僕たちは宇宙船に乗り込む。
エリィ達から見れば広くもない宇宙船なんだろうけれども、僕たちから見たら10倍は広い。
面積比でいうと100倍だ。
だから天井も高いし幅も長い。
端から歩こうとしても結構広い。
僕は以前もエリィの宇宙船に乗ったことがあるのでそれがわかっているけど。
「でっけーなこの宇宙船。歩いて隣の部屋まで行くのにどんだけかかったことか…」
と正人は言う。
「正人お兄ちゃんから見るとそうなのか、あまりあちこち下を歩き回らないでほしいな。
あたしが間違って踏み潰しちゃったらどうしようと思っちゃうじゃない。
あたしは全然いいんだけど、踏んじゃった後は、夢見が悪いし。
だから正人お兄ちゃんには仕方がなくあたしのポケットの中に入っていてもらおうかなぁ」
とメイちゃん。
「なんだよ。仕方がなくとは。当然だろう。
そっちこそ。ばかでかいから。
人間さまを間違って踏むなんてことはあっちゃいけないんだぞ。
もし踏んじゃったら殺人だぞ。
こっちはひとたまりもないんだからな!
そんなにとっても重いものに踏まれたら。
紙っぺらみたいになっちまう」
「とっても重いとはなによ!
そっちがミニサイズなんじゃない。
というわけで、問答無用!」
と正人はメイちゃんにつかまれて、メイちゃんのポケットに入れられる。
「あたしもトオル君が心配だから。ここに入っていてね…」
と、やさしくトオルはエリィにつかまれてポケットに入れられる。
「なんだよ。それ。扱いが違わないか。
俺はたまに。そっちのポケットの中に入りたいー。
エリィさん。お願い。そっちのポケットの中に入れてぇ」
と正人は言う。
「えっ。あたしはどっちでもいいけど…」
「うーん。どうしようかなぁ。
でも僕はたまに違うポケットの中に入って。
エリィを見ていたいんだけど…」
と言う。
「おっ。ラブラブだな。トオルは。
ということで交換をお願いできないかな。
エリィさん。
こんな。おてんばな子のポケットの中に入っていると身が持たない。
そっちのほうがいいなぁ…」
と正人。
トオルとエリィが見つめあった後に、エリィとメイちゃんによって、
2人の位置は交換される。
「はい。交換」
「こうしてみると。メイちゃんも結構背が大きいなぁ。
僕たちからして見ると結構高いよ」
「えへへっ。そうかなぁ。あたし将来大きくなるかなぁ」
「うん。きっとそうだよ。いい子に育つと思うよ。僕は…。ねえエリィ?」
「うん。そうだね。メイちゃんのお母さんを見てももうちょっと背は伸びると思うよ。
それに胸ももうちょっと大きくなると思う…」
とエリィが言う。
「えー。それ本当なのか。こいつは10年たっても、姿形はちんちくりんのガキのままじゃないのか?」
と正人は言う。それを聞いて「むー。むかつくー。
正人なんか。放射能で禿げて死んじゃえばいいんだ。べー」
とメイちゃんが言う。
「くっ。そういうお前は。いつまでたっても幼児体系なことが原因で、失恋して。
そして、ストレスで食いまくって、デブになって潰れて死んじゃえばいいんだー。べー」
「なにおー。この。今ここで握り潰しちゃってもいいんだからね!
あたしからしてみれば一気に正人お兄ちゃんの人生を終わりにしてもいいんだよ!」
「ふーんだ。
いいのかなぁ。そんなことをして。
殺人犯になっちゃうぞ。
へっへだ」
「まあ。2人ともやめようよ。せっかく旅行に出たっていうのに…」
「そうだよ。仲良くしてほしいなぁ。エリィのためにもさ…」
とトオルが言う。
すると。
「しょうがないな。トオルの頼みなら仕方がないな。
それにエリィさんのためって言われたら大人しくする。
そうだろ。メイちゃん?」
「うん。そうだね。ごめんね」
と仲直りをする。
落ち着いたので外を見る。
すると、すでに衛星軌道上から降下しているところだった。
まずは最初のリクエストである。ナスカの地上絵を見るためにペルーへと移動したのだった。
「あっ。見えてきた。
これは大昔に。地上にいた人が書いたものなんだよ。
そのころは空中を飛ぶ飛行機や宇宙船はなかったんだけど。
地上にいる地球人がとってもでっかい絵を地上に書いたんだ。
どうだろう。すごいと思わない?
ここからだときれいに絵として見えるけど。
昔の人はどうやってこの絵を描いたんだろうね…」
と僕は解説をする。
サルとか魚、鳥の絵が線として浮かび上がっている。
「うわー。すごいなぁ。これ。本当に地上の人が書いたの?
なんか。でっかい巨人が地上に絵を描いたみたいに見える」
とメイちゃんが目を輝かせながら地上の絵を見る。
「わぁ。すごいねぇ。
とってもでっかい絵。
あたしも地球の人が書いたなんて信じることができない。
ねえ。昔の人っていってもトオル君ぐらいの大きさだったんでしょう?
昔の人は大きかったってことはないよねぇ?」
「うん。そう。昔の人も僕と同じぐらいだよ。
僕もじかに見たことはなかったけど。
これを描くのは大変だったんじゃないかなぁ。
神の目からしか見ることができない。というぐらいだし…
今。最近になって。飛行機や宇宙船から地上を見下ろして、
やっと絵の内容が確認できるぐらいだから…」
「じゃつぎ行こう。トオルがさっき言っていたのはモアイだっけ?」
「うん。モアイ。一度見ておきたかったんだ。
海外旅行でもそれだけ見に行くとかはなさそうだし…」
「まあ。そうだなぁ」
と正人と話してからそこに向かうことにした。
「ええと位置はあそこでいいよ」
と僕が案内する。
こうしてみると、移動もそんなにかからない。
何10分という単位だ。
しばらくするとチリ領のイースター島の上空についたらしい。
そして、宇宙船の中にるのもなんなんで降りることにする。
「わぁ。いい島だね」
と小さな島の上空を飛行する。
そしてモアイ像が見える位置になるとそこに着陸する。
「わあ。あれがモアイ像なんだね。なんか面白い形をしているよ!」
とエリィとメイちゃんは僕たちを胸ポケットに入れたまま歩いていく。
僕たちの感覚からすると、だいぶ距離が離れていたような気がするんだけど、
思ったより早くモアイ像のところに着く。
「あのさ。ここから下ろしてくれる?
下から見てみたい」
うんいいよ。トオルお兄ちゃん。
と僕はメイちゃんのポケットから降りる。
そして2人のために解説をし始める。
「えーと。モアイ像はチリ領イースター島にある人面を模した石造彫刻のことで。
大きさは3.5m、重量20トン程度のものが多数。最大級のものは20m。重量は90トンにもなるんだって」
と僕は携帯でウェブページを表示させて、それを見ながら解説をする。
「ほらっ。このモアイ像かわいい。あたしの1/6ぐらいしかないよ。メイちゃんと比べても1/5ぐらいかなぁ?」
「あっそうだね。でもトオルお兄ちゃんから見たら大きいんじゃない?」
「うん。とても大きいよ」
エリィとメイちゃんはモアイ像の隣に立っている。
モアイ像はエリィのひざより下ぐらいの位置にある。
モアイ像もでっかいんだけど、それより2人の女の子のほうがはるかに大きい。
と僕はモアイ像と並んだエリィとメイちゃんを見る。
「これ。気に入っちゃった。重量も20トンぐらいなら。あたしが持って帰れそうだよ。
そして部屋にちょこんと、かざっておきたいかなぁ。
持っていったらだめ?」
とエリィが言う。
「だめ。重要なものなんだから。怒られるよ」
エリィから見たら20トンもそんな重さなんだろうかと思ってしまう。
「なあ。トオル。写真撮ってくれ。写真。俺はエリィさんと一緒に写真に写りたい」
「だめ。エリィお姉ちゃんは、トオルお兄ちゃんと一緒がいいんじゃない?
というわけで、さぁトオルお兄ちゃんはエリィお姉ちゃんと一緒に、あそこのモアイ像の横に並んで…」
僕はエリィによってモアイ像の隣まで移動し、その後エリィの手の上に乗る。
そして僕は手の上で立って、モアイ像に片手をつく。
「2人ともわらって」
そのタイミングで写真を撮る。
「今度はメイちゃんと正人君だね。あたしが撮るよ」
とそのままエリィはメイちゃんが立っていた位置に移動する。
「俺は、このままポケットの中でいい。手の上には立てないからな。
そのまま落としそうだし…」
「むー。そんなにあたしを信用しないんだ」
手の上に乗ったとたんに手を揺らしてあげようと思ったのにと
ぼそっとメイちゃんが言う。
「ほら。やっぱりそうだ。このいじめっ子め」
「あっ。ほら。エリィお姉ちゃんが困っているじゃない。
正人もあっちを向いて笑ってよ」
とメイちゃんが言う。
「にかっ」
と正人は言う。
「なによそれっ」
メイちゃんもそのタイミングで笑う。
写真は無事に撮れたようだ。
駆け寄ってきたエリィに向かって、
「ねえ。エリィお姉ちゃん。ここのモアイ像の頭の上に、正人お兄ちゃんを置いて帰ろうか?」
とメイちゃんはポケットに入っている正人を手でつかんで、モアイ像の頭の上に置くふりをする。
「ぐぉー。やめろ。こんなところに置いていかれたら、ここから降りることもできずに、
餓死して死んじまうぞ。こら」
「正人もメイちゃんも。これは重要な文化財なんだから、そんなことはしないの」
と僕は注意する。
「俺は悪くないぞ。こいつが勝手に…」
「まぁまぁ2人とも仲良くね」
とトオルとエリィの言葉によって、正人はモアイ像の頭の上に置いてかれることはなくなった。
「さてと行くか。次は俺のリクエストな。
ナイアガラの滝。
でっかいスケールの自然というものを見せてやる」
「おー。ぱちぱち。
正人にしてはまともなことを言っているんじゃないか」
「ふーん。楽しみ。でももう時間が遅いんじゃない。日本だと真夜中だよ。
明日にしない?」
とメイちゃんが言う。
「そうだね。明日もあるんだし」
ということになったので歩いて宇宙船に戻る。
「そられっつゴー。歩け歩け」
「なによ。あんたは歩いていないじゃん。
たまにはあたしをおんぶして歩いてみなさいよ」
「絶対無理。乗ったとたんに、俺は地面にめり込むぞ。
もっとダイエットしてからにしたらどうなんだ」
「ダイエットしても変わらないよ。それにする必要ないもん」
「でぶでぶぅ」
「むー。でぶじゃないもん。スリムだもん。そんなことを言っていると、ここに置いていくよ」
という声が聞こえる。
「えーと。正人君とメイちゃんが一緒にいるとけんかになるから、
正人君はあたしのポケットに入っている?」
とエリィが2人に声をかける。
「うん。エリィさんは優しいな。
じゃお願いするわ」
「トオル君はそっちのポケットに移ってくれる?」
「うん」
「じゃはい」
と僕と正人はポケットの中に入る。
正人はエリィのポケットの中に入ってから
「べーだ」
とあっかんべーをメイちゃんのほうに向かってしている。
「このー。べーだ」
とメイちゃんも同じことをする。
「正人も子供だな。正人はお兄ちゃんなんだからしっかりしないとだめだぞ」
「なんだよ。トオル。トオルはメイちゃんのみかたなのか?」
「うん」
「あー。トオル裏切りものだ」
「なあ。エリィさんは俺のみかたなんだよな」
「えっ。あたしはトオルと同じほうにつくよ」
「くー。エリィさんまで…
ぐっすん」
「まーまー」
という感じでエリィの声が聞こえる。
エリィはやさしいなあ。
でも僕が一番らしい。
僕たちは宇宙船に向かって歩いている。
人が歩く速度の10倍ぐらいは早いだろう。
ぐんぐん。景色が後方に流れていく。
「ふー。到着ぅ。
あのエリィお姉ちゃん。さっき歩きながら泊まるところをチェックしていたんだけど、
こんなところしかなかったからいいよね。
高いところは空いていたんだけどわからなかったから」
とメイちゃんはカードを出してくる。
僕にも見える位置に表示される。
超薄型の情報装置だ。
長さは僕の身長ほどもある。
表示されている内容はどうやら宿のようで、
和風の部屋のようだ。
エレーネ星人が泊まるための場所は高層にするのが難しく、
平屋か2階建てだ。
場所はアメリカのニューヨーク州付近らしい。
「どう見ても和室だな」
「どう見ても和室だね」
僕と正人は言う。
「ふーん。こういう部屋もいいんじゃないかなぁ」
とエリィは言う。
エリィの住んでいる部屋は洋室だから和室のほうが良かったのかもしれない。



「ごゆっくり」
と和風の着るものを着たエレーネ星人の人が入り口を閉める。
「なんか、和風の旅館がそのままでっかくなったという感じだな」
「うん。この畳なんて見ろよ。1つで長さが10倍あるぞ」
「まあ、僕たちが使う畳がいっぱいひいてあったら大変そうだし。
それに強度が足りないかも」
「まあ、そうだよな。こんなガキでも相当重そうだからな、
すぐに畳はぺったんこになっちゃうかも」
「えっあたしのこともそう思っているのかなぁ。正人君?」
「いやいや。エリィさんのことは言っていないよ。
さてとせっかくだからくつろごうぜ」
と正人は話題を変える。
「むー。あたしには悪いと思っていないのかな。マ.サ.トお兄ちゃん。
ここから落としちゃおうかなぁ」
とエリィのポケットの中にいる正人をひきずりだそうとするメイちゃん。
「わ。ごめん。ごめん。それだけはかんべんな」
と正人はポケットの中でしゃがむ。
「正人ったら…」
僕はあきれる。
さてとこんなことをしている場合ではないや。
僕は部屋の中を見回す。
内装は和風の旅館の部屋そのものだ。
窓側には椅子とテーブルがある。
きっとそっちのほうに冷蔵庫もあるんだろう。
「ねえ。あれ見てよ。すごいなぁ。
今じゃあまり見かけなくなったブラウン管のテレビだよ。
それに古そう。あれ映るのかなぁ」
と僕がメイちゃんのポケットの中から腕を出す。
「おっ。本当だ。でもばかでかいけど。あそこにリモコンがあるぜ、
リモコンでONにしてみてくれ。そこの人」
と正人はメイちゃんに言う。
「なによ。偉そうに。でもいいっか。
面白そうだし。ぽちっと」
と電源を入れる。
すると、数秒の時間をおいて画面が明るくなる。
「おっ。映るぞ…
でも内容は現代のものなんだな。
それに英語だし。何言っているんだかさっぱりわかんねえや」
「あたしわかるよ。念のため地球の各国の言葉を覚えてきたから…」
「ふへー。すごいなぁエリィさんは頭いいんだな」
「いやー。違うよ。エレーネで使っている学習装置を使って30分で覚えたの」
「いいなぁ。そんな便利なものがあるんなら。俺にも使わせてくれよ。テストの前でいいからさ」
「だめ。自分で勉強しなきゃ」
「トオルも。そんなことを言わずに。でもトオルがエリィに頼んだらすぐに使わせてくれそうだな」
「うーんそうかもね。でもトオルはそんなことは言わないから…」
とエリィが言う。
「明日の天気はいいみたいだよ」
エリィがテレビの画面を見ながら言う。
「まぁ、画面に天気予想っぽいのが出ているからわかるけど、何言っているんだかわからないや。
そういえば、メシはどうする。俺はパス。日本時間で真夜中だからな」
「あたしも」
「僕もだ」
とみんな一致で寝ることにする。
外は明るいけれど、時差ぼけもあるだろう。
「えーと現地時間で夕方ごろに起きることになるけどいいよね。
見た目は古いけど、外の明るさを遮断してくれるらしいし、
それにあたしたちが日本から来たと言ったら、時間も合わせてくれるらしいし…」
ということなので寝る準備をする。
「なぁ。トイレはあるのか。ばかでっかいトイレだけだったら無理だな」
「ああ。それなら心配いらないよ。地球人サイズのトイレもあるみたいだし。
ほらっあそこに…」
と僕は入り口の横に小さい扉があるのに気がつく。
小さいといっても、隣にある扉が巨大なせいだ。
その扉は20メートル以上はあるに違いない。
「あたしたちは着替えるから、正人たちはトイレに行ってほしいなぁ」
とメイちゃん。
「わかった。行こう正人」
「お。おう」
と僕と正人は下を歩いていく。
でも奇妙な光景だ。
僕たちが小さくなったかのようだ。
周りのものは10倍でっかい。
歩いても歩いても、目の前にあるものは近づいてこない。
遠近感が違う。
正人が後ろを振り返る。
すると、メイちゃんがこっちをにらんでいる。
どうやら見張っているようだ。
「ちっ」
と正人は言うと歩く速度を速める。
「くっ。だれがあんなちんちくりんのガキの着替える姿を見るっていうんだ。
でもエリィさんならいいかも…」
「正人はだめ。エリィが気にするだろう…」
「そういう自分は、見ていても何も言われないくせに…」
「なっ。見たことはないよ!」
「いや。きっとエリィさんなら、トオルならそばにいても着替えるだろうよ。
トオルならいいよ。とか言いながら…」
トオルは顔が赤くなった。

それをごまかすために…
「早く入ろうよ。エリィ達が待っているよ」
と扉を開けてトイレに入る。
トイレは1人用ではなくて数人が入れるぐらいの大きさだ。
エレーネ星人用のトイレと比べたらミニサイズですむので、こういう大きさにしているんだろう。
「さてと。もうエリィさんは着替えているころだ。
ここからそっと覗いてみないか?」
と正人。
「だ。だめだよ。終わるまで待っていよう」
「なにおー。エリィのことが嫌いなのか、トオルよ。
覗かないということは気にしていない。関心がないということなんだよ。
つまり、覗かないと失礼にあたる。
というわけで。俺は実行するぞ」
とトイレの扉を開ける。
すると。目の前にでっかい顔が現われる。
「ごわー」
「あー。やっぱり。正人お兄ちゃんは覗きそうだと思ったの。
ほら。やっぱり。覗こうとしたでしょう!」
「なんだよ。メイ。
急にばかでっかい顔を出すな。
心臓が止まったぞ。寿命が100年は縮まったぞ」
「ふっ。正人の考えはあたしに筒抜けなんだよ。
あたしは、この扉を足でつっかえて、開かなくしておくから、
エリィお姉ちゃんは安心して着替えるがいいよ。
じゃばいばい」
と正人は抵抗するが、ものすごい力で扉が閉められる。
そして、正人がいくら体当たりをしてもびくともしない。
「本当につっかえて開かなくしたな。
くっそ。
じゃこっちにも考えがある」
正人は。
「ぐぉ。く。くるしい。
息がくるしい。持病の喘息がぁ。ぐぉほ。ぐおっほ。死ぬー
だれかぁ…」
「ふっ。なんか言っているみたいだけど。あたしには聞こえないなぁ…」
「と。トオルもうめいているぞ…」
そんなことしていない…
と僕は言う。
「トオルもお腹を抱えて、なんか痛がっているぞ。なんかの病気か。おい大丈夫か…」
というふうに正人は言う。
だから大丈夫だって。
それを聞いてメイちゃんは。
「正人は喘息で、トオルはお腹を痛がっていると、正人が言っているよ。どうせ正人の演技だよ」
とメイちゃんが言うことを聞いてエリィは。
「それ。本当だったらどうしよう。ねえ」
と声が聞こえてくる。
「大丈夫だよ。正人の…」
と言おうとしたが、正人に口をふさがれる。
もごもご。
そして、扉が開けられる。
「あっ。トオル大丈夫?」
エリィが扉からこちらを見ている。
心配で見に来たらしい。
僕はあわてて、正人の手をふりほどく。
「大丈夫。大丈夫。全部正人の演技だから…」
「ふー。よかった。でもこんな思いをするんなら、トオルと正人君はトイレに行かなくても良かったと思うのに…
今度から隣にいても気にしないから…」
「もう。エリィお姉ちゃんったら。気にしなさすぎだよ。
トオルお兄ちゃんはともかく、正人は危険人物だよ。
あのまま地に放していたら地球が滅んじゃうよ…」
「そこまでひどくないぞ」
「じゃこんどから扉はつっかえないでおくね。
もし、正人が扉から身をのりだして覗こうとしていたら、
あたしが、扉の上に足をかかげて待ち構えているから、
正人なら遠慮なく上から足を踏み下ろすね。
トオルお兄ちゃんなら、そのままスルーだよ」
そして、メイちゃんは、トイレの扉の上のほうに足をかかげる。
「そのまま足を下ろしたら死んじまうだろうがぁ」
「正当防衛だよ」
とメイちゃんが言う。
「どこが正当防衛だ。お前が俺を踏みたいだけなんじゃないか?」
「あはっ。ばれた?
こんなのは踏んでもいいんだよ。
いないほうが地球は平和になるんだよ」
とメイちゃん。
「ひどいなぁ。エリィさんもなんとか言ってあげてよ…
メイの親に言いつけてやるぞ」
「くっ。ひきょうな…
もし言いつけたら、正人の部屋に殺虫剤を噴霧してやるから…」
とメイちゃんは言う。
「くー。俺は害虫かぁ」
なんかこればっかりだなぁ。
「まあ。2人とも仲良くな。エリィも困っているだろう…」
僕はトイレから出てきて言う。
「まあそうね。
こんなのにかまっていないで寝る用意をしなくちゃね」
とメイちゃんはすたすたと戻っていく。
僕たちはたたみの上を歩いて戻る。
「くっそ。一緒に連れて行ってもらえばすぐなのに…」
正人は文句を言う。
「まあ。そうなんだけどね。僕たちが小人さんになったみたいで、」
てくてくと歩いてエリィ達がいるところまで戻る。
分単位でかかったぞ。
と正人が文句を言う。
「そういえば、トオルたちも着替える?
どこに置いてあるのかなぁ…
あっあった」
とエリィはとてとてと、鏡が乗っている台の横に浴衣が置いてあるのに気がついた。
「わー。この浴衣と同じデザイン。でもとっても小さくてかわいい。ミニサイズだよぉ」
とエリィは地球人サイズの浴衣を指でつまむ。
そして、僕のほうに差し出してくる。
「あっ。ありがと」
さっき、エリィの手にあったときはとっても小さいサイズの浴衣に思えたんだけど、
こうして自分の手にとってみると、普通のサイズだ。
「ほら。正人のも…」
「さんきゅ。あっ俺たちはここで着替えるか。
メイ。こっち見るなよ…」
「別に正人お兄ちゃんの着替えなんか見たくないよー。べーだ。正人とは一緒にしないでほしいな。エロエロ星人め」
「くー。気にさわるガキだなぁ」
「まぁまぁ」
と僕は言いながら服を脱ぐ。
そして、見上げるとエリィと目があった。
なんかエリィはじーと見ているようだ。
「こほん」
僕はわざと咳払いをした。
「あははっごめんね…」
エリィはあわてて後ろを向く。
僕が再び着替えを再開して、浴衣を着終わって、帯を巻いているところで、エリィのほうを見てみた。
「トオル君かわいい。ぽっ」
とか言いながらエリィがもじもじとする。
じっと見ていたようだ。
メイちゃんもこっちを見ている。
「なんだよ」
正人が言う。
「なんか。小人さんが一生懸命着替えているみたいでかわいいなぁと思って」
「くっ。小人かよ…。
メイが大怪獣サイズなんだってば」
と正人が言う。
「なにおー。そんなこと言うなら、お望みどおり、踏み潰してやるー。がおー」
とメイちゃんがこっちに向かって足を踏み出そうとする。
「あわわっ。やめておいたほうがいいよ。隣にトオル君がいるし…」
「あっ。そっか。ごめんねトオルお兄ちゃん」
「メイちゃんと正人は仲が悪いなあ。正人がいけないんだぞ。ごめんなメイちゃん」
「俺は悪者というわけだな。じゃ
ついこのまえのテストで3点だったっていうのを、お前の母ちゃんに、ちくるぞ…」
「ぐふっ。それはいやだ…
というわけで、2人とも仲良くな…」
「はーい」
「はーい」
と正人とメイちゃんは仲良く返答する。
「エリィはくすくすと笑っている」
「もーエリィまで、テストのことは忘れてほしいな」
「うん。わかったよ。トオル君がそういうなら忘れるよ…
さて、お布団を敷こうね。あたしが敷いてあげる。もちろんメイちゃんのと、あたしのと、
トオル君のと正人君のを…」
と言ってからエリィは布団を用意する。
そして。
エリィの隣にトオルの布団(地球人サイズ)
その隣にメイちゃん、その隣の入り口に近いところに正人の布団を敷く。
「あー。俺はエリィさんの隣がいい…」
正人はだだをこねる。
「あんたはだめ。エロエロ星人だから一番はしっこ。部屋の外やトイレに布団を敷かれないだけましね」
「くー。しょうがないか。でもお前の隣はいやだなぁ。
朝起きたらお前の下敷きになってぺったんこというのはいやだぞ…」
「うーん。なるべく気をつけるよ。
でも正人お兄ちゃんも、ここから向こうには行かないこと。
行こうとしたら手ではたくからね!」
「なにお。じゃトオルは向こうにいるけどいいのかよ」
と正人はこっちをにらむ。
「トオル君はいいんだよ…。むしろ離れたところに行こうとしたら、むーだからね」
エリィは言う。むーってなんだよ。
「そうそう。トオルお兄ちゃんは紳士だからね。それにエリィお姉ちゃんの恋人だから問題ないの…」
「くっおまえばかり…今にみていろこんにゃろめ。
というわけで、ふてくされたので俺寝るわ…」
と正人は布団をかぶる…