「そうだね。いいかもしれない。でもこっちから荷物を送るときはどうすればいいの?
それにゲートをもうすぐで通過するんでしょう? きちんと届くかなぁ」
「あーそれは心配ないよ。船の名前とシティとあたしの名前できちんと届くから。
ゲート間転送の宅配便なら4日もあれば届くよ。
大きい物でないかぎり。
送る方法はヘッドセットを借りてきた施設に行けばわかるから」
そうなんだ。
「じゃあエリィに何か送るよ。どんなものがいい?」
何を送ればいいのかわからなかったのでエリィに聞いてみた。
食べ物や生ものはきっとだめだよな。それに食べたら無くなってしまうし…
「鉢植えの植物か何かがいいかな。きれいなお花が咲くのとか、
それと。もしよかったらなんだけど、トオル君が着なくなったお古の服とかも一緒に送ってほしいの。
あたしの編みこんだ実物大の人形の服にいいのがなくて、それに着せてみたいんだ。
でも、だめだったらいいの」
それなら何着かあったな。
「お花と服ね。全然いいよ」
「それ本当? よかった。
あたしのほうは、トオル君の元についてからのお楽しみってことでいい?」
「うん。いいよ。なんだろう」
僕は楽しみが1つ増えたなと思った。
ちょうどバイトは休みで時間があるし、エリィのためにお花でも探そうと思った。
「あーもうこんな時間」
とエリィの声がする。
「もうそろそろ買い物に行かなくちゃならないの。
あたしのいる船のお店はあまり遅くまで営業していないの。
だから今日はここまでになるけどごめんね」
「なあに。いいって。明日はどうなの?」
「多分大丈夫。また昼ごろでいい?」
「うん。わかった。じゃまた」
「うん。じゃあねトオル君」
と言い合ってから回線を切った。
ああ、今日はエリィと話せて楽しかった。
それに物の交換もするし。
それと気になるのが手帳。
まあ実際に届いてからその手帳を読んでみればわかるか
とトオルは思った。
さて、こっちも買い物に行ってくるかな。
両親は今日も遅くなるみたいだし。
夕食の買出しに行くか。
それと、ついでにお花屋さんでも覗いていくかとトオルは考えてから家を出た。