トオルは家に帰ってから郵便受けに宅配便の不在通知が入っているのを見つけた。
どうやら国際宅配便のようなのできっとエリィからだ。
今日はバイトが休み。
電話をかけてこのあとに受け取ることにした。
エリィは何を送ってくれたんだろう。
トオルは家のチャイムがなるのが待ち遠しい。
トオルはテレビを見ながら荷物が届くのを待っていた。
家の近くに車が通るたびに気になる。
そして、ぴんぽーんとチャイムが鳴る。
「はい」
とわくわくしながらトオルはドアを開ける。
「ここにサインをください」
と言われてわくわくしながら荷物を受け取る。
こぶりな箱を想像していたんだけど思ったより大きい。
その箱の幅はみかん箱2個分ぐらいの大きさだ。
ずいぶんでっかい箱だな。
きっと彼女からしてみれば一番小さい箱を選んだにちがいないんだけど…
「何が入っているのかな…」
トオルは箱のふたを開ける。
すると中には指ぐらいの太さの毛糸で編み込んだ物が折り畳まれて入っていた。
それと見たことがない機械。
その他にとってもきれいな色のペンダント。
それと例の手帳だ。
箱の中には透明なカードが入っていて、
これにふれると急にエリィの声が再生された。
「えーと、こんにちわトオル君。
それでは使い方を説明するね。
折り畳んである毛糸の物は、夜寝るときに上にかける物。
トオル君が着る物を編みたかったんだけど、
トオル君からしてみればこの糸はとっても太いと思うので、
こういうものになっちゃった。
それにあんまり細かい物は編めないからこんな感じになっちゃった。
でも暖かいと思うよ。
では次。
箱の中に入っている機械はホバー装置。
これをつけると空中に浮き上がることができるの。
たとえばあたしとトオル君みたいに身長差があるときに、
これがあればあたしの顔のそばまで空中に浮くことができる。
だからいっしょに過ごしたりおしゃべりするのに困らないと思うの。
使い方はすぐにわかると思うの。
でも、この装置は一番小さいサイズのものを選んだんだけど、
きっとトオル君には大きいと思うの。
だから腰につけるまえに調整してね。
では次ね。
きれいな石がついているものはペンダント。
あたしのつけているペンダントとお揃いの石をはめ込んでいるの。
この石はエレーネの母星から持ってきたもので、
幸運のお守りとして昔から言い伝えられてきたものなの。
それと、思い人同士が同じ石から作ったペンダントを持っていると必ず幸せになるということなの。
この石は昔におばあちゃんからもらった物なんだけど、
せっかくだから、人形のアクセサリを作っているお店に頼んでペンダントに加工してもらったの。
あたしもこのペンダントはいつも身につけているの。
トオル君も身につけてくれるとうれしいな。
そして最後に例の手帳。
念のため保存用の箱の中に入れておいたの。
きっとこのメッセージを聞いているころは、
あたしのいる船と地球とは通信できない領域にいるから、
通話は今度になるわね。
あとゲートを2つくぐると地球に到着する予定なの。
もうすぐで地球に到着すると思うととってもうれしいの。
あっそれと、このカードもプレゼント。
あたしが地球についてから、
このカードを使うとあたしと連絡がとれるから着いたら連絡するね。
このカードの使い方は、カードにタッチしたら出てくるからすぐにわかると思うの。
じゃあね。トオル君。
風邪をひかないように気をつけてね」
とエリィからのメッセージが再生される。
なんか思ったより色々な物が入っていたな。
もっとエリィにいろいろ送ればよかった。
トオルはそのカードに手をふれると、
エリィの写真が表示された。
きっと箱に入れる前に撮影したものだろう。
トオルは写真を表示させてみることにした。
これはきっとエリィの住居だ。
宇宙船だから廊下と扉があるものと思っていたんだけど外のようだ。
でもよく見ると隣の建物との間が近い。
きっと外のように見えるのはホログラムのようなもので
そう見えるのではと思った。
そして次の写真をめくると、
エリィの隣に小さい子がいる。メイちゃんだ。
こうして見ると地球の女の子とかわらないなと思った。
そして、次の写真はエレーネの言葉でなにか書いてある建物の前だった。
エリィの隣にはテーブルがあり、見覚えのある箱が置いてある。
エリィの手のひらに乗ってしまうぐらいの小さな箱。
その写真からは、僕たちの大きさでいえばテッシュボックスの短い辺よりすこし小さいぐらいの長さの箱だ。
でも僕の隣にあるのは同じ箱なんだけどとっても大きな箱。
1メートルはあるだろう。
この箱の大きさを見て、エリィの体がいかに大きいかがわかる。
どうやらその場所は荷物の発着に使う建物のようだ。
そして、次の写真を表示するためにトオルはカードを操作したがこの写真以外には入っていなかった。
トオルはそのカードを机の上に置くとさっき再生されたときのメッセージを思い出していた。
エリィの乗っている船はあとゲート2つ越えると地球に到着する。
もうすぐでエリィと会える。
エリィと最初に会ったらなんて言うか。
こんにちわ。
やっと会えたね。
遙か遠く、隔てた距離があったけどやっと出会えたね。
うーん。なんか恥ずかしいなあ。
もう少し先だし、そのときに考えよう。
とトオルは結論づけて、例の手帳を調べてみることにする。
トオルはペンダントを身につけるとエリィが編み込んでくれた物にくるまりながら椅子にこしかける。
季節はちょうど寒い時期なのでちょうどいい。
とっても暖かい。
エリィにやさしく抱き抱えられているようだ。
ぱらりと手帳をめくる。
デザインは古くさいがどうやら普通の手帳のようだ。
日付を見るとやっぱり、今から何十年も前になるようだ。
僕の親がちょうど僕ぐらいの年代か。
でも、エリィから聞いた話では、
今から3000年ぐらい前にエレーネの母星から離れて、宇宙航行を始めたらしい。
ということはなぜ何十年か前の手帳が、3000年ぐらいも前のエレーネにあったのか。
なぞだ。
トオルは手帳に何か書いていないかどうかを調べる。
「6月2日。今日の天候は晴れ。見たところ雲1つない。
ナナと今日も出かけることにする。
今日地球へ帰る手がかりが見つかればいいのだけど、
そうそう、昨日の夜に、寒かったのでナナの寝床にもぐりこんだ。
でももう2度とそんなことはしないと誓った。
なぜならば、寝返りをうったナナのお尻の下敷きになって、もう少しでつぶされるところだった。
ナナは他のエレーネ星人よりちょっと小柄で、身長は8〜10倍ほど違うだけなんだけど、
その外見からはそんなに重くないものと思っていた。
乗っかられてもむぎゅーとされて、耐えることができる重さかと思っていた。
けれどそうではなかった。
さいわいに、床の木がへこんでいる箇所があってそこにちょうどはまったのが命拾いをしたんだと思う。
そうでなかったら本当にぺったんこになっていたことだろう。
気がつくと寝返りをうったナナのお尻が目の前にせまっていて、
あっというまにものすごい大きなお尻の下敷きになってしまった。
とっても苦しくて、息をするのがやっとだった。
両手をふんばっても、やわらかくて大きな物はびくともしなくて、このまま死ぬのかと思った。
しばらくすると、ナナが寝返りをうったのでそのすきに脱出することができた。
今日、お日様を見ることが出来たことに感謝しよう。
それにしても、女の子のお尻があんなに重いものだと思わなかった。でも身長が10倍はありそうだから、
そんなものなのかもしれない。
ナナのお尻が重かったのはナナには内緒だ。
と書いているときに、ナナが何か言う。
このことがばれたのかと思ったが、ナナが出かけると言っている。
ということなので、今朝の記録は終わりとする」
と書いてあった。
どうやら、ナナとこの手帳の持ち主である地球人は一緒に暮らしているらしい。
地球へ帰る手がかりを見つけようとしているのか。
でもこの人は何やっているんだろう。
寝床にもぐりこむとは…。
この記録を読んだ後にこの前はどうなっているのかを読もうとしたが、
前のページはなくなっていた。
ふと、もし僕がエリィの寝床にもぐりこんだら、
こんなふうな目に会うかもしれないのかもと思った。
「ふう。さて次、次を読もう」
トオルは次のページをめくった。
「6月3日。今日は曇り。
昨日は、僕が倒れていた森の近くに何かないかどうかを調べてみた。
そこには特に何もなかった。
でも、ナナが言うには、昔にも同じように、
地球から小人さんが来たことがあるという。
場所はこの近くだったらしい。
この場所に何かあるのか。
ナナもこの場所に来ることが少なくて、たまたま隣町へとお使いに行く途中に、
ここで僕を見つけたのだった。
でも、たまたま僕を見つけたようで気がつかなかったら、
道の真ん中に倒れていた僕を踏んづけてしまうところだったと言っていた。
ひぇー。
見つかって良かった。
最初は、だれかが捨てたお人形さんかと思ったらしい。
手で拾い上げてみると温かくて息をしていたのでとってもびっくりしたと言う。
でもナナに拾われてよかった。
あのまま死んでいたのかもしれないんだし。
その後は、その場から立ち去って、村1番の長老のおばあちゃんに会いに行くことにした。
過去にこのようなことがなかったかを聞くためだ。
今日はこんなところかな」
というところでそのページの記録は終わっていた。
ふーん。
なんかおもしろいな。
でも、続きを読まないと謎はまだ解けていないし。
とトオルは次のページをめくる。
でも、次のページは水でぬれたらしく、
ひっついて紙が重なっていた。
無理にはがすと破れてしまいそうなので、
そのままにしてめくることができるページを探した。
「7月14日」
だいぶ飛んだな。
水で濡れて読めなくなっているページが多数あったためだ。
「7月14日。もう時間がない。
1ヶ月ほど前に見つけた記録から、7月30日頃に
僕が倒れていた近くの森の大きな石がある付近に再びゲートが開くことがわかった。
このゲートを通ればきっと地球に帰れるとのことだ。
でも、本当に帰ることができるのかはわからない。
このままエレーネにいるということも考えたんだけど、
地球へ帰る道しるべを見つけたのと同じごろに、
ここエレーネの恒星系に向けて多数の小惑星群が向かっていることがわかったのだった。
不運なことに、このエレーネに衝突する確率は99%のことだ。
その小惑星群が飛来するのが7月29日ごろ。
僕は他のエレーネの人たちと一緒に脱出せずにこの惑星に残るつもりだ。
最初はナナが一緒に脱出しようとしつこく言ってきていたが、
どうしても地球に帰りたいと僕が言うとナナは泣いてしまった。
そのあと何日か顔を会わせてもしゃべってくれなくなった。
でもその後仲直りをした。
ナナは僕と離ればなれになってしまうことを思うと胸がいっぱいになってしまって、
泣いてしまいそうになるからしばらく僕をさけていたという。
ナナは
「そのゲートを通って、あたしも一緒に地球へ行く」
と今度は言い出した。
それは無理だということが後でわかったんだけど。
ゲートの大きさは僕の身長の倍ぐらいの直径しかない。
この大きさだとナナの体には小さすぎて通れないのだ。
ナナはしばらくその後考え込んでいたようだが、
なんか方法があるかも。と言ったあとに、
隣町の近くにある、古代技術が発掘された場所に向かっていってしまった。
そこには、エレーネの文明とは違う、異星人が残した機械や何かが見つかっているところだった。
そこにある機械をエレーネ星人たちは解析して、
色々なものを発明しているようだった。
このホバー装置もその一つだ。
移動にとても楽で手放せない一品だ。
ナナは隣町へ行ったきりまだ帰ってきていない。
通信装置で通話はしてみたんだけど、
これさえあれば、きっとなんとかなるはず…
と言って、ちょっと時間をくれるかなとナナは言って、
そのままもう少しここにいると言った。
僕はこの付近の人はすべて脱出してしまうよと告げたが、
いいよ。かまわない。いそがしいから切るね。
と言って通話を切ってしまった。
さてどうするか、
僕はナナを説得しに隣町へ行こうとしたが場所がわからない。
それに残っている人も少ない。
残っている人はナナと親しくしている友達一人だけだ。
ぎりぎりまで待つよ。とその友達は言っている。
今はナナがいないので、食事やここで暮らすための必要なら世話をしてもらっている。
今はホバー装置があるから、テーブルの上に上ることができるんだけど、
10数メートル上にあるテーブルの上に自力で上がるのは無理なのだ。
ここにあるものはどれもばかでかいので、食材も持ってくることはできない。
今はその友達に食事を作ってもらっている。
ナナ。早く帰ってこないかな。
大型の脱出用の宇宙船はぎりぎりまで惑星の軌道上に停泊しているが、隕石群の被害を受ける心配があるから、
軌道上に停泊しているのは27日まで。
それまでにナナが帰ってこなかったら、
迎えに行ってつれていくと、その友達は言っている。
僕はゲートが開くまでひとりぼっちでここにいなくてはいけないが。
まあしょうがないか。
さて今日も遅いので寝ることにする」
と手帳に書いてあった。
ひょっとしてこれが原因でエレーネ星人達は船団で宇宙を航行するようになったのか?
僕は次のページをめくるが、
真新しいことは何も書いていなかった。
そして27日のことが書いてあるページをめくった。
「今日は27日。まだナナは帰ってきていない。
ナナの友達は何日か前から荷物の整理をしているため、しばらく会っていなかった。
でも昼ごろに友達が僕のところにきて、
「ナナは戻ってきた?」
と聞いてきた。
まだ帰ってきていないことを告げるとその友達は。
「もう待っていられないわね。今日これから、ナナの元へ行って、
軌道上に停泊している宇宙船へつれていく。
……
それと、あなたとは今日でお別れになっちゃうけどね。
あたしもあなたと別れるのはさびしいけど、
あなたはこれで地球へ帰ることができるんだもんね」
「うん。僕も君と会えたことは忘れないよ。
それと、ナナのことよろしく。僕と離れ離れになっちゃうのはとっても残念だけど、
ナナはゲートを通ることができないし、このままこの惑星に残るわけにもいかないんだよね。
だから、ナナのことを頼めるのは君しかいないと思うんだ」
と言ったら。
「なんかしめっぽくなっちゃったね。でもナナのことは頼まれたよ。
あっそうそう。
君のために、何日か分の食料と森の中で泊まるための用具を用意しておかないとね」
と言って、僕のサイズに合いそうなものを探してくれた。
天気予報によると雨は降らないみたいだ。
でも、隕石群の雨は降るんだろう。
注意しないと、ここには降ってくるんだろうか。
そして、ナナの友人に僕がお別れを言っていたと伝えてほしいと頼んでから、
その友達に小さな箱を持たせることにした。
箱の中に僕が身につけていたもの(今はナナが作ってくれた服を着ている)
や何か僕の持ち物を入れてナナに持たせることにした。
ナナが宇宙船に乗ってから寂しくないように僕のものを入れておこうと思ったためだ。
ナナに現地の言葉を教えてもらったので、日本語とエレーネで使っている言葉の対比表も
この手帳に書き込んで箱の中に入れておくことにする。
この対比表があれば、僕がいなくてもナナが僕が持ってきた本(宇宙の星座、惑星ガイドブック)
を読めるだろう。
そうすれば、ナナ達がいずれ宇宙を航行中に太陽系を見つけるかもしれない。
でもずっと先なんだろうなと僕は思った。
これでこの記録も終わりだ。
あっそうそう、僕もナナとの思い出のため、
ナナの寝床のまくらにしいてあった織物を持っていくことにする。
これなら畳めば運べるし、
ゲートが開くまでの間に、森で野宿するときに毛布として利用させてもらおうと思う。
多分ナナは文句言わないよね。
あと、ナナの友達から綺麗な石がついたペンダントを渡される。
ナナからの伝言でエレーネの石からペンダントをつくってもらったのだ。
このペンダントについている石は、もう一つのペンダント(エレーネ星人サイズ)
についている石から作ったので、元は一緒のものだ。
ナナの友人はそのペンダントをナナに渡すと言っている。
なので僕とナナはおそろいのペンダントを持つことになる。
さてと、もう行かなくちゃいけないので、この手帳の記録も終わりとする。
この後はこの手帳を箱の中に入れてナナに手渡そう。
ナナ。
君と別れたくないけどしょうがないよね。
あれっなんか目から水がこぼれてきた。
こんな顔をナナに見られたくないなぁ。
でも手帳にこのことを書いたら、
このとき泣いていたとばれるじゃないか。
でもしょうがない。
僕は地球人。
ナナはエレーネ星人。
ナナはナナのふるさとの星を離れてしまうけど、
僕は僕の故郷の地球に帰る。
地球に帰ってからも、ここで過ごしたことを忘れない。
年をとって、痴呆になっても君のことは忘れない。
きっと結婚もせずに独身でいるのかもしれない。
君のことを思いながら過ごしているのかもしれない。
なんか、目がにじんでうまく手帳に書けないから、
このぐらいにしておくよ。
ナナ。
幸せに、子供もいっぱい作って、
君の子孫が地球を訪れる日が来るといいね。
そのときは僕が生きていたらいいんだけどきっと何世代も先かもね。
僕の住所は手帳に書いてあるから、一度僕の住んでいた町を訪れるといいよ。
高台から眺める景色が綺麗だから。
じゃさようなら」
この手帳に書かれていることを読んだトオルは、もらい涙をしそうになる。
トオルはエリィからもらったペンダントに手をふれた。
言い伝えだと幸せになるということなんだけど、
ナナとその地球人はきっと離ればなれになってしまったんだろう。
でも、エリィが乗っている宇宙船にこの箱があったということは、
この手帳に書いてあるナナ、あるいはナナの友達が
エリィのご先祖様ということなんだろうか。
その手帳には住所も書いてあるし、調べてみるかと思った。
次にエリィと回線をつないだら、話すことがいっぱいあるなぁと思った。