「次のニュースです。
エータカリーナ星雲付近に向けて航行中のプロミナ船団は、
予定を変更して別の星域に向けて移動することになりました。
原因は使用する予定のゲートに異常が発見されたためとのことです」
「最近こんなニュースが多いわね」
七恵さんはニュースを見ていった。
「そうだな。ゲートの付近で無数の小惑星が見つかったり、ゲートの異常が見つかったり…」
たしかにこんなニュースが多いと思う。
以前はこんなことなかったんだが…
今は食事も終わり、テーブルの前でお茶をすすりながら、テレビを見ているところだ。
「そういえば、あの子たちは元気でしょうか」
「そうだな。今頃どうしているだろうか。きっと2人で幸せに暮らしているんだろうな」
航は数週間前のことを思い出していた。
トオル君とエリィさん。
でも良かった。遭難してから2週間以上の間、
救援が来るまで良く持ちこたえることができたと思う。
「あなた。お茶もっといります?」
「ん? ああ。じゃ部屋に行くから30分後ぐらいに持ってきてくれ」
と航は立ち上がると部屋に向かって歩き出した。
仕事で使う資料をまとめておくかと思いたったからだ。

……

「ふう。こんなもんかな」
航は資料をまとめ終わると、のびをした。
丁度そのころに七恵さんが部屋に入ってきた。
「あなた。終わりましたか?」
「うん。丁度今終わったところだ」
「お疲れ様。はいお茶です」
「うん。ありがとう」
七恵が台所へと戻った後に、資料をまとめるのに使った本を書棚へ戻す。
ぽとっ。
丁度本をどけたときに、例の手帳が落ちてきた。
ガラス扉のある本棚の中に置いてあったのだった。
「ふむ」
航は元の場所に戻そうとしたが、
その手帳を手に持って机のあるところに戻る。
そしてお茶をすすってから手帳を開く。
熱めのお茶の隣には、息子夫婦がお土産で買ってきた、せんべいみたいなお菓子が入っているお盆がある。
そのお菓子のもともとの大きさは1メートルをゆうに超える円盤みたいなもので、
そのままだと食べることができないから何十等分かに割ったものだ。
ぱりぱりとそのお菓子を食べながら手帳を読む。
この手帳へ最後に記録を書いてからもう何年になるんだろう。
航は昔のことを思い出しながら手帳を読みかえす。
航が手帳を読み返したいと思ったのは、
トオルとエリィ、そして息子夫婦が大きな女の子と仲良くしているのを見て、
昔が懐かしくなったのだ。
「あのころは若かったな」
航はあのころを思い出しながら手帳をめくる。
最初のページ。
「いったい何が起こったのかわからない。
これは夢なのかと思った、でも一向に夢から覚めるような感じはしない。
なので、整理するためにここにメモを取ることにする」
という書き出しで1ページ目は始まっている。
そうだ。あの日は土日を利用して、星を見るために近くの山で天体観測をしようとしていたんだ。
小さい望遠鏡と、
テント、
寝袋、
天体図鑑を持ってキャンプしにいったんだ。
1人で。
場所も家から近いし、もう大人だし(高校生なんだけど)ということなので、
親は文句も言わなかった。
夜遊びをするわけでもないし。
日曜日に家に帰る予定だった。

……

テントを設置して、
ご飯も食べて(カップめんだけど)
望遠鏡を準備して、
曇ったそらを眺めているところだった。
「早く晴れてくれないかな。
あっちのほうは雲がないから、もう少しまったら晴れてくれると思うけど…」

目当ての星は、こぐま座とおおくま座。
しばらくまってから。
「おっ晴れてきた」
僕は望遠鏡を覗く。
「うわあ。きれいだなぁ」
望遠鏡から見える星はとってもきれいだ。
この付近には光源がないので良く星が見える。
僕はしばらくこのまま星を眺めていた。
「ああ。曇ってきちゃった」
曇ってきたので、望遠鏡から目をはなす。
気がつくともう夜の10時。
家の中にいると、テレビとかを見たりするんだけど、
ここには何もない。
だからあまり遅くまで起きているというのも飽きてしまう。
もっとも、星が出ていたらいつまでも星を見ていたいと思っていた。
けれども曇り空になってしまった。
うーん。今日は無理かな。
「あー。今年はバイトでもしようかな。
いつか。カメラを望遠鏡にくっつけて撮影したいな…」
僕はそう思いながら望遠鏡を片付ける。
そしてテントの中に入る。
そしてランタンの明かりをつける。
寝袋の中に入り、
天文雑誌をめくる。

……

「ふぁーあ」
僕は天文雑誌を閉じて時計を見た。
夜の11時。
もう寝るか。
でもその前にトイレ。
と思ってテントの外に出た。
空を見上げる。
まだ曇ったままだ。
月の明かりはたまに雲の間から見え隠れしている。
あたりは虫の声しか聞こえない。
静かだ。
僕は町が見下ろせるあたり(その先は急勾配になっている)に行くと、
町の明かりを見下ろしながら用をたした。
ぶるっ。
身震いしてから歩いて戻る。
まだちょっと寒い。
早くあったかい寝袋の中に入ろうと、早足で歩く。
テントが見えてきたときだった。
ぐらっ。
なんか足元がゆれた気がする。
そして、虫の声も聞こえなくなっているのに気がついた。
「なんだろ」
さらにぐらぐらっと来たような気がしたとき、
貧血で倒れそうになったときのように意識も遠くなる。
「あっやばっ」
このままでは倒れると思い、どうせ倒れるんならしゃがんだほうがいいやと思ってしゃがもうとする。
でも、さらに意識は遠くなるばかり。
ばたり。
そのまま倒れてしまった。

……

ぴちゃっ。
なんか、ほおに冷たいものがあたる。
ぴちゃっ。
まただ。

「うーん」
なんとか目を開ける。
ぴちゃっ。
つめた。
どうやら、頭上の木の葉っぱにたまった雫が頬に落ちてきていたようだ。

あたりは明るくなっている。
夜が明けたんだろうか。
僕はよろよろっと立ち上がる。
そしてあたりを見回す。
ん?
なんか違う。
僕はさらにあたりを見まわす。
絶対おかしい。
見晴らしの良い原っぱ(山の上)にいたはずだ。
それに近くにテントもない。
付近には木が生えている。
でもその木はなんかおかしい。
こういう木を見たことがあるような気がする。
たしか、テレビで。屋久島に生えている巨木。
そう。それだ。

このあたりに生えている木はとってもでっかい。
木の天辺はわからないぐらい高い。
木の太さはすごい太いというわけでもなく、
ほどよく太いがとってものっぽだ。

航は深呼吸をした。
あっ。なんか空気も違うような気がする。
大自然の中。
町が近くにある場所では味わえないような空気。
とっても空気がきれいな感じだ。

もういちど、航はあたりを見回す。
すると、ちょっと離れたところに見覚えのあるものが目にとまった。
テントだ。
ああ。良かった。
航はテントのほうに向かって歩く。

航はリュックの中に入れてあったラジオを取り出す。
「ざーざー」
ラジオからは雑音ばかりが聞こえる。
チューニングをどこにあわせてもだめだ。
どこかの山奥にでも来てしまったんだろうか。
僕は可能性を考えた。
あの山の上で倒れたあとに誰かに拉致られて、
この山奥にでも捨てられたんだろうかと思った。
これが夢でなければそうとしか考えられない。
うーん。どうしよう。
僕はテントを組み立て直して、中に入る。
そして考える。
さてどうしよう。
ここがどこなのかわからない。
電話もないので救援は呼ぶことは出来ない。
「そうだ。トランシーバー」
念のため持ってきたんだった。
でもラジオと同じようにざーざーという雑音しか聞こえない。
「くそっだめか」
ここからどうやって家まで帰ろうと考えた。
ここはどこ?
もし今日中に家に帰ることができなかったらどうしよう。
行方不明の捜索願がきっと出されることになるだろう。
うう。
おおごとになってしまう。

僕はリュックを背負ってから、テントの外に出た。
まずはどこにいるかの手がかりをつかまないと。
テントの外に出てから見回して何かないかを見た。
すると、向こうには開けてる場所がありそうだと思った。
テントがある位置を基点にする。
リュックの中に入れてあった、雑誌などをくくるための紐(赤)を取り出す。
そして、テントがある位置に一番近い木の幹にくくりつける。
これで目立つだろう。
そして歩きだす。
すると、開けた場所と思ったのはどうやら道になっているようだ。
でも道幅はでかい。
普通の森の中の道の20倍ぐらいの幅はあるだろうか。
ここをたどっていけばなにかあるかも。
そう思って、木の幹に例の紐をくくりつける。
木の幹がとっても太いのでくくりつけるのに苦労する。
さて、どっちに行こうか?
方向は太陽がある方向と反対の方向に道がのびている。
とりあえず太陽がある方向に向かって歩いていくことにする。

……

「ふうふう。つかれた…」
僕は道のまんなかでしゃがみ込む。
行けども行けども同じような景色で何か目につくものはない。
「だめか。引き返すか…」
僕は戻ることにした。
引き返してから、道に出てきてから歩いた分と同じだけ歩いたころ。
「この辺だったよな」
と目印の木の幹の紐を探しながら歩く。
「まさか。見失ったというのはあるかな…ははは」
その可能性は考えたくない。
行けども行けども同じような景色の森。
テントがなければ寝る場所もないし、火をおこす道具はテントの中だ。
食べ物もない。
それを考えるととっても心配になった。
10分ぐらい歩いたときに、ようやく目印の木の幹が見つかった。
「あっ良かった」
それを目印に森の中に入る。
そしてテントを見つける。
とっても安心した。

……

航はテントの中で寝っころがる。
さっき、お湯を沸かしてカップラーメンを食べたところだ。
この食料も何日もつんだろう。
カップめんは多めに持ってきたが残り2個しかない。
付近には草と森(手が届く高さには木の幹しかない)があるばかり。
花はなかった。
それに虫の声も聞こえない。
そういえば鳥も見かけないなと思った。
そして森を歩いた疲れからか、再び眠りにつく…。

そして目を覚ます。
航はテントの外に出てがっかりした。
さっきのは夢だったんではないかと期待したんだが、そうではない。
外には巨大な幹の森が広がっているだけ。
一度寝て起きたんだから、これは夢ではない。
航はテントの外に出てから伸びをする。
そして体をほぐすためにジャンプをする。
あっ。なんかいつもよりジャンプしたときの高さが高いように感じる。
そういえば、体も少し軽いような気がする。
これは空気がきれいなところに来たからそう感じたのかなとそのときは思った。

……

そして2日たった。
帰ることができる見込みはない。
それに食料も底をついた。
最後の食料であるお菓子(チョコレート)もなくなった。
どうしよう。
このあたりに生えている草は食べることができるんだろうか。
ぐー。
お腹が鳴る。

……

そしてさらに2日たった。
水は朝にはるか頭上から落ちてくる雫をためて、その水を飲んでしのいでいた。
でもお腹は減った。
航は例の道に出て、太陽が昇るのと反対の方向に歩いているところだった。
なんかないか。
このままだと死ぬだけだと。
航は木の棒がないか探した(杖にするため)がないのでふらふらしながら歩いているところだ。
「うっ。もうだめ…」
航はその場に倒れてしまった。

……

そして…
「ふーんふん。おっ使いおっ使い」
と1人の少女が道を歩いている。
その子はナナという。
ちょうど隣町へとお使いに行くところだ。
隣町に行く以外はここを通らない。
ナナも隣町に行くのは久しぶりだった。

その子は鼻歌を歌いながら道を歩いていく。
ナナはふと足元を見た。
「わわっ。なんかある。
もう少しで踏んじゃうところだった。
これお人形さんかなぁ?」
ナナはそのお人形に見えるものを拾いあげてみる。
うわっ。なんか温かい。
そして、その人形はかすかに動いたような感じだ。
思わずその場でその人形を捨ててしまいそうになったけどよく見てみる。
「わわっ息をしているよっ。
これって。もしかして…」
ナナは聞いたことがあった。
昔、地球というところから小人さんが来たことがあるというのを聞いたのを思い出した。
「なんか弱っているみたい…」
ナナはハンカチで大事にその小人さんをつつんで、手に優しく抱えてその場から立ち上がり、自分の家のほうに向かって歩きだした。