あたしはあたりに何かないかを注意しながら、惑星に進路を向けた。
自動操縦は切った。
エリィは目的の惑星から救難信号が出ていないかを調べる。
でも出ていない。
生命反応は?
と思ってサーチする。
すると無数の点が画面に表示される。
「これじゃわからない。
何かない?。
そうだ。金属反応は?
それと無線の周波数に一致するものが発信されていないか」
エリィは思いつくかぎりの方法で探してみる。
金属反応も多数。
無線の反応はなし。
これじゃわからない。
本当にこの惑星に不時着したのかわからない。
でもこの惑星近辺には他の宇宙船が見つからなかった。

エリィは目の前の惑星を見る。
「でもきれい」
惑星の表面は見えないが基本的に青い色をしている。
それに雲。ところどころ雲の合間からは大陸と思われるものが見える。
惑星に向けて降下していくと、巨大な大陸の中にきれいなブルーと緑色が混じったようなきれいな水たまり。
あれは湖というらしいんだけど、きれいだなとエリィは思った。
まずはあそこに向けて降下していこうと思った。
トオル君と一緒にこの景色を見たかったなとエリィは思った。
エリィはその湖の近くにある高原に宇宙船を着陸させる。
「えーと無線通信や救難信号が見つかったらわかるようにして、外に出て宇宙船の外壁をチェックしなくちゃ…」
エリィはトオルが無事かどうか頭がいっぱいだったけど、
学校で習ったとおり、宇宙船の損害状況を確認しなければならない。
「よっこらしょ」
エリィは椅子から立ち上がる。
あれっ体が重い。
コンソールの表示を見るとこの星の重力は少し強いようだ。
そして宇宙船の外にでる。
日差しは暖かい。肌に感じる風も心地よい。
エリィは上を見上げる。
雲がはるか上に見える。
なんて天井が高いんだろう。
というか天井はないんだよね。
トオルは今どうしているだろう。
あたしと同じようにこの空を見上げているんだろうか。
エリィは遙か上を流れていく雲をしばらく見つめていたが、目線を目の前の宇宙船に向ける。
そして外壁を見る。
惑星に降下するときは大気との摩擦熱で外壁が高熱にさらされるが、外壁に傷があると損傷がさらに進むかもしれないためだ。
「あー思ったよりひどい」
外壁は一部がはがれていて、はがれたところはささくれだっている。
これじゃ次に惑星に降下するのは無理かもと思った。
エリィは宇宙船を修理することができないのであきらめることにする。
このままでも宇宙を航行することはできそうだ。
エリィは深呼吸をしてから後ろを振り返る。
なだらかな坂で、その先には青と緑色の中間ぐらいの色の湖が見える。
水面が日の光を反射して白色に輝いている。
とってものどかだ。
エリィはトオルのことを思う。
エリィの体が風を感じる。
「さてと戻らないとね」
エリィは宇宙船の中に戻ることにした。
椅子に座ってコンソールの表示を見る。
トオル君の宇宙船はまだ発見されていない。
トオル君に会いたい。

今度トオル君と会ったら絶対放さない。
ぎゅーと抱きしめてあげるんだ。
でも力を入れたら痛がるかな?
でも…
エリィはトオル君と尻尾でじゃれて遊んだこと。
トオル君の寝顔をみていたこと。
トオル君と一緒にお昼寝したことを思い出していた。
お昼寝最中に、トオル君がごそごそとあたしの胸ポケットの中で動くたびに、
あたしのおっぱいが刺激されて、声がでそうになるのを我慢したんだっけ。
今となりにはトオル君がいないけど、
目を閉じればトオル君の温もりやその感じをすぐに思い出せる。
エリィにとって1番大事なのはトオル君と一緒にいること。
トオル君と離ればなれになってからトオル君のことばかり考えている。
一緒にいたときは、離ればなれになるとは考えていなかった。
「はぁ」
とエリィはため息をつく。
外は良い天気で景色もきれいだ。
それにエリィは惑星に降り立ったことはない。
いつものエリィなら、
外を散歩して、
あたりの風景を見て、
風を感じて、
草原に寝っころがって空を見上げていたであろう。
でも今はそんな気がしない。
エリィはどうすればトオル君を見つけることができるのかということを考えていた。
エリィは胸元のペンダントを見る。
このペンダントはエレーネの母星から持ってきたもの。
他の惑星ではあまり見かけない鉱物だ。
あまり見かけない?
あっそうだ。
トオル君もこの片割れのペンダントを身につけているはず。
ということは、この宇宙船にその機能があったかわからないけど、
鉱物探査の機能を使えばトオル君の居場所が見つかるはず…

あたしは、早速宇宙船の中に入りその機能を見つけようとする。
「あっあった。これ」
エリィは鉱物探査の機能を呼び出して、その鉱物137番を選択した。
そして探査のスイッチをONにする。
探査にはしばらくかかるということなのでエリィはその間に食事をとることにする。
「はあ。
トオル君がいないとなんか食欲が出ない」
エリィはいつもの1/3ぐらいの量を食べてから缶をしまった。
そして、鉱物探査が終わったというメッセージが表示される。
エリィはその表示を見て
「なんでなの?」
表示には同じ構成物質を示すものが2756個表示される。
そのうち1327個は地表付近にあると表示され、残りは地中深くにあるとのこと。
数個だったらすぐにその場所に行って調べることができるんだけど、
1327個とは。
エリィはその個数を見て泣きそうになった。

……

ぴーぴーぴ。
ぴーぴーぴ。
どこかで何かが鳴っている。
トオルは目を開けた。
「いててて」
とトオルは頭をさする。
そして自分が床に倒れているのに気がつく。

ぴーぴーぴ。
と警報はまだ鳴っている。

トオルは痛い体をさすりながら起き上がる。
そして音が鳴っていると思われるコンソールのほうに移動する。

「えっ」
トオルはスクリーンを見て驚いた。
スクリーンから見える外はいつもの格納庫ではなくて星が見える。
「なんで…」
トオルはコンソールの表示を見る。
すると、船体の外の気圧が急に下がったのでハッチが自動的に閉まったとの表示だった。
少し船内の空気がもれたが大丈夫らしい。
「エリィは…」
トオルはあたりを見回す。
トオルが乗っている宇宙船の他には何もない。
けれどコンソールの表示によれば何かあるらしい。
トオルは宇宙船を回転させる。
すると近くにはとってもばかでかい10メートルより長いぐらいの箒のようなものがあった。
そういえば見たことがある。
格納庫の隅に立てかけてあったものだ。
あそこにただよっているということは、
何かのアクシデントで格納庫の扉が開いてしまったということだ。
「ねえ。エリィ。エリィ」
インカムと通信機を使ってエリィとの通信を試みようとする。
どっちもざーざーという雑音ばかりが聞こえてくる。
「だめか」
僕はふとスクリーンを見ると青いものが目にはいった。
惑星だ。
きっと目的地の惑星なんだろう。
僕はもう一度通信を試みた後に、あの惑星に着陸することにした。
きっとエリィもあそこにいるに違いない。

僕は着陸の方法を航さんから教えてもらっていなかった。
僕はマニュアルか操作説明になるものがないかを探した。
でも見つからない。
僕はこのままここにいるわけにもいかないので進路を惑星に向けた。
すると自動的に着陸態勢に入ったという表示がコンソールに出る。
ああ、良かった。
僕は椅子に座って着陸するのを待つことにした。
その間にどんどん宇宙船は降下を続けている。
ずっと下に雲が見えていたかと思うと、
いつのまにか雲の間を下降している。
そして真下には真っ青な海が見える。
「わわわっこのままだと海の上に着水してしまうぞ」
僕は腕をあわてて振った。
するとコンソールに表示が出て、大気圏航行モードにしますか?と表示がでる。
僕はOKを選択する。
すると宇宙船の下降が止まり、前方に向けて移動をし始める。
「ふう。なんとかなった。
でも大陸を目指さないと」
僕はあたりを見てみるが大陸は見つからない。
でも、確か惑星の曲面がわかるぐらいの高度のときに、
前方に大陸があったはずということを思い出した。
僕は進路をそのまま前方に向ける。
1時間ぐらいすると大陸が見えてきた。
「あそこに着陸しよう」
僕は大陸を見つけて、大きな川がある箇所の近くに進路を向ける。
そして、見晴らしが良いところに着陸させる。
「外に出ても大丈夫なんだろうか」
トオルはスクリーンから見える外を見る。
青々とした木々。
向こうには比較的大きな川の水面が見える。
見たところ生物はいないようだ。
でも気候は地球とかわらないように思う。
都市を離れて自然がいっぱいあるところに来たような感じだ。
きっと大丈夫だろう。
自然もあるし。
僕は宇宙船のハッチを開けて外にでる。
トオルは深呼吸をする。
暑くもなく寒くもない。
丁度いい気温だ。
それに風が心地よい。
「地球以外にもこんなところがあったなんて…
でも見た目は地球とかわりがないなぁ」
僕はあたりを見回してから上を見る。
雲も地球のと同じだ。
月を探そうとしたが見つからなかった。
「あっそうだ。思わず出てきてしまったけど。
まずはエリィと合流しないと…」
僕は再び宇宙船の中に戻る。

「エリィ。エリィ。聞こえる?」
ざーざー。
通信機からは雑音しか聞こえない。
だめなのかなぁ。
ひょっとしてこことは別の大陸に不時着したのかな?
でもこの無線はどのぐらいの距離まで届くのだろう。
トオルはあまり詳しくないのでわからなかった。
そういえば、救難信号を発するような仕組みはないんだろうか。
トオルはそういう機能がないかを探す。
「あっあった。でもこのまま救難信号を出しっぱなしだと、
エネルギーを使ってしまうかも」
トオルは今日いっぱい信号を出すことにした。
そしてもし今日中に合流できなければこっちから定期的に無線通信を試みてみようと思った。

そういえば食料と水は?
トオルは気になったので調べてみた。
すると、エリィが前に持ってきた缶詰と同じデザインの缶が見つかった。
どうやら10日分はあるらしい。
水も同じぐらい。
でも水はこの惑星にもある。
湧き水かなにかあればいいんだけど、
それと食べるものがないんだろうか。
もし、万が一ここにいるのが長引いたときのことを考えると食料と水は節約したほうがいい。
体力があるうちに出かけてみるか。
その間、救難信号と無線があったら録音ができるようにしておこう。
さっき通信の録音機能を見つけたので利用しようと思った。
えーと。出かけるにあたって何か持っていくものはないだろうか。
トオルは宇宙船の中を見る。
するとスコップのような物と物を入れるのに便利なざっくが見つかった。
ざっくの中には携帯用の飲み物入れと傷を手当てできるような救急用具。
救急用具は災害時に使うことができるような地球にもある汎用品だった。
それと汚い水でもろ過して飲み水にしてくれるもの(これも地球のもの)があった。
これを持っていこう。
僕は缶詰1つと水。それと武器になるものがないかを探したが見つからなかったので、
近くにあったほどよい太さの木の棒を持っていくことにした。
ナイフもあったけど小さいので、大きな猛獣には歯が立たない。
まあ生物がいるとも決まったわけではないし…
僕は気楽に出かけることにした。

まずは川をさかのぼって行ってみるかと思った。
そうすれば迷子にならないしわかりやすい。

トオルは棒を杖のかわりにしながら歩いていく。
あたりの風景は地球とかわりはない。
でも生物の姿は見当たらない。
鳥とか昆虫とか。

しばらく30分ぐらい歩いていくと前に水溜りがあった。
この水溜りは2メートルより大きいぐらいで、細長い。
そんな水溜りが7,8メートル間隔で一直線にならんでいる。
でもずーと続いているということはなくて何個かの水溜りのあとはなくなっている。
深さは30センチぐらい。
最近雨が降ったんだろう。
その向こう側を見るとこんもりした森が見える。
でも深い森ではない。

あそこに食料になるものがあるかも。
トオルはその森を目指して歩いていく。

でも普通の木々のように思えたんだけど、見たことがない木だ。
地球のものとは違い、丸くはなくて平べったい。
なんでこんな形になっているんだろうと思った。
上を見上げるとはるか上(エリィの頭がある高さより数倍さらに上)に葉っぱのようなものがあるのがわかる。
僕は隣の木を見る。
するとはるかかなた頭上に丸いものが葉っぱの間についているのがかろうじてわかる。
もしかして食料になるものか?
僕は目をこらしてみる。
ここからではどんなものかわからない。
でも上にあるということは下に落ちているんではないか?
僕は下を見ながらその木のまわりを歩く。
すると、ビーチボールの倍ぐらいの大きさの木の実が落ちているのに気がついた。
「でっけー」
僕はその実をさわる。
転がすのにも力がいる。
「重っ」
持って帰るのは無理そうだ。
これじゃ無理だな。
僕はさらにあたりを見回す。
するともっと小さい実も落ちているのに気がついた。
これなら持って帰ることができる。
スイカぐらいの大きさだ。
見ても虫食いの穴とか、腐ったような感じはない。
大丈夫だろうか。
いいや持って行こう。
1つ見つかると他にも見つかるようだ。
そばの木(とっても低い)にちょどいい大きさの実がくっついているのに気がついた。
においをかいでみると甘いフルーツのようだ。
これも持っていこう。
このぐらいでいいか。
僕は戻ることにする。

途中、2メートルぐらいある水溜りを過ぎて、さらに歩いていく。
結構な時間外にいたような気がするんだけど、生物は見かけないな。
僕はあたりを見回しながら歩く。

やっと僕の宇宙船が見えてきた。
エリィから通信が入っていますようにと願いながら帰路を歩く。

宇宙船の中に入ると、ゲットした木の実を床の上に置く。
そして通信が録音されていないかを確かめる。

どうやら通信はないようだ。
がっかり。

でもここは1つの惑星。
2人が出会うのは大変ではないのか?
でも通信機や救難信号がある。
他に知的生命はいないように思える。
だから見つけるのはそんなに難しくないんじゃないかと思っていた(宇宙を航行する技術を持っているエレーネ星人なら)。

だいぶ歩いたので疲れた。
少し休もう。
僕は毛布を探してきて体の上にかける。
そして目を閉じた。

……

「んぁ」
僕は目を覚ます。
目を覚ましたとき、自分がどこにいるのかがわからなかった。
ああ、そうか宇宙船の中か。
それと今僕は1人ぼっち。
どうやら夢を見ていたみたいだ。
エリィと一緒におしゃべりをしている夢。
エリィの胸ポケットの中に入って、その中からエリィにはなしかけていたようだ。
なんだ夢だったのか。
夢の中のエリィの体のぬくもりが本物のように感じられた。
とってもあったかくて、ぽわぽわしていて、やわらかかった。
エリィ。

僕はスクリーンから外を見てみた。
どうやら日はとっくに暮れてあたりは暗くなっている。

ちょっと外に出てみるか。
僕は風にあたりたかった。

僕は外に出る。
そして上を見上げる。
月は見つからなかったが、星が見える。
星の並びには見覚えのあるものはない。
これを見て、やっぱり地球ではなくて、他の星にいるんだなと思った。
きっとこの星をエリィも見ているんだろうかと思った。
少し寒くなってきたな。
僕は宇宙船の中に入ることにした。
さっきの夢のエリィの体のぬくもりが恋しい。

僕はこの宇宙船のエネルギーのことについて調べることにした。
どのぐらいもつのか、
エネルギー源は何か。
エネルギーを節約するにはどうすればいいか。
そして、そのほかにこれからのことを考えることにした。
どうやって他の人に見つけてもらうか。
もし航さんが救援にきたらどうするか。
もしそのときにエリィと合流できなかったらどうするか。
それともしばらく救援がこなかったときはどうするか。
この星に獰猛な猛獣はいないんだろうか。
病気にならないだろうか。
考えること、これからやることはいっぱいありそうだ。
ああ、エリィ。
早く逢いたい。
早く合流したい。
でも、できるかぎりのことをしなければいけないぞと思った。

……

いろいろトオルは今後のための準備をした。
すると結構な時間がたっているのに気がついた。
きっと真夜中だろう。
もう寝るか。
あくびを何回もしている。
エリィから通信はなかった。
明日も通信がなかったらどうしよう。
いいや。消極的になったらだめだ。
明日。
明日になれば…
僕は宇宙船のエネルギーを節約するために大部分の機能をOFFにすることにした。

おやすみエリィ。
僕は毛布をかぶって目を閉じた。

……

トオルは日差しのまぶしさで目がさめた。
丁度、朝日が窓から入ってきてその光がまぶしい。
朝か。

僕はエリィからの通信がないかを確認する。
まだない。

この宇宙船のエネルギーは2週間ぐらいは普通に使ってももつはずだ。
節約すれば6ヶ月は持つ(航行しなければ)。
なので移動することにする。
もっと見つかりやすい箇所がないか。
目印になりそうなものがないだろうか。
ふと。僕は地球のナスカの地上絵を思い出した。
そうだ通信がだめなら、地上にでっかい絵を描いて、
それを上空から見つけてもらえばいいんだ。
僕はそれにふさわしい場所を見つけることにする。
ながめがよくて、曇っていない箇所。
そしてまわりに水があり食料がありそうなところ。
昨日調べたときにこの星系のことも調べることができた。
そしてこの惑星の概略を知ることができた。
知的生命はなし。
獰猛な猛獣はなし。
生命は存在。
大陸は9個に分かれている。
大きな大陸はここのようだ。
この大陸の中ほどには巨大な湖がある。
その湖はブルーと緑色が混じったようなきれいな色でこの惑星の中でも一番きれいな場所だという。
そこははるか上空からでも見ることができるとある。
ここにしよう。
湖のまわりは開けていて上空から観察するときに邪魔になるものはない。
エネルギーを節約するために数時間かけてその湖まで移動することにした。
移動中も救難信号をONにすることにした。
移動中も何回かにわけてエリィと通信を試みた。

……

結局エリィと合流できないまま今日も日が暮れてしまった。
明日からは、このあたりにあるものを使って文字を書こう。
なんて書こうかな。
エレーネの言葉はわからないし。
オーソドックスにSOSと書くか。
航さんならわかってくれるはずだし。
それと木々をあつめて、夜は焚き火をしよう。
この惑星には火がないはずだから目立つはず。

僕は前ひろった木の実とでっかい実を割って中の繊維状のものを食べた。
結構おいしかった。
前食べた缶詰に入っていたもののような食感だ。
もしかしてその缶詰の材料になっているんじゃないかと思った(地球にはないけどそんな気がした)
エリィはどうしているだろう。

……

僕は椅子から起き上がった。
気がつくともうあたりは明るくなっている。
いつのまにか寝てしまったようだ。
でも、またエリィと過ごしている夢を見ていたようだ。
夢の中で何をしていたんだろう、起きると夢の記憶が薄れていく。

今日でエリィと別れてから4日目。
まだエリィと連絡はとれない。
トオルは湖の横の見晴らしが良いところにそばに落ちている木々や石で文字を書いている途中だった。
白くなった木があったので引きずっているところだ。
結構力がいる。
木を目的の場所まで引っ張っていって、木を他の木の上に乗せようとしたとき、
ずるっと足が他の木にとられて滑ってしまう。
どすっ。
木が足の上に落ちてきて挟まってしまう。
「くそっ」
抜けない。
くそっ。どじやっちゃった。
なかなか足は抜けない。
このまま一生足が抜けなかったらどうしようと思った。
助けを呼べない。
だれもいない。
エリィでもいてくれたら、簡単に木をどけてくれるのにと思った。
でもエリィはいない。
くそっ。
僕はあたりを見回して、手に届く位置に木があるのを見つけた。
そしてその木をてこのかわりに使って足の上に乗っている木をどけようとする。
ぼきっ。
てこがわりに使っていた木が折れた。
くそっ。
他の木はないか。
僕は体を動かして手を伸ばす。
でも丁度いい大きさの木はない。
「くっそー」
ともがいてみる。
すると、おしりの下の木がずれる。
ん。
これならいけるかも。
もっとさらに動く。
ずるずる。
よし。
もっともがく。
ずるずるずるっ。
ごつん。
木がずれたひょうしに頭をぶつける。
「いててて」
でも足が抜けた。
良かった。
これで立ち上がることができる。
「うくっ」
立ち上がってから足がとっても痛かったので顔をしかめる。
折れてはいないようだがひびぐらいは入っているだろうか。
トオルはそばにあった棒を杖のかわりにして宇宙船の中に入る。
あたりは夕日にそまっている。
あのまま夜を迎えていたらと思うとぞっとする。
添え木になるものも拾っておいたので足に添え木をあてて包帯を巻く。
あまり動けないな。
でも文字としてはほぼ出来た。
これで空から見たらわかるだろう。
トオルは栄養のあるもの(缶詰)を食べてから休むことにした。
いつになったらエリィは来るんだろうか。

……

エリィと別れてから10日目。
足のいたみも完全に治ったので再び付近を歩いている。
以前湧き水が出ているところを見つけたので、そこまで行って水をくむためだ。
そのために1時間歩かなければならない。
宇宙船を使えばいいんだけど、途中から森の中に入ってしまうので上空からだと着陸するところがない。
エリィの足なら何分でここまで来ることができるだろうか。
トオルはエリィの歩く早さを思い出して考えた。
のろのろ運転の車よりは早いかもと考える。
トオルは途中、木の実も拾っていく。
最近は缶詰と木の実ばかり食べている。
湖の中に何か魚がいないか見たけどいない。
見たことがないばかでっかい貝のようなものが水面の下にいたが、
上げることができない。
それに食べることができるかわからない。

「この木の実も飽きたな」
今日は特にやることがないので、湖を見下ろすことができるような
なだらかな坂になっている草原を見つけてそこに寝っころがっているところだ。
天気が良い。
たまに雲が太陽をさえぎる。
風が心地よい。
トオルはうとうととしていた。
「と。と。と。と」
何か聞こえる。
目を開ける。
「と。と。と」
この声はひょっとしてエリィか。
僕は声が聞こえる方向を見る。
すると。

「と。と。トオル君?
や。やっと見つけた…」

太陽をさえぎるような感じで巨大な人影が僕の体に落ちている。
逆行で顔はあまり見えなかったけど。
この声は間違いなくエリィ。

「エリィなんだね。やっと逢えた」
トオルは草の上に座ったままの状態で(立つことも忘れて)エリィを見上げている。

「本物なんだよね。夢じゃないんだね。
あははっ。
718個目だよ」

エリィは僕に近づいてからへたっとすわり込んでしまう。
エリィが座ったのでちょっと地面が揺れたのに気がついた。
「エリィ? 大丈夫?」
僕はあわててエリィの元にかけよる。

「あははっ
やっとトオル君が見つかったよ。
安心したら腰がぬけちゃった」

無理に立ち上がろうとするエリィを見て。
「いいよ。座っていても。
僕はここにいるから。
あっそうだ。
エリィこのまま横になって寝てよ。
僕も横で寝っころがるから……」
「うん」
エリィは僕のほうを見ながらそろそろっと寝っころがって空を見上げる。
「いい天気だね。それに雲もあんなに高いよ」
「うん」
「でも、良くここがわかったね。
それとも偶然?
救難信号は出していなかったのに」
「それはね。このペンダント。
このペンダントの鉱物反応を追ってきたの。
このペンダントに使われている石はあまり他の惑星にはないの。
でもね。宇宙船の探査機能をつかったら1327個が地上にあると出たの」
「え? 1327個?」
「うん。それでトオル君を見つけるために718個も反応があるところをたどって、
そして。
そして718個目でトオル君を見つけることができたの。
そ、そしてら。あたしうれしくて」
その後はエリィはだまってしまった。
声の感じからは泣き出してしまったような感じだ。
ここからはエリィの顔が見えないけど、しばらくこのままでいようと思った。
日の光がぽかぽかで気持ちがいい。
それに風。
向こうにはきれいな湖が見える。
トオルはそんな景色と空を見ていた。

しばらくしてから
「でも。トオル君も良く無事だったね。
あれから1年ぐらい経っているんじゃないかなぁ」
「えっ1年?
いや僕は10日ぐらいと思ったけど?」
「10日?
あたしは何100回も太陽が昇るのを見たよ。
それにトオル君を見つけるまで718回も反応があるところをめぐっていたんだもん」
たしかにそんな数をこなしていたら1年ぐらいかかるか。
でもエリィは1年も僕を探していた? あきらめずに?
それを思うと僕のほうが胸がいっぱいになった。

「エリィ。ありがとう。僕はうれしいよ。
でも僕はたしかエリィと別れてから10日ぐらいだったと思う。
もしかしてゲートの影響で時間が飛ばされたんだろうか?」
「それ本当なの?
10日というのは。
そういえば、鉱物の反応が1327個から1328個に1つ増えていたっけ。
装置のかげんでそうなったのかなと思ったけど、
もしかしてそのときにトオル君はこの惑星に降りたのかも」
うーん。2人して考えこむ。
「さてと。あたしはもう大丈夫。
宇宙船のところに戻ろう」
とエリィはいったん立ち上がってからしゃがみこむ。
そしてエリィが僕に向かって手を差し出してくる。
僕は両腕を広げる。
するとエリィが僕の体をつかんでエリィの胸ポケットの中に入れられる。
「ここに入るのも久しぶり」
「うん。そうだね。あたしは1年ぶりぐらいだけど。
そうだ。
いつものようにあたしの胸でぽよんぽよんしていいよ」
「げっ
エリィは気がついていたの?」
「うん。
あたしは気にしないよ。
トオル君が好きなだけぽよんぽよんしていいよ」
「そう言われると、しずらいなぁ。
でもあったかいし、
その。
やわらかいし、
とっても心地がいいんだよ。
それに10日ぶりだから。
歩いている間。
お言葉にあまえて、ぽよんぽよんする」
僕はエリィを見上げる。
「じゃ行こうね。
そういえばトオル君の宇宙船はどこにあるの?」
「えーとまっすぐ行ったところ。
そういえば宇宙船の中に入って、エリィの宇宙船の格納庫に入れないと…」
「あっそれなら大丈夫。
あたしが持っていくから。
トオル君の宇宙船はミニサイズだから軽いし…」
と言いながらエリィは歩く。
やっぱり早い。
エリィが歩く歩幅はかなりある。

……

途中で僕の宇宙船を見つけて、ひょいと両手を使って簡単に持ち上げる。
そしてそのまま歩いていく。
すごいなぁ。
エリィは力持ち。
トラックぐらいの重さがあるだろう。
エリィは両手に持って歩く。
そしてエリィの宇宙船の横に置くと、格納庫の扉を開けて中に入れる。
格納庫の扉に傷がある。

そしてぴーぴーぴと鳴っているのに気がつく。
「あっ通信」
エリィは通信回線を開く。
「エリィさんだね。そこにトオル君はいるかい?」
「わ。航さん」
「僕もいます。エリィも元気です。
でも遅かったですね。10日以上たっていますよね」
「うん。ごめん。ゲートが壊れているので時間がかかった。
でも10日ではなくて17日だ」
「17日?
それじゃ。
やっぱりエリィは過去に飛ばされて。
そして僕は未来に飛ばされた?
エリィはこの惑星上に僕が現れるまでずっと探していたんだろうか」
「何を言っているんだい。トオル君は。
でももう大丈夫だ。
これで地球へ帰ることができる。
あと20分で着陸する。
着陸したら。
エリィの宇宙船を格納庫に入れてくれ」
「うん。航さん。了解」
「はい。了解。航さん」
僕とエリィはほぼ同時に航さんに言う。
ふー。
やっと帰ることができる。
でも。さっき航さんは17日って言っていたな。
あっ。
やばっ。
学校。
ずっと休んでいたし。
それに家を出たまま親に連絡していない。
きっと怒っているぞ。
ううどうしよう。
父にげんこつをもらうにちがいない。