「ねえ。あなた体のぐあいはどう?」
エリィが僕に聞いてくる。
「大丈夫だよ」
「そう」
あれから何10年という月日が流れた。
僕とエリィの間には子供ができ、さらにその子供が結婚し孫までいるというのが現状だ。
僕はベッドの上。

「ごほっごほっ」
「ああ。大丈夫。安静にしていなきゃ」

……

その数日後。
トオルは体調をくずした。
「あの。トオルはどうなんでしょうか。あのとおり高齢なので。大丈夫でしょうか」
「いや。地球人の場合は平均の寿命を超えているから危ないのかもしれない。
何かご主人にできることがあったら今のうちにしておいたほうがいいのかもしれない」
「そ。そうですか。先生ありがとうございます」
エリィはお医者さんを見送った。
何回か危ないときがあった。
でもなんとか乗り越えてきた。
エリィはトオルと一緒に家庭を作り、そしてずっと一緒に過ごしてきた。
離れ離れになるというのはいつか来るんだけど、
エレーネ星人のほうが寿命が長いから、これは必然なんだけど。
とうとうその日が近いのかもしれない。
エリィはトオルがいなくなってしまったらどうなるんだろうと思った。
あたしには子供や孫がいるからさびしくはないんだけど…

……

「なあ。エリィ」
「なあに」
「今までありがとうな」
「何言っているの。これで最後みたいじゃない」
「いや。もう先は長くない」
「そんなことは言わないで」
「そういえば、子供たちや孫は元気か?」
「うん。もうすぐで学校に入学ですって」
「そうか」
トオルはエリィを見る。
だいぶ年をとったがエリィはまだまだ若い。
トオルの半分ぐらいの年に見える。
ふとトオルはエリィの胸ポケットを見た。
そういえば何10年もあの中に入っていない。
「なあ。エリィ。しばらくぶりにおまえさんの胸ポケットの中に入ってみたいと思うんだが、
だめかなぁ」
「えっ
あっ
そういえば、あなたは若いころ
ここの中に入るのが好きでしたわよね」
「そうじゃった。
あのころが懐かしい。
でどうだろう。
最後ぐらいは、エリィのポケットの中で死にたいものだ」
「まあ。そんなことを言う元気があるんなら大丈夫ですよ」
「じゃ。そっとつかみますね」
と、エリィは慎重に僕をつかむ。
そしてそっと胸ポケットの中に入る。
「エリィは横になってくれ。
そうしたらわしはおまえさんの胸の上で横になることができる。
そうしたら目を瞑る」
「まあ。年をとってもいやらしいところは若いころとかわらないのね。
いいわよ。
横になる」
エリィはそーっと。横になる。
「お。おー。これこれ。
若いころを思い出すわい。
あのころは夜な夜なエリィの胸ポケットの中で寝たいとせがんだっけ」
「まあ。そうですね。
あなたも覚えているのね」
「うー。
このまま逝くとするか」
「まー。あなたったら。逝ってしまったら困ります」

……

すーす。
どうやら寝てしまったようだ。
このままだと起き上がることができない。
どうしようか。
しばらく本でも読んでいようかしら。
あたしは手探りで本を取り出す。
そして本を読み始める。

……

そして1時間ぐらいたった後。
「あなた。あなた。もう起きてくださいな!」
息をしていない。
「あなた。あなた」
とうとうトオルの寿命は尽きてしまったようだ。
エリィは心が空っぽになったような感じだ。
エリィは窓から見える雲を見た。








































……

「ねえ。トオル君?
これは何かなぁ。日記でもないよね。
小説?」

「ぐわー」
僕は後ろを振り返る。
すると1メートルぐらい離れた場所からエリィが見つめている。
「い。いつから。そこに……」
「全然声をかけても気がつかないんだもん。
何をしているのかなっと思ってみたら、
何か一生懸命書いているんだもん。
あたしは気になって、
自分のカードにトオル君のカードの内容を転送して読んじゃった」
「もしかして読んじゃったの?
これは僕とエリィが出会ってから今までのことを書いた物語。
ついでに書いている途中で先のことまで書きたくなって、最後まで書いた」
「最後ね。あなたの最後まで書いたんだ。
トオルは逝くときはあたしの胸の上でというのが望みなの?」
「うっ。いや。それは……」
「それは?……」
エリィの顔は笑っている。
「まあ。あたしはいいんだけどね。
あたしは残されたらさびしくなるなぁ。
だから子供作ろうよ」
「えっ。こ。こども?」
「ほらっ。この文章にもあるじゃない。
こ。ど。も。
子供ができるかの検査が必要だけど。
きっと大丈夫」
「で。でも
地球に帰ってきてからまだ2週間だよ。
それに僕はまだ学生だし…」
僕はそれを聞いててんぱってしまう。
地球についてからいろいろな手続きをして、おちついたのは最近だ。
エリィも近くに住んでいる。
「検査は簡単だし。
それに。
将来。あなたが逝ったあとあたしは1人というのはやだよ。
あなたとずっと一緒にいたいのは。一番の願いなんだけど。
寿命の長さが違うんだし。
って本気にした?」
「うわっ。冗談だったの?」
「今のは冗談。
でも何年か後は冗談ではなくなるけどね」
エリィの目を見る。
笑っているけど本気なのはわかる。
「そのとき考えよう」
「あー。もう。先延ばしにすると後が困るよ」
とエリィが言う。
そうなんだ。まだ先は長い。
そういえばトエールミナの船団は目的の惑星に着いたらしい。
そしてその星系と地球はゲートでつながるらしい。
メイちゃんからのメールではゲートがつながったら遊びに行くと書いてあった。
正人がエリィのパンツを見ようとしたというのをメールに書いたら、
あたしが正人を成敗しに行くと書いてあった。
前の立体映像みたいにはいかないんだからとあった。
きっとメイちゃんも正人と会いたいんだろう。
僕はカードに記録していた文章を閉じて、これからエリィと一緒に買い物に行くことにした。