「ねえ。正人お兄ちゃん? もう寝ちゃうの? 布団をかぶっていないで…」
とメイちゃんは正人の背中を手ではなくて、尻尾でつんつんとやさしくつっつく。
「うっせーなー。俺は寝たんだからな。つっつくな…。
ふーんだ」
と布団の中から声がする。
正人は頭から布団をかぶっている。
メイは後ろを振り向く。
すると、エリィお姉ちゃんとトオル君は何かお話をしているようだ。
あたしが2人の間に割り込むのも悪いし、
正人お兄ちゃんをかまってから寝ようかなとあたしは思った。
あたしは正人お兄ちゃんの布団を指でそっとつまんで、正人の足の裏を自分の尻尾でこしょこしょとくすぐる。
「ぐへ。ひゃっ。はっはっは。や。やめろ。ひゃっははっ。息が出来ない…」
と正人はひざを抱え込むような感じで足を引っ込める。
「お。おまえは。俺を殺す気かぁ」
「あっ起きた。
ねえ。もうちょっとお話しようよ。
あたしはまだ眠くないんだよ…」
「お前なんかと話している暇はない。俺は夢の中で女の子と囲まれて、うはうはになる予定なんだ。
だから邪魔するな」
「なによそれ。あたしとお話するほうが100億倍もためになるんじゃない」
「うっせーよ」
正人は相変わらずの返答だ。
「なによもう。こっちにも考えがあるんだから…」
とメイはごそごそと浴衣をはだける。
「ちょっと暑くなっちゃったから、胸の合間に空気をおくりこもーっと。ばぶばふっと。
まだ暑いから胸をはだけちゃおぅ。
あっそういえば、胸あてをはずしちゃったから胸がまるみえだー」
その言葉にぴくぴくと正人は反応しているようだ。
「あー。暑い暑い」
ばふばふっと浴衣の襟元を指で引っ張る。
この音は正人にも聞こえているはずだ。
正人が振り返れば勝ちだ。
正人は後姿しか見えないけど、どうやらこっちを精一杯無視しようと我慢しているようだ。
もう一息。
「そういえばあたし育ち盛りだから、1ヶ月前より胸が大きくなったかなぁ。
ちょっとさわってたしかめてみよーっと。
うーん。どうかなぁ。
うーん。わかんないから。自分の胸をもみもみしてみよう。
ふにふに」
正人はぴくぴくしている。
精一杯無視をしようとしているようだ。
あたしの声は正人にだけ聞こえるようにひそひそ声で正人に向かって話しているから、
エリィお姉ちゃんに聞かれるという心配はない。
「やっぱり前より大きくなっているかなぁ。
多分10センチ以上は大きくなっているよぉ。
服を着ていたらわからないけど、脱ぐとすごいんだよぉ。
そういえば、着やせするとエリィお姉ちゃんに言われたことがあるなぁ。
エリィお姉ちゃんもあたしぐらいの年ごろのときはこれより少し小さかったといっていたしぃ…
ふにふにともうちょっと揉んでみよう。
ふにふに。
あうっ。
なんか気持ちがよくなって来ちゃったかも…」
というメイちゃんの声に、
「だー。なんてことしているんだよ。お前は…」
と正人は振り向いてこっちを見る。
メイは浴衣をはだけてはいない。
さっきははだけていたけど、もうそろそろ振り向くだろうと思って、
浴衣をきちんと直しておいたのだ。
今のは演技。
「くっ。はめやがったな。くっそ」
と正人はにらむ。
もしかして、期待していた? メイは思った。
「あっやっと振り向いてくれたんだ」
「ふーんだ」
と言って正人はまた向こうのほうに体を向ける。
「あー。ごめん。でも今こっちを振り向いてくれたらいいことがあるんだけどな…」
メイちゃんは軽い気持ちで言った。

……

正人はその言葉を聞いて気になった。
くっそー。がきが。俺をからかいやがって。
注意してやる。
「お前なぁ。大人をからか…」
それ以上言葉が出てこなかった。
メイちゃんは、浴衣をはだけていたからだ。
「ふっ。どう? これでも幼児体型って言える?」
もちろんメイちゃんは胸あてもしていないので、
ダイレクトに胸の映像が自分の目に入ってくる。
思ったより大きい。つるぺたのガキと思っていたのに、ぺったんこではない。
それになんだこの胸の質量は。
地球の女とは桁違いの胸の大きさ。
そりゃそうだ。メイちゃんでさえ人間の女の子と比べたらバストのサイズは何倍も大きい。
とてつもない胸の量感。
でも、メイちゃんの他の体のサイズと比べると成長途中の上半身のサイズであろう。
全体を通してみるとものすごいというものでもない。
けれど、胸だけみてみると迫力が違う。
メイちゃんが腕を胸の下にあてて、たゆんたゆんと揺らす。
ずっと前に体験した乳牛の乳搾りのときに見たお乳よりもはるかに大きい胸がたゆんたゆんとゆれる。
ものすごく柔らかそう。
ぐっ。すげぇ。で、でもメイなんかに…
と思っていると、
「これでも食らっちゃえー」
とメイちゃんが正人の上に覆いかぶさってくる。
正人は声が出なかった。
というか声を出そうとした。
でも声は出なかった。
顔全体がメイちゃんの胸に埋まっていたからだ。
顔といわず、体全体に重さがかかる。
ぐっ。とっても重い。でもやわらかい。
自分の体全体が布団にめり込む。
なんだこれは…
正人はどうしていいかわからなくなった。
すると、正人の上からメイちゃんが退ける。
「潰れていないよね?」
「おっ」
「お?」メイちゃんも言う。
「お。おまえはなんてことするんだ。びっくりしたじゃないか…」
自分でもものすごく心臓がどきどきしている。
「あたしは、ちょっとからかっただけだよ。
じゃ。おやすみ…」
今までのことはなかったかのように、メイは浴衣を直して布団にもぐりこむ。
なんだよ。
なんだよ。
メイはいったい何をしたかったんだ。
なんで俺なんかにあんなことをしたんだ。
正人はわからなかった。
そのころトオルとエリィは…

……

「こうして一緒に寝るのもいいね。
いちおう。トオル君のために座布団を布団の下に敷いて高さを合わせたからお話しようね…」
エリィはとってもうれしそうだ。
たしかに、エリィとは体のサイズが違うから、横になっていても僕は上のほうを向かなければいけなかった。
でも、僕の布団の下にはエレーネ星人が使う座布団が1枚敷いてあるので高さは丁度いい。
僕がその座布団に乗ってもまったくへこまないくらいの強度があるのでやわらかすぎるということもない。
「あっそういえば、これ持ってきたんだ。
ねえ。良かったら。エリィの尻尾をブラッシングしていいかなぁ」
僕はせっかく機会があったら使ってやろうと思っていたブラシを持ってきたんだった。
「うん。いいよ。でも変なことしないでね」
「うん」
どきどきする。
僕は両手で抱えないといけないぐらいのブラシを持つ。
そして隣の布団の上に乗る。
その布団は僕たちの使う布団が縦、横10倍サイズになったものだ。
でも、布団の上に乗ってもたいしてへこまない。
強度もエレーネ星人の体のサイズに合わせてあるようだ。
だからこの敷布団もやわらかすぎるということもない。
「尻尾動かすね…」
エリィが自分の尻尾を動かして僕の前に持ってくる。
僕はエリィの尻尾に触れてみた。
ほどよく温かい。
「じゃはじめるよ。尻尾の付け根のほう?
それとも尻尾の先のほう?
どっちからやったほうがいい?」
僕は聞いてみた。
「うーん付け根のほうが先かなぁ。
って、あたしの尻尾の付け根もブラッシングしたいの?」
とエリィは聞いてくる。
エリィの表情を見るとどっちなんだろう。
いやなのか。それとも期待しているのか。
うーん難しい。
「エリィの答えしだいだよ」
と僕は答えておく。
「うーん。じゃね。トオルも大変だと思うからこの辺からでいいよ」
と尻尾の全体の長さの2/3ぐらいのところを指さした。
「うん」
僕は歩いて移動する。
ここからエリィの尻尾の端まで一般的な六畳間の隅から隅2つ分ぐらいの長さがあるなぁと思った。
エリィの尻尾の先ははるか遠くだ。
僕はそっとブラシを動かして、エリィの尻尾の毛を毛づくろいする。
「ど。どうかな」
僕はエリィの顔を見ながら聞いてみる。
「うん。気持ちがいいよ。
えへへっ」
エリィはとっても気持ちがいいらしい。
「良かった。じゃこっちのほうも…」
ここは終わったので、向こう側も毛づくろいをする。
僕は尻尾の向こう側へ行くのに尻尾を乗り越える。
結構高さがあるので大変だ。
でもエリィが喜んでくれているのでうれしい。

……

20分ぐらいたった。
その間も僕とエリィはお話をしている。
ナイアガラの滝の次はどこに行こうとか、地球で見てみたい箇所はあるかどうかとか。
そして、だいぶ尻尾の先までブラッシングしたとき。
根元の尻尾よりだいぶ細くなったのでブラッシングも楽になったなぁと思った。
そして尻尾の太さも抱えることができるぐらいだ。
「このぐらいの太さなら、エリィの尻尾を持てるかも…」
と思って僕はエリィの尻尾を抱えてみる。
おっ。結構尻尾の先でも温かいなぁと思った。
そして、
「うーん。うんしょ」
とエリィの尻尾を持ち上げようとする。
でも。結構重い。
子供の体を腕で抱えて持ち上げているみたいだ。
「あははっ。トオル君頑張れ…」
エリィが言う。
「ふー。よいしょ。ぐー。
やっと持ち上がったよ。
これならもうちょっと付け根のほうの尻尾も持てるかな…」
僕はそのまま尻尾を持ち上げて、尻尾の付け根に向かって移動する。
1、2歩進んだところなんだけど。もう無理だ。重い。
「はーはー。もう無理。これ以上は…」
「トオル君力持ちだね。
きっと、あたしの尻尾のこのぐらいの長さでトオル君と同じぐらいの重さがあるよ」
とエリィはトオルの身長の倍ぐらいの長さの尻尾をつかんで示す。
たしかにそのぐらいはあるに違いない。
はー。つかれた。
「あー。疲れた。でもエリィの尻尾だいぶ毛並みがそろったよ」
「うん。ありがとう。とっても良かったよぉ。
あたしはずっと前から、好きな人にブラッシングをしてほしいと思っていたんだよ。
これであたしの夢がかなったよ」
「あっそうなんだ」
それを聞いて僕もうれしくなった。
エリィはすっかり毛並みがそろった尻尾をふりふりと振る。
そういえば、寝るときは尻尾どうしているんだろう。
疑問に思った。
「トオルも疲れたでしょう。あたしはもう十分かも。いっぱいおしゃべりしたし、
これから先もこういうのがずっと続くといいね」
「うん。そうだね…」
エリィの尻尾を毛づくろいするのもエリィの喜ぶ顔を見ていると楽しい。
「さあ。もう寝ようね。メイちゃんもすっかり熟睡しているみたいだし…」
どうやら起きているのは僕たちだけのようだ。
何十分か前には正人の声も聞こえてたみたいなんだけど今は静かだ。
ここからだと向こうは見えない。
僕の身長の倍はあろうかというエリィの体の壁が目の前にあるからだ。
「じゃおやすみ。エリィ」
「うん。トオル君」
僕は目を閉じた。
エリィも目を閉じたんだろう。
僕は目を開ける。
すると、まだエリィはこっちを見ている。
「あっごめんね。トオル君の寝顔を見ていたいから…
でも気にしないで寝ていいよ…」
うーんじっと見られているのはつらいなぁ。
「じゃどっちが先に寝るか競争をしようか…
じっと見つめられているのも恥ずかしいから…」
とエリィに言う。
「うーん。そうだよね。気になるよね。
じゃ一緒のタイミングで目を閉じようね」
と一緒のタイミングで目を閉じる。
目を閉じてもエリィの息遣いからそばにいるのが感じられる。
きっとエリィもそう思っているんだろう。
僕は安心して眠りにおちていった。