9月。
僕はとあるお店の前にいた。
足踏みマッサージを体験できるお店。
もう10回目だ。
「いらっしゃいませー。
あらどうもこんにちは」
「こんにちは」
すっかり常連となった僕は受付の子に挨拶をした。

「きっと、今日もいつもの子でしょう。
でもごめんね。今日は休みなの。風邪でね」
「そうなんだ。で、大丈夫?彼女?」
「うん。大丈夫。あなたが心配していたって、出社したら言っておくわね」
あんな子でも風邪になるんだ。
いつも元気で風邪になるとは思っていなかった。
「でね。1週間前に入った子がいるの?
昨日で研修を終えて、今日から本番。
今日は、あなたがお客さん1号だから、その子でマッサージされてみない?
この子なんだけど...」
と見ると、見た目のかわいさに圧倒される。
なんだこれは。
人にはないかわいさ。
どっちかというと動物。猫系だ。
外見は猫から進化したかのようなしなやかな体型。
二本足で立つようだが、ポイントは手の平と足の裏にある猫の肉球みたいなもの。
これがここの採用の決め手になったらしい。
だいぶ前に異星から来た彼女達が連れてきたみたいだ。
人の20倍大きい彼女達も、この猫系少女の足踏みマッサージがお気に入りらしい。
「あ。それとね。今日から圧力分散ウェアなしでのマッサージの体験も可能になったから試してみる?」
「えっ。圧力分散ウェアなし?」
圧力分散ウェアは、地球人が20倍巨大な女の子に足踏みマッサージをされても大丈夫なようにするためのもの。
踏まれても潰れないように圧力を分散してくれる。
けれども、それがないということは大丈夫なんだろうか。
「いちおう、人間大のロボットで実験もすんでいるから大丈夫よ。それに、
この子は体が猫みたいにしなやかだから、とっても機用に踏んでくれるの。
あたしも昨日ためしてもらったら、もう気持ちが良くって、とけちゃいそうだったの。
それで。お値段は据え置き。どう?」
うーんどうしようかなぁ。
でも猫みたいな肉球か。
この子も地球人と比べると体は相当大きいけれども、いつものひかると比べると小さい。
紹介には身長が地球人換算で12倍とあった。
小さめだ。
肉球のある女の子に踏み踏み。
いいかもしれない。

「じゃこの子でお願いするよ。それと圧力分散ウエアなしで」
「じゃ。今日はお客さん1号さんだから、半額にしておくね。
これで、もし踏まれて潰れちゃっても文句なしね」
「それはやだよー」
「あははっ冗談。大丈夫。大丈夫」
と受付のお姉さんは笑っている。
大丈夫なんだろうか。

カートで廊下を移動する。
移動には5分かかる。
新人の子は比較的、入り口から近い位置に部屋が割り当てられるようだ。
がちゃ。と入り口のドアを開ける。
部屋の中は何かの動物の毛皮が壁にかけてあったり、絨毯はふかふかの毛皮をモチーフにしたものだ。
雰囲気は猫系の彼女に合わせてあるみたいだ。
「こ。こ。こんにちわだぞ」
と猫系彼女がモニターごしに言う。
「こんにちは」
少し緊張しているようだ。
大丈夫かな。
「じ、自己紹介しないとな。
ミーはマヤだ」
「はじめまして。僕はコウジ」
「よろしくコウジ」
「じゃ早速上着だけ脱いで、こっちに来るといいぞ」

上着だけ脱いでからドアを開ける。
僕はマヤを見た。やっぱりでっかい。
頭には猫のような巨大な耳がある。
ぴくぴくと動いているのもわかる。
それに尻尾。
しっぽは緊張しているのか体の後ろでピンと立っている。

「や、やあ。コウジ。さっそくはじめるか」
とその子はとたとたとこっちに向かってくる。
うわっ。
ひかるの半分よりちょっと大きめの身長でも、巨大な子が走ってくるとびっくりする。
彼女が走ってくると、ずしんずしん地面がゆれているような気もする。
「うわっ。ちょっと待って。止まって」
と言う。
「なんだ。コウジ」
マヤはわからないようだ。
研修で習わなかったのか?
「あのさ。走ってきたらお客さんがびっくりするよ。
研修で習わなかった?
僕から見たら君のサイズはとっても巨大なんだから」
「あっごめん。忘れていた」
マヤはその後、尻尾で僕を指さす。
「何?」
「横にならないと、マッサージを始めることができないぞ」
「えっ。ここで?」
僕はあたりを見る。
普通の床だ。
コンクリートのようなとっても硬い床。
「あっ。違った。こっちだった」
とその子は歩いていく。
いつものマッサージ台みたいなものが部屋の隅にある。
ここからは何10メートルも離れているけど。
僕はそこに向かって歩いていく。

「えーと。そこに横になってくださいと言うんだったっけか。そうだ」
と小声が聞こえる。
「そこに横になれ。なってくだされ」
という声。
緊張しているな。言葉が変だ。
「やっぱり、緊張しているでしょう。
少しリラックスしたほうがいいよ。
緊張していたら危ないよ」
「うん。わかった。すーはー。すーはー。すーはー。すーはー」
深呼吸をする。
そのたびに耳と尻尾が動く。
それを見ているだけでもかわいい。
地球人換算で身長12倍の猫耳少女がとなりで深呼吸している。

僕は深呼吸するマヤをみていたが、もういいんじゃないと思った。深呼吸しすぎ。
「いちおう今回から、圧力分散ウェアなしなんだけど、大丈夫?
間違って踏み殺しちゃったりしない?」
「いちおう大丈夫だと思う。
このマッサージ台がその役割をはたす。んだったっけ?。
えーとたしか、マヤが踏んでも踏みすぎたら、その台がへこんでそれ以上重さがかからないようになるとかだったな」
「じゃ、それなら安心かな。でも注意してね」
「うん。わかった。でもマヤは初日に地球人サイズのロボットを固い床の上で踏んでぺったんこにしたし、
その後4台踏み潰しちゃったぞ。えっへん」
「そこは自慢するところじゃないだろう。
マッサージ前にそんなことを言ったら、お客さんが帰っちゃうぞ」
「あっ。そうか。リラックスさせようと思ったんだけどな」
「リラックスしない。余計に怖くなるぞ」
「うーん。地球での商売はむずかしいな。いつもはマヤより少し体が大きい彼女達を相手に踏み踏みしているから、
あまり気を使わなくてもいいんだけどな。
地球人だとちょっと間違って踏むと潰れちゃうっていうし」
「本当に大丈夫?」
「まかせろ。しっかりマッサージする。
きっと終わるころには、あまりの気持ちの良さにとろけるぞ。
そして、いずれこのお店のナンバーワンになる」
「はい。そうですか。じゃさっそくお願いするよ。
ところでコースってあるの?
ビギナーコースとか、ハードコースとか?」
「コースはない。
圧力分散ウェアなしだから、力の設定はできない。
マヤの踏み加減だな。おもいっきり踏んで欲しいのか?」
「いや。そうではないけど…」
「えんりょするな。
でもマヤが思いっきりふんだら、胸の骨は折れちゃうかもしれない。
それぐらいがいいのか?」
「折れるのかよ。絶対おもいっきり踏まないこと。
優しく踏むこと。
いいね。
怪我をさせちゃったら大変なんだから。
はじめはそっとだからね」
「ちっ。そうか。わかった」
初めてのお客さんだし、マヤは思いっきり踏みたかったみたいだ。
けれどもそれは遠慮する。

はじめるまえに僕は気になっていたことを聞いた。
「ねえ。マヤの手の平と足の裏を見せてくれる?
肉球がポイントだって聞いたんだけど?」
「肉球?
これか?
ほれ、手の平」
と手の平を出してくるが、手のひらは相当上にあるので細かいところは見えない。
けれども本当に球になっているような硬そうなものがあるのが見える。
「あっ肉球っぽい。
じゃマヤの脚の裏も見せてくれる?
そして触らしてくれる?」
うーんと考えていたが。
「いいぞ。その前に座る」
といって、どんと近くに座る。
床が揺れたような気がした。
そしてにゅーと足の裏をこっちに出してくる。
足のサイズは僕の身長より長い。
そして肉球がある。
僕は手を伸ばしてさわってみた。
「あっ結構硬い」
ふにふにしているかと思ったが結構硬かった。
けれども鋼鉄みたいな硬さではなくてぎゅっと押すと少しへこむぐらいだ。
これはスニーカーの裏のクッションを少し硬くしたものぐらい。
ふにふに。
ふにふに。
「あははっ。くすぐったいぞ。もう触るな」
触りすぎたのか、足を引っ込めるマヤ。
「ごめん。ごめん。じゃ早速始めてくれる?
マッサージ台の上に横になるから」
とマッサージ台の上に横になる。
そしてマヤの足が僕の体の上にさしかかったとき。
マヤの動作が止まる。
そして
「えっ。そうか。忘れていた」
とマヤは足をいったん下ろして、マッサージ台の横についていたスイッチを入れる。
「何かあった?」
僕は聞いた。
「無線で怒られた。
マッサージ台のスイッチを入れるのを忘れていた。
本当は入れっぱなしにしておくんだが、切ったままだった」
「スイッチを入れていなかったらどうなるの?」
ごくり。
「スイッチが入っていなかったら、踏まれた人はイチコロだった」
「ちょっとイチコロって何?
踏んだときの安全装置が働かないってこと?」
「うん。そう」
がくがく。
ぶるぶる。
危なかった。
こんな外見が猫っぽいし、ふわふわしていて体毛があるから、
こんな子に踏まれたら死んでしまうと考えても現実感はない。
でも身長が大きいから踏まれたらイチコロだろう。
象何頭かよりは重いのは確かだ。

「じゃはじめよっか」
準備が出来たらしくマヤは言う。
「今度は大丈夫?
本当に大丈夫?」
「大丈夫。大丈夫。確認した。
まず。腰から踏むぞ」
という。
そして。
背中にマヤの足の裏の肉球があたる。
そして。
ぎゅー。
ぎゅー。
踏まれたときはすごく苦しい。
けれどもすごく気持ちがいい。
圧力分散ウェアがない分、マヤの足の裏の感触がダイレクトに伝わってくる。
マヤの肉球の感じが良い。
とっても良い。
ぎゅー。
ぎゅー。
マヤの肉球がつぼを押すような感じ。
それに人が足踏みマッサージをするような力とは桁が違う、ものすごい力で押される。
肉球の1つの大きさがバスケットボールぐらいの大きさだから、
押される範囲も丁度いい。
ぎゅー。
ぎゅー。
ぐはぁ。
すごくいい。
ひかるのマッサージよりもいい。
「どうだ?」
「あー。すご…」
ぎゅー。
言おうとしたときに踏まれて言葉が止まってしまう。
「あの」
ぎゅー。
「さ。しゃ」
ぎゅー。
「べってい」
ぎゅー。
「るときは」
ぎゅー。
「踏むのをや」
ぎゅー。
「めてく」
ぎゅー。
「れない」
ぎゅー。
「かな」
ぎゅー。
ぎゅー。
「なに言っているのかわからないぞ。もっとはっきり言ってくれないと」
僕は腕を振り回した。
「なんだ?
どうした?
痛かったか?」
「いや。
だから、僕がしゃべっているときは踏むのをやめてくれないかな。
踏まれたらしゃべれないから…」
「あ。そうか。研修中にも言われたっけ。
ごめん。
で。さっきは何を言っていたんだ」
「しゃべっているときは踏むのを止めてと、
その前は、
すごくいい感じ。
背中にあたる肉球が、つぼを押すような感じですごくいい。
と言おうとしたんだ」
「そうか。
よかった。
気に入ってくれたか。
じゃもうちょっと、思いっきり踏んであげよう」
「だ。だめ。それ以上踏まないで。
踏まれているときは、結構苦しいのがわかったから」

ひかるのハードコースで、全体重をかけられたぐらい苦しい。
もっとも圧力分散ウエアがあるときだけど。
今、全体重をかけて踏まれたら骨が折れてしまう。

「じゃ今ぐらいので続けるぞ」
「うん」
ぎゅー。
ぎゅー。
少しづつ位置をずらして踏んでもらう。
ぎゅー。
ぎゅー。
ぐはぁ。とろけそう。
気持ちがいい。
肉球と、ものすごい力で押されるこの感じ。
ぎゅー。
ぎゅー。

うとうとし始めた。
そして10分が過ぎたころ。
「よし。疲れた。
足で踏むのは終わり。今度は手でもむぞ」
んあ?
手で?
踏まれると苦しいのに、眠くなるとは。
恐るべし肉球。

そしてマヤがよつんばいになる。
そして手の平で僕の体を押し付けてくる。
ぎゅ。
ぎゅ。
足で踏まれるのよりは苦しくない。
けれども手の平の肉球の方が固めでこっちも心地よい。
ぎゅ。
ぎゅー。
ぎゅ。
ぎゅ。
「どうだ。気持ちがいいか?」
こくこく。
首だけを動かす。
はうう。
これも気持ちがいい。
うとうと。

「よし。手でマッサージも疲れた。
今度はマヤのお尻でマッサージするぞ」

お尻?
わからなかった。
でもどうやって。

「仰向けになれ」
とマヤが言う。
そして仰向けになる。
そしたら、マヤはお尻をこっちに向けてしゃがんでいる。

「マヤ。何を…」
ぎゅー。
マヤのお尻の下敷きになる。
ものすごく苦しい。
じたばたしようとするが、手も足もマヤの巨大なお尻に押されて動かせない。
ぐるじ。
「よいっと」
とマヤがお尻を持ち上げる。
そしてまたお尻が僕の全身の上に乗っかる。
今度は苦しくない。
力を加減しているようだ。
そしてマヤはお尻を左右に動かしはじめた。
うわ。
何をしようとしているんだ。
むぎゅ。
ぎゅ。
ごりごり。
お尻にも肉球みたいに硬くなっているところがあるらしく、
その硬い部分がマヤが左右に体を動かすたびに、肉球も左右に動く。
僕の全身はマヤのお尻の下敷きになっておおわれているが、
力を加減されているので苦しくはない。
そしてお尻の肉球で、僕の体はごりごりとさすられているような感じになる。
ごりごり。
ごりごり。
また、そのお尻の肉球で押される感じがいい。
たまに疲れたときか何かのタイミングで、
僕の体にマヤのお尻の重さがかかり、息ができなくなるがそれも数秒。
ごりごり。
こりこり。
ぎゅ。ぎゅ。
ごりごり。
これもいい。
でもすごい格好だ。
マヤの巨大なお尻の下に敷かれ、
お尻の肉球でごりごりマッサージされている。
他の人に見せられないなと思った。
ごりごり。
ぎゅううう。
ごりごり。
こりこり。
ぎゅ。ぎゅ。
ごりごり。

……
ごりごり。
ごりごり。
こりこり。
ぎゅ。ぎゅ。
ごりごり。
ぎゅ。ぎゅ。

そして、急にものすごく重くなる。
苦しい。
マッサージ台もかなりへこみ、僕の体は台に埋没してしまう。
すごく重くなって、気が遠くなりかけたとき
「よし。終わり」
とマヤの声が聞こえた。
そして急に体が軽くなる。
体勢をかえるために手を床から離したらしい。
そのときに重さがかかり、そして今立ち上がったから助かったみたいなものだ。
僕の体の上からマヤのお尻がどけられる。
「どうだった。今のはオリジナル。
マヤのお尻によって、体全体がごりごりされて、肉球によりマッサージされるという仕組みだ。
体は軽くなったか?」
えっ。
どうだろう。
僕は立ち上がってみる。
よろっとよろけてしまうが、体は軽い。
さっきのごりごりも効き目があるようだ。
「マヤのお尻の下敷きになったときはびっくりしたけど、
全身の体のこりがほぐれたようだよ」
マヤのお尻で全身ごりごり。
すごい。

そして今までで丁度1時間。
「今日はこれで終わり。
これでマヤのとりこだな」
「まあ。確かにうまかったよ。
けれども、研修で習ったことを忘れないように。
しゃべっているときは踏まないこと。
マッサージ台の電源は入れておくこと」
「らじゃ。
わかった。
明日も来るか?」
「明日は無理だな。また近いうちに来るよ。
ここは遠いからなかなか来ることができないけど…」
「そうか。次きたときよろしくな」
「うん。わかった。お疲れさんマヤ」
「うん。じゃまたな」
と挨拶をして部屋を出る。
ふー。
ここ、いいなぁ。
ひかるや、マヤみたいな子がいる。
みんな個性的な子だ。
大きい子にマッサージされるのいいなぁ。
近かったら毎日通っちゃうんだけど。
とコウジは思った。

身長が12倍ある猫耳少女に
肉球で足踏みマッサージ。
手の平で押し付けられてマッサージ。
マヤのお尻の下でごりごりマッサージ。
どれもすごかった。
夢に出てきそうだ。

ふう。
でも体はすっきりした。
受付のお姉さんに感想をつげて、店の外に出た。
日の光がまぶしかった。
日の光をみると、今まで異世界にいて現実にもどってきたような感じに思える。
僕はそのお店を振り返って見てから、道を歩いていった。