トオルは3連休を利用して、手帳の持ち主の家を訪ねることにした。
あらかじめ、例の手帳をデジカメで写真を撮り、
封書で写真を同封して手帳に書いてあった住所へ送たのだ。
でも、その人は他の住所に引っ越した後で、
送った手紙が転送されて新しい住所のところまでなんとか届いたのだった。
返信されてきた手紙に新しい住所が書いてあり、
ぜひ会ってお話したいと手紙に書いてあった。
丁寧なことに、この住所からそこの家までの交通費が同封してあった。
トオルはその後に電話をかけて訪ねる日を伝えてから昼前に家を出た。
エリィに報告をしたかったんだけど、まだエリィが乗っている宇宙船とは連絡ができない。
まあ、いいか連絡がとれるようになったら言おう。
トオルはそう思っていた。
そして、JRに乗り、がたんごとんという線路を走る音を3時間ぐらい聞いた後、町についたのだった。
駅まで迎えに来てくれるとのことで、それらしい人を探した。
すると、僕の父より歳上ぐらいの男性と、優しそうな女性がこちらに近づいてきた。
「失礼ですが、トオル君でしょうか?」
「えーと。はい。そうです。トオルです。
するとあなたは森里さん?」
と僕は声をかけた。
「そうです。森里航といいます、こちらは森里七恵といいます」
「初めましてトオルです。
交通費まで同封してくれてありあとうございます」
「いやいや、いいんだ。私のものを届けにきてくれるというんだから、このぐらいしなくちゃ。
家はここから近いから、家についてからお話しよう」
と航さんは言ってから車を走らせた。
トオルは奥さんをみた。
とっても綺麗な人だ。
でも日本人ではないような感じだ。
どこの国の人だろう。
トオルは車の窓から流れる景色を見ていた。
「あそこを曲がると家だよ」
と航さんが言ってから、ハンドルを切った。
「うわっなんだあれ?」
思わず声を出してしまった。
普通の家の隣にとってもでっかい建物がある。
ビルとかではなくて、とっても巨大なお家。
「あ、あれね。びっくりするだろう。
うちの息子夫婦が住んでいる家だよ。
うちの息子はエレーネ星の女の子と結婚したんだ。
そして、隣にでっかい家を建ててしまった」
そうなんだ。でも巨大だなぁ。
まるでデパートかビルのようだ。

「へえ。どんな人なんだろう。会ってみたいなぁ」
と僕が言うと。
「ちょうど出かけているんだ。
なんとかという恒星系にある、リゾート地へ何泊かの旅行さ」
と航さんが言う。
ふーん。残念。
そして家につき車から降りる。
「さあ上がって、トオルさん」
と七恵さんが言ってくれる。
「おじゃまします」
と上がらせてもらう。
「そこに座って。今ジュースと和菓子を用意するから」
「あ。ありがとうございます」
トオルは部屋の中を見回した。
ごく一般的な日本の住居だ。
でも、居間に飾られている物にも見慣れないものがある。
きっとエレーネのものなんだろう。
「私にもお茶をもらえるかな」
「はい。はい」
と七恵さんは用意をする。
「それでは、さっそくなんですが、この手帳です」
と僕は航さんに手帳を見せて渡す。
僕が事前に出した手紙にはごく簡単なことしか書かなかったので、詳細はこの場で話すことにする。
「はい。ジュースとお茶と和菓子。
あたしは洗濯物を取り込んでいますからね」
と言って七恵さんは居間を出ていってしまった。
気を使ってくれたのかな?
「じゃ拝見するよ」
と手を伸ばして手帳を取る。
航さんの手がすこしふるえているようだ。
ぱらり、ぱらりと手帳をめくる音がする。
僕は目の前に置かれたジュースを持って飲む。
ごくごく。
「ふむ。どうやら、これは僕が昔、あるところに置いてきた手帳だ。
もしかして、トオル君。ここに書いてあることを読んだのかい?」
と航さんはこっちを見つめてくる。
「はい。その手がかりが何かないかどうか読んでしまいました。すみません」
「はははっ。
いいよ。読んでしまったのなら仕方がない。
でも、君は信じたのかい?
ここに書いてあることを、
僕の妄想や作り話なのかもしれないよ」
「それなんですが、この手帳をどこから見つけたと思います?」
「うーん。僕の記憶違いでなければ、この日本にはないはずのものなんだ」
ひと呼吸おいてから僕は話した。
「えーと僕はエリィという彼女がいまして、
彼女から僕のところに送ってもらったものなんです。
エリィはエレーネの船団の宇宙船で、地球へと向かっているところなんです。
エリィが資料室の整理をしていたら、古い箱を見つけたとかで、その箱の中にこの手帳があったそうなんです。
その手帳に書いてある字が読めることをエリィが知って、
僕宛に送ってきてくれたものなんです」
「なんと。それは。それは本当なんだね。
いや、しかし。それは驚いた。
知っていたらでいいんだけど、
そのエリィさんが乗っている宇宙船の名前はなんて言うんだろうか」
航さんは興奮を隠しきれないみたいだ。
「うーんよく覚えていないんですけど、
エリィがいる都市の名前はトエールミナというそうです」
「トエールミナ。トエールミナ。
ああ。たしかそんな名前だったような気がする」
「ということは、航さんは本当にエレーネの母星へ行ったことがあるんですね。
だって、この手帳はエレーネの母星を出発した宇宙船の中にあったんですから」
と僕は航さんに聞いてみた。
「いやーでも。驚いた。
エレーネの母星を出た宇宙船がもうすぐで地球に来るなんて信じられない。
でも、たしかエレーネの母星から船団が出発したのは3000年ぐらい前のはず。
だったらもう、僕がいたころのエレーネの人はもういないだろうな」
航さんはそのころを思い出しているのか、遠くを見つめるような目をする。
その言葉を聞いて、手帳に書いてあったナナという女の子とはどうなったんだろうと思った。
「えーと航さんは、なんらかの原因で開いたゲートによって、エレーネ星へと飛ばされた。
そしてエレーネ星で何ヶ月か過ごしたあと、再びゲートを通じて地球へと戻ってきた。ということなんですよね。
でも航さんは、エレーネ星にいた人を見てびっくりしませんでした?
だって体の大きさが10倍違う人達がいたということになりますよね」
「うん。そうそう。そのころはまだエレーネ星というのも知らなかったし、
こんな大きな人がいるとは思っていなかった。
初めて見たときは夢か、作り物かと思ったよ」
と言いながら手帳をぱらぱらとめくる。
そして手帳の最初のほうのページを開いて、中身を読んでいるようだった。
航さんはすこし顔が赤くなったようだ。
「あの。ひょっとして、このページも読んだのかな?」
と言って手帳を見せてくる。
どうやら、航さんが、夜にナナの寝床に潜り込もうとしていることを書いてあるページだった。
「ああ、はい。その。読んでしまいました」
「そうか。今思い出したけど、こんなことも手帳に書いていたんだな。
ところでトオル君。このことは内密にお願いするよ。恥ずかしいからね。それと七恵には絶対内緒だ」
「なにを内緒にするの?」
とちょうど居間に入ってきた七恵さんが聞いてくる。
「ごほっごほっ。い、いやなんでもないよ。なんでもない。そうだよなトオル君」
「はい。そうです。なんでもないです」
それを聞いた七恵さんは家事でいそがしいためなのか、すぐに部屋を出ていってしまった。
「ふう。危なかった。ああ見えて七恵はおとなしそうなんだけど、怒ると怖いからな」
と航さんは話し込んでいてすっかり冷めてしまったお茶を飲む。
僕も氷が溶けて少し薄くなってしまったジュースを飲む。

「ところでトオル君も彼女がいるんだったね、少しアドバイスをしておいてあげよう」
「是非、聞きたいです」
どんなことを聞けるんだろうと思った。
「まずは危険性からだ。
トオル君はエレーネの女の子と一緒に過ごしたことはあるかい?
立体映像ではなくて本物の女の子となんだけど」
「ないです。その僕が住んでいる町は田舎なので、エレーネの子はいないです」
「そうか。だったら教えてあげよう。
見た目は地球の女の子と変わらない。
でも違うのは大きさと、猫のような尻尾が生えているぐらいだ」
「し。尻尾?。でも地球にいるエレーネ星人には尻尾はないと思ったけど?」
「もしかしたら、今のエレーネ星人にはないのか、それとも取っちゃったのかわからないが、
もしかしたらエリィさんにはあるかもしれない。
僕がいたころのエレーネ星人にはあったんだし。
どうやらエリィさんは僕が訪ねたエレーネと同じ地域から出発した宇宙船に乗っていると思うんだ。
でも尻尾があると結構便利そうだったぞ」
「えっそうなんですか?」
座るときにじゃまにならないのかなぁ、それともドアとかに挟んじゃったりしないのかなと僕は考えた。
エリィは見たところ少しおっちょこちょいなところもあるみたいだから
1回ぐらいはドアに尻尾を挟んでいそうだ。
と考えていると航さんが話始めた。
「たしか、そのころのエレーネ星人の尻尾はお尻から地面につくぐらいの長さで、
ちょうど一握りできるぐらいの太さだったと思う。
でも一握りできるぐらいの太さと言っても、
僕たち地球人から見たらとても太くて、僕たちの胴回りより太いぐらいなんだ。
一度僕はその尻尾にさわりたくて、夜寝ているナナの寝床にもぐりこんだことがあるんだ。
それで、尻尾をさわってみるとふさふさしていて気持ちよかった。
そこまでは良かったんだけど、僕が尻尾をさわったからなのか知らないんだけど、
尻尾が僕の体に巻き付いてきて、くるくると巻き取られてしまったんだ。
その後どうしても僕の力じゃふりほどけなくて、しばらくナナの尻尾と格闘することになった。
その後どうなったと思う?」
それを聞いて僕は微妙に笑ってから
「それは災難でしたね。きっと今無事にいるということは、その後脱出できたんでしょう」
「うん。そうなんだけど運が良かったと思う。
その後横を向いていたナナは仰向けになろうとして、
体の位置をずらそうとしたんだ。
ちょうど僕はナナのお尻の横ぐらいの位置にいて、
上からナナのとっても巨大なお尻が落ちてくるのをみたんだ。
もうだめだと思ったら、ナナの足の間にちょうど、はまって潰されないですんだ。
あのときは2度と寝床にもぐりこまないぞと思ったね。
でも次の日に夕食後に飲んだ飲み物のせいで、
ちょうど酔っぱらったようになってしまった。
その後にまたナナの寝床にもぐりこんだんだ。
それが手帳に書いてあった、ナナのお尻に下敷きになったときの話なんだけど。
そのときは、床のちょうどへこんだところに僕がいたから助かったんだ。
そうでなかったら、ナナの巨大なお尻にむぎゅーと潰されてぺったんこになるところだった。
そういえば、実際にナナのお尻にぺったんこにされた生物がいたなぁ」
「えっそうなんですか」
「うん。あれはその後何週間かたった日のことなんだけど、
僕の身長の半分ぐらいでずんぐりした、
のっそり移動する生き物が夜中に僕たちの住んでいる住処に入ってきたんだ。
僕はちょうどそれに気がついて、ナナのそばに行って起こそうとしたんだけど、
彼女は起きなかったんだ。
のっそりしているから大丈夫だろうと思って僕は棒を使って追い払おうとした。
攻撃はしてこないみたいなんだけど、見た目より重くてどかそうとしてもびくともしなかった。
蹴っても効き目がなさそうだった。
ちょうどその生物が、寝ていたナナのお尻の下ぐらいの位置にさしかかったときなんだけど、
ちょうどナナがうーんとうなって仰向けになったんだ。
ちょうどナナのお尻の下ぐらいの位置にいたその生物は、
上から落ちてきたナナのお尻の下敷きになって隠れてしまった。
その後にどうなったんだろうと思って、ナナのお尻の近くに寄ったら、
ナナのお尻と床の間には隙間がなくて、その後どうなったのかわからなかった。
そのときは、ナナのどっしりしたお尻を見てその生物がどうなったのか想像がついた。
その後に再びナナが姿勢をかえてお尻が持ち上がったときに見たんだけど、
本当にぺったんこに潰れてしまっていたんだ。
それを見てぞっとしたのを覚えている。
厚みは10センチもなかったと思う。
ナナのものすごい体重に押しつぶされたらああなるんだなと思ったんだ。
だからもし、エリィさんの寝床に、君が潜り込んだりしようとしたら、
その生物と同じようにぺったんこになるかもしれないという話だ。
もちろん、エリィさんが起きているときなら、
寝床にもぐりこんだとしても僕はなにも言わないけどね…」
それを聞いて僕の顔は少し赤くなった。
エリィに夜這いをかけようとかは思ったことはなかったけど、
これを聞いてから地球の女の子と同じように行動はできないなぁと思った。
布団に潜り込むのも命がけだ。
「でも運があって良かったですね。
運が悪ければその生物みたいにぺったんこになっていたのかもしれないんですし、
こうして地球に戻ってきて暮らせるんですから…。
そういえば、その後ナナさんはどうなったんでしょう。
きっと宇宙船でエレーネ星から脱出したんでしょうか」
気になっていたことを航さんに聞いた。
「うん。脱出できたと思う。
その後は彼女もきっと幸せになって、
ちょうど僕みたいに家族ができて、
子供もできて幸せになったと思う」
と航さんは言う。
きっと航さんは地球に戻ってしまって、ナナさんはきっと寂しかったんだろうな。
でもナナの子孫がエリィが乗っている宇宙船にいるかもしれない。
もしかしたらエリィがナナの子孫なのかもとトオルは考えた。
「きっとナナさんも幸せになっていると思います」
と僕は言った。
そのあとに航さんをみたときに首にネックレスのくさりが見えた。
「あのひょっとして、首からネックレスを下げていますか?」
「ん?。そうだけど。よく見ると君もネックレスを下げているね」
と航さんから聞かれた。
「これはエリィさんからもらいました。
たしかエレーネの石がはめこんであって、
彼女もこの石の片割れを組み込んだペンダントをつけているはずです」
トオルは答えた。
「実は僕のペンダントも一緒なんだ、
たしか人形を作っている職人がいて、その人は人形につけるための装飾品も作っているようだったから、
作ってもらったとナナが言っていた」
と航さんはペンダントを取り出して見せる。
「ああっなんか似ていますね。
僕もたしか人形を作っている職人に作ってもらったとエリィから聞きました。
ひょっとしたら、航さんのペンダントと作ってもらった職人の子孫が、
僕のペンダントを作ったのかもしれないですね」
トオルはそうなのかもしれないなと思った。
だって、自分のペンダントを取り出してみると、
なんか航さんのペンダントとデザインが似ていると思うのだ。
そのときぽーんぽーんと時計が鳴った。
もう夜の7時だ。
もうこんな時間か。
帰らなくちゃ。
「あの。そろそろおいとまをしなくちゃ」
と僕は言った。家に帰るための列車がなくなるかもと思った。
そういえば列車の時間を見ていなかったなと思った。
「いや。心配しなくてもいいぞ。
今日は泊まっていくといい。
それにもうすぐで夕食の時間だ。
いそいでその列車に乗っても夜遅くなるだろうし。
それにまだ話したいことがあるし、
どうだろう。
君の両親に電話して今日は泊まっていくというのを連絡すればきっと大丈夫だと思うよ」
どうしてもと言うし、もう夕食も僕の分を計算して作ってしまったと言っているので、
お言葉にあまえて今日は泊まっていくことにした。
夕食は僕の食べたことのないものだった。
なんでもエレーネの料理らしい。
「これおいしいですね」
「良かった。君の大切な人もきっとこの料理を知っているるかもしれないな。
これは僕がナナの友人が作っているのを見て覚えて、七恵に教えたものなんだ」
「へえーそうなんですか」
と言いながら僕が料理を口に運ぶ。
いいなあ。
僕もエリィの作ってくれた料理を食べてみたいなあ。
「君が今考えていることをわかる気がするんだが。
君とエリィさんが早く会えるといいね」
と航さんは言う。
「そうですね。エリィの乗っている宇宙船はもうすぐで地球に到着するみたいなんで待ちきれないです」
と航さんに返答し、皿に盛られている料理を味わう。
だいぶ料理を平らげて飲み物を飲んでだいぶいい感じになったときだった。
航さんがテレビのリモコンをいじったときにNHKのニュースが流れる。
「ん?。エレーネの船団が地球に寄らないとニュースが流れているんだが、
エリィさんが乗っている宇宙船はトエールミナではなかったか?」
「えっ」
僕はびっくりしてテレビを見る。
「地球に立ち寄る予定だったトエールミナの船団は、
予定を変更して地球に立ち寄らずに別の星系を目指すことになりました。
原因は地球に寄るために使用する予定のゲートの先で無数の小惑星の残骸が見つかったためだそうです。
それでは次のニュースは…」
「そ、そんな…」
たしかエリィが乗っている宇宙船はトエールミナだ。
それにトエールミナの船団はすべて地球に寄らないという。
じゃあエリィと会えなくなってしまうのか。
そんな考えで落ち込んでいる航さんはこう言った。
「ねえ。トオル君。残念だと思うけど、君はあきらめるのかい?。
それとも自分の力でなんとかする気はあるかい?
今行動を起こさないとトオル君は後悔することになるかもしれない。
僕は君のことを人事に思えなくて、是非協力したいと思っている。
君はどう思っているんだい?」
その言葉を聞いて、
「その。僕はエリィと会えないのは考えられないです。
何か方法があればなんとかしたいです。
でも、エリィが乗っている宇宙船はここ地球から遙か彼方の宇宙にいる。
だから僕の力ではどうすることもできないんじゃないかとも思っています。
だって、宇宙に行くにはお金もかかるし、僕はまだ高校生だし…
でもエリィには会いたいです。
僕はどうすれば…」
と言った後にエリィからもらったペンダントの存在を感じ取る。
「だったら君がエリィの元まで迎えに行けばいい。
ちょうど僕の息子夫婦のリリーが使っている宇宙船があるし、それを使えば君が迎えに行くことができる。
エリィさんに連絡をとってみたらどうだろう。
僕はこれから、息子に連絡をとってみて、宇宙船を使っていいかどうかを訪ねるから、
君はエリィさんと連絡をとってみてほしい。
じゃあ七恵。トオル君にカードを貸してあげてほしいんだ。
でも君はエリィさんの連絡先はわかるのかい?」
と七恵さんから、エリィと連絡をとるためのカードを手渡される。
「あ。ありがとうございます。
でも、僕もエリィからもらったカードがあるので、それを使えば連絡がとれると思います。
でもまだ連絡はとれないと思います。
たしか、エリィが乗っている宇宙船がいる地域は、地球と通信がとれない位置にいるらしいので…」
「そうか。じゃトオル君はエリィさんを迎えに行くとメールを書いて送信だけしておいたらいい。
地球との通信が回復したらきっとエリィさんに届くだろう」
と航さんは言う。
「そうですね」
と言って僕はいつもの携帯電話を使用してメールを打つ。
その間に航さんはカードを使って息子夫婦に連絡をとるとのことだ。
「送信っと」
僕はこれからエリィを迎えに行くと言うメールをエリィ宛に送信した。
メールを送信した後に気がついたんだけど、僕がエリィを迎えに行っていいのだろうか。
何週間もかかるんじゃないか。
僕は航さんに聞いてみた。
「あの航さん。ここからエリィがいる宇宙船まで迎えに行って帰ってくるのに何日ぐらいかかりますか、
僕は学校もあるので、何週間もかかったらどうしようというのに気がついたんです」
「ああ、それなら心配はいらないよ。
息子は宇宙船の製造会社につとめていて、
リリーが使っている宇宙船は現在で最速の宇宙船だそうなんだ。
たまに息子も使っているから、君にも操縦ができると思うし、
僕も有休があまっているからこれを機会に休みを取ろうと思うんだ。
きっと3日もあれば家に帰ってこられる。
一応エレーネの船団は、乗っている人数が多いから、
そんなに早く航行できないんだけど、個人の宇宙船ならスピードも出せるし心配はいらないと思う。
でもこの連休期間内には帰ってこられないから、1日ぐらい学校を休まなければいけないと思うが、
風邪をひいて休んだことにしてもいいんじゃないか」
と航さんは言う。
僕の親なら絶対そんなことは言わないなと思いながら、
これを逃すとずっとエリィと会える機会はないかもしれないと考えた。
「よろしくお願いします」
と僕は航さんに頭を下げた。
「よし、ということだから七恵。留守にするけどよろしく頼む」
「はい。わかりました。でも危険なことはしないでね。それとトオル君をしっかり守ってくださいね」
七恵さんは言う。
「わかった。ではトオルくん。君さえよければ明日出発しよう。
宇宙船は使っていいと連絡をもらったし、
ああ、そうそう。君に伝えておくことがあるよ。
僕の息子夫婦は旅行に出かけているんだけど、
途中でトエールミナの宇宙船に立ち寄ったみたいなんだ。
そこで、ちょうどエリィという人と会ったと言っていた。
今エリィさんの彼氏がいると伝えるとびっくりしていたぞ。
さっき連絡したときはもうすでにリゾート地についたあとで、
トエールミナの宇宙船を離れたあとだったからエリィさんには伝えることができなかったんだけど、
いいお嬢さんだったと言っていた」
「そうなんですか、何かと縁があるんですね」
僕たちは夜寝る前に明日の行動予定を話してから就寝することにした。
僕はエリィのことが気になっているのと、隣のいびきがうるさかったのでなかなか寝付けなかった。
そして朝。
「あなた、起きなさい。今日は出かける日でしょう。
ねえったら。もう本当に起きないんだから…」
という声で僕は目が覚めた。
「…
ああ、おはようございます。七恵さん」
「おはようございます。トオルさん。
あなた、起きないとむぎゅーってしちゃうわよ」
「くーくーく」
航さんはあいかわらず寝ている。
「隣にいるお客さんはもう起きているわよ。
ごめんなさいね。寝起きがわるくて。
息子もこうなんだから、きっと遺伝したのね」
と言った後に七恵さんは航さんのおなかの上に座る。
「ほらー。あなた」
と言いながら七恵さんが航さんのおなかの上でずんずんする。
「うっうっう」
それにあわせて航さんがうなる。
そうすると苦しかったのか、やっと航さんが目をあけた。
「んぐ。お、おはよう。七恵」
「やっと起きたのね」
「昨日はあまり眠れなくてね…」
いやそれは違う、数分でいびきをかきはじめたじゃないかと思った。
「なあ、七恵」
「はい。あなた」
「1週間前より、重くなったんじゃないか」
七恵さんの表情がかわる。
「いいえ。重くなってなんかいません。あなたの腹筋の力が弱くなっただけです。
それじゃ支度して起きてくださいね」
と言って、航さんのおなかの上でもう一回ずんと重さをかけてから、立ち上がって寝室を出ていってしまった。
「ぐっ最後にずんと重さをかけていかなくてもいいのに。
怒ったかな。でもおやつにお菓子をばくばく食べているのを見たから、あれはきっと少し太ったな」
「あはは。かわった起こしかたするんですね」
僕はそれを見て言った。
親と同じぐらいの年代なのに、とっても仲が良い夫婦だ。
「僕は寝起きが悪いからね。いつも同じ起こしかたじゃないんだ。今日はあれだったけど、昨日は鼻をつままれた」
そうなんだ。
家では目覚まし1発で起きちゃうんだけど。
その後は家族と一緒に食事をしたあとに、出かける支度をした。
結局まだエリィとは連絡がとれていない。
きっとメールを見てくれるだろう。